想定読者:上場企業の経営企画・IR・総務・法務の担当者、同業統合を扱うFA・弁護士、運用会社のスチュワードシップ担当、アナリスト
前提知識:株主名簿と実質株主の違い、インデックス運用の基本(研究の指標は本文で説明します)

電子部品メーカーのIR担当が、実質株主判明調査の結果を競合3社の大株主の状況と並べてみる。上位20名の半分ほどが競合の上位株主と同じだ。国内外の大手運用会社や、信託銀行の口座の向こうにいる年金である。役員会で「この株主は、うちと競合のどちらに伸びてほしいのか」と問われたら、どう答えるか。

同じ投資家が競合する企業の株を同時に持つことを共通保有(コモン・オーナーシップ)という。米国では、これが価格競争を弱めるのではないかという議論が10年近く続き、2023年の米国の合併ガイドラインは共通保有を伴う取引にも競争上の懸念がありうると明記した、と論文は紹介している1。ただし研究の大半は米国の大企業を対象にしてきた。共通保有は世界でどこまで広がり、日本はどの位置にあるのか。この問いに49か国のデータで答えたのが、スペインのIESEビジネススクールと米ボストン大学などの研究者らによる論文「Common Ownership Around the World」である。2025年6月に全米経済研究所(NBER)のワーキングペーパーとして公表され、2026年10月に標本を2023年まで延ばした改訂版が出た2。

この記事が主に参照する研究

Miguel Antón、Florian Ederer、Mireia Giné、Guillermo Ramirez-Chiang、Kenneth Khoo(2026)「世界の共通保有(Common Ownership Around the World)」ECGI Finance Working Paper No. 1161/2026

  • 公表:初版 2025年6月(NBER Working Paper No. 33965、著者4名)。参照した版:2026年10月の改訂版(欧州コーポレート・ガバナンス研究所〔ECGI〕のワーキングペーパー、著者5名)。査読:未査読(WP)
  • データ:49か国・2005〜2023年の上場企業70,349社の株主構成(金融データ会社LSEGの所有データ)。世界のGDPの86%を占める国々
  • 方法:株主構成から企業どうしの「利益の重み」κを計算し、国・規模・業種・時期で比べる記述分析と、国の法制度との相関分析。因果の識別ではない
  • 位置づけ:米国で使われてきた既存の指標を、新しい大規模な国際データに当てはめた記述的研究(新しい理論の提示ではない)

共通保有を​測る​物差し​「κ」とは​何か

研究は二つの概念を区別する。共通保有は、同じ国・同じ業種の企業の組について、株主の重なりを見るものだ。ユニバーサル保有は、業種を問わず経済全体で同じ投資家が多くの企業に広く出資している状態を指す。前者は競争政策、後者はガバナンスの論点につながる。

重なりの強さは κ(カッパ)で測る。企業Aの株主が、A自身の利益1円に対して、競合Bの利益にどれだけの重みを置くかを表す数値で、株主ごとに「Aの持分×Bの持分」を足し合わせ、それを「Aの持分の2乗」の合計で割って求める3。株主が完全に別々なら0、AとBをまったく同じ割合で持つ株主だけなら1になる。経営者が株主の利益の合計を考えて行動するなら、κが高いほど競合を出し抜く誘因が弱まる、というのが共通保有仮説の筋道である。κは株主構成から計算した理論上の重みで、経営者の実際の行動を測ったものではない。

式の形から、κを動かす力は二つに分けられる。一つは両社の株主の顔ぶれと持分がどれだけ似ているか(重なり)、もう一つは自社の株主の集中度である。創業家や親会社のような大口株主がいる企業は分母が大きくなり、κが下がる。いわばHHI​(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)を株主について計算したものが分母に入っている。論文の分解では、κの違いの大半は重なりのほうで説明された(日本の大企業では、log κの分散の約80%、その時系列の変動の約91%)4。

なお、2025年の初版は大口株主の影響力を強めに見る指数(Banzhaf指数)を使い、2026年の改訂版は持分どおりの議決権(一株一議決権)を基準に改めた。数値は版によって変わるため、本稿は改訂版の数値を使う5。

