この記事で分かること

  • NAVファイナンスの担保・借入基準・LTVの決まり方と、Fund→SPV→投資先という二段のビークル構造
  • サブスクリプションラインとの違い(担保・使う時期・用途・LPへの影響)
  • 設例でのDPI前倒し効果とIRRへの影響:DPIは上がるが、IRRは借入コストとファンド自身のIRRの大小関係で向きが逆転すること
  • ILPAが2024年7月に公表したガイダンスが求めるLPAC同意と開示項目、LPが確認すべき論点

結論:NAVファイナンスは「投資先の株式価値そのもの」を担保にした、ファンドレベルの借入

NAVファイナンス(NAV-based facility、NAVファシリティ)とは、PEファンドが保有している投資先ポートフォリオの純資産価値(Net Asset Value=NAV)を担保として、ファンドまたはその直下に設けたSPVが借り入れる資金調達です。借入の返済原資は、投資先からの配当やExit代金など、ポートフォリオが生み出すキャッシュフローになります。

ここがサブスクリプション・ラインとの決定的な違いです。サブスクリプションラインが担保にするのは「LPがまだ払い込んでいない出資約束」であり、返済原資はLPへのキャピタルコール、つまり最終的な引受先はLPの信用力です。一方でNAVファイナンスの返済原資はポートフォリオの価値であり、LPの追加コミットメントには原則として依存しません。担保が変われば、リスクの所在も、使う時期も、LPが確認すべき論点も変わります。

借入可能額は、ボローイングベース(借入基準額)としてのNAVにLTV(Loan to Value、掛け目)を乗じて決まります。

借入可能額 = 担保対象ポートフォリオのNAV × LTV上限
NAVはGPが評価したフェアバリュー(未実現評価額)です。LTVはレンダーが投資先の分散度・業種・既存レバレッジ・GPのトラックレコード等をデューデリジェンスした上で設定します。Exitが進みポートフォリオが減っていくと、LTVの上限も引き下げられるのが一般的です。

用途は大きく三つです。①LPへの分配の前倒し、②既存投資先の下支え、③追加投資(アドオン買収やフォローオン)の原資。ILPAのガイダンスは、Fund Finance Associationの推計として、これまでのNAVファシリティの約80%が投資先の支援目的、約20%が分配目的で使われてきたと紹介しています。

そしてLPにとっての最大の論点は「レバレッジの二重化」です。ILPAは、NAVファシリティはファンドレベルのレバレッジに該当し、LPA(有限責任組合契約)上の借入制限のなかに含めて数えるべきだ、という立場を明確に示しています。

仕組み:担保パッケージと二段SPV構造

なぜSPVを噛ませるのか

NAVファイナンスはファンド自身を借入人にする形もありますが、ファンドの下にSPVを設けて借り入れる構造が多く用いられます。ILPAのガイダンスは典型例として二つのSPVを使う構造を挙げています。第一のSPVがNAVファシリティの借入人となり、第二のSPV(ホールドコ)の持分を保有します。第二のSPVは、担保対象となる投資先持分を束ねて保有します。

この構造にはレンダー側の合理性があります。デフォルト時に「ホールドコの株式」へ担保権を実行すれば、その下の投資先群をまとめて掌握できるため、投資先1社ずつに担保設定するより実行が単純です。

担保パッケージの中身は、一般に借入人の口座に入るキャッシュ、投資先からの収益・分配に対する優先的な権利、そして投資先エクイティへの直接・間接の質権設定です。ここで重要なのがクロス担保です。複数の投資先の持分が一つの借入の担保として束ねられるため、うまくいっている投資先も、他の投資先が原因で生じたデフォルトの影響を受け得ます。

NAVファイナンスの基本構造(設例) LP(機関投資家等) PEファンド(LPS) SPV(1)=借入人 NAVファシリティを負担 SPV(2)=ホールドコ 投資先持分を集約して保有 投資先A 投資先B 投資先C 出資約束のコールと分配 100%出資でSPVを設立 ホールドコ株式に担保権 投資先エクイティの保有 担保パッケージ(クロス担保) レンダー 銀行・プライベートクレジット等 借入 150億円 元利返済・キャッシュスイープ 設例:残存ポートフォリオのNAV 1,000億円、LTV 15%(=借入150億円)。投資先3社は相互にクロス担保となる。
図:NAVファイナンスの資金・担保構造(設例)。二段SPV構造はILPAガイダンスが挙げる典型例に基づく。

