この記事で分かること

  • PEファンドの分配は「①出資元本の返還 → ②優先リターン → ③GPキャッチアップ → ④80/20分割」の順に流れること
  • 拠出資本100・分配総額180の設例で、各段階のLP・GP受取額を1段ずつ計算し、合計が180になることを検算する方法
  • 欧州型(ファンド全体)と米国型(ディールバイディール)で、同じ数字でもLP・GPの取り分が変わる理由
  • クローバックエスクローGPコミットメントというLP保護の仕組みと、LPが交渉で必ず確認する論点

本記事はPEファンドのファンドレベルの分配計算に絞って解説します。ファンド構造そのもの(GP・LP・LPSキャリー20%という概念の全体像)はPEファンドの構造を、不動産の案件レベルのプロモート計算は不動産のウォーターフォールとプロモートを先にご覧ください。ここでは、その先にある「実際にいくらがLPに、いくらがGPに行くのか」を数字で最後まで追います。

結論:キャリーは「率」ではなく「順番」で決まる

「キャリードインタレスト(carried interest)は20%」という説明は、正確には「一定の条件を満たした後の利益の20%」という意味です。同じ20%でも、どの順番で・どの単位で計算するかによってGPが実際に受け取る金額は変わります。

分配ウォーターフォール(distribution waterfall)とは、ファンドが投資先の売却などで得た現金を、あらかじめ決められた優先順位に従って上の段から順に満たしながらLPとGPへ配っていくルールです。滝(waterfall)にたとえられるのは、上の段が満たされて初めて残額が下の段へ流れるからです。

本記事の設例では、拠出資本100に対して分配総額180(=総利益80)のとき、LPが164、GPが16を受け取ります。GPの16は総利益80のちょうど20%です。ただし後述のとおり、同じ180でも米国型で計算するとGPは18になります。この2の差を事後的に取り戻す仕組みがクローバック(clawback)です。

分配の4段階

標準的なPEファンドの分配は、次の4段階で構成されます。

  1. ①出資元本の返還(Return of Capital):LPが払い込んだ資本(多くの場合、管理報酬や費用の相当額を含む)が全額LPへ戻るまで、GPは1円も受け取りません。
  2. ②優先リターン(Preferred Return/ハードルレート:LPに年8%程度の最低リターンが支払われるまで、引き続きLP優先です。この8%をハードルレート(hurdle rate)と呼びます。
  3. ③GPキャッチアップ(GP Catch-up):ここで初めてGPが受け取ります。GPの累計受取額が「これまでに分配された利益の20%」に追いつくまで、残額をGPへ優先配分します。
  4. ④キャリー分割(80/20 Split):追いついた後の残額を、LP80%・GP20%で分け合います。
PEファンドの分配ウォーターフォール(4段階) 設例:拠出資本100・分配総額180/ハードル8%(単利)×5年・キャッチアップ100%・キャリー20% ① 出資元本の返還 分配額 100 LP 100 / GP 0 ② 優先リターン 8%×5年 分配額 40 LP 40 / GP 0 ③ GPキャッチアップ 分配額 10 LP 0 / GP 10 ④ 80/20分割 分配額 30 LP 24 / GP 6 残 80 残 40 残 30 合計 180 = LP 164(元本100+利益64)+ GP 16(=総利益80の20%)
図:①から④の順に下の段から満たし、満たしきれずに残った金額だけが次の段へ流れる。単位は任意(百万円・億円のいずれでも比率は同じ)。

完全設例:拠出資本100・分配総額180を4段階で全額配る

前提を明示します。

  • LPの拠出資本:100(期首に一括で払込)
  • 保有期間:5年、ファンド期末に180を一括分配(総利益 180 − 100 = 80
  • ハードルレート:年8%本設例は単利・一括分配で単純化しています(実務では複利のIRRベースで計算されるのが一般的です。後述)。
  • キャッチアップ率:100%(残額の全額をキャッチアップが完了するまでGPへ)
  • キャリー:20%(LP80%・GP20%)
  • 管理報酬(management fee)は本設例では捨象します。

①出資元本の返還

まず拠出資本100が全額LPへ戻ります。
分配額 100(LP 100/GP 0)、残額 = 180 − 100 = 80

②優先リターン(ハードル8%)

