想定読者:海外PEファンドに投資する年金・保険・銀行・事業会社のLP担当、ファンド・オブ・ファンズやゲートキーパー、GP側のIR・財務担当
前提知識:PEファンドの仕組み(LP・GP・キャリー)と、TVPI・DPI・RVPIの意味(本文でも説明します)

たとえば、設定から9年目に入った海外バイアウトファンドのGPから、次のような案内が届いたとする。最も成長している投資先1社を、GP自身が新しく組成する継続ファンド(CF)に移す。価格はセカンダリーファンドを主導投資家とする入札で決まり、直近の評価額(NAV)の95%。既存のLPは3週間以内に、この価格で現金を受け取るか、CFに乗り換える(ロールする)かを選ぶ。返事がなければ売却とみなす、という。

案内を受けた担当者がまず疑うのは、売り手のファンドと買い手のCFの両方を同じGPが運営していることだろう。安く移せば新しいファンドの成績は出しやすく、高く移せば旧ファンドで確定する成功報酬が増える。この価格で売るべきか、残るべきか。本稿は、この取引の実態を大規模なデータで調べた北米の大学の研究者らの論文を手がかりに、研究で分かったことと分からないことを分け、日本のLPが使える判断の手順まで整理する。

この記事が主に参照する研究

Rustam Abuzov, Will Gornall, Sophie Shive, Ilya A. Strebulaev, Michael S. Weisbach(2025)「自分に売る:PEの継続ファンド(Selling to Yourself: Continuation Funds in Private Equity)」NBER Working Paper No. 34471

  • 公表:NBER WP 2025年11月(著者によれば初稿は2024年11月)。参照した版:2026年3月22日付の著者版(主)とNBER WP版。査読:未査読(WP)1
  • データ:2005〜2025年に組成されたCF 532本(データベースと報道から手集め。旧ファンドと照合できたのは326本)、運用会社StepStoneの投資先単位の評価データ、米国の公的年金のロール判断911件2
  • 方法:LPの時間選好の違いとGPの私的情報を置いた簡単な理論モデルを立て、その予測を回帰で確かめる。示されるのは関連で、自然実験などによる因果の識別ではない3
  • 位置づけ:新しい制度について、新しいデータで実態を記述し、既存の理論(情報の非対称性と報酬によるシグナリング)で説明する研究

継続​ファンドの​価格は、​誰と​誰の​取り分を​決めるのか

CFは、GPが新しいビークルを組成し、運用中の旧ファンドから選んだ投資先を買い取らせる仕組みである。GP​主導​セカンダリーとも呼ばれる。旧ファンドのLPは、交渉で決まった価格で売却して現金を受け取るか、新しいビークルに持分を移すかを選ぶ。売却するLPに払う資金は、多くの場合セカンダリー専門のファンドが出す。研究によれば2024年のCFの組成額は約750億ドルで、PE・VCの投資先のエグジット総額(約8,350億ドル)の約9%、米国のIPOによる調達額の2倍を超えた4。

移管価格の意味は、売るLPと残るLPで違う。著者らの整理では、価格が公正価値より低ければ、売却するLPから新しい投資家へ富が移り、高ければ逆向きに移る。ロールするLPは、新しい投資家と同じ価格で入り直すので、価格そのものからは直接の損得を受けず、CFの報酬体系を通じて間接に影響を受ける。さらに、低い価格は旧ファンドで確定するキャリーと、新ファンドの管理報酬の計算の基礎をともに小さくし、高い価格は両方を大きくする。取引を承認するのは通常LPAC(LP諮問委員会)だが、その構成員が投資家全体を代表しているとは限らない5。

論文のモデルでは、移管価格は競争する買い手の見積もり、つまり資産の将来価値の期待値から、CFの報酬と買い手の待つ費用を差し引いた水準で決まる。CFの報酬は、ロールするLPには直接、売却するLPには低い価格を通じて間接に負担される6。売る側にとっても、新しいファンドの報酬は他人事ではない。

研究が​示した​実態:良い​資産が​移り、​GPは​賭け金を​増やし、​LPの​多くは​売る

まず、どのファンドがCFを作るか。CFは旧ファンドの設定から平均約8年で組成される。未実現の価値が大きいファンドほど作りやすく、RVPIが2倍になると年間の組成確率が0.45%ポイント上がる。これは無条件の平均(約0.6%)とほぼ同じ大きさである。IRRが8%を超え、GPにキャリーが発生する水準のファンドほど組成しやすく、LPの数が多く種類が分散したファンドほど、またバイアウトの大型ファンドほど組成しやすい7。

