この記事で分かること
- 米国のCPIが予想を上回った日、株式市場は「名目の利益は増えない」とみて株式リスクプレミアムを引き上げた、という研究の推計と、その読み方
- 同じ上振れでも、利幅(マークアップ)の厚い企業ほど株価の下げが小さく、アナリストの利益予想の修正も相対的に上向きだったこと。株価の差は同じ業種の中でも成り立った
- DCFで物価前提を上げるときに「名目のキャッシュフローは物価に連動する」と置いてよいかを点検する手順(学習用の設例で示す。論文の検証結果ではない)
想定読者:株式のアナリスト・運用担当、DCFで物価前提を置く投資銀行・FAS・PEの担当者、事業ポートフォリオのストレステストを担う経営企画・財務
前提知識:株価を将来のキャッシュフローの現在価値とみる考え方と、名目と実質の違い(研究の指標は本文で説明する)
「物価が上がれば売上も利益も名目で増えるのだから、株式はインフレに強い」という説明は、運用の現場でも企業価値評価でもよく聞く。ところが米国では、消費者物価指数(CPI)の発表が予想を上回った日に、株価が下がる傾向がある。物価の上振れを、市場は需要の強さの知らせとしてではなく、費用が膨らみ景気が鈍る知らせ、つまりスタグフレーションの兆しとして受け取っているのではないか。
本稿は、CPI発表日の株価・金利・オプション価格を使ってこの問いを検証したFRBの研究者の論文を手がかりに、物価前提を置くときの考え方と、企業ごとの差の見方を整理する。
この記事が主に参照する研究
Ben Knox、Yannick Timmer(2025)「スタグフレーション的な株式リターン(Stagflationary Stock Returns)」Finance and Economics Discussion Series 2025-056
- 公表:初版は2023年8月(SSRN、当時の題名は「Stagflationary Stock Returns and the Role of Market Power」)。参照した版:FRBのワーキングペーパー(2025年8月掲載、本文の日付は2025年3月14日)。後の版(2026年8月、著者サイト)は本文未確認。査読:参照した版は未査読(著者のページでは Journal of Finance で修正再提出中)
- データ:米国のCPI発表(1977〜2022年)前後の上場企業の株価、国債・物価連動国債の利回り、株価指数オプションから測った株式リスクプレミアム、アナリストの利益予想、企業ごとのマークアップ
- 方法:CPIの予想とのずれ(知らせ)に対する数日間の反応を測るイベントスタディと、株価の変化を金利・株式リスクプレミアム・キャッシュフローに分ける分解。企業間の比較では日付・業種ごとの要因を固定する
- 位置づけ:インフレと株価の負の関係という古い問いを、新しいデータと方法で検証したもの1
物価の上振れが株価に届く経路は3つしかない
株価を将来のキャッシュフローの現在価値とみると、物価の知らせが株価を動かす経路は3つに限られる。割引に使う無リスク金利が変わるか、株式に上乗せされる株式リスクプレミアムが変わるか、期待されるキャッシュフローそのものが変わるかである。株式が「インフレに強い」と言えるのは、物価の上昇に合わせて名目のキャッシュフローが増え、実質の価値が保たれる場合だ。逆に名目のキャッシュフローが据え置かれれば、物価が上がった分だけ実質の価値は目減りする。
インフレと株価が逆に動くことは1970年代から知られており、投資家が実質のキャッシュフローを名目の金利で割り引いてしまう「貨幣錯覚」や、物価の上昇が景気の悪さを映しているという説明が出されてきた。論文はこれらに対し、発表日の値動きを経路ごとに分けて、どの説明と整合するかを確かめる2。
「知らせ」は、米国のCPI(総合・前月比)の速報値から、発表直前の市場予想の中央値を引いた値である。結果はこの知らせ1%ポイント当たりで示されるが、前月比で1%ポイントの上振れは極端に大きい。標本536回の標準偏差は0.14%ポイントで、上下0.1%ポイント程度のずれが普通だった3。以下の係数を読むときは、この尺度の違いに注意したい。
研究が示した結果①:市場全体では「名 目の利益は増えない」と読まれた
1977〜2022年の米国株では、知らせ1%ポイントにつき発表当日の株価が約0.8%下がり、下げはその後の数日も戻らずにやや広がった。発表前の数日に同じ向きの動きは無く、市場にとって本当に予想外の知らせだったことを示している4。
