この記事で分かること

  • ホテル・レジャー業界のM&Aで「不動産(オーナー)」と「運営(オペレーター)」が分離している理由と、HMA・固定賃料リース・フランチャイズの違い
  • 投資銀行がホテル運営会社を評価する際にEV/EBITDA倍率ではなくEV/EBITDAR倍率を使う理由(仮設例つき)
  • 観光庁の宿泊旅行統計調査・インバウンド消費動向調査に基づく、2025年時点のホテル需要環境の読み方
  • 統合型リゾート(IR)セクター特有の規制(IR整備法・カジノ管理委員会)と、投資銀行がIR案件で重視する評価軸

結論:ホテル・レジャー・IRセクターの評価は「所有と運営の分離構造」と「規制による不確実性」で決まる

ホテル・レジャー業界の投資銀行実務が他業種と大きく異なる理由は、対象企業の収益が「土地・建物という不動産」と「日々の運営というオペレーション」という性質の異なる2つの要素に分かれていることが多い点にあります。同じホテル事業でも、不動産の保有者(オーナー)の立場で評価するのか、運営を受託・賃借するオペレーターの立場で評価するのかによって、参照すべき財務指標も評価倍率も変わります。加えて、統合型リゾート(IR)を含む一部の施設は、特定複合観光施設区域整備法という業法によって事業者の選定プロセスから資本政策までが強く規律されており、通常のM&Aアドバイザリー実務とは異なる評価軸が加わります。

本記事は、単体ホテルのADR稼働率からRevPAR・GOP・NOIを積み上げる収益モデルの作り方は【構築】ホテル収益モデルをゼロから作るに委ね、不動産のプロフォーマ評価(NOI・キャップレート)の一般論は不動産のプロフォーマ入門、J-REIT公募増資を含む不動産セクターカバレッジの実務は不動産投資銀行(不動産セクターカバレッジ)とはに委ねます。本記事ではこれらの記事が扱っていない、ホテル運営会社のM&Aアドバイザリー実務としての評価倍率の考え方(EV/EBITDAR)、業界KPIの読み方、そしてIRセクター特有の規制と評価軸に焦点を当てます。

業界構造:所有・運営・ブランドの三層分離

ホテル業界、とりわけシティホテルやリゾートホテル、統合型リゾートでは、土地・建物を保有する「オーナー」、日々の運営を担う「オペレーター」、そして予約導線やロイヤルティプログラムを提供する「ブランド」が別法人・別契約になっているケースが珍しくありません。この三層構造は、投資銀行がホテル・レジャー企業のM&Aを検討する際に、まず「対象企業がこの三層のどこに属しているか」を特定しないと、評価に使う財務指標そのものを誤る原因になります。

三層のうちオーナーとオペレーターの関係を規律する契約形態は、主に3種類に整理できます。1つ目はホテル運営受委託契約(HMA)で、オーナーが不動産と事業リスクの両方を保有したまま、運営そのものを専門のオペレーターに委託し、運営受託料(基本料率+インセンティブ料率)を支払う形態です。ホテルの営業収益・費用はオーナー側の損益計算書に計上され、オペレーターの収益は受託料に限られます。2つ目はホテルの固定・変動賃料によるリース形態で、オペレーターがテナントとしてオーナーに賃料を支払い、需要変動リスクをオペレーター側が負担します。オーナー側の収益は賃料収入というシンプルなキャッシュフローになる一方、賃料はオペレーター側の損益計算書に固定費・準固定費として計上されます。3つ目はフランチャイズ事業モデルで、独立した事業者(フランチャイジー)が不動産と運営の両方を保有し、ブランド使用料(ロイヤルティ)を保有会社に支払う形態です。国内のビジネスホテルチェーンで多く採用され、フランチャイズ・バリューと競争優位期間の考え方はブランド保有会社側の評価で重要になります。

