想定読者:事業会社の経営企画・FP&A、計画を精査する投資銀行・FAS・PEの実務家
前提知識:事業計画の損益の組み立て(売上・人件費・固定費)の基本

中期経営計画の素案に「生成AIの全社展開で3年後に生産性10%向上、要員を自然減で吸収」と書かれている。役員会では二つの質問が出る。その10%はどこから来たのか。そして、生産性が上がったことを3年後にどうやって確かめるのか。ベンダーの事例集や導入部署の体感はあっても、企業全体で効果がどの程度表れているかという外部の物差しは乏しい。

この問いに一つの手がかりを与えるのが、米国・英国・ドイツなど7か国の中央銀行や大学が運営する経営者調査に、共通のAIの設問を入れて集計した研究である。対象は個別の業務ではなく企業全体で、効果を「雇用」と「1人当たり売上」に分けて、過去3年の実績と今後3年の見込みを聞いている。本稿ではこの研究を主に、計画にAIの効果を織り込むときの水準感と、測り方の注意点を整理する。部門単位のROIの計算方法は金融部門の​AI​導入効果を​どう​測るかで扱ったので、ここでは繰り返さない。

この記事が主に参照する研究

Ivan Yotzov、Jose Maria Barrero、Nicholas Bloom ほか計17名「企業のAIに関するデータ(Firm Data on AI)」NBER Working Paper No. 34836

  • 公表:初版 2026年2月(NBER WP、4か国)。参照した版:2026年10月改訂版(7か国に拡大)。査読:未査読(WP)
  • データ:米・英・独・豪・加・メキシコ・南アフリカの経営者調査(CEO・CFO・経営幹部)。2025年11月〜2026年1月と2026年5〜7月の2回、最新の回のAI利用の設問の回答は計8,879社。支出の設問は米英のみ
  • 方法:経営者の回答の集計と相関分析(記述的な事実の提示。因果の識別ではない)。英国では財務データと接続
  • 位置づけ:新しい国際比較データによる、AI普及の現状の測定。日本は対象外

AIの​効果を​三つの​量に​分けて​読む

研究を読む前に、何を測っているかを確かめておく。論文は、AIの効果を企業ごとに三つの量で聞いている。一つ目は従業員数、二つ目は1人当たりの売上数量で、論文はこれを生産性と呼ぶ1。統計でいう労働生産性は1人当たり付加価値で測ることが多いが、この研究は経営者が答えやすい売上ベースの近似を使っている。三つ目が、ソフトウェア、利用料、ハードウェア、従業員研修、IT支援を含むAI関連の支出である。

売上は「1人当たり売上×人数」なので、変化率で見れば、売上の伸びはおおむね1人当たり売上の伸びと人数の伸びの和になる。論文もこの足し算で産出への含意を示している。店舗数や人員などの数量から売上と費用を積み上げるドライバー​型の​事業計画の側から見ると、同じ「生産性10%」でも、売上が10%増えるのか、人数が10%減るのかで損益への表れ方はまったく違う。この区別が本稿の軸になる。

もう一つの区別は、1人当たり売上と付加価値の違いである。AIの利用料は多くが外部への支払いなので、売上が増えても、その分だけ中間投入が増えれば付加価値の伸びは小さくなる。論文は英国について、経営者の回答を国民経済計算と組み合わせて試算し、1人当たり売上への効果を年率0.18%ポイント(過去3年)、1人当たり付加価値への効果を0.17%ポイントと見積もった。今後3年については人員減の見込みが効いて、それぞれ0.69%ポイントと0.85%ポイントとなる2。支出をどの費目に置くかで、同じ効果でも見え方が変わることを示す例である。

利用は​広く、​効果の​実績は​小さく、​見込みは​大きい

2026年5〜7月時点で、何らかのAIを使っている企業は7か国平均で78%だった。国別には米国の95%から南アフリカの56%まで開きがあり、用途では生成AIが63%で最も多い3。主な数値を表1にまとめた。

