この記事で分かること
- 製造間接費の予定配賦率を「製造間接費予算 ÷ 基準操業度」で作り、予定配賦額と配賦差異を電卓で追える形で計算する方法
- 基準操業度を実際的生産能力・平均操業度・期待実際操業度のどれに置くかで、製品単位原価と配賦差異がどれだけ動くか
- 稼働率が落ちた月の配賦差異を、予算差異(支出のずれ)と操業度差異(配賦されなかった固定費)に分けて読む手順
想定読者:製造業の経営企画・FP&A・原価計算の担当者、工業簿記を学び始めた方、製造業の財務デューデリジェンスで原価を読む方
前提知識:固定費と変動費の区別。仕訳の知識は使いません。
結論:基準操業度は「配賦率の分母」であり、製品原価・配賦差異・価格判断を動かします
月次決算で、製造間接費の配賦差異が大きな不利差異になったとします。受注が減って機械が動かなかっただけなのか、経費を使いすぎたのか。ここを分けないまま「工場のコスト管理が甘い」と評価したり、差異を含んだ原価で値上げを決めたりすると、判断を誤ります。本記事は、予定配賦率の作り方、基準操業度の選び方、配賦差異の分解を、一つの設例で順に確かめます。
結論を先に述べます。製造間接費は月が終わるまで実際額が確定しないため、期首に「製造間接費予算 ÷ 基準操業度」で予定配賦率を作り、実際の機械時間に掛けて製品へ配ります。基準操業度(その年に機械を何時間動かす前提で率を作るか)を小さく置くほど、固定費の1時間当たり負担が増え、製品単位原価は高くなります。ただし、基準操業度の置き方は、実際に発生した製造間接費の総額を変えません。変えるのは、固定費のうち製品原価に載せる部分と、配賦差異として残す部分の境目です。配賦差異は必ず予算差異と操業度差異の和に分解でき、予算差異は基準操業度に左右されず、操業度差異だけが基準操業度で変わります。操業度差異は「固定費の無駄遣い」ではなく、基準操業度まで使われなかったために製品へ配賦されなかった固定費の大きさです。
符号の約束を先に固定します。本記事では配賦差異 = 実際発生額 − 予定配賦額とし、プラスを不利差異(借方差異。配賦が足りなかった)、マイナスを有利差異(貸方差異。配賦が多すぎた)と呼びます。教科書によっては「予定 − 実際」で計算してマイナスを不利とするものがあるため、本記事では記号に加えて必ず「不利」「有利」の文字を併記します。原価計算基準は、製造間接費配賦差異を「一期間におけるその製造間接費の配賦額と実際額との差額」と定めるだけで、引き算の向きまでは指定していません1。
稼働率は一般に、保有する生産能力に対して実際にどれだけ生産したかの比率です(稼働率と歩留まり)。本記事では、断らない限り「実際の機械時間 ÷ その月の基準操業度」の意味で使います。
予定配賦のしくみ:予算を基準操業度で割り、実際の機械時間を掛ける
製造間接費は、工場の電力、設備の減価償却、保全要員の給与のように、特定の製品にひも付けられない費用です。製品の原価を知るには、何らかの基準で各製品へ割り振る(配賦する。共通の費用を一定の基準で製品や部門に割り振ること)必要があります。ところが実際の発生額は、請求書や給与が確定する月末以降でないと分かりません。Corporate Finance Institute(CFI)も、実際の間接費は適時に把握しにくいため、期首に見積もった配賦率で概算する方式(normal costing)が多くの企業で使われると説明しています2。
日本の原価計算基準(昭和37年11月8日。本記事では、2026年10月時点で財務会計基準機構のサイトに掲載されている文言を参照します)も、間接費は原則として予定配賦率で各指図書へ配賦すると定め、部門間接費の予定配賦率は、一定期間の間接費予定額(または固定間接費予定額と変動間接費予定額)を、同じ期間の予定配賦基準で割って算定するとしています3。式にすると次のとおりです。
予定配賦率と予定配賦額
予定配賦率 = 年間の製造間接費予算 ÷ 年間の基準操業度 = 変動費率 + 固定費率
固定費率 = 年間の固定費 ÷ 年間の基準操業度
