この記事で分かること

  • PEファンドがFIG(金融機関)セクターをどう類型化して投資判断しているか(地銀再編・保険run-off・アセマネM&Aの3パターン)
  • 銀行法・保険業法の「主要株主」認可制度が、なぜPEのディールストラクチャーそのものを制約するのか
  • EV/EBITDAではなくPBRBVPSROEで株式価値を測る、金融機関特有の評価ロジック
  • 地方銀行への少数株主出資を題材にした、エントリーからExitまでの数値設例(MOICIRR検算つき)

結論:FIGは「レバレッジで稼ぐ」のではなく「規制資本の中で再評価される」セクター

製造業やソフトウェア企業へのバイアウトでは、EBITDAを積み上げながら借入を効かせ、EV/EBITDA倍率の変化とデレバレッジで株式価値を伸ばすのが基本設計です。しかし銀行・保険・証券・資産運用会社(以下、FIG=Financial Institutions Groupセクター)は、この設計がそのままでは通用しません。銀行や保険会社にとって自己資本比率やソルベンシーマージン比率は「守るべき規制指標」であり、買収のために対象会社自体へ有利子負債を積み増すことは規制上・実務上の制約に直結します。加えて、議決権の一定割合以上を取得しようとする株主は、銀行法・保険業法上の「主要株主」認可という当局手続きを通過する必要があります。

そのためFIGへのPE投資は、①地方銀行の資本再編の受け皿になる、②保険会社のレガシーな契約群(run-off)を切り出して運用する、③独立系アセットマネージャーを束ねてプラットフォーム化する、という限られた類型に収れんしやすく、リターンの源泉も「バランスシートの量的拡大」よりも「ROEの改善」と「PBR(株価純資産倍率)の再評価」に偏る傾向があります。この規制構造と評価ロジックの特殊性を軸に、以下では投資仮説KPI・DD論点・数値設例までを一気通貫で整理します。売り手側(投資銀行)の視点はib-005-fig(FIGカバレッジとは)に委譲し、本稿はPE投資家側の判断軸に絞ります。

なぜ今、PEマネーがFIGセクターに向かうのか

日本のFIGセクターがPEの投資対象として意識される背景には、大きく3つの構造要因があります。第一に、地方銀行の収益環境です。人口減少と低金利環境の長期化により、多くの地方銀行で本業の利ざやが縮小し、単独での投資体力(システム投資・デジタル化投資)が不足する状態が続いてきました。第二に、大手保険会社が海外の生命保険・年金の既契約群(レガシーブック)を売却し、資本効率を高める動きが世界的に広がっていることです。日本の大手保険グループも、海外の再保険・run-off業務を担う専門プレーヤーと提携する形でこの流れに関与しています。第三に、独立系資産運用会社の後継者不在や、運用プラットフォームの重複コスト削減ニーズです。

ただし、事業会社と同じ感覚でFIGに資本参加できるわけではなく、参入形態そのものが規制によって形づくられている点が、次章以降で見るFIG投資最大の特徴です。

投資仮説の3類型:資本再編受け皿・run-off切り出し・アセマネ集約

FIGへのPE的資本参加は、おおむね次の3類型に整理できます。同一セクター内でも対象によって狙いが大きく異なるため、案件を見る際はまず「どの類型か」を切り分けることが出発点になります。

①資本再編・受け皿型(地方銀行・証券会社):単独では規模の経済が働きにくい地方金融機関に対し、システム共同化や業務提携を前提に少数株主として資本参加し、経営支援を通じてROEを引き上げる類型です。全国一律の統合ではなく、個別行との対等な提携を積み重ねる「分散型の連合」として設計されるケースが日本では目立ちます。

②run-off・レガシーブック切り出し型(保険):保険会社が新規契約の獲得を続けながらも、収益性の低い既契約群や特定の再保険ポートフォリオを外部の専門プレーヤーへ切り出し、資本を新規事業へ再配分する類型です。切り出された契約群は、長期の資産運用を得意とする資本(PEファンドやその関連ビークル)が引き受け手になります。

③アセマネ・プラットフォーム集約型:後継者不在や運用インフラの重複コストを抱える独立系アセットマネージャーを束ね、バックオフィス・コンプライアンス機能を共通化してコスト構造を改善する、いわば金融版のロールアップです。手法自体はロールアップ戦略Buy-and-Build統合実務と共通しますが、運用者個人への依存度が高く、キーパーソン流出リスクの評価がより重くなります。

規制資本と当局認可という参入障壁(銀行法・保険業法の一般論)

