この記事で分かること
- 米国・欧州の上場企業729社の発言から、環境面で評価の高い企業が2016年以降、自社の資本コストを約1%ポイント低く見積もるようになったという研究結果
- エネルギー・公益の大企業の一部が、再生可能エネルギーなどの事業部に低い資本コストと割引率をあてていたことと、その根拠の弱い部分
- 日本企業が環境投資のハードルレートを決めるとき、率で調整する部分とキャッシュフローで扱う部分を分ける手順(学習用の設例つき)
想定読者:事業会社の経営企画・財務・サステナビリティ推進部門、投資銀行・FAS・PEで事業投資やバリュエーションを扱う方
前提知識:WACC、NPVとIRR(研究の用語は本文で説明します)
工場の屋根に載せる太陽光発電と蓄電池の稟議が回ってきた。電力の購入費が減る分を積み上げると、IRRは全社のハードルレートをわずかに下回る。起案部門からは「脱炭素の投資なのだから、通常の案件と同じ率で切るのはおかしい」という声が出る。逆に財務部門には、理由のはっきりしない率の引き下げを認めると、あらゆる案件が「戦略的」を名乗り始めるという警戒がある。
環境投資に低い率をあててよいのか。あてるなら、どの程度で、何を根拠にするのか。この問いに、企業が実際に使っている数値で答えようとしたのが、シカゴ大学とコロンビア大学の研究者による論文「Climate Capitalists」である(初出は2023年のSSRN版で、本稿はその改訂版を読む)。投資家向けの会議で経営者が口にした資本コストと割引率を手で集め、環境面の評価と突き合わせた。本稿では、研究が示した事実と、その限界、日本企業がハードルレートの設計に持ち込むときの考え方を整理する。
この記事が主に参照する研究
Niels Joachim Gormsen、Kilian Huber、Sangmin Simon Oh「気候の資本家(Climate Capitalists)」NBER Working Paper No. 32933
- 公表:初版は2023年(SSRN。DOIの登録は2023年3月)。NBER WPは2024年9月。参照した版:NBER WP改訂版(2025年5月)。査読:未査読(WP。共著者の研究ページでは学術誌で修正要求中)
- データ:2002年〜2023年6月の英語の会議通話で経営者が述べた全社の資本コスト(約3,100件)と新規投資の割引率(約3,300件)。環境面の評価と結びつけられた米国・欧州の729社。加えて、エネルギー・公益の大企業の投資家向け資料6,800件から集めた事業部別の値
- 方法:資本コスト・割引率を環境スコアとその2016年以降の交差項に回帰(相関の分析)。事業部別の値は同じ企業の中で比較
- 位置づけ:市場の期待リターンを推定する従来の研究と違い、企業自身の認識を直接測った新しいデータによる実証
「認 識している資本コスト」と「割 引率」は別の数字である
論文は二つの数字を区別する。一つは、経営者が会議で「当社の資本コストは何%」と述べる値で、多くは負債と株式の期待リターンを加重平均したWACCの社内推計である。仮定の話、アナリストが示唆した値、個別の社債利回りは除き、税引前と明言された値は税引後に直している。もう一つは、新規投資に求める最低限のIRR、つまり稟議で使うハードルレートで、複数あれば中核事業の値をとる1。
両者は連動するが同じではない。同じ著者らの先行研究によれば、資本コストの変化は短中期にはほとんど割引率に反映されず、長期にはほぼ1対1で取り込まれる。割引率には経営者のリスク認識や、特定の案件への選好も入りうる。また、認識している資本コストが1%ポイント高い企業は投資率が平均0.7%ポイント低く、この数字が実際の投資と結びついていることも確かめられている2。
企業の「緑らしさ」は、ESG評価会社MSCIの環境スコア(e-score)を0〜1に直して測る。0に近いほど褐色(排出の多い)、1に近いほど緑である。線形の当てはめでは、有形固定資産100万ドル当たりのスコープ1排出量が、スコア0の企業で363.9t、1の企業で33.7tと予測され、スコアは排出の多寡をおおむね映している3。
著者らは、緑の資本が安くなったときに排出が減る経路を二つに分ける。緑の企業全体の資本コストが下がって企業そのものが伸びる「企業間の経路」と、同じ企業が緑の設備により低い率をあてて投資の中身を入れ替える「企業内の経路」である。後者は、企業が全社一律の率しか使っていなければ働かない4。ハードルレートの設計を考える実務家にとって重要なのは、この後者の問いである。
