この記事で分かること
- 米国の助言会社の顧客データでは、ファンドの約8割が標準の推奨ではなく、自社の方針に合わせた「カスタム推奨」を受けていたこと
- カスタム推奨と標準の推奨が食い違いやすい議案と、投資家が個別に判断する議案の特徴(研究の範囲と限界つき)
- 日本企業のIR・総務・経営企画、アクティビスト対応のFAが、総会の前後に株主ごとの方針をどう確かめるか(学習用の設例つき)
想定読者:上場会社のIR・総務(株主総会担当)・経営企画、株主提案やアクティビストへの対応を助言するFA・証券会社・コンサルタント
前提知識:株主総会の決議要件と、議決権行使助言会社の役割の大枠
6月総会の招集通知を発送した直後、主要な議決権行使助言会社が代表取締役の再任に反対を推奨したという情報が入る。総務部は外国人持株比率に「助言会社に従う投資家の割合」を掛けて反対票を見積もる。逆に、助言会社が賛成を推奨していたのに大株主の運用会社が反対に回り、賛成率が想定を大きく下回ることもある。
どちらの場面でも、暗黙の前提は「機関投資家は同じ一つの推奨を受け取り、それに従うか従わないかを選ぶ」というものだ。ところが、助言会社の顧客の多くは、自社の行使方針を事前に助言会社へ渡し、その方針を当てはめた推奨を受け取っている。本稿では、この「カスタム推奨」を初めて大規模に調べた研究を手がかりに、株主総会の票読みと対話の準備で何を確かめるべきかを考える。
この記事が主に参照する研究
Edwin Hu、Nadya Malenko、Jonathon Zytnick「カスタム化された議決権行使助言(Custom Proxy Voting Advice)」ECGI Finance Working Paper No. 975/2024(NBER Working Paper No. 32559)
- 公表:前身の稿(旧題)2023年3月。現題は2024年4月。参照した版:ECGI 改訂版(2026年1月)。査読:未査読(WP。Journal of Finance で修正・再投稿中と著者が記載)
- データ:大手助言会社 Glass Lewis の非公開の顧客データ。米国上場企業の2011〜2017年の株主総会、333機関・25,046ファンド・約3.1万総会
- 方法:カスタム化の有無と、票が自動送信か手動かの記録を使った記述統計と回帰(相関の分析。カスタム化の効果を因果として識別したものではない)。簡単な理論モデルの予測と照合
- 位置づけ:これまで標準の推奨だけを見てきた研究に対し、新しいデータで投資家側の使い方を示した研究。日本は対象外
標準の推奨、カスタム推奨、自動送信という三つの仕組み
まず言葉をそろえる。助言会社が自社の行使基準(毎年公表するガイドライン)を当てはめて出す推奨を、論文は「ベンチマーク推奨」と呼ぶ。特定の投資家に合わせない、いわば標準の推奨である。「助言会社が反対を推奨」と報じられるのは通常これだ。
これに対し「カスタム推奨」は、投資家が自社の方針を助言会社と詰めて作った規則を、助言会社が個々の議案に当てはめて出す推奨である。投資家ごとに方針を作り込む型(論文の言う tailored)と、助言会社が用意したテーマ別の既製方針(ESG、公的年金向けなど)を選ぶ型がある。違いは細かな基準に表れる。たとえば社外役員の兼任数について、Glass Lewis の標準の基準は5社を超える兼任で反対だが、同社の既製方針の一つは6社を上限にしている1。カスタム化は総会シーズンの前に、保有銘柄全体に対して行い、1社ごとに作るものではない2。
三つ目が行使の仕組みである。助言会社の行使プラットフォームでは、投資家の行使書にあらかじめ推奨どおりの賛否が入力され、何もしなければ指定日に自動で送信される。研究の標本では多くのファンドが総会の4日前を指定していた3。手で直して送ることもできる。つまり、何もしなかったときの票(既定の票)は、標準の推奨を使う投資家ならベンチマーク推奨、カスタム推奨を使う投資家なら自社方針を反映した推奨になる。論文は、自動送信か手動かの違いを、投資家がその議案に注意を払ったかどうかの目安として使っている。
研究が示したこと:8割がカスタム、争点のある議案ほど推奨は割れる