次に、GP自身の関与である。GPは旧ファンドで得たキャリーの多くまたは全部をCFに再投資し、持分比率の中央値は旧ファンドの3%からCFでは6%に上がる。モデルの上では、この再投資がなければ、成長の見込める資産を持つGPと、報酬を延ばしたいだけのGPを外部の投資家が見分けられず、CFは成立しない8。

移される資産の質は、図1のとおりである。StepStoneのデータで、CF組成の直前に旧ファンドが持っていた投資先を比べると、CFに移された資産のRVPI(未実現価値÷払込額)は平均2.02倍で、残った資産の1.37倍を大きく上回り、IRRの差は19%ポイントあった。一方、すでに分配した額を示すDPIには有意な差がない。旧ファンドの中で相対的に大きい案件ほど移されやすかった9。

継続ファンドに移された資産と残った資産の比較図1 継続ファンドに移るのは成績の良い資産CF組成の直前に旧ファンドが持っていた投資先の平均CFに移された資産旧ファンドに残った資産RVPI(未実現価値÷払込額)2.02倍1.37倍差は1%水準で有意IRR(年率)41%22%差は1%水準で有意DPI(分配済み÷払込額)0.50倍0.42倍差は有意でないGPの持分比率(中央値)は旧ファンドの3%からCFで6%へ上がる(キャリーの再投資)。
出所:R1(2026年3月22日の著者版)​表2 Panel B​(p.41)と​本文​p.4・​p.18の​数値を​基に​大手町​プレップ​作成。​StepStoneの​データで​CF組成の​直前に​旧ファンドが​保有していた​未売却の​投資先​(各指標は上下1%で外れ値を処理した平均)。​IRRは​小数表示​(0.41・0.22)を%に​換算。​関連を​示す比較で、​移管が​成績を​生んだと​いう​因果関係を​示す​ものではない。

売るLPは、旧ファンドで最も伸びている資産を手放していることになる。それでも、開示のある米国公的年金の911件のLP×CF観測のうち、ロールは約5%にすぎない。このロール比率は2019年の10%から2024年の2%へ下がった10。

何がロールを左右するのか。米国の公的年金のデータでは、同じ年に他のCFでもロールしたLPほどロールし(係数0.410)、年初の時点でPE全体の分配が拠出を上回っているLPほどロールしやすかった(係数0.042〜0.071)。LPごとの固定効果を入れたうえでの関連であり、因果を示したものではない。著者らはこれを、ロールの判断が案件の質だけではなく、その年の流動性と組織上の制約も反映していると解釈している11。

その結果、投資家の顔ぶれは大きく入れ替わる(図2)。旧ファンドでは公的年金・保険会社・企業年金が多いが、CFの新しい投資家の3分の2はセカンダリーファンドなどの金融仲介である12。著者らは、開示義務のある公的年金は判断に必要な情報に触れにくく、LPACからも外れうるため、売却を選んだ側が不利な結果を負う可能性があると、公平性の懸念に触れている13。

旧ファンドとCFの投資家構成の比較図2 売るのは年金・保険、買うのは金融仲介投資家の種類別の構成比(件数ベース)旧ファンドのLPCFの新規投資家公的年金32%10%保険会社19%6%企業年金18%1%金融仲介14%66%金融仲介は主にセカンダリーファンドとファンド・オブ・ファンズ。ロールは公的年金の観測で約5%。新規投資家の「その他」(13%)は表示していない。新規の金融仲介66%は論文の「3分の2」。論文が挙げた区分だけで、合計は100%にならない。
出所:R1(2026年3月22日の著者版)​本文​p.23〜24(図7の説明)の​数値を​基に​大手町​プレップ​作成。​米国の​公的年金など​開示の​多い​投資家に​偏った​データで、​件数ベースの​構成比​(金額ベースではない)。​旧ファンドの​残り​(財団・基金など)と​新規投資家の​「その他」は​表示していない。

最後に成績である。2026年3月の版では、CFは同じビンテージ年・種類のベンチマークをTVPI・DPIの両方で上回り、旧ファンドとCFのデータから合成した推計では、ロールしたLPは売却したLPよりTVPIが高く、売却したLPは早く現金を受け取った分DPIが高かった。ただし大半のCFはまだ投資先を売却しておらず、評価は未実現の値に依存する。著者らは、CFの数と売却を選ぶLPの割合がともに増えていることは、移管価格の上昇と、CFの投資家の期待リターンの低下と整合的だとも書いている14。

