この記事で分かること
- 東京23区と大阪市のオフィスの新規契約賃料80,057件から、築年数によって賃料がどれだけ、どんな形で下がるかを推計した日本銀行のワーキングペーパーの結果
- 賃料は築24〜25年ごろまで年1.4%程度で下がり、その後は減価が鈍ること、リノベーション後の押し上げは直後が最大で16年ほどかけて薄れること、そしてこの数値の適用範囲
- 不動産DCFの賃料前提を「市場の変化」と「対象ビルの築年減価」に分けて置く手順と、改修に払える上限の概算(学習用の設例つき)
想定読者:オフィスビルの取得・売却を検討するREIT・不動産ファンド・REPEのアセットマネジャー、不動産案件を評価するFAS・投資銀行・金融機関の実務家、CRE戦略を担う事業会社の担当者
前提知識:NOIとキャップレートの意味、DCF法の基本(回帰分析の知識はなくても読める)
築20年のオフィスビルを10年保有する前提で収益モデルを組むとき、賃料の行に何を置くか。足元の成約水準をそのまま横に伸ばすか、市場の賃料見通しに合わせて年率を置くか。どちらにしても、そのビル自体が10年で築30年になることを、賃料の前提はどこかで織り込んでいなければならない。ところが実務のモデルでは、市場の賃料上昇率と対象ビルの経年による見劣りが一つの「賃料成長率」に混ざり、後から根拠を問われても分けて説明できないことが多い。
この「見劣り」の大きさを、日本のオフィスについて大規模な成約データで測り直した研究が2026年6月に日本銀行から公表された。もともとは物価統計のための研究だが、示された数値は、賃料前提を分解して置くための材料として実務にもそのまま参考になる。本稿では、研究が実際に示したことと示していないことを区別しながら、評価モデルの賃料前提にどう持ち込むかを考える。
この記事が主に参照する研究
篠崎公昭・新谷幸平・曽我部哲人・中山善夫・古田早穂子(2026)「オフィス賃料の経年減価とリノベーション効果(Aging-Related Depreciation of Office Rents and Renovation Effects)」日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.26-E-11(日本語版 No.26-J-07)
- 公表:2026年6月4日(英語版・日本語版を同時掲載)。前身は2025年9月の国際会合での報告(旧題)。参照した版:英語版(日本語版で用語を照合)。査読:未査読(ワーキングペーパー)1
- データ:ザイマックスグループが保有する、東京23区と大阪市のオフィスの新規契約賃料(成約ベース)と物件属性。2000〜2024年の契約、80,057件
- 方法:ヘドニック法による回帰分析。立地・規模・時点などをそろえたうえでの築年数と賃料の関係を推計(リノベーションの因果効果を識別したものではない)
- 位置づけ:既存の手法を新しい大規模データに当てた検証。日銀の企業向けサービス価格指数の品質調整に使うパラメータの更新が目的
何を測った研究か:物価指数の「品 質調整」から始まった問い
研究の出発点は物価統計である。日本銀行の企業向けサービス価格指数
そこで著者らは、オフィス仲介・管理大手のザイマックスグループから提供を受けた成約ベースの新規契約賃料を使った。坪当たり月額賃料の平均は18,474円、中央値は17,000円、契約時点の築年数の平均は22.3年である。坪賃料6,000円以下や10万円超、築60年超、延床300坪以下の物件は外れ値として除いている3。
手法はヘドニック法と呼ばれるもので、賃料の対数を、築年数のほか駅からの徒歩分数、延床面積、地上階数、都心5区かどうかといった属性で説明する回帰式を推計する。区ごとの違いと契約した時期の景気は固定効果としてまとめて差し引く。そのうえで築年数の効き方を、1年刻みのダミー変数、Box-Cox変換による滑らかな曲線、2本の直線をつないだ折れ線という三つの形で推計し、比べている4。
ここで押さえておきたいのは、測っているのが「同じ立地・同じ規模・同じ時期に契約されたビルどうしで、築年数が1年違うと新規の成約賃料が平均して何%違うか」だという点である。一棟のビルの賃料を何十年も追いかけた記録ではない。また新規契約に限ったのは、日本では継続賃料が名目で硬直的で、市場の均衡水準からずれうるためだと説明されている5。
研究が示した結果:築24年前後で減価の速さが変わる
三つの推計の結果を表1にまとめた。1年刻みのダミーで推計すると、新築から築25年までの平均で年1.37%、築60年までの長期平均で年0.61%賃料が下がる。Box-Cox変換ではそれぞれ年1.03%と年0.86%で、新旧の差が小さく出る。著者らは、曲線をならす性質のために築25年前後で減価が急に鈍る形をとらえきれず、新しいビルと古いビルの差を過小に見積もるおそれがあると注意している6。
