想定読者:銀行・ノンバンクの与信担当(中国関連の取引先・案件を持つ)、不動産投資・不動産ファンドの調査担当、証券会社・運用会社のマクロ/クレジット調査担当、中国売上を持つ事業会社の経営企画
前提知識:実質GDP成長率、%と%ポイントの違い、回帰分析の係数と有意水準の大まかな意味

中国の不動産市況を社内で説明すると、「1990年代の日本と同じ道をたどるのか」という問いがほぼ必ず出る。答え方しだいで、与信の引当や中国売上の計画の前提が変わる。ところが日本との比較は、しばしば印象の重ね合わせで終わり、何がどの程度似ているのかは示されない。

この問いに地域データで答えようとしたのが、Kenneth Rogoff(ハーバード大学)と Yuanchen Yang(国際通貨基金〈IMF〉のエコノミスト)の論文である。米ブルッキングス研究所の経済論文誌 BPEA の2026年春の会議に提出された草稿で、2026年3月に公開され、4月に全米経済研究所(NBER)のワーキングペーパーにもなった。見解は著者のもので、IMFの見解ではないと明記されている1。

この記事が主に参照する研究

Rogoff, K. and Y. Yang(2026)「A Tale of Two Countries – The Real Estate Crises in 1990s Japan and Contemporary China」Brookings Papers on Economic Activity(Spring 2026 会議草稿)/NBER Working Paper No. 35054

  • 公表:初版 2026年3月(BPEA会議草稿。版の日付は3月12日、Brookingsの掲載は3月25日)。NBER WPは2026年4月。参照した版:BPEA会議草稿(Preliminary)。査読:最終版の前の会議草稿・WPの段階(NBERの掲載ページは最終版をBPEA 2026年春号に掲載予定と記載。最終版は未確認)
  • データ:中国の地級市298(2000〜2024年)、日本の47都道府県(内閣府の県民経済計算 1955〜2022年。価格は1975〜2004年の住宅地価格)。センチメントは日本が業界調査の指数、中国が生成AIでニュースを採点した指数
  • 方法:地域ごとの違いを使う操作変数法(シフトシェア型・感応度型)。全国の動きが各地域にどれだけ及ぶかの差から、不動産投資や住宅価格の影響を取り出す
  • 位置づけ:投資ハングオーバー(過剰投資の後遺症)や住宅資産効果など既存の考え方を、新しく整備した日中の地域データで比べた実証研究

比べる​ための​道具:金融の​経路と​実体の​経路、​弾性値

不動産バブルの崩壊が長い停滞につながる理由として、従来よく挙げられてきたのは金融の経路である。銀行が不良債権を抱え、損失の確定を避けて業績の悪い企業への貸出を続け(いわゆるゾンビ企業の延命)、担保価値の下落とともに新しい投資への資金が細る。日本の1990年代の研究の多くはこの経路を重視してきた。著者らは、これとは別に、投資・消費・センチメントという実体の経路だけでも、成長の長い低迷が起こりうると主張する。日本で金融の経路が急激に強まったのは1997〜98年だと著者は位置づけている2。

投資の経路の中心にあるのが投資ハングオーバーである。住宅は長く使える資本なので、好況期に建てすぎた分は崩壊後もすぐには減らない。売れ残りや空き家が新しい建設を抑え、建設・建材・家具など関連産業の需要も落ちる3。

消費の経路は住宅資産効果で測る。論文が推計するのは「住宅価格が1%下がると消費が何%下がるか」という弾性値である。弾性値は、消費額÷住宅資産額を掛けると、住宅資産が1単位減ったときに消費が何単位減るか(限界消費性向)に換算できる。住宅資産が消費に比べて大きい経済では、同じ限界消費性向でも弾性値は大きく出る、という関係である4。

推計には操作変数を使う。たとえば投資の経路では、全国の不動産投資の伸びに、各地域の前年の不動産投資比率(不動産投資÷GDP)を掛けたものを手がかりにする。地域ごとの「さらされ方」の違いから投資の影響を取り出す考え方だ。手がかりの強さを示す第1段階のF値はいずれも10を超えると報告されている5。

