この記事で分かること

  • LPA(組合契約)を「経済条件」「ガバナンス」「時間」+「LP間の非対称」の4視点で読む方法
  • GP Commitment・Recycling・LPAC・Key Person・Side Letter/MFNの5条項でLPとGPが実際に何を争うのか
  • リサイクリングがTVPIとIRRに与える影響と、「元本さえ戻れば得」とは言えない損益分岐
  • ILPA Principles 3.0・ILPA Model LPA・経済産業省モデルLPA(令和7年版)が何をどう定めているか

結論:LPAは「経済条件」「ガバナンス」「時間」の3レイヤーと、その上に重なる「LP間の非対称」で読む

PEファンドのLPA(Limited Partnership Agreement/組合契約)は長大な契約ですが、実務での読み方には型があります。経済条件(誰がいくら払い、誰がいくら受け取るか)、ガバナンス(誰が何を決め、誰が承認するか)、時間(いつまで投資でき、いつ終わり、途中で止まるのはどんなときか)という3つのレイヤーに分解し、最後にLP間の非対称(同じ契約書でも、LPごとに実効的な条件が違いうる)を確認する、という順序です。

本稿で扱う5つの条項は、この4視点のどこかに必ず収まります。GPコミットメントとリサイクリング条項は経済条件、LPACはガバナンス、キーマン条項は時間、サイドレターとMFNは非対称です。それぞれの「本当の争点」を先に一行で書いておきます。

LPAを読む4つの視点 経済条件レイヤー ・GPコミットメント ・リサイクリング条項 ・管理報酬とキャリー 分配計算そのものは別記事へ ガバナンスレイヤー ・LPAC(諮問委員会) ・利益相反の承認と助言 ・報告と情報開示 承認と助言では効果が違う 時間レイヤー ・投資期間と存続期間 ・キーパーソン条項 ・GP解任・No-Fault 止まる条件と終わる条件 横断:サイドレターとMFN — 同じLPAでも、LPごとに実効的な条件は異なりうる
図:LPAレビューの視点整理。

GPコミットメントの争点は金額の大きさではなく質(現金で出しているか、誰の懐から出ているか、案件を選べないか)、リサイクリングは上限・期間・失効の3点セット、LPACは席を取れるかではなくその承認に何の効果があるか、キーマン条項は誰を指名するかではなく発動要件の書き方と治癒の期限、サイドレターは自分が何を取れたかではなく他のLPが何を取ったかを知る手段があるかです。

なお、分配ウォーターフォール(優先リターン・キャッチアップ・クローバックの計算)はPEファンドの分配ウォーターフォールで設例つきで扱っており、本記事では繰り返しません。ファンドの基本構造はPEファンドの構造を前提とします。

前提:日本のLPSと海外のLP、そして2つの「モデルLPA」

日本国内で組成されるPEファンドの多くは、投資事業有限責任組合契約に関する法律(以下、投有責法)に基づく投資事業有限責任組合(LPS)の形式を採ります。一方、海外投資家を主体とするファンドはケイマン諸島やデラウェア州のリミテッド・パートナーシップを用いるのが一般的です。法域が違えば条項の書きぶりも異なりますが、論点の骨格は共通です。

幸い、双方に「叩き台」として公開されているモデル契約があります。海外側はILPA(Institutional Limited Partners Association、機関投資家LPの業界団体)のModel LPAで、デラウェア州法準拠、ファンド全体型(Whole of Fund)とディールバイディール型の2版があり、ファンド全体型は2019年10月公表・2020年7月改訂です。国内側は経済産業省が2025年6月に公表した「投資事業有限責任組合契約書例及びその解説(令和7年版)」で、平成22年版モデルLPAの後継として、バイアウトファンドを含む幅広い類型での利用を想定しています(ベンチャーキャピタル向けには平成30年版が引き続き想定されています)。

実務でLPAを読むときの近道は、この2つのモデルを基準線にして「モデルからどこが動いているか」を見ることです。動いている箇所には理由があり、そこが交渉の焦点になります。以下、5つの条項についてモデルの規定とLP・GP双方の論点を整理します。