表は横にスクロールできます →
| 推計 | 築25年まで等 | 築60年まで等 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 築年ダミー(1年刻み) | 年1.37% | 年0.61% | 築年ごとの推計は振れが大きい |
| Box-Cox変換 | 年1.03% | 年0.86% | 曲線をならすため新旧の差を小さく見せうる |
| 折れ線(築24年で接続) | 年1.41% | 年0.70% | 24〜60年は年0.23%。AICで接続点を選択 |
| リノベーション実施(実施ダミー) | 5.74%pt | 3.47%pt | 左は築17〜38年の平均の上方シフト |
| リノベーション後の経過年数 | 最大8.23%pt | 平均5.43%pt | 効果は約16年有意。右はその期間の平均 |
| 改修時築11〜30年:経過0〜5年/16年以上 | 5.9% | -1.5% | 16年以上は5%水準で有意なマイナス |
| 改修時築31年以上:経過0〜5年/16年以上 | 13.5% | 4.7% | 16年以上は189件と少ない |
実務で扱いやすいのは折れ線の推計である。折れる位置を順に変えて当てはまりを比べると、情報量規準(AIC)が最も小さく、自由度調整済みの決定係数が最も大きくなるのは築24年だった。この位置で推計すると、築24年までは年1.41%、そこから築60年までは年0.23%で、全期間の平均は年0.70%になる。著者らは、1年刻みのダミーで得た形をこの単純な折れ線で十分に近似できると結論している7。
論文の減価率は坪賃料の対数の差なので、これを新築時=100の水準に直したのが図1である。築24年で71、つまり新築時より3割近く低い水準まで下がり、その後は築60年でも66までしか下がらない。築25年前後で減価が鈍る形は米国の商業用不動産の研究結果とよく似ており、著者らは減価しない土地の存在や、価値を保つための継続的な投資が影響している可能性を挙げている8。
属性による違いも調べている。継続賃料を含むザイマックス管理物件の14,531件で比べても、新規と継続で経年減価の形に大きな差はなかった。東京23区と大阪市でも、築9〜13年と28〜36年ごろの一部を除いて差は大きくない9。差が出たのは規模で、延床5,000坪以上の大規模物件は新築からしばらくは中小規模より速く下がるが、築38年ごろからほぼ横ばいになり、中小規模は緩やかな減価が続く。著者らは、再開発による旗艦ビルの新築プレミアムが早く剥げること、所有者の資金力の差が修繕の差になることなどを、仮説として挙げている10。
リノベーションの効果:最大8%ポイント強、約16年で薄れる
リノベーションを実施したビルでは、累積の減価曲線が上にずれる。築17〜38年の平均で5.74%ポイント、築60年までの平均で3.47%ポイントの押し戻しである11。さらに実施からの経過年数ごとの効果を推計すると、実施直後に最大8.23%ポイント減価を押し戻し、その後少しずつ剥落しながらも約16年は有意な効果が残り、その期間の平均は5.43%ポイントだった12。
実施時の築年数で分けた数値も示されている。築11〜30年で改修したビルでは、改修後0〜5年の賃料上昇効果が5.9%で、16年以上たつと-1.5%とむしろマイナスになる。築31年以上で改修したビルでは0〜5年で13.5%と大きく、16年以上でも4.7%残る(ただし件数は189件と少ない)13。古いビルほど、改修から日が浅いほど効果が大きいという傾向である。
この数値の読み方と限界
数値を評価モデルに持ち込む前に、研究の限界を確認しておく。第一に、リノベーションは内装の刷新から既存躯体を生かした全館改修まで、規模に関係なく一つのダミー変数で区別されている。記録されているのは直近の実施年だけで、リノベーションを実施した物件は全体の約20%にとどまる14。したがって「8%ポイント強」は、ある程度の規模の改修をすれば得られる効果の目安ではなく、改修した物件の平均的な姿である。
第二に、どのビルが改修されるかは偶然ではない。立地がよく、改修しても採算が合うと所有者が判断したビルほど改修されやすいとすれば、推計された効果には改修そのものの効果と、もともと賃料を取りやすいビルが選ばれた効果が混ざる。著者らも、築年とリノベーション実施の内生性、古いビルほど取り壊されて標本から抜ける生存バイアス、物理的な劣化と機能的な陳腐化の区別を、今後の課題として挙げている15。
