この記事で分かること

  • 四半期開示データからLTM(直近12か月)を積み上げる2つの計算式と、両者が一致することの検算方法
  • NTM(向こう12か月)を会社計画・コンセンサス予想からどう作るか
  • 決算期がずれた会社の数値を暦年(CY)ベースに揃えるCalendarizationの計算式と整数設例
  • Excelでこれらの期間集計を動的に作る型(EOMONTH・SUMIFS・INDEX/MATCHの組み方)

結論:LTM・NTM・Calendarizationは「期間を揃える技術」

LTMは直近4四半期を積み上げた回顧的な12か月実績、NTMは向こう12か月の予想値、Calendarizationは決算期の異なる会社の数値を同じ暦年ベースに揃える処理です。3つとも目的は共通していて、決算期や開示タイミングが会社ごとに異なる中で、フェアな条件で数値を比較できる状態を作ることにあります。

用語そのものの定義は用語集のLTM・NTMとは?直近12か月の計算式とマルチプルでの使い分けにまとめてあるため、本記事では立ち入りません。ここで扱うのは実装、つまり「四半期の開示データから実際にLTMをどう組み立てるか」「NTMを予想値からどう作るか」「決算期の違う会社をどう暦年換算するか」という計算式とExcelでの型です。

なお、決算期の異なる会社をComps(類似会社比較法)の文脈でどう並べて比較するかという「比較の作法」は、姉妹記事の決算期が異なる会社をCompsで比較する方法で扱っています。本記事はその手前にある計算そのものに焦点を当てます。

LTM・NTM・Calendarizationが必要になる場面

財務モデルやバリュエーションでは、直近の通期決算(本決算)だけでなく、四半期開示を使って「今この瞬間に一番近い実態」を再構成する場面が頻繁にあります。代表的なのが次の3つです。

  • LTM(Last Twelve Months):決算期末を待たずに、直近で開示されている四半期までを使って過去12か月の実績を作る
  • NTM(Next Twelve Months):同様に、向こう12か月の予想値を会社計画やアナリストコンセンサスから作る
  • Calendarization:決算期が3月・9月・12月などバラバラな会社の数値を、同じ暦年(1月〜12月など)ベースに揃える

いずれも、モデルの中では「基準日(As of Date)」を1つ決めて、そこから期間を動的に切り出す処理として実装します。この基準日ドリブンの期間設計自体は、財務モデルの設計図(モデリングプラン)で扱う「モデルの背骨」の考え方と、用語集のタイムライン・フラグ行の応用にあたります。四半期・月次の粒度でモデルを組む前提知識は四半期・月次モデルへの展開も参照してください。

LTMの計算式:直近4四半期の積み上げ

LTMの計算式は2通りの組み方があり、開示データの形式によって使い分けます。どちらも同じ答えに一致します。

方法1(累計の差し引きで作る):直近の本決算(通期実績)に、当期の累計実績を足し、前年同期の累計実績を引きます。

LTM = 直近通期(FY)実績 + 当期累計(YTD)実績 - 前年同期累計(YTD)実績

方法2(単体四半期の積み上げ):単体(Q単独)四半期の数値が取れるなら、直近4四半期をそのまま合計するだけです。

以下は説明用の仮設例です(単位:百万円)。12月決算の会社で、2026年8月時点(基準日)で直近開示は2026年第2四半期(4〜6月)とします。

四半期売上高EBITDALTMへの算入
2025年Q1(1〜3月)2,600380対象外(前年同期)
2025年Q2(4〜6月)2,900440対象外(前年同期)
2025年Q3(7〜9月)3,000450対象
2025年Q4(10〜12月)3,500580対象
2026年Q1(1〜3月)2,900430対象
2026年Q2(4〜6月)3,300510対象(直近開示分)
LTM合計(2025年7月〜2026年6月)12,7001,970直近4四半期の合計

方法1で検算すると、FY2025通期実績(売上高12,000/EBITDA1,850)+2026年1〜6月累計(6,200/940)-2025年1〜6月累計(5,500/820)=12,700/1,970となり、方法2の四半期積み上げと完全に一致します。実務では、どちらか一方だけで計算して終えるのではなく、この検算を行ってモデルの期間参照がずれていないかを確認する習慣が重要です。

