この記事で分かること
- DPI・RVPI・TVPI・ネットIRRの定義と関係式(TVPI=DPI+RVPI)、それぞれが何を測っている指標か
- グロスリターンとネットリターンの違い——管理報酬とキャリード・インタレストがどう控除されるか
- Jカーブの形になる理由と、ファンドの何年目あたりでTVPIが底を打ちやすいか
- パワーロー分布の下でDPI・TVPIを読むときの注意点と、ヴィンテージイヤー比較・PMEの考え方
結論:DPI・RVPI・TVPI・ネットIRRは単独ではなく、同一ヴィンテージ内でセットで読む
VCファンドのリターンを一つの数字で語ることはできません。DPI(Distributions to Paid-in Capital、実現分配倍率)は実際にLPの手元に戻った現金の割合、RVPI(Residual Value to Paid-in Capital、残存価値倍率)はまだ売却していない保有株式の評価額の割合、TVPI(Total Value to Paid-in Capital、総合計倍率)はこの二つを足した理論上のトータルリターン、ネットIRRは管理報酬とキャリード・インタレストを控除した後にLPが得る年率換算のリターンです。ファンドの運用期間の途中でこれらのどれか一つだけを見て「良いファンド」「悪いファンド」と判断すると、実際の着地とはかけ離れた評価になりがちです。
特に見落とされやすいのが、TVPIの大半がRVPI(未実現の評価額)で構成されている運用初期・中期のファンドを、DPIが積み上がった運用後期のファンドと同じ土俵で比較してしまうケースです。VCファンドは組成から実際にエグジットが出るまでに数年かかり、しかもリターンの大半をごく少数の案件が生み出すパワーロー型の分布を取るため、同じ「TVPI 2.0倍」でも、実現済みの2.0倍と評価額頼みの2.0倍とでは意味がまったく異なります。以下ではこれらの指標の関係式を確認したうえで、仮設例のポートフォリオを使って実際に検算し、ヴィンテージイヤー比較やPME(パブリック・マーケット・エクイバレント)といったベンチマークの考え方まで一通り整理します。ファンド設計側の視点、つまり1社に必要なエグジット規模の逆算や投資社数・リザーブの配分についてはVCが必要とするExit Valueの逆算とVCのPortfolio Constructionで扱っているため、本記事はファンドが実際に走り出した後の「リターンをどう測定し、どう読むか」に焦点を当てます。
DPI・RVPI・TVPIの定義と関係式
この3指標はいずれも分母に「累計拠出額(Paid-in Capital、PIC)」を置く倍率です。PICは、LPがファンドからのキャピタルコールに応じてこれまでに実際に払い込んだ金額の累計であり、コミットメント総額(約束した上限額)そのものではない点に注意が必要です。分子が異なるだけで、3つの指標は同じ物差しの上に乗っています。
式
DPI(実現分配倍率)= 累計分配額(LPが実際に受け取った現金) ÷ 累計拠出額(PIC)
RVPI(残存価値倍率)= 残存評価額(未売却ポジションのNAV) ÷ 累計拠出額(PIC)
TVPI(総合計倍率)= DPI + RVPI =(累計分配額 + 残存評価額) ÷ 累計拠出額(PIC)
この関係式が意味するのは、TVPIはあくまで「実現済みの現金」と「まだ現金化されていない評価額」を単純に合算した理論値だということです。DPI・TVPI・RVPIという3点セットで見る理由もここにあり、TVPIだけを見ていると、その中身がどれだけ実現済みで、どれだけ評価額頼みかが分からなくなります。運用が進み、保有先の売却が進むにつれてRVPIは減少し、代わりにDPIが増えていきます。ファンドが清算されて全ポジションが現金化された時点では、RVPIはゼロになり、DPIとTVPIが一致します。これが「ファンドの最終的な着地点」であり、途中経過の数字はあくまでそこへ向かう過程の観測値にすぎません。
グロスとネットの違い:管理報酬とキャリード・インタレストの控除
DPI・RVPI・TVPIには「グロス」と「ネット」の2種類があります。グロスはポートフォリオ企業への投資・回収だけを見た数字で、ファンドの運営コストを一切差し引いていません。ネットはそこから運用報酬(マネジメント・フィー)とキャリード・インタレスト(GPの成功報酬、いわゆるキャリー)を控除した後、LPが実際に受け取る金額をベースにした数字です。LP向けの四半期報告書に載るのは基本的にネットの数字であり、GPが対外的に実績をアピールする際にグロスの数字を使うと、両者に差が出ます。
