想定読者:事業会社の経営企画・財務・IR担当者、投資家側で日本企業の資本効率を見るアナリスト
前提知識:有価証券報告書の構成と、ROE(自己資本利益率。自己資本に対して何%の純利益を稼いだか)の基本。そのほかの用語は本文で説明します。

結論:配当だけで​測らず、​取引利益の​寄与を​足して​時価で​割り、​資本コストと​比べる

取締役会で政策保有株式の保有意義を問われたとき、「取引関係の維持のため」という説明だけでは検証になりません。コーポレートガバナンス・コード(上場会社の行動原則。以下「CGコード」)の原則1-4は、毎年、取締役会で個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているかなどを具体的に精査し、その内容を開示すべきだとしています(2026年7月21日付の版)1。本記事は、この「資本コストに見合っているか」を銘柄ごとの数字で確かめる手順です。

結論は三つです。第一に、保有の効果は「税引後の受取配当+保有に帰属させる取引利益(税引後)」を保有時価で割った保有リターンで測り、株主資本コスト(株主が求めるリターン)と並べます。第二に、取引利益は管理会計上の推計で確定値ではないため、判定は推計の「あり/なし」を並べて示します。第三に、資本コストは1点でなくレンジ(6〜8%)で置き、取引の代替可能性や含み益の税負担も加えて縮減の可否を決めます。縮減が常に正解とは限らず、取引関係上の合理性を説明できる保有は残してよいという立場です。

海外でも持ち合いには、資本の非効率な利用だという批判と、相互の支えになる、買収への防衛になるという擁護論があると整理されています2。これは一般論で、日本の制度の根拠ではありません。以降は2026年10月時点の日本の制度を前提とし、設例の数値は学習用の仮定です。

有報の​どこを​入力に​使うか

定義、純投資目的との区分、縮減額と自己資本比率の基本設例は、用語集の政策保有株式の​開示に譲り、ここでは判定表の入力だけを押さえます。

有価証券報告書の「株式の保有状況」は、開示府令(企業内容等の開示に関する内閣府令)の第三号様式で、第二号様式の記載上の注意(58)に準じて書くものとされています3。e-Gov法令検索の2026年10月5日施行版で確認した範囲では、純投資目的以外の投資株式について、保有方針、保有の合理性の検証方法、取締役会等での検証内容、銘柄数と貸借対照表計上額、株式数が増減した銘柄の銘柄数と取得・売却価額の合計額を書きます。個別銘柄の欄は、計上額が資本金額の100分の1を超える銘柄が対象で、該当が60銘柄に満たなければ計上額の大きい順に60銘柄とされ(資本金額の読み替えやみなし保有株式の細則は省略)、保有目的、取引等の概要、定量的な保有効果(記載が困難な場合はその旨と保有の合理性を検証した方法)などを書きます。

記載項目に、銘柄別の受取配当や取引から得る利益は含まれません。判定表の入力は、有報で銘柄・株式数・計上額(上場株式は通常期末の時価)を取り、配当と取引利益は社内データで補います。

金融庁の資料は、時価(含み益)や配当金による検証だけでは純投資の評価と同じで、政策保有株式の評価としては別途の検証が求められると述べ、保有残高は総資産でなく株主資本に対する割合で検証することが望ましいとしています4。配当に取引利益の寄与を足す本記事の設計はこの指摘に沿うもので、足す側が推計である限界は後の節で扱います。

保有​リターンの​定義と​計算

保有リターン(時価ベース)
保有リターン=(税引後の受取配当+税引後の取引利益寄与)÷ 保有時価
税引後の受取配当=受取配当 ×{1-(1-益金不算入割合)× 実効税率}
取引利益寄与(税引前)=取引から得る利益 × 保有に帰属させる割合
税引後の取引利益寄与=取引利益寄与(税引前)×(1-実効税率)

