この記事で分かること
結論:自己資本比率は「持 っている資本」÷「リ スクの重み付き資産」
バーゼル規制における銀行の自己資本比率は、単純化すると「銀行が保有する資本の額」を「リスクに応じて重み付けした資産の額」で割った比率です。分子は普通株式や内部留保などの質の高い資本を中心に積み上げた自己資本、分母はリスク・アセット(Risk-Weighted Assets、RWA)と呼ばれる金額で、貸出や有価証券などの個々の資産を信用リスクの大きさに応じて重み付けし直したものです。分母は銀行の総資産そのものではなく、リスクの度合いに応じて圧縮・割り増しされた金額である点が、事業会社の自己資本比率(自己資本÷総資産)や、後述するレバレッジ比率(自己資本÷総エクスポージャー)と大きく異なります。
分子側の資本も一律ではありません。損失をどれだけ早く・確実に吸収できるかによってCET1(普通株式等Tier1)・その他Tier1(AT1)・Tier2の3階層に分類され、その組み合わせからCET1比率・Tier1比率・総自己資本比率という3つの比率が算出されます。さらに、これらの最低水準の上に資本保全バッファーやカウンターシクリカル・バッファー、G-SIB(グローバルなシステム上重要な銀行)・D-SIB(国内のシステム上重要な銀行)向けの追加資本賦課が積み増されます。加えて、国際的に活動する銀行が満たすべき「国際統一基準」と、国内業務に専念する銀行向けの「国内基準」とでは、最低水準そのものが異なります。以下では、この計算を分子(自己資本)・分母(RWA)・上乗せ(バッファー)の順に整理したうえで、仮設のバランスシートで実際にCET1比率を検算し、日本特有の二重基準の扱いまで確認します。姉妹記事の銀行のストレステストと資本計画ではこの自己資本比率がストレスシナリオの損失でどう動くかを扱い、銀行分析の主要KPI体系では自己資本比率を含む複数指標の全体像を扱うため、本記事ではCET1・RWA・バッファーの計算そのものに絞って解説します。
バーゼル規制の全体像:ⅠからⅢ、そして最終化へ
バーゼル規制は、G20主要国の中央銀行・銀行監督当局が参加するバーゼル銀行監督委員会(BCBS)が策定する、銀行の自己資本に関する国際的な合意です。法律そのものではなく、各国の当局がこれを国内法令・告示に落とし込むことで実際の規制になります。1988年に合意された当初の枠組み(バーゼルⅠ)は、資産をごく大まかな区分でリスク・ウェイト付けする単純な仕組みでした。2004年に合意されたバーゼルⅡでは、最低所要自己資本・監督上の検証・市場規律という「3つの柱」の構造が整理され、銀行が自らのモデルで信用リスクを計測するIRB(内部格付手法)が導入されました。
2008年の世界金融危機では、多くの銀行が実質的に損失を吸収できない質の低い資本しか積んでいなかったことや、好況期に積み上がったリスクが景気後退局面で一気に顕在化したことが問題になりました。これを受けて合意されたバーゼルⅢでは、資本の「量」だけでなく「質」を厳格化し、CET1という最高品質の資本を中心に据えたうえで、資本保全バッファーやカウンターシクリカル・バッファーといった上乗せ規制、リスク・アセットに基づかないレバレッジ比率規制、流動性規制(LCR・NSFR)が新たに導入されました。さらに2017年には、銀行間でRWAの計算結果にばらつきが大きすぎるという問題意識から、標準的手法を精緻化し、内部モデルの効果に上限(アウトプットフロア)を設ける「バーゼルⅢ最終化」が国際合意されています。次章以降では、この枠組みの中心にある資本の階層とRWAの計算方法を順に見ていきます。
自己資本の階層:CET1・その他Tier1(AT1)・Tier2
バーゼル規制上の自己資本は、損失をどの段階で吸収するかによって3つの階層に分けられます。最も質が高いのがCET1(普通株式等Tier1、Common Equity Tier1)で、普通株式・資本剰余金・利益剰余金などが中心となり、銀行が健全に存続している間(ゴーイング・コンサーン)から真っ先に損失を吸収します。CET1に、永久劣後債や優先出資証券などのその他Tier1(AT1)を加えたものがTier1で、AT1も原則としてゴーイング・コンサーンの段階で損失吸収機能を発揮する設計になっています。Tier1に、期限付きの劣後債・劣後ローンなどのTier2を加えたものが総自己資本(Total Capital)で、Tier2は銀行が実質的に破綻した段階(ゴーン・コンサーン)で預金者・一般債権者より先に損失を吸収する、いわば最後の緩衝材です。
