この記事で分かること

  • Minimum Equity Contribution(最低エクイティ出資)は「◯%以上」という数字そのものよりも、何をエクイティに算入してよいかという定義で実質が決まること
  • スポンサーの現金出資・経営陣ロールオーバー・優先株・株主ローン・売主ローン・アーンアウトについて、レンダーが一般にどう見るか、どこが交渉になるか
  • 同一の資本構成でも、算入定義を変えるだけでエクイティ比率が41.1%にも29.1%にも見える設例(Uses合計20,800百万円)
  • 「算入されるエクイティの上限」が買収価格の上限を6.59倍と7.40倍に分ける経路と、日本のレンダー実務での見られ方(金融庁・日銀・全銀協の一次情報ベース)

結論:最低エクイティ出資は「率」ではなく「定義」で決まる

LBOの資金調達を詰めていくと、レンダーから「エクイティは最低◯%は入れてほしい」という要請が来ます。これがMinimum Equity Contribution(最低エクイティ出資)です。ところが実務でこの条件を扱うときに効いてくるのは、パーセンテージの数字そのものではありません。分子である「エクイティ」に何を入れてよいかという定義です。

理由は単純で、LBOのSources側に並ぶ資金は、純然たる普通株から純然たるシニアローンまで連続的に分布しているからです。スポンサーが優先株で入れる部分、株主ローンで入れる部分、経営陣が売却対価を再投資するロールオーバー、売主が対価の一部を後払い債権として残す売主ローン。これらはどれも「シニアローンではない」という意味では劣後資金ですが、レンダーから見れば損失吸収力も回収順位もまったく異なります。したがって「エクイティ40%」という一言は、算入範囲を決めない限り数字として確定しません。

先に結論を三点に整理します。第一に、規制やガイダンスの側に「最低エクイティ比率◯%」という一律の数値基準は存在しません。米国の当局間ガイダンスもECBのガイダンスも、示しているのはレバレッジ上限の目線(総有利子負債/EBITDAが6.0倍超は多くの業種で懸念)と、スポンサーの当初拠出額を審査上考慮せよという枠組みまでです。最低エクイティ比率は、あくまで個別のコミットメントレターと融資契約に書き込まれる契約上の条件として存在します。

第二に、その契約条件は「率」と「定義」のセットで書かれます。実務上の交渉の重心は、率よりも定義(適格エクイティ=Qualifying Equity Contributionの範囲)に寄ることが少なくありません。第三に、算入されない資金は多くの場合、逆に総有利子負債(Total Debt)の側に加算されます。つまり算入定義は、エクイティ比率とレバレッジ倍率の両方を同時に動かします。この二重の効き方が、最低エクイティ出資という条件のいちばん実務的な論点です。

なお、「そもそもいくらまで借りられるか」という借入余力そのものの決まり方(倍率・ICR・DSCRの三制約)は本記事では扱いません。Debt CapacityとLBOファイナンスで整理していますので、そちらを前提知識としてお読みください。本記事はその逆側、すなわち残余として決まるはずのエクイティが、なぜ独立した条件として書かれ、何が算入されるのかに絞ります。

レンダーはなぜエクイティを求めるのか

レンダーが最低エクイティ出資を求める理由は、大きく二つに整理できます。ひとつはバッファ、もうひとつはインセンティブです。

企業価値の下落に対するバッファ

LBOローンの返済原資は買収対象会社のキャッシュフローであり、担保の実質は事業そのもの(=企業価値)です。デフォルト時にレンダーが回収できる金額は、その時点の企業価値から回収コストを引いた額に上限が縛られます。したがって、入口の企業価値のうちデットが占める割合が低いほど、企業価値が下落しても元本が毀損しにくいという関係が成り立ちます。

以下は説明用の仮設例です。買収EV 20,000百万円、新規デット合計12,250百万円という構成であれば、デットは入口EVの61.3%(12,250 ÷ 20,000)です。単純化して返済前・Exit時点で考えると、企業価値が38.7%下落するまではデット元本に届きません。一方、エクイティを薄くしてデットがUses合計の75%(15,600百万円)まで膨らむと、デットは入口EVの78.0%となり、下落余地は22.0%まで縮みます。エクイティ比率の差は、そのままレンダーが許容できる企業価値下落幅の差になります。トランシェ別の回収率まで踏み込んだ計算はLender Recovery Analysisで扱っています。