研究が​示した​結果:投資の​効きは​崩壊後に​反転し、​消費の​反応は​中国が​大きい

まず投資である。中国では、累積の不動産投資が多い都市ほど、同じ条件の都市より成長が遅かった(交差項−0.059、1%水準)。不動産投資比率と成長の関係(基準期間の係数+0.381)は、リーマン危機前と比べて2009〜14年に有意に弱まり(交差項−0.143、5%水準)、2019〜24年にはさらに大きく弱まった(−0.442、1%水準)。交差項が検定するのは基準期間との差で、効果の合計の符号ではない。著者らは2019〜24年に差し引きの効果が負になったと解釈するが、係数の和(−0.061、編集部の計算)の有意性は表から確かめられない。著者らの換算では、投資比率が1標準偏差高い都市の年間の実質​GDP​成長率は、危機前と比べて2009〜14年に0.8%ポイント、2019〜24年に2.3%ポイント低い(原文は percent 表記。換算に使った標準偏差は本文に示されていない)6。

日本でも累積投資が多い県ほど成長が遅かった(−0.146、5%水準)。図1は、期間ごとの交差項を、基準期間との差の符号と有意性で並べ直したものである。1985〜87年には投資と成長の関係が基準期間より強かったが(+0.641)、崩壊後の1991〜92年(−1.271)、1993〜94年(−1.372)、1997〜98年(−1.550)、1999〜2001年には有意に弱まった。2002年以降は有意な差が見られない。著者らはこれを、不動産投資が成長の足かせになったと解釈している7。

図1 不動産投資と成長の関係の基準期間からの変化(日本・中国)図1 投資と成長の関係は基準期間からどう変わったか期間交差項=基準期間との差の符号と有意性有意に弱い有意でない有意に強い日本(47都道府県のうち東京・大阪を除く)1985-87基準より強い+0.641(10%)1988-90有意でない1991-92基準より弱い−1.271(1%)1993-94基準より弱い−1.372(5%)1995-96有意でない1997-98基準より弱い−1.550(1%)1999-01基準より弱い−1.120(10%)2002-04有意でない2005-07有意でない2008-10有意でない中国(地級市298、参考)2009-14基準より弱い−0.143(5%)2015-18有意でない2019-24基準より弱い−0.442(1%)被説明変数は地域の実質GDP成長率。操作変数で推計した不動産投資比率と期間ダミーの交差項。負は「投資比率と成長の関係が基準期間より弱い」ことを示し、投資の効果の合計が負であることの検定ではない。基準は期間ダミーのない年(中国は2009年より前)。数値は係数、( )は有意水準。有意でない期間は係数を省略
出所:R1(BPEA会議草稿, 2026年3月)​p.22 表3・​p.23 表4の​係数と​有意水準を​基に​大手町​プレップ​作成。​地域データに​よる​誘導型の​推計で、​一般均衡の​効果は​含まない​(p.20 脚注13)。​中国の​2009-14年の​結果は、​初期シェアと​相関する​変数を​統制すると​有意でなくなる​(付表4 p.47)。

図1で読むべきは、関係が弱まった期間が崩壊直後の2〜3年で終わらず、約10年にわたって断続的に続いた点である。10年の移動窓で推計した係数でも、日本は1990年代初めに負へ転じたと著者らは述べ、好況期の資源配分の誤りが吸収されるまでに時間がかかり、それが回復を遅らせたと解釈している。中国では、2010〜18年の不動産投資の伸びが1%高い都市ほど、2019年以降の住宅価格の下落が0.52%大きいという関係も示された(相関の分析)8。

次に消費である。中国の消費の住宅価格弾性値は、主に使う感応度型の操作変数で0.151、地形による土地供給の制約を使う別の操作変数で0.230と推計された(いずれも1%水準)。著者らは、全国平均で20〜40%の価格下落なら、消費の減少はGDPの2〜4%に当たるとしている9。日本の弾性値は0.063(5%水準)で、中国の主推計値0.151は日本の約2.4倍に当たる(国の異なる点推定値の比で、差の検定ではない)。著者らは日本の値を米国と同程度とみる10。差の大きな理由は、前節の換算式のとおり家計資産に占める住宅の重さで、中国では家計資産の約70%が住宅である。

センチメントについては、消費の反応を強めるという示唆的な結果が出ている。中国では、住宅価格の変化と悲観的なセンチメントの交差項が0.176(1%水準)で、著者らはセンチメントを考慮すると資産効果が2倍を超えると説明する。ただし倍率は、悲観指標の水準と、比べる基準の係数のとり方で変わる。日本でも交差項は0.124と正だったが、有意水準は10%にとどまる。家計の消費者信頼感で測り直すと0.095(10%水準)だった。著者ら自身、センチメントの経路の計測は「第一歩」だと述べている11。