予定配賦額 = 予定配賦率 × 実際操業度
操業度とは、生産設備を一定とした場合の、その設備の利用度です。直接作業時間、機械運転時間、生産数量など、間接費の発生と関連のある物量で表します4。本記事の設例では機械時間を使います。予算は、まず固定費(操業度が増減しても変わらない費用)と変動費(操業度に比例して増減する費用)に分けます。分け方は固定費・変動費の分解やコスト構造とマージン予測で扱っているため、ここでは分解済みとして進めます。原価計算基準も、間接費をまず固定費と変動費に分類して過去の実績を把握する手順を示し、固定間接費と変動間接費それぞれの予定配賦率に実際の配賦基準を掛ける計算を認めています5。
月次で「実際の操業度ならいくらかかるはずか」を知るには、実際の機械時間に合わせて組み替えた予算(変動予算)を使います。固定費は操業度にかかわらず一定とし、変動費は変動費率に実際の操業度を掛けて求める方法を公式法と呼びます6。本記事ではこの金額を「実際操業度での予算額」と呼びます。
実際操業度での予算額(公式法)
実際操業度での予算額 = 固定費 + 変動費率 × 実際操業度
基準操業度の3つの候補と、原価計算基準が書いていること
予定配賦率の分母になる基準操業度は、何時間に置くかで率が変わります。本記事では次の3つを比べます。呼び名は比較のための整理であり、原価計算基準にこれらの名称は出てきません。
実際的生産能力:設備を理論上の最大まで回すのではなく、休日・定期保全・段取り替えなど避けられない停止を除いたうえで、現実に動かせる最大の時間です。S社の設例では、成形機10台 × 年6,000時間 = 60,000時間とします。
平均操業度:過去数年の実際の操業度の平均です。S社は過去3年の実績(49,500時間・48,000時間・46,500時間)の単純平均で48,000時間とします。
期待実際操業度:当年度の受注見込みや販売計画から見積もった、その年に実際に動かすと予期される時間です。S社は45,000時間とします。
原価計算基準は、予定配賦率の基礎となる予定操業度(本記事でいう基準操業度)を「原則として、1年又は一会計期間において予期される操業度」とし、それは「技術的に達成可能な最大操業度ではなく、この期間における生産ならびに販売事情を考慮して定めた操業度」だと書いています7。この文言から読み取れることは2つです。設備の最大能力を分母にする方法は、原則から外れること。その期の生産・販売事情を反映した予期操業度が、原則の形であること。3つの候補でいえば、期待実際操業度が最も近いと読めます。実際的生産能力は理論上の最大よりは下がっていますが、販売事情ではなく設備の能力で決める点で、原則とは考え方が異なります(以上は編集部の読みです)。
平均操業度は、基準が標準原価の説明の中で示す正常原価の「正常操業度」、つまり「比較的長期にわたる過去の実際数値を統計的に平準化し、これに将来のすう勢を加味した」操業度に近い考え方です8。ただし、基準は「原則として」と書いたうえで、個々の企業の原価計算手続を画一に規定するものではなく、基本的なわくを示すものだとしています9。基準の文言だけで1つに決まるわけではなく、企業が目的に応じて選び、選んだ定義を明示して使うことになります。
設例:基準操業度別の予定配賦率と製品単位原価
以下は学習用の架空事例です。射出成形品を作るS社の成形部門を取り上げます。成形部門は単一の製造部門として扱い、補助部門の費用はすでに配賦済みとします。配賦基準は機械時間です。前提を図表1にまとめます。固定費の月額は、年額を12で割った12,000千円(月割りで季節変動は考えません)です。製造間接費予算と年間の操業度は、年度予算の作り方で扱う編成プロセスの中で置かれる前提の一つです。
| 項目 | 値 | 単位 |
|---|---|---|
| 変動費率(電力・金型消耗品・潤滑油など) | 400 | 円/機械時間 |
