この記事で分かること
- 米国の上場REITの改修許可359,022件と株主提案から、サステナビリティの働きかけが改修を変えた時期を調べた研究の結果
- 設備更新の周期に重なった働きかけだけがサステナ改修の比率を高め、周期外や不成立の働きかけはむしろ下げていたこと、その解釈の限界
- 日本のJ-REIT・私募ファンドで、設備の更新時期の一覧化から対話の時期の決め方、前倒し更新の損得の測り方まで(学習用の設例つき)
想定読者:J-REIT・私募ファンドの資産運用会社でアセットマネジメントや投資家対応を担う人、不動産ファンドに出資する機関投資家・年金の運用担当、不動産向け融資の審査担当
前提知識:NOIとキャップレートの意味、資本的支出と修繕費の区別、NPVの基本(回帰分析の知識はなくても読める)
J-REITの決算説明会や面談で投資家が保有物件の省エネ化を求めるとき、その要請が実際の工事の仕様に反映されたのかは、外からはほとんど分からない。空調や外装のような大型の設備は毎年は替えないので、言われた翌年に工事が始まるわけではないからだ。
投資家の働きかけは、いつ行えば建物の改修に効くのか。マサチューセッツ工科大学(MIT)とマーストリヒト大学の研究者らが2024年7月に公表したワーキングペーパーは、この問いを米国の上場REITのデータで調べた。その結果は、働きかけの効果が設備の更新の周期と重なるかどうかで異なった、というものである。本稿では、研究が実際に示したことと示していないことを分けたうえで、日本の不動産ファンド・REITの実務に何を持ち込めるかを考える。
この記事が主に参照する研究
Bram van der Kroft, Juan Palacios, Roberto Rigobon and Siqi Zheng(2024)「Timing Sustainable Engagement in Real Asset Investments」NBER Working Paper No. 32646
- 公表:初版 2024年7月(NBER WP)。2025年8月付の改訂版で「Timing Sustainable Shareholder Proposals in Real Asset Investments」に改題。参照した版:NBER版(改訂版で主要な数値を照合)。査読:未査読(ワーキングペーパー)1
- データ:米国の上場REIT 214社が保有した物件61,870件の改修許可359,022件(1990〜2022年)と、REITへの株主提案229件
- 方法:改修許可の急増から各REITの「改修の周期」を特定し、周期と働きかけの重なりで効果を比べる回帰分析。提案の提出期限という制度上の制約を使い、因果の識別を試みている
- 位置づけ:設備投資が数年おきに塊で起きるという既存の理論を、新しいデータ(建物ごとの改修許可)でサステナビリティの働きかけに当てはめた実証
なぜ「時 期」が問題になるのか:改修は数年おきに塊で起きる
研究の出発点は、建物の大型改修がならして行われず、ある時期にまとめて起きるという観察である。米国では建物を改修するとき自治体の許可が要る。著者らはこの許可の記録を建物ごとにREITの保有物件と結びつけ、各REITの四半期ごとの許可件数が急に跳ね上がる時期を統計的な手法で拾い出した。こうして見つかった「改修の周期」は11,802のREIT・四半期のうち417回、おおむね7.1年に1回で、1回の改修は平均で約253日続いた。周期が始まると、許可件数は普段の3倍を超えた2。
なぜ塊になるのか。著者らの説明は二つある。一つは資金の事情である。米国のREITは課税所得の90%以上を配当に回す必要があるため内部に資金を残しにくく、大きな改修は増資や借入でまかなう。外部調達には件数によらない固定的な費用がかかるので、複数の物件をまとめて直し、その後しばらく大きな工事をしない、というパターンになる3。もう一つは工事そのものの事情で、省エネのための工事は通常の更新と同時に行うほど安い。空調の入れ替え中は建物を使えず、屋根を張り替える1年前に太陽光パネルを載せるのは無駄が大きい。古い設備には中古市場がほとんどなく、早めに替えれば残りの価値を捨てることになる4。
