想定読者:PEファンドへの出資を検討する年金・金融機関・事業会社のLP担当者、次号ファンドの募集を計画するGPのIR・パートナー、PE志望者
前提知識:LP・GP・管理報酬・キャリーの仕組みと、IRR・MOICの意味(回帰分析の用語は本文で説明する)

前号が好成績だったGPから、次号は前号の2倍の規模で募集するという案内が届いたとする。同じチームが同じ戦略で運用するという。LPの担当者が投資委員会で問われるのは、ファンドが大きくなっても前号と同じリターンが期待できるのか、という点だろう。

この問いに数字で答えるのは難しい。大きいファンドを集められるのは前号までの成績が良かったGPであり、規模そのものの影響とGPの腕の影響が混ざるからだ。日本でも政府の資産運用立国の政策のもとで、新興の運用会社を業歴の短さだけで排除しないことがアセットオーナーに求められるようになった1。次号の増額をどう評価するかは、LPの選定で繰り返し問われる。本稿は、規模の影響だけを取り出そうとした米国の研究を読み、LPとGPの実務に持ち帰れることを考える。

この記事が主に参照する研究

Abhishek Bhardwaj, Abhinav Gupta, Sabrina T. Howell, Kyle Zimmerschied(2025)「ファンド規模はPEの成績に影響するか:私立大学への寄付による証拠(Does Fund Size Affect Private Equity Performance? Evidence from Donations to Private Universities)」著者による改訂版(2025年9月)。初出は NBER Working Paper No. 33596

  • 公表:初版 2025年3月(NBER WP。同時期に SSRN にも掲載)。参照した版:2025年9月の改訂版(著者サイト。初出は NBER WP 33596、2025年3月)。査読:未査読(WP)2
  • データ:Preqin の「PE」に分類されるファンドのうち、ビンテージ2000〜2017年・規模1億ドル超で、米国の私立大学の基金から出資を受けたことのあるGPのファンド1,231本(GP 193社)。案件は466本の8,748件3
  • 方法:大学が受け取った寄付を操作変数とする二段階の回帰(規模の因果効果の識別を狙う)4
  • 位置づけ:結果が割れていた「ファンド規模と成績」という既存の問いを、新しいデータと識別の方法で検証した研究

なぜ規模と​成績の​相関では​答えが​出ないのか

ファンド規模と成績の関係を調べた先行研究は、無相関、正の相関、負の相関のいずれも報告してきた。この研究でも、全標本で単純な回帰をすると、規模が10億ドル大きいファンドの純IRRは0.5%ポイント低いだけで、統計的にも弱い関係だった。一方、著者らのLP調査(回答81件)では8割が小さいファンドの方が成績が良いと答えた5。純IRRは管理報酬やキャリーを差し引いた後の、LPから見たリターンを指す(IRRと​MOICの​使い分けを参照)。

相関が弱くても、規模の影響が小さいとは限らない。大きく集められるのはLPの需要が強い、腕の良いGPだ。腕の良さが成績を押し上げ、規模の拡大が押し下げているなら、両者が打ち消し合って相関は弱く見える。知りたいのは「同じGPが、腕とは無関係な事情で大きく集めたら、成績はどうなるか」である。

そこで著者らが使ったのが、米国の私立大学への寄付だ。大学の基金は、以前に出資したGPの後継ファンドに出資する傾向が強い。研究の集計では、前号に出資した大学が後継ファンドに出資する確率は、前号への出資を条件にしない場合の約25倍だった6。寄付は少数の予測しにくい大口の寄付に左右される面が大きいので、ある大学に寄付が集まった年に、その大学と取引のあるGPが募集をしていれば、GPの腕とは関係なく出資が増えやすい。このように、知りたい原因(規模)を動かすが、結果(成績)には規模を通してしか影響しない変数を「操作変数」と呼ぶ。大学基金の​資産配分の​考え方を知っていると、この仕組みは理解しやすい。