2016年を境に、緑の企業は自社の資本コストを低く見積もるようになった
毎年、環境スコアの中央値で企業を二つに分けて平均を比べると、緑と褐色の資本コストは2016年ごろまでほぼ同じ水準で動き、その後に開いた。2016年以降の平均の差は約1%ポイント、2023年には約2%ポイントだった。パリ協定の後にサステナブルファンドの運用資産が急増した時期と重なり、運用資産と差の相関は0.95である5。ただし相関であって、資金流入が差を生んだことを示したわけではない。
回帰で見ると、ベータ、レバレッジ、時価総額、簿価時価比率を統制したうえで、2016年以降の環境スコアの係数は米欧全体で−1.71(標準誤差0.60)、米国だけで−2.12(同0.84)だった。最も褐色の企業と最も緑の企業の差に当たる値で、2016年以前の係数は小さく有意でなかった6。資本市場の実証で知られる153の企業特性と競わせても、2016年以降の環境スコアはベータとレバレッジに次ぐ3番目の説明変数として残り、緑度を別の指標に替えても、米国・統制なしの係数は元の−1.90に対して−1.82とほぼ同じだった7。
稟議で使う割引率でも、緑の企業の低下が見られた。統制後の係数は米国で−3.68、米欧全体で−3.20と資本コストより大きいが、前者は10%水準でしか有意でなく、後者は有意でない。著者らは、緑の企業がリスクの低下を資本コスト以上に織り込んだ可能性を挙げつつ、資本コストの係数との差は統計的に区別できないとしている8。図1は、研究の主な推定値を並べたものである。上段の企業間の差は、下段の事業部の差と比べる対象が違う点に注意して読みたい。
同じ会社の中で、再エネ事業部に低い率をあてる企業がある
企業内の経路を調べるため、著者らはエネルギーと公益の時価総額上位各100社の投資家向け資料6,800件を手で読み、事業部別の資本コスト645件(28社)と割引率255件(23社)を集めた。値を示した企業は少ないが、BP、EDF、Shell、TotalEnergiesといった排出量の大きい企業が含まれる。風力・太陽光・水素などを緑、石炭・石油などを褐色、送電網の工事のような混合的な事業を中立に分類した9。
結果は対照的だった。規制当局が決めた事業部の資本コストには、緑かどうかによる統計的に有意な差は確認されなかった(2016年以降の係数0.49、有意でない)。一方、企業が自ら決めた資本コストは、緑の事業部で中立の事業部より−0.84%ポイント低く(1%水準で有意)、2016年以前には統計的に有意な差は確認されなかった。事業部の割引率では差が−4.06%ポイントに広がった(5%水準)10。規制の資本コストはCAPMのような伝統的な手法で算定されることが多く、著者らはここから、緑による差は標準的な算定の外側の経路で生じていると解釈する。割引率の差が大きいことについては、経営者がリスクの低下を見込んだ可能性と、非金銭的・思想的な選好の可能性の両方を挙げている。
実務の目線で読み替えると、事業部別の率を開示している一部の大手エネルギー企業は、再エネ事業に他の事業より低い率をあてている、ということになる。CAPMで差が説明できないと実証したわけではなく、規制当局の伝統的な算定に有意な差がないことから、著者らが非標準的な経路を示唆すると解釈している点に注意したい。著者らも、事業部ごとに異なる率を使わない企業は多く、企業内の経路が経済全体で働くとは限らないと認めている11。
表1 研究が示した主な数値
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| 項目 | 数値 | 補足 | 出所 |
|---|---|---|---|
| 緑・褐色の資本コストの差(2016年以降の平均) | 約1%ポイント | 2016年ごろまでは差がなく、2023年には約2%ポイント | R1 p.4〜5・図1 |
| e-score 0→1 の資本コストの差(米欧・統制後) | −1.71%ポイント | 米国は−2.12。2016年以前は有意でない | R1 表2 |
| 資本コストの予測変数としての順位 | 3番目 | ベータ・レバレッジに次ぐ(153の企業特性などと比較) | R1 図5 |
| e-score 0→1 の割引率の差(米国・統制後) | −3.68%ポイント | 10%水準。米欧(統制後)は−3.20で有意でない | R1 表4 |
