この記事で分かること
- レントロールの定義と、記載されるべき項目の全体像
- 実際のレントロールから稼働率・平均賃料単価・WALTを計算する整数設例
- デューデリジェンスでレントロールのどこを疑うか
- 日本の賃貸借慣行(敷金・共益費・定期借家)がレントロールに現れる形
30秒で分かる定義
レントロール(Rent Roll、読み方:れんとろーる)とは、対象不動産のテナントごとに、契約面積・賃料・共益費・契約期間・敷金などの賃貸借条件を一覧化した資料のことです。日本語では「賃貸借条件一覧表」「テナント一覧表」と呼ばれます。不動産の収益はテナントとの契約の集合体にほかならないため、レントロールは物件の収益力を最も直接的に表す一次資料です。NOIの算定、デューデリジェンス、融資審査、鑑定評価、そして売買価格の交渉まで、あらゆる場面で出発点となります。実務では「まずレントロールを見せてください」という言葉から案件の検討が始まります。
なぜ実務で重要なのか
不動産ファンドの取得担当にとって、レントロールは投資判断の基礎データです。売主が提示するNOIの数字を信じるのではなく、レントロールから自ら積み上げて検証します。金融機関は、テナントの分散状況と契約期限の集中度から返済原資の安定性を評価します。不動産鑑定士は、現行賃料と市場賃料の関係を把握したうえで想定収益を査定します。アセットマネージャーは、保有期間中の契約更新・賃料改定・退去のスケジュールを管理する台帳として使います。財務デューデリジェンスの考え方は財務DD
仕組み(記 載項目と読む順序)
| 区分 | 記載項目 | 何が分かるか |
|---|---|---|
| テナント情報 | 名称・業種・入居フロア・契約面積 | 分散度、業種偏り、集中リスク |
| 賃料条件 | 月額賃料・共益費・坪単価・水道光熱費の負担区分 | 収益力、市場賃料との乖離 |
| 契約期間 | 契約開始日・終了日・更新条件・契約種別 | WALT、ロールオーバーの集中 |
| 一時金 | 敷金・保証金の預託額・償却条件 | 返還義務の規模、運用益 |
| 特約 | フリーレント・中途解約権・違約金・賃料改定条項 | 実効賃料、退去リスク |
| 附帯 | 駐車場・看板・倉庫等の契約 | 付帯収入の規模 |
平均賃料単価 = 月額賃料合計 ÷ 契約面積合計
WALT(加重平均残存賃貸借期間)= Σ(各契約の残存期間 × 当該契約の賃料)÷ 賃料合計
整数設例で確認する
設例(架空数値)。賃貸可能面積3,000坪のオフィスビルのレントロールを想定します。
| テナント | 契約面積 | 坪単価 | 月額賃料 | 残存期間 |
|---|---|---|---|---|
| A社 | 1,000坪 | 20,000円 | 20.0百万円 | 4年 |
| B社 | 800坪 | 21,000円 | 16.8百万円 | 2年 |
| C社 | 600坪 | 19,000円 | 11.4百万円 | 1年 |
| D社 | 400坪 | 23,000円 | 9.2百万円 | 3年 |
| 合計 | 2,800坪 | 20,500円 | 57.4百万円 | 2.66年 |
稼働率=2,800坪÷3,000坪=約93.3%。空室は200坪です。
平均賃料単価=57,400,000円÷2,800坪=20,500円/坪。これは面積加重平均であり、4社の坪単価の単純平均(20,000+21,000+19,000+23,000)÷4=20,750円とは異なります。単純平均を使うのは誤りで、面積の大きいテナントの単価が全体を規定する構造を見落とします。
年間賃料収入=57.4×12=688.8百万円。
WALT=(20.0×4+16.8×2+11.4×1+9.2×3)÷57.4 =(80.0+33.6+11.4+27.6)÷57.4 =152.6÷57.4=約2.66年。
検算:1,000×20,000=20,000,000円。800×21,000=16,800,000円。600×19,000=11,400,000円。400×23,000=9,200,000円。合計57,400,000円。57,400,000÷2,800=20,500円。加重和152.6÷57.4=2.658年。