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表1 研究が示した主な数値(7か国の経営者調査)
項目数値補足
AIを使っている企業78%国別に米国95%〜南アフリカ56%。用途は生成AIが63%で最多
1人当たりAI支出(2026年の見込み、平均)米$2,043
英$725
中央値は米$294/英$136。平均は中央値の5.3〜6.9倍
支出の偏り(2026年の見込み)上位10%で
69〜90%
支出の半分を英1.3%・米1.8%の企業が占める
雇用:過去3年の累計0.06%87%の企業が「影響なし」
雇用:今後3年の見込み−0.4%英国−1.31%・米国−1.26%。40%超の企業が増減いずれかを見込む
1人当たり売上:過去3年の累計+0.46%83%が「影響なし」、残りは増加に偏る
1人当たり売上:今後3年の見込み+1.70%年率約0.6%。「影響なし」は53%に減る
雇用と生産性の見込みの傾き−0.07生産性の見込みが高い企業でも人員減の見込みは小さい(英国)
出所:R1(NBER WP 改訂版, 2026年10月)の​本文​(p.15〜25)と​表2・表4(p.48・p.50)を​基に​大手町​プレップ​作成。​利用率・​影響は​2026年5〜7月​(ドイツの雇用・生産性は2026年1月)。​支出は​米国​(2026年3月、845社)と​英国​(2026年8〜9月、1,273社)だけの​設問で、​2026年分は​通年の​見込み。​英国は​論文が​1ポンド=1.35ドルで​換算した値。​雇用・​生産性は​経営者の​回答を​5区分で​集計した​平均で、​実測値ではない。

支出の数字は、平均と中央値の差に注意して読む必要がある。2026年通年の1人当たりAI支出の見込み(2026年3月時点の回答)は、米国で平均2,043ドル、中央値294ドルで、平均は中央値の約6.9倍にあたる。この見込みでは、上位10%の企業が米国の支出の90%を占め、支出全体の半分は米国企業の1.8%が出している4。英国の回帰では、賃金水準が高い企業や、生産性や売上の伸びを高く見込む企業ほど1人当たり支出が多かった(相関であり、支出が伸びを生んだとは言えない)5。

雇用への効果は、過去3年でみると全体で0.06%とほぼゼロで、87%の企業が「影響なし」と答えた。今後3年の見込みは平均−0.4%と小さいが、英国と米国はそれぞれ−1.31%と−1.26%で、40%を超える企業が増減のどちらかを見込んでいる6。平均は小さくても、企業間の入れ替わりは大きくなりうるということだ。著者らは、新しく生まれる企業の雇用などを含まない点から、この見込みはむしろ悲観的すぎると解釈している7。

1人当たり売上への効果は、過去3年の累計で0.46%、今後3年の見込みは1.70%(年率約0.6%)だった。見込みは実績の約3.7倍にあたる。過去3年について83%の企業が「影響なし」と答え、今後3年でも53%が影響なしとした。5%を超える増加を見込む企業は16%にとどまる8。国別の実績と見込みを図1に示した。

図1 AIによる1人当たり売上の変化の実績と見込み図1 AIによる1人当たり売上の変化:実績と見込み経営者の回答(3年間の累計、%)過去3年の実績今後3年の見込み雇用の見込み-1%0%+1%+2%+3%全体1.7英国2.6米国2.3カナダ2.0メキシコ1.9ドイツ0.9豪州0.7南ア0.6実績の平均は+0.46%、見込みは+1.70%(約3.7倍)数値=今後3年の見込み。雇用は過去3年ではほぼ05区分の回答に±7.5%・±2.5%・0%を当てた平均ドイツは2026年1月、他は2026年5〜7月の調査
出所:R1(NBER WP 改訂版, 2026年10月)​表4(p.50)の​数値を​基に​大手町​プレップ​作成。​「1人当たり売上」は​論文の​生産性の​定義​(売上数量÷従業員数)。​いずれも​経営者の​自己評価で、​実測した​生産性ではない。​米・​英・​独・​メキシコは​雇用​ウェイト、​カナダ・​豪州・​南アフリカは​均等​ウェイト、​全体は​各調査の​回答数で​加重した​平均。​南アフリカは​回答約120社と​少ない。​日本は​調査の​対象外。