金利の動きは、利上げの思惑だけでは説明できなかった。1999〜2022年の推計では、2年の名目金利は11bp上がったが、市場の期待インフレ率
図1は、5日間の株価の動きを3つの経路に分けた結果である。名目で見ると、株価全体の−2.75%の大半は株式リスクプレミアムの上昇(−2.51%)で説明され、名目のキャッシュフローの分は+0.25%と統計的に有意ではなかった7。物価が上がったのに名目の利益の見通しが上がらないということは、実質では下がったということだ。株価全体のリターンから物価水準の上昇分(知らせの大きさ)を差し引いた実質で見ると、株価は3.75%下がった。実質の各成分は名目の各成分から一律に差し引いたものではなく、実質金利を使って分解し直した値で、そのうち実質のキャッシュフローの分が−2.20%と、発表当日で約75%、5日間で約59%を占めた8。
キャッシュフローの分は、金利と株式リスクプレミアムで説明できない「残り」として求めた推計値である。著者らはその妥当性を、アナリストの利益予想や配当先物の動きと強く相関すること、雇用統計が予想を上回った日には逆に名目のキャッシュフローの分が上がることで確かめている9。5年間を対象とするローリング推計の222期間のうち97%で株価は知らせに対して下がり、実質のキャッシュフローの分は89%の期間で負だった。景気の局面や物価の水準による違いは、おおむね確認されなかった10。
研究が示した結果②:利幅の厚い企業ほど下げが小さかった
投資家が物価の上振れを「費用の上昇」と読んでいるなら、価格を費用より高く設定できる企業、つまり市場支配力の強い企業ほど利益は守られるはずだ。論文はこれを、企業ごとのマークアップ(価格が限界費用の何倍か)で確かめた。マークアップは、売上高を売上原価で割った値に、生産関数から推定した産出弾力性を掛けて求めている。標本の中央値は1.29倍、上位25%点は1.76倍だった11。売上総利益率と近い発想だが、同じものではない。
図2のとおり、知らせ1%ポイントにつき、マークアップが下位25%の企業は5日間で約3.8%下げ、上位25%の企業は約0.9%の下げにとどまった。後者は信頼区間が0に接し、統計的に明確な下落とは言えない12。企業ごとの回帰では、CPIの知らせが1%ポイント上振れした場合、マークアップが標本の標準偏差1つ分高い企業の5日間のリターンは0.260%ポイント高いと推計された。同じ日・同じ業種の企業どうしの比較に絞ると、同じく知らせ1%ポイント当たりで0.165%ポイントに縮むが、規模・負債比率・有形資産比率や市場リスクへの感応度をそろえても0.177%ポイント前後で有意に残った13。マークアップの低い企業が単にリスクの高い企業だから大きく下げた、という説明では片づかないということだ。
著者らの分解では、この差の多くはキャッシュフローの見通しから来ていた。企業ごとに割引率の影響を除いた実質のキャッシュフローの分は、マークアップの低い企業で有意に下がり、高い企業では有意な低下が見られなかった14。S&P500採用企業のアナリスト予想でも、CPI発表の前後15日の利益予想は平均では上がらず(係数−0.313、有意でない)、マークアップが高い企業ほど修正が上向きだった15。著者らはこれらを、市場が物価の上振れを限界費用のショックと読んでいる証拠とし、貨幣錯覚では企業間のこの差は説明できないと主張している16。
研究の対象と限界:米国のCPI発表日の、投資家の「見 方」である
まず、測っているのは米国の上場企業の株価に表れた投資家の見方であって、物価の上昇が実際に企業の利益を減らしたかどうかではない。著者ら自身、投資家の期待には系統的な誤りがありうるので、実体経済のスタグフレーションを意味すると読むのは慎重であるべきだと書いている。また、CPI以外の発表(原油価格、金融政策、雇用統計)から伝わる物価の情報は扱っていない17。CPIの知らせで説明できる株価の変動は小さく、市場全体のリターンを知らせで説明する回帰の決定係数は、名目で発表日0.021・5日間0.013、実質でも発表日の0.059が最大だった18。
次に、解釈には異論がある。学会で討論を務めたBruno Pellegrinoは、研究の問いを高く評価しつつ、キャッシュフローの分は割引率を除いた残差であり、それをすべて費用のショックに帰すことは論理的には導けない、分解だけでは貨幣錯覚を排除できない、と指摘した19。マークアップの推定方法にも、水準が偏りうるという議論がある(著者らは、企業間の順位の比較には使えるとする)20。
