JAPAN PE MARKET DATA
カーブアウト:大企業の事業切り出しとPEの受け皿機能
大企業が「選択と集中」で切り出す事業の受け皿として、PEファンドは日本のM&A市場で不可欠な存在になりました。共通データベースに収録されたカーブアウト投資201件を年次・ファンド別・業種別に集計し、切り出された事業がその後どこへ行くのか──Seller→PE→Exitの流れまで追跡します。
カーブアウト投資の推移
件数では2021年(18件)がピークで、コロナ禍を挟んだ事業ポートフォリオ見直しの時期と重なります。その後の件数は年7〜13件で推移していますが、これは公表ベースの「件数」であり、案件の規模は反映していません。実際には近年、数千億円規模の大型カーブアウトが継続的に公表されており、件数の落ち着きと市場の重要性の低下は別の話です。
買い手ファンドランキング
| ファンド | カーブアウト件数 | 主な対象業種 | 投資先(例) |
|---|---|---|---|
| アドバンテッジパートナーズ | 27件 | 製造業・IT・ソフトウェア | リズム・オートモーティブ・グループ株式会社、古河電池株式会社 |
| 日本産業パートナーズ株式会社 | 20件 | 製造業・IT・ソフトウェア | 株式会社東芝、株式会社プロテリアル(旧 日立金属) |
| MCPキャピタル株式会社 | 17件 | 製造業・B2Bサービス | ジャパンホームシールド、イグアス |
| ポラリス・キャピタル・グループ株式会社 | 16件 | 製造業・消費財・小売 | Bフードサイエンス株式会社、オスフェリオンバイオマテリアル株式会社(FH Ortho SAS) |
| 日本みらいキャピタル株式会社 | 14件 | 製造業・IT・ソフトウェア | ステアリテール株式会社、株式会社ニッパ |
| アスパラントグループ株式会社 | 10件 | 製造業・B2Bサービス | 大和紡績株式会社、興人フィルム&ケミカルズ株式会社 |
| ユニゾン・キャピタル株式会社 | 10件 | 製造業・ヘルスケア | クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン、共和薬品工業 |
| 丸の内キャピタル株式会社 | 10件 | 消費財・小売・製造業 | ジェイフィルム株式会社、スマートキャンプ株式会社 |
| ティーキャピタルパートナーズ株式会社 | 8件 | 消費者サービス・ヘルスケア | RAMXEED株式会社、日本マイクロバイオファーマ株式会社 |
| ベインキャピタル | 6件 | ヘルスケア・製造業 | 株式会社ヨークホールディングス、田辺ファーマ |
| ロングリーチグループ | 6件 | ヘルスケア・B2Bサービス | ウェルネス・コミュニケーションズ株式会社、ニッポン・アウトソーシング(Nippon Outsourcing Corporation) |
| 株式会社KKRジャパン(KKR) | 6件 | 製造業・物流・運輸 | サッポロ不動産開発、ロジスティード(旧・日立物流) |
アドバンテッジパートナーズが件数最多で、テクノロジー系カーブアウトに特化した日本産業パートナーズ(JIP)、三菱商事系のMCPキャピタル(旧・丸の内キャピタル)、大型案件を手掛けるポラリス・キャピタル・グループが続きます。カーブアウトは、対象事業の財務諸表を親会社から切り分けるスタンドアロン論点や、親会社との取引関係の再設計など実務難度が高く、経験の蓄積がそのまま参入障壁になる領域です。
対象業種:製造業が中心
カーブアウトの対象は製造業が圧倒的です。大手電機・素材・化学メーカーが祖業から離れた事業や規模の出ない事業を切り出すケースが典型で、IT・ソフトウェア(社内システム部門・事業のスピンオフ)、消費財(ブランド事業の切り出し)が続きます。
Seller→PE→Exit:切り出された事業の行き先
Exit済のカーブアウト案件では、事業会社への売却が判明分の最多です。「大企業のノンコア事業」が、PE傘下での独立・再編を経て「別の事業会社のコア事業」として引き継がれる流れであり、カーブアウトはPEが産業再編の中継地点として機能していることを最もよく示す投資型です。次いで他ファンドへの売却(Sponsor-to-Sponsor)があり、事業規模が大きくなった案件では次のサイズのファンドが引き継ぎます。
| 投資先(切り出された事業) | ファンド | 投資 | Exit | 売却先 |
|---|---|---|---|---|
| 株式会社保険見直し本舗グループ | アドバンテッジパートナーズ | 2022-09 | 2025-09 | コールバーグ・クラビス・ロバーツ・アンド・カンパニーがサー… |
| センクシア株式会社 | ローン・スター・ファンド | 2022-04 | 2026-02 | ノーリツ鋼機株式会社(Noritsu Koki Co., Ltd.、東証7744) |
Exit・売却先が公表されている直近の案件から掲載。
2026年の大型カーブアウト連鎖
2026年は「カーブアウト後のS2S」という二段階の大型案件が相次ぎました。資生堂のパーソナルケア事業を前身とするファイントゥデイはCVCキャピタル・パートナーズからベインキャピタルへ、旧昭和電工・旧三菱マテリアル系のアルミ事業はアポロ・グローバル・マネジメントからMBKパートナーズへの売却が公表されています。切り出し(1巡目)→統合・再編(PE傘下)→次のオーナー(2巡目)という流れが大型案件でも機能しており、詳細はSponsor-to-Sponsorの分析で扱います。
なぜカーブアウトは続くのか(編集部分析)
以下はデータに基づく編集部の分析・示唆です。
東証の資本コスト・株価を意識した経営の要請、アクティビスト株主による事業ポートフォリオ見直し圧力(アクティビストファンドDB参照)、そしてPE側の潤沢な投資余力という3つの力が同じ方向を向いており、大企業の事業切り出しは今後も継続するとみられます。カーブアウトは案件ごとの規模が大きく、日本のPE市場の「金額」を左右するのはこの領域です。件数で市場を見る際は、承継(多数・小型)とカーブアウト(少数・大型)の性質の違いを意識する必要があります。
よくある質問(FAQ)
