この記事で分かること
- IT・ソフトウェア分野に投資しているPEファンドの件数ランキングと、上位の顔ぶれの読み方
- 「IT」「SaaS」「DX」「システム開発」といった表記揺れを編集部が正規化し、二重集計を避けている集計方法
- 労働集約型のSIer事業承継と、プロダクト型のSaaSグロース投資という二つの異なる投資対象
- 集計・業種分類の定義と、ランキングを実務でどう読むべきか
結論:分散型大手のAP・エンデバーと、IT比率の高い特化型ファンドが上位
大手町プレップが独自に構築・運用しているPEファンドDBに収録された日本国内投資案件のうち、投資先がIT・ソフトウェア分野に分類される案件を集計すると、アドバンテッジパートナーズとエンデバー・ユナイテッドがともに17件で件数首位に並びます。分散型の大手が件数を積む一方、日本成長投資アライアンス(32%)や日本グロース・キャピタル(35%)のように全投資に占めるIT比率が高いファンドが続く構造です。
本ランキングの業種分類では、投資先の事業内容に「IT」「ソフトウェア」「SaaS」「DX」「システム開発」といった表記が混在するため、編集部独自のルールでこれらをひとつの「IT・ソフトウェア」業種として正規化しています。同一企業が複数の呼び方で記載されることによる二重集計は発生しません。
件数上位には、アドバンテッジパートナーズのような分散型の大手に加えて、エンデバー・ユナイテッド(マーケティング・テクノロジー領域に強み)や日本成長投資アライアンス(IT・ソフトウェアが全投資の32%)のように特定領域に強みを持つファンドも並びます。案件の性格を見ると、労働集約型のSIer(システムインテグレーター)の事業承継と、SaaSなどプロダクト型企業への成長投資という、性質の異なる二つの投資対象が同居していることが読み取れます。件数の内訳・順位は下の表とグラフですべて確認できます(データはDB更新に合わせて自動で再集計されます)。
IT・ソフトウェア投資件数ランキング
投資先の業種がIT・ソフトウェアに分類される案件を、投資実行ファンド別に集計したランキングです。順位・件数に加えて、share(そのファンドの全投資に占めるIT・ソフトウェアの比率)・current(現在保有中の件数)・recent5(直近5年の件数)を併記しています。
| 順位 | ファンド | 件数 | IT・ソフトウェア比率 | 投資中 | 直近5年 | 主な投資先 | 細分野の例 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | アドバンテッジパートナーズ | 17 | 13% | 6 | 4 | ラクーンホールディングス、エイチームホールディングス | テクノロジー·ITサービ…/製造業 / テクノロジー… |
| 1 | エンデバー・ユナイテッド | 17 | 17% | 10 | 10 | ユニーク、オールブルー | マーケティング・テク… |
| 3 | 日本成長投資アライアンス | 12 | 32% | 11 | 8 | エス・エス・ビー、メディアリンク・アイ | ソフトウェア/ITサービ…/B2B EC |
| 4 | WMパートナーズ | 10 | 17% | 4 | 1 | ファンくる、レッドフォックス | SaaS(顧客満足度向上P…/マッチングアプリ |
| 5 | 日本グロース・キャピタル | 9 | 35% | 6 | 0 | アークH.D、アテンド | Webマーケティング/Web制作・システム開発 |
| 6 | アント・キャピタル・パートナーズ | 8 | 8% | 1 | 1 | テクノスジャパン、ソフトブレーン | IT/DX/IT/セキュリティ |
| 6 | カーライル・ジャパン(カーライル・グループ 日本バイアウト部門) | 8 | 20% | 1 | 0 | リガク、国際航業 | テクノロジー・ビジネ…/テクノロジー(分析・… |
| 6 | ジャフコ グループ | 8 | 12% | 5 | 5 | カシオヒューマンシステムズ、バルキー・インフォ・テック | AI / Software/Media and Entertainme… |
| 9 | インテグラル | 6 | 15% | 3 | 2 | Notta Inc.(ノッタ)、TCSホールディングス | システム開発・コンサ…/流通システムの製造販売 |
| 9 | グロースパートナーズ | 6 | 32% | 5 | 6 | Def consulting、ビープラッツ | サブスクリプション管…/情報セキュリティ・IT… |
