この記事で分かること
- GPキャッチアップの定義と、分配ウォーターフォールの中での位置づけ
- キャッチアップ額の計算式(キャリー20%なら優先収益の25%)と検算方法
- キャッチアップの有無でGPの取り分がいくら変わるかの整数比較
- キャッチアップが途中で終わるケース(利益が小さい場合)の計算
30秒で分かる定義
GPキャッチアップ(GP Catch-Up、読み方:じーぴーきゃっちあっぷ)とは、ファンドの分配ウォーターフォールにおいて、LPへの優先収益(ハードル)支払い後に、GPの成功報酬の取り分が所定のキャリー率(典型20%)に「追いつく」まで、分配をGPに優先的に(多くは100%)振り向ける段階のことです。キャッチアップ条項があるハードルは「ソフトハードル」と呼ばれ、キャッチアップ完了後はGPのキャリーが実質的に利益全体の20%となります。
なぜ実務で重要なのか
- ファンド組成(GP側):キャッチアップの有無と割合(100%か50%か)は、同じ「キャリー20%・ハードル8%」でもGPの最終手取りを大きく変える設計変数です
- LP側:キャッチアップはGPに有利な条項であるため、LPAレビューでは割合の引き下げ(100%→50%等)やハードハードル化が交渉論点になります
- 不動産・インフラファンド:多段階ハードルの各段階にキャッチアップが挟まる複雑なウォーターフォールが多く、モデル実装力が問われます(不動産の分配ウォーターフォール参照)
計算式
キャリー20%の場合 = 優先収益 × 25%
導出は簡単です。キャッチアップ額をxとすると、完了時点でGPの累計取り分が「元本超過後の利益分配額の20%」に一致する必要があるため、x = 20% ×(優先収益 + x)。整理すると x = 0.25 × 優先収益 です。キャッチアップ割合が100%未満(例:GP 50%/LP 50%で按分)の場合は、GPが20%に到達するまでに必要な分配総額が大きくなり、到達が遅れます。
整数設例で確認する
設例(架空数値、単位:百万円)。出資10,000のファンドが16,000を分配(利益6,000)。優先収益2,000、キャリー20%・100%キャッチアップとします。
- ① 元本返還:LPへ10,000
- ② 優先収益:LPへ2,000
- ③ キャッチアップ:GPへ x = 25% × 2,000 = 500(この時点で利益分配2,500のうちGP 500 = 20%)
- ④ 残余 16,000 − 12,500 = 3,500 を80/20で分配:LP 2,800/GP 700
GP合計は500 + 700 = 1,200 = 利益6,000 × 20%、LP合計は14,800、総額16,000で一致します。もしキャッチアップがなければ(ハードハードル)、キャリーは超過利益4,000(=6,000 − 2,000)の20%で800にとどまり、差額400がキャッチアップ条項の経済的価値です。
次に利益が小さくキャッチアップが完了しないケース。分配総額が12,300(利益2,300)だったとすると、元本10,000と優先収益2,000の支払い後の残額は300で、キャッチアップ上限500に届きません。残額300は全額GPに入り、GPの取り分は利益2,300の約13.0%と、20%に届かないまま終わります。キャッチアップは「上限500・残額があれば充当」という頭打ち構造で計算する点がモデル実装の要です。
財務モデル・Excelでの使い方
キャッチアップは投資先の三表には現れず、ファンドの分配ウォーターフォール・シートで扱います。実装は次の3行で構成します。
キャッチアップ上限 = キャリー率/(1−キャリー率) × 累計優先収益当期キャッチアップ = MIN(分配残額, キャッチアップ上限 − 累計キャッチアップ)- チェック行:フルキャッチアップ到達後に「GP累計 ÷ 利益分配累計 = キャリー率」が成立するかを常時検証する
複数回に分けて分配が行われる実務では、優先収益とキャッチアップの「累計上限 − 累計充当額」を期ごとに繰り越す構造にすると、どの分配回でも整合が保てます。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「キャッチアップはGPへのボーナス上乗せ」→ 正しくは「キャリー20%への復元装置」。キャッチアップがあっても、GPの最終取り分は利益の20%を超えません。ハードルで一時的にLPへ寄せた分配比率を、契約上のキャリー率まで戻す仕組みです。
誤解2:「キャッチアップは必ず100%」→ 割合は交渉事項。50%キャッチアップ(GPとLPで折半しながら追いつく)などLP有利の設計もあり、その場合GPが20%に到達するまでの分配額が増えます。
確認ポイント:判定基準が全体か案件ごとか。欧州型(ファンド全体基準)ではキャッチアップの発生がファンド後期にずれ込む一方、米国型(ディール・バイ・ディール)では早期に発生し、後にクローバックで精算されることがあります。キャリーの記事で両者を比較しています。
日本実務での扱い
国内の投資事業有限責任組合(LPS)でも、「ハードル8%・100%キャッチアップ・キャリー20%」という国際標準に準じた組合契約が一般的です(推定・ファンドにより異なります)。組合契約書では「優先分配」「キャッチアップ」「成功報酬」の条項として規定され、機関投資家LPはILPAガイドラインを参照して割合や判定基準を確認します。なお、GPが受け取るキャッチアップ部分を含むキャリーの税務上の取扱い(株式譲渡益としての申告分離課税となり得る整理)は金融庁が2021年に公表した考え方によります(2026年7月時点)。ファンド全体の構造はPEファンドの構造を参照してください。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:優先収益が2,000、キャリー20%・100%キャッチアップのとき、キャッチアップ額はいくらですか?
「500です。キャッチアップ完了時点でGPの取り分が利益分配の20%になる必要があるので、x=20%×(2,000+x)を解いてx=500。キャリー20%なら『優先収益の25%』と即算できます。」
深掘りでは「なぜ25%になるのか(0.2/0.8の導出)」「キャッチアップが完了しない場合の計算」「50%キャッチアップだと何が変わるか」まで問われます。公式暗記ではなく、完了条件の等式から導けるようにしておきましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. キャッチアップとハードルはどちらがLPに有利ですか?
A. ハードルはLP保護、キャッチアップはGP側の取り戻し装置です。LPにとって最も有利なのは「ハードルあり・キャッチアップなし(ハードハードル)」、GPに有利なのは「ハードルあり・100%キャッチアップ」です。
Q. キャッチアップ中、LPには何も分配されないのですか?
A. 100%キャッチアップの場合、その段階の分配は全額GPに入ります。50%等の部分キャッチアップでは、LPにも按分されながらGPが徐々に追いつく形になります。
出典・参考(2026-07-20確認)
- ILPA「Private Equity Principles」(ウォーターフォール・キャッチアップに関するLP側指針) https://ilpa.org/
- 投資事業有限責任組合契約に関する法律(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/
- 金融庁(キャリード・インタレストの税務上の取扱いに関する公表資料) https://www.fsa.go.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。