LTVの維持義務とキャッシュスイープ

NAVファシリティは実行して終わりではなく、契約期間を通じてLTVが上限内に収まっていることが求められます。NAVは四半期ごとにGPが評価し直す未実現評価額ですから、市況や投資先業績によって上下します。LTVが上限を超えた場合、契約に応じて(a)超過分を返済して基準内に戻す、(b)投資先から上がるキャッシュを自動的に返済へ充当する(キャッシュスイープ)といった手当が必要です。財務コベナンツには、LTV比率のほかインタレスト・カバレッジ、担保カバレッジ、残存投資先の分散度などが置かれます。

金利は変動金利(SOFR等の基準金利+スプレッド)が多く、現金払いのほかPIK(現物払い)で元本に組み入れる設計もあります。PIKにすると期中のキャッシュ流出は抑えられますが、元本が膨らむためLTVは自動的に悪化していきます。コスト水準についてILPAは、ストラクチャーと引受の複雑さからサブスクリプションラインよりは金利が高くなる一方、クロス担保が効くため投資先1社が単独で調達する借入よりは資本コストが低くなる傾向がある、と整理しています。

サブスクリプションラインとの対比

両者はどちらも「ファンドファイナンス」と総称されますが、経済的な意味はまったく異なります。サブスクリプションラインはキャピタルコールを後ろ倒しにする短期の運転資金ファシリティで、「まだ現金化していないが法的な支払義務がある債権」を担保にします。NAVファイナンスは、すでに投資に回った資本が生み出した「時価評価された株式価値」を担保にします。

論点 サブスクリプションライン NAVファイナンス
担保LPの未払込コミットメント/コール権投資先エクイティ・分配金・借入人口座のキャッシュ
返済原資LPへのキャピタルコール投資先からの配当・Exit代金
主に使う時期投資期間中(コミットメントが未消化)コミットメント消化後・投資期間終了後の回収期
典型的な期間短期(数か月〜1年程度のリボルビング)複数年(ポートフォリオの回収期間に対応)
主な用途投資実行のブリッジ・事務効率化分配の前倒し・投資先の下支え・追加投資
リスクの所在LPの信用力(コール不履行リスク)ポートフォリオ価値(評価下落・クロス担保)
パフォーマンス指標への影響コール時期の後ろ倒しでIRRが上振れしやすい(MOICはほぼ不変)分配前倒しでDPIが上がる。IRRの向きは借入コスト次第
LPAでの位置づけ多くのLPAが明文で許容(借入条項に規定あり)旧世代のLPAは明文なし。解釈が分かれてきた
表:ファンドファイナンス2類型の比較。ILPAガイダンスの整理を基に作成。

ILPAが問題視しているのは、この最後の行です。NAVファシリティは主にファンドが成熟してから使われるため、それを使っているファンドのLPAは、この商品が普及する前に起草されたものが大半です。結果として、あるGPは「LPA上のファンドレベル借入制限の範囲内だ」と解釈し、別のGPは「借入人はファンドの下のSPVだから制限の対象外だ」と解釈する不統一が生じました。後者の解釈が通ると、LPは投資先レベルより上でどれだけレバレッジが積まれているのかを把握できなくなります。

用途の三類型と、代替手段との比較

用途 典型的な使われ方 LPが確認すべき点
①分配の前倒しExitが滞る局面で、売却を待たずにLPへ現金を返す。分配はリコーラブル(再コール可能)とされることが多いなぜ今このタイミングなのか。次号ファンドの募集状況との関係。リコーラブルか否か。管理報酬の算定基礎は減額されるか
②投資先の下支え投資先の高コストな既存借入のリファイナンス、資本注入による財務体質の改善当初のリザーブ(フォローオン留保資本)が枯渇した理由。特定の不振先を支えるために他の好調な投資先までクロス担保に入っていないか
③追加投資アドオン買収やフォローオン投資の原資。投資期間終了後で追加コールができない局面で使われる投資期間終了後の新規リスクテイクをLPが想定していたか。期待リターンが借入コストを上回る蓋然性
表:NAVファイナンスの用途とLPの確認事項。ILPAガイダンスのPart 2・Part 5を基に作成。