第三に、対象は東京23区と大阪市の延床300坪超のビルで、新規契約の賃料である。地方都市のビル、小規模ビル、あるいは既存テナントとの賃料改定交渉に、そのまま同じ速さを当てはめる根拠はない。
先行研究との関係も確認した。同じザイマックスのデータで東京23区を分析したYoshida, Kawai, Geltner and Shimizu(2024)は、新規賃料の減価を年0.81%、継続賃料を年0.58%と推計しており、5年刻みの築年区分を使っている点で今回と異なる。同研究の要旨は、賃料の減価率は価格の減価率の半分に満たないこと、運営費は築年数によらない一方、資本的支出は築20年まで増えることも報告している16。現行の物価指数のもとになった才田・肥後(2010)は、建物本体の資産価値の減耗率を年5.0%と推計していた。こちらは賃料ではなく建物の価値の減り方で、REITのデータなどから資産価値の下落と品質低下が一致すると仮定した推計である17。賃料の減価と建物価値の減価は別の量だという点は、評価の実務でも混同しやすい。
大手町プレップの考察:「賃 料成長率」は二つに分けて置く
以下は論文の結果を基にした編集部の見方である。
研究の数値が実務に最も効くのは、DCFの賃料前提を二つの要素に分けて置く根拠になる点だと考えられる。一つは、同じ品質のオフィスの賃料が市場全体でどう動くか(市場要因)。もう一つは、対象ビルが1年古くなるごとにその市場水準からどれだけ見劣りしていくか(築年要因)である。物価指数の品質調整は、まさに後者を取り除いて前者だけを残す作業だった。評価モデルではその逆に、市場の見通しに対象ビルの築年減価を重ねる必要がある。市場の見通しを品質一定の考え方で作ったのか、既存ビル全体の平均賃料の推移から作ったのかで、築年要因を別に入れるべきかどうかが変わる。後者のような平均値は、標本のビルの入れ替わりや築年構成の変化を含みうるので、使う統計の作り方を確かめたうえで二重計上や計上漏れを避けたい。
折れ線の形は、保有期間がどこにあるかで前提が大きく変わることを意味する。築10年のビルを10年持つなら、期間中ずっと年1.4%前後の減価が続く。築30年のビルなら減価はほぼ止まっている。築20年前後で取得するなら、期間の途中で減価の速さが切り替わる。同じ「年1%の減価」を全物件に一律に置くモデルは、築浅のビルを高く、築古のビルを低く評価しやすい(仮説)。
リノベーションの効果については、押し上げが永続しないことを出口の前提に反映させる点が重要である。改修後数年で売却する計画の場合、出口時点のNOIに改修の押し上げが最大限に乗っており、それをエグジットキャップレートで永続的に資本化すると、後の剥落分まで価格に入ってしまう。研究が示した「約16年で薄れる」という形は、この過大評価を点検する手がかりになる。
日本の実務への応用:どの場面で使えるか
使える場面は大きく三つある。一つは取得時のDCFで、レントロールの現行賃料と市場賃料の差を見るときに、比較対象のビルとの築年差を補正する目安として使う。比較対象が築10年で対象が築22年なら、立地と規模が同じでも折れ線の推計では賃料水準に約16%の差がありうる、という具合である。ロス・トゥ・リース(現行賃料と市場賃料の差)を主張する売り手の資料に対して、その「市場賃料」がどの築年のビルの水準かを問う材料にもなる。
二つ目は出口の前提である。保有期間末の対象ビルは取得時より古くなっているので、出口のNOIの計算に使う賃料も、その時点の築年に見合った水準でなければならない。不動産DCF法の解説では、最終還元利回りを取得時より高めに置く理由の一つに建物の経年劣化を挙げたが、賃料の行でも経年を入れたうえで利回りでも上乗せすると、同じ劣化を二度数えることになりうる。どちらで織り込んだかをモデルの前提表に書いておくと、レビューで議論がかみ合う。
三つ目は改修の投資判断で、エンジニアリングレポートの修繕更新費とは別に、賃料を押し上げるための改修にいくらまで払えるかを、押し上げの大きさと持続年数から逆算する。この点は次の設例で確かめる。
設例:築20年のビルを10年持つときの賃料前提と改修の上限
学習用の設例(架空)
- 甲ビル:東京都内、延床3,000坪(中小規模)、賃貸可能面積2,000坪、取得時の築年数20年、取得時に成約しうる坪賃料20,000円(月額)
- 満室を前提とし、満室時の年間賃料は480百万円、運営費は年150百万円で築年にかかわらず一定。1年目のNOIは330百万円
- 保有10年、割引率4.0%、11年目のNOIを出口のキャップレート4.5%で還元
- 市場全体の賃料変動はゼロとし、築年要因の効き方だけを見る。賃料は毎年その時点の築年に見合う水準に改定されると単純化する