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表1 1990年代の日本と現在の中国:研究が示した共通点と相違点
項目1990年代の日本現在の中国
分析の単位・期間47都道府県、1955〜2022年(価格は1975〜2004年の住宅地価格)地級市298、2000〜2024年
累積投資と成長(交差項)−0.146(5%水準)−0.059(1%水準)
投資と成長の関係が基準期間より有意に弱まった期間(交差項)1991-92年から1999-01年(1995-96年は有意でない)2009-14年と2019-24年(2019-24年が大きい)
消費の住宅価格弾性値0.063(5%水準)0.151〜0.230(1%水準)
悲観による上乗せ(交差項)0.124(10%水準)0.176(1%水準)
価格の下落幅(著者の記述)最終的にピークから約60%公式統計で約20%(仲介業者のデータではより深い)
借入が集中した部門企業部門地方政府融資平台(LGFV)などの公的部門
土地と家計資産土地は私有。家計資産は株式と住宅に比較的分散土地は国有。家計資産の約70%が住宅
出所:R1(BPEA会議草稿, 2026年3月)​p.3・​p.10・​p.12〜13・​p.20〜23・​p.29〜32 の​数値と​記述を​基に​大手町​プレップ​作成。​交差項と​弾性値は​操作変数に​よる​推計​(中国の弾性値の幅は操作変数の違い)。​期間交差項は​基準期間との​差で、​投資の​効果の​合計の​符号・​有意性ではない。​日本の​価格は​住宅地価格で、​住宅価格​その​ものではない。

表1から分かるように、日中の共通点は「好況期の投資の積み上がりが、崩壊後の成長を長く押し下げる」という形にある。違いは消費の反応の強さと、借り手の部門・土地の所有にある。価格の下落幅について、著者らは日本の住宅価格が最終的にピークから約60%下がったのに対し、中国の公式統計の下落は約20%だと書く。日本と同じ道をたどるなら中国は調整の半分にも達していない。米国の住宅バブル崩壊並みなら約3分の2を終えた、という見立てである12。単純に割ると、日本型での進捗は約33%、米国型の着地は下落率約30%に当たる(編集部の逆算)。

対象・方法・​限界:地域の​平均であり、​草稿の​段階である

第1に、結果は都道府県・都市という地域単位の関係で、個別の物件や企業に当てはまるものではない。推計は誘導型で、地域間の波及を含む経済全体の効果は扱っていないと著者は断っている13。

第2に、日本の価格データの制約がある。日本の住宅価格の代わりに使われたのは1坪当たりの住宅地価格で、年次のデータは1975〜2004年に限られる14。結果が使用した地価系列に依存する可能性は残る(編集部の留意点。論文は別系列での推計を示していない)。日本のセンチメント指数は業界の状況や資金繰りも映すため価格と同時に決まっている可能性があること、地価の下落が株価を通じて家計に及んだ間接の効果は十分には捉えられていない可能性があることも、著者自身が挙げる15。

第3に、草稿には数値の不整合が残る。中国の消費減少の標準誤差は、本文の前半で0.7%、後半で0.8%と書かれている。住宅資産1元当たりの消費は1.6〜2.5セントとされるが、同じ論文が示す住宅資産÷消費の約12.5倍で弾性値を換算すると約1.2〜1.8セントになり、一致しない(編集部の検算)16。頑健性の確認では、中国の2009〜14年の負の結果は、初期の投資比率と相関する変数を統制すると−0.030で有意でなくなる。2019〜24年の結果(−0.345、1%水準)は残る17。最終版で数値が変わる可能性を前提に読むべきだろう。

会議で討論者を務めた Amir Kermani(カリフォルニア大学バークレー校)は、データ整備と実体の経路の強調を評価しつつ、都市によって「好況→崩壊→再びの好況」と「好況→崩壊」が混在し、一つの物語では括れないと指摘した。地域間の格差と地方政府の財政が一次的な問題であり、消費をどう喚起できるかが主な問いだという論評である18。中国の資産効果の大きさについては、国際決済銀行(BIS)の研究者らが決済アプリの取引データで、1・2級都市33都市で住宅価格10%の上昇が消費を1.6%押し上げると推計しており、主論文の弾性値と近い19。

