この記事で分かること
- 先進国の長期の分析で、株式利回り(倍率の逆数に近い値)の変化が、金利の変化全体ではなく、金利のうち「純粋な割引」と呼ぶ部分の変化とほぼ1対1で動いていたこと
- 米国の長期実質金利の低下のうち純粋な割引による分は約35%で、全額が株価に効いたと仮定すると効果を約3倍に見積もってしまうという推計と、その限界
- DCFのリスクフリーレートや類似会社の倍率を金利に合わせて動かすとき、金利が動いた理由と成長率・リスクプレミアムの前提をそろえる点検手順(学習用の設例つき)
想定読者:投資銀行・FAS・PE・事業会社の経営企画で、DCFや類似会社比較の前提を置く方、株式リサーチに関わる方
前提知識:PERとDCF(永久成長モデル)の基本、名目金利と実質金利の違い(研究の用語は本文で説明します)
財務省の国債金利情報によれば、10年国債の利回りは2024年9月30日の0.894%から2026年9月30日の3.057%へ、2年間で2.16%ポイント上がった。同じ2年間に、日本取引所グループが公表する東証プライム市場・総合の加重平均のPER
この食い違いは日本だけのものではない。主要7か国(G7)について1990年以降の長期の変化を並べると、各国の株式のバリュエーションの変化と長期の実質金利の変化には、ほとんど関係が見られない2。シカゴ大学・コペンハーゲン・ビジネススクールとカリフォルニア大学バークレー校の研究者による論文は、この「株式と金利の乖離」を、金利が動いた理由を3つに分けることで解きほぐそうとした。本稿ではその結果と限界、評価実務での点検手順を整理する。
この記事が主に参照する研究
Niels Joachim Gormsen、Eben Lazarus「金利と株式のバリュエーション(Interest Rates and Equity Valuations)」NBER Working Paper No. 34814
- 公表:前身の題名(Equity Duration and Interest Rates)のスライドが2025年3月、全米経済研究所(NBER)の夏季研究会の論文が2025年7月、NBER WPが2026年2月。参照した版:著者のサイトの2026年7月版を通読し、主要な数値を2025年7月版と照合。査読:掲載未確定(WP。著者のサイトではAmerican Economic Reviewに改訂・再投稿中)
- データ:G7と欧州5か国の計12か国、1990〜2023年(国により開始年が遅い)。専門家の長期予測(金利・インフレ・成長率)、株価指数オプションから計算した変動性、国別の株価指数と利益
- 方法:長期の実質金利を「期待成長」「不確実性」「純粋な割引」に分ける理論を示し、予測データで分解したうえで、各部分と株式利回り・株式リターンの関係を回帰で調べる(相関の分析)
- 位置づけ:割引率は金利と1対1で動くという標準的な考え方を、新しい理論的な分解と長期予測のデータで検証し直した研究
倍率の逆数は「金 利+リスクプレミアム−成長」で決まる
PERの逆数は益利回りである。論文は、配当を株価で割った値に近い「株式利回り」を使い、それが長期の実質金利とリスクプレミアムの和から、配当の期待成長率を引いたものに等しくなる形を出発点にしている3。DCFの永久成長モデルを市場全体に当てはめた式である。実証では、5年平均の利益を株価で割り、平均配当性向49.4%を丸めた0.5を掛けたものを株式利回りとしている。
この式からは、株価の金利感応度も読める。株価を配当で割った倍率は株式利回りの逆数にほぼ等しく、株式のデュレーション(将来の配当を受け取るまでの平均的な年数)もほぼ同じ値になる4。株式利回りが4%なら、デュレーションは約25年である。
問題は、式の中の実質金利が、リスクプレミアムや成長率と無関係に動くわけではないことにある。論文は、長期の実質金利を「純粋な割引」「期待成長」「不確実性」の3つの和として書く5。純粋な割引は、投資家が将来の消費をどれだけ割り引くかの度合い(時間選好)に当たる部分で、実際には成長やリスクで説明できない金利の動きをまとめて受け止める項である。