| 固定費(減価償却・保全要員給与・工場賃借料など) | 144,000 | 千円/年(月額 12,000 千円) |
| 実際的生産能力(成形機10台 × 年6,000時間) | 60,000 | 機械時間/年 |
| 平均操業度(過去3年 49,500・48,000・46,500 の平均) | 48,000 | 機械時間/年 |
| 期待実際操業度(20X3年度の受注見込みから見積もり) | 45,000 | 機械時間/年 |
| 代表製品Pの機械時間 | 0.04 | 時間/個 |
| 代表製品Pの直接材料費 | 220 | 円/個 |
| 代表製品Pの直接労務費 | 60 | 円/個 |
図表1の数値で、3つの基準操業度ごとに予定配賦率を求めます。まず固定費率(固定費を基準操業度で割った1時間当たりの固定費)を出し、変動費率400円を足します。期待実際操業度なら、固定費率 = 144,000,000円 ÷ 45,000時間 = 3,200円/時間、予定配賦率 = 3,200 + 400 = 3,600円/時間です。予算総額から求めても、(144,000,000円 + 400円 × 45,000時間)÷ 45,000時間 = 162,000,000円 ÷ 45,000時間 = 3,600円で一致します。他の2つも同じ手順で、結果は図表2の②④のとおりです。
代表製品Pは1個当たり0.04時間の機械時間を使い、製造間接費は予定配賦率 × 0.04時間です。期待実際操業度なら 3,600円 × 0.04時間 = 144円で、直接材料費220円と直接労務費60円を足した単位原価は424円になります。3つの基準を並べたものが図表2です。
| 項目 | 実際的生産能力 | 平均操業度 | 期待実際操業度 |
|---|---|---|---|
| ① 年間の基準操業度(機械時間) | 60,000 | 48,000 | 45,000 |
| ② 固定費率 = 144,000,000円 ÷ ①(円/時間) | 2,400 | 3,000 | 3,200 |
| ③ 変動費率(円/時間) | 400 | 400 | 400 |
| ④ 予定配賦率 = ② + ③(円/時間) | 2,800 | 3,400 | 3,600 |
| ⑤ 製品Pの製造間接費 = ④ × 0.04時間(円/個) | 112 | 136 | 144 |
| ⑥ 製品Pの単位原価 = 220 + 60 + ⑤(円/個) | 392 | 416 | 424 |
| ⑦ 参考:⑥に20%を上乗せした価格 = ⑥ × 1.2(円/個) | 470.4 | 499.2 | 508.8 |
図表2のとおり、基準操業度が60,000時間から45,000時間へ25%小さくなると、固定費率は2,400円から3,200円へ約33%上がります。固定費の総額144,000,000円は変わらず、分母が小さいほど1時間当たりの負担が大きくなるためです。製品Pの単位原価は392円から424円へ、32円(約8.2%)高くなります。原価に20%を上乗せして価格を決める運用(コストプラス価格設定。原価に一定率を乗せて販売価格を決める方法)なら、図表2の最下行のとおり、価格にも470.4円から508.8円まで38.4円の幅が出ます。
月次の配賦差異を予算差異と操業度差異に分ける
ここからは、期待実際操業度(年間45,000時間、月3,750時間)を基準操業度に使い、予定配賦率3,600円/時間で配賦している月次を見ます。4月・5月・6月の実績は図表4の上段のとおりで、6月は需要が落ちて実際機械時間が2,700時間にとどまりました。配賦差異は次の手順で分解します。
配賦差異の分解(プラス=不利、マイナス=有利)
予算差異 = 実際発生額 − 実際操業度での予算額
操業度差異 = 実際操業度での予算額 − 予定配賦額 = 固定費率 × (基準操業度 − 実際操業度)
配賦差異 = 予算差異 + 操業度差異
