この記事で分かること

  • レバードβ(株式β)とアンレバードβ(資産β)が何を表しており、なぜバリュエーション実務で両者を行き来する必要があるのか
  • 税シールドを考慮するHamada式と、前提の異なるHarris-Pringle式の違い、そしてなぜ同じ比較会社データから出発しても両式の結果がズレるのか
  • 類似上場会社3社からアンレバードβを推定し、対象会社の資本構成でリレバーするPure Play Methodの計算手順
  • Damodaranの業種別ベータ・データセットの読み方と、日本企業の評価に使う際の注意点

結論:レバードβは「事業リスク+財務リスク」、アンレバードβは「事業リスクだけ」を表す

レバードβ(levered beta、株式β)は、上場企業の株価収益率を市場全体の収益率に回帰させたときの傾き、すなわちその会社の株式に投資家が感じている市場感応度そのものです。ここには、その会社が営む事業そのもののリスク(事業リスク)と、借入によって株主に追加でのしかかるリスク(財務リスク)の両方が混ざり込んでいます。これに対してアンレバードβ(unlevered beta、資産β)は、財務レバレッジの影響を取り除き、事業そのものが持つリスクだけを抽出した値です。β(ベータ)という言葉自体の定義や、CAPMによる株主資本コストの算出手順はWACCの計算方法で扱っているため、本稿ではその一歩手前、「どのβを、どう作るか」という論点に絞って解説します。

実務でアンレバー・リレバーの往復計算が必要になる典型的な場面は二つあります。一つは、対象会社が非上場でβを直接観測できないとき、上場している類似会社のβを借りてくるPure Play Method(業種別ベータ法)です。もう一つは、上場している対象会社であっても、想定する将来の資本構成(LBO後や自己資本増強後の目標D/Eなど)が現在の実際の資本構成と異なる場合に、その将来の資本構成に合わせてβを組み直す作業です。どちらの場面でも、比較会社の財務レバレッジの影響をいったん取り除き(アンレバー)、対象会社が想定する財務レバレッジを乗せ直す(リレバー)という二段階の処理が必要になります。この変換式には複数の流派があり、Hamada式とHarris-Pringle式では前提が異なるため結果も異なります。以下、順に確認していきます。

なぜアンレバー・リレバーが必要になるのか

自己資本だけで事業を営んでいる上場企業はほとんど存在しません。ほとんどの会社は程度の差こそあれ有利子負債を抱えており、その負債の水準(自己資本に対する比率、D/E)は会社ごと、業種ごとに大きく異なります。同じ事業を営む二つの会社があったとしても、一方が無借金でもう一方が有利子負債を厚く抱えていれば、後者の株式には「事業の波」に加えて「借入の返済負担」という追加のブレが乗るため、株式βは後者の方が高く観測されます。つまり観測されたレバードβをそのまま比較会社間で使い回すと、事業そのものの近さではなく、たまたまの資本構成の違いを比較しているだけになりかねません。

そこでバリュエーション実務では、比較会社群のレバードβからいったん財務レバレッジの影響を取り除いた資産β(アンレバードβ)を求め、これを「その業種・事業モデルに固有の事業リスク」の代理指標として使います。複数の比較会社から得たアンレバードβを平均すれば、個社固有のノイズを均した業種の事業リスク水準が得られ、これを対象会社が実際に採用している(あるいは評価上想定する)資本構成でリレバーし直すことで、対象会社にふさわしいレバードβを合成できます。非上場企業の評価でβを直接観測できない対象会社を評価する際には、この手順がほぼ唯一の実務的な解になります。

Hamada式:税シールドを考慮したアンレバー・リレバー

最も広く使われているのが、経済学者Robert Hamadaが1972年の論文で示した関係式です。Modigliani-Millerの資本構成理論に法人税を組み込み、CAPMのβと結びつけたもので、負債の節税効果(税シールド)を明示的に織り込む点が特徴です。

式(Hamada式)
アンレバー:βU = βL ÷ [1 + (1 − t) × (D/E)]
リレバー:βL = βU × [1 + (1 − t) × (D/E)]
βL:レバードβ(株式β) βU:アンレバードβ(資産β) t:実効税率 D/E:有利子負債の自己資本に対する比率(時価ベースが原則)

この式が前提としているのは、(1)負債は無リスクでありその負債自体のβ(βD)はゼロであること、(2)節税効果(税シールド)は負債と同じリスクの低さを持つとみなし、負債コストと同じ割引率で評価されること、の二点です。実務的にはこれは「負債の金額水準(円建ての残高)がある程度固定的で、企業価値の変動に応じて頻繁に借り換え・積み増しを行わない」状況を暗黙に想定した式だと理解しておくと、後述するHarris-Pringle式との違いが飲み込みやすくなります。