図1からは二つのことが読み取れる。第一に、実績と見込みの差が大きいのは英国・米国・カナダで、ドイツや豪州は見込みも1%を下回る。第二に、雇用の見込みがマイナスの国でも、その幅は1人当たり売上の見込みよりかなり小さい。英国の企業別のデータでは、生産性の見込みと雇用の見込みの関係を示す傾きは−0.07で、統計的には有意だが、生産性の見込みが1%ポイント高い企業でも雇用の見込みは平均0.07%ポイントしか低くない9。論文は、企業が効果の多くを人員削減ではなく産出の増加で実現しようとしていると読んでいる。

見込みは調査のたびに動いている。英国の生産性の見込みは2026年初の1.9%から年央には2.6%に上がり、英米の実績も0.2〜0.3%から0.5%前後に上がった10。半年ごとに同じ設問を繰り返すことで、効果の「実感」が追いついてくる過程が見えるようになっている。

数字は​どう​測られたか:経営者の​回答と​いう​性質と​限界

この研究の数値は、すべて経営者の回答である。雇用と生産性は「5%超の減少」から「5%超の増加」までの5区分で聞き、それぞれに−7.5%・−2.5%・0%・+2.5%・+7.5%を当てて平均している11。区分に当てる値を変えれば平均も変わるし、「影響なし」が多数を占める分布では、一部の企業の大きな回答が平均を動かす。結論部分で著者ら自身が効果に「(認識された)」と添えているとおり、測っているのは経営者の認識である12。

それでも著者らが経営者に聞く設計を選んだ理由は二つある。一つは、自社のAI利用と影響について最も良く知る立場にいること。もう一つは、無報酬で、中央銀行などとの関係を保つ動機で答えるパネルを使えることで、米国の調査では回答者の本人確認もしている。論文は、報酬付きのオンライン調査では回答者のなりすましが多くなりうるという先行研究も引いている13。同じパネルの過去10年の売上・雇用の回答はマクロ統計とよく連動し、1年先の予想も実績とよく対応していた。AIの効果の見込みが、各社の普段の予想の楽観・悲観の癖とは関係しないことも確かめている14。

実務の観点で特に有益なのは、測り方で数字が動くことを論文自身が示した部分である。英国のデータでは、AIの利用率は従業員10〜49人の企業で80%、250人以上で92%、集計のウェイト次第で83〜88%、回答者がCEO・CFOなら89%、それ以外なら84%だった。著者らは、これら三つがそれぞれ5〜12%ポイント数字を動かすとまとめている15。改訂の過程でも、設問を飛ばした企業を非利用者として扱うか欠測として扱うかで、米国の利用率が78%から95%に変わった16。付録の韓国の調査(749社)では、生産性の見込みが3.3%と本体より大きく、著者らはAIだけを扱う調査だったために関心の高い回答者が集まった可能性を挙げている17。

適用範囲の限界も明確である。研究は未査読のWPで、日本は含まれない。国ごとに回答企業の規模構成は大きく異なり(メキシコは従業員100人を超える規模の事業所だけ)、効果が労働者のどの層に出ているかは測れない18。

回答ではなく実データで測った研究と並べると、位置づけがはっきりする。国際決済銀行(BIS)と欧州投資銀行の研究者らは、EUと米国の非金融企業約12,000社の調査と財務データを使い、EU企業について、同じ業種・規模の米国企業の導入率を操作変数にして、AIの導入で1人当たり売上の水準が約4%高まり、雇用への悪影響は見られないと推計した19。ただし対象は2019〜2024年で、AIの定義はビッグデータ分析を含む広いものだ。ソフトウェア・データや研修への補完的な投資が多い企業ほど効果が大きいという結果も示している20。一方、デンマークの行政記録を使った研究は、AIチャットボットの利用が2024年末までの賃金・労働時間に与えた効果はほぼゼロで、2%を超える効果は否定できると報告した21。同じ研究では、利用者の85%が浮いた時間を他の業務に振り向けたと答えている22。時間は浮いても、それだけでは人件費にも売上にも表れないということである。