| 9 | サンライズキャピタル | 6 | 13% | 2 | 2 | ソーシャルデータバンクグループ、ビィ・フォアード | コンサル・ITサービス/家電・EC小売 |
| 12 | J-STAR | 5 | 8% | 2 | 1 | Orange Connex Group、paiza | TMT/BtoBサービス・TMT |
| 12 | クレアシオン・キャピタル | 5 | 10% | 4 | 3 | SpaceBlast、メタテック | DXコンサルティング、…/システム開発、データ… |
| 12 | ロングリーチグループ | 5 | 22% | 3 | 2 | ライトワークス、ブルーシップ | インダストリアル/テク…/ビジネスサービス(IT) |
| 15 | ニューホライズン キャピタル | 4 | 8% | 0 | 0 | エスエーティ、アキュートロジック | 3DCGソフトウェア開発…/デジタル画像ソフトウ… |
| 15 | 日本みらいキャピタル | 4 | 15% | 1 | 1 | ステアリテール、APRESIA Systems | ネットワーク機器/IT/小売システム |
| 15 | 日本産業パートナーズ | 4 | 13% | 1 | 0 | 日本アビオニクス、アラクサラネットワークス | 情報システム・電子機器/ネットワーク機器 |
| 18 | EQT | 3 | 20% | 2 | 2 | 豆蔵、HRBrain | ITコンサルティング(…/インターネットサービ… |
| 18 | MCPキャピタル | 3 | 7% | 1 | 1 | さら、イグアス | サンプルブックおよび…/IT製品卸売レンタル |
| 18 | SBI新生企業投資 | 3 | 18% | 2 | 2 | ネクステージ、コモドソリューションズ | ユーズドアパレルの買…/ソフトウェア受託開発 |
| 18 | ベーシック・キャピタル・マネジメント | 3 | 7% | 1 | 0 | 中央システム、WorkVision | 受託システム開発(大…/ITソリューション(ク… |
| 18 | ポラリス・キャピタル・グループ | 3 | 7% | 3 | 2 | ソフトブレーン、ストックマーク | IT・SaaS/IT・生成AI |
| 18 | マラトンキャピタルパートナーズ | 3 | 10% | 0 | 3 | ディーエムエー、東邦技研 | EC通販/セキュリティ製品販売 |
| 18 | ユニゾン・キャピタル | 3 | 7% | 1 | 1 | W4Partners、Intelsat Holdings | B2Bサービス(デジタル…/その他(衛星通信) |
| 18 | SMBCキャピタル・パートナーズ | 3 | 11% | 1 | 3 | ファストノット、ペライチ | D2Cテックウェア/ノーコードHP制作SaaS |
| 18 | 刈田・アンド・カンパニー | 3 | 30% | 1 | 1 | 自然の森製薬、シンプレクス・ホールディングス | 情報通信/卸売・小売・EC |
| 18 | ブルパス・キャピタル | 3 | 16% | 2 | 2 | コネクティル、CyXen | 通信・ITサービス/ITサービス |
share列を見ると、日本グロース・キャピタル(35%)や日本成長投資アライアンス(32%)のように投資全体に占めるIT・ソフトウェア比率が高いファンドがある一方、アドバンテッジパートナーズ(13%)のように、IT・ソフトウェアは投資対象の一部という分散型のファンドも上位に含まれます。件数だけでなくshare列を合わせて読むことで、そのファンドがIT・ソフトウェア分野をどれだけ重視しているかが見えてきます。現在PE傘下にあるIT・ソフトウェア企業が業種別にどう分布しているかは業種別の保有集中度分析でも確認できます。
年次推移:IT・ソフトウェア投資は近年拡大してきたか
年次の推移を見ると、2015年から2019年にかけて緩やかに件数が増加した後、2020年以降は増加ペースが加速し、2024年には年間の件数が過去最多の水準に達しています。国内企業のDX需要の高まりや、SaaS企業の増加がPE投資の対象を広げた可能性がありますが、これは推測であり断定はできません。2026年は8月中旬までのYTD件数であり、通年の実績とは単純に比較できない点に注意が必要です。
投資類型の内訳:成長出資から承継・カーブアウトまで幅広い