「どの業種が弱いか」には、この論文は直接答えていない。企業間の比較は業種ごとの要因を取り除いた後の、同じ業種の中の差である。業種の側から見た研究として、Fang、Liu、Roussanovは1963〜2019年の四半期データで、米国株はエネルギー価格によるインフレには正、それ以外のコアのインフレには負に反応し、5つの業種別ポートフォリオのコアへの反応はいずれも負で有意だったと報告している21。物価の上振れの中身がエネルギーかコアかで、業種の見え方は変わりうる。
大手町プレップの考察:「物 価に連動する」は確かめるべき前提である
ここからは編集部の見方である。第一に、DCFで物価前提を上げるとき、名目の売上・費用・FCFを一律に物価に連動させて組むことがある。この研究は、少なくとも米国の市場がCPIの上振れをそう受け取らなかったことを示している。連動させるかどうかは、モデルの既定値ではなく、価格転嫁の実績で裏づける前提だと考えられる。
第二に、物価のストレステストは業種のラベルだけでなく、同じ業種の中の利幅の差で分けて考えるのがよい。論文の単純なモデルでは、利益が限界費用の上昇にどれだけ反応するかは、マークアップだけで決まる(表1)。
表1 論文の単純なモデルが示す、利幅の厚さと費用上昇への利益の感応度
表は横にスクロールできます →
| マークアップの位置(値) | 需要の価格弾力性 | 限界費用1%上昇で利益は何%変わるか(近似) | 限界費用3%上昇なら(近似) |
|---|---|---|---|
| 下位25%点(1.07) | 15.3 | −14.3 | −42.9 |
| 中央値(1.29) | 4.4 | −3.4 | −10.3 |
| 上位25%点(1.76) | 2.3 | −1.3 | −3.9 |
| 上位10%点(2.75) | 1.6 | −0.6 | −1.7 |
表1のモデルの感応度は、図2の株価の差よりはるかに大きい。マークアップが中央値の企業でも、限界費用の3%上昇で利益は約10.3%減る計算になる(一次近似)。実際には、企業は費用の上昇を時間をかけて価格に転嫁し、需要の弾力性も一定ではない。表1は利幅の薄い企業ほど費用に弱いという向きを示す道具で、大きさの目安には使えない22。
第三に、CPIの発表日の個別株の値動きを、物価の知らせだけで説明しないことだ。標本の標準偏差1つ分の上振れなら、編集部の線形の換算で、市場全体の当日の下げは約0.11%、利幅の上位と下位の5日間の差は約0.41%ポイントにすぎない。顧客向けの説明で「物価が原因」と言い切れる場面は限られる。
日本の実務への応用:公表の仕組みと前提の違いを確かめてから使う
日本で同じ見方を試すなら、まず公表の仕組みが違う。総務省統計局は全国のCPIを毎月公表し、東京都区部については当月中旬の速報値を先に出す。2026年9月分は、東京都区部の中旬速報値が10月2日、全国が10月23日に公表された23。市場にとっての「知らせ」は東京都区部の発表で先に届く可能性があり、全国の発表日だけを見ると反応を取り逃がすおそれがある(編集部の推論で、日本で検証された結果ではない)。
次に、論文の結果は米国の1977〜2022年のもので、日本株、日本の物価上昇の局面、日本企業のマークアップの分布では確かめられていない。日本の物価連動国債から読む期待インフレ率で同じ分解を試みることは考えられるが、米国のTIPSと同じ精度で測れるとは限らない。日本に当てはめる部分は、いずれも仮説として扱うべきである。
そのうえで、使い道は3つある。株式のリサーチでは、物価の上振れ局面の銘柄間の差を、業種内の売上総利益率や価格転嫁の実績で並べて点検できる。企業価値評価では、物価前提を変えたときに名目FCFを連動させる場合と据え置く場合の両方を示せる。経営企画の事業ポートフォリオでは、原材料の上昇が利幅の薄い事業から順に利益を削るというストレステストの設計に使える。
学習用の設例:物価前提を1%ポイント上げたとき、価値はいくら変わるか
学習用の設例(架空)
- 会社Xの翌年の名目FCFは100億円、名目の割引率は8.0%、名目の永久成長率は3.0%。事業価値はFCF÷(割引率−成長率)=2,000億円
- 期待インフレ率が恒久的に1.0%ポイント上がる。長期の実質金利は変わらないとし、名目の割引率は9.0%になる
- 名目FCFの置き方を4通りに変える(A:翌年のFCFも成長率も物価に連動、D:成長率への転嫁は半分、B:据え置き、C:Bに株式リスクプレミアム0.5%ポイントの上昇を加える)