ここから、働きかけが効くのは設備の更新を決める時期と重なったときだけではないか、という仮説が出てくる。研究はこれを、許可の中身で確かめている。空調、扉と窓、屋根、擁壁、太陽光の許可を環境面の改修、外構や舗装などを社会面の改修とし、合わせて「サステナ改修」と呼ぶ。その比率は標本平均で21.71%だった。分類が的外れでないことは、ニューヨークなど3都市のエネルギー報告と照合して確かめており、サステナ改修1件ごとに二酸化炭素の排出原単位が平均の約2.22%下がっていた5。
研究が示した結果:周期に重なった成功した働きかけだけが効いた
働きかけとして使ったのは、議決権行使助言会社のISSのデータにある株主提案である。REITに出された提案229件のうち176件はガバナンス、53件が環境・社会に関するものだった。後者の54.72%は、会社が要求を受け入れて提案が撤回されたか可決された「成功」、残りは米国証券取引委員会(SEC)の判断で議案から除かれたか否決された「不成功」に分類されている6。
まず周期を区別せずに推計すると、サステナの働きかけがサステナ改修の比率に与える統計的に有意な効果は確認できなかった(係数-1.22%ポイント)7。
ところが周期の中と外に分けると、結果は反対向きに割れた。図1は、働きかけのなかった周期外の四半期を基準に、比率がどれだけ動いたかを示している。周期中の働きかけは比率を4.67%ポイント(平均比で約21.5%)押し上げた一方、周期外の働きかけは4.99%ポイント押し下げた。成功した働きかけに限ると、周期中の押し上げは13.95%ポイント(平均比で約64%)に広がる。標本平均の21.71%に足すと約35.7%になるが、これは大きさをつかむための編集部の機械的な換算で、研究が推定した水準ではない(比較の基準は平均でなく「働きかけなし・周期外」)。不成功の働きかけは、周期中でも6.80%ポイント比率を下げていた8。
図1で目を引くのは、成功した働きかけでさえ周期外では比率を3.19%ポイント下げていることだ。著者らは、不成功の提案は投資家が環境面をそれほど重視していないという合図になり、経営者が小さな改修までやめうると解釈し、働きかけは失敗すると害のある判断だと書いている9。
反証のための検証もある。ガバナンスに関する提案では周期外で0.84%ポイント下がっただけで押し上げは見られず、ガバナンスの提案を同時に入れても成功した働きかけの周期中の効果は14.32%ポイントとほぼ変わらなかった。働きかけを受けたREITが物件を売って入れ替えた形跡はなく、通常の改修が削られたわけでもない。増えた通常の工事は、空調の更新に伴う電気工事だけだった10。州の省エネ基準が厳しい地域の物件では、成功した働きかけの周期中の効果が19.50%ポイントと大きく、緩い地域では逆に9.43%ポイントのマイナスだった(周期の前後に限らない全標本の推計を地域で分けたもの)11。汚染の大きい米国の製造業の工場でも、成功した働きかけが周期中に重なったときだけ建物のサステナ改修が増えた12。表1に主な数値をまとめる。
表1 研究の設計と主な数値
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| 項目 | 数値 | 補足 |
|---|---|---|
| 対象 | 米国の上場REIT 214社・保有物件61,870件 | 1990年第1四半期〜2022年第4四半期 |
| 改修の記録 | 自治体の改修許可359,022件 | うちサステナ(空調・窓・屋根・太陽光など)77,941件 |
| 働きかけ | 株主提案229件 | うち環境・社会53件(成功54.72%) |
| 改修の周期 | 417回(約7.1年に1回) | 1回の改修は平均約253日 |
| 時期の偶然性 | 周期中の働きかけ12% | 周期が起きる確率10.6%とほぼ同じ |
| 周期を区別しない効果 | -1.22%ポイント | 統計的に有意でない |
| 成功×周期中 | +13.95%ポイント | 平均比+64%。周期外は−3.19%ポイント |
| 基準の厳しい州/緩い州 | +19.50/−9.43%ポイント | 成功×周期中。全標本の推計を州の省エネ基準で分割 |
| 製造業での再現 | +7.59%ポイント | 汚染の大きい工場(EPA TRI)、成功×周期中 |
因果と言えるのか:識別の考え方と限界