この3階層それぞれの合計をRWAで割ったものが、CET1比率・Tier1比率・総自己資本比率という3つの規制比率になります。バーゼル合意上の最低水準は、CET1比率が4.5%、Tier1比率が6%、総自己資本比率が8%です。ここに次章以降で説明する資本バッファーが別途上乗せされます。
なお、バーゼルⅢではRWAを分母としない補完的な規制としてレバレッジ比率規制も導入されています。レバレッジ比率はTier1資本を、リスク・ウェイトを一切考慮しない総エクスポージャー(オンバランス資産+一定のオフバランス項目)で割るシンプルな比率で、RWAの計測手法によって資本規制の水準が変わってしまうことへの歯止めとして機能します。RWAベースの比率とレバレッジ比率は、いわば「リスクに応じた物差し」と「リスクを無視した物差し」の2種類を銀行に同時に課す設計になっています。
RWA(リスクアセット)の計算:標準的手法とIRB
RWAは、信用リスク・市場リスク・オペレーショナルリスクという3つのリスクカテゴリーごとに計算した金額の合計です。もっとも金額が大きくなるのが信用リスクRWAで、標準的手法を使う場合の基本的な考え方は「RWA=リスク・ウェイト×エクスポージャー額」という単純な掛け算です。国が発行する自国通貨建て国債のように信用力が高いとみなされる資産にはリスク・ウェイト0%が、居住用不動産を担保にとった住宅ローンのように一定の条件を満たす資産には35%前後が、外部格付を持たない一般の事業法人向け貸出には100%前後が割り当てられるというように、資産の種類・格付・担保の有無に応じてあらかじめ定められたウェイトを掛けます。実際に適用されるウェイトはエクスポージャーの種類・外部格付の有無・各国の告示によって細かく定められており、ここで挙げた数値は標準的手法の考え方を示す代表的な例です。
これに対しIRB(内部格付手法、Internal Ratings-Based Approach)は、銀行が監督当局の承認を得たうえで、取引先ごとのデフォルト確率(PD)・デフォルト時損失率(LGD)・デフォルト時エクスポージャー(EAD)などを自行のモデルで推計し、それをリスク・ウェイト関数に当てはめてRWAを算出する手法です。標準的手法があらかじめ決められた画一的なウェイトを使うのに対し、IRBは銀行ごとの実績データに基づく個別のリスク推計を使うため、優良な取引先の多い銀行ほどRWAを標準的手法より圧縮できる傾向があります。この「圧縮できすぎる」問題への対処として、バーゼルⅢ最終化ではアウトプットフロアが導入されました。IRBで計算したRWAが、同じ資産を標準的手法で計算した場合のRWAの72.5%を下回らないようにする仕組みで、内部モデルによる資本節約効果に上限を設けています。
信用リスク以外では、トレーディング勘定で保有する有価証券やデリバティブの価格変動リスクを対象とする市場リスク(詳細はFRTB(トレーディング勘定の市場リスク規制見直し)で個別に整理されています)、システム障害や事務ミス・不正といった経営プロセス上の損失可能性を対象とするオペレーショナルリスクがあります。バーゼルⅢ最終化後のオペレーショナルリスクは、粗利益に相当する指標(ビジネス・インディケーター、BI)に銀行の規模に応じた係数(12%・15%・18%の3段階)を掛けて基礎的な所要資本を求め、そこに過去10年間の実際の損失実績に応じた調整(内部損失乗数)を掛け合わせる標準的手法に一本化されています。またデリバティブ取引の相手方の信用力悪化に伴う時価変動リスクには、信用リスクとは別枠でCVA(信用評価調整)リスクの資本賦課が課されます。信用リスク・市場リスク・オペレーショナルリスク・CVAリスクのRWAを合計したものが、銀行全体のRWAです。
資本バッファー:資本保全・カウンターシクリカル・G-SIB/D-SIBサーチャージ
CET1比率4.5%・Tier1比率6%・総自己資本比率8%という最低水準は、いわば「これを下回ったら業務停止に相当する措置がとられる絶対的な床」です。実務上はこれに加えて、CET1でまかなうことが求められる資本バッファーが積み増されます。1つ目が資本保全バッファーで、総リスク・アセットの2.5%に相当するCET1の上乗せが常時求められます。バッファーを下回ったこと自体で業務停止にはなりませんが、配当・自己株式取得・役員報酬の変動部分といった資本の社外流出に、下回った幅に応じた段階的な制限がかかる仕組みです。2つ目がカウンターシクリカル・バッファー(CCyB)で、信用の伸びが過熱していると各国当局が判断した局面で0〜2.5%の範囲(裁量により上回ることも可能)で追加のCET1積み増しを求め、不況期には引き下げて取り崩しの余地を作る、景気変動を平準化するための仕組みです。日本では金融庁が信用対GDPギャップなどの指標を踏まえて日本銀行と協議のうえで比率を判断する枠組みになっています。