経済条件①:GP Commitmentは「いくら」より「どう出すか」

GPコミットメントは、GP(およびその関係者)自身がファンドへ出資する金額です。LPと同じ立場で損失を負うことで利害を一致させるSkin in the Gameの仕組みで、基本的な位置づけはpe-003で触れています。ここでは一段先の交渉論点を扱います。

水準は「業界標準」では決まらない

意外に思われるかもしれませんが、ILPA Principles 3.0はGPコミットメントについて「GPはファンドに対して実質的な(substantial)エクイティ持分を有するべき」と述べるにとどまり、比率の数字を示していません。ILPA Model LPAのターム・シートも「GPおよびその関係者は、LPのコミットメント合計の少なくとも[•]%に相当する持分を引き受け、これを維持する」と空欄のままです。水準は市場環境と個別交渉で決まる変数だということです。

LP側が実際に見るのは比率ではなく「意思決定をする人にとって、どれだけ痛いか」です。ファンドサイズが大きくなれば同じ比率でも金額は膨らみますが、それを運用会社の法人バランスシート(過去の管理報酬の蓄積)から拠出できてしまえば、投資判断を下す個人にとっての痛みは薄まります。逆に小規模ファンドでは比率が高くても絶対額が小さく、意味のあるリスク負担にならないことがあります。LPは「比率」「絶対額」「誰の資金か」を三点セットで確認します。

現金か、管理報酬の相殺か

ILPA Principles 3.0が明確に立場を示すのがファンディング方法です。原文は「GPコミットメントは、管理報酬の免除(waiver of management fees)や特別なファイナンス・ファシリティを通じた拠出ではなく、現金で拠出されるべきである」としています。管理報酬の免除でGP持分を作る方式では、GPは手元資金を拠出しておらず、管理報酬の請求権を放棄する代わりにファンド持分を得ているだけなので、ダウンサイドで失うものが実質的に生じないためです。

GP側の言い分にも合理性はあります。ファンドを連続して組成すると、GPコミットメントの拘束が個人レベルで積み上がっていくためです。だからこの論点は「現金か相殺か」の二択ではなく、相殺を認めるとしてその上限を何%までにするかという設計問題になります。

案件を選ばせない、持分を勝手に売らせない

見落とされやすい論点が2つあります。ひとつはチェリーピッキングの禁止で、ILPAはGPの持分はプールされたファンドビークルを通じたものであるべきで、個別案件を選んで共同投資することは認められるべきでないとし、持分比率の引き下げも認めるべきでないとしています。良い案件だけGPが厚く持てるなら、利害整合は逆に壊れます。

もうひとつはGP持分の譲渡です。ILPAは運用会社の持分構造を開示し、第三者への譲渡意向があるときは取引の目的、分配可能キャッシュフローへの影響、取引後の経済性の変化(特に取引に参加しないGPメンバー間のキャリー配分)を明らかにすべきだとしています。ファンド経済性の全体像はAUMとファンドエコノミクスで扱っています。

経済条件②:Recycling Provisionは投下率を1.0倍に近づける仕組みと、その代償

リサイクリング条項(再投資条項)は、Exitで回収した資金をLPへ分配せず、あるいは分配したうえで再びコール可能な枠に戻し、新規投資に充てることを認める条項です。ILPAの用語解説では「LPAにおいて、GPがExitからの手取金を、定められた期間内にファンドへ再投資することを認める条項。再投資された資本はLPの未払込コミットメントに加算され、投資期間中の追加投資のためにドローダウン可能となる」と説明されています。

なぜ必要か:コミットメントの全額は投資に回らない

LPが100をコミットしても、その全額が投資先に投下されるわけではありません。管理報酬と組成費用・ファンド費用がここから支払われるためです。

式
投下率 = 累計投資額 ÷ コミットメント総額
リサイクリングがない場合の上限 = 1 − 管理報酬・費用の累計 ÷ コミットメント総額

経産省モデルLPAの解説も、再投資を許容するメリットとして、(1)より高い収益機会の獲得が可能になること、(2)分配された資金を別のファンドへ出資すれば追加の管理報酬が必要になるのに対し、同一ファンド内での再投資なら追加コストなく投資機会を得られること、を挙げています。

