この記事で分かること
- 有価証券の減損処理はいつ・いくら計上するか
- 整数設例で確認する「著しい下落」の判定
- 市場価格のある証券とない証券で異なる評価方法
- 固定資産の減損会計との違い
30秒で分かる定義
有価証券の減損処理(読み方:ゆうかしょうけんのげんそんしょり)とは、保有する有価証券の時価または実質価額が取得原価に比べて著しく下落し、回復の見込みがないと判断される場合に、評価損を計上する会計処理です。金融商品会計基準に基づく処理で、市場価格のある有価証券(上場株式・債券等)と、市場価格のない株式(非上場株式)とで判定方法が異なります。土地・建物など固定資産の減損会計(固定資産の減損)とは適用される基準そのものが異なる点に注意が必要です。
なぜ実務で重要なのか
財務分析・エクイティリサーチは、投資有価証券の評価損計上が特別損失として一過性の要因になりやすいため、正常収益力を評価する際にこの影響を除いて考える必要があります。M&Aの財務DDでは、対象会社が保有する持ち合い株式や関連会社株式の含み損を、決算数値上どこまで認識しているかを確認し、簿外の含み損リスクを評価します。投資運用・リスク管理にとっては、著しい下落の判定基準(下落率)を理解することが、決算期をまたぐ保有方針の判断材料になります。
仕組み
市場価格のある有価証券は、期末の時価が取得原価と比べてどの程度下落しているかで判定します。市場価格のない株式は、発行会社の財政状態の悪化に基づく実質価額(1株あたり純資産に近い概念)の下落で判定します。
| 下落率の目安 | 実務上の取扱い |
|---|---|
| 概ね50%以上の下落 | 回復可能性を合理的に証明できない限り、原則として減損(強制評価減) |
| 概ね30%以上50%未満の下落 | 発行会社の状況等を踏まえ、企業ごとに合理的な基準で判断 |
| 概ね30%未満の下落 | 通常は減損不要 |
整数設例で確認する
設例(架空数値)。単位は百万円。ある会社が取得原価1,000で購入した上場株式を保有しています。決算日の時価が3パターンで推移した場合を比較します。
| シナリオ | 期末時価 | 下落率 | 判定 |
|---|---|---|---|
| A | 800 | 20% | 減損不要 |
| B | 600 | 40% | 回復可能性の個別判断 |
| C | 400 | 60% | 減損(評価損600) |
シナリオCでは下落率60%((1,000-400)÷1,000)が50%を超えているため、回復可能性を合理的な根拠で証明できない限り、取得原価1,000と時価400の差額600を評価損として特別損失に計上します。減損処理後の帳簿価額は時価と同じ400にリセットされ、その後時価が回復しても、原則として取得原価まで戻すことはありません(新たな取得原価とみなす処理)。
PL・BS・CFへの影響
評価損はPLの特別損失に計上され、当期純利益を押し下げます。BSでは有価証券の帳簿価額が時価まで切り下げられます。CF計算書(間接法)では、評価損は非資金項目として当期純利益に足し戻されるため、営業キャッシュフローには影響しません。実際に売却して現金化するまでは、キャッシュの動きを伴わない会計上の損失である点は、固定資産の減損と共通しています。
財務モデル・Excelでの使い方
投資有価証券を多く保有する会社のモデルでは、減損リスクを別途管理します。
- 保有有価証券を銘柄別に取得原価・期末時価で管理し、下落率を自動計算するチェック行を設ける
- 下落率が50%に近づいた銘柄をフラグ立てし、感応度分析でPLへの影響額を試算する
- 非上場株式については、被投資会社の直近の財政状態(純資産)を定期的に更新し、実質価額の下落を追跡する
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「50%以上下落しても回復すると信じていれば減損不要」→ 正しくは、回復可能性は合理的な根拠(具体的な業績回復計画等)に基づいて客観的に証明する必要があります。単なる期待や希望的観測では減損を回避できません。
誤解2:「有価証券の減損と固定資産の減損は同じ考え方」→ 正しくは、有価証券は時価または実質価額との比較で判定するのに対し、固定資産の減損は将来キャッシュフローの見積りに基づく回収可能価額との比較で判定するなど、適用される基準・判定プロセスが異なります。
日本実務での扱い
企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」等が、有価証券の減損(強制評価減)の考え方を定めています(2026年7月時点)。実務上「著しい下落」の目安として概ね50%以上の下落は原則減損、概ね30%未満は通常減損不要、その中間は個別判断という運用が広く定着していますが、これはあくまで実務慣行上の目安であり、基準に数値がそのまま明記されているわけではない点に留意が必要です。有価証券報告書の「金融商品関係」注記や、投資有価証券評価損の特別損失計上は、決算短信・有報で確認できます。政策保有株式(持ち合い株式)の縮減が進む中、含み損を抱えた持ち合い株式の処分・評価損計上は、東証の資本コスト経営要請の文脈でも注目される論点です。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:ある会社の保有株式の時価が取得原価から45%下落しています。減損処理は必要ですか。
「50%未満30%以上の下落にあたるため、機械的に減損とはならず、発行会社の財政状態や株価下落の理由、回復可能性を総合的に判断する個別対応が必要になります。具体的な回復計画や合理的な根拠がなければ、保守的に評価損を計上する判断が妥当と考えられます。50%以上の下落であれば、原則として減損処理が必要になります。」
深掘りでは「固定資産の減損会計との判定プロセスの違い」が定番です。
よくある質問(FAQ)
Q. 減損処理後に時価が回復したら、評価益を計上できますか?
A. 原則として計上できません。減損処理を行うと、その時点の時価が新たな取得原価とみなされ、その後の回復は含み益として扱われるだけで、直ちに評価益をPLに計上するわけではありません(売却時に売却益として実現します)。
Q. その他有価証券(売買目的でも満期保有目的でもない有価証券)の評価差額は減損とどう違いますか?
A. 通常の評価差額はその他の包括利益(OCI)として純資産に直接計上されPLを通りませんが、減損(著しい下落)に該当する場合は評価差額ではなく評価損としてPLの特別損失に計上される点が大きく異なります。
出典・参考(2026-07-25確認)
- 企業会計基準委員会(ASBJ)企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」 https://www.asb.or.jp/
- EDINET(有価証券報告書「金融商品関係」注記) https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。