スポンサーに撤退させないためのインセンティブ

もうひとつは、いわゆるSkin in the Gameです。スポンサーの投下額が大きいほど、業況が悪化したときに追加出資や経営支援で立て直そうとする経済的な動機が働きます。逆に投下額が小さいと、早々に持分を放棄して離脱するほうが合理的になる場面が生じます。日本銀行の日銀レビュー「LBOファイナンスの動向とリスク管理」(2024年5月)は、レンダーが分析すべきスポンサーリスクとして「被買収企業の業況悪化時にスポンサーがエクイティの追加拠出を迫られるリスク」と「スポンサーが期中に急遽Exitするリスク(Walk Awayリスク)」を挙げています。最低エクイティ出資は、この後者を抑える設計でもあります。

米国の当局間ガイダンス(Interagency Guidance on Leveraged Lending、FRB・FDIC・OCC連名、2013年3月21日)も、スポンサー支援を審査で考慮する際の評価項目として「The sponsor’s economic incentive to support, including the nature and amount of capital contributed at inception(当初拠出資本の性質と金額を含む、支援を行う経済的インセンティブ)」を明示しています。「性質(nature)」と「金額(amount)」が並記されている点が、本記事の主題そのものです。金額だけでなく、どういう性質の資金として入れたのかが問われます。

ただし、エクイティ比率が高いことはレンダーにとっての安全性であって、スポンサーにとっての正義ではありません。レバレッジを落とせばデレバレッジ寄与が減り、同じExit倍率でもリターンは低下します。最低エクイティ出資は、この綱引きの落としどころを契約に固定する条項だと理解すると扱いやすくなります。

何が「エクイティ」に算入されるのか

ここが本記事の核です。買収のSources & Usesに並ぶ劣後資金それぞれについて、レンダーが一般にどう扱うかを整理します。ただし、以下は市場で見られる一般的な考え方であり、案件・レンダー・時期によって扱いは変わります。実際の案件では必ず個別のタームシートと融資契約の定義規定を確認してください。

資金の種類エクイティ算入についての一般的な見方主な交渉論点
スポンサーの現金出資(普通株)ほぼ争いなく全額算入される中核部分。ファンドからのキャピタルコールで払い込まれる。クロージング時点で実際に払い込まれるか(エクイティ・コミットメント・レターの差入れと着金証跡)。
スポンサーの優先株スポンサーが引き受け、償還義務がなく現金配当が任意であれば算入されることが多い。強制償還条項・現金配当義務の有無。デット類似の設計だと算入を否定されやすい。設計はPreferred Equityの記事を参照。
スポンサーの株主ローンスポンサーが貸主であること、シニアに全面劣後すること、期中の現金利払いがないことを条件に算入される場合がある。劣後合意書(Subordination Agreement)の内容、PIK化の徹底、期限がシニア返済後に設定されているか。
経営陣のロールオーバー対象会社の株式として残る以上、経済実質はエクイティ。算入されることが多いが「スポンサーの現金」ではない点は区別される。レンダーが最低現金エクイティ(Cash Equity)を別途定める場合に除外されうる。設計はRolloverの記事を参照。
売主ローン(Seller Note)売主が貸主であり、支払期日が到来する債権であることから、エクイティ算入は否定されやすい。劣後性の程度、期日、期中利払いの有無。全額デット扱いになると総レバレッジも押し上げる。
アーンアウト将来の条件付支払債務であり、通常はエクイティに算入されない。むしろ将来のキャッシュアウト要因として審査される。支払原資(対象会社のキャッシュフローか、スポンサーの追加出資か)。前者ならコベナンツ設計に影響。
共同投資家・LPのコインベストエクイティとしての性質は同じだが、レンダーは「誰が支配し、有事に誰が意思決定するか」を確認する。支配比率、追加出資義務の所在、クラブディールの場合の意思決定ルール。
表:劣後資金のエクイティ算入についての一般的な整理(案件により扱いは異なります)

この表から読み取っていただきたいのは、算入可否を分ける実質的な基準が三つに収れんするということです。ひとつめは払い戻しの強制力。期日が来れば払わなければならないものはデット寄りに扱われます。ふたつめは期中の現金流出。現金利払い・現金配当が発生するものは、レンダーの取り分と競合するためエクイティとは見なされにくくなります。みっつめは提供者の属性。スポンサーが提供するものは有事の追加支援と一体で評価され、売主や第三者が提供するものは債権者としての行動を前提に評価されます。