IT・ソフトウェア向け投資を類型別に見ると、成長・マイノリティ出資型の比重が大きいという、製造業・ヘルスケアとは異なる特徴があります。事業承継型・バイアウト型も一定数を占めます。事業承継型と並んでカーブアウト型の案件も確認でき、たとえばベーシック・キャピタル・マネジメントの投資先には「大手SIerからのカーブアウト」と明記された受託システム開発企業が含まれます。成長出資が多い一方でこうした事業承継・カーブアウト型も一定数存在する点が、IT・ソフトウェア業種の幅広さを示しています。オペレーティングモデルの設計は、SaaS企業のようなプロダクト型と、SIerのような労働集約型とで大きく異なる論点になります。
分析:なぜこの順位になるのか
分散型の大手と特化型ファンドが並ぶ構造
件数首位のアドバンテッジパートナーズ・エンデバー・ユナイテッドはいずれも幅広い業種に投資する分散型の大手で、絶対件数の多さがIT・ソフトウェアの件数にも表れています。これに対し、share列の高い日本成長投資アライアンスや日本グロース・キャピタルは、投資テーマとしてIT・デジタル領域を明確に重視しているとみられます。件数ベースのランキングでは投資スタイルの影響が大きいことは、日本PEファンド投資件数ランキングの総合分析でも共通して見られる傾向です。
SIer承継とSaaSグロースという二つの顔
IT・ソフトウェア業種には、後継者不在の中小システム開発会社を承継する労働集約型の投資と、成長中のSaaS・プラットフォーム企業に出資するプロダクト型の投資という、ビジネスモデルの異なる二つの案件が混在しています。前者はエンジニアの雇用維持や既存顧客との契約継続が投資の中心的な論点になるのに対し、後者はARR(年間経常収益)の成長率や解約率といったSaaS特有の指標が重視されます。ITデューデリジェンスで検証すべきポイントも、労働集約型のSIerとプロダクト型のSaaSとでは大きく異なります。
地域金融機関系もIT・ソフトウェア投資に本格参入
件数上位には、カーライル・ジャパン(IT比率20%)のような外資系や、ジャフコ グループ、インテグラルといった独立系も名を連ねています。日本成長投資アライアンス(JGIA)のようにIT・ソフトウェアへの投資が全投資の32%を占めるファンドは、投資テーマとして成長領域への集中を進めています。
収録データでは、IT・ソフトウェア分野の投資先のうち現在も保有中の件数がExit済みの件数を大きく上回っています。これは、成長出資が多いという投資類型の内訳とも整合的で、IT・ソフトウェア分野への投資はまだ保有期間の途中にある案件が多い、比較的若いポートフォリオであることを示唆しています。
開示方針の差がランキングに与える影響
集計対象は公開情報で確認できた案件に限られるため、投資先の公表方針が保守的なファンドの件数は実態より少なく見えることがあります。SaaS・スタートアップへの出資は資金調達のプレスリリースとして公表されやすい一方、SIerの事業承継案件は当事者の判断で非公開にとどまるケースもあるとみられ、実際の投資活動量との間にずれが生じている可能性があります。ランキングの数字は「公開情報で確認できる投資活動量」であり、IT・ソフトウェア業界のM&A市場全体の規模そのものではありません。
実務での使い方
IT・ソフトウェア分野でのPE・M&A業界を目指す方にとって、SaaSグロース投資に強いファンドとSIer承継に強いファンドでは求められるスキルセットが異なります。ファンドごとの特徴比較は日本のPEファンド比較を参照してください。なお、より初期段階のスタートアップへの出資動向はVC・CVCファンドDBで別途確認できます。
SIerの事業承継を検討する経営者や、SaaS企業の資金調達・資本業務提携を検討する経営陣にとっては、自社のステージ・業態に近い実績を持つファンドを表から特定することが実務的な出発点になります。各ファンドの投資先・Exit実績はPEファンドDBの個社ページにすべて収録しています。
SaaS企業の価値評価は、製造業とは異なる指標で考える
SaaS企業の類似企業比較(コンプス)では、EBITDA倍率だけでなくARR倍率や成長率調整後の倍率が使われます。解約率・LTV/CACといったSaaS特有の指標が企業価値にどう反映されるかを、実際の上場SaaS企業のデータを使いながら学べます。
データの定義と限界
本ランキングの母集団は、大手町プレップPEファンドDBに収録された日本国内のPE投資案件のうち、投資先の主業種が「IT・ソフトウェア」に分類されるものです。業種分類は編集部独自の正規化ルールに基づいており、「IT」「ソフトウェア」「SaaS」「DX」「システム開発」等の表記揺れを統一した上で1業種として集計しているため、同一の投資先が複数業種に重複計上されることはありません。業種が特定できない「未分類」の案件はこのランキングの母数に含まれません。集計の詳細は以下のとおりです。