「投資家が更新の時期を読んで働きかけたから効いたように見えるだけではないか」という疑問は当然出る。著者らの答えは、投資家にはその時期が読めなかった、というものだ。周期中に出された働きかけは全体の12%で、周期がたまたま起きる確率の10.6%とほとんど変わらない。景気、金利、建設費、周辺の空室率、前回の改修からの年数といった公開情報をすべて入れても、周期の変動の3.3%しか説明できなかった13。加えて、SECの規則では株主提案を総会の165日以上前に出す必要があり、REITが資金調達と改修を公表してから工事に入るまでの短い期間には間に合わない。同じ趣旨の提案を毎年出し続けることも、前回の賛成率の条件で制限されている14。この制度上の制約によって働きかけの時期がほぼ偶然に決まる、というのが識別の要である。
ただ、限界も小さくない。第一に、環境・社会の提案は53件しかなく、著者ら自身も検出力が低いと書いている15。第二に、成功か不成功かは事後の結果であり、無作為に割り当てられたものではない。会社が要求を受け入れて提案を撤回させたという事実には、もともと工事の予定があったことが含まれうる。第三に、研究が観測したのは公開の株主提案だけで、非公開の対話は見ていない。著者らは、公開の提案に至るのは非公開の段階で合意できなかった案件なので効果はむしろ控えめに出ると主張するが、確かめられてはいない16。第四に、測ったのは改修の中身であって、賃料・物件価格・資本コストといった価値への効き方ではない。2025年の改訂版は資本コストの粗い分析を加えたが、成功した提案での低下は11bpで統計的に有意でなかった17。
他の研究との関係も見ておく。ニューヨーク市の年金基金による働きかけを調べたNaaraayananらの研究(2021年のワーキングペーパー)は、対象企業の工場が有害物質の排出を平均で約13%減らし、除去のための設備投資を増やす一方、収益性は下がったと報告している18。働きかけが実物の投資を動かしうるという点で本研究と整合するが、時期の条件は扱っていない。本研究の著者らは、時期を区別しない推計は効果を小さく見積もりうると述べている19。価値の側については、米国の環境認証を持つオフィスは同等の建物より賃料が約3%、売買価格が約16%高いという古典的な研究がある20。ただし対象は2000年代後半の米国である。
大手町プレップの考察:論点は「何 を言うか」より「い つ決まるか」
ここからは編集部の推論であり、研究が検証したことではない。
一つ目に、この研究の示唆は「投資家はもっと強く言え」ではなく、「設備の仕様が決まる時点に間に合うように言え」である。空調の更新の仕様は、発注先を選ぶ前、ときには資金計画の前に固まる。研究の米国REITでは、その時点を外の株主が知る手段がなかった。逆に言えば、更新の時期を事前に知る人は働きかけの効き目を自ら高められる。
二つ目に、日本の不動産ファンドでは、その情報の偏りの形が米国の上場REITとは違うと考えられる(仮説)。取得時のエンジニアリングレポート
三つ目に、不成立の働きかけが逆効果だったという結果は、公開の場で要求を突きつける手法の危うさを示している。賛成が集まらない提案は「投資家はそこまで求めていない」という合図にもなりうる。日本の機関投資家がスチュワードシップ・コードのもとで行う非公開の対話は、研究が観測しておらず、効くとも効かないとも言えない。ただ、合図の向きを誤らないという意味では、更新の時期を共有したうえでの対話のほうが筋がよいと編集部は考える。
日本の実務への応用:制度の違いを確かめたうえで
研究の識別は米国の制度に依存しているので、日本に持ち込む前に制度の違いを一次資料で確かめておく。株主提案は、会社法では、公開会社である取締役会設置会社の場合、原則として議決権の1%以上(または300個以上)を6か月前から持つ株主が、総会の8週間前までに請求できる21。投資法人(J-REIT)の投資主総会にもこの規定が準用され、発行済投資口の1%以上を6か月前から持つ投資主が提案できる。また規約で、出席も議決権の行使もしない投資主を議案に賛成したものとみなす「みなし賛成」を定められる22。提案の期限は米国の165日より短い(株主提案権の行使要件も参照)。
資金の事情は米国と似ている。導管性要件により、投資法人は配当可能利益の90%超を配当しなければ法人税の負担を軽くできず、資産の運用は資産運用会社に委託する23。内部に資金を厚く残せない構造は同じなので、大型の改修を増資や借入、物件の入れ替えと組み合わせる発想は日本でも成り立ちうる。ただ、日本のREITが実際にどの程度まとめて改修しているかは本稿では確かめておらず、各銘柄の決算資料にある資本的支出の計画で確認する必要がある。