大手町​プレップの​考察:日本の​着工統計に​照らすと​何が​見えるか

ここからは編集部の見方である。論文は住宅着工戸数を分析していないが、国土交通省の統計で日本の新規供給の動きを、図1の期間と補助的に並べて見る(図2)。着工戸数は論文の地域別・金額ベースの投資とは別の指標で、図1の結果を検証するものではない。

図2 日本の新設住宅着工戸数 1970〜2025年図2 日本の新設住宅着工戸数(年計)単位:万戸40801201602001970198019902000201020201973年 190.574年 131.61990年 170.796年 164.32009年 78.82025年 74.11991〜2001年軸の下の帯は、論文の推計で日本の投資と成長の関係が基準期間より弱かった1991〜2001年(有意でない期間を含む)。着工戸数は論文の分析対象ではなく、図1の結果を検証するものではない。
出所:国土交通省​「建築着工統計調査報告 時系列一覧」​【住宅】利用関係別 時系列​(年計 令和7年分)の​総計を​基に​大手町​プレップ​作成。​網掛けの​期間は R1 p.23 表4に​よる。​着工戸数は​住宅の​新規供給の​量で、​論文の​「住宅の総固定資本形成」​(金額)とは​別の​指標。

新設住宅着工戸数は1990年の170.7万戸から1991年に137.0万戸へ−19.7%減った。特に貸家は1987年の85.9万戸から1991年に58.4万戸へ−32.0%減っている。ところが着工は1996年に164.3万戸まで戻り、その後1998年に119.8万戸へ2年で−27.1%減った。2009年は78.8万戸、2025年は74.1万戸で、1990年からの減少は−56.6%に及ぶ20。

この推移から編集部が引き出す仮説は2つある。1つは、崩壊後の一時的な戻りを底入れと読まない、ということだ。1990年代半ばの着工の戻りは、図1で関係が弱まった期間の中にある。もう1つは、1970年代との区別である。1973年の190.5万戸から1974年の131.6万戸へ−30.9%落ちた後、1976年には152.4万戸まで戻った。著者らも1970年代の調整は循環的で短く、1990年代は人口と物価の期待を伴う構造的なものだったと区別し、中国は後者に近いとみている21。落ち込みの深さと「戻る力」は分けて見る必要がある。

金融の経路についても示唆がある。著者らによれば、日本の銀行は1990年代も貸出を続け、中国でも信用の供給は直ちには崩れていない。中国では国有中心の金融と地方政府融資平台(LGFV)を通じて、損失の確定が先送りされている22。日本で金融の経路が急に強まったのが崩壊の数年後だったことを踏まえると、「銀行が貸している」「信用が崩れていない」ことは、調整が終わった証拠にはならない、と編集部は考える。これは論文が検証したことではなく、日本の時系列から引き出した推論である。

日本側では、地価の下落が地方で極めて長く続いた。2019年の地価公示で、地方圏の住宅地は平成4年以来27年ぶりに上昇へ転じた23。論文が中国で住宅在庫の大きい下位の都市を重く見ることと合わせると、全国平均ではなく地域の分布を見ることが、日中のどちらを分析するときにも欠かせない。

日本の​実務への​応用:役割ごとの​使い方

与信・クレジットの担当者にとっての論点は、中国の不動産調整が取引先の売上と担保にどの経路で及ぶかである。この研究は、消費の反応が日本の経験値より大きいことを示した。中国で家計向けの売上を持つ取引先の計画を審査するときは、日本の1990年代の感覚で「消費は不動産ほど落ちない」と置かず、住宅価格の下落率と弾性値の組み合わせで幅を持たせるべきだろう。割引率に織り込むカントリーリスクプレミアムとは別に、売上の前提を動かす必要がある。

不動産投資・不動産ファンドの調査担当にとっては、「累積の供給」を地域別に見るという視点が国内でも使える。論文が示したのは、好況期に投資が積み上がった地域ほど崩壊後の成長と価格が弱いという関係である。国内の賃貸住宅や物流施設を地域別に評価するとき、足元の賃料・稼働率に加えて、過去数年の着工の積み上がりを並べておくと、下振れの大きさの順位づけに役立つ(編集部の提案)。賃料・空室のデータの集め方は商業用​不動産の​マーケット分析で扱っている。