契約形態需要変動リスクの所在対価の名称投資銀行が主に評価する対象
HMA(運営受委託)オーナーが負担運営受託料(基本料率+GOP連動インセンティブ)オーナー側の不動産キャッシュフロー
固定・変動賃料リースオペレーターへ移転賃料(固定分+売上・GOP連動の変動分)オペレーター側の事業キャッシュフロー
フランチャイズ独立事業者(フランチャイジー)が負担ロイヤルティ(売上高の一定率)ブランド保有会社のロイヤルティ収益
表:ホテルの所有・運営分離モデルの比較。実際の契約条件は個別交渉により幅があり、複数の形態を組み合わせる案件もあります。

この三層分離があるために、不動産セクターカバレッジのチームがJ-REITへの物件売却やキャップレート評価を扱う一方、消費財・サービスセクターのチームがホテル運営会社そのもののM&A(株式譲渡・事業統合)を扱う、というように投資銀行内の担当グループが分かれることがあります。業界グループの分け方の一般論は投資銀行のカバレッジ・業界グループとはで解説していますが、ホテル・レジャーセクターはこの三層分離ゆえに不動産チームとコンシューマー・サービスチームの双方が関与しやすい領域です。

評価倍率の実務:なぜEV/EBITDARが使われるのか

ホテル1棟あたりの営業段階の収益力を測る基準指標はGOP(ホテル営業粗利益)で、部門別売上高から部門費用と施設全体で発生する販売費・一般管理費を控除した後、支払利息・減価償却費・賃料・固定資産税等の「所有に関わる費用」を差し引く前の利益です。ADRと稼働率からRevPARを求め、RevPARから部門収益、GOP、NOIへと積み上げる具体的な計算手順は【構築】ホテル収益モデルをゼロから作るで扱っているため、本記事ではGOPを所与の出発点として、そこから先の「評価倍率の選び方」に焦点を当てます。

問題は、同じGOPを生み出す物件でも、前章のHMAと固定賃料リースのどちらの契約形態かによって、報告されるEBITDAの水準がまったく異なってしまう点にあります。HMAでは、オーナーがGOPをほぼそのまま収受し、運営受託料を差し引いた金額がオーナー側のEBITDAになります。固定賃料リースでは、オペレーターがGOPから多額の賃料を支払った残余だけがオペレーター側のEBITDAになるため、同じ物件・同じGOPでもリース形態のEBITDAはHMA形態より著しく小さく見えます。この差は稼ぐ力の差ではなく、契約形態の違いによる見かけ上の差にすぎません。そこで投資銀行の実務では、賃料を控除する前の利益である「EBITDAR(EBITDA+Rent)」を基準に、EV/EBITDAR倍率で評価する手法が使われます。通常のEV/EBITDA倍率は契約形態が同じ企業同士の比較には有効ですが、賃料負担の大きさが異なる企業を横断比較する場面では歪みが生じやすくなります。

以下は説明用の仮設例です。客室数・立地・GOPが同一の物件を、HMAで運営する場合と固定賃料リースで運営する場合の2ケースで比較します。年間総売上高を800百万円、GOPを320百万円(GOPマージン40%)と仮定します。


EBITDAR=報告EBITDA+支払賃料
契約形態が異なる物件・企業を横断比較する際は、報告EBITDAではなくEBITDARを基準にすることで、賃料負担の違いによる見かけ上のばらつきを取り除ける。

項目(百万円)ケースA:HMA(オーナー側)ケースB:固定賃料リース(オペレーター側)
GOP320320
運営受託料(基本3%×売上800+インセンティブ10%×GOP320)▲56
固定賃料▲200
報告EBITDA264120
EBITDAR(報告EBITDA+賃料換算額)264(賃料負担なし)320(120+200)
表:HMAと固定賃料リースにおけるEBITDA・EBITDARの比較(仮設例)。数値・料率はすべて説明用の仮設であり、実在の契約条件とは無関係です。