規制の面では、建築物省エネ法の改正で、2025年4月以降に工事に着手する原則すべての新築建築物に省エネ基準への適合が義務づけられ、増改築では増改築する部分が対象になった24。東京都は、前年度のエネルギー使用量が原油換算で年1,500kL以上の大規模事業所に二酸化炭素の削減義務を課しており、2025〜2029年度が第四計画期間にあたる25。研究で省エネ基準の厳しい州ほど働きかけが効いていたことと重ね合わせると、規制の強い地域の大規模ビルほど、更新の時期に合わせた働きかけの見返りが大きい可能性がある(仮説)。
立場ごとに見ると、J-REITの資産運用会社は物件ごとの更新予定を投資家に示すこと自体が、働きかけを効く時期に集める手段になる。私募ファンドの出資者は、ERや更新計画を閲覧できる案件なら、次の更新の2〜3年前に仕様の比較を求められ、金融機関はグリーンローンなどを更新の時期に合わせて提案できる。どの立場でも、先に押さえるべきは「次の窓はいつか」である。
学習用の設例:空調を今替えるか、予定の更新まで待つか
働きかけの時期が価値に効く筋道を、架空のビルで数字にしてみる。ここで使うのは研究の数値ではなく、仮定に基づくNPVの比較である。
学習用の設例(架空):乙ビルの空調更新
- 既存の空調設備は5年後に更新を予定している。予定どおり標準仕様で更新すると工事費400百万円、高効率仕様なら480百万円(差額80百万円)
- 高効率仕様は電力・ガスなどの運営費を年14百万円減らす。新設備の耐用は15年で、以後も同じ仕様で更新を繰り返す
- 投資家の要請を受けて今すぐ高効率に替える(前倒し)場合は、他の工事とまとめられないため、テナントへの賃料減免や仮設などの追加負担が30百万円かかる。既存設備の売却価値はゼロ
- 割引率4.0%、評価期間30年(期末に残る設備の価値を直線で按分して計上)。税金・補助金・賃料への効果は入れない
選択肢は三つ。S は予定どおり標準仕様で更新、G は予定の時期に高効率仕様で更新(働きかけが間に合った場合)、E は今すぐ高効率仕様に替える(周期外の働きかけに応じた前倒し)である。結果を表2に示す。
表2 設例:空調更新の3つの選択肢の価値(百万円)
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| 選択肢 | 価値 | Sとの差 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| S 予定どおり・標準仕様 | -470 | — | 5年後に400百万円で更新 |
| G 予定どおり・高効率(同期) | -384 | +86 | 差額80百万円、単純回収5.7年 |
| E 今すぐ高効率(前倒し) | -534 | −64 | Gより150百万円低い |
| E−G の内訳:設備費が早まる損 | −182 | 初回だけなら−85。以後の更新も前倒しになる | |
| E−G の内訳:削減の先取り | +62 | 5年分の削減を早く得る | |
| E−G の内訳:単独工事の追加負担 | −30 | 賃料減免・仮設など(仮定) |
同期した G は S より86百万円価値が高い。差額80百万円を年14百万円の削減で回収するのに5.7年かかる計算で、設備の耐用の範囲で十分に回収できる(回収期間法の見方)。一方、同じ高効率仕様でも前倒しした E は S より価値が低い。G との差は150百万円で、その大半は設備費の支払いが早まる損である。前倒しは初回の工事だけでなく、その後の更新もすべて5年ずつ早めるからだ。先に削減を得られる分(62百万円)では埋まらない。
図2は、予定更新までの年数と年間削減額を変えたときの E と G の差である。予定更新までの年数が長いほど前倒しの損は広がり、削減額が大きいほど縮む。基本ケースで前倒しが同期と並ぶには、年間削減がおよそ48百万円、つまり想定の3倍以上必要になる。働きかけの側が更新の時期に合わせるべき理由はここにある。
明日から使える確認項目
- 保有物件ごとに、空調・受変電・外壁・屋上防水・昇降機の次回更新予定年を、ERの中長期修繕・更新費用と長期修繕計画から一覧にする。物件×年の表にして、更新が集中する年(窓)に印を付ける。
- 窓の2〜3年前を「仕様を決める時期」と置き、標準仕様と省エネ仕様の工事費の差額、年間の削減額、単純回収年数、NPVを並べた比較表を用意する。回収年数が設備の耐用を大きく下回るかどうかを最初の判断基準にする。