- 前提A:賃料据え置き。前提B:折れ線モデルの傾き(築24年まで年1.41%、以降年0.23%)で減価。前提C:Bに加えて4年目(築23年)に改修し、押し上げを改修直後(経過0年)の8.23%ポイントから経過15年の2.63%ポイントへ直線で下げ、経過16年以降ゼロとする(この16時点の平均が研究の5.43%ポイントに一致するように置いた仮定)
図2が3通りの賃料の推移である。前提Bでは10年目の坪賃料が18,687円と、取得時より6.6%低い。前提Cでは改修した年に20,816円まで上がり、その後は効果の剥落と築年減価が重なって10年目に19,841円になる。
価値への影響は賃料の変化より大きい。11年目の坪賃料は前提Aより6.8%低いだけだが、運営費が一定なのでNOIは9.9%低くなり、その差が出口価格に資本化される。結果として前提Bの価値は6,978百万円で、賃料を据え置いた前提Aの7,631百万円より8.6%(653百万円)低い(表2)。
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| 前提 | 価値 | Aとの差など | 読み方 |
|---|---|---|---|
| A 築年減価なし | 7,631 | — | 賃料を据え置いた素朴な前提 |
| B 築年減価あり | 6,978 | −8.6% | 10年目の坪賃料は18,687円 |
| C Bに改修効果(出口でも見込む) | 7,546 | 改修に払える上限639 | 延床1坪あたり21.3万円 |
| C’ 出口では改修効果を見込まない | 7,158 | 同202 | 延床1坪あたり6.7万円 |
| 感応度:取得時築5年(Bの前提) | — | −15.3% | 10年目の坪賃料は取得時比−11.9% |
| 感応度:取得時築15年(Bの前提) | — | −14.3% | 10年目の坪賃料は取得時比−11.9% |
| 感応度:取得時築20年(Bの前提) | — | −8.6% | 10年目の坪賃料は取得時比−6.6% |
| 感応度:取得時築25年(Bの前提) | — | −2.6% | 10年目の坪賃料は取得時比−2.0% |
| 感応度:取得時築35年(Bの前提) | — | −2.6% | 10年目の坪賃料は取得時比−2.0% |
改修については、前提CとBの価値の差を改修直前の時点に引き直すと、改修に払える上限は639百万円(延床1坪あたり21.3万円)になる。ただしこの値は、出口の11年目に残っている押し上げを出口利回りで永続的に資本化した場合の数字である。出口では改修の効果を見込まないとすると、上限は202百万円(同6.7万円)まで縮む。改修の採否を左右するのは押し上げの大きさよりも、出口の買い手がその効果をどこまで価格に認めるかであることが分かる。
感応度を見ると、取得時の築年数で結論が変わる。築5年や築15年で取得すると、築年減価を入れるだけで価値は15.3%、14.3%低くなる。築25年以上で取得すると、減価の鈍った区間に入るので差は2.6%にとどまる。同じ減価率を全物件に一律に置くと、この差が消えてしまう。なお、設例は満室・賃料の毎年改定という単純化を置いており、実際には契約条件などにより賃料が毎年その築年の市場水準に改定されるとは限らず、改修工事中の空室や賃料の減額も生じる。
明日から使える確認項目
- モデルの「賃料成長率」が、市場要因と築年要因のどちらを含んでいるかを前提表に書き分ける。市場見通しの出所が品質一定の考え方か、既存ビルの平均賃料かを確認する。
- 保有期間の始めと終わりの築年数を書き出し、築24年前後をまたぐかどうかを見る。またぐなら、期間を通して同じ減価率を置いていないかを確かめる。
- 比較対象の成約事例と対象ビルの築年差を一覧にし、差が10年以上ある事例をそのまま市場賃料の根拠にしていないかを点検する。
- 出口のNOIに改修の押し上げが含まれる場合、改修から出口までの年数と、出口後に何年効果が残るかを明記し、効果を見込まない場合の価値も並べる。
- 経年劣化を賃料の行と最終還元利回りの両方で織り込んでいないかを確認する。両方に入れる場合は、それぞれで何を織り込んだかを一文で説明できるようにする。
- 改修の効果を研究の平均値で置く場合は、改修の規模(内装の刷新か、設備・共用部を含む大規模改修か)が研究の平均的な姿と比べてどうかを記し、数値はあくまで目安だと注記する。
よくある質問
年1.4%の減価率は、どのビルにも当てはめてよいのですか。
東京23区と大阪市の延床300坪超のビルについて、新規契約の賃料で推計した平均的な関係です。地方都市や小規模ビルには別の根拠が必要です。また大規模ビルは築浅期の減価がやや速く、築38年ごろから横ばいになるという違いも報告されています。