名目FCFを物価に連動させるAでは、価値は2,020億円とほぼ変わらない。株式を「インフレに強い資産」とみる前提がこれに当たる。研究で市場が示した見方に近いBでは1,667億円と16.7%下がり、株式リスクプレミアムの上昇も加えたCでは23.1%下がる。同じ物価前提でも、名目FCFの置き方だけで、AとBの価値の差はAの約17.5%に開く。論文の結果は数日間の株価の反応で、恒久的な物価上昇を想定したこの設例とは時間の尺度が違うが、物価前提の感応度を示すときにAだけを示すのは片側の想定にすぎない、という点は共通している。
明日から使える確認項目と分析手順
- DCFで物価前提を変えたら、名目FCFを物価に連動させたケースと据え置いたケースの2つを並べ、差額を報告する。連動させる根拠として、過去の値上げの時期と幅、原価の上昇との時間差を1行で書く。
- 対象会社に「原材料・人件費が3%上がったとき、何か月後に、何割を販売価格に転嫁できたか」を過去の局面について質問し、回答を成長率と利益率の前提に反映する。
- 保有銘柄や事業を、業種ごとではなく業種の中で売上総利益率(または売上高÷売上原価)の高い順に並べ、下位の銘柄・事業から物価上振れのシナリオで利益を試算する。この指標は論文のマークアップとは同じでないので、順位の目安として使う。
- CPIの発表日の株価の動きを説明するときは、予想とのずれの大きさを書き、そのずれが過去の標準的な大きさ(論文の米国の標本では標準偏差0.14%ポイント)と比べてどうかを確認する。日本では東京都区部の中旬速報値の日も記録しておく。
- 物価上振れの中身を、エネルギーとそれ以外(コア)に分けて記録する。エネルギー主導の上振れでは業種の反応が逆になりうるので、同じストレスシナリオを機械的に当てはめない。
よくある質問
株式はインフレに強い資産ではないのですか。
長期の平均でどうかと、物価が予想外に上振れした直後にどう反応するかは別の問いです。この研究は後者について、米国では株価が下がり、市場は名目の利益が増えないとみていたことを示しました。長期の実質リターンについて結論を出した研究ではありません。
利幅の厚い企業の株を持てば、物価の上振れに備えられますか。
米国の標本では下げが小さかったものの、上位25%と下位25%の差は、標準的な大きさの上振れに換算すると5日間で約0.41%ポイントです。企業ごとの回帰では、同じ業種の中の比較に絞ると推計値が約39%小さくなりました。投資の判断に使うには、日本での検証と、ほかのリスクとの比較が必要です。
まとめ
Knox and Timmerの研究によれば、米国のCPIが予想を上回った日、株式市場は名目のキャッシュフローの見通しを上げず、株式リスクプレミアムを引き上げ、実質では利益の目減りを織り込んだと推計された。マークアップの低い企業ほど株価の下げが大きく、アナリストの利益予想の修正も相対的に下向きだった。株価の差は同じ業種の中でも残った。キャッシュフローの分は残差としての推計で、解釈には異論もある。実務では、物価前提を上げるときに名目FCFの連動を既定にせず、価格転嫁の実績で裏づけ、利幅の差でストレステストを分けることが、この研究から引き出せる点検である。
脚注
- R1(FEDS 2025-056。FRB の掲載ページは2025年8月、PDF 本文の日付は2025年3月14日、82ページ)。ページは PDF の物理ページで、p.1 は FEDS の表紙、p.2 が論文の表紙と要旨(以下同じ)。初版は SSRN 4541860(2023年8月、旧題「Stagflationary Stock Returns and the Role of Market Power」。SSRN のページは取得できず、月は2023年9月6日付の二次情報による)。2024年に CESifo Working Paper No. 11236 としても公表(書誌は EconPapers で確認、本文は未確認)。データと方法は p.11〜15(3節)・p.18〜22(5節)、標本期間は図I・表II の注(1977〜2022年)と表I の注(1999〜2022年)。↩
- R1 p.10〜11(2節)。インフレと株価の負の相関に関する先行研究(Fama and Schwert 1977 ほか)と、貨幣錯覚(Modigliani and Cohn 1979 ほか)による説明を挙げ、本稿は費用のショックという別の説明を検証すると位置づけている。景気の代理変数とみる説明(Fama 1981)は R2 p.5 の整理による。↩