ケースAのHMAでは、オーナー側の報告EBITDAは320から運営受託料56(800×3%+320×10%=24+32)を差し引いた264になります。ケースBの固定賃料リースでは、オペレーター側の報告EBITDAは320から固定賃料200を差し引いた120にとどまります。この120だけを見て「ケースAの物件の方が2倍以上稼ぐ力がある」と判断するのは誤りで、ケースBのオペレーターのEBITDARは120に賃料200を足し戻した320となり、GOPの水準(320)と一致します。つまりEBITDARを基準にすれば、契約形態が異なる2つのケースを同じ土俵で比較できます。EV/EBITDAR倍率を用いる場合、たとえば説明のために6.5倍から8.0倍という仮設のレンジを当てはめると、EBITDAR320百万円に対する企業価値は2,080百万円(320×6.5)から2,560百万円(320×8.0)という範囲で試算できます。このレンジ自体は実勢の相場を示すものではなく、あくまで計算方法を示すための仮設値である点に注意してください。

GOP・EBITDA・EBITDARの関係を自分の手で検算する

契約形態によってEBITDAの見え方がどう変わるかは、実際に数値を入れ替えて検算すると理解が定着しやすくなります。ホテル業界の財務モデルで使われる基本の型を確認しておくと、開示資料の読み方も変わってきます。

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インバウンド需要とRevPARトレンド:観光庁統計に基づく市場環境

ホテル・レジャーセクターの投資銀行実務では、個社の財務分析に入る前に、業界全体の需給環境を統計で押さえておくことが評価の前提になります。観光庁が2026年7月6日に公表した宿泊旅行統計調査によれば、2025年(令和7年)の年間延べ宿泊者数は6億6,111万人泊(前年比+0.3%)、うち外国人延べ宿泊者数は1億7,992万人泊(前年比+9.4%)でした。全国の客室稼働率は61.6%で、施設タイプ別ではビジネスホテルが75.3%、シティホテルが74.1%と高稼働の一方、旅館は38.2%、簡易宿所は29.6%にとどまり、施設タイプによる稼働率の差が大きいことがわかります。

施設タイプ客室稼働率(2025年)
全体61.6%
ビジネスホテル75.3%
シティホテル74.1%
リゾートホテル56.9%
旅館38.2%
簡易宿所29.6%
出所:観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年(令和7年)年間値を基に大手町プレップ作成。

あわせて観光庁が2026年1月21日に公表したインバウンド消費動向調査によれば、2025年暦年の訪日外国人旅行消費額は9兆4,559億円(前年比+16.4%)で暦年として過去最高を記録し、一人当たり旅行支出は22.9万円(前年比+0.9%)でした。消費額の上位5か国・地域は中国、台湾、米国、韓国、香港の順です。ビジネスホテル・シティホテルの稼働率がすでに70%台にある中で外国人延べ宿泊者数が前年比+9.4%と伸びている状況は、需要の伸びが稼働率の押し上げよりもADR(客室平均単価)の引き上げで吸収されやすいことを示唆します。投資銀行がホテル運営会社の成長を評価する際は、RevPARという合成指標だけでなく、稼働率とADRのどちらが成長ドライバーかを分解して確認することが重要です。ADR・RevPAR(ホテル指標)の定義は用語ページを参照してください。

統合型リゾート(IR)セクター:制度の枠組みと投資銀行が見る評価軸

統合型リゾート(IR)は、特定複合観光施設区域整備法(平成30年法律第80号、通称IR整備法)に基づき整備される、カジノ施設・MICE施設・エンターテイメント施設・送客施設・ホテルを一体として設置・運営する施設です。同法1条は「カジノ事業の収益を活用して地域の創意工夫及び民間の活力を生かした特定複合観光施設区域の整備を推進する」ことを目的とし、法18条1項により、設置運営事業者はカジノ施設を含む一群の施設を一体で整備することが求められ、他業務との兼業は禁止されています。IRセクターのM&Aは、単体ホテルや商業施設のM&Aとは異なり、カジノ・MICE・ホテル等が一体となった事業全体を評価対象とする点がまず特徴です。

IR整備法の下では、国土交通大臣が基本方針を策定し、IR施設を誘致する都道府県等が実施方針を策定した上で民間の設置運営事業者を公募・選定し、都道府県等と事業者が共同で区域整備計画を作成して国土交通大臣の認定を受け、その後に実施協定の認可・締結、カジノ管理委員会によるカジノ事業の免許付与、完成検査を経て開業に至ります。カジノ管理委員会は、IR整備法に基づき内閣府の外局として2020年1月7日に設立された行政委員会で、カジノ事業の免許やカジノ関連機器等製造事業の許可、事業者に対する監督権限を担います。