操業度差異の2つ目の式は、次のように導けます。予算額(固定費 + 変動費率 × 実際操業度)から予定配賦額((変動費率 + 固定費率)× 実際操業度)を引くと、変動費の部分は打ち消し合い、固定費 − 固定費率 × 実際操業度が残ります。固定費は固定費率 × 基準操業度に等しいので、結果は固定費率 × (基準操業度 − 実際操業度)です。なお、配賦差異を予算差異と操業度差異に分ける手法そのものは、原価計算基準の製造間接費配賦差異の規定には書かれていません。差異を算定記録して分析することを求める規定と、標準原価計算で操業度差異等に分析するとする規定の考え方を、実際原価計算に当てはめた管理会計上の分解です(編集部の整理)10。
6月を電卓で追います。予定配賦額 = 3,600円 × 2,700時間 = 9,720,000円(9,720千円)。実際発生額は13,230千円なので、配賦差異 = 13,230 − 9,720 = +3,510千円(不利)です。実際操業度での予算額 = 12,000千円 + 400円 × 2,700時間 = 12,000 + 1,080 = 13,080千円なので、予算差異 = 13,230 − 13,080 = +150千円(不利)、操業度差異 = 13,080 − 9,720 = +3,360千円(不利)です。操業度差異は、固定費率3,200円 × (3,750 − 2,700)時間 = 3,360,000円とも一致します。検算として、150 + 3,360 = 3,510で配賦差異に戻ります。図表3は、この6月の位置を図にしたものです。
図表3では、実線の予算線と破線の予定配賦線が基準操業度の3,750時間で交わり、そこでは予算額と予定配賦額が等しく、操業度差異は0です。実際の機械時間がそれより左(稼働が低い側)にあると、予定配賦線は予算線の下に潜り、その縦の差が操業度差異(不利)になります。6月はこの差が3,360千円まで開く一方、実際発生額の点(●)と予算線の差である予算差異は150千円にとどまります。
3か月分を並べたものが図表4です。
| 項目(単位:千円。時間・%は行内に表示) | 4月 | 5月 | 6月 | 3か月計 |
|---|---|---|---|---|
| 実際機械時間(時間) | 3,900 | 3,750 | 2,700 | 10,350 |
| 稼働率(÷ 月次の基準操業度 3,750 時間) | 104.0% | 100.0% | 72.0% | ― |
| ① 予定配賦額 = 3,600円 × 実際機械時間 | 14,040 | 13,500 | 9,720 | 37,260 |
| ② 実際発生額 | 13,700 | 13,440 | 13,230 | 40,370 |
| ③ 配賦差異 = ② − ① | −340(有利) | −60(有利) | +3,510(不利) | +3,110(不利) |
| ④ 実際操業度での予算額 = 12,000 + 0.4 × 時間 | 13,560 | 13,500 | 13,080 | 40,140 |
| ⑤ 予算差異 = ② − ④ | +140(不利) | −60(有利) | +150(不利) | +230(不利) |
| ⑥ 操業度差異 = ④ − ① | −480(有利) | 0 | +3,360(不利) | +2,880(不利) |
| 照合:⑤ + ⑥(= ③ と一致) | −340 | −60 | +3,510 | +3,110 |
図表4の6月は、配賦差異+3,510千円(不利)の約95.7%(3,360千円)が操業度差異です。「不利差異が3,510千円出た」という見出しだけでは経費の使いすぎに見えますが、中身のほとんどは受注減で固定費が配賦されなかった分です。逆に4月は、稼働率104.0%で実際機械時間が基準操業度を上回ったため、操業度差異が3,200円 × (3,750 − 3,900)時間 = −480千円(有利)となり、予算差異+140千円(不利)を打ち消して、配賦差異は−340千円(有利)です。3か月計も、予算差異+230千円 + 操業度差異+2,880千円 = 配賦差異+3,110千円(不利)で照合できます。