大手町​プレップの​考察:計画に​置くべきは​「効果の経路」である

以下は編集部の推論である。三つの研究を合わせると、AIの効果は「企業の多くではまだ小さく、一部の企業で大きく、時間の節約から損益への変換には別の手当てが要る」という像になる。ここから計画づくりへの含意を三つ引き出せる。

第一に、生産性の目標値だけを置いても計画にはならない。1人当たり売上の上昇が売上増と人員減のどちらで実現するのかを分けて書かなければ、損益への影響は計算できない。研究の企業は主に産出の増加を見込んでいたが、それが成り立つのは追加の需要がある場合だけで、営業計画や市場の見通しと整合していなければならない。

第二に、外部の数字は上限や目安として使うのではなく、自社の数字の「説明責任の水準」を決めるために使うのがよい。研究の見込みの平均は3年で1.70%であり、計画がこれを大きく超えるなら、支出の規模、対象業務、補完投資の中身で上位の企業に近いことを説明できる必要がある。支出の比較も、平均ではなく中央値や分布の位置で行うべきだと考えられる。

第三に、効果の測定は計画を承認する時点で設計しておく。論文が示した「回答者・ウェイト・区分の数値化で数字が動く」という問題は、社内のアンケートや部門の自己申告にもそのまま当てはまる(仮説)。測る人と測り方を固定しないと、3年後の答え合わせは信用されない。

日本の​企業に​当ては​める​ときの​注意

日本の企業の状況は、この研究の数字とは直接比べられない。総務省の「令和8年版 情報通信白書」の企業調査では、活用方針の設問で「わからない」と答えた回答者を除くと、生成AIを何らかの業務で使っている企業は日本で86.4%、議事録・メール作成の補助での活用が約7割で最も多かった23。ただしこの調査は2026年1〜2月のインターネット調査で、調査会社のモニターのうち、従業員10名以上でデジタル化に着手済みの企業の管理職以上から回答を得たものであり(日本は515件)、設問も生成AIに限られる。研究が指摘した回答者・標本・設問の違いがすべて当てはまる。

同じ白書では、生成AIを積極的または領域を限定して活用する方針の企業が68.9%(前年度49.7%)に増えた一方、組織的な取組がない企業が27.0%あり、米国・ドイツ・中国より顕著に高かった24。生成AIの活用で生じうる影響としては、日本では「業務の効率化」が61.6%で、「製品・サービスの質の向上」32.2%や「人員不足の解消」26.8%を大きく上回り、他の3か国では質の向上が最も多かった25。

編集部の見方では、この「効率化」中心の捉え方は、前節の第一の論点と直結する。効率化で浮いた時間を売上の増加にも人件費の削減にも結び付けないまま「効果」と数えると、計画上の数字だけが先行する。人手の確保が難しい企業では、効果は人員減よりも採用の抑制や残業の削減として表れる可能性が高いと考えられ、要員計画のどの行に効くのかまで落とし込む必要がある。

設例:AI​効果の​大きさと​回収の​仕方で​損益は​どう​変わるか

学習用の設例(架空)

  • 甲社:売上高60,000百万円、従業員3,000人(1人当たり売上20百万円)
  • 売上が増えたときに残る限界利益の率は30%(人件費は固定費として扱う)。1人当たり人件費8.0百万円
  • AI関連支出は1人当たり年8万円、計240百万円(研究と同じく利用料・研修・IT支援を含む)
  • 3年目に1人当たり売上が p%上がり、そのうち割合 s を人員減で、残りを売上増で回収すると置く

p=1.70%(研究の見込み平均と同じ大きさ)で、すべて売上増で回収すると、売上は1,020百万円増え、限界利益は306百万円、支出を引くと+66百万円になる。同じ p をすべて人員減で回収すると、51人分の人件費408百万円が減り、+168百万円になる。p=0.46%(研究の実績平均と同じ大きさ)なら、売上増での回収では157百万円の赤字になる。表2と図2に感応度をまとめた。