条文の型:対象・限度・期間

モデル契約の書きぶりは、おおむね「分配が原則+例外的に再投資を許容」です。経産省モデルLPAは回収金をそのまま分配することを原則としたうえで、投資期間内に、取得から一定月数以内に処分して金銭を受領した場合等について、処分費用と公租公課を控除した残額を、当該投資証券等の取得に関して出資された額(=元本相当額)を限度に再投資へ用いることができる、という例外を置いています。ILPA Model LPAのReinvestment条項も、取得から[12か月]以内に実現した投資の取得原価相当額にファンド費用・管理報酬・組成費用を加えた額をドローダウン可能額に加算し、用途をポートフォリオ投資に限定しています。

ILPA Principles 3.0はここにLP側の要求を重ね、リサイクリングの対象となる分配総額に相互に合意したキャップ、またはモニタリング閾値を設けるべきであり(LPが資金需要を予測できるようにするため)、水準はGPのトラックレコードと戦略を踏まえて決めるべきだとします。さらに未使用のリコール可能分配の分類を含め、リサイクリング条項は投資期間の終了とともに失効すべきと明記しています。LPが条文で確認するのは「上限比率」「対象期間」「失効時期」の3点です。

設例:TVPIとIRRは同じ方向に動かない

以下は説明用の仮設例です。実在のファンドの数値ではありません。

設例の前提
コミットメント総額500億円、管理報酬・費用の累計は50億円で両ケース同額。単純化のためコールは0年時点に500億円を一括で行うものとし、当初の投資可能額は450億円です。うち案件Xへ50億円を投じ1年後に60億円で回収(1.2倍)、残る400億円は6年後に2.0倍の800億円で回収します。再投資先の案件Yも2.0倍と仮定します。IRRは年複利、単位は億円です。

ケース①(リサイクリングなし)では、案件Xの回収60億円はそのまま1年後に分配されます。累計投資額は450億円、累計分配は 60 + 800 = 860億円。TVPI = 860 ÷ 500 = 1.72倍、キャッシュフロー(0年 −500、1年 +60、6年 +800)から求めたIRRは 10.25% です。

ケース②(リサイクリングあり)では、案件Xの回収60億円のうち元本相当の50億円を分配せず再投資に回し、利益10億円だけを1年後に分配します。再投資された50億円は案件Yへ投じられ、6年後に100億円で回収されます。累計投資額は 450 + 50 = 500億円、累計分配は 10 + 800 + 100 = 910億円。TVPI = 910 ÷ 500 = 1.82倍、キャッシュフロー(0年 −500、1年 +10、6年 +900)からのIRRは 10.63% です。

リサイクリング有無の比較(設例・単位:億円) 0年 1年 6年 ① リサイクリングなし ▲500(コール) +60 +800 TVPI 1.72倍 IRR 10.25% ② リサイクリングあり(元本50を再投資) ▲500(コール) +10 元本50は再投資へ +900 TVPI 1.82倍 IRR 10.63% 再投資先の回収倍率が1.00倍を下回るとTVPI、約1.63倍を下回るとIRRが①を下回る
図:設例に基づくリサイクリングの効果(実在のファンドの数値ではありません)。

ここまでなら「リサイクリングは得」に見えます。しかし案件Yの回収倍率を動かすと景色が変わります。

再投資先(案件Y)の回収倍率累計分配(億円)TVPIIRR
2.0倍9101.82倍10.63%
1.5倍8851.77倍10.11%
1.0倍(元本のみ回収)8601.72倍9.58%
0.6倍8401.68倍9.15%
参考:ケース①8601.72倍10.25%