49か国で​分かった​こと:米国が​突出し、​日本は​大企業で​上位に​入る

研究は、創業家・政府・事業会社の保有も含む所有データで、49か国の上場企業70,349社の株主構成を集めた。複数の種類の株式を発行する企業は原則として除いている6。

2023年末の全企業平均のκは、米国が0.2000で最も高く、アイルランド0.1451、南アフリカ0.1295が続いた。49か国の中央値は0.0147で(編集部計算)、日本は0.0263と18位だった。米国の値は日本の約7.6倍にあたる7。

差が大きく開くのは企業規模で分けたときだ。ほぼすべての国で、時価総額が国内の中央値を超える企業どうしのκは、全企業の約3倍になった。上位3分の1の企業どうしでは米国0.5636、英国0.1711、ユーロ圏0.0572、日本0.1208で、日本は11位に上がり、全企業の約4.6倍になる8。

図1 日本の共通保有の国際的な位置図1 日本の共通保有は49か国の中でどこか日本の平均κ÷49か国の中央値(2023年末)1より大きい=中央値の国より高い0倍1倍2倍3倍全企業18位/49か国1.79倍中央値超の企業12位/49か国2.27倍上位3分の1の企業11位/49か国2.64倍業種間18位/49か国1.89倍同業内27位/49か国0.85倍濃い青=中央値より高い、薄い青=低い金の縦線=中央値と同じ(1倍)κは一株一議決権で測った利益の重み
出所:R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月)​表1(p.69〜70、2023年第4四半期)の​国別の​値を​基に​大手町​プレップ​作成。​中央値と​順位は、​ユーロ圏の​統合値を​除く​49か​国から​編集部が​計算​(同業内の​中央値0.0364は​論文の​記述0.036と​一致)。​日本の​値は​全企業0.0263、​中央値超の​企業0.0775、​上位3分の​1の​企業0.1208、​業種間0.0261、​同業内0.0311。​「中央値超」​「上位3分の1」は​各国内の​時価総額に​よる​区分で、​その​区分の​企業どうしの​組だけで​平均した値。​κは​保有構成から​計算した​理論上の​重みで、​経営者の​実際の​行動を​測った​ものではない。

図1は、日本の値を49か国の中央値で割ったものだ。全企業や大企業では中央値の約2〜3倍だが、同じ業種の企業どうし(同業内)に限ると0.85倍と、中央値を下回る(27位)9。競争政策の議論が最も気にするのは同業内の重なりなので、日本の「共通保有」は見出しの印象ほど同業に偏っていない。

表1 主要国の平均κ(2023年末)

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国全企業上位3分の1同業内ビッグスリーの寄与
米国0.20000.56360.192389%
アイルランド0.14510.51160.209577%
南アフリカ0.12950.41590.16463%
スイス0.07790.24240.092427%
中国0.04740.13470.03860%
英国0.03930.17110.107940%
日本0.02630.12080.031116%
ドイツ0.01310.07700.019350%
オーストラリア0.00970.07020.009264%
フランス0.00690.04290.015043%
韓国0.00200.01390.003915%
インド0.00120.00730.00170%
49か国の中央値0.01470.04570.0364—
出所:R1(ECGI Finance WP 1161/2026)​表1(p.69〜70、​2023年第4四半期、​一株​一議決権)を​基に​大手町​プレップ​作成。​49か国の​うち12か国を​表示​(全企業の値の高い順)。​中央値と​「ビッグスリーの寄与」​(全企業平均κの​うちブラックロック・​バンガード・​ステート・​ストリートの​保有に​よる​部分の​割合)は​編集部計算。​上位3分の​1は​各国内の​時価総額に​よる​区分。​同業内は​同じ国・​同じ​業種の​企業の​組の​平均。

伸び方も違う。米国の全企業平均は2005年の約0.05から2023年の約0.20へ3倍を超えた。日本の年平均は2005年の0.0167から2023年の0.0274へ63.7%上がったが、米国の伸び(425%)には遠く及ばない1011。