FIG投資を理解するうえで避けて通れないのが、「主要株主」規制です。金融庁の公表資料によれば、銀行・保険会社の議決権を一定割合以上保有しようとする株主は、あらかじめ内閣総理大臣(実務上は金融庁)の認可を受ける必要があります。目安として、原則として議決権の20%以上を保有する株主等が「主要株主」と位置づけられ認可の対象となり、5%を超える保有については届出制が課され、50%超を保有する主要株主に対しては経営の健全性確保のための追加的な措置が求められ得るとされています(出典:金融庁「銀行法等の一部を改正する法律(概要)」)。

認可にあたっては、株主の財務面の健全性、株式取得の目的、社会的信用等が審査の考え方として示されています。この認可制度自体は銀行・保険いずれの業態にもほぼ共通する一般的な枠組みであり、個別の案件の条件・スケジュールは対象会社の状況や当局との協議次第で変わり得るため、本記事はあくまで公表資料に基づく一般的な内容の紹介にとどめ、個別の認可の要否や見通しを断定するものではありません。

PE投資家にとっての実務上の含意は大きく二つ考えられます。一つは、議決権20%や50%といった節目を越える買い増しには当局手続きが伴うため、ディールのクロージングスケジュールが事業会社のM&Aより読みにくくなり得ることです。もう一つは、短期の転売を前提にしたファンドよりも、保有目的を長期の経営関与として説明しやすいファンド・資本形態のほうが、対外的な説明のしやすさという点で相性が良いと一般に指摘される傾向があることです。

図1:金融機関セクターのPE投資対象マップ 地方銀行 投資パターン 資本再編の受け皿 主なDD論点 主要株主認可対応 評価指標 PBR・自己資本比率 保険 (生保・損保) 投資パターン run-off切り出し 主なDD論点 責任準備金・ソルベンシー 評価指標 EV・ソルベンシー比率 証券 投資パターン 独立系PF化・再編 主なDD論点 自己資本規制対応 評価指標 PBR・ROE アセマネ (アセットマネジメント) 投資パターン PF集約(ロールアップ) 主なDD論点 運用者引き留め 評価指標 AUM倍率・報酬率 共通の制約:議決権20%・50%を超える取得には銀行法/保険業法上の主要株主認可が関わり得る
図:金融機関セクターにおけるPE投資パターンの一般的な整理(大手町プレップ作成)

バリュエーションの特殊性:EV/EBITDAではなくP/B・BVPS・ROEで見る

事業会社のバリュエーションでは、EBITDAに倍率を掛けてEV(エンタープライズバリュー)を求め、そこから純有利子負債を差し引いて株式価値を導くのが標準的な流れです。しかし銀行・保険会社では、有利子負債(預金や保険負債)そのものが本業の原材料であり、事業活動と資金調達を分離する「EV」という概念になじみません。そのため実務では、BVPS(1株当たり純資産)PBR(株価純資産倍率)を掛け合わせて株式価値を求める、純資産(簿価)ベースの評価が中心になります。


株式価値 = 発行済株式数 × BVPS × PBR

ここでPBRを動かす最大の要因はROE(自己資本利益率)です。理論的には、ROEが株主資本コストを上回るほどPBRは1倍を上回りやすく、下回るほど1倍を割り込みやすいという関係(残余利益モデルの考え方)が知られています。つまりPE投資家がFIGに対して行う「バリューアップ」は、突き詰めればOHR(経費率)改善や非金利収益の拡大を通じてROEを引き上げ、市場からのPBR評価を切り上げてもらうことに集約されます。保険会社の場合は、修正純資産に将来利益の現在価値を加えたエンベディッド・バリュー(EV)を用いて、契約群ごとの経済価値を評価する実務が広く使われています。

図2:株式価値評価ロジックの違い 事業会社(製造業・SaaS等) EBITDA × 倍率(EV/EBITDA) EV(企業価値) − 純有利子負債 株式価値(Equity Value) 銀行・保険会社 自己資本(BVPS) × PBR 株式価値(Equity Value) PBR ≈ (ROE-g) ÷ (株主資本コスト-g) ROEが株主資本コストを 上回るほどPBRは1倍を超えやすい 金融機関は自己資本比率そのものが規制対象のため、EVという概念になじまない
図:事業会社と金融機関の株式価値評価ロジックの違い(大手町プレップ作成)