「エクイティ」の線引きは定義次第で動く(設例) Sources(調達)構成 (百万円) スポンサー普通株(現金出資) 3,050 スポンサー優先株 3,000 経営陣ロールオーバー 600 スポンサー株主ローン 1,500 売主ローン 400 メザニン(劣後ローン) 1,250 新規シニアローン 11,000 定義A 41.1% 全て算入 定義B 39.2% 売主ローンを除外 定義C 32.0% 株主ローンも除外 定義D 29.1% 現金出資のみ 比率=適格エクイティ ÷ Uses合計 20,800百万円。金額は本文の設例(仮設例)。
図1:同じ資本構成でも、算入定義によってエクイティ比率は41.1%から29.1%まで動く(設例)

設例で確かめる

以下は説明用の仮設例です。LTM EBITDA 2,500百万円の会社を、EV 20,000百万円(8.0倍)で買収するケースを考えます。対象会社に現金はなく、既存有利子負債は3,000百万円で、キャッシュフリー・デットフリーの考え方に沿って全額リファイナンスするものとします。

Uses(資金使途)= 株式取得対価 + 既存借入返済 + 取引費用
17,000 + 3,000 + 800 = 20,800百万円(株式取得対価=EV 20,000 − ネットデット3,000)

Sources側は、新規シニアローン11,000百万円(EBITDAの4.4倍)とメザニン1,250百万円(同0.5倍)を調達し、総有利子負債は12,250百万円(同4.9倍)とします。すると必要なエクイティ相当額は 20,800 − 12,250 = 8,550百万円です。この8,550百万円の内訳を、スポンサー普通株3,050・スポンサー優先株3,000・スポンサー株主ローン1,500・経営陣ロールオーバー600・売主ローン400としましょう。合計は8,550百万円で一致します。

ここで、レンダー側の「エクイティ」の定義を四通りに振ってみます。

定義算入する資金適格エクイティUses比総レバレッジ
定義A(最広義)シニア・メザニン以外のすべて8,55041.1%4.90倍
定義B定義Aから売主ローンを除外8,15039.2%5.06倍
定義C定義Bからさらに株主ローンを除外6,65032.0%5.66倍
定義D(最狭義)スポンサーが払い込む現金のみ(普通株+優先株)6,05029.1%5.66倍
表:算入定義別の適格エクイティ(設例・単位は百万円)。総レバレッジは除外分をTotal Debtに加算した場合。ロールオーバーは除外してもTotal Debtには入らないため定義CとDで倍率は同一

この設例が示しているのは、まったく同じディールが41.1%とも29.1%とも表現できるということです。売主ローン400百万円をデット扱いにするだけでエクイティ比率は39.2%となり、「最低40%」という条件を形式的に満たさなくなります。さらに株主ローンまで除外されると32.0%まで落ち、同時に総レバレッジは4.90倍から5.66倍へ0.76倍上振れします。分子が減るだけでなく分母側のデットが増えるため、二つの制約に同時に触れることになります。ここが最低エクイティ出資という条件の厄介さであり、タームシート段階で定義を潰しておくべき理由です。

契約ではどう書かれるか

最低エクイティ出資は、実務上は次の三か所に現れます。

コミットメントレターと条件先例

入札段階でレンダーが差し入れるデット・コミットメントレターには、融資実行の前提条件(Conditions Precedent)のひとつとして、スポンサーによる一定額以上のエクイティ拠出が並ぶのが通常です。書き方には金額固定型(「◯百万円以上」)と比率型(「Uses合計の◯%以上」)があり、比率型のほうが価格が動いたときに自動追随する反面、Usesの定義(取引費用を含むか、リファイナンス額を含むか)で揉めやすくなります。

比率型を採るなら、分母(Uses合計か、買収EVか、株式取得対価か)、分子に算入される資金の列挙、価格が上振れた場合の追随ルールの三点は文言で確定させておく必要があります。競争的なオークションの最終段階で「価格を上げるとエクイティ条件に抵触する」という事態は避けたいところです。

クロージング条件と証跡

実行時には、エクイティが実際に払い込まれたことの証跡(着金確認、資本金の登記事項、株主名簿など)が求められます。ファンド側はエクイティ・コミットメント・レターを差し入れ、キャピタルコールのタイミングをエクイティブリッジローンやサブスクリプションラインで調整することがありますが、レンダーから見て重要なのはクロージング時点で買収SPCの資本として入っているかです。公開買付など資金の確実性が要求される局面では、サーテン・ファンズ条項との整合も論点になります。