この​研究で​言えない​こと:価格は​測られておらず、​結論は​版で​異なる

記事の問いに引きつけると、最初に確認すべき限界がある。この論文は、移管価格と公正価値やNAVとの差を測っていない。価格の公正さについて示されているのは、制度の説明、モデルの価格式、成績から推した著者の解釈までである。「成績の良い資産が移り、残った投資家のTVPIが高い」という結果は、売却したLPが割安に手放した可能性と矛盾しないが、それを証明してもいない。

次に、同じ研究でも版によって結論が異なる(表1)。2025年11月のNBER版は、移される会社の成績は残る会社と系統的に違わないとし、CFの純倍率は旧ファンドより有意に低いとしていた。2026年3月の版はStepStoneのデータを加え、成績の良い資産が移り、CFは同じビンテージ年・種類のベンチマークを上回るとした。比較の相手(旧ファンドかベンチマークか)と推計方法が異なるため、同じ検証の結果が単純に反転したわけではない。本稿は2026年3月の版を主な根拠とする15。どちらも未査読で、成績の比較は組成から日の浅い未実現の評価に頼っている。

表1 同じ研究の版による結果の違い

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項目NBER WP版(2025年11月)著者版(2026年3月)
CFの標本472本(旧ファンドと照合 185本)532本(照合 326本)
資産単位のデータPreqin・PitchBookの案件情報(規模・収益性など)StepStoneの非匿名・四半期評価のデータを追加
移される資産の成績残る資産と系統的な差はないRVPI・IRRが高い資産ほど移される(RVPI 2.02倍 対 1.37倍)
CFの成績IRR 23.9% 対 旧ファンド 19.3%(有意でない)。純倍率 1.59倍 対 2.00倍(有意に低い)TVPI・DPIともビンテージ年・種類のベンチマークを上回る(暫定)
ロールしたLPの割合5.7%約5%(米国公的年金のLP×CF観測。結論の節では約6%)
ロールの決定要因選択期間(平均約3か月)が長いほど多い、単一資産型で少ない同じ年の他のロール、年初のPEの資金収支の黒字
出所:R1の​NBER WP版​(2025年11月)と​2026年3月22日の​著者版の​本文・表を​基に​大手町​プレップ​作成。​どちらも​未査読の​ワーキングペーパー。​版の​違いは​標本・​データの​追加に​よる​改訂で、​撤回・​訂正ではない。​CFの​成績は、​NBER版が​旧ファンドとの​比較、​著者版が​ベンチマークとの​比較で、​比較対象と​推計方法が​異なる​ため単純な​結論の​反転ではない。​成績は​いずれも​未実現の​評価を​含み、​著者は​暫定的な​結果と​している。

標本にも偏りがある。旧ファンドと照合できなかったCFは平均で29%小さく、単一資産型である割合が相対的に17%高い。ロールが一部か全部かは区別できず、LPの分析は開示のある米国の公的年金に限られる。CFは米国とバイアウトに集中している16。

価格そのものについては、法学の側からの先行研究がある。Kastiel and Nili(2024)は、近年は80〜90%のLPが売却を選ぶこと、LPの入れ替わりが大きいほど価格をめぐる利益相反が深刻になることを指摘し、GPが新しい投資家に寄ることで資産が安く移される可能性を仮説として示した。根拠として引く業界調査では、2022年のCF取引の9割超が何らかのディスカウントで成立し、別の調査では72%がNAVの90〜100%、6%がNAV超だったという17。ただし、NAV自体がGPの評価であり、NAVに対するディスカウントが公正価値に対する割安を意味するとは限らない。この点は二次引用の調査値であることと合わせて留保が要る。

米国では、SECが2023年に、GP主導セカンダリーで独立したフェアネス・​オピニオンまたはバリュエーション・オピニオンの取得を義務づける規則を採択した。しかしKastiel and Niliの聞き取りでは、意見書の提供者をGPが選び費用はファンドが負うため、LP側も手続き上の安心にとどまると見ていた。この規則は2024年6月に連邦控訴裁判所で全体が無効とされたと報じられている18。引用した聞き取りでは、意見書だけでは価格の公正さへの確信を得られないと評価されていた。