読み取れることは2つです。第一に、TVPIの損益分岐は1.00倍で、再投資先が元本さえ返せば倍率は悪化しません。第二に、IRRの損益分岐は約1.63倍とはるかに高い位置にあります。分配を先送りした分の時間価値を取り返す必要があるためです。つまりリサイクリングはGPの残りの投資機会の質に対するレバレッジであり、投資期間の後半で機会が薄くなっているGPほどLPにとって危険度が上がります。IRRとTVPIの読み分けはファンドリターンとJカーブで扱っています。

加えてLP側には、キャピタルコールの総額が読みにくくなりDPIの立ち上がりが遅れるという負担があります。上の設例でも、1年時点のDPIはケース①が0.12倍、ケース②は0.02倍にとどまります。

ガバナンス:LPACの「承認」に何の効果があるのかを見る

LPAC(Limited Partner Advisory Committee/日本のLPSでは諮問委員会)は、主要LPの代表者で構成される、LPAに基づき設置される任意の機関です。ILPAはLPACを「GPにとっての相談相手(sounding board)として機能し、重要なガバナンス判断、とりわけ利益相反について重要なインプット源となる」と位置づけています。既存記事では継続ファンド、サブスクリプションライン、NAVファイナンスの各場面で関与に触れていますが、ここではLPAC自体の設計を扱います。

構成:最大LPだけで固めない

ILPAは、LPACが利益相反についてGPに助言するという主目的を果たせるよう、作業可能な規模に限定し、コミットメント規模・投資家タイプ・税務ステータス・GPとの関係性の断面を代表する構成にすべきとしています。最大LPだけで構成されたLPACは視点の多様性を欠くとも指摘し、共同投資やセカンダリーのプログラムを持たないLPをあえて含めることを推奨します。運用会社への少数出資や共同投資活動を通じて、委員自身が利益相反当事者になりうるからです。投票設計についても、単一の機関が事実上の拒否権を持たないこと、1機関1票とすること、そしてGPはLPACの委員であってはならないことを求めています。

経産省モデルLPAの条項例は、出資約束金額が一定額以上のLPが指名する者を委員とし、1つのLPが複数名を指名することはできないとしています。GPは正当な理由があれば就任を拒否・解任できますが、他の委員へ事前通知し一定割合以上の反対があれば解任できないという歯止めが置かれています。委員は無報酬で実費のみ組合財産から支払われ、故意または重過失による不法行為の場合を除き責任を負わない構成です。

付議事項:利益相反が中核

ILPAが挙げるLPACのマンデートは広範で、クロスファンド取引などの利益相反、評価方法の変更、キーパーソン関連事項、ファンド期間の延長、集中度制限のテスト、レバレッジの利用、関連当事者取引、クローバック、フィーと費用などが列挙されています。会議アジェンダの推奨要素には、サブスクリプションラインの利用状況・ラインを除いたファンドパフォーマンス・ラインの条件の開示も含まれます(この論点はpe-067で扱っています)。

限界:LPACの承認はLPの利益の保証ではない

ここが最も誤解されやすい点です。ILPAはLPAC委員は、誠実に行動する義務を超えてファンドに対する受託者責任を負わないと一般に理解されるべきとし、委員が適切に補償を受け、他のLPのために行動する受託者と扱われないようにすべきだとしています。裏を返せば、LPACの承認は「GPが手続を踏んだ」ことは意味しても、「その取引がLP全体にとって有利である」ことを保証するものではありません。

だからこそILPAは、GPが自らの利益相反を自らクリアすることは決してあってはならない、重要性は主観的な基準なのですべての利益相反および非独立当事者間取引についてLPACに諮るのが最善である、そしてLPACの不作為が利益相反を解消したとみなされるべきではなく、「みなし同意(deemed consent)」条項を置くべきでない、と重ねて述べています。LPがLPAをレビューするとき、付議事項リストと同じくらい重要なのがこの「みなし同意」の有無です。