融資契約の定義規定

クロージング後は、融資契約(Facility Agreement)の定義規定が効いてきます。ここで「Equity Contribution」や「Subordinated Debt」「Permitted Payment」といった用語が定義され、レバレッジ比率の分子である「Total Debt(有利子負債)」に株主ローンを含めるかどうかもここで決まります。LBOローン契約とコベナンツの実務で扱っているEBITDA定義と同じ構造で、定義規定は数字ではないのに数字を動かします。

この定義は、期中の資本政策にも波及します。株主ローンをTotal Debtから除外してもらった場合、その見返りとして期中の利息現金払いや元本返済を禁止する条項(Permitted Paymentの制限)が入るのが通常です。すなわち「エクイティとして扱う」ことと「エクイティのように塩漬けにする」ことはセットです。株主ローンの設計と回収の実務は、PIK化の論点と密接に関係します。税務上の取扱い(利息の損金算入や関連者利息への制限)はまた別の論点で、LBOタックススケジュールで扱っています。

期中に入るエクイティ:エクイティキュアとの関係

最低エクイティ出資は入口の条件ですが、エクイティが後から入る場面もあります。代表がコベナンツ抵触時のエクイティキュアです。これは、財務制限条項に抵触したときにスポンサーが追加出資を行い、その金額をEBITDAまたは有利子負債の計算に算入することで抵触を治癒する仕組みです。

入口の最低エクイティ出資とエクイティキュアは、契約上は別条項ですが、経済的には連続しています。レンダーから見れば、どちらもスポンサーが追加でリスクを取る意思と能力があるかを測る仕掛けだからです。日銀レビューも、コベナンツが緩い案件のリスク軽減策として「スポンサーに対してエクイティ比率の引き上げや返済期間の短期化等を求める」という対応を挙げています。

実務でキュア条項を読むときの論点は、使用回数の上限(融資期間中◯回まで、連続する期での使用不可など)、キュア額の使途(EBITDA加算かデット圧縮か)、キュア額の上限(Over-cure禁止の有無)、そしてキュアで入った資金の資本階層(普通株か、劣後ローンか)に集約されます。最後の点は本記事の主題と直結します。キュアで入れた資金が株主ローンだった場合、それが適格エクイティに算入されるか、それともTotal Debtに加算されるかは定義規定次第です。ここが手当てされていないと、キュアしたのにレバレッジ比率が改善しないという結果になりかねません。

適格エクイティの上限が、払える価格の上限になる

ここまでは資本構成の話でしたが、最低エクイティ出資は価格にも跳ね返ります。Ability-to-Pay分析では目標IRRから買収可能価格を逆算しましたが、ここではリターンの制約ではなく調達側の制約から価格上限が決まる経路を見ます。

以下は説明用の仮設例です(前節と同じ会社、EBITDA 2,500百万円)。前提を三つ置きます。第一に、新規デットはEBITDA基準で決まっており12,250百万円(4.9倍)で固定。第二に、経営陣ロールオーバー600百万円と売主ローン400百万円は交渉済みで動かない。第三に、スポンサーがこの案件に投下できる現金エクイティは6,000百万円が上限(ファンドの1件当たり投資上限に相当)。取引費用は買収EVの4.0%とします。

制約① 資金の充足:デット + 現金エクイティ + ロールオーバー + 売主ローン = Uses = 1.04 × EV
12,250 + 6,000 + 600 + 400 = 19,250 = 1.04 × EV
→ EV ≦ 18,509.6百万円(EBITDAの7.40倍)

制約② 最低エクイティ35%(定義D:スポンサー現金のみ算入):現金エクイティ ≧ 0.35 × 1.04 × EV
6,000 ≧ 0.364 × EV
→ EV ≦ 16,483.5百万円(EBITDAの6.59倍)

定義Aのように、ロールオーバーと売主ローンも算入してよいのであれば、制約②は 7,000 ≧ 0.364 × EV となり EV ≦ 19,230.8百万円(7.69倍)まで緩みます。この場合は制約①のほうが厳しく、価格上限は18,509.6百万円(7.40倍)です。

つまり、同じ資金力・同じレバレッジでも、レンダーの算入定義が最狭義か最広義かで、支払える上限が6.59倍と7.40倍に分かれます。差は0.81倍、金額にして2,026百万円です。EBITDA 2,500百万円の案件で20億円強の価格差ですから、競争的なプロセスでは勝敗を決める幅になります。