なお、実際発生額を実際機械時間で割った「実際配賦率」で配賦すると、月ごとに製品原価が揺れます。5月は13,440千円 ÷ 3,750時間 = 3,584円/時間、6月は13,230千円 ÷ 2,700時間 = 4,900円/時間で、受注が減っただけで製品Pの製造間接費は143.36円(0.04時間 × 3,584円)から196円(0.04時間 × 4,900円)へ、約36.7%上がります。予定配賦なら製品Pの製造間接費は常に144円で、受注減の影響は配賦差異として別に見えます。予定配賦率を使う実質的な理由はここにあります。
基準操業度の選び方は、製品原価・配賦差異・価格判断をどう変えるか
同じ3か月の実績を、3つの基準操業度で配賦し直した結果が図表5です。実際発生額40,370千円と予算差異+230千円(不利)は基準によらず同じで、変わるのは製品へ配賦する部分と配賦差異として残る部分の割り振りだけです。実際的生産能力なら予定配賦額は28,980千円で11,390千円(不利)が配賦差異に残り、期待実際操業度なら予定配賦額は37,260千円、配賦差異は3,110千円(不利)です。
| 項目 | 実際的生産能力 | 平均操業度 | 期待実際操業度 |
|---|---|---|---|
| 予定配賦率(円/時間) | 2,800 | 3,400 | 3,600 |
| 予定配賦額(予定配賦率 × 実際機械時間 10,350 時間) | 28,980 | 35,190 | 37,260 |
| 実際発生額(基準によらず同額) | 40,370 | 40,370 | 40,370 |
| 配賦差異 = 実際発生額 − 予定配賦額 | +11,390(不利) | +5,180(不利) | +3,110(不利) |
| うち予算差異(基準によらず同額) | +230(不利) | +230(不利) | +230(不利) |
| うち操業度差異 | +11,160(不利) | +4,950(不利) | +2,880(不利) |
年間でも同じ構造です。仮に年間の実際機械時間が期待どおり45,000時間だったとすると、実際的生産能力(60,000時間)を基準にした場合の操業度差異は、固定費率2,400円 × (60,000 − 45,000)時間 = 36,000千円(不利)になります。期待実際操業度を基準にした場合は、この36,000千円が製品原価に入ります。製品Pの製造間接費が112円ではなく144円と32円高く、年間の生産個数は45,000時間 ÷ 0.04時間 = 1,125,000個なので、32円 × 1,125,000個 = 36,000千円でぴったり一致します。同じ36,000千円が、一方では「製品に載せない遊休能力のコスト」として差異に、他方では「製品原価の一部」として現れるわけです。配賦差異を期末にどう処理するかによって、これが利益にどう出るかは変わります。原価計算基準は、実際原価計算制度の原価差異を原則として当年度の売上原価に賦課し、予定価格等が不適当で比較的多額の差異が生じる場合には、当年度の売上原価と期末の棚卸資産に配賦するとしています11。この期末処理は原価差異の期末処理の記事で扱います。
この違いは、価格、評価、制度の3つの場面に効いてきます。以下は編集部の見解を含みます。
第一に、価格です。期待実際操業度を基準にして毎年見直し、原価に一定率を上乗せして価格を決める運用では、需要が落ちて期待操業度を下げるたびに単位原価が上がります。図表6のとおり、期待実際操業度が45,000時間から36,000時間へ下がると、製品Pの単位原価は424円から456円へ約7.5%上がり、20%上乗せ価格は508.8円から547.2円へ38.4円上がります。値上げが数量の減少を招けば、次の期待操業度はさらに下がり、単位原価と価格が再び上がります(値上げ→数量減→単位原価上昇の悪循環)。この循環が実際に起きるかどうかは、需要の価格弾力性や競合の価格に左右される仮説で、図表6が示すのは原価の側の動き、つまり遊休能力のコストを製品に負わせ続けると単位原価が上がるという仕組みだけです。