Harris-Pringle式など変形との違い:前提はどこで分かれるか

Hamada式には複数の変形があり、代表的なものがJoel HarrisとJohn Pringleが1985年の論文で示した関係式です。

式(Harris-Pringle式)
アンレバー:βU = βL ÷ [1 + (D/E)]
リレバー:βL = βU × [1 + (D/E)]
記号の定義はHamada式と同じ。実効税率tの項が式に現れない点がHamada式との違い。

Harris-Pringle式もHamada式と同じく負債βDをゼロと置きますが、税シールドの扱いが異なります。この式は、企業が目標とする資本構成比率(D/E)を将来にわたって維持し続ける、すなわち企業価値が変動するたびに負債水準もそれに比例して増減する(継続的にリバランスされる)状況を前提としています。この前提の下では、税シールドの価値も企業の事業リスクと同じだけ変動するとみなされ、事業リスク(アンレバードβ)と同じ割引率で評価されます。結果として、税シールドの割引率がβUベースに揃うため、リレバー時の税率調整項が消え、D/Eの係数がそのまま(1+D/E)になります。なお学術文献には、負債の水準を1期ごとに(確実性を持って)見直すという中間的な前提を置くMiles-Ezzell(1980)の変形式も存在します。どの式を採用するかによって割引率や税シールドのリスクに関する仮定が異なるため、実務でどの式を使ったかを評価メモに明記しておくことは、後で数値を検証する人にとって重要な情報になります。

実務での使い分けとしては、Hamada式がCFAカリキュラムや多くの教科書で標準的に扱われており、日本のバリュエーション実務でも最も広く使われています。Harris-Pringle式は、対象会社が長期的に一定のD/E比率を維持する経営方針を取っている(借入で調達した資金で自社株買いや追加投資を続け、比率を一定に保つような会社)と想定する場合に、理論的な整合性がより高いとされます。両式とも「負債βをゼロと置く」という簡略化を行っている点は共通しており、投資適格級を大きく下回るような高格付けでない負債を抱える会社では、この簡略化自体が誤差の要因になり得る点にも注意が必要です。

Pure Play Methodの実務手順

Pure Play Methodは、対象会社と事業内容が近い上場している比較会社(Pure Play)を複数選び、それぞれのレバードβをアンレバーして事業リスクだけのβを取り出し、その平均値を対象会社の資本構成でリレバーする手順です。ステップは次の四段階に整理できます。

第一に、対象会社と事業モデル・収益構造が近い上場比較会社を選定します。単に業種コードが同じというだけでなく、製品・顧客層・成長ステージ・地域展開が近い会社を選ぶことが望ましく、この選定基準の設計自体は類似会社選定基準(コンパラブル・スクリーニング)と共通する論点です。比較会社の類似会社比較法そのものの作り方はEV/EBITDA倍率と類似会社比較法で扱っているため、本稿ではβの推定に必要な範囲に留めます。第二に、各比較会社のレバードβ、有利子負債の自己資本に対する比率(D/E)、実効税率を集め、Hamada式またはHarris-Pringle式でアンレバードβを算出します。第三に、複数の比較会社のアンレバードβを平均(あるいは時価総額加重平均)し、業種・事業モデルに固有の資産βとします。第四に、対象会社が実際に採用している、あるいは評価上想定する目標D/Eと実効税率を使って、平均アンレバードβをリレバーし、対象会社のレバードβを合成します。

ここで注意したいのは、D/Eは本来、時価ベースの有利子負債と時価総額の比率で計算するのが理論的に正しい点です。非上場の比較会社や、評価対象そのものが非上場の場合は時価総額が観測できないため、実務では簿価の有利子負債と株主資本、あるいは類似会社の実績PBRから逆算した時価総額を近似値として使うことが少なくありません。また、比較会社が多額の現金を保有している場合、その現金部分はほぼ無リスク(β近似ゼロ)の資産であるため、総負債ではなくネットデット(有利子負債から余剰現金を差し引いた金額)ベースでD/Eを計算しないと、事業リスクだけを抽出したはずのアンレバードβに現金保有量のバイアスが残ってしまいます。

計算例で確認する:3社の比較会社から対象会社のβを合成する

以下は理解のための仮設例です。実在の企業のデータではありません。ある業種で、対象会社(非上場)のβを、上場している類似会社3社(A社・B社・C社)から推定します。3社とも実効税率は30%と仮定します。