手がかりの条件は2つある。第1に、寄付は規模を実際に動かしたか。GPの過去の大学LPが受け取った寄付が1標準偏差(3.9億ドル)多いと、ファンド規模は3.22億ドル大きく、寄付1ドル当たり0.83ドルに当たる。寄付の増加分だけでは説明できない大きさで、著者らは、内情を知る大学の継続出資が他のLPへの信認の合図になったと解釈している。調査でも、大学の出資を知れば出資しやすくなるとLPの約6割が答えた7。第2に、寄付が規模以外の経路で成績に影響しないこと。これは検定できないが、寄付の指標はGPの過去の成績、過去のファンド数、前回の募集からの年数、報酬条件と統計的に有意な関係がなく、株式市場のリターンとも明確な連動は見られなかった。大学とGPの取引関係を無作為に入れ替えた偽の手がかりは規模を予測せず、PE・金融業界の寄付者を除いても結果は変わらなかった8。

研究が​示した​結果:規模が​大きい​ほど​純IRRも​MOICも​下がる

操作変数で推定すると、規模の影響ははっきり負になった。最も多くの条件を揃えた推定で、規模が10億ドル大きいと純IRRは5.3%ポイント低い(5%水準で有意)。標本の平均規模は15.1億ドル、標準偏差は20.6億ドル、純IRRの平均は18%なので、1標準偏差の規模の違いは純IRRで10.9%ポイントに相当する。著者らは、規模が1%(約1,510万ドル)大きいと純IRRが約0.1%ポイント下がるとも表現する9。

目安として、前号から次号への増額が標本の上位4分の1に入る程度(約6億ドル)なら、純IRRは3.2%ポイント低いという計算になる。純MOICも10億ドル当たり−0.252倍(平均1.88倍)と同じ向きだ10。標本の範囲は異なるが、単純な回帰と比べて規模の不利は10倍ほど大きい。表1に、単純な回帰と操作変数推定、主な頑健性の確認を並べた。

表1 規模10億ドル当たりの純IRRの変化:単純な回帰と操作変数推定

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推定純IRRの変化
(%ポイント)
有意水準ファンド数
単純な回帰(OLS、表IA.1A列5)−0.510%1,758
操作変数推定(表5A列5)−5.35%1,231
頑健性:1990年代のビンテージを追加−5.85%1,372
頑健性:ファンド・オブ・ファンズを除外(標本を拡大)−3.810%1,372
頑健性:規模の大きい上位10社のGPを除外−5.910%1,056
頑健性:規模が上位10%のファンドを除外−11.25%1,107
出所:R1(2025年9月の​改訂版。​初出は NBER WP 33596、​2025年3月)​表IA.1A​(p.65)・表5A​(p.51)・表7(p.53〜54)の​係数を​基に​大手町​プレップが​抜粋・整理​(係数×100で%ポイントに換算)。​単純な​回帰は​大学LPの​ない​GPも​含む全標本。​頑健性の​行は​表5A列5を​基本に​標本を​変えた​推定​(FoF​除外は​1990年代等を​加えた​標本から​除外)。​有意水準は、​その​係数が​0と​統計的に​区別できる​水準。​規模の​上位10%を​除くと​係数が​大きくなるのは、​1ドル​当たりの​効果を​比べた​結果で、​差その​ものの​検定は​示されていない。

表1で目を引くのは、規模が上位10%のファンドを除くと、10億ドル当たりの低下がほぼ倍になることだ。著者らは、低下は小さいファンドで強いと述べている。ただしこれは1ドル当たりの効果を比べたもので、二つの係数の差を検定した結果は示されていない11。

大きいファンドがリスクを抑えた結果ではないか、という疑問もありうる。研究は純IRRの4分位のどこに入るかへの規模の影響を推定した。規模が10億ドル大きいと、最下位の分位に入る確率が16.9%ポイント上がり、最上位に入る確率が17.5%ポイント下がった(それぞれ5%水準、10%水準)。成績の分布が真ん中に寄ったのではなく、全体が下にずれた形で、著者らはリスク低下では説明できないとしている12。

何が​変わったのか:人員より​案件の​大型化

ファンドが大きくなれば、GPは案件を増やすか、1件を大きくするしかない。規模が10億ドル大きいと、平均の案件規模は2,388万ドル(標本平均9,847万ドル)大きく、案件数は7.0件(平均19.2件)多く、最後の案件までの期間は1.1年長かった。業種・地域の分散は有意に変わらなかった13。図1はこれらを各標本の平均に対する比率に直したものだ。

