この記事で分かること

  • 月次資金繰り表直接法)の3区分構造(経常収支・設備等収支・財務収支)と繰越残高のつなぎ方
  • 3か月分の整数設例で、前月繰越から翌月繰越までを完全に検算する手順
  • 入金・出金サイトの把握方法と、賞与・納税・配当など季節性の織り込み方、銀行提出時に見られるポイント
  • 間接法のキャッシュフロー予測モデル(3表連動型)と、いつ・どう使い分けるか

結論:平時の資金管理は「月次・直接法」が主戦場です

資金繰り予測(英語ではCash Flow Forecasting、財務部門の実務ではTreasury Forecastとも呼ばれます)の実務は、局面によって使う道具が変わります。再生局面や資金逼迫時に週次で回す13週キャッシュフロー予測が「集中治療室のモニター」だとすれば、本記事で扱う月次資金繰り表(直接法)は「平時の健康診断」に当たります。倒産の危機にない会社でも、納税・賞与・借入返済が重なる月には手元資金が大きく減るため、6〜12か月先までの入出金を月次で予測し、月末残高の推移を常に見えるようにしておくことが財務・経理の基本動作です。

もう一つの論点が、事業計画やバリュエーションで使う間接法のキャッシュフロー予測モデルとの関係です。結論を先に言えば、両者は競合ではなく併用が基本です。足元の支払能力は直接法の資金繰り表で管理し、1年超の計画・投資判断は間接法のモデルで作ります。本記事では、月次資金繰り表の構造→整数設例→作り方の実務→銀行提出→間接法との使い分け、の順で解説します。

月次資金繰り表(直接法)の構造:3つの収支と繰越残高

図1 月次資金繰り表の構造(設例・4月分) 単位:百万円 前月繰越 50 経常収支 +20 経常収入 200 経常支出 180 設備等収支 −10 設備投資支払 10 財務収支 −5 借入返済 5 翌月繰越 55 翌月繰越 55 = 前月繰越 50 + 経常収支 20 − 設備等収支 10 − 財務収支 5 経常収支・設備等収支・財務収支の3区分で入出金を集計し、月末残高を翌月へつなぐのが資金繰り表の骨格です。 経常収支が黒字でも、納税・賞与・借入返済が重なる月は残高が減ります(設例の5月・6月)。
図1:月次資金繰り表の構造。前月繰越に3つの収支を加減して翌月繰越を求める(数値は本文の設例4月分・単位:百万円)。

資金繰り表とは、一定期間の現金の入出金を予定ベースで集計し、手元資金の過不足を事前に可視化する表です。実際の入金・出金をそのまま積み上げるため、会計でいう「直接法」に相当します。標準的な様式では、収支を次の3区分に分けます。

①経常収支は本業の入出金です。売掛金回収・現金売上・手形やでんさいの期日入金が収入側、買掛金支払・給与・賞与・家賃などの経費・法人税や消費税の納付が支出側に入ります。②設備等収支は設備投資の支払や固定資産・有価証券の売却収入など、経常的でない資産側の入出金です(様式によっては「経常外収支」と呼びます。日本政策金融公庫の簡易様式のように、経常収支と財務収支の2区分に集約する型もあります)。③財務収支は借入金の実行・返済、社債、増資、配当金の支払など資金調達側の入出金です。

この3区分は、キャッシュフロー計算書の営業・投資・財務の3区分とおおむね対応しますが、資金繰り表は(1)過去の実績ではなく将来の予定を含むこと、(2)発生主義の調整を経ずに入出金の予定日ベースで作ること、(3)法定の様式がなく自社や銀行の使いやすい形で作れること、の3点が異なります。

整数設例:3か月分の月次資金繰り表を検算する

製造業のA社(月商およそ200百万円)の4〜6月を例にします。単位はすべて百万円です。5月に法人税等の納付30、6月に夏季賞与60という季節性の支出があり、6月は賞与資金として短期借入30を実行する計画です。

項目(百万円)4月5月6月3か月計
前月繰越(A)505540期首50
経常収入 計200200220620
 うち売掛金回収180180200560
 うち現金売上20202060
経常支出 計180210250640
 うち買掛金支払120120130370
 うち給与404040120
 うち賞与006060
 うちその他経費20202060
 うち法人税等納付030030
経常収支(B)+20−10−30−20
設備等収支(C)(設備投資支払)−1000−10
 借入実行003030
 借入返済−5−5−5−15
財務収支(D)−5−5+25+15
当月収支(B+C+D)+5−15−5−15
翌月繰越(A+B+C+D)554035期末35

