この記事で分かること

  • のれん以外の固定資産(有形固定資産・無形資産)の減損会計を、日本基準が定める「兆候の識別→認識の判定→測定」の3ステップで理解できます
  • 資産のグルーピング(おおむね独立したキャッシュ・フローを生む単位で括る実務)の考え方と、共用資産の扱いが分かります
  • 回収可能価額(正味売却価額と使用価値のいずれか高い方)の算定を、帳簿価額1,000百万円の設例に沿って自分の手で検算できます
  • 減損損失を計上した後、減価償却費が減ることで利益が反発して見える仕組みと、IFRS(IAS第36号)との主要な違いが分かります

結論:のれん以外の固定資産の減損は「兆候→認識→測定」の3ステップで判定する

日本基準における固定資産の減損会計は、企業会計審議会が2002年8月に公表した「固定資産の減損に係る会計基準」に基づき、①減損の兆候の識別、②減損損失の認識の判定(割引前将来キャッシュ・フローと帳簿価額の比較)、③減損損失の測定(回収可能価額まで帳簿価額を減額)という3つのステップで進みます。この枠組みは、工場設備や店舗、ソフトウェアなど、のれんを除くほぼすべての有形固定資産・無形資産に共通して適用されます。

実務でつまずきやすいのは、個々の資産ではなく「資産のグルーピング」という単位で判定する点と、認識の判定(ステップ2)と測定(ステップ3)で使うキャッシュ・フローの割引の有無が異なる点です。以下、この3ステップと資産のグルーピングの考え方を、仮設の数値例で確認していきます。なお、のれん自体の減損テストは判定順序や配分ルールに固有の論点が多いため、本稿では扱わずのれん減損テスト入門|「買収の失敗」が財務諸表に現れる瞬間に委ねます。

制度の全体像:対象資産とのれんとの関係

「固定資産の減損に係る会計基準」が対象とするのは、事業活動の用に供している有形固定資産(PP&E)(土地、建物、機械装置など)と、ソフトウェアや特許権などの無形資産です。金融商品(有価証券・貸付金など)は別の減損ルールが適用されるため対象外で、投資不動産についても原価評価を継続したうえで他の固定資産と同様に減損会計を適用する扱いとされています。用語としての簡潔な定義は用語集:固定資産の減損会計を参照してください。

のれん(のれん)は本基準の対象に含まれますが、単独では判定されません。原則として、のれんが帰属する事業に関連する資産グループに含めたうえで、本稿と同じ3ステップの枠組みで判定し、減損損失が生じた場合はのれんへ優先的に配分するといった、のれん特有のルールが別途定められています。この配分ルールと判定順序の詳細はのれん減損テスト入門で扱っているため、本稿は「のれんを含まない」有形固定資産・無形資産の判定プロセスに絞って解説します。

図1:固定資産の減損会計プロセスの全体像 前提:グルーピング 対象資産の単位を決定 STEP1 兆候の識別 損益悪化・市場価格下落等 STEP2 認識の判定 割引前CFと帳簿価額を比較 兆候なし/CF≧簿価 → 減損処理は不要 STEP3 測定 回収可能価額まで減額 減損損失を計上 特別損失としてPLへ
図:グルーピングを前提に、兆候の識別→認識の判定→測定の順で進む(企業会計審議会「固定資産の減損に係る会計基準」を基に大手町プレップ作成)。

資産のグルーピング:どの単位で判定するかを最初に決める

減損会計のグルーピングは、個別の資産1点ずつではなく、「他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローからおおむね独立したキャッシュ・フローを生成する最小の単位」で行ったうえで判定するのが原則です。1つの工場ラインが複数の機械装置・建物・ソフトウェアで構成されている場合、それらが一体となって初めてキャッシュ・フローを生んでいるなら、機械装置だけを切り出して判定するのではなく、ライン全体を1つの資産グループとして扱います。

実務では、管理会計上の区分(事業部・製品ライン単位の損益管理など)や、設備投資の意思決定を行う際の単位を踏まえてグルーピングの方法を定めます。製品同士が代替関係にあり、一方の需要増が他方の需要減につながるような場合は、関連する資産グループを一体として扱うのが適切とされています。事業セグメントの区分とグルーピング単位の関係はセグメント情報の読み方|「会社の中の複数の会社」を見抜くもあわせて確認すると理解しやすくなります。