時価で割るのは、保有を続けることが、売れば得られる時価の資金を持ち続ける選択だからです。簿価(取得時の価額)で割ると、古い銘柄ほど利回りが高く見えます。

受取配当は税引後にします。法人が内国法人から受ける配当は、保有区分に応じた割合が益金(課税所得の計算に入れる収益)に算入されません。設例の2区分では、保有割合5%以下の非支配目的株式等は配当の20%、完全子法人株式等・関連法人株式等・非支配目的株式等のいずれにも当たらない株式等は50%が不算入です5。区分の細則は用語集の受取配当等の​益金不算入制度に譲ります。非支配目的株式等で実効税率30%なら、配当の80%が課税されるので、手元に残るのは1-0.8×0.3=0.76、配当の76%です。

取引利益寄与は、取引先との取引から得る利益のうち、その株式の保有に支えられていると見る部分です。売上の総額ではなく、売上から変動費と取引に直接かかる費用を引いた利益(設例では「取引全体の利益」)に、保有に帰属させる割合を掛けます。帰属割合は、保有をやめても取引が続くかの見立てで決まる管理会計上の仮定です。

含み益は入れません。未実現で、時価に反映済みです。売却時の課税は縮減の試算で扱います。

設例:X社の​代表5銘柄で​保有​リターンを​出す

以下は学習用の架空事例です。精密部品メーカーのX社(東証プライム上場を想定)は、連結自己資本1,500億円、総資産3,000億円、親会社株主に帰属する当期純利益120億円でROEは8.0%(120÷1,500)とします。純投資目的以外の上場株式は20銘柄・時価合計300億円(自己資本の20.0%)で、このうち代表5銘柄A〜E(時価合計225億円)を使います。残り15銘柄(時価合計75億円)にも同じ手順を当てはめます。

法人税の基本税率は所得の23.2%です(法人税法66条1項。中小法人の軽減税率は除く)6。これに地方税などを加えた実効税率を、設例では仮に30%と置きます。株主資本コストは基準7%、レンジ6〜8%です。5銘柄の入力(単位:億円)は次のとおりで、A・B・C・Eは保有割合5%以下(益金不算入20%)、Dは5%超3分の1以下(不算入50%)とします。

  • A:時価60、簿価30、受取配当2.0、取引全体の利益12.0×帰属50%
  • B:時価50、簿価20、受取配当1.5、取引全体の利益5.0×帰属30%
  • C:時価40、簿価25、受取配当1.0、取引全体の利益8.0×帰属40%
  • D:時価45、簿価30、受取配当2.0、取引全体の利益3.0×帰属50%
  • E:時価30、簿価10、受取配当0.5、帰属させる取引利益なし
図表1:銘柄別の保有リターン計算表(単位:億円。利回りと差は%・ポイント)
銘柄時価配当配当・税後取引利益・税前取引利益・税後合計利回り7%との差
A602.001.526.004.205.729.5+2.5
B501.501.141.501.052.194.4▲2.6
C401.000.763.202.243.007.5+0.5
D452.001.701.501.052.756.1▲0.9
E300.500.380.000.000.381.3▲5.7
対象期間:X​社の​直近1事業年度​(学習用の架空事例)。​見出しの​「税後」は​税引後、​「取引利益」は​保有に​帰属させる​取引利益寄与、​「合計」は​税引後の​合計、​「利回り」は​合計÷時価。​実効税率30%、​利回りは​小数第2位を​四捨五入して​第1位まで​表示し、​「差」は​表示値どうしの​差。​▲は​基準を​下回る​ことを​示す。​出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ​作成。​(スマートフォンでは​表を​横に​スクロールできます)

図表1のとおり、時価利回りはAが9.5%、Bが4.4%、Cが7.5%、Dが6.1%、Eが1.3%で、基準7%を上回るのはAとCです。Aの計算は、税引後配当2.00×(1-0.8×0.3)=1.52、取引利益寄与(税引前)12.0×0.5=6.00、税引後6.00×0.7=4.20で、合計5.72を時価60で割ると9.5%です。このうち配当由来は約2.5%、取引利益由来は7.0%で、大半は推計に依存します。Dの配当の残り方は0.85(1-0.5×0.3)です。