- R1 p.11〜12(3.1節・式1)。知らせ=総合 CPI 前月比の速報値−発表直前の予想中央値(Bloomberg は1997年から、それ以前は Haver Analytics の調査で1977年まで遡る)。標本数と標準偏差は p.76 表A.IV Panel B(536回、平均−0.00、標準偏差0.14、10%点−0.20、90%点0.20。単位は%ポイント)。↩
- R1 p.23(6.1節)・p.49 図I。1977〜2022年。本文は当日の下落の95%信頼区間を約0.1〜1.6%と記すが、図I の注は90%信頼区間と記載している。発表前(k=−2〜−5)の係数は有意でない。単回帰の係数は−1.04(標準誤差0.31)。↩
- R1 p.24〜25(6.2.1節・図II)。1999〜2022年、知らせ1%ポイント当たり。2年名目+11bp、10年名目+約8bp、2年の期待インフレ率(BEI)+35bp、10年+7bp、2年実質−24bp、10年実質はほぼ不変。金利スワップ・インフレスワップを使っても同様(p.25、表A.VI)。著者らは、政策金利に敏感な2年の実質金利が下がったことは、テイラー・ルール型の引き締めの予想とは整合しないとしている(p.26)。↩
- R1 p.25(6.2.2節・図III)。株式リスクプレミアムは Martin(2017)の方法で S&P500 のオプション価格から測った1年の下限値。翌日+30bp、5日後+70bp(5日後は統計的に有意)。↩
- R1 p.29・p.60 表I Panel A。1999〜2022年の283回、知らせ1%ポイント当たり(%)。5日間:株価全体−2.75(10%水準で有意)=名目金利の分−0.49+株式リスクプレミアムの分−2.51(5%水準で有意)+名目キャッシュフローの分+0.25(有意でない)。発表日の分解は−1.42=−0.61+−1.05++0.24。本文(p.29)は株式リスクプレミアムの分を負のリターンの「70〜80%」とするが、表の値から計算すると発表日は約74%、5日間は約91%になる。↩
- R1 p.30〜32・p.60 表I Panel B。実質のリターンは、名目のリターンから知らせの大きさ(物価水準の即時の上昇分)を差し引いて求めている(p.31)。これは株価全体のリターンについての処理で、Panel B の各成分は実質金利(実質の利回り曲線)を使って分解し直した値であり、Panel A の各成分から一律に差し引いたものではない(金利の分は5日間で−0.49→+0.62、株式リスクプレミアムの分は−2.51→−2.17と異なる。p.31・p.60)。5日間:−3.75=実質金利の分+0.62(有意でない)+株式リスクプレミアムの分−2.17+実質キャッシュフローの分−2.20(10%水準で有意)。発表日:−2.42=+0.15+−0.75+−1.82(1%水準で有意)。割合(約75%・約59%)は p.32 の記述。表I の注は1日の列を k=1 と書く一方、本文は CPI 発表日の値として説明しており、本稿は本文の説明に従った。↩
- R1 p.32〜34(6.3.3節)・p.54〜55(図VI・図VII)。キャッシュフローの分は割引率の変数で説明できない残差として定義される(p.19、式12)。アナリストの利益予想(S&P500 採用企業)と、2016年以降の配当先物価格の変化との強い相関、非農業部門雇用者数の上振れに対する名目キャッシュフローの分の上昇(逆のプラセボ検定)で妥当性を確認している。↩
- R1 p.64〜66・p.67 図A1・p.68 表A.I。5年のローリング推計222期間のうち、株価の低下が97%、実質キャッシュフローの分が負89%、実質金利の分が負15%(いずれも標本の終盤)、株式リスクプレミアムの分が負57%。状態依存の検定(株式と債券の相関、供給要因によるインフレの比率、直近のインフレ率、失業ギャップ、2年金利の反応)では有意な違いはおおむね見られなかった。ただしインフレ・リスクプレミアムとの交差項は+0.809(5%水準で有意)で、それが高い時期には反応がむしろ弱かった(p.65)。上振れの効果が下振れより大きい方向の推定もあるが、交差項は−1.439(標準誤差1.008)で有意でない(表A.I 列(6))。コアCPIの知らせでも S&P500 は当日−1.24%(5%水準で有意。p.78 表A.VIII)。↩