| 項目 | 45,000時間 | 40,000時間 | 36,000時間 |
|---|---|---|---|
| 固定費率(円/時間) | 3,200 | 3,600 | 4,000 |
| 予定配賦率(円/時間) | 3,600 | 4,000 | 4,400 |
| 製品Pの製造間接費(円/個) | 144 | 160 | 176 |
| 製品Pの単位原価(円/個) | 424 | 440 | 456 |
| 20%上乗せした価格(円/個) | 508.8 | 528.0 | 547.2 |
第二に、評価です。実際的生産能力を基準にすると、能力に対して使われなかった固定費が毎月、操業度差異として表に出ます。これは受注や生産計画の状況を映す情報であり、製造現場の支出管理の成績ではありません(支出管理の成績に当たるのは予算差異です)。操業度差異を予算差異と同列に扱って工場を評価すると、受注減の責任を現場に負わせることになります。
第三に、制度との整合です。IFRS(国際財務報告基準)のIAS第2号「棚卸資産」は、固定製造間接費を棚卸資産の原価に配賦する基礎を設備の通常の生産能力(原文は normal capacity。訳は編集部)とし、低操業や遊休設備を理由に1単位当たりの配賦額を増やさず、未配賦の間接費は発生した期間の費用にすると定めています12。通常の生産能力は、計画的な保守による能力の低下を考慮したうえで、複数の期間や季節にわたり通常の状況で平均的に達成されると見込まれる生産量を指し、本記事の平均操業度に近い考え方です(編集部の対応づけ)。S社の数値では、原価計算基準の文言に最も近い期待実際操業度なら3,600円/時間、IAS第2号の考え方に近い平均操業度なら3,400円/時間(図表2)で、棚卸資産の単位原価が変わりえます。IFRSを適用する企業や、海外子会社を含むグループでは、どの基準で在庫を評価するかを確認してください。
では、どの基準操業度を使うべきか。編集部の見解では、目的ごとの使い分けが実務的です。制度上の製品原価と在庫の評価には、基準の文言に近い期待実際操業度(適用基準によっては平均操業度)を、定義を明示して使います。価格の下限や追加受注の採否は、固定費まで含めた全部原価ではなく、限界利益(価格から変動費を引いた額)で見ます(損益分岐点分析(CVP分析)の実務)。製品Pの単位変動費は、直接材料費220円 + 直接労務費60円(変動とみなす仮定)+ 変動製造間接費16円(400円 × 0.04時間)= 296円です。遊休能力があり固定費が増えない前提なら、350円の引き合いは全部原価424円(図表2)を下回って赤字に見えても、1個当たり54円の限界利益が出ます。能力の使い残しを管理したい場合は、実際的生産能力を物差しにした操業度差異を別表で追うと、遊休能力のコストが見えます。
よくある間違いと、この設例の成立条件・限界
よくある間違い
1つ目は、稼働率の水準を、基準の違いに気づかず比べることです。6月の稼働率72.0%は、月次の基準操業度3,750時間(期待実際操業度)に対する数字で、実際的生産能力の月次5,000時間に対しては2,700 ÷ 5,000 = 54.0%です。社内の月次比較や他社比較では、稼働率の分母の定義をそろえます。
2つ目は、予算差異の中身を過信することです。実際原価計算の予算差異には、費目ごとの単価の差と、使いすぎ(能率)の差が混ざっています。実際の機械時間で配賦する本設例には能率差異が登場しないため、標準時間を持ち込む標準原価計算の差異分析の3分法・4分法は、製造間接費差異を予算・能率・操業度に分ける記事に委ねます。
成立条件と限界