| 事業部:企業が決めた資本コスト(緑) | −0.84%ポイント | 中立の事業部との差。規制で決まる値には有意な差なし(0.49) | R1 表5 |
| 事業部:割引率(緑) | −4.06%ポイント | 23社・255件の値から | R1 表5 |
| 業種の褐色の資本コスト+1・緑−1%ポイント→誓約上の排出変化率 | 22.4%ポイント低い | 誓約であり実績ではない(示唆的な証拠) | R1 表6 |
| 炭素税に相当させるのに必要な差 | 6〜10%ポイント | 2023年の約2%ポイントは最適な税の約20〜33% | R1 p.5〜6 |
研究の対象・方法・限界
第一に、標本は英語で会議を開く米国・欧州の大企業である。S&P Trucostが収録する先進国企業のスコープ1・2排出の約27%、Compustatが収録する先進国企業の総資産の約35%を占める一方、規模では上場企業の上位に偏り、日本企業は含まれない12。第二に、すべて相関の分析で、資金流入や規制の変化を外から与えた実験ではない。差を生んだ要因(投資家の非金銭的な選好か、将来の規制で緑の資産のリスクが下がったという見方か)を著者らは特定していない。第三に、割引率と事業部の結果は件数が少なく、統計的な確かさは資本コストの結果より弱い。
差の大きさの評価も分かれる。調査・資産価格モデル・定量的な理論で緑と褐色の企業の期待リターンの差を推定した最近の19本の研究を同じ尺度にそろえると、推定値は+3.8から−7.1%ポイントまで散らばり、この論文の換算値0.75%ポイントはその中ほどにある。2024年の経済学者への調査でも、環境・社会に取り組む企業の資本コストが低いという見方に賛成が21%、不確かが55%、反対が23%だった13。業種内の褐色企業の平均資本コストが1%ポイント高く、緑の企業の平均が1%ポイント低い組み合わせ(差は2%ポイント)は、誓約上の排出変化率が22.4%ポイント低いことと関連するという結果もあるが、誓約は実績ではなく、著者ら自身が示唆的な証拠と位置づけている14。また著者らは、1トン50〜100ドルの炭素税と同じ効果を資本コストで生むには6〜10%ポイントの差が必要で、現状の約2%ポイントはその20〜33%程度にとどまるという先行研究の試算を引いている15。
反対方向の議論もある。Samuel M. HartzmarkとKelly Shueは2023年12月付の版で、排出の少ない企業の資金調達コストを下げても改善はせいぜい小さく、排出の多い企業の資金調達コストを上げると排出がかえって大きく悪化しうるという実証結果を示した16。本論文はこれに対し、企業の中で緑の事業部を優遇する経路があれば、排出の多い企業でも投資の中身が変わりうると応じている。最後に版の違いである。2024年2月付の版の要旨は、最も緑の企業と最も褐色の企業の資本コストの差を−2.6%ポイント、割引率の差を−5.8%ポイントとしていた。現行版の値はこれと異なり、変更の理由は要旨からは確認できない。本稿は現行版の数値を使う17。
大手町プレップの考察:率を下げる理由を三つに分けて書く
以下は編集部の推論であり、論文が検証した方法ではない。研究から読み取れる最も実務的な事実は、企業が緑の案件に低い率をあてるとき、規制当局が決めた資本コストには緑度による統計的に有意な差が確認されず、差は企業自身の数字に表れていたという点だと考える(著者らは非標準的な経路の示唆と解釈するが、CAPMで分解した検証ではない)。そうであれば、日本企業が環境投資のハードルレートを下げる場合も、下げ幅の根拠を少なくとも三つに分けて記録しておくべきだろう。
一つ目は調達コストの実際の差である。グリーンボンドやサステナビリティ・リンク・ローンで実際に金利が低いなら、その差は観測でき、率に反映する根拠になる。ただし負債の一部の数bpが、WACC全体を1%ポイント動かすことはまずない。二つ目はリスクの差である。長期の売電契約や固定価格の制度で収入が安定するなら、事業別のベータや事業別資本コストの考え方で説明できる。三つ目は戦略・選好による優遇で、これは資本コストではなく経営判断の上乗せである。研究で割引率の差の点推定が資本コストの差より大きかったのは(企業間では統計的に区別できない差である)、この三つ目が混じっていた可能性を示唆する。三つ目を率の中に溶かすと、事後に検証できなくなる。
