この記事で分かること
- 普通株式の3つの基本的な権利(配当・残余財産の分配・議決権)と、会社法上の位置付け
- 優先株式(種類株式)との違いと、分配で後ろに回る理由
- 整数設例で、売却対価が変わると普通株式1株あたりの価値がどう変わるかを確認
- 日本の公開会社・非上場会社での扱いと、キャップテーブルでの持ち方
30秒で分かる定義
普通株式(Common Stock)とは、剰余金の配当・残余財産の分配・議決権について特別の定めのない、標準的な株式です。「普通株」「コモンストック」とも呼びます。株主は株式について、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、株主総会における議決権を有します[1]。優先株式のような優先権がないぶん、会社の価値が増えれば最も大きく恩恵を受け、減れば最初に損失を負います。会社法に「普通株式」を定義する条文はなく、実務上は、内容の異なる種類株式を発行する会社で、特別の定めのない標準の株式をこう呼びます。
なぜ実務で重要なのか
VC・PEは投資契約で、創業者・従業員が持つ普通株式と、投資家が持つ優先株式の権利の差を設計します。IB・FAは株式価値を1株あたりに落とすとき、普通株式に帰属する価値を計算します。経営企画・財務は、EPSや株主還元の議論で普通株式数を前提にします。優先株式の分配設計はPreferred Equityのエグジット・ウォーターフォール、清算優先権の積み上げは清算優先権のスタッキング交渉実務で扱っています。
計算式(ま たは仕組み)
会社法は、剰余金の配当・残余財産の分配・議決権などの事項について内容の異なる二以上の種類の株式を発行できると定めています[2]。種類株式を発行する場合は、その内容と発行可能種類株式総数を定款で定めます。逆に、特別の定めのない株式が普通株式です。
| 項目 | 普通株式 | 優先株式の例(定款・契約の定めによる) |
|---|---|---|
| 配当 | 配当を受ける権利はあるが、優先する定めはない | 普通株式に先立つ配当を受けることができる定め等 |
| 残余財産の分配 | 優先株式への分配後の残りを分配 | 一定額を先に受け取る清算優先権等 |
| 議決権 | 株主総会の議決権を持つ | 議決権が制限される定めが置かれることもある |
なお、配当を受ける権利と残余財産の分配を受ける権利の全部を与えない旨の定款の定めは効力を有しません[1]。普通株式を含む株式は、少なくとも経済的な権利の一部を必ず持つ設計になっています。優先株式の概要は種類株式
整数設例で確認する
設例(架空数値)。会社が売却され、株主へ分配できる対価が 1,200 百万円になる場面で、売却対価ごとの分配を比べます。株主は普通株式 6,000 千株と、A種優先株式(投資額 400 百万円)です。A種優先株式は、設例の前提として「投資額の1倍を優先して受け取る(非参加型)か、普通株式2,000千株相当に転換して普通株式と同順位で受け取るか、有利な方を選ぶ」条件とします(売却代金の分配にこの優先順位を適用する定款・株主間契約の定めがある前提です)。転換の基準価額は 400百万円÷2,000千株=200円です。
| 売却対価(百万円) | A種の選択 | A種の受取(百万円) | 普通株式の受取(百万円) | 普通株式1株あたり(円) |
|---|---|---|---|---|
| 300 | 優先額を受領 | 300(対価の全額) | 0 | 0 |
| 1,200 | 優先額を受領 | 400 | 800 | 約133 |
| 4,000 | 普通株式へ転換 | 1,000 | 3,000 | 500 |
途中式:売却対価 1,200 のとき、転換した場合の受取は 1,200×2,000÷(6,000+2,000)=300 で、優先額 400 の方が大きいため優先分配(優先額の受取)を選びます。普通株式は 1,200−400=800 で、800百万円÷6,000千株≒133.3円/株。売却対価 4,000 のとき、転換後の持分は 2,000÷8,000=25%、受取 4,000×25%=1,000 は優先額 400 を上回るので転換し、普通株式は 4,000−1,000=3,000、3,000百万円÷6,000千株=500円/株です。対価が 300 では優先額 400 に満たず、優先株式が全額を受け取り、普通株式はゼロになります。
この設例は、普通株式が「優先株式の後」に分配を受けるため、売却価値が低いほど不利になり、高いほど優先株式の優先額の影響が薄れることを示しています。配当・利息・費用は考えていません。
PL・BS・CFへの影響
普通株式の払込金額は、貸借対照表の純資産(資本金・資本剰余金)に計上されます。配当は、配当原資に応じてその他利益剰余金またはその他資本剰余金を減らす処理で[3]、損益計算書の費用にはなりません。一般に、1株当たり当期純利益は普通株式に係る当期純利益を普通株式の期中平均株式数で割って求めるため、優先株式の配当や転換の有無が普通株式1株の指標に影響します。自己株式の取得は純資産のマイナスです。株式数は減りますが、会社の現金と株式価値の総額も減るため、1株あたりの価値が上がるかは取得価格(割安か割高か)や資金調達・事業への影響によります(例:株式価値1,000・100株の会社が1株10で10株を取得すると、900÷90=10で変わりません)。キャッシュフロー計算書では、株式の発行は財務活動によるキャッシュフロー(収入)、配当と自己株式の取得は同(支出)に表示されるのが通常です。