最も基本的な結果は普及の程度である。標本のファンドのうち、ベンチマーク推奨だけを受けていたのは20.3%で、79.7%がカスタム推奨を受けていた。大半は投資家ごとに作り込む型で、既製方針は1.4%にとどまる。機関単位では約55%だが、保有額で加重すると89.7%に上がり、大きな投資家ほどカスタム化している4。論文は、もう一方の大手 ISS も2022年に処理した行使株式の約86%が顧客のカスタム方針に結びついていると公表していることを引いている5。表1は、本稿で使う六つの結果をまとめたものである。
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| 問い | 結果 | R1 の箇所 |
|---|---|---|
| どれだけ使われているか | ファンドの79.7%がカスタム推奨(テーラー型78.3%、既製方針1.4%)。機関単位で約55%、保有額加重で89.7% | p.21〜22、図1 |
| どれだけ違うか | 自動送信票の一致率はノンカスタム95.4%、カスタム74.4%。ES提案のある総会では58.6% | p.22〜24、表2 |
| 誰がカスタム化するか | ベンチマークと一貫した方向に考えが違うファンド、保有社数が多い(平均51社対40社)・保有額が大きいファンド | p.24〜26、表3 |
| 注意をどこに向けるか | 手動の行使は、Glass Lewis の反対推奨で約6%ポイント、ISS の反対推奨で約3%ポイント、臨時総会で13%ポイント超高い | p.28、表5・図3 |
| カスタム化と注意 | 手動率10%未満でも乖離はカスタム約20%・ノンカスタム約5%。争点総会への手動行使の反応はカスタム利用者が2.2〜5.0%ポイント大きい | p.30〜32、図4・表7 |
| 既製方針の利用者 | 一致率は約50%と低く、手動の行使は争点総会でも5〜7%を超えることはまれ | p.33、図6 |
カスタム推奨そのものは顧客の秘密で、研究者も見ていない。そこで論文は、受け取った推奨をそのまま反映する自動送信票がベンチマークとどれだけ一致するかで、両者の食い違いを推計した。図1がその結果である。
標準の推奨を使うファンドの自動送信票は95.4%がベンチマークと一致した(100%に届かないのは判定の誤差と論文は説明する)。カスタム推奨を使うファンドでは74.4%で、差は21.0%ポイントである。環境・社会(ES)の株主提案がある総会では58.6%、ガバナンスの株主提案がある総会では62.6%まで下がり、方針を深く作り込んだ投資家(中・高カスタム)ではES提案のある総会で50.5%だった6。判定の誤差を大きめに見積もっても、カスタム推奨はおよそ2割以上の行使書でベンチマークと異なると著者らは試算している7。
誰がカスタム化するのか。ベンチマークから一貫して同じ方向に外れる投資家、つまり助言会社と考え方の違う投資家ほどカスタム化していた。保有銘柄数も多く(平均51社対40社)、機関の保有銘柄数が10%多いとカスタム化の確率が0.82%ポイント高い。方針を一度作れば全銘柄に使える規模の経済と整合する8。考え方の向きも興味深い。カスタム利用者は、取締役選任や役員報酬などの伝統的なガバナンス議案で、Glass Lewis 自身より経営陣に寛容な側に寄っていた9。カスタム推奨は「助言会社より厳しい」方向だけに働くわけではない。
研究のもう一つの柱が、投資家の注意の配り方である。標準の推奨を使うファンドでは、手動で送った票は自動送信の票より21%ポイント多くベンチマークから外れており、手動送信は「その議案を自分で見た」ことの目安として妥当だと論文は確認している。そのうえで、手動の行使は Glass Lewis が会社提案に反対を推奨した総会で約6%ポイント、ISS が反対した総会で約3%ポイント、臨時総会で13%ポイント超高かった。初めて争点のある総会を迎えた会社では手動の行使が急に増え、その前に増える傾向はなかった10。
カスタム化は、この注意の使い方とも結びついている。手動の行使がほとんどない(10%未満)ファンドでも、ベンチマークから外れる割合はカスタム利用者で約20%、標準の推奨の利用者で約5%だった。著者らはこれを、方針の事前設定が行使時の注意を代替している証拠と解釈している11。同じ運用グループ内で比べると、カスタム推奨を使うファンドは手動の行使が14%ポイント低かったが、これは少数のグループに基づく結果で、著者らも重みを置きすぎないよう注意している12。一方で、反対推奨のある総会への手動行使の反応は、カスタム利用者のほうが2.2〜5.0%ポイント大きく、臨時総会やアクティビストの関わる総会ではさらに大きかった13。日常の議案は方針に任せ、争点に人手を回す配分である。例外は既製方針の利用者で、ベンチマークとの一致は約50%と低い一方、手動の行使は争点のある総会でも5〜7%を超えることがまれだった14。