見るべきKPI:自己資本比率・ソルベンシーマージン・AUMフロー

業態ごとにモニタリングすべきKPIと、その「良い水準/注意すべき水準」の考え方は大きく異なります。地方銀行であれば自己資本比率に十分な余裕があるか、不良債権比率やOHR(経費率)が改善傾向にあるかを見ます。保険会社ではソルベンシーマージン比率が代表的な健全性指標で、一般に200%を安定して上回っているかが一つの目安とされ、これを下回る局面では監督当局による早期是正措置の対象になり得るとされています。アセットマネジメントでは、AUM(運用資産残高)の絶対水準よりも、純資金フローがプラスかマイナスか、運用報酬率(bps)が競争激化で切り下がっていないかのほうが、将来の収益性を左右します。

業態主要KPI良い水準の考え方注意すべき水準の考え方
地方銀行自己資本比率・OHR規制水準に十分な余裕、OHR改善傾向規制水準への接近、OHR高止まり
地方銀行不良債権比率低位で安定・与信集中が限定的上昇トレンド・特定業種への集中
保険会社ソルベンシーマージン比率200%を安定して上回る200%接近・変動の大きさ
保険会社新契約価値・EV成長新契約価値がプラスで拡大新契約価値の縮小・解約率上昇
アセマネ純資金フロー・報酬率(bps)流入超が継続・報酬率が安定流出超の継続・報酬率の切り下げ

DD論点:資産査定・規制対応・システム・経営陣の4点

FIG特有のDDでは、事業会社の一般的なDD各論に加えて、規制業種ならではの論点が加わります。第一に、資産査定です。銀行であれば融資ポートフォリオの質、特定業種・特定先への与信集中がないかを見る必要があり、これは顧客集中リスク評価の考え方を与信ポートフォリオに応用したものと理解できます。保険会社であれば、責任準備金の積立水準が保険引受リスクに対して十分かどうかが同様の位置づけになります。第二に、規制対応DDです。主要株主認可の要否とスケジュール、当局との事前相談の状況、コンプライアンス体制の実効性を確認します。第三に、システムDDです。地方銀行の勘定系システムは老朽化やベンダー依存が強いケースが多く、Technology DDの観点でシステム統合・移行コストを精査する必要があります。第四に、経営陣・人材DDです。地域における人材の定着状況や、地銀特有の出向者比率などを含めManagement DDで経営体制の実務能力を見極めます。契約上のChange of Control条項や規制上の許認可の移転条件はLegal Due Diligenceの範囲で確認すべき事項です。

ダウンサイドシナリオと「デットキャパシティ」の代わりになるもの

事業会社のLBOでは、EBITDAに対する借入余力(デットキャパシティ)が買収可能価格の上限を規定します。FIGではこの発想がそのまま使えません。対象会社自体に買収資金の返済原資となる有利子負債を積み増すと、自己資本比率やソルベンシーマージン比率を毀損しかねないため、取得のためのファイナンスは持株会社レベルにとどめ、対象会社のバランスシートには手を付けないという整理が一般的に取られやすいと考えられます。つまりFIGでは、事業会社のEBITDA倍率に相当する「買収余力の物差し」が、規制資本の余剰分(自己資本比率のうち規制水準を上回る部分)に置き換わるイメージです。

ダウンサイドシナリオとして想定すべきなのは、景気後退局面での不良債権急増、金利変動による評価損、自己資本規制の強化(バーゼル規制の見直し等)、システム障害や大規模な情報漏えいといった事象です。これらはいずれもROEを直接押し下げ、PBRの再評価を逆方向に働かせるため、事業会社の需要ショックとは異なる形で株式価値に跳ね返ります。

バリューアップの典型打ち手

FIGにおけるバリューアップは、システム共同化・クラウド移行によるIT投資の効率化、非金利収益(資産運用・保険窓販・手数料ビジネス)の拡大、店舗網統廃合を含むOHR改善、規制対応体制の高度化といった打ち手に収れんします。複数の地方金融機関を束ねる場合はBuy-and-Build統合実務、KPIを月次で追う仕組みづくりにはKPI Tree設計の考え方がそれぞれ応用できますが、手法の詳細は委譲先の記事に譲り、本稿ではFIGならではの制約(規制対応体制の構築が前提になる点)の強調にとどめます。

ROE改善がPBRにどう跳ね返るかを、数字で追ってみる

OHR改善や非金利収益の拡大がROEをどれだけ動かし、それが株式価値にどう反映されるかは、バリュエーションの基礎を押さえて初めて見通せます。残余利益モデルの考え方を含め、体系的に確認してみてください。

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Exit候補:ストラテジック・セカンダリー・IPOの現実性