金利が動いた理由で、株式への伝わり方は変わる
3つの部分は、株式利回りへの効き方が理論上まったく違う。
純粋な割引で金利が1%ポイント上がると、株式利回りも1%ポイント上がる。株式と、同じデュレーションの債券がそろって動く唯一のケースである。期待成長の上昇で金利が上がる場合は、割引率が上がると同時に配当の成長率も上がるので、二つの効果が打ち消し合い、株式利回りへの効果は小さいか、条件によっては逆向きになる。不確実性の低下で金利が上がる場合は、安全資産への需要が減って金利が上がる一方で、株式に求めるリスクプレミアムは下がるため、こちらも効果は弱いか逆向きになりうる6。
ここから二つのことが導かれる。第一に、株価が株式のデュレーションどおりに反応するのは、純粋な割引で金利が動いたときだけで、成長やリスクで金利が動いたときの感応度はデュレーションより小さい7。「株式のデュレーションは長いから金利に弱い」という言い方は、金利が動いた理由を特定しない限りそのままは成り立たない。第二に、株式に関係する金利の年限は、おおむね株式のデュレーションに等しい長期である。他の期を据え置いて1期先の純粋な割引だけが動くと、株式利回りへの効果はデュレーション分の1にとどまる8。
長期では、純粋な割引の部分がバリュエーションの変化をほぼ説明した
分解の材料は、専門家の長期予測である。各国10〜30人の予測者による調査から、5年先の10年金利の予測と同じ年のインフレ率の予測の差を長期の実質金利、5年先の実質成長率の予測を期待成長とした。不確実性は株価指数オプションから計算した6か月の変動性(VIXに当たる指標)の2乗で近似している9。長期の実質金利を期待成長と変動性に回帰すると、期待成長の係数は約2で、変動性の係数は米国では負になった。純粋な割引の部分は、この回帰で説明できない残りとして計算する10。株価の情報は使っていない。
G7の国別に、全期間の株式利回りの変化を純粋な割引の変化に回帰すると、傾きは1.14(標準誤差0.23)、切片は0.20で有意でなく、調整済みの決定係数は0.79だった。理論が予想する傾き1に近く、各国の差だけでなく平均的な水準の変化まで説明している。同じ株式利回りの変化を金利の変化全体に回帰すると、調整済みの決定係数は−0.02で、関係はほぼ見られなかった11。純粋な割引とそれ以外の金利変化を同時に入れても、有意だったのは純粋な割引の係数(0.9)だけで、説明力は0.79から0.81にしか上がらなかった12。ただし横断面の点は7か国分しかない。
米国の内訳は図1のとおりである。長期の実質金利は約4%から約1.5%へ約2.5%ポイント下がったが、そのうち約150bpは期待成長の低下(約0.75%ポイント)で説明され、不確実性と合わせて約160bpになる。残る約90bp、低下全体の約35%が純粋な割引によるものと推計された。金利低下がすべて株価に伝わったと仮定すると、効果を約3倍に見積もることになる。2000年以降の金利低下は、ほぼ期待成長の低下によるものだったという13。
日本は逆の例として扱われている。長期の実質金利は330bp下がったが、期待成長の大きな低下から予想されるよりも下げ幅が小さく、純粋な割引の部分はむしろ上昇方向だった。それが、日本の株式のバリュエーションが下がったことと一致していた14。
より短い期間でも同じ傾向が見られた。米国の配当利回りの変動のうち、回帰の傾きで測った純粋な割引の寄与は77%だった(通常の決定係数ではない)15。3年間の株式リターンを10年名目金利の変化に回帰すると係数は4.19(標準誤差3.51)で、統計的に有意な関係は確認されなかった。3つの部分に分けると、純粋な割引の係数は−19.1(標準誤差7.64、5%水準で有意)で、純粋な割引で金利が1%ポイント上がると3年リターンが約19%ポイント下がる関係になる。著者らはこれを市場全体のデュレーションの下限(約19年)と解釈している16。