日本のLPS固有の制約:業務執行との線引き

日本のLPSでは、LPACの権限設計にもう一段の制約が加わります。投有責法第7条第1項は「組合の業務は、無限責任組合員が決定し、これを執行する」と定めており、経産省モデルLPAの解説は、諮問委員会に権限を付与することによって有限責任組合員が自ら組合の業務の決定および執行を行うことにならないよう留意する必要があると明記しています。有限責任が「業務執行をしない」ことと結びついているためです。

さらに、外国LPが租税特別措置法第41条の21の特例の適用を受けることを前提としたファンドでは、諮問委員会の権限行使が税法上の「業務執行の承認」に該当しないかを検討する必要があるとされています。同解説は、GPを拘束しない意見陳述または助言にとどまるものは業務執行承認に該当しないと考えられるとし、条項例の柱書きに意見陳述・助言はGPを拘束しない旨を明記して非拘束性を担保したうえで、広範な利益相反取引の承認権限を与える号については承認ではなく意見陳述または助言に留めることが考えられる、とも述べています。

つまり日本のLPSでは、LPACの権限を強くすることが、ガバナンス上の望ましさと有限責任・税務上の取扱いの安定性との間でトレードオフになりうるということです。LPが承認権限を求める場合も、どの事項を承認とし、どの事項を助言に留めるかを条項ごとに切り分けて交渉することになります。

時間:投資期間・キーマン条項・GP解任

3つ目のレイヤーは時間です。拠出した資金がいつまで新規投資に使われ、いつ返ってくるのか、途中で止まるのはどんなときかを規定します。

投資期間と存続期間

投資期間は新規投資を行える期間で、経産省モデルLPAは平成22年版の「出資約束期間(Commitment Period)」に代えて「投資期間(Investment Period)」の語を採用し、存続期間10年のファンドであれば4〜5年程度に限定するのが一般的だと整理しています。ILPA Model LPAのターム・シートも、ファンド期間を初回クロージングから[10]年、投資期間を[5]年としたうえで、ファンド期間の1年延長は1回目がLPAC(Advisory Committee)の事前同意、2回目がMajority in Interestの同意、投資期間の1年延長はLPACの事前同意、と承認主体を段階的に置いています。

ILPA Principles 3.0はこれをさらに絞り、期間延長は1年刻みで最大2回まで、まずLPACが承認し、その後LP持分のスーパーマジョリティの承認を得て初めて進めるべきとします。加えて、当初期間の終了後は原則としてフィーを課すべきでないこと、延長の意向はLPACへ最低1〜2四半期前に通知すべきこと、LPの同意が得られないまま期間が満了した場合は1年以内に完全に清算すべきことを求めています。「延長条項が実質的にGPの一存で動くか」は、LPが早い段階で確認する論点です。

Key Person Clause:GPの主要投資責任者が抜けたとき

まず用語の整理をしておきます。ここでいうキーパーソンはGP側の主要投資責任者であり、買収対象会社の特定人物への依存を指す「キーマンリスク」とは別の概念です。同じ語が使われるため混同しないよう注意してください。ILPA Model LPAのターム・シートは、キーパーソン事由(Key Person Event)を、(i)投資期間中に指定されたキーパーソンが、ファンド・運用会社・GP・並行ビークル等の業務に実質的にすべての業務時間と注意を割かなくなった場合、または(ii)チェンジ・オブ・コントロールが生じた場合、と定義します。ここでのチェンジ・オブ・コントロールは、キーパーソンがGPおよび運用会社を支配しなくなること、またはキーパーソンが合計してキャリードインタレストの[75]%未満しか受け取る権利を持たなくなることです。人が辞めなくても、キャリーの配分構造が変われば発動しうる設計です。

キーパーソン条項の発動と帰結 ① キーパーソン事由 主要担当者の離脱・CoC等 ② 投資期間の自動停止 新規投資・コールの原則停止 ③a 治癒された場合 一定割合のLPの承認で再開 ③b 期限内に決議なし 投資期間は終了・新規投資不可 停止中はリサイクリングや借入による新規投資も認められないのが原則
図:ILPA Model LPAおよびILPA Principles 3.0を基に大手町プレップ作成(要件・期限は個別のLPAによります)。

