この記事で分かること

  • ベース・強気・弱気を1セルで切り替えるスイッチ構造の作り方(CHOOSE/INDEX)
  • ケース表の設計:どの前提を振り、どの前提を固定するかの決め方
  • シナリオと感応度の使い分け、出力サマリーの作法

構造:ケース番号1セル+ケース表

操作編はWhat-If分析の章で扱いました。本章はモデル構造側の設計です。核は2つ:①ケース番号の入力セル(1=ベース/2=強気/3=弱気)を1つだけ置く、②前提ごとにケース別の値を横に並べたケース表を作る。現行値は =CHOOSE($ケース番号$, ベース値, 強気値, 弱気値)(またはINDEX)で選びます。

表1:ケース表の設例(売上成長率)
前提ベース(1)強気(2)弱気(3)現行値(CHOOSE)
売上成長率5%8%2%ケース番号に連動
粗利率改善(年)+0.2pt+0.5pt0pt〃
Exit倍率8.0x8.5x7.0x〃

設計の規律

  • 分岐は前提だけ:IFやCHOOSEを計算式の中に書かない。分岐が計算に散らばった瞬間、「今どの世界の数字か」を誰も保証できなくなります(QCの思想)。
  • ケースは「世界観」で作る:弱気=全項目一律▲◯%ではなく、「主要顧客喪失の世界では成長率・粗利・回収サイトがこう連動する」と物語で置く(本物の悲観)。相関のない前提の寄せ集めは、あり得ない世界を計算しているだけです。
  • 振らない前提を決める:税率・会計方針・構造的な費目はケース間で固定。ケース表に載る行を絞るほど、議論は明瞭になります。
  • 現在のケースを常時表示:全シートのヘッダーに「Case: ベース」を表示(ケース番号セルの参照+CHOOSEで名称化)。印刷資料の取り違え事故を防ぐ地味に重要な1行です。

シナリオと感応度の使い分け

  • シナリオ(本章):複数の前提が「セットで」動く世界の比較。物語ベース・少数(3〜4ケース)。
  • 感応度(データテーブル):1〜2個の前提を機械的に振る連続的な地図。
  • 実務の型は「シナリオで世界を選び、その世界の中で感応度を回す」。ケース番号をデータテーブルの入力にすれば、3ケース×WACC5水準の一覧表も作れます。

出力サマリーの作法

  • 結論ページに「3ケース並置表」を置きます:売上CAGR・EBITDA・FCF・(LBOなら)IRR/MOIC(指標の読み方)をケース横並びで。
  • 並置表はケース番号を切り替えずに全ケースを同時表示する必要があるため、CHOOSEの引数を直接参照する形(ケースkの値=ケース表のk列目)で組みます。スイッチと並置の二刀流がこの構造の完成形です。

Q. ケースはいくつ作るべきですか?

A. 3〜4が実務の上限感です。5以上は「どれも信じていない」証拠になりがちで、議論も発散します。ベース・達成可能な強気・本物の弱気、必要なら破局の定性メモで足ります。

Q. Excelのシナリオマネージャーではだめですか?

A. 値の差し替えがダイアログの奥に隠れ、何が変わったかシート上で見えないため、財務モデルでは推奨しません。ケース表方式は前提の全体が常に見え、印刷・レビュー・引き継ぎ(作法)に耐えます。

まとめ

  • 構造はケース番号1セル+ケース表+CHOOSE。分岐は前提だけ、計算式には書かない。
  • ケースは世界観で作り、振らない前提を決める。現在ケースの常時表示で取り違えを防ぐ。
  • シナリオで世界を選び、感応度で地図を描く。結論は3ケース並置表で1枚に。

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本記事について

本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。