この記事で分かること
- EV/EBITDAR倍率の定義と、EBITDAR(賃借料調整後EBITDA)の計算式
- 自社保有と賃借(リース)が混在する業種でなぜこの倍率が必要か
- 整数設例による、リース調整の有無で評価がどう変わるかの比較
- 日本の新リース会計基準がこの倍率の使われ方に与える影響
30秒で分かる定義
EV/EBITDAR倍率(EV/EBITDAR Multiple、読み方:いーぶいえびっとだーるばいりつ)とは、EBITDAに賃借料(店舗・設備等の賃借料・リース費用)を加算したEBITDAR(EBITDA before Rent)に対する企業価値(EV)の倍率で、不動産・設備を自社保有する会社と賃借(リース)する会社が混在する業種で、両者を公平に比較するために使う指標です。航空・ホテル・小売・外食など、店舗や機材の保有形態が会社ごとに異なる業種で使われます。
なぜ実務で重要なのか
エクイティリサーチ・IBでは、同業種内で自社保有比率とリース比率が会社ごとに異なると、EV/EBITDA倍率だけでは公平な比較ができません。賃借料は営業費用としてEBITDAから差し引かれる一方、自社保有の場合は賃借料が発生せずEBITDAが高く出るため、賃借料を足し戻して両者を揃えるのがEBITDARの発想です。M&A・不動産評価でも、店舗の保有形態を分析する際の基礎データになります。
計算式
賃借料をEBITDAに足し戻すだけでなく、企業価値(EV)側にも「賃借料を資本化した金額(賃借料 × 一定の倍率)」を加算するのが正しい手順です。賃借している資産に相当する価値をEV側にも反映させないと、自社保有の会社(不動産の価値がEVに含まれる)と条件が揃わないためです。
整数設例で確認する
設例(架空数値、単位:百万円)。ホテル業のA社(自社保有中心)とB社(賃借中心)を比較します。賃借料の資本化倍率は8倍とします。
| 項目 | A社(自社保有) | B社(賃借中心) |
|---|---|---|
| EBITDA | 1,000 | 700 |
| 賃借料 | 0 | 300 |
| EBITDAR | 1,000 | 1,000 |
| 企業価値(EV) | 8,000 | 5,000 |
賃借料を足し戻すと、両社のEBITDARはともに1,000で一致します。B社の賃借料の資本化額 = 300 × 8倍 = 2,400。調整後EV(B社)= 5,000 + 2,400 = 7,400。A社のEV/EBITDAR = 8,000 ÷ 1,000 = 8.0倍、B社のEV/EBITDAR = 7,400 ÷ 1,000 = 7.4倍となります。調整前の単純なEV/EBITDA(A社8.0倍、B社5,000÷700=7.14倍)だけを見るとB社がより割安に見えますが、賃借資産の価値を織り込んで調整すると、両社の評価水準の差はより小さく(8.0倍 対 7.4倍)なることが確認できます。
投資判断への影響
EV/EBITDAR倍率を使わずにEV/EBITDA倍率だけで比較すると、賃借比率の高い会社を実態以上に割安と判断してしまうリスクがあります。逆に賃借を積極活用して身軽な財務構造を保つ経営戦略が正当に評価されない可能性もあるため、両方の倍率を並べて、どちらの解釈がより実態に即しているかを検討するのが実務的なアプローチです。
財務モデル・Excelでの使い方
ホテル・小売・外食業のCompsシートでは、EBITDA・賃借料・EBITDAR・賃借料資本化額・調整後EVを1行に並べます。
- 賃借料は損益計算書の販管費内訳またはセグメント注記から取得し、資本化倍率(一般に6〜8倍)は業種の平均的な期待利回りの逆数として設定する
- 賃借料資本化倍率は感応度分析で振り、評価レンジがどの程度変動するかを確認する
- リース会計入門で扱うオンバランス化されたリース負債がある場合は、EVの計算時に二重計上(リース負債+賃借料の資本化)にならないよう注意する
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「賃借料をEBITDAに足し戻すだけでよい」→ 正しくは、EV側にも賃借資産相当額を加算しないと比較が不公平になります。EBITDAR側だけを調整するのは片手落ちです。
誤解2:「リース会計基準の変更でEBITDARはもう不要」→ 正しくは、オンバランス化が進んでも、保有と賃借という経済的な選択の違い自体は残るため、比較目的でのEBITDAR分析には引き続き意味があります。
日本実務での扱い
(2026年7月時点)日本の企業会計基準委員会(ASBJ)は新しいリース会計基準(企業会計基準第34号)を公表しており、IFRS16と同様に多くのオペレーティングリースを貸借対照表に資産・負債として計上する単一モデルへの移行が進められています。強制適用後は賃借料の多くが減価償却費・支払利息に置き換わりEBITDAの算定方法自体が変わるため、EV/EBITDAR倍率による調整の必要性は変わりつつも、保有と賃借という経営判断の違いを比較する分析軸としての有用性は残ります。米国では既にASC842の適用でオンバランス化が進んでおり、日本もこの流れに追隨する形です。移行期間中は基準適用前後の会社が混在するため、比較会社群の会計基準の適用状況を必ず確認する必要があります。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:ホテル業界で自社保有中心の会社と賃借中心の会社をEV/EBITDA倍率だけで比較してはいけない理由を説明してください。
「賃借料は営業費用としてEBITDAから差し引かれるため、賃借中心の会社はEBITDAが低く出て、単純なEV/EBITDA倍率では割安に見えがちです。EBITDARに賃借料を足し戻し、EV側にも賃借資産相当額を資本化して加算することで、保有形態の違いを揃えた公平な比較ができます。」
深掘りでは「賃借料の資本化倍率をどう設定するか」「新リース会計基準の影響」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. EBITDARは航空・ホテル・小売以外の業種でも使いますか?
A. 主に不動産・設備の保有形態が会社ごとに大きく異なる業種で使われます。製造業のように保有が前提の業種ではあまり使われません。
Q. 賃借料の資本化倍率はどう決めますか?
A. 一般的な不動産の期待利回り(キャップレート)の逆数を目安に、業種慣行として6〜8倍程度が使われることが多いですが、金利環境や不動産市況によって変動します。
出典・参考(2026-07-25確認)
- 企業会計基準委員会「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号) https://www.asb.or.jp/
- EDINET(有価証券報告書) https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。