ここから読み取れるリスクを3つ挙げます。第一にテナント集中で、A社が賃料の20.0÷57.4=34.8%を占めています。A社が退去すれば収入の3分の1が消える構造です。第二に近い期限で、C社の契約が1年後に満了します。C社の坪単価19,000円は平均を下回っており、更新時に増額できる可能性がある一方、退去されれば600坪の空室が生じます。第三にWALT 2.66年という短さで、3年以内にほぼすべての契約が更新期を迎えることを意味します。
敷金の規模も確認します。賃料の10か月分を預かっているとすると、預託総額=57.4×10=574百万円です。これは物件のバランスシート上の負債であり、取得時には売主から承継する形で価格調整の対象となります。
投資判断への影響
レントロールから投資判断に直結する論点は、現行賃料と市場賃料の乖離(レントギャップ)です。上記設例で市場賃料が坪22,000円だとすると、平均20,500円の現行賃料は市場を7.3%下回っています((22,000−20,500)÷20,500=7.3%)。契約更新のたびに市場水準へ近づけられれば内部成長の余地があり、これがバリューアップの原資になります。逆に現行賃料が市場を上回っている(オーバーレント)状態であれば、更新時に賃料が下がるリスクを織り込む必要があります。
次にロールオーバーの分散です。契約満了が特定の年度に集中していると、その年に大量の空室が発生します。実務では契約期限を年度別に集計した表(リースエクスパイアリー・スケジュール)を作り、山ができていないかを確認します。さらにテナントの与信も重要で、賃料の額面が高くても支払能力に不安があれば収入は不確実です。過去の賃料延滞の履歴があれば、それはレントロールの数字より雄弁な情報です。リーシングの成果も、埋めた面積だけでなくどのテナントをどの条件で入れたかが問われます。
財務モデル・Excelでの使い方
- テナント1行×月次列のグリッドを作る:各テナントの契約期間に応じて賃料が立ち上がり、満了で止まる構造を
=IF(AND(月>=開始月, 月<=終了月), 月額賃料, 0)で組みます。これが不動産モデルの心臓部です。 - 更新シナリオをスイッチで切り替える:満了時に「継続(同条件)」「継続(賃料改定)」「退去」の3パターンを選べるようにし、退去の場合はダウンタイムとリーシングコストを自動計上します。
- WALTを毎期計算する:残存期間と賃料の積和を賃料合計で割る式を毎期置きます。時間の経過で自動的に短くなるため、更新の織り込みが正しいかの検算にもなります。
- テナント集中度を表示する:上位1社・上位3社の賃料シェアを常時表示させます。融資審査でも投資委員会でも聞かれる数字です。
- リースエクスパイアリー表を作る:
SUMIFSで契約満了年度別に賃料と面積を集計し、棒グラフで可視化します。 - NOIへの接続を明示する:賃料収入の合計から運営費用を控除してNOIに至る計算を、同じシート上で追えるようにします。
この用語をExcelで
テナント単位の月次レントロールモデルを組み、更新・退去シナリオとリーシングコストを織り込んだNOI・WALT・集中度を自動計算できるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「レントロールの月額賃料×12が年間収入」→ フリーレントと期中の異動を無視しています。フリーレント期間中の区画、期中に入居・退去した区画、賃料改定が予定されている区画があれば、単純な12倍は実態と乖離します。必ず月次で積み上げます。
誤解2:「レントロールは正確な資料」→ 売主が作成した資料であり、検証が必要です。実務では、レントロールの記載と実際の賃貸借契約書の原本を1件ずつ突き合わせる作業(契約書照合)を行います。加えて、直近12か月の入金実績と照合し、記載どおりの賃料が実際に入金されているかを確認します。延滞や減額合意が反映されていないケースは珍しくありません。
確認ポイントは、①契約書原本との照合、②入金実績との突合、③中途解約権の有無(テナント側にいつでも6か月前通知で解約できる権利があれば、契約期間の長さは意味を持ちません)、④共益費の実費精算方式か定額方式か、⑤敷金の償却条項、の5点です。