3つ目が、金融システム全体への影響が大きい銀行に追加で課されるサーチャージです。国際的な業務基盤・相互連関性・複雑性などの指標に基づき「グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIB)」に指定された銀行には、金融安定理事会(FSB)が定めるバケットに応じて1.0%から3.5%の範囲でCET1の追加賦課が課されます。各国が独自に指定する「国内のシステム上重要な銀行(D-SIB)」にも、同様の考え方に基づく追加賦課が課されます。日本では2015年12月に、G-SIBとして三菱UFJフィナンシャル・グループ・みずほフィナンシャルグループ・三井住友フィナンシャルグループの3グループが、D-SIBとしてこれに三井住友トラスト・ホールディングス・農林中央金庫・大和証券グループ本社・野村ホールディングスを加えた計7グループが金融庁により指定され、2016年3月末から追加賦課の適用が始まりました。指定時点の賦課水準は三菱UFJフィナンシャル・グループが1.5%、みずほフィナンシャルグループと三井住友フィナンシャルグループが1.0%、残る4グループが0.5%とされています。対象行やバケット、賦課水準はその後の指標の変化に応じて国際的に見直される仕組みであるため、個別行の現在時点の水準を確認したい場合は各行の自己資本比率に関する開示資料を参照する必要があります。
整数設例:CET1比率を計算してみる
以下は説明用の仮設例です。ある銀行(国際統一基準行と仮定)の資産が、信用リスクの標準的手法の対象となる6つのカテゴリーだけで構成されているとします。オペレーショナルリスク・市場リスク相当のRWAは考慮せず、信用リスクRWAのみで比率を検算する簡略設例です。
| 資産カテゴリー | 残高(億円) | リスク・ウェイト | RWA(億円) |
|---|---|---|---|
| 現金・中央銀行預け金・自国国債 | 2,000 | 0% | 0 |
| 地方公共団体等向け貸出 | 500 | 20% | 100 |
| 住宅ローン(適格居住用不動産担保) | 3,000 | 35% | 1,050 |
| 事業法人向け貸出(投資適格相当) | 1,500 | 50% | 750 |
| 事業法人向け貸出(無格付・一般) | 2,500 | 100% | 2,500 |
| その他資産 | 500 | 100% | 500 |
| 合計 | 10,000 | ― | 4,900 |
検算すると、6カテゴリーの資産残高は2,000+500+3,000+1,500+2,500+500=10,000億円、RWAは0+100+1,050+750+2,500+500=4,900億円です。資産残高10,000億円に対してRWAは4,900億円、比率にして49%まで圧縮されており、総資産の半分近くが分母の計算上「存在しないもの」として扱われていることが分かります。これが、RWAが総資産そのものではないという意味です。
次に、この銀行の自己資本がCET1441億円・その他Tier1(AT1)49億円・Tier298億円だったとします。Tier1計は441+49=490億円、総自己資本は490+98=588億円です。
| 区分 | 金額(億円) |
|---|---|
| CET1 | 441 |
| その他Tier1(AT1) | 49 |
| Tier1計(CET1+AT1) | 490 |
| Tier2 | 98 |
| 総自己資本(Tier1+Tier2) | 588 |
| RWA(信用リスク相当・簡略) | 4,900 |
CET1比率
CET1比率 = CET1 ÷ RWA = 441億円 ÷ 4,900億円 = 9.00%
Tier1比率
Tier1比率 = (CET1+AT1) ÷ RWA = 490億円 ÷ 4,900億円 = 10.00%
総自己資本比率
総自己資本比率 = (CET1+AT1+Tier2) ÷ RWA = 588億円 ÷ 4,900億円 = 12.00%
この銀行が国際統一基準行であり、資本保全バッファー2.5%(CET1)が適用され、カウンターシクリカル・バッファーとG-SIB/D-SIBサーチャージがゼロだと仮定すると、最低所要+資本保全バッファーの水準はCET1比率で4.5%+2.5%=7.0%、Tier1比率で6.0%+2.5%=8.5%、総自己資本比率で8.0%+2.5%=10.5%になります。
| 比率 | 設例の結果 | 最低所要+資本保全 | 余裕幅 |
|---|---|---|---|
| CET1比率 | 9.00% | 7.0% | +2.0pt |
| Tier1比率 | 10.00% | 8.5% | +1.5pt |