もう一つ、将来の炭素規制のリスクは率で扱うより、内部炭素価格としてキャッシュフローに入れるほうが説明しやすい。率とキャッシュフローの両方に同じリスクを入れれば二重計上になる。この点は、投資家側の分析で割引率とキャッシュフローの調整の使い分けを論じたESGインテグレーションの記事とも重なる。
日本の実務への応用:炭素のコストが「見 える」ようになった後の率の設計
日本では、東京証券取引所が2023年3月31日、プライム市場とスタンダード市場の全上場会社に「資本コストや株価を意識した経営」の実現に向けた対応を要請した。自社の資本コストを把握し、取締役会で分析・評価して計画を開示することを求めるもので、規則上の義務ではない18。投資家との対話で資本コストの数字が問われる以上、環境投資だけ別の率を使うなら、その理由も説明できなければならない(開示の論点は資本コストや株価を意識した経営の開示要請を参照)。
もう一つの変化は、炭素のコストが制度として現れ始めたことである。経済産業省によれば、GX推進法に基づく排出量取引制度が2026年度に始まり、CO2の直接排出量が前年度までの3年度平均で10万トン以上の事業者は、排出実績と同量の排出枠を保有する義務を負う19。対象の事業者にとって、排出を減らす投資の便益の一部は、排出枠の購入を避けられる金額としてキャッシュフローで測れるようになる。カーボンプライシングが制度化された部分は率ではなくキャッシュフローで扱い、率の調整は残りの部分に限る、という整理が日本ではとりやすくなったと編集部は考える。
研究の数字をそのまま日本の目安にすることは勧めない。対象は米欧の大企業で、日本企業の認識している資本コストが同じように動いたかは分からない。参考になるのは差の「大きさの感覚」である。企業内の資本コストの差は1%ポイント弱で、割引率の差の点推定はそれより大きかった。その理由として著者らはリスク認識や非金銭的な選好の可能性を挙げるが、特定はしていない。
学習用の設例:同じ案件でも、緑の評価の入れ方でNPVが変わる
学習用の設例(架空)
- 甲社(架空の素材メーカー)は全社一律のハードルレート8.0%を使っている
- 検討中の案件は自家消費型の太陽光発電と蓄電池。投資50億円、期間20年、電力購入費の削減などで年4.9億円の税引後キャッシュフロー。残存価値は考えない。IRRは7.49%
- 案件により回避できるCO2は年1.0万t、社内で検討中の内部炭素価格は3,000円/t(いずれも仮定)
- 緑の案件の率を下げる案の引き下げ幅は1.0%ポイント(研究の企業内の差を参考に置いた仮定)
図2のAは全社一律の率で評価した場合で、NPVは−1.9億円と負になる。Bは緑の案件の率を7.0%に下げた場合で1.9億円、Cは率を据え置き、回避できる炭素コスト年0.30億円をキャッシュフローに加えた場合で1.1億円と、どちらも正になる。採否はBでもCでも変わるが、Cは「炭素価格がいくらなら採算に乗るか」という問いに置き換えられ、前提を変えれば結論を追い直せる。この案件では、率の1%ポイントの引き下げは、内部炭素価格に直すと約3,900円/t分の便益に相当する。
注意したいのはDである。率の引き下げと炭素価格を両方入れると、NPVは5.1億円に膨らむ。率を下げた理由が「将来の炭素規制で緑の設備のリスクが下がるから」であれば、炭素価格と同じリスクを二度数えている可能性がある。一方、率の引き下げが実際の調達コストの差に基づくなら、両方を入れても二重計上にはならない。表2は率と炭素価格の組み合わせごとのNPVで、どの組み合わせを採るかは数字ではなく、前提の書き分けで決まる。
表2 設例:ハードルレートと内部炭素価格の組み合わせ別のNPV
表は横にスクロールできます →
| ハードルレート | 炭素0円/t | 炭素3,000円/t | 炭素6,000円/t |
|---|---|---|---|
| 8.0% | −1.9億円 | 1.1億円 | 4.0億円 |
| 7.5% | 約−0.05億円 | 3.0億円 | 6.1億円 |
| 7.0% | 1.9億円 | 5.1億円 | 8.3億円 |
| 6.0% | 6.2億円 | 9.6億円 | 13.1億円 |
明日から使える確認項目
- 環境投資に別の率を使っているかを確かめ、使っているなら全社の率との差を、調達コストの差・リスクの差・戦略上の優遇の三つに分けて文書にする。三つ目の幅は「方針」として明記し、資本コストとは呼ばない