適格エクイティの定義が買収価格の上限を動かす(設例) 制約① 資金の充足 デット+出せる資金の合計 18,510(7.40倍) 制約② 最低エクイティ35% 定義A(全て算入)で判定 19,231(7.69倍) 制約③ 最低エクイティ35% 定義D(現金出資のみ)で判定 16,484(6.59倍) 15,000 16,000 17,000 18,000 19,000 20,000 実際の上限は最も厳しい制約で決まります。定義Dなら6.59倍、定義Aなら7.40倍で、差は0.81倍。 横軸は買収EV(百万円)で15,000から表示。EBITDA 2,500・新規デット12,250(4.9倍)・スポンサー現金上限6,000の仮設例。
図2:適格エクイティの定義が変わると、支払える買収EVの上限が2,026百万円動く(設例)

実装上のポイントは、LBOモデルのSources & Usesシートに「適格エクイティ」の集計行を独立して置くことです。個々のエクイティ項目の行に「算入フラグ」列を持たせ、フラグを掛けた合計をUses合計で割った比率をコベナンツ・チェック行に置きます。定義A〜Dのようなシナリオはフラグの組み合わせをスイッチで切り替えられるようにしておけば、タームシート交渉中に「この定義を飲むと価格をいくらまで落とさないといけないか」を即答できます。同じ考え方で、Total Debtの集計行にも算入フラグを持たせておくと、レバレッジ比率とエクイティ比率が定義変更に対して同時に整合して動きます。

日本実務での論点

日本のLBOローン実務でも、エクイティ比率はレンダー側の審査基準の一項目として位置づけられています。日本銀行の日銀レビュー(2024年5月)は、金融機関がリスクアペタイトを踏まえて「採り上げガイドライン(被買収会社の事業規模・業種、レバレッジ比率、エクイティ比率、格付等)」を定め、フロント部署とミドル部署がこれに基づいて入口審査を行っていると説明しています。同レビューはまた、資本構造が相対的に脆弱と判断された場合には「スポンサーに様々なリスク軽減策(エクイティの増額、新会社の余剰キャッシュフローによる強制滞留<キャッシュスイープ>等)を要求することが必要となる」としています。

もっとも、日本のレンダーが実際に定量基準として用いる指標は、欧米型の「Equity Contribution ◯%」とは少し違う顔をしています。金融庁の「国内LBOローンに係るモニタリングレポート(2025)」は、入口審査の新規採上基準として「レバレッジ比率、のれん・純資産比率等の定量的な採上基準」という表現を用いています。のれん・純資産比率は、買収プレミアムの大きさと買収後の自己資本の薄さを同時に測る指標であり、実質的にはエクイティ拠出の厚みを別角度から見ていることになります。買収SPCと対象会社の合併後に、のれんが純資産を上回る規模になることも多いという構造上の特徴を反映した、日本的な運用と言えます。

この基準がどの程度整備されているかには、金融機関ごとの差があります。金融庁が2024年7月25日に公表した「大手銀行・地域銀行 国内LBOローンに関するアンケート調査結果」によれば、大手銀行9行のうち6行が定量的な新規採上基準を持つと回答した一方、LBOローンの取組実績があると回答した地域銀行77行のうち48行は、レバレッジ比率やのれん・純資産比率などの定量的な採上基準を定めていないと回答しています。相手行によって「最低エクイティ」の運用がまったく違いうることは、資金調達を組む側として認識しておく価値があります。

レバレッジ水準そのものについても、日米には差があります。全国銀行協会の「国内LBOファイナンスの課題に関する報告書(2023年度)」(2024年3月25日)は、米国のLBOローンの加重平均有利子負債/EBITDA倍率が概ね5倍強であるのに対し、国内については「市場参加者からは6倍を超える案件も多くみられるとの声があり、相対的に日本のレバレッジ水準は米国と比較して高止まりしている状況にあると考えられる」と記しています。同報告書は、この背景として米国当局のガイダンス(6倍超のレバレッジは多くの業種で懸念があるという目線)が米国側のレバレッジを抑制している面を指摘しています。ECBも2017年5月の「Guidance on leveraged transactions」で、総有利子負債/EBITDAが6.0倍を超える案件のシンジケーションは例外的であるべきとしています。日本の市場構造や資本構成の一般論は日本のLBOローン実務で扱っています。