リノベーションをすれば賃料は8%上がると考えてよいですか。
8.23%ポイントは改修直後の最大の押し戻し幅で、改修の規模を区別しない平均値です。改修されやすいビルが選ばれている影響も含みうるため、個別の改修の効果を保証する値ではなく、対象標本の平均的な関係を示す参考値として扱うのが無難です。築31年以上で改修した物件の改修後0〜5年では13.5%という推計もあり、8.23%ポイントは効果の上限を示すものでもありません。
まとめ
日本銀行のワーキングペーパーは、東京23区と大阪市のオフィスの新規契約賃料が、築24年前後までは年1.4%程度で下がり、その後は大きく鈍ることを示した。リノベーションは減価を最大8%ポイント強押し戻すが、効果は約16年で薄れる。いずれも属性をそろえた平均的な関係で、改修の因果効果を識別したものではない。評価の実務では、賃料成長率を市場要因と築年要因に分け、保有期間が減価の速い区間にあるかどうかで前提を変えること、改修の押し上げを出口でどこまで資本化するかを明示することが、この研究から得られる使い方だと考える。
脚注
- R1。日本銀行の英語掲載ページ(June 4, 2026)と日本語掲載ページ(2026年6月4日)の日付表示による(両ページは互いの言語版へリンク。2026年10月23日確認)。論文の脚注(PDF p.2)によれば、本稿は2025年度統計関連学会連合大会、第39回 Voorburg Group(2025年9月)、International Conference on Real Estate Statistics 2026 での報告を加筆・修正したもの。著者の所属は日本銀行調査統計局(3名)と株式会社ザイマックス総研(2名)で、内容は著者個人の見解であり日本銀行・ザイマックスグループの公式見解ではないと明記されている。本記事のページは英語版 PDF の物理ページ(印刷ページ番号+1。以下同じ)。↩
- R1 p.2(要旨)・p.3(1節)。SPPI「事務所賃貸」では経年による資産価値の低下をサービス品質の低下とみなし、その分の賃料変化を指数の変動に反映しない(品質調整)。現行のパラメータは2007年時点のデータによる Saita and Higo (2010) の推計に基づくと記載。↩
- R1 p.8〜9(3-1節)・Chart 2(p.25)。観測数80,057件、坪当たり賃料の平均18,474円・中央値17,000円、築年数の平均22.3年。除外条件は本文の記載どおり。↩
- R1 p.8〜13(3-2節、式(1)〜(4))。説明変数は Chart 1(p.25)。区(行政区)の固定効果と契約時点の固定効果を含む。築年ダミーの基本モデルの自由度調整済み決定係数は0.697(Chart 4、p.27)。↩
- R1 p.8(3-1節)。日本では名目賃料の硬直性により継続賃料が市場均衡からずれるおそれがあるため新規契約に限定したと説明(先行研究として Shimizu, Nishimura and Watanabe 2010、Yoshida et al. 2024 を引用)。↩
- R1 p.14〜15(4-1節(1)(2)(4))・Chart 4・5・8。論文は減価率を対数の差の絶対値で表示している(p.14 脚注5)。↩
- R1 p.15〜16(4-1節(3)(4)、脚注7)・Chart 6・7(p.29〜30)。接続点は築15〜40年を順に試し、基本モデル・拡張モデルとも築24年で AIC が最小(基本モデル −20,680)、自由度調整済み決定係数が最大。↩
- R1 p.13〜14(4-1節)。比較対象は米国の Bokhari and Geltner (2019)(本記事の執筆時には同論文の本文は未確認)。図1の指数は、R1 p.15 の年率と接続点から大手町プレップが exp(−累積減価)×100 で換算した値。↩
- R1 p.17〜18(4-2節(1)(2)、脚注9)・Chart 9・10(p.32〜33)。継続賃料を含む標本はザイマックス管理物件に限られ14,531件で、著者は慎重に見るべきと注記。↩
- R1 p.18〜19(4-2節(3))・Chart 11(p.34)。大規模物件の定義は延床5,000坪以上(Chart 1、日本語版 No.26-J-07 p.15。英語版本文 p.18 は exceeding 5,000 tsubo と表記)。建物価値の比率の議論は Saita and Higo (2010) を引用。いずれも著者の仮説。↩
- R1 p.19(4-3節(1))・Chart 12(p.35)。リノベーション実施ダミーと築年の交差項による推計。↩