個別株でも、キャッシュフローのデュレーションで5つに分けたポートフォリオの純粋な割引への係数は、最も短い群で約−10、最も長い群で約−30と開いた。一方、10年名目金利そのものへの係数は、どの群も小さく差がなかった17。米国株のこの分析では、デュレーションの長い株ほど金利に弱いという関係は、金利が動いた理由を分けたときにだけ数字に表れた。米国の金融政策の発表前後を調べた分析では、1年先の金利を100bp動かす規模の引き締めで10年金利は42bp、純粋な割引は28bp、期待成長率は9bp上昇したと推計された。平均では純粋な割引に近いが、発表ごとの差は大きい18。主な数値を表1にまとめる。
表1 研究が示した主な数値
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| 分析 | 結果 | 補足 | 出所 |
|---|---|---|---|
| G7の株式利回りの変化を金利の変化全体に回帰 | 調整済みR2 −0.02 | 1990年以降の国別の変化。関係はほぼ見られない | 図1・図3(p.3・24) |
| 同、純粋な割引の変化に回帰 | 傾き1.14(標準誤差0.23)、調整済みR2 0.79 | 切片0.20は有意でない。測り方を変えても傾き1.01〜1.15 | 図3・表3(p.24・33) |
| 同、成長と不確実性による変化に回帰 | 調整済みR2 0.55 | 負の関係。原点から大きくずれる | 図3(p.24〜25) |
| 米国3年リターンを10年名目金利の変化に回帰 | 係数4.19(標準誤差3.51) | 有意でない。R2 0.04 | 表2列1(p.29) |
| 同、純粋な割引の変化に回帰(3要素) | 係数−19.1(標準誤差7.64) | 5%水準で有意。デュレーションの下限約19年と解釈 | 表2列2(p.28〜29) |
| 同、期待成長の変化 | 係数−1.49(標準誤差14.0) | 有意でない | 表2列2(p.29) |
| 先進国全体、純粋な割引の変化 | 係数−9.61(標準誤差3.26) | 5%水準で有意。米国より小さい | 表2列4(p.29) |
| 金融政策ショック100bpと10年金利 | 10年金利+42bp、純粋な割引+28bp | 期待成長率+9bp(10%水準)。いずれも各成分自体の変化で、42bpの内訳ではない。回ごとの差が大きい | 表4(p.44〜45) |
研究の対象と、読むときの注意
結果は、先進国の国全体の株価指数について、1990〜2023年の長期の変化と3年単位の変化を見たものである。純粋な割引は直接観測した値ではなく、金利を期待成長と変動性に回帰した残差なので、予測データの誤差や、回帰に入れていない要因もここに入る。著者らは、長期予測の別の調査や短期の自然利子率の推計を使っても、変動性の代わりに別の不確実性の指標を使っても、傾きは1.01〜1.15に収まり、米国の純粋な割引の変化も−1.35〜−0.84%ポイントだったと報告している。短期の金利から作っても結果が変わらないことは、長期金利に含まれる期間のプレミアムを拾っているだけ、という解釈と整合しないとしている19。
純粋な割引の正体も確定していない。著者らは、これを投資家の時間選好そのものとはみておらず、海外からの資本流入が成長やリスクと関係なく金利を押し下げる経路(いわゆるグローバル・インバランス)を有力な候補として示しつつ、因果の分析は今後の課題としている20。また、論文が扱うのは実質金利であり、インフレ率の変化が名目金利を通じて株価にどう効くかは主題ではない21。掲載未確定のWPで、参照した2026年7月版はNBER版(2026年2月)より新しい。NBER版の本文は確認できていない。
他の研究とも照らしておく。米国の株式価値の長期上昇を要因分解した Greenwald・Lettau・Ludvigson の研究は、1989〜2017年の実質1人当たり株式価値の増加(年率7.2%)のうち、金利低下の寄与を14%と推定し、利益が労働から株主へ再配分されたことの寄与(40%)をより大きくみている22。金利低下の効果を全額とはみない点で、本稿の論文と方向は一致する。一方、株式と同じデュレーションの国債を比較対象にする van Binsbergen の研究は、そうした国債が過去半世紀に株式と同等以上の成績だったとし、株式の超過リターンの大きさに疑問を投げかけた。本稿の論文は、金利低下の多くが成長とリスクの変化によるため、債券全体ではなく純粋な割引の部分だけを差し引く方がリスクプレミアムを精度よく推計できると主張している23。