どこまで言えるか:米国、2011〜2017年、一社の顧客データ
この研究の結果には、はっきりした範囲がある。対象は Glass Lewis の行使プラットフォームを使う投資家で、米国上場企業の2011〜2017年の総会に限られる。カスタム化の有無は2022年時点の記録で、個々のカスタム推奨は見えず自動送信票から推計している。票も行使書単位で「一つでもベンチマークと違ったか」しか分からない15。論文は Glass Lewis の米国でのシェアを2021年に42%としており、ISS の顧客でも傾向は似ていると述べるが、それは聞き取りと ISS の公表値に基づく16。
方法の面では、カスタム化を投資家がランダムに割り当てられたわけではない。議決権行使を重視する投資家ほどカスタム化し、手動でも行使する、という選択の影響を著者ら自身が認めており、注意の再配分は「選択だけでは説明しにくい」という程度の証拠にとどまる17。
関連する研究として、同じ著者の一人を含む Malenko、Malenko、Spatt の理論研究がある。情報の販売で利益を上げる助言会社は、公開する推奨を、事前に起こりやすい結論とは逆向きに偏らせる誘因を持ちうる一方、有料の調査レポートは正確にする誘因を持つという。著者らはそこから、助言会社の推奨は株主の投票を評価する物差しとして適切でないかもしれないと論じた18。理論と実証の違いはあるが、標準の推奨を物差しにする見方を疑う点で主論文と同じ方向を向く。
研究の後、業界も動いた。Glass Lewis は2025年10月、ハウス方針(自社基準)による単一の推奨から、複数の視点を提供する形へ移ると発表し、顧客の多数はすでに独自のカスタム方針か特定のテーマ方針を使っていると説明した。2026年には四つの視点を2027年9月から提供する計画を示し、意見を募った(募集は2026年10月16日まで)19。主論文はこの変更の影響を検証していない。
大手町プレップの考察:票読みの単位を「推 奨」から「株 主の方針」へ
以下は研究結果を踏まえた編集部の見方で、日本で検証された結論ではない。
第一に、「助言会社が反対を推奨した」という一報は、投資家ごとに異なる推奨の束のうち、標準の一本を知らせているにすぎない可能性がある。米国の研究の範囲では、ガバナンスやESGの論点ほどその一本と各投資家の推奨は食い違った。日本でも、取締役選任のように基準(独立性、兼任数、資本効率など)で判定される議案ほど、投資家の方針の差が票に出やすいと考えられる(仮説)。票読みの単位は、助言会社の推奨ではなく、株主それぞれの方針の型に置き換えたほうがよい。
第二に、争点のある議案では、投資家が方針の自動適用から外れて個別に判断する余地が広がる。研究では、反対推奨やアクティビストの関わる総会で手動の行使が増え、カスタム利用者ほどその反応が大きかった。会社側にとっては、助言会社の結論を覆そうとするより、各投資家の行使担当者が個別審議に入る前に、判断材料を届けることのほうが効く場面がありうる(仮説)。委任状争奪戦や株主提案の局面では特にそうだろう。
第三に、総会後の反対票の読み方が変わる。標準の推奨が賛成だったのに反対が出たとき、それは投資家が独自に調べた結果かもしれないし、事前に設定したカスタム方針が自動的に反対を出しただけかもしれない。前者なら個別の対話、後者なら方針の基準(取締役会構成や資本効率など)に照らした開示や体制の見直しが対応になる。
日本で確かめられること:スチュワードシップ・コードと東証のコード
日本の機関投資家がカスタム推奨をどの程度使っているかについて、公的な統計は確認できなかった。ただ、手がかりになる開示は制度で求められている。金融庁のスチュワードシップ・コード(2025年6月の第三次改訂版)の指針5-4は、助言会社のサービスを使う場合でも助言に機械的に依拠せず、自らの責任と判断で行使すべきだとし、助言会社を利用しているなら、行使結果の公表に合わせて助言会社の名称とサービスの具体的な活用方法を公表すべきだとしている20。指針5-3は、行使結果を個別の投資先企業・議案ごとに公表すべきだとする(適切でない場合は理由の説明)21。コードを受け入れた投資家なら、助言会社の使い方と自社への過去の賛否を公開情報から読める可能性がある。運用会社側の実務は責任投資・ESG運用の実務で扱った。