日本実務での扱い
日本の賃貸借慣行には、レントロールに独特の形で現れる特徴があります(2026年7月時点)。第一に敷金・保証金で、商業用不動産では賃料の6〜12か月分を預かることが多く、金額が大きいためNCFの計算では運用益を加算します。返還義務があるため、物件取得時には承継の方法(売主から買主へ現金で引き継ぐか、価格から差し引くか)が価格調整の実務論点になります。
第二に契約種別です。借地借家法上の普通借家契約では、賃貸人からの更新拒絶に正当事由が必要とされるため、契約期間が満了してもテナントの退去を求めることは容易ではありません。一方、定期借家契約であれば期間満了により確定的に終了します。レントロールの契約種別欄は、将来の賃料改定や再開発の自由度を左右する重要情報です。
第三に賃料増減額請求です。借地借家法により、経済事情の変動等で賃料が不相当となった場合は当事者が増減額を請求できます。現行賃料が市場を大きく上回る物件ではテナントから減額請求を受ける可能性があり、レントギャップの方向でリスクの向きが変わります。
第四に共益費と実費の関係です。日本では賃料と共益費を分けて表示するのが一般的で、共益費が実際の管理コストを下回っていると実質的な収益が目減りします。J-REITでは有価証券報告書等でテナント数や上位テナントの状況が開示されるため、投資家はこれらから間接的にレントロールの構造を読み取ります。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:レントロールを渡されたら、まず何を計算し、何を疑いますか。
「計算するのは4つです。稼働率(契約面積÷賃貸可能面積)、面積加重の平均賃料単価、WALT、そして上位テナントの賃料シェアです。特に平均賃料単価は必ず面積加重で計算します。単純平均だと、面積の大きいテナントの条件が全体を規定するという構造を見落とすためです。疑うのは3点で、第一に記載と契約書原本の一致、第二に記載賃料と実際の入金実績の一致、第三にフリーレントや中途解約権といった特約が漏れていないかです。売主が作った資料である以上、有利な情報が強調され不利な情報が省かれている前提で検証します。そのうえで、現行賃料と市場賃料の乖離を測り、更新時に増額できるのか減額リスクがあるのかを判断します。」
深掘りでは「WALTが短いことは悪いことか」が問われます。賃料が市場を下回っている物件では、短いWALTはむしろ早期に増額できる機会を意味するため、レントギャップの方向とセットで評価するという答えができると差がつきます。
よくある質問(F AQ)
Q. 賃貸可能面積と契約面積が一致しないのはなぜですか?
A. 空室があれば当然一致しませんが、それ以外にも、契約面積が壁芯基準か内法基準かの違い、共用部の按分方法、実測との誤差といった要因があります。取得時には、面積の定義を統一したうえで賃料単価を計算し直すことが必要です。定義が異なる資料をそのまま比較すると、坪単価が数%ずれます。
Q. レントロールに載らない収入はありますか?
A. あります。駐車場、看板・アンテナの設置料、自動販売機の設置料、共用部の一時貸し、電気の一括受電による差益などが典型です。これらは付帯収入としてNOIに含まれますが、レントロールの本表には記載されないことがあるため、収支実績表と併せて確認します。逆に、こうした収入の持続性(契約に基づくものか、慣行によるものか)も検証が必要です。
出典・参考(2 026-07-21確認)
- 借地借家法(普通借家・定期建物賃貸借・借賃増減請求権)e-Gov法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/
- 国土交通省「不動産鑑定評価基準」(証券化対象不動産の評価に係る取扱い) https://www.mlit.go.jp/
- 一般社団法人不動産証券化協会(ARES)(不動産投資の実務資料・デューデリジェンス関連) https://www.ares.or.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。