大手町プレップの考察:リスクフリーレートを動かすとき、何を一緒に動かしているか
以下は論文の検証ではなく、編集部の推論である。
DCFでは、CAPMのリスクフリーレートを最新の国債利回りに置き直し、株式リスクプレミアムと永久成長率は据え置くことが多い。この操作は、金利の変化がすべて割引率に伝わる、つまり金利が純粋な割引だけで動いたと仮定していることに等しい。論文の推計でいえば、米国の1990〜2023年については、その仮定が金利低下の影響を約3倍に見積もる側に働いた(前述)。利上げ局面では逆に、価値の下落を大きく見積もる方向に働きうる。
逆に、金利上昇の理由が成長見通しの改善なら、永久成長率や業績予想の側も上がっているはずで、割引率だけを上げるのは片側だけの修正になる。不確実性の低下による金利上昇なら、株式リスクプレミアムが下がっている可能性がある。評価額の感応度表で割引率だけを振るのではなく、「同じ理由で何が一緒に動くか」をシナリオとして組む方が、市場の動きと整合しやすいと考えられる(仮説)。割引率と出口倍率を組にして動かす考え方は市場サイクルとバリュエーションで扱った。その組み方自体が、金利の動いた理由で変わるということになる。
類似会社の倍率にも同じことがいえる。過去の倍率の分布から採用倍率を決めるヒストリカル・マルチプルレンジを使うとき、「当時より金利が高いから倍率を割り引く」という補正を金利差だけで機械的に行うと、成長見通しやリスクプレミアムの変化を二重に、あるいは逆向きに扱うおそれがある。アナリストの目標株価が過去のPERに依存しやすいことは目標株価と過去のPERに関する研究で、企業の社内の割引率が金利に追随しにくいことは割引率の粘着性に関する研究で取り上げた。
日本の実務への応用:名目の金利上昇を分けて見る
日本の直近の金利上昇は名目の動きで、論文が分解したのは実質金利である。日本に当てはめるには、少なくとも二段階に分ける必要がある。第一段階は、名目の上昇を期待インフレ率と実質金利に分けることで、物価連動国債から計算する期待インフレ率
論文が使った専門家の長期予測は商用のデータで、日本で同じ分解を手元で再現するのは容易ではない。ここでの二段階の分け方は、公開資料で近い問いを立てるための編集部の提案であり、論文の手法そのものではない。また、論文の日本の結果は1990年以降の長期の変化についてのもので、2024年以降の金利上昇局面を分析したものではない。
冒頭の数字でいえば、プライム市場・総合の加重平均の益利回り(加重平均PERの逆数)は2024年9月の約6.1%から2026年9月の約4.9%へ下がっており、10年国債利回りの上昇とは逆に動いた。別の要因も大きいが、「金利が上がった分だけ倍率は下がる」という前提は、市場全体の数字とは合っていない。
学習用の設例:同じ1%ポイントの金利上昇でPERはどう変わるか
学習用の設例(架空)
- 市場全体を、実質金利1.0%、リスクプレミアム5.0%、配当の期待成長率2.0%の株式とみる。株式利回りは4.0%、配当性向50%としてPERは12.5倍、デュレーションは約25年
- 金利が1.0%ポイント上がる。理由ごとに、株式利回り=金利+リスクプレミアム−成長率の式でPERを計算する(対数を使わない近似)
- 金利の期待成長への感応度を2.0(論文の推定に近い値)、配当成長の期待成長への感応度を1.0、不確実性の低下で金利が1%ポイント上がるときのリスクプレミアムの低下を1.5%ポイントと仮定する。いずれも研究で検証された値ではない
純粋な割引で金利が上がれば、株式利回りも1.0%ポイント上がってPERは10.0倍(−20.0%)になる。リスクフリーレートだけを置き直す通常の操作は、このケースに当たる。期待成長の上昇で金利が上がった場合は、成長率が0.5%ポイント上がって半分を打ち消し、PERは11.1倍(−11.1%)にとどまる。不確実性の低下による金利上昇で、リスクプレミアムがそれ以上に下がれば、PERは14.3倍(+14.3%)とむしろ上がる。米国の推計(約35%)を例示として当てはめると11.5倍(−8.0%)である(図2)。