大手町​プレップの​考察:価格は​「売る人」の​問題、​報酬は​「残る人」の​問題

以下は研究結果を前提にした編集部の見方で、論文が検証した内容ではない。

研究の結果を並べると、CFは「GPが良い資産を安く自分に売る取引」とも「流動性を求めるLPに出口を作る取引」とも読める。著者らは後者寄りの解釈をとり、摩擦のない世界ならLPは借入でつないで良い投資を持ち続けるはずで、そうしないのは流動性の制約があるからだと論じる19。編集部は、二つの読み方は両立すると考える。出口の価値が本物でも、その出口の値段が公正とは限らないからである。

実務上の含意は、売るLPと残るLPで確認すべき項目が違うことにある。売るLPにとっての論点は移管価格であり、比べるべきは「NAVの何%か」だけではなく、手放す資産の質である。研究によれば移されるのは旧ファンドで最も伸びている資産であり、GPが持分を倍にしてまで持ち続けたい資産である。そうした資産を参照NAVどおりで売ることが、それだけで有利とは言えない。一方、残るLPにとって価格は直接の損得にならず、CFの管理報酬と成功報酬、その水準を決める段階的な報酬設計(キャリーの​リセット)が論点になる。

もう一つは、売るかどうかの判断が案件の評価から切り離されやすいことである。研究では、ロールの判断はその年のPE全体の資金収支と関連しており、著者らはこれを流動性と組織上の制約の表れと解釈している。編集部の仮説だが、PE全体の資金収支が赤字の年に案内が届けば、資産の質にかかわらず売却に流れやすい。日本のLPでも、年度の配分枠や意思決定の会議日程が選択期間に間に合わず、既定の売却になる例はありうる。

日本の​実務への​応用

研究の対象は主に米国の取引で、日本国内のGP主導セカンダリーを扱ったものではない。日本のLPにとって直接関係するのは、海外のバイアウトファンドに出資していて、選択を求められる場面である。

国内のファンドでも構造は同じ方向を向く。PEファンドに投資事業有限責任組合を用いる場合、組合契約書に存続期間を記載しなければならず、存続期間の満了は解散の事由である20。期限の到来と未売却の投資先という、CFが生まれる条件は日本の組合にもある。延長やCFへの移管を認めるかどうかは個々の組合契約とLPAの​条項次第である。持分の譲渡に誰の承諾が要るか(LPS持分の​譲渡制限)も含め、組合契約で確かめる必要がある。

ロールの判断がLPの資金収支と関連していたという結果(著者は流動性の制約と解釈)は、日本の機関投資家にも当てはまりうる(編集部の見方)。年金や保険会社は資産配分の上限や年度ごとの計画の中でPEに投資している。どの制約で売却を選ぶのかを事前に整理しておくことが、価格の妥当性を落ち着いて判断する前提になる(LPの​PE投資実務も参照)。

設例:ロールが​売却に​勝つ成長率を​計算する

学習用の設例(架空)

  • LPの持分のうち、移管対象の1社に対応する参照NAVは100億円(旧ファンドのキャリー控除後と仮定)
  • 提示価格はNAVの95%=95億円。売却すれば今受け取る
  • ロールすれば同じ資産への持分を保ったまま4年保有。CFの管理報酬は取得価格の年1.0%(満期に一括控除)、成功報酬は報酬控除後の利益の12.5%(ハードルなし)
  • このLPの要求リターンは年10%。GPの計画では資産価値が年12%で伸びる
  • 税・取引費用・旧ファンドのキャリー精算は無視する

GPの計画どおりなら、4年後の資産価値は157.4億円、管理報酬3.8億円と成功報酬7.3億円を引いた手取りは146.2億円になる。今の95億円を起点にした年率は11.4%で、要求リターン10%で割り引いた現在価値は99.9億円と、売却代金を上回る。

ただし、判断の材料はGPの計画そのものではなく、ロールが売却と並ぶ成長率(損益分岐)である。表2のとおり、提示価格95億円・要求リターン10%なら、資産価値が年10.5%を超えて伸びるときにロールが有利になる。GPの計画(年12%)との差は小さく、計画が少し下振れすれば逆転する。

表2 設例:ロールが売却に勝つために必要な資産価値の年成長率(架空)