取引利益寄与を外して配当だけで見ると、利回りはAが2.5%、Bが2.3%、Cが1.9%、Dが3.8%、Eが1.3%で、5銘柄すべてが6%を下回ります。

比べる​基準:株主資本​コストは​レンジで​置く

株主資本コストとは、株主が株式に求める期待リターンです。推計にはCAPM(資本資産評価モデル。リスクフリーレートにβと市場リスクプレミアムの積を足す方法)がよく使われます。詳しくは用語集のCAPMと記事WACCの​計算方法に譲ります。設例では、リスクフリーレート2.0%、市場リスクプレミアム5.0%(学習用の仮定)でβを0.8・1.0・1.2と動かすと、2.0+0.8×5.0=6.0%、2.0+1.0×5.0=7.0%、2.0+1.2×5.0=8.0%になります。この6〜8%をレンジ、7%を基準値とします。

レンジで置くのは、βやプレミアムの取り方で結論が動くためです。東京証券取引所が2023年3月31日に公表した要請は、まず自社の資本コストや資本収益性を的確に把握し、取締役会で現状を分析・評価して改善計画を策定・開示する流れを示していますが、規則上の義務付けではないとしています7。全体像は用語集の資本コストや​株価を​意識した​経営の​開示要請を参照してください。

もう一つの基準は、売却資金を自社株買いや事業投資に回した場合に得られる水準(機会費用)で、後の試算につながります。時価利回り、簿価利回り、自己資本に対する比率(設例の20.0%)は別の指標なので、混ぜないでください。

銘柄の​仕分け:リターンの​位置と​定性要素

判定は、編集部の仮置きとして、取引利益寄与ありの時価利回りが帯の上(8%以上)なら「継続」、帯の中(6%以上8%未満)なら「精査」、帯の下(6%未満)なら「縮減候補」とします。図表2は5銘柄を、取引利益寄与あり(塗り丸)となし(白抜き丸)で並べたものです。

図表2:銘柄別の保有リターンと資本コスト帯(X社・5銘柄) 0% 2% 4% 6% 8% 10% 12% 20 30 40 50 60 70 保有時価(億円) 縦軸:保有時価利回り(%・税引後) 帯:資本コスト 6〜8%(破線は基準 7%) 継続(8%以上) 縮減候補(6%未満) 2.5% A 9.5% 2.3% B 4.4% 1.9% C 7.5% 3.8% D 6.1% E 1.3% 塗り丸:取引利益寄与あり 白抜き丸:取引利益寄与なし(配当のみ) 矢印:取引利益の推計を外した動き Eは取引利益寄与が0のため、2種の丸が同じ位置。
単位:保有時価は​億円、​利回りは%(税引後の​受取配当+取引利益寄与の​税引後額を​時価で​割った​値)。​対象期間:X​社の​直近1事業年度​(学習用の架空事例)。​出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ​作成。​(スマートフォンでは​図を​横に​スクロールできます)

図表2のとおり、判定はAが継続、CとDが精査、BとEが縮減候補です。矢印の先、つまり取引利益の推計を外した位置では、5銘柄すべてが6%未満の領域に入ります。矢印が最も長いAは、推計を最も強く頼りにしている銘柄です。

精査のCとDは、資本コストの置き方で位置が動きます。資本コストを6%・7%・8%と置くと、Cは上回る・上回る・下回る、Dは上回る・下回る・下回るです。レンジの中で動く銘柄は、次の定性要素を加えて判断します。

  • 取引の代替可能性:手放しても取引が続くなら、帰属割合を下げて再計算します。
  • 含み益と税負担:売却で手取りが減りますが、保有継続の理由にはならず、次節で売却コストとして計算します。
  • 持ち合い相手の自社株保有:一方的な売却が関係に与える影響を確認します(有報にも保有の有無を書く欄があります)。