図1:LTM=直近12か月の組み立て方(仮設例) 2025年1月 2025年7月 2026年1月 2026年6月末 FY2025実績(2025年1〜12月) 売上高12,000/EBITDA 1,850 - 2025年1〜6月累計(前年同期) -5,500/-820 + 2026年1〜6月累計(当期) +6,200/+940 = LTM(2025年7月〜2026年6月・直近12か月) 売上高12,700/EBITDA 1,970 LTM=FY2025実績-2025年1-6月累計+2026年1-6月累計(仮設例)
図:本決算実績に当期累計を加え前年同期累計を引くことで、決算期をまたいだ直近12か月を再構成する。

四半期データが取れない場合の推計

日本の上場企業は、決算短信・四半期決算短信で対象期間の累計(YTD)ベースの数値を開示するのが基本です。単体の第2四半期(4〜6月のみ)の実績が独立した行として出ているとは限らず、多くの場合は「第2四半期累計(4月〜9月など、会計期首からの累計)」の形で開示されます(日本取引所グループ「決算短信作成要領・四半期決算短信作成要領」)。なお2024年4月1日以降、金融商品取引法上の四半期報告書制度は廃止され、上場会社の四半期開示は取引所規則に基づく四半期決算短信に一本化されています(日本取引所グループ「四半期開示の見直し」)。

そのため、単体四半期(方法2で使う数値)が必要な場合は、当期累計から前四半期までの累計を差し引いて逆算する一手間が必要になります(例:Q2単体=(Q1〜Q2累計)-Q1単体)。この逆算をせず開示されている累計値をそのまま4倍・2倍するようなショートカットは、季節性のある事業では大きく実態からずれるため避けてください。

非上場企業や四半期開示のない会社では、月次の管理会計データ(試算表)があれば同じ考え方で直近12か月分を積み上げられます。月次データすら直近1か月分しかない場合は、その月の実績を12倍するランレート換算で暫定的に年間水準を推計する方法もありますが、季節性の影響を強く受ける粗い近似です。詳細は用語集のランレート換算(年率換算)とは?計算式と落とし穴を参照してください。

NTMの作り方:予想値からどう12か月を組むか

NTM(向こう12か月)を作る方法も、データの粒度によって2通りあります。

四半期・月次単位の予想が取れる場合:会社計画やアナリストコンセンサスが四半期単位で分解されているなら、基準日の翌四半期から4四半期分をそのまま合計します。LTMの方法2(単体四半期の積み上げ)の未来版です。

通期予想しか取れない場合:今期予想と来期予想を、基準日から見た残存月数で按分(加重平均)します。

NTM =(残存月数/12)×今期予想通期 +(12-残存月数)/12×来期予想通期

以下は説明用の仮設例です(単位:百万円)。12月決算の会社で、基準日を2026年8月とすると、今期(2026年)の残りは9〜12月の4か月、来期(2027年)は1〜8月の8か月がNTM期間に含まれます。今期予想EBITDA2,050、来期予想EBITDA2,300とすると、NTM EBITDA=(4/12)×2,050+(8/12)×2,300=約683+約1,533=約2,217となります。

この按分は「1年を通じて均等に稼ぐ」という単純化を置いた近似であり、繁忙期・閑散期のある事業では実態とずれます。季節性が強い業種では、通期の按分ではなく、四半期単位の予想(自社の月次予算や、取得できるならアナリストの四半期別コンセンサス)を積み上げる方が精度が上がります。季節性をモデルにどう織り込むかは用語集の季節性のモデル化とは?季節指数の作り方と月次配分を参照してください。

Calendarization:決算期を暦年(CY)ベースに揃える

決算期が3月・6月・9月・12月などバラバラな会社を横並びで比較するとき、決算期の違いそのものが数値の見た目を歪めます。Calendarizationは、決算期の異なる会社の実績・予想を、共通の暦年(例:1月〜12月)ベースに月割りで組み替える処理です。用語の背景は用語集の決算期とカレンダー年度の変換とは?月割り補正の方法にまとめています。

CY実績 =(暦年に含まれる旧決算期の月数/12)×旧FY実績 +(暦年に含まれる新決算期の月数/12)×新FY実績

以下は説明用の仮設例です(単位:百万円)。3月決算の会社を、暦年2025年(2025年1月〜12月)ベースに換算します。FY2025(2024年4月〜2025年3月)実績EBITDAは1,000、FY2026(2025年4月〜2026年3月)予想EBITDAは1,200とします。暦年2025年のうち、1〜3月の3か月分はFY2025に、4〜12月の9か月分はFY2026に属します。