助言会社の側にも求めがある。同コードの指針8-2・8-3は、助言会社に日本拠点の設置を含む体制の整備と助言策定プロセスの公表を求め、企業の開示に基づくほか必要に応じて企業と意見交換しつつ助言すべきだとする。企業から求められた場合に前提となる情報の齟齬を確認する機会を与え、企業の意見も顧客に伝えることは、正確性に資するとする22。
企業の側では、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード(2026年7月21日版)の原則1-2が、プライム市場の上場会社に少なくとも機関投資家向けの議決権電子行使プラットフォームを利用可能にすることなどを求め、解釈指針で有価証券報告書を総会の3週間以上前に提出することが最も望ましいとしている。原則1-3は、可決したものの相当数の反対票が投じられた会社提案議案について、反対の理由や原因の分析と対応を求める23。
米国の数値は日本の投資家にそのまま当てはまらない。応用するときは、自社の株主構成や行使の経路(電子行使プラットフォーム、信託銀行名義の保有など)を別途確かめる。
学習用の設例:同じ反対推奨でも、賛成率の見通しは20ポイント近く動く
学習用の設例(架空)
- プライム市場の乙社。代表取締役の再任議案(普通決議=出席議決権の過半数で可決)
- 出席議決権の内訳:取引先・個人など42%(会社提案に賛成と置く)、標準の推奨に従う機関投資家8%、カスタム方針で推奨を受ける機関投資家38%、自社基準で判断する機関投資家12%
- ケースA:標準の推奨が反対。自社基準型の40%が反対すると置く。ケースB:標準の推奨が賛成。自社基準型の10%が反対すると置く
- a=カスタム方針型のうち、受け取る推奨が標準の推奨と同じ結論になる割合(基本ケース70%)
機関投資家がすべて標準の推奨に従うと置く素朴な票読みでは、ケースAの賛成率は取引先・個人などの42.0%だけになり、否決の見通しになる。株主を四つの型に分けると見え方が変わる。表2は基本ケースの内訳である。
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| 株主の型 | 出席議決権(%) | 賛成(%) | 反対(%) | 置いた仮定 |
|---|---|---|---|---|
| 取引先・個人など | 42 | 42.0 | 0.0 | 会社提案に賛成と置く |
| ベンチマーク追随型 | 8 | 0.0 | 8.0 | 推奨どおり反対 |
| カスタム方針型 | 38 | 11.4 | 26.6 | 70%が推奨と同じ反対 |
| 自社基準型 | 12 | 7.2 | 4.8 | 40%が反対 |
| 合計 | 100 | 60.6 | 39.4 | 素朴な票読みでは賛成42.0% |
a=70%なら賛成率は60.6%で、可決の見通しになる。図2は a を50%から100%まで動かした結果である。ケースAでは a が100%(カスタム方針型も全員が標準の推奨と同じ結論)でも49.2%、50%なら68.2%となり、賛成率が50%を割り込むのは a が約97.9%を超えたときだ。結論を左右しているのは、反対推奨という一点ではなく、カスタム方針型の推奨が標準の推奨とどれだけ重なるかである。
ケースBの読み方も実務的である。標準の推奨が賛成でも、a が70%なら賛成率は87.4%、50%なら79.8%まで下がる。賛成推奨で安心していると、この十数ポイントが総会後に「想定外の反対」として現れる。a は会社・議案ごとに違い外からは見えないので、株主ごとの方針と過去の賛否から推し量る必要がある。
総会の前後で使う確認項目
IR・総務とFAが使える手順を、総会の前から順に挙げる。いずれも研究結果を日本の開示に当てはめた編集部の手順である。
- 上位株主を三つの型に分ける。対象は上位20〜30の機関投資家。各社の議決権行使方針と行使結果の公表ページを開き、指針5-4に沿った「助言会社の名称」と「活用方法」の記述を読む。「助言会社の推奨を参考に自社基準で判断」「自社の基準に基づく助言(カスタム)を受領」「推奨に従う」のどれに近いかで、自社基準型・カスタム方針型・標準推奨型に分類する。記述が抽象的なら、対話の場で「当社の議案に適用されるのは貴社の基準か、助言会社の標準基準か」を尋ねる。