本社ビルや研究所のように複数の資産グループにまたがって使用される「共用資産」は、原則として、関連する資産グループを含むより大きな単位でグルーピングを行います。共用資産の帳簿価額を各資産グループへ合理的な基準で配分できる場合は、配分したうえでグループごとに判定することも認められています。グルーピングの単位を実務でどう定めるかについては、独立したキャッシュ・フローという基準を外部取引に限らず合理的な内部振替価額や共通費配分まで含めて評価する考え方が、監査法人の実務解説でも示されています。以下では、こうしたグルーピングを経て特定された「資産グループA」を前提に、ステップ1〜3を数値例で追っていきます。

ステップ1:減損の兆候の識別

会計基準は、減損の兆候として次の4つを例示しています。①資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスとなっている、②使用範囲・使用方法について事業のリストラクチャリングなど著しい変化が生じた(または生ずる見込みである)、③経営環境が著しく悪化した、④市場価格が著しく下落した(おおむね帳簿価額から50%程度以上の下落が目安とされます)、の4点です。いずれか1つでも該当すれば「兆候あり」と判定し、ステップ2(認識の判定)に進みます。逆に兆候が確認できなければ、その期はステップ2以降の判定を行う必要はありません。

兆候の把握は決算のたびに全資産グループを対象に行う実務作業であり、セグメント別の営業損益や、設備の稼働率・市場価格の推移などをモニタリングして拾い上げます。財務指標の悪化を早期に察知する補助的な視点として倒産予測とAltman Zスコア|計算式・判定ゾーンと日本企業での使い方・限界のような指標を併用する企業もありますが、これはあくまで参考情報であり、会計基準が定める4つの例示に該当するかどうかが判定の基準になります。

以下は理解のための仮設例です。ある会社が保有する「資産グループA」(製造設備一式)は、2期連続で営業損益がマイナスとなりました。会計基準の①に該当するため「兆候あり」と判定し、ステップ2に進みます。

ステップ2:減損損失の認識の判定(割引前将来キャッシュ・フローとの比較)

兆候があると判定された資産グループについては、資産グループが将来生み出すキャッシュ・フローの総額(割引前)と、帳簿価額を比較します。割引前キャッシュ・フローが帳簿価額を下回っていれば「減損損失を認識する」と判定し、ステップ3(測定)に進みます。逆に割引前キャッシュ・フローが帳簿価額以上であれば、その時点で判定は終了し、減損損失は計上しません。

認識の判定式
割引前将来キャッシュ・フローの総額 < 帳簿価額 → 減損損失を認識する
割引前将来キャッシュ・フローの総額 ≧ 帳簿価額 → 減損損失は計上しない(判定終了)

以下は理解のための仮設例です。資産グループAの帳簿価額は1,000百万円、残存耐用年数は5年です。5年間で見込まれる将来キャッシュ・フローの総額(割引前)を900百万円と見積もりました。

判定:割引前将来キャッシュ・フロー900百万円 < 帳簿価額1,000百万円
差額=1,000-900=100百万円
割引前キャッシュ・フローが帳簿価額を下回るため、減損損失を認識すると判定します。

ここで注意したいのは、この判定に使う将来キャッシュ・フローは割り引かれていない(現在価値に直していない)金額だという点です。将来キャッシュ・フローの見積りは、合理的で説明可能な仮定・予測に基づき、資産グループの現在の使用状況や合理的な使用計画等を考慮して行う必要があります。割引前のまま比較するステップ2は、あくまで「損失を計上すべきかどうか」という入口のスクリーニングであり、いくら減損するかを決めるものではありません。実際の減損額は、次のステップ3で改めて算定します。

ステップ3:減損損失の測定(回収可能価額まで帳簿価額を減額する)

ステップ2で「減損損失を認識する」と判定された資産グループは、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、その減少額を減損損失として当期の損失(特別損失)に計上します。回収可能価額とは、正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額です。

測定式
回収可能価額 = max(正味売却価額, 使用価値)
減損損失 = 帳簿価額-回収可能価額
・正味売却価額=資産(グループ)の時価-処分費用見込額
・使用価値=継続的使用と使用後の処分によって生じると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値(割引後)