図1 ファンド規模が10億ドル大きいとき図1 ファンド規模が10億ドル大きいと操作変数推定の係数÷標本平均大学LPを持つGPのファンド(2000〜2017年)純IRR−29%−5.3%ポイント(平均18%)純MOIC−13%−0.252倍(平均1.88倍)平均案件規模+24%+2,388万ドル(平均9,847万ドル)案件数+37%+7.0件(平均19.2件)パートナー数+32%+2.4人(平均7.3人)赤=下がった指標、灰青=増えた指標1人当たり案件数・運用額・経験は有意な変化なし
出所:R1(2025年9月の​改訂版。​初出は NBER WP 33596、​2025年3月)​表5列5(p.51)・表8(p.55)の​係数と​各表の​標本平均を​基に​大手町​プレップ作成​(原図は​使っていない。​ページは PDF の​物理​ページ)。​比率は​係数÷標本平均の​編集部の​換算。​純IRRの​係数は​−0.053(IRRを小数で表示)で、​10億​ドル​当たり−5.3%ポイント。​有意水準は​純IRR・​純MOICが​5%、​案件規模・​案件数・​パートナー​数が​1%。​1人当たりの​案件数・​運用額・​パートナーの​経験は​統計的に​有意な​変化が​なかった​(表8B)。​大学の​寄付で​規模が​変わった​GPに​ついての​推定で、​すべての​PE​ファンドに​当ては​まるとは​限らない。

案件が増えれば、パートナーの目が行き届かなくなる心配がある。しかしパートナー数は10億ドル当たり2.4人(平均7.3人)増えており、1人当たりの案件数や運用額、パートナーの過去の経験には統計的に有意な変化がなかった。著者らは、人手の逼迫が主因だという説明は支持されないとしつつ、何らかの役割を果たした可能性は排除できないと書いている14。

残る候補が案件の大型化だ。研究は同じ手がかりで、案件規模が成績に与える影響も推定した。案件規模が1億ドル大きいと、案件の総IRR(報酬を引く前)は13%ポイント低く(5%水準)、最下位の4分位に入る確率は15%ポイント上がった(1%水準)。大きい案件は投資時点のEBITDA対EV(企業価値)の比率が高い一方で、負債対EVの比率も1億ドル当たり13%ポイント高く、投資から売却までのEBITDA対EVの改善は2%ポイント小さかった。著者らの丸めを含む概算では、案件の大型化でファンド全体の低下の約6割を説明できる。案件は総IRR、ファンドは純IRRで測っているため、著者ら自身はこれを下限の目安としている15。

著者らはこの結果を、報酬が増えて成果を最大化する努力が緩む「quiet life(静かな生活)」の仮説と整合的だと解釈する。成績と無関係に入る管理報酬が増え、事業改善の余地が小さい、すでに利益率の高い大型案件を選ぶ、という見立てだ16。努力の度合いそのものを測ったわけではない。

LPと​GPで、​最適な​規模は​一致しない

研究は推定した係数を使い、規模とNPV(正味現在価値)の関係を様式化した設例で示している。平均的なファンド(15.1億ドル、純IRR18%、ハードルレート8%、管理報酬2%、キャリー20%、運用10年、LPの要求収益率12%。配分の順序は分配​ウォーターフォールを参照)を出発点に規模を動かすと、LP全体のNPVは規模とともに増えた後、11.2億ドル(標本の68パーセンタイル)で最大になり、26.1億ドル(83パーセンタイル)で負に転じる。純IRRが下がっても要求収益率を上回るうちは、大きな元本に超過収益が乗るので総額は増えるが、ある規模を超えると利回りの低下が勝つ。一方、GPのNPVは管理報酬が規模に比例するためほぼ直線的に増え続け、非常に大きい規模でキャリーの減少によってようやく伸びが鈍る17。