- R1 p.20(4-3節(2)、式(5))・Chart 13(p.36)。経過年数ダミーによる推計。英文要旨(p.2)は8.2・5.4と丸めて記載。↩
- R1 Chart 14(p.37)。実施時の築年と経過年数で区分した賃料上昇効果(%)。築11〜30年・16年以上の −1.5% は5%水準、他は1%水準で有意。件数は築11〜30年で1,716・1,458・1,021・734件、築31年以上で1,328・459・301・189件。↩
- R1 p.19 脚注10、Chart 3 の注(p.26)、p.20〜21(4-3節(2))。リノベーション実施ダミーの平均は0.20(Chart 2)。著者は、個々の物件では効果が大きいが、賃貸市場全体の分析結果を覆すものではないと判断している。↩
- R1 p.22(5節)。著者が挙げる今後の課題。改修の選択による影響(セレクション)についての説明は大手町プレップによる言い換え。↩
- R2 の要旨(IDEAS/RePEc の書誌ページおよび The Pennsylvania State University の研究者情報ページに公開。2026年10月23日確認)。要旨は “operating expenses are independent of age, whereas capital expenditure increases in the first 20 years” と記す。本文は購読制のため未確認。年0.81%・0.58% と5年刻みの築年区分は R1 p.7(2-2・2-3節)による紹介。↩
- R3(日本銀行掲載ページの要旨のみ確認)。資産価値の減耗率で、賃料の減価率とは異なる。REITデータ等を用いた「資産価値アプローチ」と、その前提(資産価値の低下と品質低下の一致)は R1 p.3・p.6 の説明による。↩
参考文献(2 026年10月確認)
- R1 Shinozaki, K., K. Shintani, T. Sogabe, Y. Nakayama and S. Furuta (2026), “Aging-Related Depreciation of Office Rents and Renovation Effects,” Bank of Japan Working Paper Series No.26-E-11(日本語版:篠崎公昭・新谷幸平・曽我部哲人・中山善夫・古田早穂子「オフィス賃料の経年減価とリノベーション効果」No.26-J-07). 参照した版:英語版(2026年6月4日掲載)、日本語版で用語を照合。前身の報告:K. Shinozaki, “Empirical Analysis of the Impact of Age-Related Property Depreciation on Office Rents,” 39th meeting of the Voorburg Group(Copenhagen、2025年9月23日)。査読:未査読(WP)。 boj.or.jp (参照箇所:要旨、1〜5節、Chart 1〜14(PDF p.1〜37)。脚注1〜15の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R2 Yoshida, J., K. Kawai, D. Geltner and C. Shimizu (2024), “How Property Rents and Expenses Depreciate: A Case of Tokyo Office Properties,” Journal of Real Estate Research 46(3), pp.272-307. DOI: 10.1080/08965803.2024.2372963. 参照した版:公開の要旨(IDEAS/RePEc の書誌ページ、The Pennsylvania State University の研究者情報ページ。2026年10月23日確認)。査読:済。 doi.org (参照箇所:要旨のみ。脚注16の根拠(数値は R1 p.7 の紹介)。閲覧日:2026年10月)
- R3 才田友美・肥後雅博(2010)「賃料データを用いたオフィスビルの減耗率の計測」日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.10-J-1. 参照した版:日本銀行掲載ページの要旨(2010年1月)。査読:未査読(WP)。 boj.or.jp (参照箇所:要旨のみ。脚注17の根拠。閲覧日:2026年10月)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。