- R1 p.13〜14(3.3節)・p.76 表A.IV。マークアップは Compustat のデータから、De Loecker らの生産関数による方法で、売上高÷売上原価×産出弾力性(2桁業種ごとに推定)として求める。分布は平均1.73、標準偏差1.74、25%点1.07、中央値1.29、75%点1.76、90%点2.75。代替指標として Pellegrino の需要体系によるコスト弾力性も使い、結果は定性的に同じとしている(p.37、表A.IX)。↩
- R1 p.35〜36(6.4.1節・式16)・p.56 図VIII。下位・上位は前年のマークアップの分布の25%点・75%点で区切る。5日間の下落は下位25%が約3.8%(本文は95%信頼区間1.2〜5.8%と記す。図の注は90%区間)、平均的な企業が1.9%、上位25%が0.9%(区間が0に接する)。序論(p.8)は同じ比較を3.9%・1.2%と記しており、本文と一致しない。本稿は6.4.1節の値を使った。↩
- R1 p.36〜37・p.61 表II。被説明変数は5日間のリターン(%)、マークアップは平均0・標準偏差1に標準化、1977〜2022年、約228万観測、標準誤差は企業と日付の二重クラスター。交差項はいずれも「知らせ1%ポイント当たり、マークアップが1標準偏差高い企業のリターンの差(%ポイント)」で、企業固定効果のみ(日付固定効果なし)+0.260(このとき知らせ単独の係数は−1.501)、日付固定効果+0.271、業種×日付固定効果+0.165、それに企業属性(規模・有形資産比率・負債比率・時価簿価比率)×知らせ+0.174、Fama-French の3因子ベータ×知らせ+0.185、両方+0.177で、いずれも5%水準で有意。p.36 の本文にある換算例(1.22%、16%)は数値が噛み合わないため使っていない。↩
- R1 p.38〜39(6.4.2節・式17〜18)・p.58 図X。企業ごとに、実質金利と株式リスクプレミアムの変化×マークアップ・企業属性の影響を除いた残差を、実質キャッシュフローの分としている。高マークアップ企業では係数が負だが期間の大半で有意でない。↩
- R1 p.15〜16(3.5節)・p.39〜40(6.4.3節)・p.62 表III。S&P500 採用企業、CPI 発表の前後15日の利益予想の対数差。知らせの係数は−0.313(標準誤差0.828、有意でない)、知らせ×マークアップは+0.842〜+1.182(10%〜5%水準で有意)で、マークアップが高い企業ほど利益予想の修正が相対的に上向きになる関係を示す(p.40 は、高マークアップ企業の予想が知らせとともに上がる関係も図XI で示している)。↩
- R1 p.11(2節)・p.37〜39・p.40〜41(7節)。著者らは、市場支配力による企業間の差は貨幣錯覚では予測されず、費用のショックとしての解釈と整合すると述べている。単純なモデルは付録D(p.74〜75)。↩
- R1 p.7(1節)・p.41(7節)。CPI 発表日以外の物価の情報(原油価格、FOMC、雇用統計)は扱わないこと、投資家の期待は将来の実際の経済とずれうることを著者ら自身が限界として挙げている。↩
- R1 p.60 表I。時系列の回帰(283回)の決定係数。市場全体のリターンは、名目で1日0.021・5日0.013、実質で1日0.059・5日0.024。各成分の回帰を含めても0.000〜0.059。CPI の知らせで説明できるのは、発表日の株価の変動のごく一部という意味で、読み方は編集部による。↩
- R2(Frontiers in Macro-Finance Conference、シカゴ大学、2025年5月の討論スライド)p.18〜30。研究の問い(古く重要で未解決)と分解の方法を評価したうえで、Issue #1(残差をすべて費用のショックに帰すことは論理的に導けない)、Issue #2(分解は貨幣錯覚を排除できない)を指摘している。↩
- R1 p.14(3.3節)。生産関数による推定は時系列の水準に偏りがありうるが、企業間の比較では真のマークアップとの相関が高いという研究を引用し、本稿はマークアップの水準の推定に貢献するものではないとしている。討論者も、マークアップを使った検証の内部の整合性を問題にしている(R2 p.32〜36)。↩
- R3(NBER WP 30169、2022年6月)p.2(要旨)・p.14〜15(2.2節)。物価のショックは、総合・コア・食料・エネルギーのインフレ率と金利・株価配当比率・需給ギャップの VAR の予測誤差。米国株と世界株はコアに負、エネルギーに正の感応度で(いずれも有意)、総合インフレへの感応度は有意でない。5業種(消費財・製造・ハイテク・ヘルスケア・その他)のポートフォリオのコアへの感応度はすべて負で有意、エネルギーへの感応度は正で有意性はまちまち。四半期データは1963〜2019年。学術誌への掲載の有無は確認していない。↩