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提示価格要求リターン8%要求リターン10%要求リターン12%
NAVの90%(90億円)6.9%9.0%11.1%
NAVの95%(95億円)8.4%10.5%12.7%
NAVの100%(100億円)9.8%11.9%14.1%
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ作成​(架空)。​LPの​持分の​うち移管対象の​資産に​対応する​参照NAVは​100億円​(キャリー控除後と仮定)。​売却すれば​提示価格を​今受け取る。​ロールすれば​同じ​資産への​持分を​保ったまま​4年保有し、​CFの​管理報酬​(取得価格の年1.0%、満期に一括控除)と​成功報酬​(報酬控除後の​利益の​12.5%、​ハードルなし)を​負担する。​数値は、​ロールの​手取りを​要求​リターンで​割り引いた​値が​提示価格と​等しくなる、​資産価値​(参照NAV基準)の​年成長率。​これを​上回る​成長を​見込めるなら​ロールが​有利、​下回るなら​売却が​有利。​税・​取引費用・​旧ファンドの​キャリー​精算は​無視。

表2から読み取れることが二つある。一つは、提示価格が低いほど損益分岐の成長率も下がることである。要求リターン10%の場合、価格がNAVの100%から95%に下がると、損益分岐は1.4%ポイント下がる。安い価格は売るLPには不利だが、同じ理由でロールの相対的な魅力を高める。編集部の見方では、価格が低いと感じたときは、売却を拒むより先に、ロールを検討する根拠として使える。もう一つは、要求リターンの差の影響が大きいことである。同じ案件でも、資金繰りに余裕がなく要求リターンを高く置くLPにとっては、売却が合理的になりうる。ロールの判断が資金収支と関連していたという研究結果も、この計算と整合する。

売却するLP全体で見た価格の重みも確かめておく。移管対象の資産全体の参照NAVが1,000億円で、NAVが公正価値に等しく、移管対象持分の金額ベースで5%がロールすると仮定すると(研究の約5%は件数ベースの観測で、この仮定とは別物)、NAVの95%での移管は、売却するLPから買い手へ約47.5億円の価値が移ることを意味する。NAVが公正価値を下回っている(GPの評価が保守的な)場合は、この額はさらに大きい。

明日から​使える​確認項目

  1. 案内を受けたら、移管対象の資産について、旧ファンド内での位置づけ(RVPI・IRRが上位か、評価額の何割を占めるか)を確かめる。研究では、移されるのは成績上位の大きな資産だった。
  2. GPに「キャリーの何割をCFに再投資するか」「GP自身の追加出資はいくらか」を質問する。再投資がない、または小さいCFは、研究のモデルでは成立しにくい種類の取引である。
  3. 価格の決まり方を質問する。入札に参加した投資家の数、最高値と次点の差、参照NAVの基準日とその後の評価の変化、主導投資家の名前。NAVに対する比率だけで判断しない(移管価格の​算定も参照)。
  4. 表2と同じ計算で、提示価格・CFの報酬・自社の要求リターンから損益分岐の成長率を出し、GPの計画と並べる。差が小さいときは、計画の前提(売上成長・利益率・出口の倍率)を一つずつ確かめる。
  5. CFの報酬条件を旧ファンドと比べる。管理報酬の計算の基礎、成功報酬の段階、ハードルの有無、現状維持で旧条件のまま残れる選択肢(ステータスクオ・​オプション)の有無。
  6. 自社の事情を先に書き出す。その年度のPE全体の資金収支、配分枠、決裁に要する日数。選択期間に決裁が間に合わない場合は、延長を申し入れる。
  7. LPACの構成員が売却側とロール側のどちらに偏っているかを確かめ、偏っていれば、承認の根拠資料(意見書、入札の記録)の開示を求める。

よく​ある​質問

NAVの​100%で​売れるなら、​売却で​損は​しないのではありませんか。

NAVは​GPが​付けた​評価で、​市場で​付く​価格とは​限りません。​研究では​移される​資産は​旧ファンドの​中で​成績上位でした。​NAVどおりの​価格でも、​成長の​見込める​資産を​手放す​ことの​価値は​別に​評価する​必要が​あります。

​フェアネス・​オピニオンが​付いていれば​安心できますか。

手続きの​確認には​なりますが、​価格の​公正さの​保証には​なりません。​先行研究の​聞き​取りでは、​意見書の​提供者を​GPが​選び費用は​ファンドが​負う​ため、​LP側も​手続き上の​安心にと​どまると​見ていました。​入札の​記録と​前提を​自分で​確かめる​ことが先です。