Q. カーブアウトとは何ですか?
企業が子会社や事業部門を切り出して売却することです。PEファンドはその受け皿として事業を買い取り、独立企業として自立させた後、事業会社への売却・他ファンドへの売却・IPOなどでExitします。当サイトのデータでは201件のカーブアウト投資を収録しています。
Q. カーブアウト投資が多いPEファンドはどこですか?
収録データではアドバンテッジパートナーズ(27件)が最多で、日本産業パートナーズ、MCPキャピタル、ポラリス・キャピタル・グループが続きます。大型カーブアウトは外資系ファンドが手掛けるケースも多くあります。
Q. カーブアウトされた事業はその後どうなりますか?
Exitまで判明する131件では事業会社への売却が最多で、他のPEファンドへの売却(Sponsor-to-Sponsor)、IPOと続きます。PE傘下で管理体制を整え、独立企業として再編された後に次のオーナーへ引き継がれる流れが定着しています。
集計方法・データ定義
- 対象ファンド
- 大手町プレップPEファンドDB(収録492社)のうち、日本企業への投資案件を1件以上収録している127ファンド。国内独立系・銀行系・政府系に加え、日本で投資実績のある外資系ファンドを含みます。
- 対象案件
- 投資先企業の所在国が日本の案件、および国内ファンドで所在国の記載がない案件(国内ファンドの公式サイトは国内投資先のみを掲載しているため日本案件として扱う)。合計2,419レコード。複数ファンドによる共同投資(クラブディール)は市場全体の件数では1案件として数え、ファンド別の集計では各ファンドの投資実績として数えます(ユニーク案件数2,370件)。
- データソース
- 各ファンドの公式サイト(投資先一覧・案件ページ・ニュースリリース)を一次情報として収集。投資時期・Exit時期・売却先は公式に公表されている情報のみを収録し、公表がないものは「非開示」「公表情報なし」として集計から明示的に区別しています。
- Investment Date / Exit Date
- 公式発表の投資実行(または公表)年月・Exit年月。月まで確認できない案件は年のみを保持し、保有期間の計算からは除外します。日付が不明な案件に推定日を割り当てることはしません。
- 業種分類
- 投資先の公表事業内容から大手町プレップが独自に16の大分類(製造業/IT・ソフトウェア/ヘルスケア/消費財・小売/外食・食品サービス/B2Bサービス/人材/消費者サービス/金融/不動産・建設/物流・運輸/教育/メディア・エンタメ/エネルギー・環境/ホテル・レジャー/その他)へ正規化。全記事で同一の分類を使用します。分類根拠が公表されていない案件は「未分類」とし、業種別集計から除外します。
- 投資型(Deal Type)
- 各ファンドの公表資料の記載に基づき、事業承継/カーブアウト/非公開化/セカンダリー(PE間取得)/事業再生/MBO/バイアウト(その他)/成長・マイノリティ投資/ベンチャー投資へ正規化。公表情報から判別できない案件は「公表情報なし」(530件)として扱い、推測で割り当てません。
- Exit分類
- 「事業会社への売却(Strategic Sale)」は公表された売却先が事業会社である案件。「Sponsor-to-Sponsor」は売却先が他のPEファンド(当サイトDB収録ファンドとの照合、および次オーナーの投資記録との突合で判定)。売却先が公表されていないExitは「売却先非開示」として比率計算の分母から除きます。
- 保有期間(Holding Period)
- 投資年月からExit年月までの月数を年換算(完全Exit案件のうち両方の年月が判明する705件のみ)。一部売却・継続保有中の案件は含みません。
- カーブアウトの判定
- 公表資料に「カーブアウト」「スピンオフ」「子会社の独立」「ノンコア事業の譲受」等の記載がある案件。売り手(Seller)は公表資料に記載がある場合のみ表示し、推測では記載しません。
本記事の集計・分類は公開情報を基に大手町プレップが独自に行ったものです。各社の公表方針の違いにより、実際の投資件数・Exit件数は収録件数より多い可能性があります。数値は「当サイトが一次情報で確認できた範囲」の集計であり、市場全体の統計(推計値)ではありません。誤りのご指摘はお問い合わせまでお寄せください。
カーブアウトの実務論点を学ぶ
カーブアウト案件では、親会社に依存してきた機能をどう切り分けるか(スタンドアロンコスト)、対象事業の財務諸表をどう作るかが価格を左右します。カーブアウトM&A入門で論点を整理し、M&Aモデルの作り方とあわせて学ぶと実務の解像度が上がります。
出典: 各PEファンド公式サイト・プレスリリース(2026年9月8日時点)。
データで市場を知る、から、モデルで案件を評価するへ。
日本PE市場のデータの次は、LBO・バリュエーション・財務モデリングを日本語で手を動かして学ぶ。実務Excel教材をそろえています。