効果は明快です。ILPA Model LPAでは、キーパーソン事由が発生すると投資期間は自動的に停止し、ファンド費用の支払、法的に完了義務を負う投資の実行、停止前に生じた借入の返済等を除き、LPACの同意なくドローダウン通知を出せなくなります。停止はMajority in Interestが是正計画を書面で承認するか停止を放棄するまで続き、停止開始から[90日]以内にいずれもなされなければ投資期間は直ちに終了します。

ILPA Principles 3.0はさらに踏み込み、キーパーソン事由や「for cause」事由による自動停止はスーパーマジョリティのLPが再開を決議しない限り恒久的なものとなるべきとしたうえで、停止期間中、GPは資本のリサイクリングやファンド資産・未払込コミットメントを担保とする借入を使って新規投資その他の支出を行ってはならない(LPAが明示的に認める場合を除く)としています。リサイクリング条項とキーパーソン条項が連動する例で、条項を単体で読んでいると見落とす部分です。

条文の書き方についてILPAが警告しているのは、キーパーソンの定義を広く書きすぎて、実際にキーパーソンと目されている人物が離脱しても発動しないような条文にすべきでないという点です。キーパーソンは肩書にかかわらず、そのファンドの投資成果を決める個人であるべきで、創業者に限られるべきではないとされています。

経産省モデルLPAの解説は、日本の実務事情を反映した論点を追加しています。GPの社内やグループ会社との人事異動により担当者が頻繁に変更されるファンドでキーパーソン条項を設けるのは現実的ではない、という指摘です。金融機関系や事業会社系のファンドでは、特定個人ではなく組織への信頼で出資されている場合があるためです。同解説はまた、キーパーソンを複数の層に分けて発動の条件と効果を変えること、条項には自動発動型とLP投票による発動型がありうること、効果を投資期間の中断ではなく組合の解散に結びつける建付けもありうることを挙げています。

No-Fault DivorceとGP Removal

最後の安全弁が、GPの解任とファンドの早期解散です。ILPA Principles 3.0が推奨する議決要件は、LPA改正・無過失によるGP解任・ファンド解散がスーパーマジョリティ(2/3)、投資期間の停止が単純過半数、投資期間の再開がスーパーマジョリティ、というものです。cause事由がある場合は単純過半数で解任・解散が可能であるべきとされ、問題行為を起こした個人を解雇したことをもって自動的な治癒とみなすべきではないと明記されています。解任時はGPのキャリードインタレストが実質的に没収または相当程度減額されるべきだ、ともしています。なおILPA Model LPAは「Removal Conduct」として詐欺・悪意・故意の違法行為・重過失・組合契約の重大な違反・犯罪行為等を列挙し、[裁判所が認定した後]Majority in Interestの書面通知で早期終了またはGP解任を選択できると規定しています。

LP間の非対称:Side LetterとMFN

ここまでの3レイヤーは「全LPに共通する条件」の話でした。しかし実際には、同じファンドのLPでも実効的な条件は同じではありません。その主因がサイドレター、すなわちGPと特定のLPとの間で組合契約による合意を補完・修正するために結ばれる個別の覚書です。経産省モデルLPAの解説も、本モデル契約はサイドレターの締結を制限する規定を特段置いていないため、許容条項を別途置かなくても締結は可能であると明記しています。

実務でよく登場するのは、公的年金の情報公開制度やERISA・主権免除など投資家固有の規制・法務・税務上の要請、追加の報告様式、特定業種への投資から除外される権利(excuse rights)、持分譲渡の事前同意、LPAC委員を指名する権利、共同投資の優先的な検討機会(Co-investmentで扱っています)、大口・初回クローズのLPに対する手数料の減免です。

MFN:他のLPが取った条件を、自分も取れるか

MFN(Most Favoured Nation/最恵国待遇)条項は、他のLPに与えられたより有利な権利を自分も選択して享受できるとする仕組みです。実務では階層化されるのが一般的で、コミットメント額が大きいLPほど選択できる条項の範囲が広くなります。