- 調達コストの差は観測値で確かめる。グリーンボンドやグリーンローンの実際の利回りと、同条件の通常の調達との差(bp)を記録し、それがWACC全体で何%ポイントに当たるかを計算する
- 炭素規制の影響は、まず内部炭素価格としてキャッシュフローに入れる。排出量取引制度の対象(直接排出が3年度平均10万t以上)かどうかを確認し、対象なら排出枠の価格の前提を稟議書に書く
- 率とキャッシュフローの両方に「緑」の効果を入れている案件は、同じ理由を二度数えていないかを稟議の時点で質問する。「この率の引き下げは、炭素価格を入れたキャッシュフローと別のどのリスクを表しているか」
- 事後検証では、緑の率で採択した案件の実績を、採択時の計画・リスクの想定・戦略上の目的と照合し、優遇の幅が妥当だったかを定期的に見直す(投資後評価の仕組みに組み込む)
よくある質問
環境投資には全社より低いハードルレートを使うべきですか。
必ずしもそうではありません。研究では、一部の大企業が緑の事業部に低い率をあてていましたが、規制当局が決めた資本コストには統計的に有意な差が確認されませんでした。著者らは標準的でない経路の示唆と解釈していますが、CAPMで分解した検証ではありません。下げる場合は、調達コストの実差、リスクの差、戦略上の優遇を分けて記録し、炭素規制の影響はキャッシュフロー側で扱うのが説明しやすい方法です。
研究の「約 1%ポイント低い」は日本企業にも当てはまりますか。
当てはまるとは言えません。標本は米国と欧州の大企業で、日本企業は含まれていません。数値は目安の大きさとして参照し、自社の調達条件とリスクで確かめる必要があります。
まとめ
米欧の上場企業の発言を集めた研究によれば、環境面の評価が高い企業は2016年以降、自社の資本コストを約1%ポイント低く見積もるようになり、一部のエネルギー・公益企業は緑の事業部に低い資本コストと割引率をあてていた。ただし規制当局が決めた資本コストには統計的に有意な差が確認されず、割引率の差の点推定は資本コストより大きかった。日本企業が環境投資の率を下げるなら、調達コスト・リスク・戦略上の優遇を分けて記録し、制度化が進む炭素のコストはキャッシュフローで扱うことで、二重計上を避け、事後の検証ができる形にしておきたい。
脚注
- R1(NBER WP 改訂版, 2025年5月)p.18(3.1節)。会議通話の書き起こし(Refinitiv・FactSet、2002年1月〜2023年6月)を研究者が読み、資本コスト約3,100件・割引率約3,300件(企業×四半期)を記録。仮定の発言、外部の人が示した値、個別債券の利回りは除外し、税引前と明言された値は税引後に補正。割引率は新規投資の最低要求IRRで、複数ある場合は中核事業の値。本記事のページはPDFの物理ページ(以下同じ)。↩
- R1 p.21〜22(3.5節)。資本コストの変化は短中期にはほとんど割引率に反映されず、長期にはほぼ1対1で反映される(同じ著者らの先行研究 Gormsen and Huber 2025 による)。割引率には経営者の非金銭的な選好や固有のリスク認識なども入りうる。資本コストが1%ポイント高い企業の投資率は平均0.7%ポイント低い(表A5、Gormsen and Huber 2024 の表の再掲)。相関の分析。↩
- R1 p.19(3.2節)、p.20(3.3節・図A1)。MSCIの環境の柱スコア(0〜10)を0〜1に基準化。排出原単位はスコープ1排出量(CO2換算t)を有形固定資産(百万ドル)で割った値で、年の固定効果を条件にした線形の当てはめの予測値(標本平均205.9)。↩
- R1 p.6(1節)、p.11(2節)。理論モデルでは、企業が緑と褐色の資本に別の資本コストを使えば企業間・企業内の両方の経路が働き、単一の率なら企業間の経路だけが働く。↩
- R1 p.4〜5(1節・図1)、p.7、p.22〜23(4.1節)。年ごとに環境スコアの中央値で2群に分けた平均の3年移動平均。2023年の約2%ポイントは p.5・p.34〜35。サステナブルファンドの運用資産(UNCTAD)と差の相関0.95は p.7。↩
- R1 表2(p.41)列3・列6、p.24。e-score×2016年以降の係数で、最も褐色(スコア0)と最も緑(1)の企業の差に当たる。米国の統制なしは −1.90(標準誤差0.87、5%水準)。四半期×年の固定効果、標準誤差は企業と四半期×年でクラスター。↩