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表2 設例:甲社の営業利益への影響(感応度表)
1人当たり売上の上昇率すべて売上増で回収4分の1を人員減で回収すべて人員減で回収
p=0.46%(研究の実績平均と同じ大きさ)−157−150−130
p=1.00%−60−450
p=1.70%(研究の見込み平均と同じ大きさ)+66+92+168
p=2.62%(英国の見込みと同じ大きさ)+232+271+389
p=3.50%+390+443+600
損益がゼロになる p1.33%1.23%1.00%
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ作成​(甲社は架空)。​単位は​百万円、​3年目の​営業利益への​影響​(AI​関連支出 年240百万円を​差し引いた​後)。​例:p=1.70%で​売上増だけで​回収すると、​売上1,020百万円増×限界利益率30%=306百万円から​支出を​引いて​+66百万円。​すべて​人員減で​回収すると​51人減×8.0百万円=408百万円から​支出を​引いて​+168百万円。​人員減は​自然減の​範囲で​実現できるか、​売上増は​需要の​裏付けが​あるかを​別に​確かめる​前提。
図2 設例 AI効果の大きさと回収の仕方による営業利益への影響図2 設例:AI効果の大きさと回収の仕方と損益甲社(架空):売上60,000百万円・3,000人・AI支出 年240百万円3年目の営業利益への影響(百万円)-20002004006000%1%2%3%3年目の1人当たり売上の上昇率 p(%)研究の実績平均研究の見込み平均売上増で回収(損益ゼロの p=1.33%)4分の1を人員減(損益ゼロの p=1.23%)すべて人員減(損益ゼロの p=1.00%)点=損益がゼロになる p金の破線=論文の値と同じ大きさの参照線
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ作成​(甲社は架空)。​売上60,000百万円、​従業員3,000人、​売上増に​対する​限界利益率30%、​1人当たり​人件費8.0百万円、​1人当たりAI​関連支出8万円​(年240百万円)。​1人当たり​売上の​上昇pの​うち割合sを​人員減で、​残りを​売上増で​回収すると​置き、​売上の​変化≒p×(1−s)、​人員の​変化≒−p×sと​近似した​(R1の​表4が​産出を​生産性と​雇用の​和で​示すのと​同じ​近似)。​金色の​破線は​R1の​7か​国平均​(実績0.46%、見込み1.70%)と​同じ​大きさの​位置を​示すだけで、​甲社の​推計ではない。

この設例で損益がゼロになる p は、売上増で回収する場合1.33%、すべて人員減の場合1.00%である。人員減の方が効率よく見えるのは、1人分の人件費(8.0百万円)が、1人分の売上が生む限界利益(20百万円×30%=6百万円)より大きいという甲社の仮定による。実際には、51人の減少を自然減で吸収できるか、配置転換の費用はどうかを人員計画で確かめなければならないし、売上増での回収には1,020百万円の追加需要の裏付けが要る。どちらの経路も、計画書に書かれていなければ検証のしようがない。

明日から​使える​確認項目

  1. 計画のAI効果を「1人当たり売上(数量)」「人数」「AI関連支出」の三つの行に分けて置く(ドライバーベース・​プランニングの考え方)。売上の増加率≒1人当たり売上の増加率+人数の増加率が成り立っているかを検算する
  2. 1人当たり売上の上昇を、売上増と人員減(自然減・採用抑制・残業削減)のどちらで回収するかを割合で書き、売上増の分は営業計画の数量と照合する
  3. 計画の生産性効果が3年で1.70%前後を大きく上回るなら、支出規模・対象業務・補完投資(データ整備・研修)のどれで上位の企業に近いのかを一文で説明させる
  4. AI関連支出は利用料だけでなく研修・IT支援・データ整備を含めて積み上げ、同業比較は平均ではなく中央値で行う
  5. 効果の測定方法を承認時に決める。社内アンケートを使うなら、回答者の役職、集計のウェイト、回答区分と数値の対応を固定し、半年ごとに同じ設問で追う
  6. 「浮いた時間」の行き先を記録する。新しい業務に振り向けたのか、残業が減ったのか、採用を見送ったのかを区別しなければ、損益への変換は確かめられない
  7. 3年後の事後評価では、見込みと実績の差を、部門の普段の予想誤差と比べる。AIの見込みだけが外れているのか、もともと楽観的なのかを分けて読む