表2は、金利の上昇幅と、そのうち株式利回りに伝わる割合を振ったPERである。上昇幅が2%ポイントでも伝わる割合が35%ならPERは10.6倍で、1%ポイントが全額伝わる場合の10.0倍より下落は小さい。割合の前提は、感応度表の一つの軸として示せる。
表2 設例:金利の上昇幅と、株式利回りに伝わる割合ごとのPER
表は横にスクロールできます →
| 金利の上昇幅 | 0%伝わる | 35%伝わる | 50%伝わる | 100%伝わる |
|---|---|---|---|---|
| +0.5%ポイント | 12.5倍 | 12.0倍 | 11.8倍 | 11.1倍 |
| +1.0%ポイント | 12.5倍 | 11.5倍 | 11.1倍 | 10.0倍 |
| +2.0%ポイント | 12.5倍 | 10.6倍 | 10.0倍 | 8.3倍 |
明日から使える確認項目
- リスクフリーレートを更新するとき、「この金利の変化は、期待インフレ・成長見通し・不確実性・それ以外のどれによるものか」を一行で書く。書けない場合は、割引率の変更を全額反映と部分反映の2案で示す
- 名目の10年国債利回りの変化を同じ期間のBEIの変化と並べ、名目金利上昇の背景を点検する(論文の実質金利の再現ではない)
- 割引率を上げたシナリオで、永久成長率・業績予想・株式リスクプレミアムを据え置いた理由を説明できるか確かめる。成長見通しの改善が金利上昇の理由なら、成長率の側も見直す
- 過去の倍率を現在に当てはめるとき、金利差だけを理由にした機械的な補正をしていないか確認する。補正するなら、当時と現在で成長見通しとリスク環境がどう違うかを併記する
- デュレーションの長い対象(高成長・配当の遠い企業)では、金利そのものへの過去の感応度が小さく見えても、純粋な割引の変化には大きく反応しうる前提で感応度表を作る
- 金融政策の発表をきっかけに前提を変えるときは、長期金利と株価が同じ日にどう動いたかを確認する。金利が上がり株価も上がった日は、成長見通しの上方修正が同時に織り込まれた可能性を検討する
判断の閾値(何%ポイント以上の変化なら見直すか)は、研究で検証されたものではない。案件の性質に合わせて各社で決める必要がある。
まとめ
先進国の長期の分析では、株式利回りの変化は金利の変化全体とはほとんど関係がなく、成長やリスクで説明できない純粋な割引の部分の変化と、ほぼ1対1で動いていた。米国では長期実質金利の低下の約35%がこの部分によるもので、日本では逆に純粋な割引が上昇方向だったとされる。結果は国全体の株価指数と長期予測に基づく掲載未確定の研究で、純粋な割引は残差による推計である。実務で持ち帰れるのは、リスクフリーレートを動かすたびに、金利が動いた理由と、成長率やリスクプレミアムの前提も動くかを確かめる習慣である。
脚注
- R4(財務省「国債金利情報」)の10年の利回り(2024年9月30日0.894%、2026年9月30日3.057%。直近は2026年10月22日2.914%)と、R5(日本取引所グループ「規模別・業種別PER・PBR(連結)」)のプライム市場・総合(2024年9月:1,636社、単純PER 16.7倍・加重PER 16.4倍。2026年9月:1,534社、単純18.9倍・加重20.6倍)。PERの利益は2024年9月分が2023年7月期〜2024年6月期、2026年9月分が2025年7月期〜2026年6月期の確定値(各表の注記3)。いずれも名目の値で、実質金利ではない。↩
- R1(著者版, 2026年7月)p.2〜3(1節・図1左)。G7の1990〜2023年(国により取得できる期間)の、株式利回りの変化と長期の実質金利(トレンド実質金利)の変化の関係で、調整済み決定係数は−0.02。本記事のR1のページはPDFの物理ページ(以下同じ)。↩