最適な規模は係数に敏感で、係数を半分にすると最適規模は16.7億ドル、2倍にすると7.9億ドルに動く18。

研究の​対象と​限界、​反対の​見方

対象は米国の私立大学の基金と取引のあるGPのファンドで、PEの分類にはファンド・オブ・ファンズも含まれる(標本を広げたうえで除いた推定では係数は−0.038)。平均規模は約15億ドルと、他の研究の米国バイアウト・ファンド(平均約11億ドル)よりやや大きい19。また、操作変数の推定が捉えるのは、寄付に反応して規模が変わったGPの効果だ。著者らは、そうしたGPが典型的なGPと大きく違わないことを示す一方、外部妥当性は検定できないと認めている20。未査読の論文であり、手がかりの前提(寄付が規模以外の経路で成績に影響しない)は検定できない仮定にとどまる。

先行研究には、規模の拡大と成績の低下の関係そのものを疑う見方もある。Andrea Rossi は、急成長したGPはそれまで運が良かった傾向があり、その運が平均に戻ることで見かけの負の関係が生じると論じ、その偏りを補正すると成長の効果は約80%小さくなり、統計的に有意でなくなったと報告した21。今回の研究は、腕や過去の運と無関係な寄付の変動でこの問題を避けようとした。今回の推定でも、過去の成績の係数は負で、成績の平均回帰が観測されている22。著者らは、2000年代以降に上位の成績が続かなくなった変化が、上位GPのファンドの大型化と並行して起きたと指摘するが、両者の因果は検証していない。

大手町​プレップの​考察:LPが​見るべきは​「自分の出資額」の側

ここからは編集部の推論である。研究のNPVの設例は、LP全体の資金が規模とともに増える前提の計算だ。個々のLPの約束額が一定なら、全額を当初投下し一括回収する設例の前提では、そのLPのNPVは純IRRの低下とともに減る。山型の曲線が意味を持つのは、配分を増やしたいLP、たとえばPEの比率を引き上げる途中で、同じGPに大きく出資したいLPの側だ。立場によって、研究から引き出す結論は変わる。

もう一つは、規模を押し上げた資金の性質である。研究の手がかりは、GPの腕と無関係に入ってきた資金だった。実務で規模を押し上げる典型は目標額を上回る応募で、研究の標本でも実際の規模は目標額を平均で約10%上回っていた23。応募の多さはGPへの評価の表れだが、そのぶん規模を上げるかは別の判断で、そこに成績の代償がありうる、と読むのが自然だろう。

日本の​実務への​応用

研究の係数は平均15億ドル級のファンドから10億ドル単位で得られたもので、円建ての数十億〜数百億円のファンドにそのまま当てはめることはできない(日本のファンド規模の分布は本稿では統計で確認していない)。持ち帰れるのは数値より、規模が大きくなったときに案件規模・案件数・人員・期間・負債の何が変わるかを点検する視点である(ミドルマーケットと​メガバイアウトの​違いも参考になる)。

LPの選定では、次号を前号の何倍にするかと、増額をどう使うかを分けて聞くとよい。研究で規模の不利の主な経路だったのは案件の大型化で、パートナーの増員は比例して進んでいた。研究の標本では大型案件ほど負債比率が高かった。人員計画が十分でも、平均の案件規模が大きくなれば、より高い価格帯の案件に入ることになる。LPの​ファンド​選定​DDQに案件規模の帯と負債比率の計画を加える理由だ。日本の​LPの​アロケーションと​ファンド選定の流れの中では、配分を増やす局面かどうかも、規模の評価を左右する。

GPの側では、規模を大きくするほど管理報酬の収入は増え、LPと最適な規模は一致しない。次号の規模を決める際に、LPの利回りがどこまで下がると既存LPにとって不利になるかを先に計算して示せれば、LPとの対話の材料になる(ファンドレイズの​実務、AUMと​GPの​損益構造を参照)。

設例:次号を​200億円から​何億円に​するか

学習用の設例(架空)