比較会社レバードβD/E実効税率アンレバードβ(Hamada)アンレバードβ(Harris-Pringle)
A社1.350.6030%0.9510.844
B社1.100.3530%0.8840.815
C社1.550.9030%0.9510.816
単純平均0.9280.825

検算(A社・Hamada式)
βU = 1.35 ÷ [1 + (1 − 0.30) × 0.60] = 1.35 ÷ 1.42 = 0.951
検算(A社・Harris-Pringle式)
βU = 1.35 ÷ (1 + 0.60) = 1.35 ÷ 1.60 = 0.844

対象会社の目標資本構成をD/E=0.50、実効税率30%と仮定してリレバーすると、次のようになります。

図1:Pure Play Methodによるβ合成の流れ(設例) 比較会社A社 βL = 1.35 D/E = 0.60 t = 30% βU(Hamada) = 0.951 比較会社B社 βL = 1.10 D/E = 0.35 t = 30% βU(Hamada) = 0.884 比較会社C社 βL = 1.55 D/E = 0.90 t = 30% βU(Hamada) = 0.951 平均アンレバードβ(資産β) 0.928 対象会社(目標D/E = 0.50、実効税率 = 30%) Hamada式のリレバードβ = 1.253 Harris-Pringle式のリレバードβ = 1.237 アンレバー逆算で0.928/0.825に一致することを検算済み
図:設例。比較会社3社のβをアンレバーして得た平均資産βを、対象会社の目標D/Eでリレバーし直す流れ。Hamada式とHarris-Pringle式では途中のアンレバードβの水準自体が異なるため、最終的なリレバードβも一致しません。

リレバー計算(対象会社、D/E = 0.50、t = 30%)
Hamada式:βL = 0.928 × [1 + (1 − 0.30) × 0.50] = 0.928 × 1.35 = 1.253
Harris-Pringle式:βL = 0.825 × (1 + 0.50) = 0.825 × 1.50 = 1.237
往復チェック:1.253 ÷ 1.35 = 0.928(Hamada)、1.237 ÷ 1.50 = 0.825(Harris-Pringle)でいずれも平均アンレバードβに一致

この設例では、目標D/E=0.50のときHamada式の方がHarris-Pringle式よりわずかに高いβ(差0.016)を示しています。仮にCAPMをリスクフリーレート1.5%、株式リスクプレミアム6.0%(いずれも説明用の仮設値)で適用すると、株主資本コストはHamada式ベースで9.02%、Harris-Pringle式ベースで8.92%となり、その差は0.10ポイントにとどまります。しかしこの大小関係は目標D/Eの水準によって変わります。次の表は、同じ比較会社データから出発しつつ、対象会社の目標D/Eを0.3から1.5まで変化させたときの両式の結果です。

目標D/EHamada式リレバードβHarris-Pringle式リレバードβ差(Hamada−HP)
0.31.1231.072+0.051
0.51.2531.237+0.016
1.01.5781.650−0.071
1.51.9032.062−0.159
図2:目標D/Eと2式のリレバードβの関係(設例) 0.7 1.4 2.1 0 0.3 0.5 1.0 1.5 目標D/E(横軸) 1.253 1.650 Hamada式 Harris-Pringle式 D/E≈0.6で交差
図:本文の設例データにおける目標D/Eとリレバードβの関係。低いD/EではHamada式が、高いD/EではHarris-Pringle式が上回る(この設例ではD/E約0.6で逆転)。一般に成り立つ法則ではなく、この設例の比較会社構成に固有の結果です。

低いD/EではHamada式の方が高いβを示し、高いD/EではHarris-Pringle式の方が高いβを示すという逆転が起きるのは、二式のアンレバー段階での「割り引き方」の違いに起因します。Harris-Pringle式は分母が(1+D/E)とHamada式の(1+(1−t)D/E)より大きいため、同じレバードβからより低いアンレバードβを導きます。しかしリレバー段階でも同じ大きな係数(1+D/E)を掛けるため、目標D/Eが高くなるほどHarris-Pringle式の増え方がHamada式を上回っていきます。この逆転は本設例の比較会社データに固有の結果であり、常にこの水準で交差するわけではありませんが、「どちらの式を使うかでβが数%〜十数%単位でズレ得る」こと、そしてそのズレの大きさが対象会社の想定レバレッジ水準に依存することは、実務上覚えておく価値があります。