誰が重なりを生んでいるのか。米国では、最大株主がブラックロック・バンガード・ステート・ストリートの「ビッグスリー」である企業の割合が、2005年の3%未満から2023年には約35%になった12。米国以外ではビッグスリーの持分は小さいが、多くの国でκの上昇はほぼビッグスリーの寄与の増加によるものだった。著者らは、持分の深さより保有銘柄の広さが効くと解釈している13。日本はやや事情が違い、上昇へのビッグスリーとそれ以外の寄与はほぼ半分ずつだった14。2023年末の日本のκのうちビッグスリーの保有による部分は約16%で、米国の約89%と対照的である(表1、編集部計算)。

日本で保有が広く大きい運用会社は、野村アセットマネジメント、ブラックロック、バンガード、日興(現アモーヴァ)・アセットマネジメント、大和アセットマネジメントの5社だった(表2)。野村は日本の標本企業の55.6%に出資し、時価総額の3.71%を持つが、5%以上を持つ企業は4.35%にとどまる。薄く広い保有が、κの上昇を生む形である15。

表2 日本で保有が広く大きい運用会社5社(2023年末)

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運用会社保有社数(標本に占める割合)時価総額に占める保有1%以上保有の企業5%以上保有の企業
野村アセットマネジメント2,048社(55.6%)3.71%46.5%4.35%
ブラックロック2,026社(55.0%)2.90%18.4%2.15%
バンガード1,279社(34.8%)2.08%31.5%0.35%
日興(現アモーヴァ)・アセットマネジメント2,086社(56.7%)1.73%26.1%0.76%
大和アセットマネジメント2,113社(57.4%)1.68%24.5%0.35%
出所:R1(ECGI Finance WP 1161/2026)​表4(p.75)を​基に​大手町​プレップ​作成。​日本の​標本は​3,681社。​論文は​「保有社数の割合×保有時価の割合」の​指標で​上位5社を​選んでいる。​運用会社の​保有は​ファンドを​運用会社単位に​合算した​値で、​日銀が​買い​入れた​ETFの​中の​株式も​ETFを​運用する​会社の​保有と​して​現れる​(日銀は個別の保有を開示していない)。​0.5%以上​保有の​企業の​割合は​省略。

著者らは日本の上昇を日銀の​ETF買入れと結びつけて説明する。日本のκは2013年初めまでほぼ横ばいで、量的・質的金融緩和が始まった2013年4月以降に上がり、日銀がTOPIX連動のETFへの配分を増やした2016年9月と2018年7月の見直しの後に一段と強まった。株価の高い銘柄の比重が大きい日経平均より、時価総額で加重するTOPIXのほうが市場全体を広く買うためだ、と論文は述べる16。日銀は銘柄ごとの保有を開示していないので、研究では日銀が買ったETFの中の株式は、ETFを運用する国内大手3社とブラックロックの保有として現れる。国内3社の保有は2020年以降横ばいになり、ブラックロックは2023年まで増え続けた17。

企業単位の回帰では、時価総額が最も強い説明変数で、上位5株主の持分の合計(保有集中度)が高い企業ほどκは低く(係数−0.0702)、ビッグスリーの持分が高い企業ほど高かった18。国の制度との関係では、支配的地位の濫用や談合を規制する競争法が強い国ほどκが低い一方、合併規制が強い国ほど同業内のκが高く(係数0.0290)、著者らは「合併の代わりとしての共通保有」の可能性を挙げる。少数株主の保護が強い国ほどκが高いという結果もある19。いずれも国の間の相関で、因果は示していない。

研究が​示していない​こと:影響・​因果・​データの​限界

第一に、この研究は共通保有の広がりを測ったもので、共通保有が価格・投資・報酬を変えたかは検証していない。制度との関係も国の間の相関である。改訂前の版に対する討論者も「因果の主張をしていない」と評価していた20。

第二に、測り方で数値が動く。討論者の Kenneth Khoo はインドの上位121社について、取引所の法定開示と二つの商用データで同じ式を計算し、平均のκが0.040・0.065・0.055と最大61%(表示値からの計算では62.5%)違うことを示した21(Khoo はその後、改訂版の共著者に加わった)。改訂版は、所有データの網羅率と2023年末の国平均κの対数に有意な相関を検出しなかったこと(相関係数−0.002)を示し、支配の連鎖と種類株式の議決権を実測して補正した。補正しても中央値の国の値は−0.37%、日本は+0.4%しか動かず、日本の2005年以降の上昇率もほぼ同じだった22。それでも順位の細かな差は読み込みすぎないほうがよい。