単利前提なので、優先リターンは次式で求めます。

優先リターン = 拠出資本 × ハードルレート × 年数 = 100 × 8% × 5年 = 40

分配額 40(LP 40/GP 0)、残額 = 80 − 40 = 40。ここまででLPの累計受取は140です。

③GPキャッチアップ(100%)

キャッチアップの目的は、GPの累計受取額を「これまでに分配された利益総額の20%」に一致させることです。GPがキャッチアップで受け取る金額を X とすると、この時点で分配済みの利益は「優先リターン40 + X」なので、次の式が成り立ちます。

X = 20% ×(40 + X)
X = 8 + 0.2X
0.8X = 8
X = 10

残額40のうち10で足りるため、キャッチアップは完了します。分配額 10(LP 0/GP 10)、残額 = 40 − 10 = 30
検算:この時点で分配済みの利益は 40 + 10 = 50、GPの受取10はその 10 ÷ 50 = 20.0% です。

④80/20分割

残額30を、LP80%・GP20%で分けます。
LP = 30 × 80% = 24、GP = 30 × 20% = 6、残額 0

段階分配額LP受取GP受取LP累計GP累計残額
① 出資元本の返還1001000100080
② 優先リターン(8%×5年)40400140040
③ GPキャッチアップ(100%)100101401030
④ 80/20分割30246164160
合計18016416164160

検算

  • 分配額の合計:100 + 40 + 10 + 30 = 180(分配総額と一致)
  • LP合計:100 + 40 + 0 + 24 = 164/GP合計:0 + 0 + 10 + 6 = 16
  • LP + GP = 164 + 16 = 180(一致)
  • 総利益 = 180 − 100 = 80。GPの取り分 16 ÷ 80 = 20.0%、LPの利益取り分 64 ÷ 80 = 80.0%
  • LPのネットMOIC = 164 ÷ 100 = 1.64倍(ファンド全体のグロスは 180 ÷ 100 = 1.80倍)

ここが重要です。キャッチアップ率が100%で、かつキャッチアップが完了するだけの利益が出ている場合、GPの最終的な取り分は常に「総利益の20%」になります。優先リターンはGPの取り分を減らすのではなく、GPが受け取るタイミングを後ろにずらす装置として働きます(これをソフトハードルと呼びます)。

これに対し、キャッチアップを設けないハードハードルでは、GPは「優先リターンを超えた部分の利益の20%」しか受け取れません。同じ設例だと、残額40を80/20で分けてGPは 40 × 20% = 8、LPは 100 + 40 + 32 = 172(合計180)となり、GPの取り分は半分になります。「キャッチアップの有無」は、キャリー率そのものより結果への影響が大きいのです。

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欧州型(ファンド全体)と米国型(ディールバイディール)

ウォーターフォールの計算単位には2つの型があります。

  • 欧州型/ファンド全体型(whole fund, European waterfall):ファンド全体で拠出資本と優先リターンを回収し終えるまで、GPはキャリーを受け取れません。LPに有利で、バイアウトファンドの主流です。
  • 米国型/ディールバイディール型(deal-by-deal, American waterfall):個別案件ごとにウォーターフォールを回すため、成功案件が出た時点でGPがキャリーを受け取れます。GPに有利で、後述のクローバックがセットになります。

同じ「拠出100・分配総額180」でも、内訳を次のようにすると結果が変わります。

  • 案件A:投資額50、3年後に140で回収(利益90)
  • 案件B:投資額50、5年後に40で回収(損失10)
  • 合計:投資額100、回収180 ← 設例と同じ

米国型の計算(案件Aだけを単独で回す)
①元本返還50(LP50)→残90。②優先リターン = 50 × 8% × 3年 = 12(LP12)→残78。③キャッチアップ X = 20% ×(12 + X)→ 0.8X = 2.4 → X = 3(GP3)→残75。④80/20分割でLP60・GP15。
案件A合計:LP 50+12+60 = 122、GP 3+15 = 18(122 + 18 = 140、GP18 = 利益90の20%)。

案件Bは回収40が投資額50に届かないため、40は全額LPへ。GPは0です。

計算方式LP受取GP受取合計GPの利益取り分
欧州型(ファンド全体)1641618020.0%
米国型(ディールバイディール)1621818022.5%
−2+20+2.5pt