キャリーの計算方法は投資契約(LPA)ごとに異なり、優先分配(ハードルレート)やGPのキャッチアップ条項が組み込まれる設計が一般的です。本記事の設例では、こうした細かい優先分配の階段を省略し、「LPが拠出した元本を全額回収するまではキャリーが発生せず、元本回収後の利益部分にのみキャリー料率をかける」という簡略化した全体ウォーターフォールを使います。
式(簡略化した全体ウォーターフォール)
キャリード・インタレスト =(総回収額 - 累計拠出額) × キャリー料率(元本回収後の利益部分にのみ発生)
LPへの純分配額 = 総回収額 - キャリード・インタレスト
ネットTVPI = LPへの純分配額 ÷ 累計拠出額
次のセクションで具体的な数値を使ってこの式を検算します。なお、ファンドの組成実務やGP側の経済性(管理報酬率の設定、LP構成など)についてはVCファンドの作り方で扱っています。
仮設例:10社ポートフォリオ・パワーロー分布でのリターン計算
以下は説明用の仮設例です。実在のファンドやその実績とは一切関係ありません。ファンドサイズ(LPコミットメント総額)を100.0億円とし、投資期間の当初に80.0億円を10社へ均等に投資(1社あたり8.0億円)、残り20.0億円は運用報酬として10年間、年2.0億円ずつ拠出されると仮定します。10社の投資先は、VCファンドに典型的なパワーロー分布に沿って、1社が突出したリターンを生み、複数社がゼロになるという構成にしています。
| 投資先 | 投資額 | Exit時期 | Exit時Proceeds | 投資額対比倍率 |
|---|---|---|---|---|
| G社 | 8.0億円 | 2年目 | 0.0億円 | 0.0倍(清算) |
| H社 | 8.0億円 | 3年目 | 0.0億円 | 0.0倍(清算) |
| F社 | 8.0億円 | 4年目 | 4.0億円 | 0.5倍 |
| I社 | 8.0億円 | 5年目 | 0.0億円 | 0.0倍(清算) |
| E社 | 8.0億円 | 6年目 | 8.0億円 | 1.0倍 |
| J社 | 8.0億円 | 6年目 | 0.0億円 | 0.0倍(清算) |
| D社 | 8.0億円 | 7年目 | 12.0億円 | 1.5倍 |
| C社 | 8.0億円 | 8年目 | 24.0億円 | 3.0倍 |
| B社 | 8.0億円 | 9年目 | 40.0億円 | 5.0倍 |
| A社 | 8.0億円 | 10年目 | 200.0億円 | 25.0倍(IPO) |
| 合計(10社) | 80.0億円 | - | 288.0億円 | 3.6倍(投資額対比) |
10社への投資額80.0億円に対して、Exit時Proceedsの合計は288.0億円、投資額対比の倍率(グロスMOIC)は3.6倍です。ここで注目すべきは、この3.6倍のうちA社1社だけで200.0億円、割合にして69.4%を占めているという点です。仮にA社の分配がゼロだったとすると、合計は88.0億円にとどまり、投資額80.0億円に対して1.10倍と、かろうじて投資元本を回収できる水準まで落ち込みます。管理報酬等を含む払込資本100.0億円に対しては0.88倍で、こちらのベースでは元本割れです。図1は、10社それぞれの分配額がファンド全体に占める割合を示したものです。
この「1社が全体を決める」という構造がパワーローの本質です。どの案件がA社になるかを事前に確実に見抜くことはできないため、GPは投資社数とリザーブ配分を通じて、当たり案件に十分な持分を残せるポートフォリオを設計します。この設計論はVCのPortfolio Constructionの記事で扱っており、また、当たり案件へのアクセス確率は共同投資(シンジケーション)のネットワーク構造にも左右されるため、VC共同投資ネットワーク分析もあわせて参照してください。バイアウト(PE)は複数の投資先が比較的均等にリターンを積み上げる傾向が強く、VCほど極端なパワーロー型にはなりにくいという構造差があります。この違いはPEとVCの違いで整理しています。
Jカーブ:ファンドの年次推移でDPI・RVPI・TVPIがどう動くか
Jカーブとは、ファンドの運用開始から数年間はTVPIが1.0倍を下回り、その後の回収が進むにつれて1.0倍を上回っていく、アルファベットの「J」に似た軌跡を指します。運用初期は投資先への払込みと運用報酬の拠出が先行する一方、投資先はまだ成長途上で分配(DPI)はほとんど発生しないため、累計拠出額に対する評価額の比率(RVPI)だけでTVPIを構成することになり、多くの場合1.0倍を下回ります。