よく​ある​質問

研究の​「今後3年で1.7%」は、​自社の​計画に​そのまま​使える​目安ですか。

使えません。​7か国の​経営者の​回答の​平均で、​日本は​含まれず、​半数以上の​企業は​影響なしと​答えています。​自社の​数字を​置く​ときに、​それを​大きく​超えるなら​根拠を​厚く​説明する、と​いう​比較の​基準と​して​使うのが​妥当です。

​生成​AIで​削減できた​時間を、​人件費の​削減と​して​計上して​よいですか。

人数や​残業時間が​実際に​減る​場合に​限られます。​デンマークの​研究では​利用者の​大半が​浮いた​時間を​別の​業務に​回しており、​時間の​削減は​自動的には​人件費に​表れません。​時間は​時間と​して​報告し、​金額は​実現した​分だけを​計上する​方が、​後の​検証に​耐えます。

まとめ

7か国の経営者約9,000人の調査では、AIはすでに多くの企業で使われているが、雇用と1人当たり売上への効果は過去3年でほぼゼロか小さく、今後3年の見込みは実績の数倍に膨らんでいた。支出は少数の企業に集中し、効果の数字は回答者や集計の方法で動く。計画にAIの効果を置くときは、生産性の目標値ではなく、売上増と人員減のどちらで回収するかという経路と、それを測る方法を先に決めるのがよい。研究は未査読で日本を含まないため、日本の状況は政府統計などの一次資料で別に確かめる必要がある。