| 総自己資本比率 | 12.00% | 10.5% | +1.5pt |
3つの比率とも最低所要+資本保全バッファーを上回っており、この設例上の銀行は資本面での制約なく配当や自己株式取得を行える状態にあります。仮にCET1比率が7.0%を下回った場合は、直ちに業務停止になるわけではありませんが、下回った幅に応じて配当・自己株式取得・役員報酬の変動部分の社外流出に段階的な制限がかかります。もしこの銀行が国内基準行だった場合は、最低水準そのものが4%となり(次章で解説)、資本の定義にも違いが生じるため、同じ資産構成・同じ自己資本額でも判定の枠組みが変わる点に注意が必要です。
日本の銀行への適用:国際統一基準行と国内基準行の違い
日本の銀行法に基づく自己資本比率規制には、海外に営業拠点を持つなど国際的に業務を展開する銀行が満たすべき「国際統一基準」と、国内業務にとどまる銀行向けの「国内基準」という2つの体系があります。日本銀行の解説によれば、国際統一基準では達成すべき自己資本比率を8%以上、国内基準では4%以上と定めており、この違いは単なる数値の高低ではなく、そもそも異なる算出方法・異なる資本の定義に基づいています。海外の解説記事はバーゼル合意そのものである国際統一基準の枠組みだけを説明することが多いのですが、国内業務専業の銀行が多数を占める日本には、これとは別の国内基準が存在するという点は、日本の銀行を分析するうえで見落とされやすいポイントです。
両基準では自己資本の定義そのものにも違いがあります。代表的な相違点が、保有する「その他有価証券」の評価差額金(いわゆる有価証券含み益)の扱いです。金融庁告示(平成18年金融庁告示第19号)第5条第1項第二号は、国際統一基準行のCET1(普通株式等Tier1)基礎項目に「その他の包括利益累計額及びその他公表準備金の額」を算入すると定めており、その他有価証券評価差額金を含むその他の包括利益累計額は満額(100%)がCET1に算入されます。これに対し同告示第28条第1項第二号は、国内基準行のコア資本基礎項目における「その他の包括利益累計額」から、その他有価証券評価差額金・繰延ヘッジ損益・土地再評価差額金を明示的に除外しており、国内基準行はこれらの評価差額金をコア資本に一切算入できません。なお、バーゼルII時代の旧告示では有価証券評価差額金の45%相当をTier2に算入する扱いがありましたが、バーゼルIII移行に伴いこの45%ルールは廃止され、現在は上記のとおり「CET1に満額算入されるか、コア資本に一切算入されないか」という形に整理されています。したがって、同じ有価証券含み益を抱える銀行であっても、国際統一基準行として計算するか国内基準行として計算するかで、自己資本の額自体が変わり得ます。日本銀行の解説も、両基準の比率は算出方法が異なるため単純に数値だけを比較できない点に注意を促しています。
さらに、バーゼルⅢ最終化の国内実施についても、金融庁は適用対象を段階的に分けています。金融庁の公表資料によれば、国際統一基準を採用する金融機関および内部モデルを採用する国内基準の金融機関には2024年(令和6年)3月31日から、内部モデルを採用しない国内基準の金融機関および最終指定親会社には2025年(令和7年)3月31日から、改正後の告示が適用されています(2023年3月期からの早期適用の届出も可能とされていました)。前章で説明したアウトプットフロアや標準的手法の精緻化も、この適用時期にあわせて日本の銀行に反映されています。個別行が実際にどの基準・どの適用時期の告示に基づいて自己資本比率を開示しているかは、各行が公表する決算資料・統合報告書等のディスクロージャー資料で確認する必要があります。銀行の自己資本比率がストレスシナリオでどこまで低下し得るかという分析は銀行のストレステストと資本計画で、CET1比率をNIM・LCR・NPL比率など他の経営指標と合わせて読む視点は銀行分析の主要KPI体系で、それぞれ扱っています。自己資本比率を下回った銀行に対する日本独自の行政措置の枠組みは早期是正措置(PCA)として整理されています。
よくある質問(FAQ)
RWA(リスクアセット)は総資産と何が違うのですか。
RWAは総資産に信用リスク・市場リスク・オペレーショナルリスクの重み付けを行った金額で、総資産そのものではありません。本記事の設例では総資産10,000億円に対しRWAは4,900億円で、比率にして49%まで圧縮されています。総資産をそのまま分母に使う指標としては、CET1・Tier1とは別に定められているレバレッジ比率規制があり、RWAベースの比率とあわせて2種類の物差しで銀行の資本十分性が点検されます。
CET1比率が高いほど良い銀行と言えますか。
