この記事で分かること

  • キーマン条項の定義と、LPが「人」に投資しているという実態
  • 発動条件(キーマンイベント)と発動後の手続の流れ
  • 投資停止によりドライパウダーと管理報酬がどう動くかの整数設例
  • 日本のファンド契約での規定例と確認ポイント(2026年7月時点)

30秒で分かる定義

キーマン条項(読み方:きーまんじょうこう、英語名:Key Person Provision)とは、あらかじめ指定された中核運用者がファンドの業務から離脱した場合に、新規投資を自動的に停止させる契約条項です。キーパーソン条項、主要人材条項とも呼ばれ、停止の引き金となる事象をキーマンイベントといいます。LPはファンドの投資戦略だけでなく、それを実行する特定の人物の判断力に対して出資しています。その前提が崩れたときに、資金の拠出を止める権利を確保するのがこの条項の目的です。

なぜ実務で重要なのか

  • LP(年金・金融機関):デューデリジェンスで誰をキーマンに指定するかを交渉します。看板パートナーだけでなく、実際に案件を統括する層まで含めるよう求めるのが定石です。
  • GP(運用者):キーマンの範囲が狭すぎると特定個人への依存が露呈し、広すぎると通常の人事異動でも発動しかねません。組織の実態に合った設計が必要です。
  • 投資先・売り手:キーマン条項が発動しているファンドは新規投資ができません。入札で買い手候補の資金調達確度を評価するとき、この状態にないかは確認事項になります。

仕組み(発動から再開までの流れ)

キーマン条項の発動プロセス ① キーマンイベント 離脱・専念義務違反 ② 新規投資の停止 自動・GPの裁量なし ③ 治癒期間 後任の提案(90〜180日) ④a LP多数決で承認 → 投資活動を再開 ④b 承認されず → 投資期間が確定的に終了 停止中も既存投資先の管理・追加投資・売却は継続できるのが通常。停止されるのは「新規」投資のみ。 (期間・要件は契約により異なる。標準的な例)
図:キーマンイベントは自動的に新規投資を止め、LPの承認がなければ投資期間は終了する

キーマンイベントの定義は、単なる退職に限りません。死亡・後見開始のほか、ファンド業務に「実質的にすべての業務時間を充てる」という専念義務に違反した場合や、指定された複数名のうち一定数が離脱した場合(例:4名中2名)を含めるのが一般的です。指定を複数名としつつ、発動を「一定数の離脱」に紐づけることで、通常の人事異動での誤発動を防ぎます。

整数設例で確認する

設例(架空数値・単位:百万円)。コミットメント総額50,000のファンドが、投資期間3年目にキーマンイベントを迎えたとします。投下済みが30,000、未投下が20,000でした。

項目発動前発動後(停止中)再開されず終了
新規投資に使える枠20,00000
追加投資枠(総額の15%)7,5007,5007,500
管理報酬の基準額50,00050,00030,000
年間管理報酬(2.0%/1.5%)1,0001,000450

検算:50,000×2.0%=1,000、30,000×1.5%=450。投資期間が確定的に終了すると、管理報酬の計算基準が投下簿価へ切り替わるため、年間報酬は1,000から450へ、年550の減少となります。残り2年の投資期間で見れば累計1,100の差です。この経済的インパクトが、GPにとって後任を用意する強い動機になります。

LPの側から見れば、未投下の20,000のうち追加投資枠7,500を除く12,500について出資義務が解除され、他の運用先へ振り向けられます。ただし、当初のポートフォリオ計画で見込んでいた分散が得られなくなるため、必ずしも有利な結果とはいえません。キーマン条項は損失を防ぐ仕組みではなく、これ以上の資金拠出を止める仕組みである点を押さえてください。

ファンドキャッシュフローへの影響

停止中も既存投資先の管理、契約済み案件のクロージング、追加投資枠内での投資、そしてExitは継続できるのが通常です。したがって分配は止まりません。止まるのは新規案件へのキャピタルコールだけです。とはいえ、停止が長引けばGPの人材流出が加速し、投資先の企業価値向上活動にも影響が及びます。LP側は、停止期間中のポートフォリオ管理体制について定期的な報告を求めるのが実務です。

また、キーマンイベントは投資期間の早期終了事由であると同時に、次号ファンドの募集にも直結します。中核人材の離脱が公になれば、次号のファンドエコノミクスそのものが成立しなくなる可能性があります。

