この記事で分かること
- クレジットリスク分析(信用リスク分析, credit risk analysis)とは、貸し倒れ(債務不履行)のリスクを分析すること
- 中心となる式は期待損失 EL = PD × LGD × EAD
- 定性評価の信用の5Cと、定量評価のカバレッジ・レバレッジ・格付の使い分け
- 整数設例で EL を計算し、「デフォルト=全損」ではないという要点を確認できる
結論:クレジットリスクは「期待損失 EL = PD × LGD × EAD」で捉える
クレジットリスク分析(信用リスク分析, credit risk analysis)とは、貸し手・投資家から見て貸し倒れ(債務不履行, default)が起きるリスクを分析することです。その中心にあるのが、損失の期待値を捉える次の式です。
期待損失 EL(Expected Loss)= PD × LGD × EAD
ここで PD(Probability of Default, デフォルト確率)は「どれくらいの確率で債務不履行になるか」、LGD(Loss Given Default, デフォルト時損失率)は「デフォルトしたときにエクスポージャーのうち何割を失うか(=1−回収率)」、EAD(Exposure at Default, デフォルト時エクスポージャー)は「デフォルト時にさらされている残高」を表します。実務では、この3要素を定性・定量の両面から評価していきます。
図解:期待損失の3分解(EL = PD × LGD × EAD)
期待損失(Expected Loss)を構成する3つの要素
式の各項は、それぞれ独立した問いに対応します。
- PD(デフォルト確率):一定期間内に債務不履行が起きる確率。内部格付や格付・信用スプレッドの実績などから推定します。
- LGD(デフォルト時損失率):デフォルトが起きた場合に、エクスポージャーのうち回収できずに失う割合。LGD = 1 − 回収率(Recovery Rate)で表されます。
- EAD(デフォルト時エクスポージャー):デフォルトの瞬間にさらされている残高。融資であれば貸出残高、コミットメントラインであれば使用見込み額などが該当します。
定性評価:信用の5C(Five C’s of Credit)
数値化の前段として、借り手の信用力を定性的に捉える古典的な枠組みが信用の5Cです。
- Character(人物・誠実性):経営陣の資質や返済意思、これまでの取引実績。
- Capacity(返済能力):キャッシュフローで元利を返済できるか。
- Capital(自己資本):借り手が自ら投じている資本の厚み。
- Collateral(担保):デフォルト時に回収を支える資産。
- Conditions(環境・条件):景気・業界動向や資金使途などの外部環境。
定量評価:カバレッジ・レバレッジ・格付
定性評価を、財務指標で裏づけるのが定量評価です。
- カバレッジ指標:インタレストカバレッジ(Interest Coverage, EBIT ÷ 支払利息)やDSCR(Debt Service Coverage Ratio, 元利返済カバー率)で、返済原資の余裕度を測ります。
- レバレッジ:Debt/EBITDA や 負債資本倍率(D/E)などで、負債の重さを測ります。
- 格付(Credit Rating):格付機関や銀行内部格付が示す信用力の総合評価。PD の目安としても使われます。
整数設例:EL を計算してみる
次の前提で期待損失を求めます。
- EAD(デフォルト時エクスポージャー)= 1,000(百万円)
- PD(デフォルト確率)= 2%(=0.02)
- 回収率 = 60% → LGD = 1 − 0.60 = 40%(=0.40)
これらを式に代入すると、
EL = EAD × PD × LGD = 1,000 × 0.02 × 0.40 = 8(百万円)
つまり、この与信からは平均的に 8百万円 の損失が見込まれる、と解釈します。回収率が高い(LGD が小さい)ほど、あるいは PD が低いほど、期待損失は小さくなります。
日本の実務:与信管理と規制の枠組み
日本の銀行では、与信管理の一環として内部格付を付与し、担保・保証を勘案しながら信用リスクを管理します。監督面では金融庁(FSA)や日本銀行(BOJ)が示す一般的な枠組みが参照され、国際的にはバーゼル規制(Basel Framework)の考え方に沿って、PD・LGD・EAD といったパラメータで信用リスクを捉える発想が広く共有されています。ここで述べているのはあくまで一般的な枠組みであり、個別の適用は各社の規程や監督指針、その時点の規制内容によって異なります(推定を含む一般論です)。
間違えやすい点:「デフォルト=全損」ではない
初学者が陥りやすいのが「デフォルト(債務不履行)=投資額の全額を失う」という思い込みです。実際には、担保や弁済順位(seniority)により一定の回収が見込めるため、LGD は多くの場合 1 未満になります。設例でも回収率60%(LGD=40%)を前提としており、全損(LGD=100%)ではありません。弁済順位がどのように回収額を左右するかは、関連記事の弁済順位(リカバリー・ウォーターフォール)で詳しく解説します。
面接30秒回答:「期待損失はどう計算する?」
「期待損失(EL)は PD × LGD × EAD の掛け算で求めます。デフォルト確率、デフォルト時の損失率(=1−回収率)、そしてデフォルト時のエクスポージャー(残高)の3要素です。たとえば残高1,000・PD2%・回収率60%なら、LGD は40%となり、EL=1,000×0.02×0.40=8。全損を前提にせず、担保や弁済順位による回収を織り込む点がポイントです。」
よくある質問(FAQ)
PD・LGD・EAD の数値はどこから得るのですか?
PD は内部格付や格付・信用スプレッドの実績、LGD は担保・弁済順位や過去の回収実績、EAD は現在の残高や与信枠の使用見込みから推定します。いずれも推定値であり、前提により変動します。
期待損失(EL)と非期待損失(UL)は何が違いますか?
EL は平均的に見込まれる損失で、通常は引当金でカバーします。一方、非期待損失(Unexpected Loss, UL)は平均を超える損失変動の部分で、自己資本で備えるという整理が一般的です。
まとめ
- クレジットリスク分析 = 貸し倒れ(債務不履行)のリスクを分析すること。
- 中心式は EL = PD × LGD × EAD。LGD = 1 − 回収率。
- 定性は信用の5C、定量はカバレッジ・レバレッジ・格付。
- 「デフォルト=全損」ではない。担保・弁済順位により回収があるため LGD は1未満になりうる。
出典・参考(2026-07-16確認)
- バーゼル銀行監督委員会(BCBS)「バーゼル規制の枠組み(Basel Framework)」における期待損失(PD・LGD・EAD)の一般的な考え方
- 金融庁(FSA)公表資料に見る信用リスク・与信管理に関する一般的な枠組み
- 日本銀行(BOJ)公表資料に見る信用リスク管理に関する一般的な整理
本記事は教育・情報提供を目的とした一般的な解説であり、特定の投資・与信判断や助言を提供するものではありません。数値は理解のための設例であり、実際の適用は各社の規程・監督指針・最新の規制内容によって異なります。投資・与信の最終判断はご自身の責任で行ってください。