この記事で分かること
- 金融商品取引法の「有価証券」(第1項有価証券・みなし有価証券)の範囲
- 会計上の有価証券の範囲が金商法の定義と一致しない例(国内CD・信託受益権など)
- 保有目的による4区分と評価方法・評価差額の行き先を設例で確認
- 有価証券報告書で有価証券の情報を確認する場所
30秒で分かる定義
有価証券(ゆうかしょうけん、Securities)とは、株式・社債・国債・投資信託の受益証券など、財産的な権利を表す証券や、それと同様に扱われる権利の総称です。金融商品取引法は第2条第1項で有価証券を限定列挙し、第2項で信託の受益権や合同会社の社員権、組合型ファンドの持分などを証券が発行されていなくても有価証券とみなしています[1]。会計上の有価証券の範囲は金商法の定義を基礎にしつつ一致はせず、保有目的によって評価方法が変わります[2]。保有目的区分ごとの処理の詳細は有価証券の保有目的区分で扱い、本ページは範囲の違いを中心に総論として整理します。
なぜ実務で重要なのか
「有価証券に当たるか」は、法規制と会計の両方で結論を左右します。市場部門・VCは、トークンやファンド持分が金商法上の有価証券に当たると、開示規制や業規制がかかるため、商品設計の段階で確認します。IB・FASはEVブリッジで投資有価証券(政策保有株式など)を非事業資産として加算するかを判断し、融資担当・アナリストは銀行・保険会社の満期保有目的の債券の含み損を確認します。トークンの法的分類は暗号資産・電子決済手段・STの判定手順で扱っています。
計算式(ま たは仕組み)
| 観点 | 金融商品取引法 | 会計(金融商品会計) |
|---|---|---|
| 定め方 | 第2条第1項で限定列挙(国債・社債・株券・投資信託の受益証券など)、第2項でみなし有価証券(信託受益権、合名・合資会社の一部と合同会社の社員権、組合・匿名組合等の出資持分など)[1] | 金商法の有価証券を基礎に、企業会計上の扱いで調整[2] |
| 含めるもの(例) | — | 金商法上の有価証券ではないが、国内CD(譲渡性預金)など |
| 含めないもの(例) | — | 金商法第2条第2項第1号・第2号の信託受益権、貸付金代替性私募債(ただし優先劣後に分割された信託受益権などは有価証券として扱う) |
会計上は、有価証券を保有目的等により次の4つに区分します[3]。
| 区分 | 貸借対照表価額 | 評価差額 |
|---|---|---|
| 売買目的有価証券 | 時価 | 当期の損益 |
| 満期保有目的の債券 | 償却原価法などによる原価ベース | 時価評価しない |
| 子会社株式・関連会社株式 | 取得原価 | 時価評価しない |
| その他有価証券 | 時価(市場価格のない株式等は取得原価)[3] | 原則として純資産の部(全部純資産直入法)。継続適用を条件に、時価が取得原価を下回る銘柄の差額を当期の損失とする部分純資産直入法も可[2] |
整数設例で確認する
設例(架空数値)。単位は百万円。期末に次の有価証券を保有しているとします。税率は30%と仮定します。
- 売買目的の上場株式:取得原価1,000、期末時価1,100 → 評価益 = 1,100 − 1,000 = 100 を当期の損益に計上
- 満期保有目的の社債:額面1,000を980で取得、残存5年、差額は金利の調整と認められ、継続適用を条件とする簡便法の定額法で償却 → 年 (1,000 − 980)÷ 5 = 4 を利息として加算し、1年後の帳簿価額は984(時価が変動しても評価替えしない)
- 子会社株式:取得原価5,000 → 期末も 5,000(時価が著しく下落した場合などは別途減額を検討)
- その他有価証券の上場株式:取得原価2,000、期末時価2,600 → 評価差額600。繰延税金負債 = 600 × 30% = 180、純資産(その他有価証券評価差額金)= 600 − 180 = 420。PLには計上しない
同じ「株式の値上がり」でも、売買目的ならPLに、その他有価証券なら純資産に計上されます。利益だけを見ると、保有目的によって数字の出方が違う点に注意します。
開示・規制上の位置付け
金商法上の有価証券に当たると、一定の要件を満たす募集・売出しで有価証券届出書の提出などの開示規制がかかり、販売・勧誘には業規制がかかります。会計上は、保有目的区分の定義・要件を取得時だけでなく取得後も継続して満たしているか検討する必要があり、要件に反する売買があれば分類の見直しが求められます[2]。時価が著しく下落した場合の減損は有価証券の減損処理で扱います。
財務モデル・Excelでの使い方
- 区分別の保有明細:銘柄ごとに保有目的区分・取得原価・期末時価・評価差額の列を持ち、区分に応じて「PLへ」「純資産へ」「評価しない」を判定する列を作ります。