財務モデル・Excelでの使い方

  • 停止シナリオを1ケースとして持つ:シナリオスイッチに「キーマン発動年」を追加し、その年以降の新規投資をゼロにします(シナリオ設計とスイッチ)。
  • 管理報酬の切替判定:投資期間終了フラグを「年限到来」または「キーマン発動かつ未承認」のORで立て、報酬計算式を切り替えます。
  • ドライパウダーの行方:未投下コミットメントを「追加投資枠」と「解除される部分」に分解する行を置きます。LPへの説明資料でそのまま使えます。
  • リターンへの影響:投資件数が減ることでポートフォリオの分散が落ちるため、モンテカルロや複数シナリオでの分布比較を行うと、LPへの説明力が上がります。

この用語をExcelで「組める」状態にする

キーマン発動シナリオを組み込み、投資停止がドライパウダー・管理報酬・ファンドリターンに与える影響を定量化できるようにする。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

  • 誤解「キーマンが辞めればファンドは解散する」→止まるのは新規投資だけ。既存ポートフォリオの管理と回収は継続します。解散に至るのは、別途GPの解任条項(no-fault divorceやfor-cause removal)が発動した場合です。
  • 誤解「創業者1名を指定しておけば十分」→実務層の指定が重要。看板パートナー1名だけの指定では、実際に案件を回している層が抜けても発動しません。LPは投資判断に関与する複数名の指定を求めます。
  • 確認ポイント:専念義務の定義。「実質的にすべての業務時間」なのか「相当程度の時間」なのかで、他ファンドとの兼務や社外役員就任の許容範囲が変わります。
  • 確認ポイント:再開の決議要件。後任の承認に必要なLPの議決割合(過半数か3分の2か)と、議決権の計算基準(コミットメント額基準)を確認します。

日本実務での扱い

(2026年7月時点)日本の投資事業有限責任組合契約でも、キーマン条項は標準的に規定されます。組合契約において無限責任組合員の業務執行体制を定めるなかで、特定の業務執行者を指名し、その者の離脱を新規投資停止事由とする条文構成が一般的です。国内のGPは金融機関系・独立系・事業会社系と出自が多様であり、金融機関系のGPでは親会社の人事異動によるキーマン離脱のリスクが実際に論点になります。

国内LPの多くは、投資判断の継続性を重視し、キーマン指定者の人数と発動要件を丁寧に交渉します。あわせて、GPの組織としての意思決定プロセス(投資委員会の構成と決議要件)が特定個人に過度に依存していないかを確認するのが実務です。この点は投資委員会の運営そのものと不可分であり、投資仮説と投資委員会の議論とあわせて理解しておくとよいでしょう。ファンド契約全体の構成はLPAで扱っています。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:キーマン条項とは何ですか。発動するとどうなりますか。
「指定された中核運用者がファンド業務から離脱した場合に、新規投資を自動的に停止させる条項です。LPは戦略だけでなく特定の人物の判断力に投資しているため、その前提が崩れた時点で追加の資金拠出を止められるようにしています。発動後、GPは治癒期間内に後任を提案し、LPの多数決で承認されれば投資活動を再開できます。承認されなければ投資期間が確定的に終了し、管理報酬の計算基準も投下簿価へ切り替わります。既存投資先の管理と回収は停止中も継続します。」(30秒回答例)

深掘りでは「誰を指定すべきか」(看板パートナーだけでなく案件を統括する実務層)、「GPにとっての経済的インパクト」(管理報酬の基準額が下がることによる収入減)が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. キーマン条項とGPの解任条項はどう違いますか。
A. キーマン条項は特定人物の離脱という事実に紐づいて新規投資を止める仕組みで、GPの資格自体は失われません。解任条項は、重大な契約違反や不正があった場合(for cause)、あるいは理由を問わずLPの高い議決割合による決議(no fault)でGPを交代させる仕組みで、効果はまったく異なります。

Q. 停止中にGPは管理報酬を受け取れますか。
A. 契約次第ですが、停止期間中も従前どおり受け取れる規定が一般的です。ただし、停止が一定期間を超えた場合に報酬率を引き下げる、あるいは投資期間終了とみなして計算基準を切り替えるという規定を置く例もあり、LPが交渉する論点になります。

出典・参考(2026-07-21確認)

  • e-Gov法令検索「投資事業有限責任組合契約に関する法律」(無限責任組合員の業務執行)(https://elaws.e-gov.go.jp/)
  • 経済産業省「投資事業有限責任組合契約に関する法律に係る資料・モデル契約」(https://www.meti.go.jp/)
  • 金融庁「金融商品取引業者向けの総合的な監督指針」(運用体制に係る着眼点)(https://www.fsa.go.jp/)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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