  • 国内の中堅バイアウトGPが、前号200億円の後継ファンドを計画している。前号規模なら純IRR18%が見込めると仮定する
  • 次号を100億円大きくするごとに、純IRRが0.5・1.0・2.0%ポイント下がる3通りを仮定する(編集部の仮定で、研究の係数を円に換算したものではない)
  • LPの要求収益率12%、運用10年。約束額を最初に全額投下し、10年後に一括回収する(研究の設例と同じ簡略化)。管理報酬・キャリーは純IRRに織り込み済みとみなす
  • あるLPは、規模によらず20億円を約束する

LP全体のNPVは、規模×{(1+純IRR)÷(1+要求収益率)}^10−規模で計算できる。前号と同じ200億円なら137.0億円になる。図2と表2は、次号の規模と純IRRの下がり方の仮定ごとに、LP全体のNPVと、20億円を出資するLPのNPVを並べたものだ。

図2 設例:次号の規模とLP全体のNPV図2 設例:次号の規模とLP全体のNPVIRRの下がり方の仮定ごと(架空)縦軸=LP全体のNPV(億円)−1000100200200300400500600700次号の規模(億円)0.5pt1.0pt2.0ptpt=100億円増やすごとの純IRRの低下○=LP全体のNPVが最大になる規模
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ作成​(GP・​数値は​すべて​架空。​規模と​純IRRの​低下幅は​編集部の​仮定で、​R1 の​推定係数は​使っていない。​純IRR18%・要求収益率12%・10年は R1 付録の​設例に​ならった)。​前提:前号200億円で​純IRR18%、​LPの​要求収益率12%、​運用期間10年で、​約束額を​最初に​全額投下し10年後に​一括回収する​(R1 付録の設例と同じ簡略化)。​NPV=規模×{(1+純IRR)÷(1+要求収益率)}^10−規模。​純IRRの​低下幅​(100億円当たり0.5・1.0・2.0%ポイント)は​編集部の​仮定で、​R1 の​係数を​円に​換算した​ものではない。​2.0ptの​線は​NPVが​−100億円を​下回る​規模で​切っている。

表2 設例:純IRR/LP全体のNPV/20億円を出資するLPのNPV(各セル上から順に)

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次号の規模低下0.5pt低下1.0pt低下2.0pt
200億円18.0%
137.0億円
13.7億円
18.0%
137.0億円
13.7億円
18.0%
137.0億円
13.7億円
300億円17.5%
184.5億円
12.3億円
17.0%
164.3億円
11.0億円
16.0%
126.1億円
8.4億円
400億円17.0%
219.1億円
11.0億円
16.0%
168.1億円
8.4億円
14.0%
77.5億円
3.9億円
500億円16.5%
241.4億円
9.7億円
15.0%
151.3億円
6.1億円
12.0%
0.0億円
0.0億円
600億円16.0%
252.2億円
8.4億円
14.0%
116.2億円
3.9億円
10.0%
−98.9億円
−3.3億円
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ作成​(数値はすべて架空)。​前提は​図2と​同じ。​「低下◯pt」は​100億円増やすごとに​純IRRが​下がる幅の​仮定。​右端の​数値は、​規模に​よらず​20億円を​約束する​LPの​NPV。​NPVは​LPの​要求収益率12%で​割り引いた​値で、​管理報酬・​キャリーは​純IRRに​織り​込み​済みと​みなす。

100億円当たり1.0%ポイント下がる仮定では、LP全体のNPVは約367億円で最大になり、400億円でも168.1億円と前号規模の137.0億円を上回る。ところが20億円を出資するLPのNPVは、13.7億円から8.4億円に減る。LP全体としては得でも、出資額を増やさない既存のLPにとっては損になるという、前節の考察の具体例である。2.0%ポイントずつ下がる仮定では、約224億円を超えるとLP全体のNPVも減り始め、500億円で純IRRが要求収益率と並んでNPVはゼロになる。

実務で使いやすいのは逆算である。400億円にしたときにLP全体のNPVが前号規模と同じ137.0億円になる純IRRを求めると15.3%で、許容できる低下は2.7%ポイントになる。このときGPの年間の管理報酬は2%で計算して4億円から8億円に倍増する一方、20億円を出資するLPのNPVは13.7億円から6.9億円に下がる。GPが「規模を倍にしても純IRRの低下は2.7%ポイント未満に収まる」と、案件規模と人員の計画で裏づけて説明できるかが、投資委員会で確かめる点になる。