先ほどの仮設例を使い、10年間の各年末時点でのDPI・RVPI・TVPIを検算すると、次のような推移になります(残存企業の評価額は簡略化のため取得原価で計算しており、実際のファンドのように直近ラウンドの株価で再評価するマークアップは行っていません)。
| 経過年数 | 累計拠出額(PIC) | DPI | RVPI | TVPI |
|---|---|---|---|---|
| 0年目 | 82.0億円 | 0.00倍 | 0.98倍 | 0.98倍 |
| 1年目 | 84.0億円 | 0.00倍 | 0.95倍 | 0.95倍 |
| 2年目 | 86.0億円 | 0.00倍 | 0.84倍 | 0.84倍 |
| 3年目 | 88.0億円 | 0.00倍 | 0.73倍 | 0.73倍 |
| 4年目 | 90.0億円 | 0.04倍 | 0.62倍 | 0.66倍 |
| 5年目 | 92.0億円 | 0.04倍 | 0.52倍 | 0.56倍 |
| 6年目 | 94.0億円 | 0.13倍 | 0.34倍 | 0.47倍 |
| 7年目 | 96.0億円 | 0.25倍 | 0.25倍 | 0.50倍 |
| 8年目 | 98.0億円 | 0.49倍 | 0.16倍 | 0.65倍 |
| 9年目 | 100.0億円 | 0.88倍 | 0.08倍 | 0.96倍 |
| 10年目 | 100.0億円 | 2.88倍 | 0.00倍 | 2.88倍 |
この表が示すとおり、TVPIは0年目の0.98倍から緩やかに下がり続け、6年目に0.47倍で底を打ちます。これは投資期間の終盤で運用報酬の拠出が積み上がる一方、初期に投資した4社(G・H・I・J)のうち3社がすでに清算されて評価額を失っているためです。7年目以降はD・C・B社の分配が積み上がってDPIが伸び、9年目まではまだTVPIが1.0倍を回復していません。最終的に10年目、最大の当たり案件であるA社がIPOでExitしたことで、TVPIは一気に2.88倍まで跳ね上がります。図2は、この年次推移をDPI(実現分)とRVPI(未実現分)の積み上げで示したものです。
ネットIRRの読み方:MOIC・TVPIとの違い
DPI・RVPI・TVPIはいずれも「倍率(MOIC、Multiple on Invested Capital)」であり、資金がいつ動いたかという時間の概念を含みません。これに対してIRR(内部収益率)は、キャッシュフローが発生したタイミングを織り込んだ年率換算のリターンです。同じ2.88倍でも、5年で達成したのか10年で達成したのかによって、LPにとっての投資効率はまったく異なります。
式(IRRの定義)
Σ(各年のネットキャッシュフロー ÷(1+IRR)^経過年数)= 0 となる割引率がIRR
ネットキャッシュフロー = その年の分配額 - その年の拠出額(キャピタルコール)
先ほどの仮設例のキャッシュフロー(拠出はマイナス、分配はプラス)を使ってグロスIRRとネットIRRを検算すると、次のとおりです。
| 項目 | グロス | ネット(LP受取) |
|---|---|---|
| 累計拠出額(PIC) | 100.0億円 | 100.0億円 |
| 総回収額(10年目時点) | 288.0億円 | 250.4億円 |
| キャリード・インタレスト(20%) | - | 37.6億円(控除済み) |
| TVPI(10年目) | 2.88倍 | 2.50倍 |
| IRR | 13.1% | 11.4% |
グロスTVPI 2.88倍に対してネットTVPIは2.50倍、グロスIRR 13.1%に対してネットIRRは11.4%となり、いずれも管理報酬とキャリーの分だけ差が開いています。このファンドは元本回収(累計拠出額100.0億円の回収)が10年目のA社Exitで初めて達成される設計のため、キャリーは10年目の分配にしかかかっていません。もし同じ総回収額でも、もっと早い年次に大きな分配があれば、グロスとネットのIRRの差は縮まります。逆に、初期に小口のExitで見かけ上のDPIを積み増す「早期の小さな分配」だけでIRRを語ると、その後の大口Exitの有無を織り込まないまま実態より高いリターンに見えてしまう場合があるため、IRRを見るときは必ずTVPI・DPIとあわせて、残りのポートフォリオがどれだけ未実現のまま残っているかを確認する必要があります。