流動性を作るという目的だけを見れば、NAVファイナンスには代替手段があります。投資先1社に追加の借入をさせて配当を吸い上げるDividend Recap(配当リキャップ)、投資先の一部売却やIPO、そしてGP主導セカンダリー(継続ファンド)です。

この三者の違いは、誰の持分がどう変わるかにあります。Dividend Recapはレバレッジを投資先1社の中で完結させます。継続ファンドへの移管は資産を新しいビークルに移し、既存LPに「現金化するか、乗り換えるか」を迫ります。NAVファイナンスは所有関係を変えずにポートフォリオ全体の上へ一段レバレッジを載せます。機動的である反面、LPにとっては最も見えにくい選択肢でもあります。

設例:DPIは確実に前倒しされるが、IRRの向きは借入コストで決まる

以下は説明用の仮設例です。実在するファンドの数値ではありません。

前提:コミットメント総額1,000億円のPEファンド。簡略化のため0年目に1,000億円を一括コールし、4年目に1社をExitして400億円をLPへ分配。5年目時点で残存する投資先3社の合計NAVは1,000億円、DPIは0.40x、TVPIは1.40x(=(400+1,000)÷1,000)です。ここでGPが5年目にNAVファシリティを実行し、調達額の全額をLPへ分配したとします。金利は全コスト込みで年8.0%(説明用の仮定値であり、実際の水準は案件・レンダー・市況によって異なります)、利息は期中PIKで元本に組み入れ、8年目に残存ポートフォリオを一括売却して元利を一括返済するものとします。

ステップ1:借入額 = NAV × LTV
1,000億円 × 15% = 150億円。この150億円をそのままLPへ分配します。

ステップ2:3年後の返済額 = 借入額 × (1+金利)年数
150億円 × (1+0.08)3 = 150億円 × 1.259712 = 188.96億円(うち利息38.96億円)。

実行直後の指標を確認します。DPIは(400+150)÷1,000=0.55xとなり、0.40xから0.15x分が前倒しされました。一方でTVPIは、分配が150億円増える代わりに純資産が借入分だけ減るため、(400+150+(1,000−150))÷1,000=1.40xで変わりません。NAVファイナンスによる分配は、資産を売ってお金を作る行為ではなく、将来の分配を借金で前借りする行為だ。この一点が指標の動き方に表れています。

DPIの推移(設例・ケースA:8年目に1,200億円で売却) 0.0x 0.4x 0.8x 1.2x 1.6x 0年 2年 4年 6年 8年 経過年数 ファシリティなし ファシリティあり(5年目に150億円) 5年目:0.40x → 0.55x(+0.15x) 8年目:1.60x と 1.56x(差=利息0.039x)
図:設例(ケースA)のDPI推移。5年目に前倒しされた0.15x分は、最終的には利息コスト0.039x分だけ目減りして戻る。

3年後の着地を2ケースで検算する

8年目の売却価格を2ケース置いて、最終的なTVPI(この時点ではすべて現金化されているのでDPIと一致)と設定来IRRを比べます。倍率とIRRはここで別方向に動きます。

項目 ケースA・なし ケースA・あり ケースB・なし ケースB・あり
8年目の売却総額(億円)1,2001,2001,5001,500
ファシリティ返済(億円)—188.96—188.96
8年目のLP分配(億円)1,200.001,011.041,500.001,311.04
累計分配(億円)1,600.001,561.041,900.001,861.04
最終DPI(=TVPI)1.600x1.561x1.900x1.861x
設定来IRR7.06%7.01%9.56%9.63%
表:設例の検算結果。キャッシュフローは0年目−1,000/4年目+400/(ありのみ)5年目+150/8年目に残額。IRRは小数第3位を四捨五入。

読み取り①:TVPIは必ず下がる。 どちらのケースでも最終倍率は0.039x(=38.96億円÷1,000億円)ちょうど下がっています。これは支払利息そのものです。ポートフォリオの中身が何も変わらない以上、借入コストは丸ごとLPのリターンから引かれます。

