この記事で分かること
- グループ通算制度とは何か、旧連結納税制度との違い
- 整数設例で確認する損益通算の効果
- 個別申告方式のメリットと税効果会計への影響
- M&Aでグループに新規加入する際の実務ポイント
30秒で分かる定義
グループ通算制度(読み方:ぐるーぷつうさんせいど)とは、2022年4月1日以後開始する事業年度から、旧・連結納税制度に代わって導入された、企業グループの法人税を計算する制度です。グループ内の各法人が個別に法人税申告を行いながら、グループ全体で損益通算(黒字会社の所得と赤字会社の欠損を相殺する効果)を享受できる点が特徴です。旧連結納税制度では親会社が単一の連結納税申告書を作成していましたが、グループ通算制度では各社が個別申告を維持しつつ、損益通算等の計算だけをグループ単位で行う「個別申告方式」に転換しました。
なぜ実務で重要なのか
税務・経理は、グループ内のある会社で修正申告や更正が生じた場合、旧制度では原則としてグループ全体の再計算が必要でしたが、新制度では原則としてその会社の申告のみで完結するため、事務負担が大きく軽減されました。M&Aでは、買収した会社を既存の通算グループに新規加入させる際の時価評価・繰越欠損金の持ち込み制限などの適用要件を確認する必要があります。グループ経営企画は、連結グループ内に赤字子会社を持つ場合の税負担軽減効果を、連結実効税率の計画に織り込みます。
仕組み
グループ通算制度の中核は、各法人の所得と欠損金額を合算し、その比率に応じて所得を圧縮する仕組みです。
研究開発税制や外国税額控除など一部の税額控除項目は、グループ全体で計算した上で各社に配分される仕組みが維持されています。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。単位は百万円。親会社P社(所得800)と子会社S社(欠損300)からなるグループを考えます。
単体課税(グループ通算制度を使わない場合):P社は所得800にそのまま課税され、S社の欠損300はS社単体では将来への繰越以外に使い道がありません。実効税率30%とすると、P社の税額は 800 × 30% = 240です。
グループ通算制度を適用した場合:グループ全体の所得はP社800とS社△300を通算し、800-300=500まで圧縮されます。P社の所得はグループ全体の所得500のうち、通算前所得の比率で配分され、実質的に P社800-300=500に対して課税されます。税額は 500 × 30% = 150となり、単体課税と比べて90(240-150)の税負担軽減が生まれます。この90は、S社の欠損300を放置していれば実現しなかった、グループとしての税務上のシナジーです。
案件プロセス上の位置付け
M&Aで新たに子会社を取得し、既存の通算グループに加入させる場合、加入時点でその子会社の資産に対する時価評価が必要になることがあり(時価評価除外法人に該当しない場合)、繰越欠損金の持ち込みにも一定の制限が課されます。買収スキームの検討段階で、対象会社をグループ通算制度に加入させるかどうか、加入させる場合の時価評価の要否は、買収後の税負担に直結するため、税務デューデリジェンスの重要な検討事項です。
財務モデル・Excelでの使い方
グループ通算制度を適用するグループの税務モデルでは、単体ベースと通算後ベースの両方を管理します。
- 各社の所得・欠損金額を個別に予測し、通算計算のロジック(欠損金の按分)をモデル化する
- グループ全体の実効税率を、単体合算ベースと通算後ベースで比較し、通算効果による節税額を可視化する
- 買収による新規加入シナリオでは、時価評価の要否・繰越欠損金の使用制限を前提行として明示する
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「グループ通算制度は旧連結納税制度と実質的に同じ」→ 正しくは、申告方式が「単一の連結申告書」から「個別申告+損益通算計算」に転換しており、修正申告時の影響範囲などの実務対応が大きく異なります。制度名だけでなく、事務フローの違いを理解しておく必要があります。
誤解2:「赤字子会社があれば自動的にグループ通算制度に加入すべき」→ 正しくは、加入時の時価評価や繰越欠損金の持ち込み制限など、加入によるデメリットも考慮した個別判断が必要です。特に含み益の大きい資産を持つ子会社を加入させる場合は、時価評価課税の影響を慎重に検討します。
日本実務での扱い
グループ通算制度は2020年度税制改正で創設され、2022年4月1日以後に開始する事業年度から適用されています(2026年7月時点)。旧連結納税制度を採用していたグループは、原則として自動的にグループ通算制度に移行しており、移行に伴う繰延税金資産・負債の再測定が税効果会計上の論点として実務で扱われました。有価証券報告書の税効果会計に関する注記では、グループ通算制度の適用有無やその影響が記載されることがあります。組織再編税制における適格要件の判定と合わせて、専門的な税務判断が必要な領域です。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:グループ通算制度の節税効果はどのように生まれますか。
「黒字会社の所得と赤字会社の欠損金額をグループ全体で相殺できるため、赤字子会社を単体で放置する場合と比べて、グループ全体の税負担を圧縮できます。旧連結納税制度と同様の経済効果を持ちますが、各社が個別に申告書を作成する点が制度上の大きな違いで、修正申告が生じた際の事務負担がグループ全体に及びにくくなっています。」
深掘りでは「M&Aで子会社を通算グループに加入させる際の時価評価」が定番です。
よくある質問(FAQ)
Q. すべてのグループ会社がグループ通算制度に加入する必要がありますか?
A. 完全支配関係(原則100%の資本関係)にある内国法人が対象で、加入は選択制です。ただし親法人が制度を選択した場合、対象となる完全支配関係にある子法人は原則として加入が必要です。
Q. 中小企業でもグループ通算制度は使えますか?
A. 制度上は資本金要件などに関わらず利用できますが、複数の法人が完全支配関係にあることが前提であるため、実務では一定規模以上のグループでの活用が中心です。
出典・参考(2026-07-25確認)
- 国税庁(グループ通算制度に関する取扱通達・パンフレット) https://www.nta.go.jp/
- 企業会計基準委員会(ASBJ)実務対応報告(グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示) https://www.asb.or.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。