マクロ・クレジットの調査担当にとっての使い方は、調整の進み具合を1つの数字にしないことである。同じ公式統計の約20%の下落でも、日本型を参照すれば進捗は約33%、米国型なら約3分の2になる。どちらに近いかの判断材料として、論文が挙げる投資の積み上がり・センチメント・家計資産の構成を並べ、参照経路ごとに見通しを書き分ける。日本のセンチメントの代理に論文が使った指数は、一般財団法人土地総合研究所の「不動産業業況等調査」で、デベロッパー・仲介業者・ビル賃貸業者への四半期の調査である24。回答の「良い」「悪い」の差で作る点は、景気動向指数の​DIと同じ考え方である。資産価格の過熱の点検方法はバブルの​兆候を​指標で​点検する、資産効果を売上計画に入れる方法は資産効果を​高額品の​需要予測に​織り込むで解説している。

学習用の​設例:中国売上を​持つ​日本企業の​感応度

学習用の設例(架空)

  • A社は日本の家庭用品メーカー。中国での売上高は200億円、中国事業の限界利益率(売上高から変動費を引いた利益の比率)は35%
  • A社の中国の売上は、地域の家計消費と同じ率で動くと仮定する
  • 住宅価格がさらに10%・20%・30%下がる3通りと、弾性値の置き方3通り(日本型 0.063、中国の基準 0.151、悲観指標=1と仮定するシナリオ 0.302)を組み合わせる
  • この値は、論文の表7列2の係数の和(0.126+0.176)を悲観指標=1の状態とみなした教材上の仮定。表7で使う悲観指標の変換・単位は明示されておらず、実際の悲観局面に対応する値か、和の標準誤差がいくらかは確認できない

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表2 学習用の設例(架空):住宅価格の下落がA社の中国事業に及ぶ大きさ
弾性値の置き方住宅価格 −10%−20%−30%
日本型(0.063)消費 −0.6%
売上 −1.3億円
限界利益 −0.4億円
消費 −1.3%
売上 −2.5億円
限界利益 −0.9億円
消費 −1.9%
売上 −3.8億円
限界利益 −1.3億円
中国・基準(0.151)消費 −1.5%
売上 −3.0億円
限界利益 −1.1億円
消費 −3.0%
売上 −6.0億円
限界利益 −2.1億円
消費 −4.5%
売上 −9.1億円
限界利益 −3.2億円
中国・悲観指標=1の仮定(0.302)消費 −3.0%
売上 −6.0億円
限界利益 −2.1億円
消費 −6.0%
売上 −12.1億円
限界利益 −4.2億円
消費 −9.1%
売上 −18.1億円
限界利益 −6.3億円
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ​作成。​A社​(架空)の​中国での​売上高200億円、​限界利益率35%。​消費の​変化=弾性値×住宅価格の​変化率​(小さな変化の近似)。​A社の​売上は​地域の​家計消費と​同じ率で​動くと​仮定。​弾性値は R1 の​表6(日本 0.063)・表5(中国 0.151)・表7列2の和​(0.126+0.176)。​3行目は​悲観指標=1と​置く​教材上の​仮定で、​論文は​この​和を​推計値と​して​示していない。​悲観指標の​尺度や​実際の​悲観局面に​対応する​値かは​未確認。​端数は​四捨五入。

住宅価格の20%下落で比べると、日本型の弾性値なら消費は−1.3%、売上は−2.5億円、限界利益は−0.9億円の変化にとどまる。中国の基準の弾性値では売上−6.0億円・限界利益−2.1億円と約2.4倍になり、悲観指標=1の仮定では売上−12.1億円・限界利益−4.2億円まで広がる。日本の経験値を当てはめると、影響を半分以下に見積もるおそれがあるということだ。実際の計画では、売上が家計消費と同率で動くという仮定自体を、製品の必需度や販路で見直す。シナリオを組む際は、価格下落と悲観の強まりが同時に起きやすい点を相関を​考慮した​シナリオ設計の考え方で織り込むとよい。

明日から​使える​確認項目

  1. 中国の住宅価格は、公式統計と民間(仲介業者など)のデータを並べたか。両者の差を「下落の幅」として記録したか
  2. 調整の進捗を、日本型(ピークから約60%下落)と米国型の2つ以上の参照経路で示したか。1つの到達点を断定していないか
  3. 消費の感応度に日本の経験値(0.063)を流用していないか。中国の推計値(0.151〜0.230)と悲観による上乗せの仮定を感応度表に入れたか
  4. 取引先・投資先の所在地を、累積の不動産投資や住宅在庫の多い地域とそうでない地域に分けたか。全国平均だけで判断していないか
  5. 「銀行の貸出が続いている」「信用が崩れていない」を底入れの根拠にしていないか。日本では金融の経路が崩壊の数年後に強まったことを確認したか
  6. 着工や販売の一時的な戻りを見たとき、その後2年の推移(日本の1996→1998年の−27.1%)を参照して判断を保留する基準を置いたか
  7. 引用する研究の数値が草稿段階のものか、最終版で確認したものかを資料に書き分けたか