- 投資家や出資者との対話では、次の質問を使う。「今後5年で大型の設備更新を予定している物件は何棟で、いつか」「その更新の仕様はいつ、どの基準で決めるか」「標準仕様との差額はいくらと見積もっているか」。
- 窓の外で省エネ改修を求められたときは、前倒しの損(設例の E と G の差)を計算して示し、「次の更新時に省エネ仕様を採る」という時期を区切った約束に置き換えられないかを検討する。
- 公開の場での提案や要求は、賛成が集まらなかったときに逆の合図になりうることを踏まえ、可決・受け入れの見通しが立つかを事前に確かめる。
- 取得検討では、取得後5年以内に大型の更新が来るかをERで確かめ、来る場合は省エネ仕様への切り替え費用と削減額を事業計画のNOIと資本的支出に分けて入れる。
よくある質問
研究の「約 21.5%の上昇」は、改修すれば省エネが21.5%進むという意味ですか。
違います。周期中の働きかけで、改修許可のうちサステナビリティ関連が占める比率が4.67%ポイント上がり、それが平均の比率に対して約21.5%にあたる、という意味です。エネルギー使用量の削減率でも、物件価値の上昇率でもありません。
日本のJ-REITにもこの数値は当てはまりますか。
そのまま当てはめることはできません。研究は米国の上場REITと米国の株主提案制度を前提にしており、提案の期限、総会の運び方、物件ごとの情報の見えやすさが日本とは異なります。使えるのは
まとめ
米国の上場REITの改修許可を使ったこの研究は、サステナビリティの働きかけが改修許可に占めるサステナ改修の比率を高めたのは、設備の更新の周期と重なり、かつ提案が可決されたか会社の事前の受入れで撤回された場合に限られ、時期の合わない働きかけや不成立の働きかけはむしろその比率を下げていたことを示した。働きかけの時期が制度上ほぼ偶然に決まることを使った分析だが、提案の件数は少なく、価値への効き方は測っていない。ERや更新計画を閲覧できる案件では関係者が更新の時期を事前に把握できる可能性があり(編集部の推論)、研究の数値をそのまま使うより、更新の窓を一覧にし、その手前で仕様を決める段取りに生かすのが実務的だと考える。前倒しの損を数字で示せれば、対話も「いつ、何を」に絞り込める。
脚注
- R1。NBER の論文ページ(www.nber.org/papers/w32646)の Issue Date「July 2024」と PDF 表紙の日付による(2026年10月24日確認)。2025年8月11日付の改訂版(改題、GRASFI 2025 年次大会の掲載論文)でも、本稿で使う Table 4 の係数・限界効果は同じ値である。周期中の効果の平均比は、NBER版本文(p.22)が22.62%と記すが、表の限界効果4.67%ポイントを標本平均21.71%で割ると21.51%で一致しない。改訂版の要旨(2025年版 p.1)の「21.5%」は表からの再計算に整合するため、本稿は再計算値(約21.5%)を使う。2024年7月より前の版は見つからなかった。著者の所属は MIT・マーストリヒト大学等で、内容は大学・NBER の公式見解ではない。ページは NBER 版 PDF の物理ページ(印刷ページ番号+2。以下同じ)。↩
- R1 p.19〜20(4.1節)・Figure 5。改修の周期はREITごとの四半期の許可件数のジャンプ検出で事後に特定(1標準偏差の基準、別の48通りの定義でも類似、Appendix C)。Prologis は約5年、Boston Properties は約6.31年に1回などREITにより異なる。↩
- R1 p.11〜12(2節)・p.16 脚注27。90%以上の配当要件と外部調達の固定費が、改修を周期にまとめる理由として説明されている(著者の説明)。↩
- R1 p.11(2節。米エネルギー省の指摘を引用)・p.26(5.2節。工事中の使用停止と中古部材の市場がないこと)。いずれも著者の説明で、費用の大きさを推計したものではない。↩
- R1 p.14〜15(3.2節)・Table 2(p.46)・Table 3(p.47)。サステナ改修1件あたり排出原単位が0.193kg/平方フィート低下(平均8.695の2.22%)。照合はニューヨーク・ボストン・ケンブリッジ(マサチューセッツ州)の大型ビルの排出報告、観測3,996。↩
- R1 p.16〜17(3.3節)。株主提案はISSのS&P1500の提案データ。「成功」は総会での可決または会社の事前の受入れによる撤回(p.17・p.23)。環境・社会の提案の54.72%が成功、45.28%がSECの判断による除外または否決(不成功)。↩