もうひとつ、日本特有の論点としてスポンサー評価があります。金融庁のモニタリングレポート(2025)は、課題事例として「スポンサーの概要、自行のLP出資・LBOローン実績等の形式的な検証のみで、過去の不芳事例や有事における対応など、スポンサーの経営支援能力等に対する評価を行う枠組みを整備していない」ことを挙げています。裏を返せば、レンダーの期待値は形式的なエクイティ比率の充足だけでなく、有事にスポンサーが何をするかの実績に向かっているということです。エクイティ拠出の「金額」に加えて「性質」が問われるという冒頭の論点は、日本でもスポンサー評価という形で現れます。スポンサーサポートの実績が、次の案件の調達条件に効いてくる構造です。

よくある質問(FAQ)

最低エクイティ比率の「相場」は何%ですか。

一律の相場を示すことはできません。エクイティ比率は買収倍率・レバレッジ水準・業種・金利環境で動きますし、算入定義が違えば同じディールでも数字が変わるためです。規制・ガイダンスの側にも数値基準はなく、公表されているのはレバレッジ側の目線(総有利子負債/EBITDA 6.0倍超は多くの業種で懸念)にとどまります。実務では「相場を当てにいく」のではなく、当該案件のレバレッジ上限から残余として決まる比率を出し、それが相手行の採上基準と整合するかを確認する順序になります。

経営陣のロールオーバーは、レンダーにとってスポンサーの現金出資と同じ価値がありますか。

損失吸収という点では同じ株式であり、経営陣の当事者意識という副次的な効果もあります。ただし、有事の追加出資能力という点では明確に違います。経営陣は追加でまとまった資金を出せないことが通常だからです。このためレンダーが最低現金エクイティ(Cash Equity)を別枠で定め、ロールオーバーを除外することがあります。設計上の論点はManagement RolloverとOption Poolの記事を参照してください。

売主ローンをエクイティに算入してもらうことはできますか。

一般論としては難しく、算入されるとしても条件が厳しくなります。売主は債権者として行動する立場であり、期日が到来すれば支払いを求めるためです。算入を求める場合は、シニアへの全面劣後、期中の現金利払いの不発生、シニア完済までの元本返済禁止といった合意が前提になります。逆に算入が否定されると、多くの場合はTotal Debtに加算されてレバレッジ比率も悪化しますので、二重の影響を見込んでおく必要があります。

エクイティ比率が高いほど良い案件、と考えてよいですか。

レンダーの安全性という一面ではそうですが、スポンサーのリターンは低下します。またエクイティが厚い案件は、そもそもデットが付かない事情(キャッシュフローが不安定、業種特性、規模が小さい)を反映していることもあります。エクイティ比率は単独の良し悪しの指標ではなく、レバレッジ上限・返済計画・ダウンサイド耐性とセットで読む数字です。

買収価格が入札の最終盤で上がったとき、最低エクイティ条件はどう効きますか。

比率型で書かれていれば、価格上昇に応じて必要エクイティが自動的に増えます。デットがEBITDA基準で固定されている場合、価格上昇分はほぼ全額がエクイティ負担になりますので、比率条件は通常なら自然に満たされます。問題が起きやすいのは、増額分を売主ローンやアーンアウトで賄おうとする場合です。これらは算入されないことが多いため、比率を悪化させながら価格だけ上げる形になり、条件先例に抵触しかねません。価格を動かす前に定義を確認する、という順序が実務的です。

まとめ

Minimum Equity Contributionは、レンダーがスポンサーに求める最低エクイティ出資の条件ですが、その実質は比率の数字ではなく、何をエクイティに算入するかという定義にあります。スポンサーの現金出資は争いなく算入され、優先株と株主ローンは設計次第、経営陣のロールオーバーは扱いが分かれ、売主ローンとアーンアウトは算入されにくい、というのが一般的な整理です。

算入されなかった資金は多くの場合Total Debtに加算されますので、定義はエクイティ比率とレバレッジ比率を同時に動かします。本記事の設例では、同じ資本構成が41.1%とも29.1%とも表現でき、レバレッジも4.90倍と5.66倍に分かれました。そしてこの定義の違いは、支払える買収価格の上限を6.59倍と7.40倍、金額にして2,026百万円分だけ動かしました。

日本の実務では、エクイティ比率はレンダーの採り上げガイドラインの一項目として位置づけられる一方、定量基準としては「のれん・純資産比率」のような別の指標が使われることもあり、金融機関ごとの整備状況にも差があります。相手行の基準を早い段階で確認し、タームシートの定義規定に落とすところまでを一連の作業として扱うのが安全です。

出典・参考(2026年8月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。