- 過去の賛否と照らし合わせる。個別開示された過去2〜3年の自社・同業他社への賛否を、入手できる範囲の標準の推奨と並べ、同じ種類の議案で一貫して同じ方向に外れていれば独自の方針があるとみる。
- 争点になりそうな議案を早めに特定する。研究では反対推奨・臨時総会・アクティビストの関わる総会で手動の行使が増えた(米国)。資本効率や社外取締役の兼任数など行使基準に触れそうな議案も対象に入れる(研究が検証した区分ではなく編集部の例)。行使担当者に「個別審議の対象か」「判断の締切はいつか」を確かめ、締切前に説明資料を届ける。
- 助言会社には事実確認の機会を求める。指針8-3を踏まえ、レポートの前提となる情報(役員の兼任数、独立性の判断材料、政策保有株式の数値など)に誤りがないかを確かめる窓口と時期を、総会シーズンより前に確認しておく。
- 総会後は反対票を型ごとに分解する。原則1-3の分析で、反対を「標準の推奨に沿った反対」「カスタム方針による反対」「個別判断の反対」に分け、それぞれに対応する論点(開示の不足、基準そのもの、個別の懸念)を取締役会に報告する。分け切れない部分は、推定であることを明記する。
アクティビスト対応のFAにとっては、1〜3がそのまま票読みの作業になる。アクティビストの提案に対する標準の推奨だけで勝敗を読むのではなく、株主の型ごとに、推奨と異なる票がどれだけ出うるかの幅で示したほうが、依頼者の判断に役立つ。提案の内容そのものを検算する方法はアクティビストの株主提案を自分で検算する、キャンペーンの進み方はアクティビストキャンペーンの実務プロセスで扱っている。
よくある質問
助言会社の標準の推奨は、もう気にしなくてよいのですか。
そうではありません。研究の標本でも約2割のファンドは標準の推奨だけを使っており、論文によれば、カスタム方針は標準の方針を土台にすることが多く、特にカスタム化の度合いが低い方針は標準の基準に少し手を加えた程度です24。標準の推奨は依然として出発点ですが、それだけで賛成率を読むと、方針の違う投資家の票を見落とすおそれがあります。
日本の機関投資家もカスタム推奨を使っているのですか。
利用の割合を示す公的な統計は確認できませんでした。スチュワードシップ・コードの指針5-4により、助言会社を利用する投資家は名称と活用方法を公表することが求められているため、個々の投資家については公表資料で確かめるのが確実です。
まとめ
米国の大手助言会社の顧客データでは、約8割のファンドが自社の方針に合わせたカスタム推奨を受けており、ESGやガバナンスの論点ほど、それは標準の推奨と食い違っていた。投資家は日常の議案を方針に任せ、反対推奨やアクティビストの関わる議案に注意を向けていた。結果は2011〜2017年の米国の一社の顧客に基づく相関の分析で、日本の投資家の利用状況は分かっていない。それでも、票読みと対話の単位を助言会社の推奨から株主ごとの方針へ移すという示唆は、日本の総会実務でもスチュワードシップ・コードの開示を使って試すことができる。
脚注
- R1(ECGI WP 改訂版, 2026年1月)オンライン付録B(p.66)。兼任の基準の例は Glass Lewis の標準方針と既製方針「Corporate Governance Focused」の比較として論文が紹介したもの。本記事のページは R1 の PDF の物理ページ(本文の印刷ページ=物理ページ−4。以下同じ)。↩
- R1 オンライン付録B(p.67)。助言会社・投資家への聞き取りに基づく記述。カスタム推奨の利用者もプラットフォーム上でベンチマーク推奨を閲覧できる(p.68)。↩
- R1 3節(p.18〜19)。多くのファンドが自動送信日を総会の4日前(月曜の総会は6日前)に設定していることは、同じ著者らの関連研究による(R1 p.18)。その日以外に送られた票を手動として扱う。↩
- R1 4.1節(p.21〜22)・図1。テーラー型(投資家ごとに作り込む型)は78.3%。行使株式数で見たカスタム利用者の比率は約76%。数値は2022年7月時点のカスタム化の状態に基づく。2024年6月の NBER 版ではテーラー型77.2%・既製方針1.3%と表示されており、版により内訳がわずかに異なる。↩
- R1 4.1節(p.22)。ISS の公表値(2022年)を論文が引用したもので、本記事では ISS の原資料を確認していない。↩