- R1 p.22(5.1節)・Table 4 列(1)(p.48)。↩
- R1 p.22〜23(5.1節)・Table 4 列(2)〜(4)(p.48)。限界効果は「働きかけなし・周期外」に対する差で、周期・働きかけ・交差項の係数の和(全体4.67、成功13.95、不成功−6.80%ポイント)。周期外は働きかけの係数(全体−4.99、成功−3.19、不成功−5.63%ポイント、いずれも1%水準で有意)。平均比はサステナ改修の比率の標本平均21.71%(Table 2、p.46)に対する割合で、全体は編集部の再計算(4.67÷21.71=21.51%。脚注1)、成功は本文 p.23 の64.26%(再計算と一致)。約35.7%は標本平均に成功×周期中の効果を足した編集部の機械的な換算で、研究の推定値ではない。↩
- R1 p.7(1節)・p.23(5.1節)。著者の解釈。↩
- R1 p.30〜31(6.1節・Table 6)、p.31〜32(6.2節・Table 7)、p.33〜34(6.3節・Table 8)。↩
- R1 p.70〜71(Appendix D)。米エネルギー省の州別の商業建築の省エネ基準の厳しさで中央値の上下に分けた推計。周期の前後に限らない全標本での成功×周期中の効果は13.33%ポイント。↩
- R1 p.35〜36(7.2節)・Table 9。米環境保護庁(EPA)の有害化学物質排出目録(TRI)の692社・2,295工場。成功×周期中で7.59%ポイント(平均比149.12%)、不成功は−1.09%ポイント。↩
- R1 p.24(5.2節。12.00%と10.60%)、p.25(Table 5。公開情報による説明力3.3%)。働きかけの成功の確率も周期との位置関係とは無関係と記載(p.25 脚注34)。↩
- R1 p.5・p.28(SEC規則14a-8の提出期限)、p.6・p.29(再提出には前回5%・10%・25%の賛成が必要)。前回の周期の開始から10四半期は環境・社会の提案が出ていない(p.27、Figure 6)ことから、著者は投資家が事後には周期を見ていると解釈している。↩
- R1 p.21 脚注32。↩
- R1 p.16 脚注24。↩
- R1 改訂版(2025年8月11日付)p.6 脚注10。著者は「初歩的で完全にはほど遠い」分析と断っており、仕組みの特定は今後の課題としている。↩
- R2(2021年2月のワーキングペーパー版)p.3〜4。ニューヨーク市年金基金の Boardroom Accountability Project の対象企業を、傾向スコアで選んだ同業の企業と比べた差の差の分析。Review of Financial Studies 掲載版(2026年)は要旨で、排出削減と財務業績への負の影響を確認した(本文は未確認)。↩
- R1 p.8(1節)・p.8 脚注15。↩
- R3(UC Energy Institute CSEM WP 192, 2009年8月、AER 掲載論文の長い版)p.3(要旨)。実効賃料のプレミアムは6%超。対象は米国の Energy Star・LEED 認証オフィスと周辺の比較対象、約1万棟。↩
- R4 会社法303条2項・3項、305条1項・2項(e-Gov 法令検索、2026年10月24日確認)。取締役会設置会社の要件で、公開会社でない会社には6か月の保有期間の要件がない。期間・割合は定款で引き下げられる。↩
- R4 投資信託及び投資法人に関する法律93条(みなし賛成)・94条(会社法303条2項・305条1項等の準用。割合・期間は規約で引き下げ可)(e-Gov 法令検索、2026年8月12日施行の版、2026年10月24日確認)。↩
- R4 租税特別措置法67条の15第1項(投資法人に係る課税の特例。配当等の額が配当可能利益の額の90%に相当する金額を超えること、資産の運用を資産運用会社に委託していること等)(e-Gov 法令検索、2026年10月24日確認)。↩
- R5 国土交通省住宅局「2025年4月から全ての新築で省エネ基準適合を義務化」(設計者・工務店向けの案内、2024年4月版)、および同省「【建築物省エネ法第10条】省エネ基準適合義務の対象拡大について」(増改築は増改築部分のみが対象)(2026年10月24日確認)。↩