FIGのExitルートは、事業会社とは現実性の重みづけが異なります。ストラテジックセール(他の金融グループへの売却)は、規制業種であるがゆえに買い手候補が同業の金融機関やその持株会社に限られやすく、買い手側にも同じ主要株主認可が必要になるため、交渉が長期化しやすい傾向があります。セカンダリー(他のPE系資本への転売)は、地方金融機関では前例が少なく、現実的な選択肢としてはまだ限定的です。IPO(再上場)については、対象がもともと上場企業であった場合、経営再建後に再上場するという形で実現した例が実際に存在します。

例えば、資本再編を経て非上場化された銀行が、財務基盤の立て直しと公的資金の返済を経て東京証券取引所プライム市場に再上場した事例が2025年に確認できます(詳細は次章)。これはPEファンド自身の投資ではありませんが、「資本再編→経営改善→再上場」という出口設計が日本の銀行セクターでも現実に機能し得ることを示す公開事例として参考になります。

簡潔な数値ケース:地方銀行への少数株主出資(設例)

以下は説明用の仮設例です。実在の銀行・案件を示すものではありません。PE的な資本(ファンドまたはそれに準じる資本)が、ある地方銀行の議決権20%を取得し、5年間の経営改善支援を経て売却する場合の、エントリーからExitまでの一気通貫の検算を示します。

前提(設例)数値
発行済株式数1億株
エントリー時点の自己資本(純資産)1,000億円(BVPS 1,000円)
エントリー時PBR0.40倍
取得議決権比率20%(2,000万株)
配当性向(前提)40%
Exit時PBR(ROE改善による再評価後)0.55倍


エントリー投資額 = 取得株数 × BVPS = 2,000万株 × 1,000円 × 0.40倍 = 80.00億円

保有期間中、PE支援によりROEを年3.0%から年5.0%へ段階的に改善させる設例とします(配当性向40%は一定と仮定)。自己資本は毎年の内部留保分だけ積み上がります。

年度ROE期首自己資本(億円)当期純利益(億円)配当総額(億円)期末自己資本(億円)
Y13.0%1,000.0030.0012.001,018.00
Y23.5%1,018.0035.6314.251,039.38
Y34.0%1,039.3841.5816.631,064.33
Y44.5%1,064.3347.8919.161,093.06
Y55.0%1,093.0654.6521.861,125.85

5年後の自己資本は1,125.85億円(BVPSは同じく1,125.85円)まで積み上がります。事業会社のような急成長ではなく、年率2%台の緩やかな複利成長にとどまる点が、規制業種らしいところです。ここにExit時のPBR再評価(0.40倍→0.55倍)を掛け合わせます。


Exit株式価値(PE持分) = 2,000万株 × 1,125.85円 × 0.55倍 = 123.85億円

加えて、保有期間中に受け取る配当(PE持分20%相当)を合算します。各年の配当総額の20%を合計すると、5年間で16.78億円になります。したがって、Exit時点の株式売却額123.85億円に累計配当16.78億円を加えた総回収額は140.63億円です。


MOIC = 総回収額 ÷ 投資額 = 140.63億円 ÷ 80.00億円 = 1.76倍
各年キャッシュフロー(-80.00/+2.40/+2.85/+3.33/+3.83/+128.22)からIRRを計算すると、約12.6%(5年保有)になります。

この設例が示す重要な含意は、価値創出の内訳です。自己資本の内部留保による成長効果は約10.07億円にとどまる一方、PBRの再評価効果は約33.78億円と、リターンの過半がバランスシートの拡大ではなく「市場からの評価の変化」に由来します。逆に言えば、ROE改善が市場に評価されずPBRが再評価されなければ、この設例のリターンは大きく毀損します。事業会社のLBOに比べてIRR自体は控えめですが、レバレッジをほとんど使わないため損失の下振れ幅も相対的に限定的になりやすい、という設計思想の違いが見えてきます。

図3:リターンの内訳(設例・単位:億円) 80.00 エントリー +10.07 自己資本成長 +33.78 PBR再評価 123.85 Exit株式価値 +16.78 累計配当 140.63 総回収額 MOIC 1.76倍 単位:億円(設例)
図:数値設例におけるリターンの内訳(自己資本成長効果とPBR再評価効果の分解、大手町プレップ作成)

日本の実例(公開情報ベース)

以下は、いずれも公開情報で確認できる実在の事例です。ただし、後述するSBIホールディングスの事例はPEファンドそのものではなく事業会社(金融グループ)による資本参加である点に注意してください。個々の投資判断や当時の詳細な契約条件まで検証したものではなく、公表資料・報道に基づく事実関係の紹介にとどまります。