- R1 p.24〜25(4.1〜4.2節・図5)、表3列2(p.42)。Lassoで153の企業特性(Jensen et al. 2024)などから選ばれた14変数に2016年以降のe-scoreが入る。金融業の除外、追加の統制、業種×年の固定効果、2020〜2021年の除外でも係数は安定。別の指標(Eskildsen et al. 2024 の robust green score)では、表3列2(米国・統制なし)で −1.82。比較対象は表2列2(米国・統制なし)の −1.90(p.26 に「-1.8, close to the -1.9」)。↩
- R1 表4(p.43)列3・列6、p.28(4.4節)。米国の統制後 −3.68(標準誤差2.20、10%水準)、米欧全体の統制後 −3.20(同2.19、有意でない)。間接費を割引率に含めるかどうかの違いは固定効果で統制。割引率と資本コストの係数の差は統計的に有意でないと著者は明記。↩
- R1 p.8、p.29〜30(5.1節)。エネルギーと公益の時価総額上位各100社(Compustat)の資料を手で読んだ。4社で S&P Trucost の排出量の約3.5%。緑の事業部は事業部別の値の23%、褐色は20%。原子力(十数件)は除外し、分類を変えても結果はほぼ不変。↩
- R1 表5パネルB(p.44)、p.31(5.2節)。企業と年の固定効果を入れ、中立の事業部との差を推定(標本は2011〜2023年)。規制で決まる資本コスト 0.49(標準誤差0.36)、企業が決めた資本コスト −0.84(同0.20)、事業部の割引率 −4.06(同1.57。本文では約4.1)。2016年以前の企業が決めた資本コストの係数は0.043(有意でない)。規制当局は一般にCAPMなど伝統的な手法を使うとの記述と、非標準的な経路・非金銭的または思想的な選好という著者の解釈も p.31。↩
- R1 p.31〜32(5.2節)。規制当局は CAPM など伝統的な手法を使うことが多く、規制の値に有意な差がないことから、著者らは緑の差が非標準的な経路で生じていることを示唆すると解釈(p.31)。事業部ごとに異なる割引率を使わない企業は多い(Graham and Harvey 2001、Krüger et al. 2015 を引用)。↩
- R1 p.20〜21(3.4節・表A1)。約27%は S&P Trucost が測る先進国企業のスコープ1・2排出に対する比率、約35%は Compustat の先進国企業の総資産に対する比率。最終標本は米国・欧州の729社。規模は上場企業の分布の83パーセンタイル程度。↩
- R1 p.8(「19 recent papers」)、p.26〜27(4.3節・図8・表A3)。比較対象は調査・資産価格モデル・定量的な理論による期待リターンの差の推定。各研究の推定を緑度2標準偏差の変化に換算。本論文の換算値0.75は表2列6の1.7×0.44。調査は Chicago Booth Clark Center(2024年)で、R1 p.3 脚注3・p.27 に記載。↩
- R1 表6列1(p.45)、p.32〜35(6.2節)。業種の褐色の資本コストの係数 −15.5、緑の資本コストの係数 6.88で、被説明変数は誓約期間全体の排出の変化率(%)。褐色+1・緑−1%ポイントの組み合わせで −15.5−6.88=−22.38%ポイント(著者は p.34 で「a decrease in pledged emissions of 22.4%」と表記)。誓約の期間は1〜92年(平均・中央値約11年)。標本は2017〜2023年の誓約。↩
- R1 p.5〜6(1節)。Pedersen(2023)と Chitarro et al.(2025)の試算に基づく著者の記述。差を生む要因を特定しない旨は p.4〜5 脚注4。↩
- R2(2023年12月版)p.1(要旨)。同版は p.3 で R1 の SSRN 版を Gormsen et al. (2023) として引用し、2016〜2021年に褐色企業の資本コストが緑の企業より2.6%ポイント上がったと紹介している。R2 の現在の版は NBER Working Paper No. 35519。R1 は p.32 で R2 に言及し、企業内の経路を対置する。↩