- R6 東京都環境局「大規模事業所における対策」(対象は前年度の燃料・熱・電気の使用量が原油換算で年間1,500kL以上の事業所)、同「第4計画期間の削減義務率等について」(第四計画期間 2025〜2029年度)(2026年10月24日確認)。削減義務率は本稿では扱わない。↩
参考文献(2 026年10月確認)
- R1 van der Kroft, B., J. Palacios, R. Rigobon and S. Zheng (2024), “Timing Sustainable Engagement in Real Asset Investments,” NBER Working Paper No. 32646. DOI: 10.3386/w32646. 参照した版:NBER WP 版(2024年7月)。改訂版:”Timing Sustainable Shareholder Proposals in Real Asset Investments”(2025年8月11日付、GRASFI 2025 年次大会掲載)で主要な数値と追加分析を照合。査読:未査読(WP)。 nber.org (参照箇所:NBER 版 PDF p.1〜82(本文・Table 2〜9・Appendix D)、改訂版 p.1・p.6・p.40。脚注1〜17・19の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R2 Naaraayanan, S. L., K. Sachdeva and V. Sharma (2021), “The Real Effects of Environmental Activist Investing,” Working Paper(2021年2月). 掲載誌:Review of Financial Studies(2026年), DOI: 10.1093/rfs/hhag073. 参照した版:2021年2月の WP 版(NHH の公開 PDF)、掲載版は要旨のみ。査読:掲載誌は査読済み。 doi.org (参照箇所:WP 版 p.1〜5。脚注18の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R3 Eichholtz, P., N. Kok and J. M. Quigley (2010), “Doing Well by Doing Good? Green Office Buildings,” American Economic Review 100(5), pp.2492-2509. DOI: 10.1257/aer.100.5.2492. 参照した版:UC Energy Institute CSEM WP 192(2009年8月、長い版)。査読:済。 doi.org (参照箇所:WP 版 p.3(要旨)。脚注20の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R4 e-Gov 法令検索「会社法」(平成17年法律第86号)303条・305条、「投資信託及び投資法人に関する法律」(昭和26年法律第198号)93条・94条、「租税特別措置法」(昭和32年法律第26号)67条の15。 laws.e-gov.go.jp (参照箇所:2026年10月24日確認。脚注21〜23の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R5 国土交通省住宅局「2025年4月から全ての新築で省エネ基準適合を義務化」(2024年4月版)、同「【建築物省エネ法第10条】省エネ基準適合義務の対象拡大について」。 mlit.go.jp (参照箇所:2026年10月24日確認。案内の PDF は https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001841001.pdf。脚注24の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R6 東京都環境局「大規模事業所における対策」「『総量削減義務と排出量取引制度』に関する第4計画期間の削減義務率等について」。 kankyo.metro.tokyo.lg.jp (参照箇所:2026年10月24日確認。脚注25の根拠。閲覧日:2026年10月)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。