この記事で分かること
- タイム・アンド・アテンション条項(GPの専念義務)の定義
- キーマン条項との違い(平時の稼働配分か、離脱時の対応か)
- 整数設例で確認する、複数ファンド間の稼働時間配分と上限超過の判定
- 日本のマルチファンド運用でこの論点がどう扱われるか(2026年8月時点)
30秒で分かる定義
タイム・アンド・アテンション条項(Time and Attention Covenant、読み方:たいむあんどあてんしょんじょうこう)とは、GPの主要人材(キーパーソン)が複数のファンド・ビークルを同時に運用する場合に、当該ファンドへ十分な時間・労力を割くことを義務付けるLPA上の条項です。専念義務条項とも呼ばれます。キーマン条項が人材の「離脱」という異常事態への対応であるのに対し、この条項は人材が在籍したまま複数の案件に稼働時間を分散させる「平時の配分」そのものを規律する点が異なります。
なぜ実務で重要なのか
LP(機関投資家)にとっては、コミットした資金の運用に十分な人的リソースが割かれているかを担保する重要な条項です。PEファーム側にとっては、PEファンドの構造が複雑化し、フラッグシップファンドに加えてコインベストメントビークルや継続ファンドを並行運用するケースが増える中、キーパーソンの稼働配分をどう説明するかがLP側の投資判断で問われます。ファンドレイズ担当は、新ファンドの募集時にキーパーソンの稼働配分表を開示資料に含める場面が増えています。
仕組み:複数ビークル間の稼働配分
専念義務条項は、多くの場合「稼働時間の一定割合(例:過半)を本ファンドに充当する」という形か、「新ファンドの本格募集は、既存ファンドの投資が一定比率(例:75%)進捗するまで開始しない」という投資期間との連動規定の形を取ります。後者は後継ファンドのフルタイム立ち上げが前のファンドの運用の手薄化を招かないようにする設計です。
| ビークル | 要求される稼働配分 | 備考 |
|---|---|---|
| フラッグシップファンドA | 60%以上 | LPA上の専念義務の対象 |
| 継続ファンドB(GP主導セカンダリー) | 25% | 既存投資先の延長運用 |
| コインベストメントビークルC | 15% | 個別案件ベースの稼働 |
整数設例で確認する
設例(架空数値)。あるキーパーソンの稼働時間の合計上限を100%とし、3つのビークルに配分するケースです。
- フラッグシップファンドA:60%
- 継続ファンドB:25%
- コインベストメントビークルC:15%
合計:60 + 25 + 15 = 100%。上限ちょうどで、LPAの専念義務(フラッグシップに60%以上を確保)を満たしています。ここで新たなコインベストメント案件Dへの関与が20%追加で必要になった場合、100 + 20 = 120%となり、上限を20ポイント超過します。この場合、GPはいずれかのビークルへの配分を削るか、LPACにウェイバー(例外承認)を申請する必要があります。
投資判断への影響
LPはDDQのプロセスで、キーパーソンが現在関与している全てのファンド・ビークルの一覧と、それぞれへの稼働配分の開示を求めます。配分表の合計が100%を大きく超えている、あるいは開示自体が曖昧なGPは、運用体制の希薄化リスクが高いと評価され、コミットメント判断にマイナスに働きます。特に継続ファンドの組成が増える近年、同じキーパーソンがフラッグシップと継続ファンドの双方に関与すること自体がGP主導セカンダリーの利益相反論点ともつながるため、稼働配分の透明性は一層重視されています。
実務での調べ方・確認手順
LP側の運用担当は、次の手順で専念義務の遵守状況を確認します。
- 募集資料(PPM)記載のキーパーソンの現在の関与ファンド一覧と、稼働配分の開示を確認する
- 新ファンドのPPMと既存ファンドのPPMを突き合わせ、同一人物の役職・稼働配分に矛盾がないか照合する
- LPA上、専念義務違反があった場合の是正手続き(ウェイバー申請・LPACへの報告義務)が明記されているかを確認する
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「専念義務=当該ファンドへの100%専属」→ 正しくは、多くの契約では一定割合(過半程度)の充当で足り、複数ファンドへの関与自体は許容されます。完全専属を求める条項は限定的です。
誤解2:「キーマン条項があれば専念義務は不要」→ 正しくは、キーマン条項は特定の人材が離脱・稼働不能になった場合の投資期間停止等の手当てであり、平時の稼働配分そのものを規律するのは専念義務条項です。両者は補完関係にあり、片方だけでは対応できない論点をもう片方がカバーします。
日本実務での扱い
(2026年8月時点)国内の独立系PEファームでも、フラッグシップファンドに加えて事業承継案件向けのコインベストメントSPCなどを並行運用する例が増えていますが、投資事業有限責任組合(LPS)契約に専念義務規定を明記する実務はまだ限定的です。国内の機関投資家(地域金融機関・事業法人等)は、契約本体ではなく個別のサイドレターでキーパーソンの稼働状況の定期報告を求める形で対応するケースが見られます。金融商品取引法上、投資運用業者には利益相反管理の体制整備義務があり、複数ファンド間の稼働配分の透明性はこの文脈でも意識される論点です。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:GPが複数ファンドを同時運用する場合、LPはどのような契約上の手当てを求めますか。
「主に2つの手当てがあります。1つはタイム・アンド・アテンション条項で、キーパーソンの稼働配分の下限を契約上定めるものです。もう1つはキーマン条項で、特定人材が離脱・稼働不能になった場合に投資期間を停止する仕組みです。両者は目的が異なり、前者は平時の稼働配分、後者は異常時の対応を扱います。」(30秒回答例)
深掘りでは「継続ファンドの増加が専念義務の論点に与える影響」「稼働配分の開示が不十分なGPをどう評価するか」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. 専念義務違反があった場合、LPはどのような対抗手段を取れますか?
A. LPA上、是正期間の設定や管理報酬の減額、重大な場合はキーマン条項の準用による投資期間停止などが規定される例があります。具体的な救済手段は契約により異なります。
Q. 専念義務の対象になるのは誰ですか?
A. ファンド全体ではなく、LPAで個別に指名された「キーパーソン」(通常はマネージング・パートナー等の中核メンバー数名)が対象です。全従業員が対象になるわけではありません。
出典・参考(2026-08確認)
- e-Gov法令検索「金融商品取引法」(利益相反管理体制関連) https://elaws.e-gov.go.jp/
- 金融庁(投資運用業者の利益相反管理に関する監督指針) https://www.fsa.go.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。