RVPI(残存価値)の評価信頼性:なぜ運用後期はDPIを重視するのか
RVPIの分子である残存評価額(NAV)は、多くの場合、直近の資金調達ラウンドでの株価(最終ラウンド評価額)を基準にGPが算定します。しかし未上場株式には日々の市場価格がなく、直近ラウンドの評価額自体、当該ラウンドの投資家との交渉やその時点の市況に左右されるため、実際に売却してみないと本当にその金額で現金化できるかは分かりません。運用初期・中期のTVPIがRVPI主導で構成されている段階では、その数字は「まだ市場でテストされていない評価」であるという前提を置いて読む必要があります。
これに対してDPIは、実際にLPの手元に現金が届いた実績であり、評価上の解釈の余地がありません。運用後期になるほどDPIの構成比が高まる(図2で見た9年目・10年目のように)のは、GPが着実にExitを実現できているシグナルであり、同じTVPI水準でもDPI比率の高いファンドのほうが、残りのリターンを実現できる確度は高いと解釈されます。実務では、ファンド運用歴が長くなってもDPIがほとんど増えず、TVPIの大半がRVPIのまま据え置かれているファンドは、評価の楽観性や、Exit環境の悪化によるポートフォリオの停滞を疑う材料になります。日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)が実施している国内VCパフォーマンスベンチマーク調査でも、ファンドの公正価値評価の採用状況(ファンド数ベースで22%、金額ベースで48%)が調査項目に含まれており、評価方法の違いがベンチマーク比較そのものに影響しうることが示唆されています。
ヴィンテージイヤー比較とベンチマーク:JVCA調査・PME
VCファンドのリターンを他のファンドと比較する際、最も重要な前提がヴィンテージイヤー(ファンドが最初に投資を実行した年、または組成年)をそろえることです。株式市場やIPO・M&A市場の環境は年によって大きく変動するため、好況期に組成されたファンドと不況期に組成されたファンドを、ヴィンテージをそろえずに比較すると、GPの運用能力の差なのか市況の差なのかを見分けられません。ベンチマーク機関は、同じヴィンテージイヤーのファンド群を集めて分布を作り、その中での順位(トップ・クオータイル=上位25%に入るかどうか)でファンドを評価します。
日本国内では、日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)が2020年から「国内VCパフォーマンスベンチマーク調査」を実施しています。2024年に公表された第7回調査は、71社が提供する227ファンドのデータを集計し、コミットメント総額ベースで国内VC市場の75%をカバーしていると公表されています。同調査では、組成後10〜12年以上が経過したVCファンドのネットマルチプル(TVPIに相当)が平均2.8倍、2012年組成ファンドに限ると約4倍に達したことが報告されています。海外ではDPI・TVPI・RVPIを軸にしたヴィンテージ別ベンチマークを、Cambridge Associates等の運用会社・調査会社が公表しており、国内外を問わずヴィンテージ内の四分位比較が標準的な評価手法になっています。
もう一つの視点がPME(パブリック・マーケット・エクイバレント)です。PMEは、VCファンドへの拠出・分配とまったく同じ金額・同じタイミングで、仮に上場株式インデックスへ投資していたらどうなっていたかを計算し、両者を比較する手法です。TVPIやIRRが「ファンド単体の絶対的なリターン」を示すのに対し、PMEは「その資金を公開市場に置いていた場合と比べてどうだったか」という相対評価を与えます。
式(KS-PME、Kaplan-Schoar法)
KS-PME = Σ(各年の分配額 ×(1+指数の年率リターン)^残存年数) ÷ Σ(各年の拠出額 ×(1+指数の年率リターン)^残存年数)
KS-PMEが1.0を上回れば、同じキャッシュフローを公開市場インデックスに投資した場合より高いリターンを得られたことを意味する
試しに、先ほどのネットキャッシュフロー(LP拠出・分配)に、仮に年率6%で複利運用される株価指数を比較対象として当てはめて計算すると、KS-PMEは約1.53倍になります(年率6%は本記事で設定した仮の比較指数であり、実在の指数のリターン実績ではありません)。これは、同じ金額・同じタイミングで拠出と分配を行った場合、公開市場インデックスに投資するより約53%多くのリターンを得られたと解釈できる設例です。実務でPMEを使う際は、比較対象とする指数(国内株価指数か、海外株価指数か)の選び方自体がPMEの値を左右するため、どの指数と比較しているかを必ず確認する必要があります。