読み取り②:IRRは上がるとは限らない。 ケースAでは7.06%→7.01%と低下し、ケースBでは9.56%→9.63%と上昇しています。分岐点は借入コスト8.0%です。分配の前倒しは、LPから見れば「年8%のコストで資金を早く受け取る」取引ですから、ファンド自身のIRRが8%を下回っていれば割高な前借りとなり、IRRは下がります。逆にファンドのIRRが8%を上回っていれば、割安な前借りとなりIRRが上振れします。

分配前倒しのIRR効果の判定則
ファンドのIRR > ファシリティの実効コスト → IRRは上振れ
ファンドのIRR < ファシリティの実効コスト → IRRは下振れ
いずれの場合も、DPIは実行時点で確実に上がり、TVPIは利息分だけ下がります。

この非対称性が、ILPAが「LPの支持がないままGPが表面上のパフォーマンス指標を改善する誘因(perverse incentives)が生じ得る」と指摘する背景です。募集環境が厳しいときに次号ファンドの訴求材料としてDPIを作る動機は、必ずしもLPの経済的利益と一致しません。ILPAは、LPが影響を切り分けるために「シンセティックDPI(ファシリティを使わなかった場合のDPI)」を自ら作らざるを得ない状況になっている、とも述べています。

なお本記事の設例は、GPのキャリーや管理報酬を捨象しています。実務では、前倒し分配がハードルレートの充足やキャリー支払のトリガーを早め、後にクローバックのリスクを生む可能性があります。ILPAの推奨開示項目にも「ファシリティがキャリー・ウォーターフォールに与える影響」「クローバック発生リスクの有無」が明示的に含まれています。ファンドレベルのキャッシュフローとウォーターフォールを実際にExcelで組む手順はPEファンドレベル・キャッシュフローモデルの作り方で扱っています。

ダウンサイド:NAVが下がったときに何が起きるか

リスクは実行時のLTVではなく、その後のLTVの推移に現れます。同じ設例で、6年目(実行から1年後)の残高を150億円×1.08=162億円とし、NAVが下落した場合のLTVを計算します。

6年目のNAV(億円) 当初比 残高(億円) LTV LTV上限25%との関係
1,000±0%162.016.2%余裕あり
800−20%162.020.3%余裕が縮小
650−35%162.024.9%上限直前
600−40%162.027.0%抵触。12億円の返済で25%へ復帰
表:LTVストレスの設例。LTV上限25%は説明用の仮定値。

最終行の12億円は(162−0.25×600)=12億円で、返済後のLTVは(162−12)÷600=150÷600=25.0%となり基準に復帰します。実際にはこの局面でExitが進んでいなければファンドに手元現金がなく、①投資先からのキャッシュを強制的に返済へ回す、②不本意なタイミングで投資先を売却する、③リコーラブル分配であればLPから資金を呼び戻す、といった選択を迫られます。

ここで効いてくるのがレバレッジの二重化です。投資先各社にはすでにLBOローンが入っており、その返済が優先します。投資先の企業価値が下がると、エクイティ価値(=ファンドのNAV)は企業価値よりも大きな率で下落します。つまりファンドレベルのLTVは、投資先の業績悪化に対してレバレッジ倍で反応します。LTVが15%と低く見えても、投資先レベルの負債と合成した実質的なレバレッジははるかに高い、という点は見落とされがちです。

さらにクロス担保の副作用があります。担保プールに不振先と好調先が混在していると、不振先を起点とする強制返済が、本来なら大きなリターンを生んだはずの好調先の売却タイミングを歪めかねません。分散した資産群のなかで一部の大きな勝ちを取り切ることがPEのリターン源泉である以上、これは単なる財務リスクではなく戦略の根幹に触れる論点です。もっとも、完全な担保権実行は稀であり、パフォーマンスが悪化した場合にはレンダーとGPがリファイナンス等の返済方法を協議することが想定されている、ともILPAは記しています。

LPの論点とILPAガイダンス(2024年7月)

ILPA(Institutional Limited Partners Association)は2024年7月25日、”NAV-Based Facilities: Guidance for Limited Partners and General Partners” を公表しました。(1)仕組みと市場慣行の概観、(2)LPの懸念、(3)透明性とLPエンゲージメントの推奨、(4)LPA文言の提案、(5)推奨開示項目、の5部構成です。対象はPE戦略でファンドレベルの資産担保デットとして組成されるNAVファシリティに限定され、セカンダリー・プライベートクレジット・クローズドエンド型不動産ファンドでの利用は対象外と明記されています。