縮減候補のBとEが次節の試算対象です。縮減候補は売却を決めた銘柄ではなく、保有を続ける説明が数字では足りない銘柄を指します。

縮減余地の​試算:売却手取りと​再配分後の​ROE

前提は、縮減候補をBとE(時価合計80億円、簿価合計30億円、含み益50億円)、売却時のディスカウント3%、実効税率30%、手取りは全額自社株買いに充てる、とします(学習用の仮定)。

売却額は80×(1-0.03)=77.60億円、譲渡益は77.60-30=47.60億円、課税は47.60×0.30=14.28億円で、手取りは77.60-14.28=63.32億円です。ディスカウントが5%なら手取りは62.20億円に下がります。

自己資本は、含み益50億円が税効果後の35億円(50×0.7)で評価差額金として計上済みだと簡略化します。売却益の税引後33.32億円(47.60×0.7)が加わり、評価差額金35億円が消えるので、変化は33.32-35=▲1.68億円(ディスカウント2.40億円の税引後の額)です。自社株買い63.32億円を加えると、自己資本は1,500-1.68-63.32=1,435.00億円です。総資産は、株式80億円が減り、現金は自社株買いで出ていくため3,000-80=2,920億円です。

BとEの税引後配当1.52億円(1.14+0.38)は失われます。Bの取引が続くなら当期純利益は120-1.52=118.48億円、Bの取引利益1.05億円も失えば117.43億円です。一過性の売却益はROEの試算から除きます。

図表3:縮減余地の試算(B・E売却、手取りを全額自社株買い。単位:億円)
項目前後増減
手取りの計算(ディスカウント3%、実効税率30%)
売却額(時価80×0.97)80.0077.60▲2.40
手取り(売却額-課税)―63.32―
前後の比較(自社株買い後)
自己資本1,500.001,435.00▲65.00
自己資本比率(%)50.049.1▲0.9ポイント
ROE(取引が続く場合)(%)8.008.26+0.26ポイント
ROE(Bの取引利益も失う場合)(%)8.008.18+0.18ポイント
政策保有株式/自己資本(%)20.015.3▲4.7ポイント
対象期間:X​社の​直近1事業年度の​期末​(学習用の架空事例)。​ROEは​期末自己資本​ベースの​簡略計算​(118.48÷1,435.00=8.26%、​117.43÷1,435.00=8.18%)。​売却益は​一過性の​ため除く。​出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ​作成。​(スマートフォンでは​表を​横に​スクロールできます)

図表3のとおり、ROEは8.00%から8.26%(取引が続く場合)または8.18%(取引利益も失う場合)に上がりますが、上昇幅は0.26ポイント・0.18ポイントです。自己資本比率は50.0%から49.1%へ0.9ポイント下がり、政策保有株式の自己資本に対する比率は20.0%から(300-80)÷1,435.00=15.3%になります。

手取り63.32億円に対し、失う税引後の利益は1.52億円(2.4%)、取引利益も失えば2.57億円(4.1%)です。再配分先が年4.1%以上の利益を生めば、利益水準は維持できます。手取りに株主資本コスト7%を求めるなら、年4.43億円(63.32×0.07)が必要です。自社株買いのROE押し上げは主に分母が小さくなる効果で、企業価値の増加を意味しません(記事自己株買いで​EPSが​上がる​本当の​理由。再配分の優先順位は記事資本配分の​実務)。

売却の執行は記事ブロックトレードの​実務、需給の変化は政策保有株式解消の​株価影響、評価での時価の加減は政策保有株式の​EV​ブリッジ​調整に譲ります。

取引利益の​限界と​誤用

因果は仮説です。保有をやめても取引が続くかを確かめない限り、「保有のおかげ」とは言えません。A銘柄で帰属割合を0%・25%・50%・100%と動かすと、時価利回りは2.5%・6.0%・9.5%・16.5%になり、判定は縮減候補から継続まで変わります。根拠(取引条件の経緯、代替先の有無)を記録し、感応度とセットで示してください。