IR区域整備計画の認定から開業までの流れ(概略) 基本方針 策定 (国土交通大臣) 実施方針 策定・事業者公募 (都道府県等) 区域整備計画 の認定 (国土交通大臣・法9条) 実施協定の 認可・締結 (都道府県等・事業者) カジノ免許 申請・付与 (カジノ管理委員会) 完成検査 →IR開業 投資銀行が重視する評価軸:①資金調達の確実性(客観的な裏付け資料の有無) ②カジノ事業の継続的実施・有害性排除策の実効性 ③主要株主規制(議決権5%以上取得は認可制)による資本政策の制約 出所:観光庁公表資料・IR整備法(平成30年法律第80号)を基に大手町プレップ作成。手続名称は簡略化しています。
図:IR区域整備計画の認定手続きの流れと、投資銀行が案件評価で重視する主な軸。

投資銀行がIRセクターの案件を評価する上で特有の論点になるのが、次の3点です。1つ目は資金調達の確実性です。観光庁が2023年12月27日に公表した審査結果によれば、九州・長崎特定複合観光施設区域整備計画は、審査委員会が「要求基準に適合しない」と判断し、国土交通大臣が認定を行わないことを決定しました。想定投資家・融資者からの客観的な裏付けが不足していたことが主な理由とされ、区域整備計画の認定段階で資金調達計画の実現可能性そのものが審査対象になる点は、通常のM&A・資金調達アドバイザリー以上に厳しい特徴です。2つ目はカジノ事業の継続的な実施体制と、依存防止対策を含む有害性排除策の実効性です。3つ目は、IR整備法58条から60条の主要株主等規制で、カジノ事業者等の議決権・持分の5%以上を保有するにはカジノ管理委員会の認可が必要です。この規制があるため、IR事業者への出資持分の売買やPEファンドによる株式取得は、通常の株式譲渡契約の締結だけでは完結せず、認可プロセスを組み込んだスケジュール設計が必要になります。同様にIR整備法94条から96条により、カジノ事業者が締結する資金調達契約・業務委託契約・施設賃貸借契約もカジノ管理委員会の認可対象で、規制当局との調整が案件のクリティカルパスになりやすい点もIRセクター特有です。

ケーススタディ:大阪IRの事業構造に見る評価の考え方

2026年8月時点で、区域整備計画の認定を受け具体的に開業に向けて進行しているのは大阪・夢洲地区の「大阪IR」のみです。観光庁の公表資料によれば、2023年4月14日にIR推進本部の開催を経て国土交通大臣が区域整備計画を認定し、同年9月22日には実施協定が認可されました。事業主体は大阪府・大阪市と、日本MGMリゾーツ(約43%)・オリックス(約43%)・少数株主計20社(約15%)が出資する設置運営事業者で、敷地面積は約49.2万平方メートル、投資規模は約1兆2,700億円(出資約7,200億円、借入約5,500億円)、開業見込みは2030年秋頃、年間売上見込は約5,200億円、大阪府・大阪市への入場料納入金・納付金見込は約1,060億円とされています(いずれも観光庁が2023年に公表した資料の数値で、その後の見直しにより変更されている可能性があります)。

項目内容
場所夢洲(大阪市此花区)、敷地面積約49.2万㎡
出資者日本MGMリゾーツ(約43%)、オリックス(約43%)、少数株主計20社(約15%)
投資規模約1兆2,700億円(出資約7,200億円、借入約5,500億円)
開業見込2030年秋頃
年間売上見込約5,200億円
大阪府・大阪市への入場料納入金・納付金見込約1,060億円
出所:観光庁公表資料(大阪IRの区域整備計画認定に関する資料)を基に大手町プレップ作成。2023年時点の計画数値であり、その後の見直しにより変更されている可能性があります。