第三に、標本は2023年で終わる。日銀は2024年3月にETFの新規買入れを終え、2025年9月に保有ETFの売却方針を決めたが、いずれも研究のデータには入っていない2324。

では、共通保有の影響について他の研究は何を言っているか。同じ研究グループの先行研究は、米国企業のCEO(1992〜2019年)について、共通保有が四分位範囲の分だけ高い企業ではCEOの富の業績感応度が約10.5%低く、株価指数への競合の採用を使った差の差分析でも同じ方向だったと報告した25。一方、航空運賃を使って反競争的な効果を否定する研究と、それへの再反論があり、価格への影響は決着していない26。本稿では、日本企業を対象に共通保有の影響を検証した研究までは確認していない。

大手町​プレップの​考察:日本の​共通保有は​「業種をまたぐ広さ」​型か

以下は編集部の仮説で、論文は検証していない。

一つ目に、日本の数値は、特定の業種に集中した保有より、市場全体を薄く広く持つ保有の姿に近い。全企業・業種間では中央値の約2倍、同業内では中央値未満という形は、TOPIX のように市場全体を時価総額どおりに買う運用が重なりを広げたという著者らの説明と整合する。日本では、競合どうしの価格競争より、同じ数社の運用会社が多くの企業の総会で票を持つという議決権と対話の論点が先に現れやすいと考えられる。

二つ目に、日本の数値を読むときは株主の分類に注意が要る。研究では、日本企業の74.4%で最大株主が「ビッグスリー以外の機関投資家」だったが、この分類には年金・保険・銀行・運用会社に加えて、事業会社と持株会社が含まれる27。親会社や取引先の政策保有も同じ箱に入る。東証などの株式分布状況調査では、2026年3月末の事業法人等の保有比率は17.7%と過去最低、投資信託は11.3%と過去最高だった28。政策保有株の売却で保有集中度が下がれば、κが上がる場合がある。ただし向きは売却先と両社の保有構成で決まる(後の設例で確かめる)。政策保有株式の​解消は、日本の共通保有を押し上げる経路になりうる。

三つ目に、日銀のETF売却がκをどれだけ動かすかは、売却ペースだけでは判断できない。売却のペースは簿価で年3,300億円程度(時価で6,200億円程度)、市場全体の売買代金の0.05%程度とされ、各銘柄の保有割合におおむね比例させる29。売られるのはETFの受益権で、κへの影響は、受益権の買い手が解約するかどうかなど、売却後の保有構成に依存する。

日本の​実務への​応用:発行体・​M&Aの​助言者・​機関投資家

発行体の経営企画・IRにとって、出発点は自社の株主構成を競合と並べることだ。スチュワードシップ・​コードは2025年6月の第三次改訂で、機関投資家は企業の求めに応じてどの程度株式を持っているかを説明すべきだとし(指針4-2)、パッシブ運用ではより積極的な対話と議決権行使を求め(指針4-4)、他の機関投資家との協働エンゲージメントも選択肢として明記した(指針4-6)30。共通保有の大きい運用会社は、資本効率や政策保有株のような業界横断の論点を競合各社に同じ型で持ち込みうる。受けた要望が業界全体向けか自社固有かを見分ける材料として、IR​ターゲティングの株主構成分析に競合との重なりを加えるとよい。

同業統合を扱うFA・弁護士には票読みの論点になる。両社の株主にとって交換比率の有利不利は一部相殺され、統合後の価値が判断の中心になりやすい(編集部の推論。研究は未検証)。競争法の面では、独占禁止法10条は競争を実質的に制限する株式の取得を禁じ(1項。保有割合の下限はない)、事前届出は、売上高の基準を満たす会社が企業結合集団の議決権の合算で20%・50%を新たに超える取得に求めている31。企業結合集団で合算しても保有が数%にとどまる分散保有は、この企業結合​届出の基準に届かない。