CY2025 EBITDA=(3/12)×1,000+(9/12)×1,200=250+900=1,150

図2:Calendarization(決算期の暦年換算)の期間分解(仮設例) 2024年4月 2025年1月 2025年4月 2026年1月 2026年3月末 FY2025実績(2024年4月〜2025年3月)EBITDA 1,000 CY2025算入(3/12) FY2026予想(2025年4月〜2026年3月)EBITDA 1,200 CY2025算入(9/12) = CY2025(2025年1月〜12月・暦年換算) EBITDA 1,150 = (3/12)×1,000 + (9/12)×1,200 3月決算企業をCY化する仮設例。実際の月次実績が取れる場合はそちらを優先する。
図:決算期をまたぐ2期分の実績・予想を月数で按分し、共通の暦年ベースに組み替える。

この按分は月次の実績が取れない場合の近似です。月次試算表やセグメント別の月次データが入手できるなら、按分ではなく実際の月次実績を積み上げた方が正確です。特に小売・観光・建設のように季節性が強い業種では、月割りの単純按分は繁忙期・閑散期の偏りを均してしまい、実態と乖離しやすい点に注意してください。

スタブ期間の扱い

決算期そのものを変更した会社(例:3月決算から12月決算へ変更)では、変更年度に12か月に満たない変則決算期間、いわゆるスタブ期間(例:2025年4月〜12月の9か月決算)が発生します。スタブ期間の実績をそのまま12/9倍して単純に年換算するのは避けてください。事業には繁忙期・閑散期があるため、9か月分の実績配分は残り3か月と均一ではないのが通常です。

スタブ期間を含む期間でLTMやCalendarizationを組む場合は、(1)可能な限り月次の実績データを使って必要な月だけを積み上げる、(2)月次データがなければスタブ期間の単純年換算であることを前提・注記として明示した上で使う、のいずれかを選びます。IC資料やレポートでは、スタブ期間を跨いだ数値であることと、その補正方法を必ず注記してください。

BS項目とフロー項目の違い

LTM・NTM・Calendarizationはいずれも「期間」を組み替える処理ですが、対象科目がフロー(PL・CF)かストック(BS)かで扱いがまったく異なります。この区別を誤ると、現金や有利子負債を4四半期分合算するような誤りが起こります。

区分代表科目LTM・CY算定時の扱い
フロー(PL)売上高・売上総利益・EBITDA・営業利益直近4四半期を合算、または通期実績+当期累計-前年同期累計
フロー(CF)営業キャッシュフロー・設備投資額PLと同様、期間を合算する
ストック(BS)現金及び現金同等物・有利子負債・運転資本直近四半期末(基準日時点)の残高をそのまま採用。合算しない

ネットデット(純有利子負債)のように、企業価値からエクイティ価値を導く際に使う項目は必ずストック側です。LTM EBITDAはフロー、ネットデットはストックという組み合わせでEV/EBITDA倍率やレバレッジ倍率を計算する場面が多いため、この区別はマルチプル分析やマルチプルの株価基準を扱う際にも直結します。

Excelでの実装:EOMONTH・SUMIFSの型

LTM・NTM・Calendarizationをモデルの中で毎期作り直すのではなく、基準日を1か所のセルに置き、そこから全ての期間参照が自動追随する設計にしておくと、翌四半期以降の更新が驚くほど楽になります。モデリングプランの段階でこの期間設計を決めておくのが実務上のコツです。

目的Excel関数の型(イメージ)ポイント
基準日から12か月前の月末日を求める=EOMONTH($B$2,-12)基準日セルを1か所に集約し、そこから全期間を逆算する
四半期のフロー実績をLTM期間で合算する=SUMIFS(Data!$C:$C,Data!$A:$A,”>”&EOMONTH($B$2,-12),Data!$A:$A,”<=”&$B$2)日付範囲の条件で対象四半期だけを自動判定し合算する
基準日時点のBS残高を1点で取得する=INDEX(Data!$D:$D,MATCH($B$2,Data!$A:$A,0))合算せず、基準日に一致する行の値をそのまま参照する
Calendarizationの按分比率を計算する固定按分(3/12, 9/12)を前提セル化、またはDATEDIFで月数を機械的に算出決算期のズレ月数から比率を出し、年ごとに手入力しない