リップルウッド・ホールディングスによる旧日本長期信用銀行(新生銀行)買収:2000年、米系投資会社リップルウッド・ホールディングスを中心とする投資組合が、経営破綻して一時国有化されていた旧日本長期信用銀行の株式を取得し、主要株主となりました。同行は新生銀行として再建され、2004年2月に東京証券取引所へ上場しています。投資ファンドが日本の銀行の主要株主となり、経営再建を経て株式市場でExitした先駆的な事例として広く知られています(歴史的経緯は複数の報道に基づく紹介であり、取得額等の詳細条件には本記事では立ち入りません)。

カーライル・グループとT&Dホールディングスによるフォーティテュード買収:2019年11月、米系PEファンドのカーライル・グループと日本の生命保険グループT&Dホールディングスは、AIGの再保険子会社フォーティテュード(AIGの生命保険・年金事業のレガシーブックの受け皿として設立)のマジョリティ持分を共同で取得することに合意し、2020年6月に取得を完了しました。取得後の出資比率はカーライル71.5%、T&D25%とされ、買収総額は約18億ドル(当時のレートで約1,960億円)と報じられています。海外の生命保険run-off案件にPEファンドと日本の保険グループが共同で関与した事例です(出典:日本経済新聞)。

SBIホールディングスによる新生銀行の資本再編サイクル:SBIホールディングスは2021年、新生銀行へのTOB(株式公開買付け)を実施し、保有比率を約20%から47.8%へ引き上げて連結子会社化しました。その後2023年に完全子会社化のうえ非公開化し、経営基盤の立て直しと公的資金の返済を進め、2025年7月に公的資金を完済、同年12月17日に東京証券取引所プライム市場へ再上場しています(出典:SBI新生銀行および日本経済新聞の公表情報)。PEファンドによる投資ではありませんが、「資本再編→非公開化→経営改善→再上場」という一連の流れは、地銀再編における出口設計の現実的な選択肢を示す事例として参考になります。なお、SBIホールディングスは2019年以降、じもとホールディングスなど複数の地方銀行と資本業務提携を積み重ねる「第4のメガバンク構想」を掲げており、提携行の総資産は合算で十数兆円規模に達しています(出典:日経クロステック)。

よくある質問(FAQ)

Q. PEファンドは日本の銀行の議決権を自由に取得できますか。
A. 銀行法上、議決権の一定割合(原則20%以上)を超えて取得しようとする場合は、あらかじめ当局の認可が必要になるとされています。取得可否や条件は個別の審査によるため、一律に「できる/できない」と言えるものではありません。

Q. なぜ銀行や保険会社はEV/EBITDA倍率で評価しないのですか。
A. 銀行・保険会社にとって預金や保険負債は事業活動そのものであり、事業価値と資金調達を分離する「EV」という概念になじみにくいためです。実務ではBVPSにPBRを掛け合わせる純資産(簿価)ベースの評価が中心になります。

Q. FIGのLBOでは高いレバレッジをかけられますか。
A. 対象会社自体に買収資金の返済原資となる有利子負債を積み増すと、自己資本比率などの規制指標を毀損しかねないため、事業会社のような高レバレッジのLBO構造は一般的に取りにくいと考えられます。

Q. 保険会社のrun-off事業とは何ですか。
A. 新規契約の獲得をやめ、既存契約が消滅するまで責任準備金の運用・管理だけを行う事業です。保険会社が資本効率化のために既契約群を専門プレーヤーへ切り出す形で行われることがあります。

Q. アセットマネジメント会社のロールアップで最も注意すべき点は何ですか。
A. 運用実績が特定のファンドマネージャー個人に強く依存しやすい点です。買収後にキーパーソンが離脱すると、受託資産(AUM)が流出するリスクがあるため、引き留め策の設計がDD段階から重要になります。

まとめ

FIGセクターへのPE投資は、地銀再編・保険run-off・アセマネ集約という限られた類型に収れんし、いずれも銀行法・保険業法の主要株主規制という参入障壁を前提にディールが設計されます。評価の物差しもEV/EBITDAではなくBVPS×PBRが中心となり、リターンの源泉はレバレッジではなくROE改善とPBR再評価に偏ります。数値設例が示すように、規制業種らしい緩やかなバランスシート成長でも、市場評価の変化次第で一定のリターンが成立し得る一方、再評価が起きなければリターンは大きく縮小します。個別のDD論点やバリューアップの手法は他記事に譲りつつ、まずはこの規制構造と評価ロジックの違いを押さえることが、FIG投資を理解する出発点になります。

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出典・参考(2026年8月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。主要株主認可等の規制の適用可否は個別事案ごとに当局・専門家への確認が必要です。