アンレバー・リレバーをDCFの割引率まで一気通貫で確認する

ここで合成したβをCAPMに入力して株主資本コストを求め、負債コストと資本構成で加重してWACCを組む手順は、DCF法の割引率設定の中核部分にあたります。

→ バリュエーションの教材を見る

業種別ベータ(Industry Beta Approach)の使い方

個別に比較会社3社を集めてβを推定する方法に加えて、実務ではあらかじめ業種ごとに集計されたベータのデータセットを参照する業種別ベータ法もよく使われます。代表的なものが、ニューヨーク大学スターン経営大学院のAswath Damodaran教授が公開している業種別ベータのデータセットです。2026年8月時点で確認したところ、同データセットは米国上場企業(約90業種、合計約6,000社)を対象に、業種名・対象企業数・平均レバードβ・D/E比率・実効税率・アンレバードβ・現金/企業価値比率・現金調整後アンレバードβなどの列で構成されており、2026年1月時点の最終更新であることが明記されています。

このデータセットを使う際に押さえておくべき点が三つあります。第一に、対象は米国上場企業のみであり、日本企業の評価にそのまま使う場合は、リスクフリーレートや株式リスクプレミアムも米国基準のものと日本基準のものを混同しないよう注意が必要です。米国のデータで作ったアンレバードβを、日本のリスクフリーレートと日本の株式リスクプレミアムに基づくCAPMに投入すること自体は業種のグローバルな事業リスクを近似する一つの実務的な割り切りとして行われますが、この場合も「米国では」「日本では」の区別を評価メモに明記しておく必要があります。第二に、公開されているアンレバードβは、その業種に含まれる各社の個別のD/E・実効税率をもとにHamada式相当の考え方で既にアンレバー処理された値であり、これをそのまま対象会社のβとして使うのではなく、対象会社自身の目標D/Eと実効税率でリレバーし直して初めて使える値になります。第三に、「現金調整後アンレバードβ(Unlevered beta corrected for cash)」という列が別途用意されている点です。これは、比較会社が保有する現金がほぼ無リスク資産であるためD/Eの分母(自己資本)を実質的に膨らませ、アンレバードβを見かけ上低く見せてしまう歪みを補正した値であり、業種の純粋な事業リスクを知りたい場合はこちらを参照する方が理論的に整合的です。

業種別ベータは、対象会社と完全に同じ事業モデルの比較会社を3社集めることが難しい局面、あるいは自分で集めた比較会社3社の推定値が業種平均から大きく外れていないかをクロスチェックする局面で特に有用です。例えば産業機械・重工業のように事業セグメントが多岐にわたる業種(産業機械・重工業(インダストリアルズ)投資銀行とはで扱っています)では、単一の比較会社だけでβを決め打ちすると、その1社の特殊事情に引きずられるリスクがあるため、業種平均との突き合わせが一種の妥当性確認として機能します。

実務での論点:どこで判断が分かれるか

アンレバー・リレバーの計算自体は機械的ですが、実務上の判断が求められる論点はいくつかあります。一つ目は、D/Eを時価ベースで取るか簿価ベースで取るかです。理論的には時価総額を使うべきですが、非上場の対象会社や比較会社では時価総額が観測できないため、簿価の自己資本や類似会社の実績PBRから推定した時価総額を代用することが一般的で、この代用がβの推定値にどの程度の誤差をもたらし得るかは感応度分析で確認しておく価値があります。二つ目は、対象会社の目標D/Eをどう置くかです。非上場企業の評価のように評価時点で確定した資本構成がない場合、業種平均のD/Eを使うのか、対象会社が計画している将来の資本構成を使うのかで結果が変わるため、DCFの前提条件と整合させる必要があります。三つ目は、比較会社の選定そのものです。βの推定はどれだけ厳密に式を適用しても、母集団となる比較会社の選び方が事業内容から乖離していれば意味を持たなくなるため、マルチプルの選び方で扱っている比較会社選定の考え方と地続きで検討する必要があります。

もう一つ触れておきたいのが、非上場企業のオーナー株主のようにポートフォリオが十分に分散されていない投資家の視点を反映するトータルベータという概念です。CAPMのβは分散投資家を前提に非系統リスク(分散でならせるリスク)を除外しますが、事業の大半を1社の株式に集中させているオーナー経営者にとっては、この非系統リスクも無視できない場合があります。トータルベータはアンレバードβを比較会社群の相関係数で割り戻すことで、こうした集中投資家の視点を近似する手法ですが、これは本稿で扱ったHamada式・Harris-Pringle式とは別の調整軸であり、混同しないよう注意が必要です。

よくある質問(FAQ)