米国型ではLPが162(=122 + 40)、GPが18で合計180。ファンド全体の総利益は同じ80ですが、GPは18を受け取り、これは総利益の22.5%にあたります。案件Bの損失10がGPのキャリー計算に反映されていないためです。

クローバック:先に取りすぎたキャリーを返す

クローバック(clawback/GP clawback)とは、ファンド期間中に先取りしたキャリーが、ファンド全体で見た本来の取り分を超えていた場合に、GPがLPへ返還する義務のことです。米国型を採用する場合、LP側は必ずこの条項を求めます。

上の設例をそのまま続けます。ファンド清算時点で、全体基準(欧州型)で計算し直すとGPの正しい取り分は16です。実際にGPが受け取った額は18でした。

クローバック額 = 受領済みキャリー − 全体基準での正当なキャリー = 18 − 16 = 2

GPが2を返還した結果、LPは 162 + 2 = 164、GPは 18 − 2 = 16 となり、欧州型で計算した場合と完全に一致します(合計180)。

全体基準の再計算も確認しておきます。案件Aの資本50は3年で、案件Bの資本50は5年で回収されたとすると、優先リターンは 50 × 8% × 3年 = 12 と 50 × 8% × 5年 = 20 の合計で32。キャッチアップは X = 20% ×(32 + X)→ 0.8X = 6.4 → X = 8。残額は 180 − 100 − 32 − 8 = 40 で、80/20分割によりLP32・GP8。
GP合計 = 8 + 8 = 16、LP合計 = 100 + 32 + 32 = 164。優先リターンの金額(40か32か)が変わってもGPの最終取り分が16で一致するのは、キャッチアップが100%で完了する限りGPの取り分=総利益の20%に収束するためです。

実務上の注意点として、クローバック義務は多くの場合「GPが支払った税金相当額を控除した後(after-tax)」を上限とする形で制限されます。LPから見ると、この税額控除の設計次第で実際に取り戻せる金額が目減りするため、交渉の重要論点になります。また、GP側の個人(パートナー)が既にキャリーを受け取って退職している場合、返還原資をどう確保するかという実効性の問題も残ります。

エスクロー・GPコミットメント:LP保護の仕組み

クローバックが「事後の返還請求」であるのに対し、そもそも返せなくなる事態を防ぐ仕組みも併用されます。

  • エスクロー(escrow/holdback):GPへ支払うキャリーの一定割合をファンド清算まで第三者口座に留保します。クローバックが発生したとき、まずこの留保分から充当するため、GPの支払能力に依存せずに回収できます。
  • インテリム・クローバック(interim clawback):ファンド清算を待たず、投資期間終了時など中間時点で計算をやり直し、過払いがあれば都度精算する仕組みです。
  • GPコミットメント(GP commitment):GP自身がファンドへ出資する額です。LPと同じ立場で損失を負うため、利益相反を抑える基本的な仕組みとされます。金額はファンドごとに異なるため、目論見の水準ではなく実際のLPA記載額を確認してください。
  • ネッティング(netting/loss carryforward):キャリー計算にあたり、成功案件の利益から失敗案件の損失を先に差し引く条項です。米国型の弱点を大きく緩和します。

これらの条件は、ファンドの経済性そのもの(管理報酬・キャリー・ファンド規模の関係)と一体で理解する必要があります。詳しくはAUMとファンドエコノミクスを参照してください。

LPが交渉で見る論点

LP(機関投資家)側の担当者がLPA(Limited Partnership Agreement)を読むとき、ウォーターフォール周りで特に確認するのは次の点です。