LPAC同意をいつ求めるか

ガイダンスの中核は、LPAC(LP諮問委員会)の関与に関する2つの推奨です。

ILPAの推奨(Part 3)
① LPAがNAVファシリティの利用を明示的に許容しておらず、かつGPが事前の同意を得ていない場合、GPは資金使途にかかわらず、実行前にLPACの同意を求めるべきである。
② 資金使途が分配である場合は、LPAの文言にかかわらず、実行前にLPACの承認を求めるべきである。

逆に、すでに(LPAまたは過去のLPAC承認によって)利用の同意を得ているGPがポートフォリオ支援のために使う場合には、改めてLPACに同意を求める必要はない、というのがILPAの整理です。この場合は通常のレバレッジと同様に扱い、リスクと費用の管理はGPの責任、ただし実行することとその合理性は全LPに開示すべきとされています。加えて、LPAの規定にかかわらず、ファシリティに伴う利益相反はLPACに諮るべきだとしています。

実行後に全LPへ開示すべき項目

Part 5では、実行後に全LPへ提供すべき標準化された開示項目が12項目挙げられています。主なものを整理します。

区分 開示が推奨される内容
合理性代替手段と比較してなぜファシリティを選んだか。なぜ今、追加の資本が必要なのか
規模・LTVファシリティの総枠、実行済借入額、当初借入時点のLTV
金利・期間固定か変動か、変動なら基準金利(SOFR・EURIBOR・SONIA等)とスプレッド、現金払いかPIKか、期限と返済方法
ストラクチャーSPV・子会社の利用形態、担保として提供した権利(投資先持分・SPV持分・未払込コミットメントの質権設定の有無)
コベナンツ財務コベナンツの内容、キャッシュスイープ・強制返済、インタレストカバレッジ・担保カバレッジ・LTV・残存投資先の分散度
利益相反・同意レンダーが関連当事者かどうかを含む利益相反、必要な同意・ウェイバーの取得状況、格付機関による格付の有無
表:ILPAが推奨する開示項目(Part 5・12項目のうち主要なものを整理)。出所:ILPA “NAV-Based Facilities”(2024)を基に大手町プレップ作成。

ILPAはさらに、LPがGPと対話する際の質問リストも示しています。実務で特に効くのは、NAVファシリティによるレバレッジがLPA上の「ファンドレバレッジ」に算入されているか、分配に使う場合に管理報酬の算定基礎が減額されるか、分配はリコーラブルか、未払込コミットメントへの質権設定はあるか、ファシリティの詳細がSPV経由であっても監査済財務諸表で開示されるか、といった論点です。

LPA文言については、新規ファンドのLPAでNAVファシリティを明確に定義し、ファンド存続期間中に負担できる上限額を定めるべきだとしています。ILPA自身は具体的な上限率を推奨しておらず、ファンド戦略とリスク要因に応じてLP・GP間の交渉で決めるべきだという立場です。既存ファンドについては、SPV/マスターホールディングカンパニーでの借入がファンドレベルのレバレッジ制限から除外される解釈になっていないかをGPに確認するよう、LPに促しています。

市場規模

ILPAガイダンスは、Fund Finance Associationの推計として、NAVファシリティ市場の規模を現時点で1,000億米ドル、2030年までに6,000億米ドルへ拡大する見込みとしています。ただしこれは業界団体の推計であり、公的統計ではない点に留意が必要です。

日本の実務ではどう位置づけられるか

日本国内のPEファンドでも、投資事業有限責任組合等のファンドストラクチャーのもとで、コール事務の効率化を目的としたブリッジ的な借入は行われています。一方でNAVファイナンスは、これまでのところ米欧のミドル〜ラージキャップGPのグローバルファンドで議論されることが多い商品です。日本のGPが運用する国内ファンドでの利用については、一般化できるだけの公開情報が確認できていないため、以下は制度的な整理にとどめます。

