この記事で分かること

  • デュアルクラス構造の定義と、米国での創業者支配権維持の仕組み
  • 東証の1株1議決権原則と、日本での代替スキーム(表)
  • 議決権比率を求める整数設例
  • 日本で複数議決権株式の新規上場が事実上難しい理由(2026年8月時点)

30秒で分かる定義

デュアルクラス構造(Dual-Class Share Structure、読み方:でゅあるくらすこうぞう)とは、普通株を議決権数の異なる複数の種類(例:創業者が保有するクラスBは1株10議決権、一般株主が保有するクラスAは1株1議決権)に分け、経済的な保有比率以上の議決権を創業者に集中させることで、上場後も創業者の支配権を維持する株式設計です。米国のテクノロジー企業のIPOで広く用いられていますが、日本の証券取引所は原則として1株1議決権を求めるため、そのままの形では利用できません。

なぜ実務で重要なのか

VC・グロースエクイティは、投資先が米国上場を検討する場合、デュアルクラス構造の設計がエグジット時の企業価値評価やガバナンス評価に影響することを理解しておく必要があります。創業経営陣にとっては、上場後も長期的な経営方針を維持したい場合の選択肢の一つです。日本国内での上場準備企業にとっては、東証の規制上デュアルクラス構造をそのまま採用できないため、拒否権付株式等の代替策の検討が実務上の論点になります。この経済的持分と議決権の乖離はキャップテーブルの表記だけでは把握しづらく、別途議決権比率の管理が必要です。

仕組み:米国型デュアルクラスと日本の代替スキーム

項目米国(デュアルクラス)日本(代替スキーム)
基本原則複数議決権株式の上場を容認する取引所が多い東証は原則1株1議決権を要求
代替手段拒否権付株式(会社法108条1項8号)、属人的な定め(非公開会社限定)
上場時の扱い上場後もクラスB株式を維持可能な例が多い属人的株式は公開会社移行時に普通株へ転換が必要

整数設例で確認する

設例(架空数値)。米国型デュアルクラスを仮に採用した場合の議決権比率を計算します。

  • 創業者保有株式:15百万株(クラスB、1株あたり10議決権)
  • 一般株主保有株式:85百万株(クラスA、1株あたり1議決権)

ステップ1:創業者の議決権数。15 × 10 = 150(単位:議決権)。

ステップ2:一般株主の議決権数。85 × 1 = 85

ステップ3:総議決権数と創業者の議決権比率。150 + 85 = 235、150 ÷ 235 = 約63.8%

経済的な保有比率は 15 ÷ (15+85) = 15%にすぎませんが、デュアルクラス構造により議決権比率は約63.8%まで引き上がります(検算:15×10=150、85×1=85、150+85=235、150÷235≒0.638、15÷100=0.15)。日本ではこの設計自体が上場時に使えないため、同等の支配力を確保するには拒否権付株式などの別の手段を組み合わせる必要があります。

投資判断への影響

VC・機関投資家は、デュアルクラス構造を採用する投資先に対して、創業者の経済的持分比率を上回る議決権集中がガバナンス上のリスクになり得る点を評価に織り込みます。一方で、上場後の短期的な株価圧力から経営を守り、長期戦略を実行しやすくするという肯定的な評価もあり、投資判断は一様ではありません。日本国内での投資契約においては、デュアルクラスの代わりに契約上の拒否権条項を設定して同様の効果を狙う設計が一般的です。

実務での調べ方・確認手順

  • 米国上場企業の目論見書(S-1)でクラスごとの議決権数・保有者を確認する
  • 日本企業の場合、定款・登記事項証明書で種類株式の内容(拒否権の対象事項)を確認する
  • 非公開会社が属人的な定め(会社法109条2項)を採用している場合、上場準備の過程で普通株式への転換が必要になる点を確認する

この用語を実務で「使える」状態にする

米国型デュアルクラスの議決権比率を数値で理解し、日本での代替スキームとの違いを投資判断に反映できるようになる。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「日本企業も上場後にデュアルクラス株式を発行できる」→ 正しくは、東証の上場規程上、複数議決権株式を新規に上場させることは原則として認められていません。既に上場している会社が事後的に導入することも実務上極めて困難です。

誤解2:「拒否権付株式とデュアルクラス構造は同じ効果」→ 正しくは、拒否権付株式は特定の決議事項に対する拒否権にとどまり、日常的な議決権比率そのものを引き上げるものではありません。効果の範囲が異なる点に注意が必要です。

日本実務での扱い

(2026年8月時点)日本取引所グループの上場規程は、原則として1株1議決権の株式のみを上場対象とし、複数議決権株式の新規上場を事実上認めていません。非公開会社であれば会社法109条2項の属人的な定め(特定の株主について議決権数を異ならせる定款規定)により類似の効果を得られますが、この制度は公開会社(株式譲渡制限のない会社)には適用されないため、上場準備の過程で普通株式へ転換する必要があります。そのため日本の上場準備企業が創業者支配権を維持する手段としては、会社法108条1項8号の拒否権付株式や、投資契約上の拒否権条項の活用が中心となります。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:米国のデュアルクラス上場と日本の制約の違いを説明してください。
「米国では複数議決権株式による創業者支配権の維持が広く容認されていますが、東証は原則1株1議決権を求めるため同様の設計は使えません。日本で類似の効果を得るには、会社法108条1項8号の拒否権付株式や投資契約上の拒否権条項を組み合わせるのが実務上の代替策です。ただしこれらは特定の決議事項に対する拒否権にとどまり、議決権比率自体を引き上げるものではない点が本質的な違いです。」

よくある質問(FAQ)

Q. なぜ日本の取引所は複数議決権株式を認めていないのですか?
A. 株主平等原則との整合性や、少数株主の権利保護の観点から、日本の取引所は原則として1株1議決権を上場審査上の前提としています。

Q. 日本企業が海外で上場する場合はデュアルクラスを使えますか?
A. 上場先の取引所がデュアルクラス構造を容認していれば理論上は可能ですが、実際の採用には現地の開示規制や投資家対応など別途の検討が必要です。

出典・参考(2026-08確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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