- R1 表2(p.49〜50)。単位は行使書(1社の総会でのファンドの1票)で、一つでも議案がベンチマークと異なれば不一致。カスタム全体との差20.98%ポイントは1%水準で有意。本文 p.23 はカスタム全体の一致率を74.5%と書くが、表の値(74.43%)を使った。↩
- R1 4.2節 脚注18(p.23)。自動送信の判定の誤分類が最大30%程度あっても、カスタム推奨はおよそ20%以上の行使書でベンチマークと異なるという試算(補足付録E.2)。↩
- R1 5節(p.24〜26)・図2・表3。平均保有社数51社対40社(中央値27社対20社)。0.82%ポイントは標本平均の約1%に当たる。いずれも相関で、手動の票だけで測った考え方の指標でも同じ傾向(係数は小さい)と論文は報告している。↩
- R1 5節(p.25)・図2。カスタム利用者のガバナンス・スコアは負、経営陣提案のスコアは正に偏る。論文は先行研究も引いて、Glass Lewis の顧客が伝統的なガバナンス議案で Glass Lewis 自身より経営陣に寛容な傾向と解釈している。↩
- R1 6.1節(p.27)・表4、6.2節(p.28〜29)・表5・図3。手動の行使の上昇幅は本文の表現(表5の固定効果の置き方により Glass Lewis 反対で5.7〜6.6%ポイント、ISS 反対で1.7〜3.7%ポイント、臨時総会で13.3〜13.6%ポイント)。初めての争点総会の前後比較は差の差の分析。↩
- R1 6.3.1節(p.29〜30)・図4。著者らはこれを、カスタム化が行使時の注意を代替している証拠と解釈している。↩
- R1 6.3.1節(p.30〜31)・表6。平均に対して40%の減少。機関(運用グループ)の固定効果を入れた推定で、カスタム利用ファンドと非利用ファンドが混在するグループは少ない。↩
- R1 6.3.2節(p.31〜32)・表7(p.54、列3)。反対推奨(ISS 2.2%ポイント、Glass Lewis 5.0%ポイント)は標本平均の約6%・約14%に当たる。列3では臨時総会で11.7%ポイント、アクティビストの関わる総会で4.1%ポイント。著者らは選択の影響が残りうることを認めている。↩
- R1 6.3.3節(p.33)・図6。既製方針のファンドの自動送信票は、ESまたはガバナンスの株主提案がある総会では32〜39%しかベンチマークと一致しない。保有銘柄数は他のファンドの約2倍。↩
- R1 3節(p.17〜20)。データは匿名化され、投資家の名前や種類は分からない。著者らは2011〜2017年の標本の時点でもカスタム化していたと、聞き取りと年ごとの一致率から判断している(6.3.4節 p.34〜35)。↩
- R1 3節(p.19)。42%は Shu(2024)の推計を論文が引用したもの。助言会社の乗り換えがあれば、カスタム化の頻度は過小に、乖離は小さめに出るとも論文は述べる(7.4節 p.37)。↩
- R1 6.3.1節(p.30)、6.3.2節(p.32)、6.3.4節(p.34)。カスタム化の外生的な変動がないため、代替と補完の区別や反実仮想の検証は今後の課題とされている。↩
- R2(NBER WP 改訂版, 2022年5月)要旨 p.2・序論 p.4。理論モデルの結果で、実証ではない。学術誌版は The Journal of Finance 80巻4号(2025年)。↩
- R3(Glass Lewis ニュースリリース, 2025年10月15日)、R4(Glass Lewis のコメント募集ページ, 2026年。コメント期間は10月16日まで)。四つの視点は Business Fundamentals、Foundational Governance、Global Stewardship、Sustainability Focused。R1 も2025年10月の発表に言及している(p.5 脚注1、報道を引用)。↩
- R5(金融庁, 2025年6月26日)指針5-4(p.14)。↩
- R5 指針5-3(p.13)。賛否の理由の公表については、利益相反が疑われる議案や方針に照らして説明を要する判断を行った議案などは、賛否を問わず理由を公表すべきとしている。↩
- R5 原則8・指針8-1〜8-3(p.17)。指針8-1は助言会社を含むサービス提供者に利益相反管理の方針と体制の整備・公表を求める。↩
- R6(東京証券取引所, 2026年7月21日)原則1-2・解釈指針、原則1-3(p.9〜10)。解釈指針は招集通知に記載する情報の早期の電子的公表や英訳、信託銀行名義の機関投資家が自ら行使を希望する場合の対応も挙げている。↩