集計方法・データ定義(大手町プレップPEファンドDB独自集計)
- 対象データ
- 大手町プレップPEファンドDBに収録された、日本のPEファンドおよび日本に投資する海外PEファンドによる日本国内企業への投資案件(投資先の国が日本、または国の記載がなく運用会社の本拠が日本の案件)。集計日時点で2,374レコード・重複を除いた2,326案件(127ファンド)。
- 件数の数え方
- 市場全体の件数は複数ファンドによる共同投資(クラブディール)を1案件として数え、ファンド別の件数は各ファンドの投資実績として1件ずつ数えます。両者は合計が一致しません。
- 当年(2026年)の扱い
- 2026年の数値は8月中旬時点のYTD(年初来)です。通年の数値ではないため、過年度との単純比較はできません。公表済みでもクローズ(実行)前の案件は含めていません。
- データソース
- 各PEファンドの公式サイト・プレスリリース等の公開情報(2026年8月19日時点)。
- 業種分類
- 投資先の業種・事業内容テキストを16の大分類に正規化した独自分類(表記揺れは正規化ルールで吸収)。「IT・ソフトウェア」の判定基準は本文のデータ定義セクション参照。分類できない案件は「未分類」とし、本記事の集計に含めていません。
本ランキングは公開情報ベースの独自集計であり、日本国内の全PE投資を網羅した市場統計(推計値)ではありません。非公開案件や公式サイトに掲載されていない案件は含まれません。ファンドにより投資先の開示方針が異なるため、件数の差がそのまま実際の投資活動量の差を意味するものではない点にご注意ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 件数上位のファンドはIT専業なのですか。
A. いいえ、件数首位のアドバンテッジパートナーズ・エンデバー・ユナイテッドは幅広い業種に投資する分散型ファンドです。IT・ソフトウェアへの集中度はshare列(全投資に占める比率)で確認でき、日本グロース・キャピタル(35%)や日本成長投資アライアンス(32%)が高い水準にあります。
Q. 「IT」と「SaaS」「DX」は別々に集計されていますか。
A. いいえ、これらは編集部独自のルールで「IT・ソフトウェア」というひとつの業種に正規化して集計しています。表記の違いによる二重集計や過小集計は発生していません。
Q. SIerの事業承継案件とSaaSへの成長投資は同じランキングに混在していますか。
A. はい、本ランキングは投資類型を問わずIT・ソフトウェア業種向けのすべての新規投資を件数として集計しています。両者の内訳は「投資類型の内訳」セクションの表で別途確認できます。
Q. なぜ金額ではなく件数のランキングなのですか。
A. SaaS企業への出資をはじめ投資金額が非開示のケースが多く、公開情報から正確な金額ランキングを作成できないためです。件数は投資スタイルの影響を受ける点もあわせてご注意ください。
Q. IT・ソフトウェア分野の投資はExitより保有中の件数の方が多いのですか。
A. はい、収録データでは現在保有中の件数がExit済みの件数を大きく上回っています。成長出資の比率が高く、まだ保有期間の途中にある比較的若いポートフォリオが多いためとみられます。
まとめ
IT・ソフトウェア分野のPE投資件数ランキングは、分散型大手のアドバンテッジパートナーズ・エンデバー・ユナイテッドが件数上位に立ち、IT比率の高い特化型ファンドがそれに続く構造でした。表記揺れを正規化した上でも、労働集約型のSIer承継とプロダクト型のSaaSグロースという二つの異なる投資対象が同居している点が、この業種の特徴です。製造業・ヘルスケア分野の同様の分析は、それぞれ製造業PEファンドランキング、ヘルスケアPEファンドランキングで公開しています。
出典・データについて
- 大手町プレップPEファンドDB https://otemachiprep.com/pe-funds/(独自集計)
- 日本PE市場統計・データ分析 https://otemachiprep.com/pe-market-data/
※本記事は公開情報に基づく教育目的のデータ分析であり、特定のファンド・企業の評価や投資助言ではありません。
最終データ更新日: 2026年8月19日(DB更新に合わせて本記事の数値・表・グラフは再集計されます)