- R1 p.74〜75(付録D、式22〜26)。利益=(価格−限界費用)×数量、価格=ε/(ε−1)×限界費用のとき、利益の限界費用への弾力性は1−ε(εは需要の価格弾力性)。マークアップ m=ε/(ε−1)を使って−1/(m−1)と書き直したのは編集部(R2 p.32 に同じ式が示されている)。R2 p.32〜36 は、マークアップ自体が限界費用に依存するため、この式は企業ごとのマークアップの差を認めない強い仮定の下でしか成り立たないと指摘している。表1の計算は、この式に R1 の分布の値を当てはめた編集部の試算で、論文の実証結果ではない。↩
- R4(総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」・「消費者物価指数(CPI)結果」、2026年10月26日閲覧)。CPI は全国の世帯が購入する財・サービスの価格の動きを測り、毎月作成している。2026年9月分は、全国が2026年10月23日、東京都区部(中旬速報値)が2026年10月2日に公表された。↩
参考文献(2 026年10月確認)
- R1 Knox, B. and Y. Timmer (2025), “Stagflationary Stock Returns,” Finance and Economics Discussion Series 2025-056, Board of Governors of the Federal Reserve System. DOI: 10.17016/FEDS.2025.056. 参照した版:FEDS 版(2025年8月掲載、本文の日付2025年3月14日、82ページ)。初出:SSRN 4541860(2023年8月、旧題 “Stagflationary Stock Returns and the Role of Market Power”)。別版:CESifo Working Paper No. 11236(2024年。本文は未確認)。査読:未査読(WP)。 federalreserve.gov (参照箇所:PDF p.2〜41(本文)、p.49〜62(図I〜XI、表I〜III)、p.64〜78(付録A・D、表A.I・A.IV・A.VIII)。脚注1〜18・20・22の根拠。図1・図2・表1は論文の数値を編集部が抜き出して整理・計算したもので、原図・原表の転載ではない。閲覧日:2026年10月)
- R2 Pellegrino, B. (2025), “Discussion of ‘Stagflationary Stock Returns’ by Ben Knox and Yannick Timmer,” Frontiers in Macro-Finance Conference, University of Chicago(2025年5月). 討論スライド。査読:対象外(学会の討論資料)。 bfi.uchicago.edu (参照箇所:スライド p.5・p.18〜36。脚注2・19・20・22の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R3 Fang, X., Y. Liu and N. Roussanov (2022), “Getting to the Core: Inflation Risks Within and Across Asset Classes,” NBER Working Paper No. 30169. DOI: 10.3386/w30169. 参照した版:NBER WP 版(2022年6月)。査読:参照した版は未査読(WP)。 nber.org (参照箇所:PDF p.2(要旨)、p.12〜15(2.1〜2.2節)。脚注21の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R4 総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」および「消費者物価指数(CPI)結果」。 stat.go.jp (参照箇所:統計の概要と2026年9月分(全国・東京都区部中旬速報値)の公表日。脚注23の根拠。閲覧日:2026年10月)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。