機関投資家は、同業の複数社への議決権行使と対話の一貫性を外から説明できるようにしておきたい。対話の効果はGPIF​委託先の​対話記録の​研究、議決権行使の誘因はインデックス​運用の​議決権行使の​研究を扱った記事も参照してほしい。

学習用の​設例:政策保有株の​売却で​自社の​κは​どう​動くか

学習用の設例(架空)

  • 自社Aの上位株主:取引先の事業会社X 15%(政策保有)、指数運用の大手P1・P2・P3 各6%・5%・4%、海外のアクティブ運用Q 3%
  • 競合Bの上位株主:創業家F 20%、P1〜P3(Aと同じ持分)、国内の生命保険会社R 2%
  • それ以外の株は小口の個人に分散しており、κへの寄与は無視できると仮定する。議決権は持分どおり(一株一議決権)

κABの分子は、両社に共通するP1〜P3の「Aの持分×Bの持分」の合計で6×6+5×5+4×4=77。分母はAの株主の持分の2乗の合計で311。κABは約0.25になる。逆向きのκBAは、分母がBの株主の2乗の合計481となり約0.16にとどまる。創業家が20%を持つBのほうが、株主の集中度が高いからだ。同じ株主の組でも、向きによって重みが違う。

次に、取引先Xが政策保有の見直しでAの株を売っていく場合を考える(図2)。売った株がすべて小口の個人に散るなら、Xの持分が0になった時点でκABは約0.90と、もとの約3.6倍になる。半分を指数運用の3社が持分に比例して買う場合でも約0.63(約2.6倍)だ。この設例では大口株主が抜けると共通株主の比重が上がり、保有集中度の係数が負という研究の結果と同じ向きになる。ただし単調ではなく、半分取得の場合はXの持分3%→0%でκが0.6382から0.6337へ下がる。実際の向きは売却先と保有構成で決まる。

図2 設例 政策保有の売却とκ図2 設例:政策保有株の売却と自社のκ自社Aが競合Bの利益に置く重み κAB(架空の株主構成)0.000.250.500.751.0015%12%9%6%3%0%取引先Xの持分(左→右に売却が進む)0.250.900.63売却分は個人に分散半分を指数運用3社が取得
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ作成​(自社A・競合B・株主はすべて架空)。​Aの​上位株主は​取引先​X 15%、​指数運用の​大手P1〜P3 各6%・5%・4%、​海外の​アクティブ​運用​Q 3%。​Bの​上位株主は​創業家​F 20%、​P1〜P3(Aと同じ持分)、​国内の​生命保険会社​R 2%。​それ以外は​小口に​分散し、​κへの​寄与を​無視できると​仮定。​κAB=Σ​(株主のA持分×B持分)​÷Σ​(A持分の2乗)。​R1の​式1(p.14)を​一株​一議決権で​使った​計算。​金の​破線は、​Xが​売った​株の​半分を​P1〜P3が​現在の​持分に​比例して​買い、​残りが​個人に​散る​場合。​κは​理論上の​重みで、​Aの​経営が​実際に​競争を​弱める​ことを​意味しない。

この数値は、Aの経営者が競合に遠慮するようになるという予測ではなく、理論上の重みが株主構成の変化でどれだけ動くかを示したものだ。それでも政策保有株の売却や大株主の売出しの前に試算しておけば、運用会社との対話や総会の票読みの準備に使える。

明日から​使える​確認項目

  1. 実質株主判明調査の上位20名と、主要な競合3社の有価証券報告書「大株主の状況」・大量保有報告書を照合し、共通する株主と持分を一表にする。信託銀行名義の先の運用会社まで名寄せできているかも確かめる。
  2. その表から、設例の式で自社→競合のκを試算し、前年と比べる。省いた株主は分子と分母の両方に効くため、上位株主だけの試算では水準も向きも変わりうる。
  3. 政策保有株の縮減、自己株式の取得、大株主の売出しを計画するときは、実施前後のκと上位5株主の持分合計を試算し、どの運用会社の比重が上がるかを把握しておく。
  4. 共通株主の上位数社について、議決権行使の個別開示で、自社と競合の同じ種類の議案(取締役選任、政策保有、資本効率)への賛否を見比べる。賛否が揃っていても、業界共通の方針かどうかは行使理由や対話の内容と併せて確認する。
  5. 同業統合の検討では「両社の共通株主の持分合計は、両社の発行済株式のそれぞれ何%か」を最初に確認し、交換比率の説明を誰に向けて組み立てるかを決める。
  6. 研究の数値を引用するときは、版(2025年か2026年か)、時点(2019年末か2023年末か)、指標(全企業・上位3分の1・同業内)を併記する。