CET1比率が高いほど損失吸収力に余裕があるとは言えますが、それだけで銀行の良し悪しを判断することはできません。CET1比率は分母のRWAの水準にも左右されるため、リスクの低い資産ばかりを抱えてRWAを圧縮した結果として比率が高くなっている場合もあれば、収益性の低い資産構成の裏返しとして比率が高くなっている場合もあります。自己資本の水準と、それが生み出す収益力(ROEなど)をあわせて見る必要があります。
標準的手法とIRB(内部格付手法)はどちらが銀行にとって有利ですか。
優良な取引先を多く抱える銀行にとっては、自行の実績データに基づくIRBの方が標準的手法よりRWAを圧縮できる傾向があり、資本効率の面で有利になりやすいとされてきました。ただしバーゼルⅢ最終化で導入されたアウトプットフロアにより、IRBで計算したRWAは標準的手法で計算した場合の72.5%を下回れない設計になっており、圧縮効果には上限が設けられています。
国内基準行と国際統一基準行は、どちらの規制が厳しいのですか。
必要な比率の数値だけを見ると国内基準(4%)は国際統一基準(8%)より低く見えますが、自己資本の定義自体が異なります。たとえば有価証券評価差額金は、国際統一基準行ではCET1に満額算入されるのに対し、国内基準行ではコア資本に一切算入できません。そのため、数値を単純に比較することはできません。どちらが実質的に厳しいかは、個別行の資産構成や保有有価証券の含み損益の状況によって変わります。
資本バッファーを下回るとどうなりますか。
資本保全バッファーなどを下回った場合、直ちに業務停止になるわけではありませんが、下回った幅の区分に応じて配当・自己株式取得・役員報酬の変動部分といった資本の社外流出に段階的な制限がかかります。最低所要水準そのものを下回った場合は、日本では早期是正措置(PCA)に基づく行政上の措置の対象になります。
まとめ
バーゼル規制上の自己資本比率は、CET1・AT1・Tier2という質の異なる資本の合計を、信用リスク・市場リスク・オペレーショナルリスクに応じて重み付けしたRWAで割ることで計算されます。RWAは総資産そのものではなく、標準的手法かIRBかによって算出方法も水準も変わり、その差を抑えるためにバーゼルⅢ最終化ではアウトプットフロア(72.5%)が導入されました。最低水準の上には資本保全バッファー・カウンターシクリカル・バッファー・G-SIB/D-SIBサーチャージが積み増され、日本では国際統一基準(8%)と国内基準(4%)という、算出方法自体が異なる2つの体系が並存しています。設例で確認したとおり、これらの比率は「式に数値を当てはめれば誰でも検算できる」計算であり、報道や決算資料に出てくる数値の意味を、分子と分母の両方に立ち返って読み解くことが重要です。
出典・参考(2026年9月確認)
- BIS, Basel Framework「CAP10 – Definition of eligible capital」 bis.org
- BIS, Basel Framework「RBC20 – Calculation of minimum risk-based capital requirements」 bis.org
- BIS FSI「The capital buffers in Basel III – Executive Summary」 bis.org
- BIS, Basel Framework「CRE20 – Standardised approach: individual exposures」 bis.org
- BIS FSI「Operational risk standardised approach – Executive Summary」 bis.org
- BCBS「High-level summary of Basel III reforms」(出力フロア72.5%の水準に関する記載) bis.org
- 金融庁
「自 己資本比率規制等(バーゼル規制)について」 fsa.go.jp - 金融庁告示(平成18年金融庁告示第19号)「銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」第5条(CET1基礎項目)・第7条(Tier2基礎項目)・第28条(コア資本の額) fsa.go.jp
- 金融庁
「G -SIBs及びD-SIBsの指定について」 fsa.go.jp - 日本銀行「銀行の自己資本に関する国際統一基準(バーゼル合意に基づく基準)と国内基準の違いを教えてください。」 boj.or.jp
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。