施設構成として、カジノ施設・MICE施設・小売・劇場等を含む中核施設に加え、宿泊施設として複数のホテル(高級ブランドホテルを含む)が計画されている点は、前半で扱った所有・運営分離の論点がIRセクターでも当てはまることを示しています。IR全体は設置運営事業者が一体で整備・運営する義務を負う一方、内包するホテル部分については外部ブランドとの間でHMAやフランチャイズに相当する契約が個別に結ばれる可能性があり、デューデリジェンスではIR全体の事業計画・資金調達計画に加えて、ホテル部分の運営契約条件も個別確認が必要です。長崎の事例が示すように、投資規模の大きいIR案件では資金調達の実現可能性という財務アドバイザリーの領域が審査の中心的論点になる点が、他業種のM&A案件との大きな違いです。

住み分け:関連するセクター記事との使い分け

本記事は、ホテル・レジャー・IRセクターにおける投資銀行アドバイザリー実務、とりわけ所有・運営分離構造に基づく評価倍率の選び方と、IR整備法特有の規制・評価軸に焦点を当てました。単体ホテルのADR・稼働率からRevPAR・GOP・NOIを積み上げる財務モデルの具体的な構築手順は【構築】ホテル収益モデルをゼロから作る、不動産一般のプロフォーマ評価(NOI・キャップレート・DSCR)の基礎は不動産のプロフォーマ入門、J-REIT公募増資を含む不動産セクターカバレッジの実務は不動産投資銀行(不動産セクターカバレッジ)とはで扱っています。消費財・小売セクターにおける評価指標・ディールタイプとの比較は消費財・小売投資銀行とは、投資銀行の業界グループ全般の分け方は投資銀行のカバレッジ・業界グループとはを参照してください。

よくある質問(FAQ)

Q. ホテル運営会社のM&AでEV/EBITDA倍率ではなくEV/EBITDAR倍率が使われるのはなぜですか。
A. 同じ物件・同じGOPであっても、HMAで運営されているか固定賃料リースで運営されているかによって、報告されるEBITDAの水準が大きく変わってしまうためです。賃料を費用として控除する前のEBITDAR(EBITDA+Rent)を基準にすることで、契約形態の違いによる見かけ上の差を取り除き、異なる企業・物件を横断的に比較しやすくなります。

Q. HMAと固定賃料リース、どちらが日本のホテル市場で一般的ですか。
A. 一律に「どちらが多い」と断定できる公的な統計は確認できていません。外資系高級ブランドホテルはHMAが選ばれる傾向がある一方、国内の大型シティホテルでは賃料形態も広く使われており、案件ごとにオーナーの意向やブランドの契約方針によって選択が分かれます。

Q. IR事業者への出資は、通常の株式譲渡と同じ手続きで完結しますか。
A. 完結しません。特定複合観光施設区域整備法58条から60条に基づき、カジノ事業者・カジノ施設供用事業者等の議決権・持分の5%以上を取得するにはカジノ管理委員会の認可が必要です。反社会的勢力に該当しないか等の確認プロセスがあるため、通常の株式譲渡契約の締結スケジュールに加えて、認可取得に要する期間を織り込んだディールスケジュールの設計が必要になります。

Q. 大阪IR以外に、日本でIRが開業する予定はありますか。
A. 2026年8月時点で、国土交通大臣の区域整備計画認定を受けているのは大阪・夢洲地区のみです。九州・長崎の区域整備計画は2023年12月27日に認定しない旨が決定されており、具体的に開業へ進行しているIR案件は大阪IRに限られます。区域整備計画は当面全国最大3区域まで認定される制度ですが、大阪以外の新たな認定に向けた進捗は本記事執筆時点では確認できていません。

Q. RevPARが上昇していれば、ホテル運営会社の評価も自動的に上がりますか。
A. 自動的には上がりません。上昇要因が稼働率の改善かADR(客室平均単価)の引き上げかでコスト構造への影響が異なり、ADR主導の方が増収効果が大きくGOPマージンの改善につながりやすい傾向があります。RevPARという合成指標だけでなく、ADRと稼働率のどちらが成長を牽引しているかを分解して確認することが重要です。