- R1 p.11〜13(2.2節・式(9)(10)、Result 1)。株式利回りは配当利回りに近い量(log(1+D/P))で、配当を消費(産出)へのレバレッジのかかった請求権(配当成長=λ×消費成長)とみる前提の下で、株式利回り=長期の実質金利+リスクプレミアム−λ×期待成長、と書ける。実証の株式利回りは時価加重の5年平均利益÷株価に、全期間の平均配当性向49.4%を丸めた0.5を掛けたもの(p.21)。↩
- R1 p.15〜16(2.3節・式(14)〜(16))。一定成長の定常状態で、株価÷配当は1÷(期待リターン−λ×期待成長)に近似でき、キャッシュフローのデュレーションも同じ式で近似される。「株式利回り4%ならデュレーション約25年」は、この近似による編集部の計算。↩
- R1 p.8〜11(2.1節・式(3)(5)(8))。長期の実質金利=純粋な割引(時間選好の率)+γ×期待成長−不確実性(確率的割引因子のエントロピー)。実証では純粋な割引を回帰の残差として推計するため、成長・不確実性で説明できない金利の動きがすべてここに入る(p.21)。著者らは純粋な割引の変化を時間選好の変化そのものとはみていない(p.36)。↩
- R1 p.13〜14(Result 1)。成長ショックでは株式利回りは金利1単位あたり(γ−λ)÷γしか動かず、γ=λなら動かず、λ>γなら逆向き。不確実性ショックでは無リスク金利とリスクプレミアムが逆向きに動き、効果は弱いか逆向きになりうるが、その大きさは実証で確かめる問いとして扱っている。いずれも理論モデルの結果。↩
- R1 p.16〜17(2.3節・Result 2)。株価の感応度は、純粋な割引に対してはデュレーションに等しく、成長・不確実性による金利変化に対してはデュレーションより小さい(一般的な仮定の下)。↩
- R1 p.17〜19(2.4節・Result 3)。割引のカーブが平行でなく動く場合、株式利回りの変化は将来の各期の純粋割引率の加重平均で、それを最もよく近似する年限はデュレーションに等しい。短期(1期)の純粋割引率だけが動くと株式利回りは1÷デュレーションしか動かない。↩
- R1 p.19〜20(3.1節)。Consensus Economics の長期予測(G7は1990〜2023年、オランダ・ノルウェー・スペイン・スウェーデン・スイスは1995年または1998年から。各国10〜30人の予測者、2013年まで年2回・2014年以降は四半期)。長期の実質金利は5年先の年末の10年名目金利の予測からその年のインフレ率の予測を引いた値、期待成長は5年先の実質成長率の予測。不確実性はOptionMetricsの指数オプションから計算した6か月の変動性(VIXの2乗)。↩
- R1 p.21〜22(3.2節・式(19)(20)、表1)。期待成長の係数は1.8〜2.1(1%水準で有意)、変動性の係数は米国で−10.1(5%水準で有意)、国別の係数は12か国中9か国で1%水準で有意。決定係数は米国0.57、全体0.65〜0.66。純粋な割引=定数+国固定効果+残差。株価の情報は使っていない(p.23)。↩
- R1 p.24(図3)、p.32〜33(4.1節・表3列1)。G7の国別の全期間の変化(7か国)の回帰。傾き1.14(ブートストラップの標準誤差0.23、1%水準で有意)、切片0.20(標準誤差0.31、有意でない)、調整済み決定係数0.79。図3では傾きを1.1と表示。成長と変動性による金利変化だけを説明変数にすると調整済み決定係数0.55(負の関係で、近似線は原点から2.9%ポイントずれる。p.25)。↩
- R1 p.25(3.2節)。両方を説明変数にした回帰で、純粋な割引の係数0.9(p<0.01)のみ有意、調整済み決定係数は0.79から0.81。↩
- R1 p.22〜23(3.2節・図2)、p.4、p.25〜26。数値はいずれも論文の概数(「約」「close to」)。長期の実質金利は約4%から約1.5%へ約2.5%ポイント低下、期待成長は約0.75%ポイント低下し係数約2を掛けて約150bp、成長と不確実性で約160bp、残り約90bp(低下の約35%)が純粋な割引。全額反映の仮定は効果を約3倍に過大評価(p.4・p.46)。他のG7の多くでは反映はさらに小さい(p.4)。2000年以降はほぼ期待成長の低下による(p.23)。↩