検算のポイントは2つです。第一に縦の検算:各月とも「翌月繰越=前月繰越+経常収支+設備等収支+財務収支」が成立します。4月は50+20−10−5=55、5月は55−10+0−5=40、6月は40−30+0+25=35です。第二に横(繰越)の検算:4月の翌月繰越55が5月の前月繰越に、5月の40が6月の前月繰越に一致し、3か月計でも「期首50+当月収支計(−15)=期末35」で整合します。この2方向の検算が通らない資金繰り表は、どこかで転記ミスか二重計上が起きています。

読み方も確認しましょう。4月は経常収支+20の平常月です。5月は法人税等の納付30が乗るため経常収支が−10に転じます。6月は賞与60で経常収支−30と最も重く、短期借入30で手当てして残高35を確保しています。3か月とも損益が黒字でも、残高は50→35へ減っていく——この「利益と資金のズレ」を月単位で先に見えるようにすることが、資金繰り表の存在意義です。あわせて「月末残高の下限」を決めておくのが実務の作法で、月商の1〜2か月分(A社なら200〜400百万円が理想ですが、最低でも固定費1か月分)を下回る月が見えたら、借入枠の確保や支払の平準化を前倒しで検討します。

作り方の実務:入出金サイトの把握と季節性の織り込み

月次資金繰り表の作成は、次の4ステップで進めます。

ステップ1:実績表から始める。いきなり予測を作らず、まず預金通帳(当座照合表)と月次試算表から過去3〜6か月分の実績資金繰り表を作ります。自社の入出金の「型」——毎月何日にいくら入り、何日にいくら出るか——が見えると、予測の土台になります。

ステップ2:入金・出金サイトを把握する。資金繰り予測の精度は、回収・支払条件(サイト)の把握でほぼ決まります。たとえば「月末締め・翌月末回収」なら4月の売上は5月末の入金です。手形やでんさいなら期日はさらに後ろへずれます。支払側も同様に、買掛金の締め支払条件、給与・社会保険料の支払日、家賃・リース料の引落日を一覧化します。売上計画から回収予定への変換は運転資本の回転期間の考え方そのもので、モデル上の扱いは運転資本予測で詳しく解説しています。

ステップ3:季節性・単発項目をカレンダー化する。毎月は発生しないが金額の大きい項目を年間カレンダーに落とします。具体的には、賞与(6月・12月など、社会保険料の事業主負担増も同時に発生)、法人税・地方税(決算月の2か月後の確定納付と中間納付)、消費税(確定・中間納付。預り金的な性格のため、納付月に一気に出ていきます)、労働保険の年度更新、配当金(定時株主総会後)、確定済みの設備投資の支払、借入の約定返済です。設例の5月(納税)・6月(賞与)のように、季節性支出の月こそ資金繰り表が真価を発揮します

ステップ4:毎月ローリングで更新する。月初に前月実績を確定させ、予測と入れ替えて常に6〜12か月先まで見える状態を保ちます。作りっぱなしの資金繰り表は数か月で現実と乖離します。

銀行提出を想定した様式と、精度を上げる運用

資金繰り表は社内管理だけでなく、融資審査・モニタリングの標準資料です。日本政策金融公庫は借入申込時の参考書式として資金繰り表(詳細版・簡易版)を公開しており、民間金融機関も新規融資や条件変更の際に同種の表を求めるのが通例です。銀行提出を想定するなら、次の点を押さえます。

第一に、経常収支の欄を明確に分けること。銀行は「本業の入出金で返済原資が出ているか」を経常収支で判断します。借入で残高を膨らませて経常の赤字を隠す形は、区分が正しければすぐ分かります。第二に、前提を注記すること。売上予測の根拠(受注残季節指数)、回収サイト、単発支出の内容を欄外に書くと、予測の信頼性が上がります。第三に、希望的観測を入れないこと。実績月の数字が通帳と一致していること、予測が過去実績の延長として説明できることが信用の前提です。

精度を上げる運用としては、月次で予実差異のレビューを行います。項目別に「予測−実績」を出し、差異の原因を(1)売上そのもののブレ、(2)回収・支払タイミングのズレ、(3)予測漏れ(単発支出の失念)に分類します。経験的に、タイミングのズレと予測漏れは仕組みで潰せる差異です。回収遅延が常態化している得意先はサイトの前提を修正し、単発支出はステップ3のカレンダーを更新します。主要項目の差異率を継続的に測り、翌月予測の差異がおおむね±10%以内に収まってくれば、月次管理としては実用水準といえます。