明日から​使える​確認項目

  1. 増額の倍率を確認する。次号の目標額とハードキャップを前号の約束額で割り、応募が目標額を上回ったらハードキャップまで上げる方針かを質問する。
  2. 平均の案件規模がどう変わるかを聞く。「1件当たりのエクイティ投資額の想定レンジは前号と比べてどう変わるか。対象企業のEVの帯は変わるか」。前号の実績と次号の計画を並べた表を求める。
  3. 案件数・投資期間・人員を一緒に見る。パートナーと投資担当者の増員計画が案件数の増加に見合っているかを、1人当たりの案件数で確かめる(専念義務の​条項も確認)。
  4. 大型案件の負債比率と改善の余地を確認する。前号の大型案件の投資時の負債対EV、投資後のEBITDAの伸びを、小型案件と分けて開示してもらう。
  5. 自社の立場で損益分岐を計算する。出資額を固定するなら、設例の前提では純IRRの低下がそのままNPVの減少になる。配分を増やすなら、本稿の設例の式で「次号の規模で純IRRが何%ポイントまで下がっても、前号規模と同じNPVを保てるか」を計算する。低下幅は研究で検証された値ではなく自社の仮定だと記録に残す。
  6. 報酬の逓減を交渉材料にする。規模の拡大で管理報酬の総額が増えるなら、投資期間後の逓減や料率の段階化を求めるかを検討する(管理報酬の​ステップダウン、LPAの​重要条項)。

よく​ある​質問

​大きい​ファンドは​避けるべきと​いう​ことですか。

そうではありません。​示されたのは、​同じ​GPが​腕と​無関係な​事情で​大きく​集めると​純IRRが​下がったと​いう​ことです。

研究の​数値を​日本の​ファンドに​当ては​めて​よいですか。

そのままでは​当てはめられません。​係数は​米国の​平均15億​ドル​級の​ファンドから​10億​ドル​単位で​得られた​もので、​円換算して​使う​根拠は​ありません。​本稿の​設例も、​低下幅は​編集部の​仮定です。

まとめ

米国の私立大学への寄付を手がかりにした研究では、GPの腕と無関係な事情でファンドが大きくなると、純IRRも純MOICも下がり、主な経路は案件の大型化だった。パートナーは比例して増えており、人手不足だけでは説明しにくい。LP全体のNPVには最適な規模があるが、GPの収入は規模とともに増え続けるため、両者の利害は一致しない。結果は未査読で、標本は米国の大学LPを持つGPに限られる。それでも、次号の規模を前号の何倍にし、増えた資金をどの大きさの案件に使うのかを数字で確かめる作業は、日本のLPとGPが今日から始められる。