- EVブリッジ:投資有価証券は時価(税効果を考慮するかは方針として明記)で非事業資産として加算し、子会社株式は連結で消去されている点に注意します。
- 税効果:その他有価証券の評価差額は税効果を差し引いた額が純資産に入るため、
=評価差額×(1−税率)の行を置きます。
この用語をExcelで
有価証券を保有目的区分ごとに評価し、PL・純資産・税効果へ振り分ける明細をExcelで組めるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「金商法の有価証券=会計の有価証券」→ 正しくは、範囲がずれます。国内CDは会計上有価証券として扱い、金商法第2条第2項第1号・第2号の信託受益権は会計上は原則として有価証券として扱いません[2]。
誤解2:「保有している株式はすべて時価で評価される」→ 正しくは、子会社株式・関連会社株式は取得原価です。市場価格のない株式も取得原価で評価します[3]。
誤解3:「証券が発行されていなければ有価証券ではない」→ 正しくは、金商法は証券が発行されていない権利も有価証券とみなします。組合型ファンドの持分や合同会社の社員権がその例です[1]。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)有価証券の評価は企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」によります。同基準は2026年10月にも改正され、満期保有目的の債券の貸借対照表価額を償却原価から予想信用損失に基づく貸倒引当金を控除した額とする定めが加わりました。この改正は2030年4月1日以後開始する連結会計年度・事業年度の期首から適用され、2027年4月1日以後開始する年度の期首からの早期適用も認められています[3]。有価証券報告書では、連結財務諸表の注記(有価証券関係)で区分別の帳簿価額・時価・評価差額を、「株式の保有状況」で政策保有株式の銘柄と保有目的を確認できます。銀行の満期保有債券と含み損の読み方は銀行は金利上昇をヘッジしたのか、帳簿で受け止めたのかで扱っています。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:同じ上場株式の値上がりが、PLに出る会社と出ない会社があるのはなぜですか。
「保有目的区分が違うからです。売買目的有価証券なら時価の変動を当期の損益にしますが、政策保有株式のようなその他有価証券は、原則として評価差額を税効果控除後に純資産に計上し、全部純資産直入法で減損がなければ、PLには売却したときに初めて損益が出ます。時価の著しい下落による減損や、部分純資産直入法での評価損は売却前でもPLに計上されます。比較する際は、PLの有価証券関連の損益と純資産の評価差額金を合わせて見ます。」
深掘りでは「満期保有目的の債券を途中で売るとどうなるか」「子会社株式が個別BSと連結BSでどう扱われるか」が問われます。
よくある質問(F AQ)
Q. 投資事業有限責任組合(LPS)の持分は有価証券ですか?
A. 金商法では、投資事業有限責任組合契約に基づく権利のうち出資対象事業から収益の配当等を受けられるものは、一定の除外に当たらない限り有価証券とみなされます[1]。
Q. 保有目的区分は途中で変えられますか?
A. 区分ごとに定義・要件があり、取得後も継続して満たしているかを確認します。要件に反する売買があれば分類を見直します[2]。任意の振替が自由にできるわけではありません。
出典・参考(2 026-11確認)
- e-Gov法令検索「金融商品取引法」第2条第1項・第2項. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000025(2026年11月参照)
- 企業会計基準委員会 移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」第58項・第59項・第70項・第73項・第263項. https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/ecl20261016_07.pdf(2026年11月参照)
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(2026年10月改正)第15項〜第21項・第41項(9)(10). https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/ecl20261016_02.pdf(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。