間接法のキャッシュフロー予測モデルとの使い分け

図2 直接法(資金繰り表)と間接法(CF予測モデル)の使い分け 直接法=資金繰り表(入出金を積み上げ) 間接法=CF予測モデル(利益から逆算) 目的:資金ショートの回避・支払能力の管理 起点:入出金の予定(回収・支払サイト) 期間:日次〜月次(足元3〜6か月が中心) 場面:銀行提出、月次の資金会議、13週CF 目的:事業計画・企業価値評価との連動 起点:PL・BS計画(利益+非資金項目±運転資本) 期間:月次〜年次(1〜5年の計画期間) 場面:予算・中期計画、3表連動モデル、DCF 実務は併用が基本 足元の支払能力は直接法で日々・月次に管理し、1年超の計画やバリュエーションは間接法のモデルで作ります。 月次資金繰り表の経常収支とCF計算書の営業CFを突き合わせると、どちらの予測の歪みも早期に発見できます。
図2:直接法と間接法の使い分けマップ。目的・起点・期間・利用場面が異なるため、置き換えではなく併用する。

間接法のキャッシュフロー予測とは、財務モデル(3表連動モデル)でPL・BSの計画から資金を逆算する方法です。骨格は「税引後利益+減価償却費など非資金項目±運転資本の増減−設備投資」で、フリーキャッシュフロー(FCF)の算定やDCF法による評価に直結します。キャッシュフロー経営の文脈で語られる「利益ではなく資金」を計画側で実装したものと言えます。

使い分けの軸は図2のとおり目的・起点・期間・利用場面の4つです。直接法は入出金の予定日を積み上げるため足元の精度が高い一方、1年を超える予測ではサイト情報の精度が落ちて維持コストが勝ります。間接法は計画数値と自動的に整合する一方、月中の資金の谷(納税日や賞与支給日の直後など)は月次・発生主義起点では捉えられません。したがって、「今日から6か月は直接法、それより先は間接法」が実務の標準解です。両者が重なる月については、資金繰り表の経常収支とモデルの営業CFを突き合わせることで、回収サイトの前提ミスや計上漏れを相互チェックできます。なお、資金繰りが危機的な局面では、月次では粗すぎるため13週キャッシュフロー予測へ切り替え、週次・日次の直接法で管理します。

面接での答え方(30秒回答例)

Q:資金繰り表とキャッシュフロー計算書の違いを説明してください。
「キャッシュフロー計算書は過去の一会計期間の資金の動きを発生主義の決算数値から間接的に説明する制度上の書類です。一方、資金繰り表は将来の入出金予定を回収・支払サイトに基づいて直接積み上げる管理資料で、様式は自由です。目的も異なり、前者は外部への報告、後者は資金ショートの回避が主眼です。実務では月次資金繰り表で足元6か月の支払能力を管理し、1年超はモデル上の間接法CF予測で計画する、という併用が標準だと理解しています。」

よくある質問(FAQ)

Q. 資金繰り表はどのくらいの期間・頻度で作ればよいですか?
A. 平時は月次で6〜12か月先まで作り、毎月ローリング更新するのが標準です。大口の入出金が月中に集中する会社は、直近1〜2か月だけ日繰り表(日次)を併用します。資金繰りが逼迫している局面では月次では粗すぎるため、週次の13週キャッシュフロー予測に切り替えます。

Q. 経常収支が黒字なら資金繰りは安心と考えてよいですか?
A. 単月の黒字だけでは不十分です。設例のとおり、納税・賞与・借入返済が重なる月には経常収支が赤字化し、残高が大きく減ることがあります。見るべきは(1)経常収支が年間トータルでプラスか、(2)約定返済を経常収支で賄えているか、(3)月末残高が自社で決めた下限(月商1〜2か月分など)を全月で上回るか、の3点です。

まとめ

月次資金繰り表(直接法)は、前月繰越に経常収支・設備等収支・財務収支を加減して翌月繰越をつなぐシンプルな構造ですが、その価値は「利益と資金のズレ」を月単位で事前に可視化することにあります。精度は回収・支払サイトの把握と季節性のカレンダー化で決まり、運用は毎月のローリング更新と予実差異レビューで維持します。銀行提出では経常収支の区分と前提の明示が信頼の鍵です。そして間接法のCF予測モデルとは択一ではなく、足元は直接法・中期は間接法という併用が実務の標準です。まずは自社(または分析対象企業)の過去3か月の実績資金繰り表を作ることから始めてみてください。

出典・参考(2026-08-01確認)

  • 日本政策金融公庫「各種書式ダウンロード(国民生活事業)」——資金繰り表・資金繰り表(簡易版)の様式と記入例を公開
  • J-Net21(中小企業基盤整備機構)「資金繰り表を活用する」——資金繰り表の構成(実績表・予定表)と作成手順の解説

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。