この記事で分かること

  • Scope1・2・3の定義区分とGHGプロトコルの考え方
  • 排出量の算定式(活動量×排出係数)と整数設例
  • ISSB/SSBJ開示におけるScope3算定の難しさ(2026年8月時点)
  • M&Aデューデリジェンスでスコープ排出量をどう確認するか

30秒で分かる定義

スコープ1・2・3排出量(Scope 1, 2 and 3 GHG Emissions、すこーぷわんつーすりーはいしゅつりょう)とは、国際的な算定基準であるGHGプロトコルに基づき、企業の温室効果ガス排出量を発生源によって3つに区分したものです。Scope1は自社が燃料燃焼等で直接排出する量、Scope2は購入した電気・熱の使用に伴う間接排出量、Scope3は原材料調達から製品の使用・廃棄までサプライチェーン全体で発生する、Scope1・2以外のすべての間接排出量を指します。

なぜ実務で重要なのか

FAS・M&Aデューデリジェンスでは、対象会社の気候関連リスクを評価する項目として排出量データの信頼性・算定範囲を確認します。経営企画・IRでは、統合報告書や有価証券報告書のサステナビリティ情報として開示する数値の集計・検証を担当します。市場部門・機関投資家対応では、投資家エンゲージメントの場でScope3の削減計画が問われる場面が増えています。

計算式(または仕組み)

排出量(tCO2e)= 活動量 × 排出係数

Scope1は燃料使用量など自社の直接的な活動量に排出係数を乗じて算定します。Scope2には、電力会社ごとの平均係数を使う「ロケーション基準」と、購入した電力の契約内容(再エネ証書等)を反映する「マーケット基準」の2つの算定方法があります。Scope3はGHGプロトコルが定める15のカテゴリ(購入した製品・サービス、輸送、資本財、製品の使用等)ごとに、可能な範囲で活動量×排出係数を積み上げて算定します。

整数設例で確認する

設例(架空数値、単位:tCO2e)。ある製造業A社の年間排出量を試算します。

  • Scope1:工場ボイラーの燃料使用量1,000kl × 排出係数3.0tCO2e/kl = 3,000
  • Scope2:購入電力500万kWh × 排出係数0.0004tCO2e/kWh = 2,000
  • Scope3(推定):購入原材料・輸送等に係る排出量 = 15,000

検算:3,000+2,000=5,000、5,000+15,000=20,000(合計)。Scope3が全体の75%(15,000÷20,000)を占めており、これは製造業で典型的に見られる構造です。Scope1・2だけを見て排出量の全体像を判断すると、実態の4分の1程度しか捉えられていないことになります。

開示・規制上の位置付け

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が定めるIFRS S2では、Scope1・2に加えScope3排出量の開示が求められており、日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)もこれに整合した基準を公表しています(2026年8月時点)。プライム市場上場企業を中心に、有価証券報告書のサステナビリティ情報の記載欄での開示が段階的に進められている状況です。詳細はISSB・IFRS S1/S2を参照してください。

財務モデル・Excelでの使い方

  • 活動量×排出係数のマスタ表:燃料種別・電力調達方法ごとに活動量と排出係数を並べた表を作り、Scope別に自動集計します。
  • M&ADDチェックリスト:対象会社の排出量データが一次データ(実測)か推計かを区別し、Scope3の算定範囲(15カテゴリのうちどこまでカバーしているか)を確認します。
  • 感応度分析:主要な排出係数の前提を変えた場合の合計排出量の変動幅を試算し、開示データの頑健性を評価します。

この用語をExcelで「組める」状態にする

自社の活動量データから排出量算定シートを組み、DDで開示データの信頼性を確認できるようになる。

モデリング教材で実装手順を見る →

実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「Scope3は算定義務が緩いから重要度も低い」→ 正しくは、多くの業種でScope3が総排出量の大半を占めるため、投資家・取引先からの開示要請の中心はむしろScope3にあります。

誤解2:「Scope2はどの電力会社から買っても同じ排出量になる」→ 正しくは、マーケット基準では再エネ由来の電力調達により排出量を圧縮できる一方、ロケーション基準は地域の平均係数を使うため両者で数値が異なります。

日本実務での扱い

(2026年8月時点)地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく算定・報告・公表制度では、Scope1・2に相当する温室効果ガス排出量の報告が既に義務化されています。一方でScope3は現時点では任意開示が中心であり、サプライヤーからのデータ収集体制の整備が実務上の課題となっています。SSBJの基準に沿った開示は今後段階的に拡大していく見込みです。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:Scope1・2・3の違いを説明し、Scope3のデータ収集が難しい理由を述べてください。
「Scope1は自社の燃焼等による直接排出、Scope2は購入電力等の間接排出、Scope3はサプライチェーン全体の間接排出です。Scope3は自社で直接計測できず取引先データに依存するため収集・検証コストが高く、業界平均の排出原単位などの二次データに頼らざるを得ない場合が多い点が難しさです。」(30秒回答例)

よくある質問(FAQ)

Q. GHGプロトコルとは何ですか?
A. 世界資源研究所(WRI)と持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)が策定した、温室効果ガス排出量の算定・報告に関する国際的な共通基準です。

Q. ロケーション基準とマーケット基準の違いは何ですか?
A. ロケーション基準は電力系統の平均排出係数を使い、マーケット基準は購入した電力の契約内容(再エネ証書等)を反映するため、再エネ調達を進めるほどマーケット基準の値がロケーション基準の値より小さくなります。

出典・参考(2026-08確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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