よく​ある​質問

共通保有が​高いと、​実際に​競争が​弱まるのですか。

主に​参照した​研究は​広がりを​測った​もので、​競争への​影響は​検証していません。​米国では​経営者報酬の​業績​連動が​弱まると​いう​研究が​ある​一方、​航空運賃への​影響では​結論が​割れています。

日銀が​ETFを​売れば、​共通保有は​下がりますか。

研究の​データは​2023年までで、​売却の​影響は​分析されていません。​影響は​売却​ペースだけでは​判断できず、​受益権の​売却後の​保有構成にも​依存します。

まとめ

49か国・2005〜2023年の上場企業を調べた研究では、同じ投資家が複数の企業を同時に持つ度合いは多くの国で上昇したが国によって推移は異なり、米国が突出していた。日本は全企業で49か国中18位、時価総額の上位3分の1では11位と大企業ほど高く、上昇は日銀のETF買入れと時期が重なる一方、同じ業種の企業どうしの重なりは中央値を下回った。研究は広がりを測った記述分析で、競争や報酬への影響は別の研究の間でも決着していない。日本の発行体は、政策保有株の売却で共通株主の比重が変わりうること(向きは売却先と保有構成による)を理解し、競合との株主の重なりを数字で持っておきたい。

脚注

  1. R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月) p.5(1章)。米国司法省・連邦取引委員会の2023年合併ガイドラインについての論文の記述。ガイドラインの原文は本稿では確認していない。先行研究の多くが米国を対象にしてきたことも同じ箇所による。本稿のページは PDF の物理ページ(ECGI 版は物理ページ−4=本文の印刷ページ)。↩
  2. 初版は R2(NBER Working Paper No. 33965, 2025年6月。著者4名、標本2005〜2019年・61,649社)。改訂版は R1(ECGI Finance Working Paper No. 1161/2026, 表紙2026年10月、本文の日付2026年10月19日。Kenneth Khoo が共著者に加わり、標本を2023年まで延長)。2025年より前の前身稿は、著者の研究ページの過去の保存版・論文データベースでは見つからなかった(2026年10月24日確認)。いずれも未査読のワーキングペーパー。↩
  3. R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月) p.13〜14(2.2節・式1)。κ_fg=Σ_s γ_fs β_gs ÷ Σ_s γ_fs β_fs(β は持分、γ は議決権による支配の重み)。改訂版は γ=β(一株一議決権)とする。同業の企業の組で平均したものを共通保有、国内の全組で平均したものをユニバーサル保有、異業種の組を業種間と呼ぶ(p.14)。↩
  4. R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月) p.18〜20(3.3節・式2)、表2(p.71)。log κ を、両社の持分ベクトルのコサイン類似度(重なり)と、両社の株主集中度の比(相対IHHI)に分解。日本の数値は時価総額上位3分の1の企業についての値(log κ の分散のうち重なりの割合:生80.31%、断面79.83%、時系列90.91%、パネル87.53%)。多くの国で断面75%以上、時系列85%超(p.19)。↩
  5. R2(NBER 版, 2025年6月)p.10 は Banzhaf 指数(議決で決定票になりうる確率で支配を測る指数)を使う。R1(2026年10月)p.14 は一株一議決権を基準にし、Banzhaf 指数は頑健性の確認に回した。例えば日本の全企業平均κは、R2 では2019年末0.0283(Banzhaf, 表1 p.58)、R1 では2023年末0.0263(一株一議決権, 表1 p.69)で、時点と指標の両方が違う。↩
  6. R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月) p.9〜12(2.1節)。LSEG Global Ownership データベース(13F 報告の機関投資家、投資信託、年金、保険、内部者・大口株主)。普通株のみで、預託証券と複数の種類株式を持つ企業(3,620の発行体コード、うち米国1,603)を除外(p.10〜11)。2023年第4四半期の企業数は37,367社(p.12)。↩
  7. R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月) 表1(p.69〜70、2023年第4四半期)。49か国の中央値・日本の順位・米国÷日本の倍率は、ユーロ圏の統合値を除く49か国の値から編集部が計算。↩
  8. R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月) p.20〜21(4.1節)、p.7。中央値超・上位3分の1は、各国内の時価総額による区分で、その区分の企業どうしの組だけで平均した値。上位3分の1の値は表1(p.69〜70)。日本の順位と倍率は編集部計算。↩