- R1 6.3.1節 脚注23(p.29)、3節(p.18)。Glass Lewis の分類で、低い度合いのカスタム化は標準の方針にいくつかの調整を加えたもの。機関数で見るとカスタム化の度合いは低28.5%・中21.6%(p.22)。↩
参考文献(2 026年10月確認)
- R1 Hu, E., N. Malenko and J. Zytnick (2026), “Custom Proxy Voting Advice,” ECGI Finance Working Paper N° 975/2024(Revised January 2026); NBER Working Paper No. 32559(2024). DOI: 10.3386/w32559. SSRN: 4770971. 参照した版:ECGI 改訂版(2026年1月、論文本体の日付は2025年11月)。NBER 版(2024年6月)の要旨・主要数値も照合。前身の稿:E. Hu, N. Malenko and J. Zytnick, “Institutional Investor Deliberation”(2023年3月1日付、著者 Edwin Hu のサイトで公開。同サイトに「以前はこの題名で回覧」と記載)。査読:未査読(WP。著者のサイトでは Journal of Finance で修正・再投稿中、2026年10月確認)。 ecgi.global (参照箇所:1〜8節、表1〜7、図1〜6、オンライン付録B(PDF p.5〜38, p.48〜54, p.66〜68)。NBER 版 p.2。脚注1〜17・24の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R2 Malenko, A., N. Malenko and C. S. Spatt (2025), “Creating Controversy in Proxy Voting Advice,” The Journal of Finance 80(4), 2303-2354. DOI: 10.1111/jofi.13438. 参照した版:NBER Working Paper No. 29036(2021年7月初版、2022年5月改訂)。査読:済(学術誌版は書誌のみ確認)。 nber.org (参照箇所:要旨 p.2、序論 p.3〜4。脚注18の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R3 Glass Lewis, “Glass Lewis Leads Change in Proxy Voting Practices,” News Release, October 15, 2025. glasslewis.com (参照箇所:本文。脚注19の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R4 Glass Lewis, “Glass Lewis Opens Comment Period on Multiple Research Perspectives,” 2026. glasslewis.com (参照箇所:本文。脚注19の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R5 金融庁(2025)「『責任ある機関投資家』の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~(第三次改訂版)」2025年6月26日。 fsa.go.jp (参照箇所:原則5・指針5-3・5-4(p.13〜14)、原則8・指針8-1〜8-3(p.17)。脚注20〜22の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R6 株式会社東京証券取引所(2026)「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」2026年7月21日。 jpx.co.jp (参照箇所:原則1-2・解釈指針、原則1-3(p.9〜10)。脚注23の根拠。閲覧日:2026年10月)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。