正味売却価額と使用価値の違いは、「今すぐ売ったらいくらか」(正味売却価額)と「使い続けたらいくら生み出すか」(使用価値、割引計算を伴う)を比較し、企業にとって有利な方を回収可能価額として採用する点にあります。ステップ2の割引前キャッシュ・フローとは異なり、使用価値は将来キャッシュ・フローを割り引いて現在価値に直した金額である点に注意が必要です。

以下は理解のための仮設例です(ステップ2からの続き)。資産グループAについて、使用価値(将来キャッシュ・フローの現在価値)を720百万円、時価を850百万円・処分費用見込額を170百万円と見積もりました。正味売却価額は850-170=680百万円です。

項目金額
帳簿価額1,000百万円
使用価値(将来CFの現在価値)720百万円
正味売却価額(時価850-処分費用170)680百万円
回収可能価額=いずれか高い方720百万円
減損損失=1,000-720280百万円

使用価値720百万円が正味売却価額680百万円を上回るため、回収可能価額は使用価値の720百万円を採用します。帳簿価額1,000百万円を720百万円まで減額し、差額の280百万円を減損損失として計上します。仕訳のイメージは「(借方)減損損失280百万円/(貸方)機械装置ほか280百万円」で、資産グループを構成する各資産の帳簿価額に、原則として帳簿価額の比率などの合理的な基準で配分します。

減損計上後の会計処理と財務指標への影響

減損損失を計上した後は、減額後の帳簿価額(本例では720百万円)を新たな取得原価とみなし、残存耐用年数にわたって減価償却を続けます。ここで実務上よく誤解されるのが、「減損したのだから、その後は利益が悪化し続ける」という理解です。実際には逆で、帳簿価額が下がった分だけ将来の減価償却費が小さくなるため、他の条件が同じであれば、減損計上の翌期以降は営業利益が押し上げられる方向に働きます。

以下は理解のための仮設例です。資産グループAの残存耐用年数5年、定額法・残存価額ゼロを前提とします。減損しなかった場合の年間減価償却費は1,000百万円÷5年=200百万円、減損後の年間減価償却費は720百万円÷5年=144百万円です。

項目減損なしの場合減損計上後差額(費用減)
償却基礎額(5年で割る対象)1,000百万円720百万円
年間減価償却費200百万円144百万円56百万円/年
5年間の累計減価償却費1,000百万円720百万円280百万円
図2:減損前後の年間減価償却費(5年分) 200 144 0 1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 減損なし(200/年) 減損後(144/年)
図:減損後は毎年56百万円ずつ減価償却費が減り、5年累計では280百万円(=減損損失と同額)少なくなる(設例)。

差額は56百万円×5年=280百万円で、これは減損損失として計上した金額とちょうど一致します。つまり、減損によって資産グループの生涯を通じた総費用(減損損失+減価償却費の累計)が変わるわけではなく、本来5年かけて費用化するはずだった金額の一部を、ステップ3の時点で前倒しして特別損失に計上しただけです。翌期以降の営業利益の押し上げは「利益が改善した」のではなく「費用計上のタイミングが早まった裏返し」と理解する必要があります。この点は、減損損失を非経常項目として足し戻すEBITDAの正常化調整(Adjusted EBITDA)の考え方や、減損後の資産の償却スケジュールを組み直す際のCapex・減価償却スケジュールの作り方とも関わってきます。

減損後の償却スケジュールをExcelで組んでみる

本稿の設例のように「帳簿価額を回収可能価額まで落として、残存耐用年数で償却し直す」処理は、実際にExcelで償却スケジュールを組んでみると理解が定着します。基本的な会計処理のフォーマットは無料の教材でも確認できます。

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IFRS(IAS第36号)との主な違い

連結財務諸表にIFRSを任意適用している日本企業は増えていますが、固定資産の減損会計は日本基準とIFRS(IAS第36号)で判定の枠組みが異なります。特に重要なのは、認識の判定に割引前キャッシュ・フローを使うステップを置くかどうか、測定方法、戻し入れの可否の3点です。

論点日本基準IFRS(IAS第36号)
判定の入口割引前将来CFと帳簿価額を比較するステップ2を経てから測定に進む(2段階)割引前CFでのスクリーニングはなく、回収可能価額との比較で直接判定する(1段階)
回収可能価額正味売却価額と使用価値のいずれか高い方処分費用控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い方(概念は近いが算定がより詳細)
減損損失の戻し入れ認められないのれんを除き、状況の好転に応じて戻し入れが求められる