  1. ハードルの複利/単利:実務では優先リターンは複利のIRRベース(年8%で複利計算)で定義されるのが一般的です。本記事の設例は理解しやすさのために単利・一括分配で単純化しています。5年・8%であれば、単利なら累計40ですが、複利では 100 ×(1.08^5 − 1)= 約46.9となり、LPが先に受け取る額が増えます。どちらの定義かで数字が変わるため、必ず条文で確認します。
  2. 計算基礎(何に対する8%か):拠出資本のみか、管理報酬・費用を含めた払込総額か。含める方がLPに有利です。
  3. キャッチアップ率:100%(GPが一気に追いつく)か、50%・80%といった部分キャッチアップか。率が低いほどLPへの分配が前倒しになります。
  4. 計算単位:ファンド全体(欧州型)かディールバイディール(米国型)か。米国型ならクローバック・エスクロー・ネッティングの3点セットが揃っているか。
  5. クローバックの範囲と担保:税引後上限の有無、エスクロー留保の割合、GP個人の連帯保証の有無。
  6. 現物分配(in-kind distribution):上場株などを現金化せず現物で分配できるか、その評価方法は何か。

なお、キャッシュフローが早期にマイナスで推移し、後半に分配が集中するというファンド固有の資金の動きはJ-カーブで、IRRとMOICの読み分けはIRRとMOICの違いで詳しく扱っています。

面接での答え方(30秒回答例)

Q:PEファンドの分配ウォーターフォールを説明してください。
「分配は4段階で流れます。まずLPの出資元本が全額返還され、次に年8%程度の優先リターンがLPに支払われます。その後、GPが累計利益の20%に追いつくまでキャッチアップを受け取り、残りを80対20で分けます。たとえば拠出100・分配総額180なら、100・40・10・30の順に配られ、最終的にLPが164、GPが16です。GPの16は総利益80のちょうど20%になります。ここで計算単位が重要で、ファンド全体で回す欧州型に対し、案件ごとに回す米国型ではGPが先取りしやすいため、同じ数字でもGPは18になります。この差を清算時に返還させるのがクローバックです。」

よくある質問(FAQ)

Q. 優先リターン8%を超えられなかった場合、GPは何も受け取れないのですか。
A. キャリー(成功報酬)は受け取れません。たとえば拠出100に対して分配総額が130にとどまった場合、①元本返還100・②優先リターン40のうち30までしか払えず、LPが130を全額受け取ってGPは0です。ただしGPは投資期間中に管理報酬(management fee)を別途受領しており、これはウォーターフォールとは別建てのため、成果が出なくても運営費用は賄われます。LPが「管理報酬が高すぎないか」を厳しく見るのはこのためです。

Q. ハードルレートが高いほどLPに有利、と単純に考えてよいですか。
A. キャッチアップ100%のファンドでは、ハードルを8%から10%に上げてもGPの最終的な取り分は総利益の20%のまま変わらず、LPが受け取るタイミングが早まるだけです。IRRを重視するLPにとって前倒し効果には意味がありますが、最終配分額そのものを変えたいなら、ハードル水準ではなくキャッチアップ率を下げる、またはハードハードルにする交渉のほうが直接的です。一方、ハードルを高くしすぎるとGPが目標に届かないリスクを取って過度に高リスクな投資へ傾く懸念も指摘されており、水準の設定はバランスの問題です。

まとめ

分配ウォーターフォールは、①出資元本の返還、②優先リターン、③GPキャッチアップ、④80/20分割という順番のルールです。拠出100・分配総額180の設例では、100・40・10・30と流れ、LP164・GP16で合計180になります。GPの16は総利益80の20%と一致し、キャッチアップ100%であれば優先リターンの水準にかかわらずこの比率に収束します。

一方、計算単位を案件ごと(米国型)にするとGPは18を先取りでき、その差2をファンド清算時に取り戻すのがクローバックです。エスクロー・ネッティング・GPコミットメントは、この返還を実効的にするための仕組みです。「キャリー20%」という表面的な数字ではなく、順番・計算単位・キャッチアップ率の3点を確認することが、LP・GP双方の経済性を正しく読む出発点になります。

出典・参考(2026-08-01確認)

  • ILPA(Institutional Limited Partners Association)「Private Equity Principles 3.0」ilpa.org — 分配ウォーターフォール、クローバック、エスクロー等に関するLP側の推奨実務
  • ILPA「Model Limited Partnership Agreement」ilpa.org — LPA条文のモデル
  • 投資事業有限責任組合契約に関する法律(e-Gov法令検索 elaws.e-gov.go.jp) — 日本におけるLPS(投資事業有限責任組合)の法的枠組み

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。実際の分配条件は各ファンドのLPA(組合契約)に従います。