- 2024年2月付の版(米国金融学会のサイト掲載)p.1 の要旨。最も緑と最も褐色の企業の差を2016年以降 −2.6%ポイント、割引率で −5.8%ポイントとする。現行版との数値の差の理由は要旨に書かれておらず、確認していない。初出は SSRN 4366445(Crossref の記録では DOI 登録 2023年3月4日、公表年2023年。SSRN のページは自動取得が拒否され、Date Written は未確認)。共著者 Gormsen の研究ページでは Journal of Financial Economics で修正要求中(Revision requested)、共著者 Oh のページでは同誌に受理(Accepted)と表示が分かれる(いずれも2026年10月23日確認)。受理版の本文と掲載号は確認できていない。↩
- 日本取引所グループ「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」(2023年3月31日)。対象はプライム市場・スタンダード市場の全上場会社。↩
- 経済産業省「排出量取引制度」のページ(2026年10月23日閲覧)。制度対象者には政府が排出枠を割り当て、毎年度、排出実績量と同量の排出枠を期限までに保有する義務がある。対象者は排出枠を事業者間で取引できる。↩
参考文献(2 026年10月確認)
- R1 Gormsen, N. J., K. Huber and S. S. Oh (2024), “Climate Capitalists,” NBER Working Paper No. 32933. DOI: 10.3386/w32933. 参照した版:NBER WP 改訂版(2024年9月初版、2025年5月改訂)。初出は SSRN 4366445(2023年)。同じ論文は ECB Working Paper Series No. 2990(2024年)、CEPR Discussion Paper DP20406(2025年)としても公表。査読:未査読(WP。共著者の研究ページでは Journal of Financial Economics で修正要求中、2026年10月確認)。 nber.org (参照箇所:本文 p.3〜35、表1〜6(p.40〜45)、図1・図5・図8(PDFの物理ページ)。脚注1〜15・17の根拠。2024年2月付の版は https://afajof.org/management/viewp.php?n=122276 、SSRN 版の DOI は 10.2139/ssrn.4366445。閲覧日:2026年10月)
- R2 Hartzmark, S. M. and K. Shue (2023), “Counterproductive Sustainable Investing: The Impact Elasticity of Brown and Green Firms,” 2023年12月版(NBER 会議用の公開版)。現在は NBER Working Paper No. 35519(DOI: 10.3386/w35519)。参照した版:2023年12月版。査読:未査読(WP)。 conference.nber.org (参照箇所:要旨・序論 p.1〜4。脚注16の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R3 Gormsen, N. J. and K. Huber (2024), “Firms’ Perceived Cost of Capital,” NBER Working Paper No. 32611. DOI: 10.3386/w32611. 査読:未査読(WP)。 nber.org (参照箇所:R1 が用いる会議通話データの前身研究。本稿では R1 p.21・p.24 の記述を通じて参照(脚注2)。閲覧日:2026年10月)
- R4 日本取引所グループ「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」(2023年3月31日) jpx.co.jp (参照箇所:脚注18の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R5 経済産業省
「排 出量取引制度」(2 026年10月23日閲覧) meti.go.jp (参照箇所:制度の概要。脚注19の根拠。閲覧日:2026年10月)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。