丸ごと入れない。取引全体の利益12.0億円を全額入れると、Aは(1.52+12.0×0.7)÷60=16.5%に膨らみます。保有に帰属しない部分まで便益に数える過大評価です。取引から得る利益に、同じ相手からの配当が混ざっていないか(二重計上)も確認します。

取引条件の合理性も見る。CGコードの原則1-4(4)は、政策保有株主(自社株式を政策保有している会社)との間で、取引の経済合理性を十分に検証しないまま取引を継続するなど、会社や株主共同の利益を害する取引を行うべきではないとしています8。相手との取引条件が割高なら、その利益を便益に数えるのは慎重にすべきだと考えます(編集部の見解)。

取締役会の​検証と​有報への​落と​し込み

検証から開示までの流れを図表4に示します。1〜5は事務局の資料、6がCGコードの求める毎年の取締役会の検証、7が有報への反映です。担当は一例です。

図表4:検証から開示までの7段階(入力と担当の例) 段階 入力 担当の例(編集部の整理) 1 保有データの整理 有報の銘柄別開示(銘柄・株数・ 計上額・保有目的・定量的な効果) 経理・財務 2 保有リターンの算定 受取配当・取引利益の推計・ 税率・時価 財務・事業部門 3 資本コストとの比較 株主資本コスト(レンジと基準値) ・保有リターン 財務・IR 4 銘柄の仕分け 基準との差・代替可能性・ 含み益・相手の自社株保有 経営企画・ 事業部門 5 縮減余地の試算 縮減候補の時価・ディスカウント・ 譲渡益課税・再配分先 財務・経営企画 6 取締役会での検証 判定表・縮減計画・感応度 取締役会(毎年) 7 有報への記載 方針・検証方法・結果・縮減実績 経理・IR・ 経営陣
単位:なし​(流れ図)。​対象期間:なし。​担当は​一例。​出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ​作成。​(スマートフォンでは​図を​横に​スクロールできます)

記載の型は、金融庁の資料が示すポイントが手がかりです。編集部の整理では、方針(保有の上限や縮減の考え方)、基準(どの指標でどう検証するか)、結果(銘柄ごとの定量的な保有効果)、縮減実績(売却・買い増した銘柄数と理由)の4つにまとめられます9。前述の、株式数が減少した銘柄数と売却価額の合計額の項目が、縮減実績の記載先になります。

開示では、取引利益が社内推計であることと主な前提(帰属割合、実効税率、資本コストのレンジ)を明示します。書き方は監査法人・法務・IRと確認してください。

実務​チェックリスト

  • 有報の銘柄別開示を前期と並べ、増減と理由を判定表の入力にしたか
  • 分母は時価で、含み益を分子に入れていないか。受取配当は区分ごとの益金不算入割合で税引後にしたか
  • 取引利益は保有に帰属させる部分だけを入れ、帰属割合の根拠を記録したか
  • 判定を取引利益「あり/なし」の両方で出し、推計に依存する銘柄を把握したか
  • 帯の中の銘柄で、取引の代替可能性・含み益の税負担・持ち合い相手の保有を確認したか
  • 縮減候補の売却手取り(ディスカウントと税の控除後)と再配分後のROE・自己資本比率を試算したか

よく​ある​質問​(FAQ)

取引利益を​算定できない​場合は​どうしますか。

有報の​様式は、​定量的な​保有効果の​記載が​困難な​場合に、​その​旨と​保有の​合理性を​検証した​方法を​書く​ことを​認めています。​社内では、​配当だけの​保有​リターンを​下限と​して​出し、​取引の​代替​可能性や​経営戦略上の​意味を​定性で​補います。​配当だけでは​結論に​できません​(前述)。