まとめ

ホテル・レジャー・IRセクターの投資銀行アドバイザリー実務は、対象事業が「不動産」なのか「運営」なのかという所有・運営分離の構造を理解しないと、参照すべき財務指標そのものを見誤ります。HMA・固定賃料リース・フランチャイズという契約形態の違いによってEBITDAの見え方が変わるため、実務ではEBITDAR基準での評価倍率が使われる場面があります。業界全体の需給環境は観光庁の統計で定点観測でき、2025年時点では外国人延べ宿泊者数の伸びがADR主導の成長を示唆する状況にあります。

統合型リゾート(IR)セクターは、この所有・運営分離の論点に加えて、IR整備法という業法特有の規制が重なります。区域整備計画の認定段階での資金調達確実性の審査、主要株主規制による資本政策の制約、契約規制によるカジノ管理委員会の認可プロセスは、通常のM&A・資金調達アドバイザリーにはない評価軸であり、長崎の不認定事例と大阪IRの進行事例を比較することで、投資銀行がIR案件で何を重視しているかが具体的に見えてきます。

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出典・参考(2026年8月確認)

  • 観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年(令和7年)年間値等)」2026年7月6日発表(延べ宿泊者数6億6,111万人泊、外国人延べ宿泊者数1億7,992万人泊、全国客室稼働率61.6%、施設タイプ別稼働率)https://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_00090.html (WebFetchで到達・内容確認済み)
  • 観光庁「インバウンド消費動向調査2025年暦年(速報)及び10-12月期(1次速報)の結果について」2026年1月21日発表(訪日外国人旅行消費額9兆4,559億円、一人当たり旅行支出22.9万円、上位5か国・地域)https://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_00071.html (WebFetchで到達・内容確認済み)
  • 観光庁「大阪・夢洲地区のIR区域整備計画を認定」2023年報道発表(認定日2023年4月14日、事業主体)https://www.mlit.go.jp/kankocho/news11_0414.html (WebFetchで到達・内容確認済み)
  • 観光庁「大阪IR これまでの経緯と今後のプロセス」(実施協定認可日2023年9月22日、出資者構成、投資規模約1兆2,700億円、開業見込・年間売上見込・入場料納入金見込・敷地面積等)https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001631879.pdf (WebFetchでPDFを取得し内容確認済み)
  • 観光庁「九州・長崎特定複合観光施設区域整備計画について」2023年12月27日発表(区域整備計画を認定しない旨の決定)https://www.mlit.go.jp/kankocho/news11_000001_00006.html (WebFetchで到達・内容確認済み)
  • 観光庁「特定複合観光施設(IR)|IR整備の推進」(区域整備計画認定手続きの流れ)https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/kihonkeikaku/inbound_kaifuku/ir/tokuteifukugokanko.html (WebFetchで到達確認済み)
  • カジノ管理委員会「カジノ規制について」(免許制による参入規制、依存防止対策の枠組み)https://www.jcrc.go.jp/policy/regulatory/index.html (WebFetchで到達・内容確認済み)
  • カジノ管理委員会「カジノ事業活動の規制」(入場等回数制限対象者、マイナンバーカード等による本人確認)https://www.jcrc.go.jp/policy/regulatory/casino.html (WebFetchで到達・内容確認済み。入場料の具体的金額・回数の数値は本ページに明記がないため本文には記載していない)
  • 日本法令外国語訳データベースシステム「特定複合観光施設区域整備法」(法1条:目的、第7章173条〜175条:入場制限、第8章176条〜182条:入場料等)https://www.japaneselawtranslation.go.jp/ja/laws/view/3518 (WebFetchで条文本文の到達・内容確認済み)
  • アンダーソン・毛利・友常法律事務所「IR整備法(通称「カジノ法」)の概要(1)」2018年10月(法18条1項:兼業禁止、法58条〜60条:主要株主等規制、法94条〜96条:契約規制、法9条:区域整備計画、法13条:実施協定)https://www.amt-law.com/asset/pdf/bulletins14_pdf/181004.pdf (WebFetchでPDFを取得し内容確認済み。法律事務所の解説記事で、条文の一次確認は上記データベースと併用)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。