この記事で分かること
- ISSB・IFRS S1(全般開示)・S2(気候関連開示)の全体像
- TCFDの4本柱との対応関係
- 整数設例で見るスコープ1・2・3排出量の集計
- 日本のSSBJ基準との関係と適用の見通し
30秒で分かる定義
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会、International Sustainability Standards Board、読み方:あいえすえすびー)とは、IFRS財団の下で2021年に設立された、国際的なサステナビリティ開示基準を策定する機関です。ISSBが公表したIFRS S1(サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項)とIFRS S2(気候関連開示)が最初の基準セットで、両者は原則としてセットで適用されます。財務諸表そのものの会計基準(IFRS会計基準)とは別建ての、非財務情報の開示基準である点が重要です。
なぜ実務で重要なのか
IR・サステナビリティ開示の担当者は、有価証券報告書の新設欄への対応や、投資家向け説明資料の作り方を検討する上でIFRS S1/S2の要求事項を理解する必要があります。機関投資家・ESG評価機関は、企業の気候関連リスクの財務影響を比較可能な形で評価するためにこの基準を参照します。再生可能エネルギー・インフラファイナンスの実務家にとっても、プロジェクトの気候関連リスク(スコープ1・2・3排出量)の開示要求と資金調達条件(サステナビリティ・リンク・ローン等)の関係を理解する上で欠かせません。再生可能エネルギーファイナンス入門やインフラ投資・インフラファンド入門で扱う案件では、この開示要求への対応が資金調達条件に直結します。
計算式(または仕組み)
IFRS S1/S2に固有の計算式はありませんが、TCFD提言の4本柱をそのまま引き継ぎ、開示範囲を拡張しています。
| 開示の柱 | TCFD | IFRS S1/S2での扱い |
|---|---|---|
| ガバナンス | ○ | 共通の枠組みを維持 |
| 戦略 | ○ | 財務影響の定量的な開示をより強く要求 |
| リスク管理 | ○ | 共通の枠組みを維持 |
| 指標と目標 | ○ | 業種別指標を追加、S2はスコープ1〜3排出量の開示を必須化 |
整数設例で確認する
設例(架空数値・単位:tCO2e)。ある製造業のGHG排出量の内訳です。
| 区分 | 排出量 |
|---|---|
| スコープ1(自社の直接排出) | 12,000 |
| スコープ2(購入電力等の間接排出) | 8,000 |
| スコープ3(サプライチェーン等その他の間接排出) | 150,000 |
合計排出量=12,000+8,000+150,000=170,000 tCO2e。このうちスコープ3が占める割合は150,000÷170,000×100=約88.2%です。検算:12,000+8,000=20,000、170,000-20,000=150,000で一致します。この設例から分かる実務上の重要な含意は、排出量の大半がスコープ3(自社が直接コントロールしにくいサプライチェーン領域)に存在するケースが多く、自社努力(省エネ・再エネ導入)だけでなく、調達先を含めたサプライチェーン全体のマネジメントが排出削減の主戦場になるということです。
開示・規制上の位置付け
IFRS S1/S2は財務諸表を代替するものではなく、財務諸表と同じ報告パッケージの中で開示することが想定された、サステナビリティ関連財務情報の開示基準です。国際的には2024年1月以降開始する事業年度から適用が始まっており、各国・地域では自国の会計制度・開示制度にどう組み込むかを個別に検討しています。
実務での調べ方・確認手順
ある企業がIFRS S1/S2(またはそれに準拠する国内基準)にどう対応しているかを確認する際は、次の手順が実務的です。
- 有価証券報告書のサステナビリティに関する考え方及び取組の記載欄で、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標の4項目の記載有無を確認する
- 統合報告書・サステナビリティレポートで、スコープ1・2・3排出量の実数と算定範囲(Scope3のどのカテゴリーを含むか)を確認する
- 気候関連リスクの財務影響について、シナリオ分析(1.5℃・4℃シナリオ等)の記載があるかを確認する
この用語を実務で「使える」状態にする
再生可能エネルギー・インフラ案件の気候関連リスク開示要求を理解し、資金調達条件との関係を整理できるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「ISSBはIFRS会計基準そのもの」→ 正しくは、財務諸表の会計処理を定めるIFRS会計基準とは別建ての、サステナビリティ関連財務情報の開示基準です。財務諸表を代替するものではなく、これに付随する開示情報という位置付けです。
誤解2:「日本企業はISSB基準に直接拘束される」→ 正しくは、日本ではサステナビリティ基準委員会(SSBJ)がISSB基準をベースにした国内基準を策定しており、ISSB基準が直接適用されるわけではありません。国内基準の内容・適用時期は日本の制度化プロセスを個別に確認する必要があります。
日本実務での扱い
日本では、財務会計基準機構(FASF)の下にサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が設置され、ISSB基準をベースにした国内基準の開発が進められています。有価証券報告書には「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が既に新設されており、段階的に開示の充実が図られています。適用対象範囲や義務化の具体的な時期は金融庁における制度整備の状況によって今後決まっていくため、最新の公表資料での確認が必要です(2026年8月時点)。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:ISSBとTCFDの関係を説明してください。
「ISSBが策定したIFRS S2(気候関連開示)は、TCFDが提言したガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標という4本柱の枠組みをそのまま引き継ぎ、開示要求をより具体化・定量化したものです。TCFD自体はすでに役割を終え、その提言内容はIFRS S2に統合される形で国際的な開示基準として発展しています。」(30秒回答例)
深掘りでは「スコープ3排出量の算定の難しさ」「気候シナリオ分析の財務影響への落とし込み方」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. IFRS S1とS2の違いは何ですか?
A. IFRS S1はサステナビリティ全般に関する開示の枠組みを定める基準、IFRS S2は気候変動というテーマに特化して詳細な開示を求める基準です。両者はセットで適用することが想定されています。
Q. 日本ではいつから義務化されますか?
A. 2026年8月時点で、SSBJが策定する国内基準の適用範囲・時期については金融庁における検討・制度化のプロセスが続いており、確定した全社一律の義務化時期を断定することはできません。最新の公表情報を確認する必要があります。
出典・参考(2026-08確認)
- IFRS Foundation「ISSB」「IFRS S1/S2」 https://www.ifrs.org/
- 金融庁(サステナビリティ開示関連情報) https://www.fsa.go.jp/
- OECD「Corporate Governance and Sustainability」関連情報 https://www.oecd.org/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。