含み益が​大きい​銘柄は、​売却の​税負担が​重いので​保有を​続けて​よいですか。

含み益の​大小は​判定に​入れず、​売却時の​課税は​手取りを​減らす​コストと​して​縮減の​試算で​扱います。​税負担は​売却時期の​検討材料ですが、​リターンが​資本コストを​下回る​事実は​変わりません。

まとめ

政策保有株式の保有効果は、税引後の受取配当と保有に帰属させる取引利益(税引後)を保有時価で割った利回りで測り、レンジで置いた株主資本コストと比べます。X社の設例では、5銘柄が継続1・精査2・縮減候補2に分かれ、取引利益の推計を外すと全銘柄が縮減候補に変わりました。縮減候補2銘柄の手取りは63.32億円で、ROEの上昇幅は0.18〜0.26ポイント、自己資本比率は0.9ポイントの低下です。縮減は目的ではなく、資本コストに見合うかを説明するための判断なので、取引利益の限界を明示して取締役会と有報に落とし込んでください。

脚注

  1. 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年7月21日)」原則1-4(1)。政策保有に関する方針の開示と、毎年の取締役会での個別銘柄の精査(保有目的の適否、便益やリスクが資本コストに見合っているか等)および検証内容の開示を求める文言(参考文献 R1)。↩
  2. Corporate Finance Institute「Cross Holding」の「Pros and Cons of Cross Holding」の節。持ち合いに対する批判(資本の非効率な利用)と擁護(相互支援・買収防衛)が併記されている。一般的な概念の参考であり、日本の制度や数値の根拠ではない(参考文献 R2)。↩
  3. 企業内容等の開示に関する内閣府令 第三号様式 記載上の注意(39)「株式の保有状況」(第二号様式記載上の注意(58)に準じて記載)。第二号様式 記載上の注意(58)のa〜d(銘柄別開示の対象、記載項目⒜〜⒣)。e-Gov法令検索の2026年10月5日施行版の別紙様式で確認。第二号様式のPDFでは51〜52頁(参考文献 R3)。↩
  4. 金融庁「政策保有株式:投資家が期待する好開示のポイント(例)」(2021年3月22日)PDF4頁(「時価(含み益)や配当金による検証だけでは純投資の評価と同じであり、政策保有株式の評価としては別途の検証が求められる」旨の注記、保有残高は株主資本に対する割合で検証することが望ましい旨)(参考文献 R4)。↩
  5. 法人税法23条1項・6項。非支配目的株式等(発行済株式等の5%以下を有する場合の株式等)に係る配当等の額は20%、完全子法人株式等・関連法人株式等・非支配目的株式等のいずれにも該当しない株式等は50%を益金に算入しない(2026年10月時点でe-Govに掲載の現行条文。参考文献 R5)。↩
  6. 法人税法66条1項。各事業年度の所得に対する法人税の税率は23.2%(同条2項に資本金1億円以下の普通法人等の軽減税率の定めがある。参考文献 R5)。↩
  7. 東京証券取引所「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」(2023年3月31日、マーケットニュース)。本文に「規則上の義務付けを行うものではございません」との記載があり、「主なポイント」の欄に、自社の資本コストや資本収益性の的確な把握、取締役会での現状分析・評価、改善計画の策定・開示という一連の対応が示されている(参考文献 R6)。↩
  8. 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年7月21日)」原則1-4(4)。政策保有株主との間で、取引の経済合理性を十分に検証しないまま取引を継続するなど、会社や株主共同の利益を害するような取引を行うべきではない旨の文言(参考文献 R1)。↩
  9. 金融庁「政策保有株式:投資家が期待する好開示のポイント(例)」(2021年3月22日)PDF3〜5頁。保有方針、保有の合理性の検証方法、取締役会等での検証内容、売却・買い増した銘柄の減少・増加の銘柄数とそれぞれの理由、個別銘柄の定量的な保有効果などを示す表(参考文献 R4)。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための学習用の架空事例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。