財務モデル・Excelでの使い方
- キャップテーブル:株主ごと・種類ごとに「普通株式」「優先株式(転換後株式数)」の列を作り、完全希薄化ベースの株式数を合計します。
- 分配ウォーターフォール:優先株式の受取は
=MAX(MIN(優先額,売却対価), 転換後持分*売却対価)のように、優先分配と転換のうち有利な方を選ぶ式にします(非参加型・転換権付の場合)。 - 普通株式の受取:
=売却対価−優先株式の受取、1株あたりは=普通株式の受取/普通株式数。
売却対価を横軸に取った感応度表を作ると、優先株式が優先分配を選ぶ領域と転換を選ぶ領域の境目(設例では転換後持分25%×対価=400となる対価1,600百万円)が見えます。
この用語をExcelで
普通株式と優先株式のキャップテーブルを作り、売却対価ごとの分配ウォーターフォールと普通株式1株あたりの受取を計算できるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「普通株式は議決権があるから一番強い」→ 議決権の面では強い一方、経済的な分配では優先株式の後ろに回ります。支配権と経済的な優先は別々に設計されます。
誤解2:「普通株式の株価=会社の株式価値÷全株式数」→ 優先株式が残る会社では、優先株式の分配額を差し引いた後の価値が普通株式に帰属します。設例の 1,200 百万円の場合、全株式で割ると 150円/株になりますが、普通株式の実際の受取は約133円/株です。
誤解3:「どの株式も同じ内容」→ 種類株式を発行する会社では、普通株式と優先株式の権利が定款で異なります。投資契約や定款で内容を確認します。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)日本の上場会社の株式は、ほとんどが普通株式です。非上場のスタートアップでは、VCが優先株式(種類株式)で出資し、創業者・従業員が普通株式を持つ構造が一般的です。会社法は、剰余金の配当・残余財産の分配・議決権制限などについて種類株式の発行を認めていますが、公開会社と指名委員会等設置会社は、種類株主総会で取締役・監査役を選任する旨の定めのある種類株式(第108条第1項第9号)を発行できないとされています[2]。議決権に差をつける上場会社の例はデュアルクラス構造と創業者支配の維持で扱います。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:普通株式と優先株式は、売却時の分配で何が違いますか。
「優先株式は定款や契約で定めた優先額を先に受け取れますが、普通株式は優先株式への分配の後の残りを受け取ります。売却価値が低いと普通株式の取り分は小さくなり、高いと優先株式が転換して同順位で分け合うので差が小さくなります。」
深掘りの観点:非参加型と参加型で、優先額を受け取った後の残りへの関与が変わることを説明できると実務理解を示せます。
よくある質問(F AQ)
Q. 普通株式にも種類はありますか。
A. 特別の定めのない株式が普通株式ですが、会社が議決権や配当などを異なる内容にした別の種類株式を発行している場合、普通株式はその「標準」に当たります。議決権に差をつけた株式を発行する場合も、種類株式として定款に定めます。
Q. 優先株式は貸借対照表で負債ですか。
A. 日本基準では、会社法上の株式(種類株式を含む)の払込額は純資産の株主資本に計上します。IFRSでは、現金を引き渡す義務の有無で金融負債か資本かを分類するため(IAS第32号)、償還義務のある優先株式などは負債になり得ます[4]。日本基準とIFRSのどちらを適用しているかを分けて確認します。
出典・参考(2 026-11確認)
- 会社法 第105条(株主の権利). e-Gov法令検索. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086(2026年11月参照)
- 会社法 第108条(異なる種類の株式). e-Gov法令検索. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086(2026年11月参照)
- 会社計算規則 第23条(減少する剰余金の額). e-Gov法令検索. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418M60000010013(2026年11月参照)
- IFRS財団「IAS 32 Financial Instruments: Presentation」. https://www.ifrs.org/issued-standards/list-of-standards/ias-32-financial-instruments-presentation/(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。