Q. Hamada式とHarris-Pringle式のどちらを使うべきですか。
A. 日本のバリュエーション実務ではHamada式が最も広く使われており、迷う場合はHamada式を採用し、その旨を前提として明記しておくのが無難です。対象会社が長期的に一定のD/E比率を維持する方針を明確に持っている場合は、Harris-Pringle式の前提の方が理論的に整合的だとする見方もあります。重要なのはどちらを使ったかを評価メモに明記し、結果の解釈者が前提を追えるようにしておくことです。

Q. D/Eは時価ベースと簿価ベース、どちらを使えばよいですか。
A. 理論上は時価総額を使った時価ベースのD/Eが正しいとされています。ただし非上場企業や情報開示が限られる企業では時価総額が観測できないため、簿価の自己資本やPBRからの推定値で代用する実務が広く行われています。代用した場合はその旨を明記し、可能であれば感応度分析でβへの影響度を確認しておくとよいでしょう。

Q. 比較会社のD/Eには総有利子負債を使うべきですか、ネットデットを使うべきですか。
A. 比較会社が多額の現金を保有している場合、総有利子負債をそのまま使うとアンレバードβに現金保有量のバイアスが残ります。事業そのものの資産βを取り出したい場合は、有利子負債から余剰現金を差し引いたネットデットベースでD/Eを計算する方が理論的に整合的です。

Q. 業種別ベータのデータセットにある「アンレバードβ」をそのまま対象会社のβとして使ってよいですか。
A. そのまま使うべきではありません。公開されているアンレバードβは業種に属する各社の平均的な事業リスクを示す値であり、対象会社のレバードβを得るには、対象会社自身が想定する目標D/Eと実効税率でリレバーする作業が別途必要です。

Q. アンレバードβとトータルベータは同じものですか。
A. 異なる概念です。アンレバードβは財務レバレッジの影響を取り除いたβで、分散投資家を前提とするCAPMの枠組みの中にあります。トータルベータは、ポートフォリオが十分に分散されていない集中投資家(オーナー経営者など)の視点で非系統リスクも織り込む調整であり、アンレバー・リレバーの計算とは別の軸の調整です。

まとめ

レバードβには対象会社の事業リスクと財務リスクが混在しており、比較会社間でβを橋渡しするには、いったん財務レバレッジの影響を取り除くアンレバー処理と、対象会社の資本構成に合わせて組み直すリレバー処理が欠かせません。Hamada式は負債の節税効果を税率と負債コストの組み合わせで割り引く前提を、Harris-Pringle式は税シールドが事業リスクと同じだけ変動する前提を置いており、この前提の違いが対象会社の目標D/Eの水準に応じてβの大小関係を左右します。Pure Play Methodでは、事業内容の近い比較会社を選び、各社のβをアンレバーして平均し、対象会社の資本構成でリレバーするという四段階の手順を、往復計算で検算しながら進めることが実務の型です。Damodaranの業種別ベータのようなデータセットを使う場合も、そのまま使うのではなく対象会社自身の資本構成でリレバーし直す作業が必要になる点は変わりません。

アンレバー・リレバーの往復計算を自分の手で組んでみる

本稿の設例のように、比較会社データからアンレバードβを求め、対象会社の資本構成でリレバーし直すという一連の計算は、一度自分でExcel上に数式を組んでみると前提の違いによる感度が体感できます。

→ 無料のExcelスターターパックを見る

出典・参考(2026年8月確認)

  • Robert S. Hamada, “The Effect of the Firm’s Capital Structure on the Systematic Risk of Common Stocks,” Journal of Finance, 1972(学術文献。税シールドを考慮したレバードβ/アンレバードβの変換式(Hamada式)の原典)
  • Robert S. Harris and John J. Pringle, “Risk-Adjusted Discount Rates—Extensions from the Average-Risk Case,” Journal of Financial Research, 1985(学術文献。税シールドの割引率に関する前提が異なるHarris-Pringle式の原典)
  • James A. Miles and John R. Ezzell, “The Weighted Average Cost of Capital, Perfect Capital Markets, and Project Life: A Clarification,” Journal of Financial and Quantitative Analysis, 1980(学術文献。負債水準を1期ごとに見直す前提を置くMiles-Ezzell式の原典)
  • Aswath Damodaran(New York University Stern School of Business)”Betas by Sector (US)” https://pages.stern.nyu.edu/~adamodar/New_Home_Page/datafile/Betas.html(2026年1月更新版、2026年8月にWebFetchで到達・列構成を確認済み)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。