脚注

  1. R3(金融庁「新興運用業者促進プログラム(日本版EMP)」令和6年6月21日公表・令和8年7月27日更新)。政府は令和5年12月13日に資産運用立国の実現に向けた政策プランを策定し、日本版EMPを盛り込んだ。同ページは、アセットオーナー・プリンシプル(内閣官房)に「新興運用業者を単に業歴が短いことのみをもって排除しないようにすることが重要である」旨が盛り込まれたと記す。↩
  2. R1 の版:本稿は、共著者 Zimmerschied の研究サイトに掲載された2025年9月付の改訂版(93ページ、副題 Evidence from Donations to Private Universities)を読み、ページは改訂版 PDF の物理ページで示す(印刷上の頁番号+2)。初出は NBER Working Paper w33596(Issue Date 2025年3月、69ページ。Crossref の DOI 登録は2025年3月24日)で、SSRN にも2025年に2件登録(5190783・5176907)。NBER の現行 PDF は2026年10月時点でも2025年3月版のまま。改訂版では係数の一部・表番号・ページが変わり、LP調査と面談の記述が加わった。2024年以前の公開版・旧題の版は確認できなかった。学術誌への掲載は確認できない(2026年10月29日時点)。↩
  3. R1 p.9〜10(2.2節)。資産クラス「PE」のビンテージ2000〜2017年、規模1億ドル超、純IRRと約束額が分かり、私立大学の基金と取引関係のあるGPに限定して1,231本・193社。案件は匿名の大手ファンド・オブ・ファンズのデータ等と照合できた466本の8,748件。大学の投資先は IRS の Form 990-T(大手私立大学110校)から手作業で集め、大学とGPの取引関係の把握を約5割増やした(p.4・p.18)。↩
  4. R1 p.17〜20(3.3節・4節)。操作変数は、GPの過去(ビンテージの7〜3年前)の大学LPが、ビンテージの2年前に受け取った寄付の合計を標準化したもの。GP、地域・業種、GPの所在地域×ビンテージの固定効果と、過去の成績(5年以上前のファンドの平均IRR)、過去のファンド数・調達総額・平均規模・前回からの年数を統制した二段階最小二乗法。↩
  5. R1 p.12〜13(2.5節)・表IA.1A列5(p.65)。大学LPのないGPも含む全標本1,758本の単純な回帰(OLS)で、規模10億ドル当たりの純IRRの係数は−0.005(10%水準)。大学LPのあるGPの1,231本では−0.003で有意でない(表3A列5、p.49)。LP調査は2025年5月に1,129のLPへ送り、回答81件(74機関、回答率7.2%)。80%が小さいファンドの方が成績が良いと答えた(p.11、2.4節・図2)。↩
  6. R1 p.4・p.14(3.1節)・図3(p.38)。2015年には5,000万ドル超の大口の寄付が寄付全体の13%超を占め、少数の予測しにくい大口の寄付が基金の投資余力に大きく影響すると著者は述べる(p.14)。↩
  7. R1 p.20(4節)・表4A列5(p.50)。第1段階のF値は30.73。寄付1ドル当たり0.83ドルは、規模の増加3.22億ドルを寄付の1標準偏差3.9億ドルで割った著者の計算(2025年3月の版では3.14億ドル・0.81ドル・F値32.16)。調査の数値は「非常に重要」8.6%と「ある程度重要」50.6%の合計(p.16・図4)。寄付は年金・公立大学のLPの数も増やした(表IA.5、p.20)。↩
  8. R1 p.13・p.20〜22(4節)・表4B(p.50)・図6〜7(p.41〜42)・表IA.7(p.71)。除外制約(寄付が規模以外の経路で成績に影響しないこと)は直接検定できないと著者自身が明記している(p.13)。新しいファンドを立ち上げる確率は変わらない(注26、p.20〜21)。2025年3月の版にあった「募集期間が短くなる」との結果は改訂版には見当たらない。↩
  9. R1 p.22(5節)・表5A列5(p.51)。係数は−0.053(5%水準。2025年3月の版では−0.054)で、純IRRを小数(0.18=18%)で表しているため、10億ドル当たり−5.3%ポイントと読める。著者も p.22 で1%の規模増(1,510万ドル)の効果を0.0151×0.053、注36(p.27)で0.08%ポイントと計算しており、同じ読み方である(2025年3月の版の序論にあった「1標準偏差で平均の11%」という記述は改訂版にない)。1標準偏差の効果(10.9%ポイント)は編集部の換算。付録 D の NPV 設例の報告値は旧版と同じで、純IRR=18%−5.3%ポイント×(規模−15.1億ドル)の簡略式で再計算すると、LP の NPV が最大になる規模は約11.30億ドル、負に転じる規模は約26.43億ドルと報告値(11.2億ドル・26.1億ドル)に近い(旧係数−0.054では約11.19億ドル・約26.22億ドル)。↩
