この記事で分かること
ROICとは:「事 業に投じた資本」でどれだけ稼いだか
ROIC(投下資本利益率)は、事業に投じられた資本(投下資本)に対して、事業が税引後でどれだけ稼いだか(NOPAT)を測る指標です。
- 分子は利息を引く前・税引後のNOPATで、債権者と株主の両方に帰属する利益です(FCFFと同じ思想)。
- 分母の投下資本は「事業に使っている資本」。余剰現金や事業に無関係な投資有価証券は除いて考えるのが原則です。
- ROEとの違い:ROEは株主資本ベースなので、借入を増やすだけで(事業が何も変わらなくても)上げられます。ROICは資本構成に中立で、事業そのものの稼ぐ力を測ります。
投下資本と純営業資産(NOA)
ROICの分母の投下資本は、貸借対照表の資産側から組み立てると純営業資産(NOA)になります。NOAは営業資産から営業負債を引いた額で、売上債権・棚卸資産・固定資産のように事業で使う資産から、仕入債務のように営業活動に伴って生じる負債を差し引きます。余剰現金や有価証券(金融資産)と、有利子負債(金融負債)は含めません。表1の設例に合わせた貸借対照表では、資産側と調達側のどちらから数えても1,000になります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売上債権 | 300 |
| +棚卸資産 | 200 |
| +固定資産 | 800 |
| =営業資産 | 1,300 |
| −営業負債(仕入債務) | (300) |
| =NOA(資産側) | 1,000 |
| 純資産 | 750 |
| +有利子負債 | 400 |
| −余剰現金 | (150) |
| =NOA(調達側) | 1,000 |
調達側の数え方は、事業が使う資本のうち株主と債権者がいくら出しているかを示します。2方向の金額が一致しないときは、営業と金融の仕分けや集計の範囲に漏れがないかを確かめます。特に、営業に最低限必要な現金を余剰現金に含めたかどうかで分母が変わるため、仕分けの方針は先に決めておきます。
NOAに対する税引後の営業利益の割合は、財務諸表分析の教科書でRNOA(純営業資産利益率)と呼ばれ、ROA(総資産利益率)と区別されます(出典1)。分子がNOPATと同じなら式はROICと同じで、90÷1,000=9.0%です。税引前の営業利益を使う資料では120÷1,000=12.0%になるため、比較するときは分子の税の扱いと、分母が期末残高か期中平均かをそろえます。
営業比率(営業費用比率)は、営業費用(売上原価と販管費)÷売上高で、100%から営業利益率を引いた値と同じです。設例では営業費用が1,500−120=1,380、営業比率は1,380÷1,500=92.0%、営業利益率は8.0%です。営業比率の低下はROICツリーのマージン側の改善に対応しますが、NOAの圧縮による回転率の改善は現れません。ROICを見るときは、営業比率とNOAの回転をあわせて確認します。
出典1:Stephen H. Penman「Chapter 12 The Analysis of Profitability」McGraw-Hill Education 公開資料(RNOAとROAの区別。2026-10-24確認) highered.mheducation.com
価値創造の条件:ROIC>WACC
資本には調達コストがあります(WACC)。設例の会社のWACCが7%なら、スプレッドは9%−7%=+2%。投下資本1,000に対して、年間の経済的利益=スプレッド2%×1,000=20で、資本コストを払ってなお残る「本当の儲け」です。逆にROICがWACCを下回る事業は、会計上黒字でも経済的には価値を壊しています。成長はこのスプレッドが正のときだけ価値を生み、負のスプレッドのまま成長すると、価値破壊が加速する。これがROIC経営の中心命題です。
ROICツリー:分解して初めて使える
ROICは「NOPATマージン×投下資本回転率」に分解できます。設例:売上1,500なら、NOPATマージン6%(90÷1,500)×回転率1.5回(1,500÷1,000)=9%。
- マージン系のレバー:価格改定、製品ミックス、原価・販管費の効率(バリューアップの施策群と同じ体系です)。
- 回転系のレバー:運転資本の圧縮(回転日数)、設備稼働率の向上、遊休資産の売却。
- ツリーを現場の言葉(在庫日数・稼働率・値引率)まで下ろせば、全社のROIC目標が各部門のKPIに変換されます。経営指標が「経理の数字」から「現場が動かせる数字」に変わる瞬間です。
使うときの注意
- のれんを含めるか:買収の巧拙まで測るなら「のれん込み」、事業の素の効率を測るなら「のれん抜き」。両方計算し、目的で使い分けるのが実務です。
- 単年で判断しない:大型投資の直後はROICが構造的に下がります。投資の熟成期間を考慮し、トレンドで評価します。
- 事業別に見る:全社ROICは平均に過ぎません。高ROIC事業と低ROIC事業の資本配分こそが論点で、SOTP(分解評価)やアクティビストの議論(4類型)に直結します。
Q. 面接で
A. 「分母と分子の帰属が違います。ROEは株主資本に対する純利益でレバレッジの影響を受ける。ROICは投下資本に対する税引後営業利益で資本構成に中立、事業の稼ぐ力そのものを測ります。だから価値創造の判定はROICとWACCの比較で行います」。
Q. ROICが高ければ高いほど良い会社ですか?
A. 水準だけでは判断できません。超高ROICは「投資すべき成長機会に投資していない」サインのこともあります。価値は「スプレッド×投下資本の成長」の積で決まるため、高ROICを維持したまま資本を積み増せる会社が最も価値を作ります。
まとめ
- ROIC=NOPAT÷投下資本(設例9%)。資本構成に中立な「事業の稼ぐ力」。
- 価値創造の条件はROIC>WACC。スプレッド×投下資本=経済的利益(設例+2%×1,000=20)。
- マージン×回転のツリーで現場KPIへ分解して初めて経営の道具になる。
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本記事について
本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。