この記事で分かること
減価償却は「支 払いの分割」ではなく「費 用の配分」
設備100を現金で買った年、現金は100減りますが費用は100計上されません。設備は何年も収益に貢献するので、その貢献期間(耐用年数)にわたって費用を配分します。これが減価償却です。結果として、PLの費用とキャッシュの動きが時間的にズレます。このズレこそ、CF計算書で減価償却を足し戻す理由であり(間接法の読み方)、EBITDAという指標が生まれた理由でもあります(EBITDA)。
計算例:定額法と定率法
| 方法 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 定額法(100÷5年) | 20 | 20 | 20 | 毎期一定。モデリングで扱いやすい |
| 定率法(償却率40%の例) | 40 | 24 | 14.4 | 前倒しで大きく費用化(100×40%→残60×40%→残36×40%) |
- どちらでも合計の償却額は同じで、違うのはタイミングだけです。ただしタイミングの違いは各期の利益・税金・簿価を変えます。
- 会計上の方法・耐用年数と税務上の扱いは別の体系です。税務の償却率・制度は改正があるため、実案件では必ずその時点の税制を一次確認してください。
- モデリングでは定額法ベースの償却レイヤー方式(スケジュールの作り方)が標準です。
無形固定資産の償却:有形との違い
特許権やソフトウェアのような無形固定資産でも、取得価額をその資産を使う期間にわたって費用として配分する考え方は同じです。有形固定資産の配分を減価償却、無形固定資産の配分を償却(英語ではamortization)と呼び分けるのが一般的で、EBITDAのD&Aには両方が含まれます。
| 項目 | 有形固定資産 | 無形固定資産 |
|---|---|---|
| 対象の例 | 機械装置・器具備品・建物など | ソフトウェア・特許権など |
| 呼び方 | 減価償却 | 償却 |
| 償却方法 | 定額法・定率法から選べる(建物などは定額法のみ) | 定額法のみ(鉱業権などを除く) |
| 耐用年数の例 | 資産の種類ごとに省令で定める | 自社利用ソフトウェアは5年。複写して販売するための原本・研究開発用は3年 |
- 無形固定資産は定額法のみなので、モデルでは表1の定額法と同じく取得価額を耐用年数で割り、毎期同額を計上します。
- 設例:耐用年数5年の自社利用ソフトウェアを50百万円で取得すると、毎期の償却額は10百万円(50÷5)、5年間の合計は50百万円です。
- 資産計上の可否はソフトウェア開発費の会計処理、買収で生じるのれんや無形資産の償却はのれん償却
(日 本基準)で扱っています。
出典(2026-10-24確認):法人税法施行令第13条(減価償却資産の範囲)・第48条の2第1項(償却方法)、国税庁タックスアンサーNo.5461「ソフトウエアの取得価額と耐用年数」
Capexとの関係で「会 社のフェーズ」を読む
| Capex/D&A | 示唆 |
|---|---|
| 1.0を大きく超える | 拡大投資期。将来の成長を仕込んでいるが、FCFは薄い。投資の回収可能性が評価の焦点 |
| ほぼ1.0 | 維持水準。資産規模を保つ定常状態に近い(TVの前提と整合する姿。落とし穴#3) |
| 1.0を大きく下回る | 投資抑制期。FCFは厚く見えるが、資産の食い潰しなら持続不能。古い設備の更新負担が将来に積み上がる |
維持Capexと成長Capexを分ける
- 維持Capex:今の売上を保つための更新・修繕。実質的には「毎年必ず出ていく現金」で、価値評価では費用に近い性格です。
- 成長Capex:能力増強・新規出店・新製品ライン。将来の売上増と対で評価すべき投資です。
- この区別ができると、①不況シナリオで削れる投資額が分かる、②「FCFが厚い」の中身(維持投資を怠っているだけではないか)を検証できる、③LBOのデット返済余力(デットキャパシティ)の見積もりが締まる。こうして分析の解像度が一段上がります。開示だけでは分けられないことも多く、DD(財務DD)では設備台帳・投資計画から推定します。
Q. 面接頻出
A. 「PL:税引前利益10減、税率30%なら純利益7減。CF:純利益−7から出発し償却+10を足し戻すので営業CFは+3。BS:固定資産10減、現金+3、利益剰余金−7で両側10減のままバランスします」。税効果を通すのが正解の条件です(三表のつながり)。
Q. 償却方法の違いは企業比較にどう影響しますか?
A. 同じ資産でも定率法採用側は初期の利益が小さく出ます。営業利益・EBITの比較では償却方針の差が乗るため、償却前のEBITDAで揃えるか、方針の差を注記で確認してから比較します(マルチプル選定)。
まとめ
- 減価償却は費用の期間配分。現金は買った時、費用は使う期間。このズレが分析の出発点。
- 定額と定率は合計同じ・配分違い。モデルは定額×レイヤー方式が標準。
- Capex/D&A比率でフェーズを読み、維持と成長を分けてFCFの質を評価する。
実務Excel教材(投資銀行フォーマット)
読んで分かったら、次は手を動かす番です。本記事の内容を実務形式のExcelで組み上げるための教材を用意しています。
本記事について
本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。