  10. R1 p.5(1節)・p.22(5節)・表1A(p.47)・表5B列5(p.51)。上位4分の1の増額は著者の記述で約6億ドル(表1Aの前号からの増加額の75パーセンタイルは0.61=6.1億ドル)。純MOICの係数は−0.252(5%水準)。1標準偏差では約0.52倍で、平均に対する比は係数からの計算で27.6%。改訂版の本文 p.22 は1%の規模増の効果を「0.4%ポイント(平均の21%)」と記すが、係数からは約0.004倍(平均の約0.2%)で、記述の単位は確認できない。↩
  11. R1 p.24(5節)・表7(p.53〜54)。上位10社のGPを除くと−0.059(10%水準)、規模が上位10%のファンドを除くと−0.112(5%水準)、下位10%を除くと−0.049(10%水準)。↩
  12. R1 p.23(5節)・表6A(p.52)・図8(p.43)。2番目・3番目の分位の係数はそれぞれ0.161(10%水準)・−0.155(5%水準)。↩
  13. R1 p.26(6節)・表8A(p.55)。案件規模・案件数・最後の案件までの期間はいずれも1%水準。上位4分の1の増額(約6億ドル)で平均案件規模は約1,430万ドル(著者の計算で平均の14%)増える(p.26)。2025年3月の版にあった「案件数の効果は対数では頑健でない」との記述は改訂版にない。↩
  14. R1 p.26〜27(6節)・表8B(p.55)。パートナーは PitchBook でプリンシパル・ディレクター以上の上級職員(p.10、注6)。↩
  15. R1 p.27〜28(6節)・表9列1〜2(p.56)・表10(p.57)・注36(p.27)。案件規模は1億ドル単位。案件の総IRRの平均は21%。1%の案件規模増(141万ドル)で総IRRは0.18%ポイント低い。約6割は、1%の規模増による案件規模の増加(40万ドル)に表9の係数を掛けた低下(0.05%ポイント)を、ファンドの純IRRの低下(0.08%ポイント)で割った著者の概算(丸めた値による。掲載係数から直接計算すると約58.6%)。↩
  16. R1 p.6(1節)・p.28(6節)。↩
  17. R1 p.6〜7・p.30〜31(7節)・付録 D(p.88〜90)。設例は、管理報酬の現在価値(無リスク金利4%で割引)を差し引いた額を最初に全額投下し、10年後に一括回収、ハードルレート8%・キャッチアップ・キャリー20%のウォーターフォールで配分し、LPの要求収益率12%で割り引く。平均的なファンドで LP の NPV は10.2億ドル、GP は6.2億ドル(いずれも原論文の報告値で、改訂版でも2025年3月の版と同じ)。編集部の簡略式(係数−0.053)による再計算では、LP の NPV は約10.35億ドル、最適規模は約11.30億ドル、負に転じる規模は約26.43億ドル、係数を半分にした最適規模は約16.93億ドル、2倍で約8.04億ドルで、本文の値(原論文の報告値)と概ね整合する。↩
  18. R1 p.31(7節)。係数半分の最適規模は標本の75パーセンタイル、2倍は57パーセンタイル。係数ゼロではLPのNPVが規模に比例して増える。大きいファンドが案件の入手や運営の力で規模の不利を補いうることが、OLSの関係を弱める理由だと著者は述べる(p.31)。2025年3月の版 p.26〜27 にあった「OLSの係数では最適規模が観測範囲を超える」との記述は改訂版にない。↩
  19. R1 p.10〜11(2.3節)。比較対象は MSCI-Burgiss の米国バイアウト1,073本(平均約11億ドル、純IRR16%)と、別の研究の929本(平均約11億ドル、14%)。著者はファンド・オブ・ファンズを除いても結果は同様と述べる(注7、p.11)が、表7の2C(1990年代・大学LPのないGPも含めた標本からファンド・オブ・ファンズを除外、1,372本)の係数は−0.038(10%水準)。GPの所在国の内訳は本文で示されていない。↩
  20. R1 p.23〜24(5節)・表IA.6(p.70)。↩
  21. R2(Rossi, A., 2017, Ohio State University Dice Center WP 2017-26)の要旨。バイアウトとVCの両方で、補正後の成長の効果は約80%小さく統計的に有意でないとする。本稿は要旨のみを確認し、本文は確認していない。R1 の2025年3月の版は同じ著者の2019年版を参考文献に挙げていたが、改訂版の参考文献には見当たらない。↩
  22. R1 p.23(5節)・表5A列4〜5(p.51)。過去の成績の係数は−0.247(5%水準)。成績の持続性の低下とファンドの大型化についての著者の記述は p.3・p.7。↩
  23. R1 p.8(2.1節)・注3。目標額は Preqin の記録による。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。