  9. R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月) 表1(p.69〜70)。同業内の49か国の中央値0.0364は編集部計算で、論文の記述「中央値の国で0.036」(p.6)と一致する。業種の区分は LSEG の業種分類(TRBC)による。↩
  10. R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月) p.17(3.2節)。2005年の約0.05、2023年の約0.20は論文の記述(全企業、標本の入れ替わりを含む)。米国の伸び率425%は表16(p.92)。↩
  11. R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月) 表16(p.92)、p.44。四半期ごとの国の平均κの年平均。日本は2005年0.0167→2023年0.0274で63.7%(支配権を実測で補正した系列では64.8%)。表示値からの再計算では約64%で、差は丸めによる。↩
  12. R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月) p.7・p.23(4.2.1節)。米国の上場企業のうち最大株主がビッグスリーの1社である企業の割合。↩
  13. R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月) p.24〜25、p.27(4.2.1〜4.2.2節)。ビッグスリーの寄与は米国で2005年の約0.008から2023年の0.1781へ(p.24)。「網の目(network structure)」の解釈は著者による(p.25)。↩
  14. R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月) p.25。日本のκの上昇に対するビッグスリーと非ビッグスリーの寄与。2023年末の内訳(ビッグスリー0.0041、非ビッグスリー0.0221)は表1(p.69)で、その割合は編集部計算。↩
  15. R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月) 表4(p.75)。論文は「保有社数の割合×保有時価の割合」の指標で上位5社を選ぶ(p.76)。日興(現アモーヴァ)の表記は論文の「Nikko (now Amova) Asset Management」による。↩
  16. R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月) p.30〜32(5章)。日銀のETF買入れの経緯(2010年10月開始、2013年4月の量的・質的金融緩和、2014年11月のJPX日経400連動ETFの追加、2016年9月と2018年7月のTOPIX連動ETFへの配分の拡大)は論文の記述で、日銀の資料との照合は本稿では行っていない。なお論文は p.17 で「日本の上昇は2014年に始まった」とも書いており、時期の記述に揺れがある。↩
  17. R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月) p.32〜33(5章)、図A9(p.119)。ETFを運用する国内3社(野村・日興〔現アモーヴァ〕・大和)とブラックロックの保有時価が日本の標本の時価総額に占める割合で見ている。2020年以降、最大企業のκは横ばい、より広い企業ではやや低下したと論文は述べる。↩
  18. R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月) 表7(p.83)、p.34〜35(6.1節)。企業・四半期単位の最小二乗法。被説明変数は企業ごとの対他社κの単純平均。地域・業種・四半期の固定効果、標準誤差は国でクラスター。保有集中度(上位5株主の持分合計)の係数は列7.1(ユニバーサル保有)。個人・一族や外国投資家の保有は負、政府の保有は正。↩
  19. R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月) p.35〜40(6.2〜6.4節)、表8〜表13(p.84〜89)。競争法の指数は Bradford & Chilton(2018)、少数株主保護は Djankov ほか(2008)の反自己取引指数による。合併規制の係数は同業内κについて1%水準で有意(p.36)。米国を除くと、競争法の項目で有意なのは濫用規制だけ(p.36)。国の間の違いだけを使う相関分析。↩
  20. R3(Khoo, GCGC Singapore 2026年6月の討論スライド)p.2。2026年4月の改訂稿への討論。↩
  21. R3 p.7〜8。インドの上位121社・2026年3月期の四半期について、ボンベイ証券取引所の法定開示(1%超の保有者)、FactSet、BvD Osiris の3つの出所で同じ式(一株一議決権)を計算した討論者の試算で、研究本体の結果ではない。差61%はスライドの表示(表示値0.040と0.065からの計算では62.5%。差の理由は丸め前の値によるとみられるが、スライドからは確定できない)。↩
