この記事で分かること

  • TVPIの計算式(DPI+RVPI)と、コール80億円・分配40億円・残余70億円の設例による検算
  • TVPIが「時間を考慮しない」指標である理由と、IRRとの違い
  • 経過年数が進むにつれてTVPIがどう推移するか(Jカーブ上の位置づけ)
  • MOICとの関係、および他ファンドと比較する際に注意すべき点

結論:TVPIは「分配済み」と「未実現」を足した総合倍率

TVPI(Total Value to Paid-in Capital、総合価値倍率)は、PEファンドが投資家(LP)にこれまで分配した現金と、まだ売却していないポートフォリオの評価額(NAV)を合計し、実際に払い込まれた資本で割った倍率です。式で書けば「TVPI=DPI+RVPI」であり、DPIが現金で戻ってきた実績、RVPIがまだ現金化していない含み価値を表します。TVPIはこの2つを足し合わせた、その時点でのファンドの総合成績を示す数字です。

DPI・RVPIそれぞれの詳しい読み方はDPIとは|PEファンドの分配実績を測る指標と目安RVPIとは|未実現価値の評価とNAVの読み方に譲り、ここではTVPIそのものの計算・推移・IRRとの違いに絞って掘り下げます。短い定義は用語集TVPI・DPI・RVPIもあわせてご覧ください。

計算式——分子は「戻った現金」と「残っている価値」の合計

TVPI =(累計分配額 + 残存NAV)÷ 累計払込資本 = DPI + RVPI
分母の累計払込資本は、LPが実際にキャピタルコールに応じて払い込んだ金額であり、コミットメント総額(約束した上限額)ではありません。

分子は2つの要素からできています。1つ目は累計分配額——ファンドがすでにExitなどで得た現金をLPに払い戻した金額の累計で、これを払込資本で割ったものがDPIです。2つ目は残存NAV——まだ売却していない投資先について、GPが四半期ごとに公正価値で評価した金額で、これを払込資本で割ったものがRVPIです。TVPIはこの2つの倍率を単純に足し合わせるだけで求められます。

ここで押さえておきたいのは、TVPIのうちRVPI部分は「見積り」だという点です。売却していない投資先の評価額は、類似上場企業の株価倍率や直近の資金調達ラウンドなどを参考にGPが算定するもので、その金額で実際に売れると確定したわけではありません。TVPIを読むときは、そのうちどれだけがDPI(確定済み)で、どれだけがRVPI(見積り)かを常に意識する必要があります。

設例で検算する——コール80億円・分配40億円・残余70億円

以下は説明用の仮設例です。実在のファンドの実績ではありません。コミットメント総額100億円のファンドが運用5年目を迎え、これまでに累計80億円をキャピタルコールで払い込ませ(残り20億円は未コール)、累計40億円をLPに分配し、売却していない投資先の残存NAVが70億円と評価されている状況を考えます。

項目金額(億円)倍率
累計払込資本(コール総額)80
累計分配額40DPI=0.500倍
残存NAV(未実現評価額)70RVPI=0.875倍
分配+残存NAV 合計110TVPI=1.375倍
表:説明用の仮設例(コミットメント100億円のファンド・5年目時点)。DPI+RVPI=0.500+0.875=1.375倍で検算一致。
TVPI分解図(設例・5年目時点) 0x 0.5x 1.0x 1.5x DPI 0.500x RVPI 0.875x TVPI = 1.375x DPI(分配実績・確定済み) RVPI(未実現・評価額)
図:設例(コミットメント100億円のうち払込80億円、分配40億円・残存NAV70億円)。TVPIはDPIとRVPIを積み上げた合計。

まず分配側のDPIは、累計分配額40億円を払込資本80億円で割って0.500倍です。次に未実現側のRVPIは、残存NAV70億円を同じく払込資本80億円で割って0.875倍になります。TVPIはこの2つを足すか、分配とNAVの合計110億円を払込資本80億円で割っても同じ値になります——(40+70)÷80=1.375倍。検算として0.500+0.875=1.375となり、両方の計算経路が一致することを確認できます。