よく​ある​質問

この​研究は、​中国が​日本と​同じように​「失われた10年」に​入ると​結論づけていますか。

いいえ。​著者らは、​中国が​複数年に​わたる​調整の​中盤に​あると​みていますが、​生産性の​伸びや​国家主導の​金融​システムなど​日本と​違う​条件も​挙げており、​同じ道を​たどると​断定してはいません。​日本型と​米国型の​どちらに​近いかで、​進捗の​見立ても​変わります。

日本の​弾性値が​中国より​小さいのは、​日本の​家計が​住宅価格に​鈍感だったからですか。

そうとは​限りません。​弾性値は、​限界消費性向に​住宅資産と​消費の​比率を​掛けた​形で​表せる​ため、​家計資産に​占める​住宅の​比率が​大きい​中国では、​同じ​消費性向でも​弾性値が​大きく​出ます。​また、​日本の​推計は​住宅価格ではなく​住宅地価格を​使っています。

まとめ

Rogoff と Yang の研究は、日本の1990年代と現在の中国に、好況期の投資の積み上がりが崩壊後の成長を長く押し下げるという共通の形があることを、地域データで示した。消費の住宅価格弾性値は、点推定で中国が日本の約2.4倍とされ、悲観がそれを強めるという示唆もある。ただし草稿段階で数値の不整合があり、結果は地域単位の関係である。実務では、調整の進み具合を参照経路ごとの幅で示し、日本の経験値を中国の感応度に流用しないことが出発点になる。