まとめ

継続ファンドを大規模なデータで調べたこの研究は、移されるのが旧ファンドで最も伸びている大きな資産であり、GPが持分を増やし、米国公的年金の観測ではLPの大多数が売却を選んでいることを示した。ロールの判断はLPの資金収支と関連しており、著者らは流動性と組織上の制約の表れと解釈している。一方で、移管価格が公正だったかは測られておらず、成績の結論は比較対象の異なる版の間で違う。売るLPにとっての論点は価格と手放す資産の質であり、残るLPにとっては報酬条件である。損益分岐の成長率を計算し、GPの計画と自社の資金事情を並べて判断することが、研究から引き出せる最も確かな手順である。

脚注

  1. R1(2026年3月22日の著者版)p.1(題名・著者・日付、謝辞の「First draft is from November 2024」)。R2(NBER WP w34471)の掲載ページの Issue Date「November 2025」と Crossref(DOI 10.3386/w34471)の登録 2025年11月18日を確認(2026年10月23日取得)。旧題・別題の前身稿は見つからなかった。SSRN 版の有無と、謝辞にある研究会での報告の日付は未確認。学術誌への掲載は確認できない。本稿のページ番号はPDFの物理ページ(R1は印刷ページ+1、R2は+2)。↩
  2. R1 p.4(532本・StepStone の資産単位データ)、p.16〜17(第3.1節:Preqin・PitchBook・Form ADV・報道からの収集、照合後326本、StepStone のデータの性格、LPの分析は情報公開制度で開示のある米国公的年金)、p.18(LP×CF 911件)。↩
  3. R1 p.10〜14(第2.2節:二期間モデル。LPの割引因子の異質性、資産の成長性をGPだけが知る、キャリーの再投資による分離均衡)、p.18〜23(第4〜6節:固定効果つきの線形確率モデル。頑健性に Cox モデル)。因果の識別でない点は編集部の評価(論文は「associated」と表現)。↩
  4. R1 p.2(第1節と脚注2。CFの額は著者の手集めデータ、エグジット総額は PitchBook、IPO は SEC の統計。2018年は5本、2024年・2025年はそれぞれ100本超)。↩
  5. R1 p.9〜10(第2.1節:移管価格が公正価値を下回れば売却LPから新規投資家へ、上回れば逆へ富が移る。ロールするLPは報酬体系を通じて間接に影響。低い価格は確定するキャリーと新ファンドの管理報酬の基礎を下げる。承認はLPACが担い、構成が投資家全体を代表しないことがある)。↩
  6. R1 p.12(移管価格 P=δSI(1−λCF)E[X1|承認]。競争する買い手のゼロ利潤条件)、p.13(第2.2.4節:CFの報酬はロールするLPには直接、売却するLPには低い移管価格を通じて間接に負担される)。理論モデルの結果。↩
  7. R1 p.4(旧ファンド設定から平均約8年)、p.18〜19(第4節:RVPI倍増で年間の組成確率が0.45%ポイント上昇し、無条件平均0.6%と同程度。LP数の多さ・LP種類の分散、規模、バイアウト)、p.43(表3〈表の見出しは Table 4〉第4列:IRRが8%超の係数0.247%ポイント、1%水準)。↩
  8. R1 p.4(GP持分の中央値3%→6%、キャリーの多くまたは全部を再投資)、p.3〜4・p.15(キャリーの再投資がなければ成長型の資産を持つGPを見分けられずCFは成立しない、とするモデルの予測)。↩
  9. R1 p.18(第3.2節)と p.41(表2 Panel B:上下1%で外れ値を処理した平均。移管 RVPI 2.02・IRR 0.41・DPI 0.50、残存 1.37・0.22・0.42。RVPI・IRRの差は1%水準で有意、DPIの差は有意でない)、p.20〜21(第5節)と p.44(表4:移管確率への log RVPI の係数0.171、旧ファンド内で相対的に大きい案件ほど移管)。表2 Panel B の件数の列見出しは表4の従属変数平均(0.162)と逆に見えるため、本稿では件数を使っていない。↩
  10. R1 p.5・p.18(LPの約5%がロール。p.18 の対象は開示のある米国公的年金の911件のLP×CF観測で、件数ベース。結論の p.27 は「約6%」と書き、版の中で表記が一致しない)、p.18〜19(公的年金のロール比率 2019年10%→2024年2%。序論 p.5 は「2018年の約8%から2025年の約2%」と書き、これも一致しない)。↩