- R1 p.26(3.2節)。日本の長期の実質金利の低下は330bpで、期待成長の大きな低下から予想されるより小さく、純粋な割引は正(上昇方向)のショックと推計され、日本の株式バリュエーションの低下と一致したとしている。国別の値は本文の記述のみで、図から数値を読み取っていない。↩
- R1 p.26(3.3節)・p.28(図4)。米国の配当利回りと純粋な割引の項の時系列(図4)。純粋な割引の項を配当利回りに回帰した傾き(Cov(純粋な割引, 利回り)÷Var(利回り))による分散の寄与で、通常の決定係数(R2)ではない(p.26脚注16)。↩
- R1 p.28〜29(3.3節・表2)。米国の3年間の時価加重の市場リターンの回帰(74観測、ブートストラップの標準誤差)。列1:10年名目金利の変化の係数4.19(標準誤差3.51)、決定係数0.04。列2:純粋な割引−19.1(7.64、5%水準)、期待成長−1.49(14.0、有意でない)、変動性の2乗×100は−3.08(1.33、5%水準)、決定係数0.20。先進国全体(781観測)では純粋な割引−9.61(3.26、5%水準)。著者らは係数を市場のデュレーションの下限と解釈し、配当利回りの逆数による約40年より小さいのは測定誤差による減衰の可能性があるとしている(p.28)。↩
- R1 p.30〜31(3.4節・図5)。アナリストの長期利益成長予測(IBES)でデュレーションを推定し5分位に分けた米国株の時価加重ポートフォリオ(1990〜2023年)。係数は図に基づく論文本文の概数(約−10〜約−30)。最長の群のデュレーションは最短の約3倍で、差は少なくとも20年とみている。10年名目金利への係数はどの群も小さく、符号はむしろ逆(p.31)。↩
- R1 p.43〜45(5.4節・表4)。1990〜2023年のFOMC発表前後30分の金利・株価先物の変化と、当日の変動性の変化から、純粋な割引と期待成長の変化を逆算した推計。ショックは1年先のユーロドル先物金利を+100bp動かす規模に基準化。10年金利+42bp(1%水準)、純粋な割引+28bp(1%水準)、期待成長率+9bp(10%水準)、変動性も有意に上昇。各成分自体の変化で、成長の10年金利への寄与は推定係数γを掛けた値になる(p.45・式(24))。発表ごとの差が大きい(p.45)。↩
- R1 p.32〜34(4.1節・表3)。代替の指標:米国の専門家予測調査(SPF)、Del Negro ら(2019)の短期の自然利子率、GARCHによる株式の変動性予測、Baker・Bloom・Davis の政策不確実性指数。傾き1.01〜1.15、米国の純粋な割引の全期間の変化−1.35〜−0.84%ポイント。短期の自然利子率でも同じ結果になることを、期間のプレミアム(タームプレミアム)を拾っているという解釈と整合しない根拠としている(p.33〜34)。利益の分配率の変化を考慮しても、米国で低下の約3分の1が反映という推計は変わらないとしている(p.34〜35)。↩
- R1 p.26(3.2節)、p.35〜37(5.1節)。米国の純粋な割引の低下は1990年代半ば〜2000年代初めに集中し、米国の対外純資産の減少(資本流入)の時期と重なる。G7の国別でも資本流入が大きい国ほど純粋な割引が下がった関係があるとするが、資本移動自体が均衡で決まるため、因果の分析は今後の課題としている。↩
- R1 p.7(関連研究)。インフレ・名目債券を中心とする高頻度の株式と債券の連動の研究に対し、本研究は実質の利回りに焦点を当てると述べている。↩
- R2(NBER WP 25769, 2019年4月初版・2024年9月改訂)要旨(p.2)。米国の1989〜2017年の実質1人当たり株式価値は年率7.2%で増加し、その40%が労働報酬から株主への再配分、25%が経済成長、21%がリスク価格の低下、14%が金利の低下によると推定。本文の確認は要旨・序論(p.1〜4)まで。R1 p.7〜8・p.34〜35もこの研究と結果が整合すると述べている。↩
