この記事で分かること
- LTM(直近12か月実績)とNTM(今後12か月予想)の定義と使い分け
- LTMの計算式(通期実績−前年同期YTD+当期YTD)を整数設例とタイムラインで検算
- NTM(フォワード)数値の作り方と、マルチプル計算での期間整合の考え方
- 四半期開示制度が変わった日本での実務上の注意点
30秒で分かる定義
LTM(Last Twelve Months、読み方:エルティーエム)とは評価基準日からさかのぼった直近12か月の実績値、NTM(Next Twelve Months、エヌティーエム)とは基準日から先の12か月の予想値のことです。LTMはTTM(Trailing Twelve Months)とも呼ばれます。
決算期は会社ごとにずれているため、「最新の通期決算」だけで比較すると会社間で最大1年近い時点差が生じます。LTM・NTMは、どの会社も「基準日から同じ12か月」に揃えるための共通の物差しであり、類似会社比較法(Comps)のマルチプル計算の土台になります。
なぜ実務で重要なのか
- 投資銀行・FAS:CompsのEV/EBITDAやPERは「LTM実績ベース」と「NTM予想ベース」を並記するのが標準です。期間の混在は算定ミスとして扱われます。
- PEファンド:買収価格の交渉は「LTM EBITDAの何倍」で行われることが多く、LTMの正確な組み立て(と正常化調整)はディールの入口です。
- レンダー:レバレッジ倍率(ネットデット/EBITDA)のコベナンツ判定もLTM EBITDAベースが一般的です。
計算式(または仕組み)
通期実績を土台に、「古い月」を引いて「新しい月」を足すイメージです。NTMは逆向きに、当期の残り期間の予想と翌期予想を月数按分して合成します(例:残り3か月+翌期予想の9/12)。
整数設例で確認する
設例(架空数値):3月決算のF社。基準日は2025年12月末(第3四半期決算発表後)とします。
- 2025年3月期(2024年4月〜2025年3月)通期EBITDA実績:10,000百万円
- 前年同期YTD(2024年4月〜12月の9か月):7,500百万円
- 当期YTD(2025年4月〜12月の9か月):9,000百万円
検算:LTMの中身は「2025年1〜3月(=10,000−7,500=2,500)+2025年4〜12月(9,000)=11,500」で、ちょうど2025年1月〜12月の12か月分になっています。
NTMの設例:2026年3月期の会社予想EBITDAが12,000百万円(うち残り3か月分=12,000−9,000=3,000)、2027年3月期の予想が13,000百万円なら、NTM = 3,000 + 13,000×9/12 = 3,000 + 9,750 = 12,750百万円(2026年1月〜12月に対応)です。
PL・BS・CFへの影響
LTMはPL・CF項目(売上高・EBITDA・純利益など「期間の流量」)に対して作る概念です。BS項目(有利子負債・現金など「時点の残高」)は12か月合算せず、基準日直近の残高をそのまま使います。「フローはLTM、ストックは直近残高」という区別がマルチプル計算の基本ルールです。
財務モデル・Excelでの使い方
Compsシートに「通期実績/前年同期YTD/当期YTD/LTM」の4列を作り、LTM列は =通期−前年YTD+当期YTD の参照式で統一します。四半期データを縦に持ち、直近4四半期をSUMする設計でも同じ結果になります(検算として両方式を突き合わせると事故を防げます)。NTMは決算月の違いを月数按分で吸収するカレンダライズ(暦年換算)と一体で設計し、EV/EBITDA倍率の分母にLTM・NTMどちらを使ったかを列名で明示します。DCFで期中の評価基準日を扱う期央主義・スタブ期間とも発想がつながっています。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
- 誤解:「LTM=直近の通期決算」→正しくは基準日直近の12か月。決算発表から時間が経つほど通期決算は古くなります。四半期情報で更新するのがLTMです。
- 誤解:「分子と分母の期間はずれてもよい」→正しくはEV(直近残高)とEBITDA(LTM)のように、時点と期間の対応を揃える。LTM倍率とNTM倍率を混ぜて比較するのは典型的なミスです。
- 確認ポイント:季節性と一過性。季節性の強い事業ではYTDの月数対応(9か月同士か)を必ず確認し、LTMに含まれる一過性損益は正常化調整で除きます(Adjusted EBITDA参照)。
日本実務での扱い(日本基準・IFRS・開示)
日本では金融商品取引法改正により、2024年4月以降、法定の四半期報告書(第1・第3四半期)が廃止され、半期報告書へ一本化されました。ただし取引所ルールに基づく四半期決算短信は継続しているため、LTMの計算は実務上、四半期決算短信の累計値(YTD)を使って行います(2026年7月時点)。短信は監査対象外で、開示粒度が有報より粗い場合がある点には注意が必要です。NTMの元になる予想は、日本では会社予想(業績予想の開示慣行)が広く利用可能で、アナリストコンセンサスと併用されます。M&A実務では、売り手のQoEレポートでLTM EBITDAの正常化が争点になるのが通例です。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:なぜCompsでは通期実績ではなくLTMを使うのですか?
「会社ごとに決算期と発表時期が違うため、最新の通期決算だけでは比較の時点がずれるからです。LTMなら全社を基準日直近の同じ12か月に揃えられます。計算は直近通期から前年同期の累計を引き、当期の累計を足します。例えば通期100億円、前年同期75億円、当期90億円ならLTMは115億円です。」(30秒回答例)
深掘りでは「LTMとNTMのどちらの倍率が低く出やすいか(成長企業ではNTM)」「BS項目にLTMを使わない理由」「カレンダライズの方法」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. LTMとNTMのどちらのマルチプルを重視すべきですか?
A. 目的によります。LTMは実績に基づく客観性、NTMは将来の収益力の反映が強みです。成長局面ではLTM倍率が高く見えるため、成長企業の比較ではNTMベースが好まれます。実務では両方を並記します。
Q. TTMとLTMは違うものですか?
A. 同じ意味です。どちらも直近12か月実績を指し、資料によって呼び方が異なるだけです。
出典・参考(2026-07-20確認)
- 金融庁「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(四半期報告書制度の見直し・2024年施行)(https://www.fsa.go.jp/)
- 日本取引所グループ「決算短信・四半期決算短信作成要領等」(https://www.jpx.co.jp/)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。