脚注

  1. R1(NBER WP 改訂版, 2026年10月)p.22(4.5節)で生産性を売上数量÷従業員数と定義。AI関連支出の範囲(ソフトウェア、利用料、ハードウェア、従業員研修、IT支援)は p.17〜18(4.2節)。本記事のページは PDF の物理ページ番号(以下同じ)。↩
  2. R1 p.24〜25(4.5節)・表3(p.49)。英国の調査値(1人当たり売上と雇用への影響)と国民経済計算、1人年313ポンド(過去3年)・537ポンド(今後3年)のAI支出を組み合わせ、支出を主に中間投入として扱った試算。全要素生産性(TFP)への寄与は過去0.13%ポイント、今後0.68%ポイント(年率)。↩
  3. R1 p.15(4.1節)・図4A(p.33)・図4B(p.34)。米・英・独・メキシコは雇用ウェイト、カナダ・豪州・南アフリカは均等ウェイト、全体は各調査の回答数で加重。2026年初の利用率は69%(p.4)。↩
  4. R1 p.18〜19(4.2節)・表2(p.48)・図6(p.36)。2026年分は通年の支出見込みを尋ねた回答(2025年分は実績)で、集中度も2026年の見込みに基づく。米国は2026年3月の845社、英国は2026年8〜9月の1,273社の回答(雇用ウェイト)。英国は2026年平均725ドル・中央値136ドル(論文が1ポンド=1.35ドルで換算)、上位10%が支出の69%、支出の半分を企業の1.3%が占める。平均÷中央値は大手町プレップの計算。↩
  5. R1 p.18(4.2節)・表1の列3〜4(p.47)。英国の企業について、業種・時点の固定効果をそろえた回帰。↩
  6. R1 p.21〜22(4.4節)・図8A・8B(p.39〜40)・図9A・9B(p.41〜42)・表4(p.50)。ドイツは2026年1月、他の6か国は2026年5〜7月のデータ。AI利用の設問の回答は計8,879社(図4A、p.33)で、雇用・生産性の設問の回答数は設問ごとに異なる(図8〜11)。↩
  7. R1 p.21(4.4節)。著者らは、調査が AI による生産性向上の経済全体への波及、まだ生まれていない企業の雇用、標本で手薄な若い企業の雇用を捉えていないことを理由に挙げる(著者らの解釈)。↩
  8. R1 p.23(4.5節)・図10A・10B(p.43〜44)・図11A・11B(p.45〜46)・表4(p.50)。要旨(p.2)は過去3年の効果を年率0.2%、今後3年を年率0.6%と表現。今後3年の分布は影響なし53%、5%未満の増加27%、5%超の増加16%。見込み÷実績の倍率と年率換算は大手町プレップの計算。↩
  9. R1 p.25(4.5節)・図A24(p.78)。英国の企業別データで、業種・時点の固定効果を除いた後の関係(相関)。↩
  10. R1 p.23〜24(4.5節)・図A20・A21。なお初版(2026年2月、米英独豪の4か国)の要旨(初版 p.2)では、今後3年の見込みを生産性+1.4%、産出+0.8%、雇用−0.7%としていた。標本の国が違うため、現行版の数値と直接の比較はできない。↩
  11. R1 p.20(4.4節)・p.22〜23(4.5節)。過去3年の実績は累計、今後3年は3年間の平均的な影響として尋ねている(図8A・9Aの注)。↩
  12. R1 p.26(5節)。結論で、今後も調べる対象を AI の「(perceived) effects」と表現している。↩
  13. R1 p.6(1節)・p.8〜10(2節)。米国の調査(アトランタ連銀)では職員が回答者の身元を確認し、回答者に金銭等の謝礼はない。報酬付きの調査でのなりすましについては Chandler and Paolacci(2017)を引いている(p.10)。↩
  14. R1 p.14(3節)・図2・図3(p.31〜32)、p.22 脚注23・図A18、p.24 脚注25・図A23。↩
  15. R1 p.16〜17(4.1節)・図A7(p.58)・表A2(p.80)。CEO・CFO の回答の差は、規模・生産性・業種などをそろえても4〜7%ポイント残った。↩
  16. R1 p.15 脚注13。初版では設問を飛ばした企業を非利用者として扱っていた。↩
  17. R1 付録C(p.84〜86)。韓国銀行が2026年6月に従業員50人以上の749社に同じ設問で行った調査。雇用の見込みは−1.8%、利用率89%。↩
  18. R1 表紙(p.1)に未査読と明記。回答企業の規模構成は表A1(p.79。メキシコの調査は従業員100人を超える事業所が対象〔p.13〕で、表A1の区分では100〜249人と250人以上のみ)、労働者グループ別の影響を測れない点は p.25。↩
  19. R2(BIS WP, 2026年1月)要旨(p.3)・序論(p.4〜5)・5節(p.19〜21)。EIBIS(欧州投資銀行の企業調査)と ORBIS の財務データを接続した2019〜2024年のプールされた横断面。効果を推計した対象は EU 企業で、米国企業は操作変数(同じ業種・規模の米国企業の導入率)の作成に使う。労働生産性は売上高÷従業員数の対数。AI の導入は「ビッグデータ分析と AI の利用」で定義(p.5)。効果は中堅・大企業に集中するとしている。↩
  20. R2 p.25・表6。単位の取り方には留保があり、本文では方向(補完投資が多いほど効果が大きい)だけを使った。↩
  21. R3(NBER WP 改訂版, 2026年3月)要旨(p.2)・序論(p.3〜5)。会計士・カスタマーサポート・金融アドバイザーなど11職種、2024年末の調査で約25,000人・7,000職場をデンマークの行政記録と接続し、差の差の分析で推計。↩
  22. R3 p.4(序論)。職場が利用を推奨し、社内向けのツールと研修をそろえた場合、利用経験は93%に達する。↩
  23. R4(総務省「令和8年版 情報通信白書」第Ⅰ部第2章第1節)1(3)・図表Ⅰ-2-1-6・Ⅰ-2-1-7(活用方針の設問で「わからない」とした回答を除く割合)。調査の方法・対象・回答数は R5(同 付注)。↩
  24. R4 1(1)・図表Ⅰ-2-1-1(方針)、1(2)・図表Ⅰ-2-1-3(組織的な取組)。大企業では74.0%、中小企業では58.1%が活用方針を持つ。↩
  25. R4 1(5)・図表Ⅰ-2-1-10。白書は、日本では生成AIが業務効率化の文脈で捉えられている一方、他の3か国では製品・サービスの質の向上や生産性向上の文脈で捉えられている可能性があると述べている。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。