- R3(NBER WP 27367, 2020年6月初版・11月改訂)要旨(p.2)。各国の配当ストリップと同じデュレーションの国債ポートフォリオは、過去半世紀に株式と同等以上の成績で、変動も同程度以上だったとする。本文の確認は要旨・序論(p.1〜4)まで。R1 p.5〜6は、純粋な割引の部分だけを差し引く方法が、シミュレーションでデュレーションを合わせた債券との比較より50%精度が高いとしている(R1 では van Binsbergen 2024 として引用)。↩
参考文献(2 026年10月確認)
- R1 Gormsen, N. J. and E. Lazarus (2026), “Interest Rates and Equity Valuations,” NBER Working Paper No. 34814. DOI: 10.3386/w34814. 参照した版:著者版(2026年7月、Lazarus の研究ページ)を通読し、主要な数値を NBER Summer Institute 2025 の会議論文(2025年7月)と照合。NBER WP 版(2026年2月)の本文は未確認。前身の題名は “Equity Duration and Interest Rates”(スライド 2025年3月)。査読:査読誌への掲載は未確定(WP)。 nber.org (参照箇所:本文 p.2〜46、表1〜4、図1〜5(PDFの物理ページ)。脚注2〜21・23の根拠。著者版 https://ebenlazarus.github.io/RatesEquity.pdf 、会議論文 https://conference.nber.org/conf_papers/f226698/f226698.pdf 、前身のスライド https://ebenlazarus.github.io/StockBondDurationSlides.pdf。閲覧日:2026年10月)
- R2 Greenwald, D. L., M. Lettau and S. C. Ludvigson (2019), “How the Wealth Was Won: Factor Shares as Market Fundamentals,” NBER Working Paper No. 25769. DOI: 10.3386/w25769. 参照した版:NBER WP 改訂版(2019年4月初版、2024年9月改訂)。査読:WP 版は未査読。 nber.org (参照箇所:要旨・序論(p.1〜4)。脚注22の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R3 van Binsbergen, J. H. (2020), “Duration-Based Stock Valuation: Reassessing Stock Market Performance and Volatility,” NBER Working Paper No. 27367. DOI: 10.3386/w27367. 参照した版:NBER WP 改訂版(2020年6月初版、2020年11月改訂)。査読:未査読(WP)。 nber.org (参照箇所:要旨・序論(p.1〜4)。脚注23の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R4 財務省
「国 債金利情報」(過 去の金利情報、および令和8年10月分) mof.go.jp (参照箇所:10年の利回り(2024年9月30日、2026年9月30日、2026年10月22日)。脚注1の根拠。閲覧日:2026年10月) - R5 日本取引所グループ「規模別・業種別PER・PBR(連結)」(2024年9月分、2026年9月分) jpx.co.jp (参照箇所:プライム市場・総合の会社数、単純・加重平均のPER、各表の注記3。脚注1の根拠。閲覧日:2026年10月)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。