ILPA Model LPAはここでLP寄りの設計を示します。ターム・シートによれば、GPは最終クロージング後速やかに全LPへすべてのサイドレターの条件を通知し、あるパートナーに他より有利な権利が与えられている場合、他のパートナーもその有利な権利の利益を受けるとしています。つまりコミットメント額による階層を置いていません。ただし4つの例外があり、(1)特定の規制上・法務上・税務上の状況またはポリシー(加入時までに書面でGPへ開示された内部方針を含む)に固有の権利、(2)受領者の関連会社への譲渡に関する同意またはGPの裁量の制限、(3)excuse rights、(4)LPAC委員を指名する権利、は波及しません。さらにサイドレターの条件はGPおよび運用会社を拘束し、抵触する場合は当該投資家について組合契約に優先すると定められています。

この構造を踏まえると、LP側の交渉論点は4つに整理できます。第一に自分がMFNのどの階層に入るかと、階層のブレークポイントがコミットメント額のどこに置かれているか。第二に選択の手続と期限。第三にカーブアウトの書き方で、「規制・法務・税務上の状況に固有」という例外を広く書かれると、経済条件の優遇までそこに押し込まれる余地が生まれます。第四に全サイドレターの開示があるかです。開示のないMFNは、他のLPが何を取ったか分からない以上、実効性を持ちません。

GP側の論点は対称的です。アンカーLPを獲得するための手数料減免が全LPに波及すればファンド全体の経済性が崩れるため、カーブアウトは広く取りたい。一方でILPA Principles 3.0は、サイドレターの交渉と遵守のコストは相当な規模になりうるため、GPは可能な限り、多くのサイドレターに共通する条項を組合契約本体に取り込むべきとし、交渉コストは組成費用の上限の対象とすべきだとしています。同時にLP側にも、サイドレターの内容を法令上または機関固有の必須事項に限る努力を求めています。

規制による開示は当てにできない

規制に頼れないことも押さえておく必要があります。米国SECは2023年8月23日にPrivate Fund Advisers rule(Release No. IA-6383)を採択し、優遇取扱いルール(preferential treatment rule)で優遇内容の開示等を義務づけようとしました。しかし2024年6月5日、米国第5巡回区控訴裁判所はSECが投資顧問法上の権限を超えたとしてこのルールを全体として無効(vacate)としました(National Association of Private Fund Managers v. SEC, No. 23-60471)。米国でも開示は規制ではなく契約に依拠する状態に戻っており、日本でも一般的な開示義務はありません。LPAのサイドレター通知条項とMFN条項が、実務上ほぼ唯一の防御線ということになります。

LPがDDで確認する順番

ここまでの内容を確認順にまとめます。経済条件で「割に合うか」を判断し、ガバナンスと時間で「壊れたときにどうなるか」を確認し、最後に非対称で「自分の条件が相対的にどうか」を検証する流れです。

レイヤー条項条文で確認すること
経済条件GPコミットメント比率と絶対額、現金拠出か管理報酬相殺か、運用会社と個人のどちらが出すか、案件別選択の可否
経済条件リサイクリング上限比率またはモニタリング閾値、対象となる保有期間、投資期間終了で失効するか
経済条件分配ウォーターフォール計算単位・ハードルの定義・キャッチアップ率・クローバックの担保(pe-025)
ガバナンスLPAC委員の選任方法、付議事項、承認事項と助言事項の切り分け、みなし同意条項の有無
時間投資期間・存続期間延長の回数と刻み、承認主体(LPACか全LPか)、延長期間中の管理報酬の有無
時間キーパーソン条項指名された個人と人数、CoCを含むか、自動停止か投票発動か、治癒の期限と決議要件
時間GP解任・解散無過失解任の議決要件、cause事由の定義、解任時のキャリー没収の程度
非対称サイドレター・MFN全サイドレターの通知義務、MFNの階層とブレークポイント、選択の期限、カーブアウトの範囲
借入サブライン・NAVファシリティ上限比率と1回あたりの期間、担保の範囲、LPACへの報告義務(pe-067・pe-068)