つまりこのファンドは、払い込んだ資本に対して現時点で1.375倍の価値を生んでいますが、そのうち現金で確定しているのは0.500倍分だけで、残りの0.875倍分は将来の売却価格次第で変動しうる評価額だということです。

経過年数によるTVPIの推移——Jカーブ上の位置づけ

TVPIは運用開始からの経過年数によって水準がまったく異なります。以下は、上の設例と同じファンドが辿ったと仮定した経過年数別の推移例です(仮設例。5年目の数値は前節と一致させています)。

経過年数累計払込資本累計分配額残存NAVDPIRVPITVPI
2年目500450.00倍0.90倍0.90倍
3年目705600.07倍0.86倍0.93倍
5年目8040700.500倍0.875倍1.375倍
7年目8095451.19倍0.56倍1.75倍
9年目80150101.88倍0.13倍2.00倍
表:説明用の仮設例(単位:億円)。5年目は前掲の設例と一致。DPI・RVPIは小数第2位(5年目のみ第3位)で四捨五入しているため、合計表示がTVPIと僅かに異なる場合があります。
経過年数別のTVPI推移(設例) 0x 0.5x 1.5x 2.0x 1.0x 0.90x 2年目 0.93x 3年目 1.375x 5年目 1.75x 7年目 2.00x 9年目 DPI(分配実績) RVPI(未実現NAV) TVPI=1.0x(元本回収の目安)
図:説明用の仮設例(DPI+RVPI=TVPI)。5年目の数値は本文設例と一致。経過年数が進むほどRVPIの構成比が下がりDPIに置き換わる。

運用初期(2年目)は、まだコールした資本の一部しか投資に回っておらず、分配もほぼゼロのため、TVPIは0.90倍と1.0倍を下回っています。これは失敗ではなく、投資に伴う諸経費(管理報酬等)が先行して発生する一方でExitによる回収がまだ始まっていないためで、この時間構造は一般にJカーブと呼ばれます。Jカーブそのものの仕組みとLPの読み方はファンドリターンとJカーブ|グロス2.2xがネット1.7xになる仕組みで扱っています。

経過年数が進むにつれて、RVPIの取り分が徐々にDPIへと置き換わっていく点にも注目してください。9年目にはDPIが1.88倍まで積み上がる一方でRVPIは0.13倍まで縮小しており、ファンドの成績のほとんどが確定済みになっています。TVPIの数字だけを横に並べて他ファンドと比較する場合、この経過年数(ヴィンテージイヤーからの年数)を揃えないと、単に運用期間が長いファンドが有利に見えてしまいます。国内PEファンドの運用状況を横断的に確認したい場合は日本のPE市場統計もあわせてご参照ください。

IRRと何が違うのか——TVPIは時間を考慮しない

TVPIとIRR(内部収益率)の最大の違いは、時間の扱いです。TVPIは「今、何倍になっているか」という金額の総量だけを見る指標で、その倍率にたどり着くまでに何年かかったかは一切考慮しません。一方IRRは、キャッシュフローが発生した日付を織り込んで年率換算するため、同じ倍率でも到達までの期間が短いほど高い数値になります。

これは本記事のTVPI1.375倍にもそのまま当てはまります。仮にこの1.375倍が一括投資・一括回収で5年かけて達成されたとすれば、年率換算は1.375の5乗根から1を引いて約6.6%です。同じ1.375倍でも3年で達成されたとすれば、1.375の3乗根から1を引いて約11.2%まで跳ね上がります。倍率は同じでも、投資家にとっての「効率」はまったく違うということです。この一括回収を仮定した簡便な変換式や、実際のファンドのように複数回のコール・分配があるケースでのIRRの求め方(XIRR関数の使い方を含む)はIRRとMOICの計算と使い分け|PEのリターン指標を正しく読むで詳しく扱っています。

実務でTVPIとIRRが乖離して見えるケースも珍しくありません。たとえばサブスクリプションラインの利用でLPからのキャピタルコールを実質的に遅らせているファンドは、TVPIが変わらなくてもIRRだけが押し上げられることがあります。TVPIが「量」、IRRが「速さ」を測る指標だと整理しておくと、この種の乖離に惑わされにくくなります。