  11. R1 p.21〜23(第6.1節)と p.45(表5:同じ年の他のロール 0.410、年初にPEの分配が拠出を上回る 0.042〜0.071、いずれも5%〜1%水準。LP固定効果・年固定効果つき)、p.23(著者の解釈。ロールの確率は旧ファンドの年齢約11年で最大の逆U字だが、推定は不正確と著者)。↩
  12. R1 p.23〜24(第6.2節・図7の説明。件数ベース。旧ファンド:公的年金32%・保険19%・企業年金18%・金融仲介14%。CFの新規投資家:金融仲介66%・公的年金10%・保険6%・企業年金1%・その他13%。ロールしたLPでは金融仲介が約5分の1)。↩
  13. R1 p.24〜25(第6.2節末尾。著者による公平性の懸念の指摘)。↩
  14. R1 p.6(序論)、p.25〜26(第7節・図8:CFはTVPI・DPIでビンテージ年・種類のベンチマークを上回る。ロールしたLPの成績は旧ファンドとCFの数値から合成した推計で、ロールしたLP自身の実績の直接比較ではない。旧ファンドの分配は組成年にベンチマークより約9%、翌年に約12%多い)、p.26(暫定的であること、CF数と売却比率の増加は移管価格の上昇とCF投資家の期待リターン低下と整合的とする著者の解釈)。↩
  15. R2(NBER WP版)p.4・p.17(標本472本、照合後185本)、p.6(移される会社の成績は残る会社と系統的に違わない)、p.18(ロール5.7%、選択期間の平均約3か月)、p.23〜24(選択期間が長いほどロール、単一資産型で少ない)、p.26(第7節:CFのIRR 23.9%対19.3%、t値0.9で有意でない。純倍率1.59倍対2.00倍、t値−3.18)。NBER版の成績比較は旧ファンドとの比較、2026年3月版はビンテージ年・種類別ベンチマークとの比較で、比較対象と推計方法が異なる。R1(2026年3月版)の対応箇所は脚注2・9・10・11・14。↩
  16. R1 p.16(照合できなかったCFは平均29%小さく、単一資産型である可能性が相対的に17%高い〈17% more likely〉)、p.21(ロールの一部・全部を区別できない)、p.17・p.21〜22(LPの分析は米国の公的年金)、p.4〜5・p.19(CFは米国に集中、バイアウトが中心)。↩
  17. R3 p.27(近年80〜90%のLPが売却を選ぶ。脚注144は2022年上半期に90%と業界誌を引用。LPの入れ替わりが大きいほど利益相反が深刻)、p.31(GPの新規LP寄りの偏りが資産の過小評価につながるという仮説。脚注161:Raymond James の資料で2022年のCF取引の9割超が何らかのディスカウント、William Blair の2023年調査で72%がNAVの90〜100%、12%が80〜90%、10%が80%未満、6%がNAV超)。業界調査の数値は R3 による二次引用で、調査の母集団は本稿で未確認。↩
  18. R3 p.51〜52(SECの2023年規則〈88 Fed. Reg. 63206〉がGP主導セカンダリーで独立したフェアネス・オピニオン又はバリュエーション・オピニオンの取得を求めたこと。聞き取りとSECへの意見書で、提供者をGPが選び費用はファンドが負うため、LP側も手続き上の安心にとどまると評価していたこと)。規則が2024年6月5日に連邦第5巡回区控訴裁判所で全体として無効とされた点は R4(法律事務所のクライアントメモ)p.1 による。裁判所とSECの一次資料は本稿で確認できていない。↩
  19. R1 p.27(第8節:摩擦のない世界ではCFは不要で、LPは借入でつないで正のNPVの投資を持ち続けるはず。LPが流動性の制約でロールしないことがCFの原因とする著者の解釈)。↩
  20. R5(投資事業有限責任組合契約に関する法律)第3条第3項第7号(組合契約書に組合の存続期間を記載)、第13条第3号(存続期間の満了は解散の事由)。e-Gov 法令検索の法令データ(2026年10月23日取得)で条文を確認。持分の譲渡の要件については、本稿では法令本文から確認していない(同法第16条は民法第676条〈組合員の持分の処分〉等を準用する)。個別の組合契約で確認する必要がある。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。