DPI・TVPI・IRRの検算を自分の手で組んでみる
本記事の設例はすべて仮の数値です。実際にLP報告書やファンドのキャッシュフローを読むには、拠出・分配の年次データをシートに落とし込み、DPI・RVPI・TVPIとグロス・ネットのIRRを自分で計算しながら差分の要因を切り分ける練習が役立ちます。
よくある質問(FAQ)
Q. DPIとTVPI、どちらを重視して見るべきですか。
A. 運用期間の長さによって重視すべき指標は変わります。運用初期・中期はTVPIの大半がRVPI(未実現評価)で構成されるため、TVPIだけでなくDPIがどれだけ積み上がっているかを必ず確認してください。運用後期になるほどDPIが実態を反映する信頼度の高い指標になります。
Q. グロスIRRとネットIRRの差は、どのくらいが一般的ですか。
A. 管理報酬率・キャリー料率・ハードルレートの有無・元本回収のタイミングによって差は大きく変わるため、一律の目安はありません。本記事の設例では、元本回収が最終年に集中したためグロス13.1%に対しネット11.4%と1.7ポイントの差になりましたが、初期に分配が分散するファンドではこの差の出方も変わります。
Q. Jカーブは何年目まで続きますか。
A. ファンドの投資ペースや業種構成によって異なりますが、本記事の設例では投資期間終了直後の6年目にTVPIが底(0.47倍)を打っています。一般に、VCファンドは投資先の成長・Exitに時間がかかるため、バイアウトファンドよりJカーブの底が深く、期間も長くなりやすいとされています。
Q. RVPI(残存価値)が高いファンドは、良いファンドと言えますか。
A. RVPIの高さだけでは判断できません。RVPIは直近ラウンドの評価額を基準にした未実現の評価であり、実際に売却できる保証はありません。同じRVPIでも、その裏付けとなる投資先の事業進捗やExit環境によって、将来どれだけDPIに転換できるかは大きく異なります。
Q. PMEはどんな場面で使う指標ですか。
A. LPが「VCファンドに出資する代わりに公開市場のインデックスに投資していたら、どちらが得だったか」を検証する場面で使います。TVPIやIRRがファンド単体の絶対的なリターンを示すのに対し、PMEは資産クラス選択の意思決定に使う相対評価の指標です。
まとめ
VCファンドのリターンは、DPI・RVPI・TVPI・ネットIRRのどれか一つだけでは判断できません。TVPI=DPI+RVPIという関係式を踏まえたうえで、運用期間のどの時点にいるファンドなのか、DPIとRVPIの内訳がどうなっているのかを必ず確認する必要があります。仮設例で見たとおり、VCファンドはパワーロー分布の性質上、Jカーブの底からごく短期間で大きくTVPIが跳ね上がることがあり、途中経過のスナップショットだけで評価を確定させるのは危険です。グロスとネットの差、そして同一ヴィンテージ内での四分位比較・PMEといったベンチマークの視点を組み合わせることで、初めてファンドのリターンを立体的に読めるようになります。
ファンドレベルの数字を実務で扱えるようになるには
LP報告書に出てくるDPI・TVPI・IRRの数字を正しく読み解く力は、VC・PEどちらのキャリアでも土台になります。仮設例の検算だけでなく、実際のキャッシュフローの並びから自分でウォーターフォールを組み立てる演習を重ねることで、初めて実務で使える形になります。
出典・参考(2026年8月確認)
- 日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)「国内VCパフォーマンスベンチマーク第7回調査を行いました(2024年版)」 https://jvca.jp/news/44832.html
- 日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)調査ページ(ベンチマーク調査一覧) https://jvca.jp/research
- Cambridge Associates(米国の運用会社・調査会社。ヴィンテージ別のプライベート市場ベンチマークレポートを公表。本記事では具体的な数値は引用せず、名称のみ記載)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。本記事の記述は2026年8月時点で確認できた公開情報に基づきます。