担保法制の面では、投資先が非上場の株式会社であれば株式への質権設定が中心となり、株主名簿への記載や、譲渡制限株式であれば会社の承認といった手当が必要になります。ホールドコを噛ませて「ホールドコ株式への担保設定+実行時の一括掌握」という構造を作る発想自体は、日本のLBOでも既に馴染みのあるものです。もっとも、投資先の既存借入との関係には注意が要ります。日本のLBOローン実務では、投資先およびその親会社(買収SPC)に対して株式譲渡・担保設定の制限、支配権変動時の期限の利益喪失、追加借入制限などが詳細に定められるのが通例です。ファンド側で新たにホールドコを設けて投資先持分に担保を設定しようとすれば、既存レンダーの同意が必要になる場面が想定されます。

LP側の実務も変わります。日本の機関投資家がグローバルGPのファンドに出資していて、そのファンドがNAVファシリティを利用していれば、開示・同意の論点はそのまま自らの問題になります。四半期報告や分配通知を読む際に、①分配の原資がExitなのかファシリティなのか、②その分配がリコーラブルか、③ファンドレベルの借入残高とLTVがどこに記載されているか、を確認する習慣は有用です。

よくある質問(FAQ)

NAVファイナンスとサブスクリプションラインは併用できますか。

ILPAガイダンスは、サブスクリプションラインや他の資金調達と組み合わせたハイブリッド型のファシリティとして組成される場合がある、と述べています。ただし担保も返済原資も異なるため、LPから見れば「未払込コミットメントに依存する部分」と「ポートフォリオ価値に依存する部分」を分けて把握する必要があります。

NAVファイナンスで分配を受けると、必ず後で返さなければならないのですか。

必ずではありませんが、ILPAは、ファシリティを原資とする分配は「リコーラブル(再コール可能)とされることが多い」と整理しています。LTV基準に抵触した場合にGPが分配済み資本を呼び戻して返済に充てる設計になっているためです。LPにとっては資金計画が乱れるほか、課税されるLPには税務上の、保険会社等には会計処理上の論点も生じ得ます。

LTV 15%というのは低いのでしょうか。

数字だけを見れば控えめですが、担保となるNAVは投資先の借入を差し引いた後のエクイティ価値です。LTVの水準は単独ではなく、投資先の負債・分散度・残存年数と併せて評価する必要があります。

GPがNAVファシリティを提案してきたとき、LPは何から確認すべきですか。

ILPAの整理に沿えば、まず資金使途(分配か、ポートフォリオ支援か、追加投資か)です。分配目的であれば、ILPAはLPAの文言にかかわらずLPACの事前承認を求めるべきだとしています。次に、当初LTV・金利(固定/変動、現金/PIK)・期限・キャッシュスイープの有無、リコーラブルか否か、そしてLPA上のファンドレバレッジ制限に算入されているか、という順で確認するのが実務的です。

継続ファンド(GP主導セカンダリー)とどちらが良い選択肢ですか。

一概には言えません。継続ファンドは資産の所有関係を組み替え、第三者による価格形成を伴う一方、手続コストと時間がかかります。NAVファイナンスは機動的ですが、レバレッジを一段追加することになり透明性は低くなりがちです。ILPAガイダンスも、NAVファシリティを配当リキャップ・M&A・IPO・資産売却・継続ファンドと並ぶ選択肢の一つとして位置づけています。

まとめ

NAVファイナンスは、ポートフォリオの純資産価値を担保にファンドレベルで借り入れる仕組みであり、担保が未払込コミットメントであるサブスクリプションラインとは経済的な意味がまったく異なります。設例では、NAV 1,000億円・LTV 15%で調達した150億円を分配に充てると、DPIは0.40xから0.55xへ即座に前倒しされる一方、TVPIは利息分(0.039x)だけ必ず目減りしました。IRRは向きが一定せず、ファンド自身のIRRが借入コストを上回るか下回るかで上振れ・下振れが逆転するため、「NAVファイナンスはIRRを上げる」という理解は正確ではありません。リスクは実行時ではなくその後のLTV推移に現れ、投資先レベルのレバレッジと二重になる分、企業価値の下落に対してファンドレベルのLTVはレバレッジ倍で反応します。ILPAは2024年7月のガイダンスで、LPAに明文がなければ実行前にLPACの同意を求めること、分配目的ならLPAの文言にかかわらず事前承認を求めること、実行後は合理性・主要条件・利益相反を全LPへ標準化して開示することを推奨しており、LPとしては資金使途・LTV・金利・リコーラブル性・ファンドレバレッジへの算入の5点から確認するのが出発点になります。

出典・参考(2026年8月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。