MOICとの関係、比較するときの注意点

TVPIとよく似た言葉にMOIC(Multiple on Invested Capital、投資倍率)があります。両者はほぼ同じ考え方——回収総額(実現+未実現)を投資額で割った倍率——で、実務上は呼び方の違いにすぎません。案件(ディール)単位の倍率をMOIC、ファンド全体を対象とした倍率をTVPIと呼ぶ場面が多いという程度の使い分けで、個別案件のMOICの計算方法や早見表はIRRとMOICの計算と使い分けを参照してください。

TVPIを他ファンドと比べる際には、少なくとも3点に注意が必要です。第一に、経過年数(ビンテージ)を揃えること。前節のとおり、運用歴の長いファンドほどTVPIは高く出やすくなります。第二に、DPIとRVPIの内訳を必ず確認すること。TVPIの水準が同じでも、RVPI偏重のファンドは実現リスクが残っています。第三に、TVPIには市場全体の値上がり分(機会費用)が加味されていない点です。株価指数に投資していた場合と比べてどうだったかを測りたい場合は、TVPIではなくPME(Public Market Equivalent)という別の指標を使います。TVPIが高くても、それが単に株式市場全体の上昇局面だったからという可能性は、TVPI単体では判別できません。

よくある質問(FAQ)

Q. TVPIが1.0倍を下回っている場合、そのファンドは失敗ですか。
A. 必ずしもそうとは言えません。運用開始から数年以内はJカーブの影響でTVPIが1.0倍を下回るのは一般的な現象です。判断するには経過年数(ビンテージからの年数)を踏まえたうえで、同時期に組成された他ファンドと比較する必要があります。

Q. TVPIとMOICは同じ意味ですか。
A. ほぼ同じ概念です。回収総額(実現+未実現)を投資額で割るという計算方法は共通で、案件単位ではMOIC、ファンド全体ではTVPIと呼ばれることが多いという、呼称上の使い分けにすぎません。

Q. TVPIだけでファンドの優劣を判断してよいですか。
A. 不十分です。DPIの内訳(どれだけが確定済みか)、経過年数、市場全体との比較(PME)を併せて確認する必要があります。DPI・RVPIそれぞれの読み方はDPIとはRVPIとはで扱っています。

Q. LPへの報告で使われるTVPIは、管理報酬控除前・控除後のどちらですか。
A. LP向けのキャピタル・アカウント・ステートメントに記載されるTVPIは、通常は管理報酬・キャリー控除後のネットの数値です。控除前のグロスの実績と混同すると評価を見誤ります。グロスとネットの差の構造はファンドリターンとJカーブで設例とともに解説しています。

まとめ

TVPIは、DPI(分配済み倍率)とRVPI(未実現倍率)を足し合わせた、ある時点でのファンドの総合成績を表す指標です。本記事の設例では、払込資本80億円に対し分配40億円・残存NAV70億円で、DPI0.500倍+RVPI0.875倍=TVPI1.375倍という結果になりました。

TVPIを読む際に外せない視点は3つです。第一に、TVPIは時間を考慮しないため、同じ倍率でも到達までの年数でIRR換算の意味合いが大きく変わること。第二に、TVPIは運用初期ほど低く出やすいJカーブの影響を受けること。第三に、RVPI部分は未実現の評価額であり、確定した成績はDPIの範囲にとどまることです。この3点を踏まえたうえで、DPI・RVPIの内訳やPMEによる市場比較とあわせて読むことで、TVPIという1つの数字の背後にある実態が見えてきます。

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出典・参考(2026年8月確認)

  • TVPI・DPI・RVPIの定義や算定方法は、個別ファンドのLPA(Limited Partnership Agreement)およびGPからの報告様式で定められるため、統一的な公表基準は存在しません。本記事の水準・推移に関する記述は断定ではなく、一般的な実務慣行として語られる範囲を示したものです。
  • 一般社団法人日本プライベート・エクイティ協会(JPEA) https://jpea.group/
  • ILPA, Reporting Template(LP向け報告様式の標準化。出典名のみ記載)
  • 金融庁 https://www.fsa.go.jp/

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。