ここで重要なのは、SUMIFSの日付条件を「基準日から12か月前」というセル参照ベースで書くことです。四半期が1つ進むたびに数式を書き換えるのではなく、基準日セルを更新するだけでLTM期間全体がスライドする設計にしておけば、四半期決算のたびに手作業でセル範囲を選び直すミスを防げます。

この積み上げを自分の手で組めるようになるには

LTM・NTM・Calendarizationの計算式自体は難しくありませんが、実際のComps(類似会社比較)モデルの中でこれを複数社分・毎四半期崩れずに動かすには、基準日設計・SUMIFSの範囲設定・スタブ期間の注記まで含めた一貫した設計が必要です。Compsモデリング講座では、四半期データからLTM/NTMを組み、決算期の異なる複数社を1つの比較表に落とし込むまでの実装を扱います。

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LTM EBITDAをマルチプルに使う際の注意点

LTM EBITDAはEV/EBITDA倍率の分母として最もよく使われる指標ですが、機械的に積み上げただけの数値をそのままマルチプルに使うと、比較を歪める要因が残ったままになります。マルチプルの選び方とあわせて、次の点を確認してください。

  • 一過性項目の混入:LTM期間のいずれかの四半期に、訴訟和解金・減損・資産売却益・リストラ費用などの一過性項目が含まれていると、実力とかけ離れたLTM EBITDAになります。四半期ごとに一過性項目を洗い出し、正常化(Normalization)した上で合算するのが基本です。
  • 季節性による歪み:繁忙期を含む四半期が直近に加わったばかりのタイミングでLTMを計算すると、一時的に高め(または低め)のLTMになります。同業他社との比較では、基準日(=直近開示のタイミング)が近いかどうかも確認してください。
  • 開示タイミングのズレ:決算期の異なる会社同士では、同じ「LTM」でもカバーする実際の暦月がずれます。決算期が大きく異なる会社を横並びで比較する場合は、LTMだけでなくCalendarizationによる決算期調整も検討してください。

NTMマルチプルについても同様で、会社計画ベースのNTMとアナリストコンセンサスベースのNTMでは前提が異なるため、比較対象間でどちらの前提を使っているかを揃えることが、マルチプル比較の前提条件になります。

よくある質問(FAQ)

Q. LTMとTTMは同じ意味ですか。
A. 同じ概念です。LTM(Last Twelve Months)とTTM(Trailing Twelve Months)はほぼ同義で使われ、米国の実務ではTTM表記も多く見られます。

Q. 非上場企業でもLTMは作れますか。
A. 月次または四半期の管理会計データ(試算表)があれば同じ考え方で作れます。データが直近1か月分しかない場合は、ランレート換算による粗い推計にとどまります。

Q. NTMの予想値はどこから取得しますか。
A. 上場企業であればアナリストコンセンサス(Bloomberg・Capital IQ等の情報端末)や会社発表の業績予想、非上場企業であれば自社の事業計画・予算がベースになります。

Q. Calendarizationは必ず必要ですか。
A. 決算期が同じ、または1〜2か月しかずれていない会社同士を比較する場合は省略されることもあります。決算期のズレが大きい、または季節性の強い業種を比較する場合は行うべきです。

まとめ

LTMは直近4四半期の積み上げ、NTMは向こう12か月の予想の組み立て、Calendarizationは決算期を暦年ベースに揃える処理です。いずれも計算式自体は単純ですが、(1)フロー科目とストック科目で扱いを変える、(2)一過性項目・季節性を正常化する、(3)基準日セルを起点にExcelの期間参照を動的に設計する、という3点を押さえていないと、モデルが四半期ごとに崩れたり、比較対象を歪めたりします。決算期の異なる会社をComps(比較対象)としてどう並べるかという応用は、姉妹記事で扱っています。

四半期データからCompsを組む実装まで身につける

LTM/NTMの計算式とCalendarizationの考え方が分かったら、次はそれを複数社の比較表として崩れずに運用する設計力です。Compsモデリング講座では、決算期の異なる複数社のLTM/NTMを揃え、EV/EBITDA倍率レンジまで組み上げる一連の実装を扱います。

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出典・参考(2026年8月16日確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。