5つの条項は独立した項目ではなく、ファンドの時間軸に沿って互いに引っかかる仕掛けです。四半期評価やファンドCF管理はIPEVガイドライン・ファンドCFモデルもあわせて参照してください。

よくある質問(FAQ)

GPコミットメントは何%あれば十分ですか。

ILPA Principles 3.0は「実質的なエクイティ持分」と述べるのみで比率を示しておらず、ILPA Model LPAのターム・シートも空欄です。LPは比率だけでなく、絶対額、拠出方法(現金か管理報酬の相殺か)、拠出主体(運用会社か個人か)、案件別選択の可否を合わせて評価します。

LPACの承認があれば、その取引はLPにとって安全ということですか。

そうとは言えません。ILPAはLPAC委員が誠実に行動する義務を超えて受託者責任を負わないと一般に理解されるべきだとしています。承認は手続を踏んだ記録であって、取引の妥当性を保証するものではありません。

キーマン条項の「キーパーソン」は、買収先企業のキーマンと同じ意味ですか。

別の概念です。LPAのキーパーソンはGP側の主要投資責任者を指し、その離脱等が投資期間の自動停止を招きます。DDで論点になるキーマンリスクは買収対象会社の特定人物への依存を指します。

リサイクリングがあるファンドは、LPにとって有利ですか不利ですか。

一概には言えません。設例では、再投資先の回収倍率が1.00倍を上回ればTVPIは改善しますが、IRRの改善には約1.63倍を超える必要がありました。上限比率・対象期間・投資期間終了での失効という歯止めがあるかが判断材料になります。

他のLPのサイドレターの内容は開示されますか。

法令上の一般的な開示義務はなく、開示の有無はLPAの規定次第です。ILPA Model LPAは最終クロージング後に全LPへ通知する規定を置いていますが、これはモデルの水準であり実際のLPAが同じとは限りません。

まとめ

LPAは、経済条件・ガバナンス・時間の3レイヤーと、横断的にかかるLP間の非対称という4視点で読むと構造が見通せます。GPコミットメントは金額よりも拠出方法と主体、リサイクリングは上限・期間・失効、LPACは承認と助言の切り分け、キーパーソン条項は発動要件と治癒の期限、サイドレターは全件通知の有無とMFNのカーブアウトが、それぞれの実質的な争点です。

これらの条項は連動しています。キーパーソン事由が発動すればリサイクリングも止まり、投資期間の終了はリサイクリング枠を失効させ、期間延長の可否はLPACの承認にかかります。設例で確認したとおり、リサイクリングはTVPIとIRRを同じ方向に動かすとは限らず、条項の有無だけで有利不利は判断できません。ILPA Principles 3.0・ILPA Model LPA・経済産業省の令和7年版モデルLPAはいずれも公開された一次情報ですから、個別のLPAはこれらを基準線に「どこが動いているか」を確認するのが最短の道筋になります。

出典・参考(2026年8月確認)

  • ILPA, “ILPA Principles 3.0” (2019) — PDF/解説ページ
  • ILPA, “Model Limited Partnership Agreement (Whole-of-Fund Waterfall)” (July 2020) — PDF
  • ILPA, “Model LPA (WOF) – Term Sheet” (July 2020) — PDF/Model LPA ページ
  • 経済産業省産業組織課「投資事業有限責任組合契約書例及びその解説(令和7年版)」令和7年6月 — PDF
  • 投資事業有限責任組合契約に関する法律(e-Gov法令検索) — 条文
  • U.S. Court of Appeals for the Fifth Circuit, National Association of Private Fund Managers v. SEC, No. 23-60471 (June 5, 2024) — 判決PDF(対象規則は SEC, Private Fund Advisers, Release No. IA-6383, 88 Fed. Reg. 63206, Aug. 23, 2023)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。