  22. R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月) p.13(脚注10、網羅率と2023年末の log κ のピアソン相関−0.002、p=0.99)、7章 p.36〜45、表15(p.91)・表16(p.92)。支配の連鎖(Bureau van Dijk の所有データ)と種類株式の議決権の実測による補正。補正で値が大きく下がったのは韓国(−19.1%)、メキシコ(−15.5%)、ドイツ(−11.0%)など(p.43)。↩
  23. R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月) p.33。2024年3月の新規買入れ終了と2025年9月の処分方針の決定は標本期間(〜2023年)の後で、データに反映されていないと著者が明記している。↩
  24. R7(日本銀行「金融政策の枠組みの見直しについて」2024年3月19日)、R8(日本銀行「(参考)ETF等の処分に関する決定(2025年9月金融政策決定会合)」)。↩
  25. R4(Antón, Ederer, Giné & Schmalz, NBER WP w30785, 2022年12月版)p.6・p.40、表5(p.61)。対象は ExecuComp に載る米国企業の CEO(1992〜2019年)。富の業績感応度(Edmans ほかの指標)の対数を共通保有に回帰し、25パーセンタイルから75パーセンタイルへの変化で10.5%低い。差の差分析は、S&P 500 への同業他社の採用を使う(p.6〜7)。初出は2016年(SSRN)、Journal of Political Economy 131巻5号(2023年)に掲載。↩
  26. R5(Dennis, Gerardi & Schenone, Journal of Finance 77巻5号, 2022年。初版はアトランタ連銀 WP 2019-15)。本稿では書誌と要旨だけを確認し、本文は確認していない。再反論は Azar, Schmalz & Tecu「A Refutation of ‘Common Ownership Does Not Have Anti-Competitive Effects in the Airline Industry’」(CESifo Working Paper No. 9937, 2022年)で、題名と掲載先だけを確認した。↩
  27. R1(ECGI Finance WP 1161/2026, 2026年10月) 表3(p.73)・表A2(p.122)。最大株主の種類は、個人・一族22.52%、ビッグスリー1.58%、ビッグスリー以外の機関投資家74.44%、政府0.19%、その他1.28%(2023年末)。表A2 の分類では「機関投資家」に年金基金・保険会社・投資顧問・ヘッジファンド・基金・銀行と信託・事業会社・持株会社を含む。↩
  28. R6(東京証券取引所ほか「2025年度株式分布状況調査の調査結果について」2026年7月2日)p.1〜3。全国4証券取引所の上場会社3,975社、株式保有金額ベース(2026年3月末)。外国法人等34.7%、信託銀行21.8%、個人・その他17.4%。投資信託は信託銀行・都銀地銀等の内訳。調査の区分は研究の所有者分類とは異なる。↩
  29. R8。年間の売却ペースは簿価で3,300億円程度(時価で6,200億円程度)、市場全体の売買代金に占める売却割合は0.05%程度、時期の分散に配慮しつつ各銘柄の保有割合におおむね比例的な形で売却、所要の準備が整い次第開始。κへの影響が受益権の売却後の保有構成に依存するという記述は編集部の推論。↩
  30. R9(金融庁「『責任ある機関投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》」2025年6月26日第三次改訂)p.11〜12、指針4-2・4-4・4-6。↩
  31. R10(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律10条1項・2項、同法施行令16条1〜3項。e-Gov 法令 API で2026年10月24日に取得し保存)。法10条2項は、国内売上高合計額200億円超の株式取得会社が国内売上高50億円超の会社の株式を取得し、議決権保有割合が「百分の二十を下回らない範囲内において政令で定める数値」を超える場合に事前届出を求める。施行令16条3項はその数値を、20%以下から20%超(50%以下)となる場合は20%、50%以下から50%超となる場合は50%と定める。保有割合は企業結合集団の合計で、信託に係る株式は議決権の行使・指図ができるものを含む(法10条2項・3項)。 日本の公正取引委員会が共通保有について示した考え方は、本稿では確認できなかった。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。