日本基準はステップ2で「割引前キャッシュ・フロー」というワンクッションを置くため、割引後の回収可能価額で見ると本来は減損対象であっても、割引前の合計額が帳簿価額を上回っていれば減損損失を認識しないケースが生じ得ます。IFRSにはこの割引前スクリーニングがなく、回収可能価額(割引後)と帳簿価額を直接比較するため、日本基準より減損が認識されやすい方向に働くことがあります。また、日本基準では一度計上した減損損失は資産価値が回復しても戻し入れができませんが、IFRSではのれんを除き戻し入れが求められる点も大きな違いです(用語集:減損損失の戻し入れ)。IFRSでは非償却の無形資産やのれんについて兆候の有無にかかわらず毎期の減損テストが求められますが、日本基準の対象資産(のれんを含む)は規則的に償却・使用されるため、兆候がある場合に本稿の枠組みで判定するのが基本です。

よくある質問(FAQ)

Q. のれんの減損とこの記事で扱う減損は何が違うのですか。
A. のれんは原則として関連する資産グループに含めて、本稿と同じ兆候→認識→測定の枠組みで判定しますが、減損損失が生じた場合はのれんへ優先的に配分するなど、のれん特有のルールがあります。判定順序や配分ルールの詳細はのれん減損テスト入門で扱っています。

Q. 減損損失を計上すると翌期以降の利益は本当に良くなるのですか。
A. 減損損失を計上した資産(グループ)の帳簿価額が下がるため、その後の減価償却費は目減りし、他の条件が同じであれば営業利益は押し上げられます。ただし本稿の設例のとおり、生涯を通じた総費用は変わらず、前倒しで計上した減損損失と、その後の減価償却費の減少額の累計は一致します。「利益の改善」ではなく「費用計上のタイミングが変わっただけ」と理解する必要があります。

Q. 一度減損処理した資産の価値が回復したら、戻し入れはできますか。
A. 日本基準では、資産の価値が回復しても減損損失の戻し入れは認められていません。IFRS(IAS第36号)ではのれんを除いて戻し入れが求められる点が大きな違いです。

Q. 資産のグルーピングの単位はどのように決めればよいですか。
A. 会計基準上は「他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローからおおむね独立したキャッシュ・フローを生成する最小の単位」が原則ですが、実務では管理会計上の区分や投資の意思決定単位を踏まえて各社が判断します。事業セグメントとグルーピング単位の関係はセグメント情報の読み方もあわせてご覧ください。

Q. 減損の兆候は具体的にどう把握すればよいですか。
A. 会計基準は、営業損益・キャッシュ・フローの継続的なマイナス、使用範囲や方法の著しい変化、経営環境の著しい悪化、市場価格の著しい下落の4つを例示しています。財務指標の悪化を早期に察知する補助的な視点として倒産予測とAltman Zスコアのような指標を参考にする例もありますが、あくまで会計基準が定める4つの例示への該当性が判定の基準になります。

まとめ

のれん以外の固定資産の減損会計は、資産のグルーピングを前提に、①兆候の識別、②割引前将来キャッシュ・フローと帳簿価額を比較する認識の判定、③正味売却価額と使用価値のいずれか高い方(回収可能価額)まで帳簿価額を減額する測定、という3ステップで進みます。本稿の仮設例では、帳簿価額1,000百万円の資産グループが、割引前CF900百万円との比較で減損損失を認識すると判定され、回収可能価額720百万円まで減額されて280百万円の減損損失を計上しました。減損後は年間減価償却費が200百万円から144百万円へ減り、5年間の累計では減損損失と同額の280百万円だけ費用が少なくなります。これは利益の改善ではなく費用計上の前倒しであり、IFRSとは割引前スクリーニングの有無や戻し入れの可否で枠組みが異なる点もあわせて押さえておくと、財務諸表の減損損失注記を読む際の理解が深まります。のれんに特化した判定はのれん減損テスト入門、減価償却とCapexの基本は減価償却とCapexの実務もあわせてご覧ください。

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出典・参考(2026年8月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。