脚注

  1. R1(BPEA会議草稿, 2026年3月)p.1〜2(表紙・脚注*。版の表示は「This version (Preliminary): Mar 12, 2026」)。Brookings の掲載ページの表示日付は2026年3月25日で、会議での討論は3月27日と同ページに記載。NBER WP No. 35054 の掲載ページ(R2)は Issue Date を2026年4月とし、本稿を BPEA 会議用の先行版、最終版を BPEA 2026年春号に掲載予定と記載(最終版は未確認)。本記事のページは R1 の PDF の物理ページ(印刷ページ番号+1。以下同じ)。↩
  2. R1 p.7〜8(第II節。実体の経路を投資・消費・センチメントの3つとする)、p.4 脚注3(日本の金融の経路は1997〜98年に急激に強まった)。金融の経路に関する先行研究として Hoshi and Kashyap(2000)、Caballero et al.(2008)などが挙げられている(p.7)。↩
  3. R1 p.15(4節冒頭。投資ハングオーバーの考え方、Rognlie et al. 2018)、p.5(関連産業への波及)。↩
  4. R1 p.30 本文と脚注17。弾性値 β=∂lnC/∂lnP、住宅資産からの限界消費性向=β×C/W(C は消費、W は住宅資産)。↩
  5. R1 p.16〜17(4.2節、式(1)(2)。シフトシェア型の操作変数は leave-one-out で作成)、p.28〜29(5.2節、Guren et al. 2021 の感応度型の操作変数)、p.21 脚注14 と付表II p.39〜43(第1段階のF値)。↩
  6. R1 p.20 表1(交差項 −0.059、1%水準)、p.21〜22 本文と表3(基準期間の投資比率の係数 0.381・1%水準、2009-14年 −0.143・5%水準、2015-18年 −0.008・有意でない、2019-24年 −0.442・1%水準)。1標準偏差当たりの成長率の低下は2009-14年0.8%(標準誤差0.3%)、2019-24年2.3%(同0.6%)で、原文の表記は percent。比較の基準はリーマン危機前の期間。2019-24年に差し引きの効果が負になったという記述は著者の解釈(p.21〜22)で、係数の和 0.381−0.442 の検定は表にない。↩
  7. R1 p.21 表2(日本の累積投資との交差項 −0.146、5%水準)、p.23 表4(期間交差項)、p.24(本文の解釈)、p.24〜25(10年の移動窓による推計、図9)。日本の主推計は東京都・大阪府を除く(p.18)。↩
  8. R1 p.24〜25(ローリング推計の図8・図9と本文の解釈)、p.25(4.5節。中国の2010〜18年の投資の伸びと2019年〜2026年1月の住宅価格の変化。図12の決定係数は0.13)。↩
  9. R1 p.29 表5(OLS 0.154、感応度型 0.151、Saiz 型 0.230、いずれも1%水準)と5.3節本文。GDP の2〜4%は p.10 と p.29 の記述。↩
  10. R1 p.30 表6(OLS 0.024、感応度型 0.063、いずれも5%水準)と本文。約2.4倍は 0.151÷0.063 による編集部の計算。家計資産の約70%が住宅という数値は R1 p.3 脚注2(中国人民銀行の2019年の都市家計調査)。↩
  11. R1 p.31 表7(中国。交差項0.176、1%水準)、p.32 表8(日本。交差項0.124、10%水準)、p.50 付表7B(日本、OECD 消費者信頼感による代替指標で0.095、10%水準)、p.32(「a first pass」)。「2倍を超える」は p.31 の著者の説明。ニュースの採点(0〜100)と都市別の調整の概略は p.14・p.38 にあるが、表7で使う悲観指標の変換・単位は示されていない。↩
  12. R1 p.10(第II節。日本は最終的にピークから約60%、中国は公式統計で約20%、仲介業者などのデータではより深い下落)。進捗約33%(20÷60)と米国型の着地約30%(20÷2/3)は編集部の逆算で、論文は米国の下落率を示していない。↩
  13. R1 p.20 脚注13(誘導型の推計で一般均衡の効果を明示的に捉えるのは難しいとする)。↩
  14. R1 p.13(3.2節。総務省統計局の社会・人口統計体系の住宅地価格、1坪当たり、年次は1975〜2004年)。↩
  15. R1 p.50(付表7Bの前文。センチメント指数の内生性の可能性)、p.31(地価の崩落が株価を通じて及ぼした間接効果は表で十分に捉えられていない可能性があり、今後の課題とする)。↩
  16. R1 p.10(標準誤差0.7%)、p.29(同0.8%、1.6〜2.5セント)、p.30 脚注17(住宅資産÷消費 約12.5)。0.151÷12.5≒1.2セント、0.230÷12.5≒1.8セントは編集部の検算。このほか表7列2の係数0.126の標準誤差が(0.104)と記載されながら1%水準の記号が付くなど、草稿に表記の不整合がある(p.31)。↩
  17. R1 p.46〜47 付表4(初期シェアと相関する変数の期間交差項を加えた推計。2009-14年 −0.030、2019-24年 −0.345・1%水準)。↩
  18. R3(Kermani の討論資料, 2026年3月)p.9〜11・p.15。討論者の見解であり、論文の結果ではない。↩
  19. R4(Mojon et al., BIS Working Papers No.1319)の要旨。Alipay の取引データ(2017年1月〜2023年3月)による推計で、3・4級都市では住宅価格の上昇が若年層の消費を押し下げる傾向も報告されている。本記事は要旨のみ確認。主論文も p.29 脚注16 で両者の推計が同程度と述べている。↩
  20. R5(国土交通省「建築着工統計調査報告」時系列一覧、【住宅】利用関係別 時系列、年計 令和7年分)。新設住宅の総計と貸家。変化率は編集部の計算。↩
  21. R1 p.33 脚注18(1970年代の調整は主に循環的、1990年代は人口の伸びの鈍化とデフレ期待を伴う構造的なもので、中国は1990年代の日本に近いと著者はみる)。1970年代の着工戸数は R5。↩
  22. R1 p.8(日本の銀行は1990年代の多くの期間に規制上の猶予のもとで貸出を続けた)、p.10(中国の信用供給は国の強い関与と借り換えで直ちには崩れていない。日本は企業部門の借入、中国は LGFV 経由)、p.11(国有企業中心の金融部門による損失確定の先送り)。↩
  23. R6(国土交通省「平成31年地価公示結果の概要」)。地方圏の住宅地の平均変動率は0.2%で、平成4年以来27年ぶりに下落から上昇に転じた。全国の住宅地は0.6%で2年連続の上昇。↩
  24. R7(一般財団法人土地総合研究所「不動産業業況等調査」の掲載ページ)。R1 p.13 は指数の算式(「良い」×2+「やや良い」−「やや悪い」−「悪い」×2を回答数で割って100倍、−100〜+100)を記載している。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。