この設例は、次の条件のもとで成り立ちます。成形部門を単一の製造部門とし、補助部門費の配賦は済んでいること。固定費は関連する範囲(ここでは実績のあった月2,700〜3,900時間)で一定、変動費は機械時間に比例すること。段階的に増える費用や準変動費は、事前に固定費と変動費へ分けてあること。年間の基準操業度を12等分して月次の基準にしており、季節変動がないこと。機械時間が製造間接費の発生と関連する妥当な配賦基準であること。さらに、原価計算基準の33は個別原価計算の間接費配賦の規定であり、本設例は予定配賦率を実際の機械時間に掛けて製品へ配る場面だけを取り出したもので、総合原価計算の加工費の扱いには立ち入りません。
もう一つ、稼働率の低下と設備の休止は区別します。原価計算基準は、長期にわたり休止している設備に関する減価償却費、管理費、租税等を、原価に算入しない非原価項目の例として挙げています13。月次の稼働率が下がっただけの遊休能力と、長期に休止している設備の費用は別の扱いになりうるため、製造間接費予算に休止設備の費用が混ざっていないかを確認します。
実務チェックリスト
- 製造間接費予算を固定費と変動費に分け、準変動費の分解方法と根拠(使った過去実績の期間)を説明できる。
- 基準操業度が実際的生産能力・平均操業度・期待実際操業度のどれかを定義で明示し、その数値の根拠(設備台数 × 稼働時間、過去実績の年数、受注見込み)を文書に残している。
- 予定配賦率を変動費率と固定費率に分けて持ち、予定配賦率 × 基準操業度 = 年間の予算総額になることを検算している。
- 月次で配賦差異を予算差異と操業度差異に分け、「予算差異+操業度差異=配賦差異」の照合行を置き、符号を「不利/有利」の文字と併記している。
- 操業度差異を工場の支出管理の評価から切り離し、稼働率が基準操業度から大きく外れた月は、受注・生産計画の要因として別に報告している。
- 価格や見積り単価の根拠にする原価がどの基準操業度で作られたかを確認し、需要が落ちて基準を下げるたびに単価を機械的に上げていないかを見ている。
- 配賦差異の期末の扱い(売上原価へ賦課するか、棚卸資産へ配賦するか)と、適用する会計基準での固定費配賦の考え方(IFRSなら通常の生産能力)を確認している。
- 長期に休止している設備の費用が、製造間接費予算に入っていないかを確認している。
よくある質問(FAQ)
変動費も予定配賦率に入れているのに、操業度差異が固定費だけで決まるのはなぜですか。
変動費は実際の機械時間に比例して配賦され、実際操業度での予算額の変動費部分も同じ式(変動費率 × 実際操業度)で動くためです。6月なら、変動費部分の400円 × 2,700時間 = 1,080千円が予定配賦額と予算額の両方に入るので、2つの差には現れません。差が出るのは、固定費12,000千円のうち製品へ配賦された部分と配賦されなかった部分の差だけです。
年度の途中で基準操業度を見直してよいのですか。
原価計算基準が予定配賦率の基礎とするのは、原則として1年または一会計期間で予期される操業度です。期中に見直すかどうかは基準から一義には決まりませんが、見直すと、その前後で同じ製品の単位原価が変わり、価格表や在庫評価、月次比較の連続性に影響します。S社が期待実際操業度を45,000時間から40,000時間へ下げれば、予定配賦率は3,600円から4,000円に変わります(図表6)。見直す場合は、理由と影響額を記録し、見直し前後の数値を並べて見られるようにしておくと、後から説明できます。
配賦基準は、機械時間ではなく直接作業時間や生産数量でもよいのですか。
先に触れたとおり、基準は操業度の物量基準として直接作業時間、機械運転時間、生産数量などを挙げ、間接費の発生と関連のあるものを選ぶとしています。自動化が進み、機械が間接費の主な発生源なら機械時間、手作業が中心なら直接作業時間が候補になります。製品によって機械時間当たりの間接費の発生が大きく違う場合は、機械時間だけでは歪むため、部門を分けるか、活動基準原価計算(ABC)のように活動ごとに配賦する方法を検討します。
まとめ
予定配賦率は、製造間接費予算を基準操業度で割って作り、実際の機械時間を掛けて製品へ配ります。基準操業度を小さく置くほど固定費率が上がって製品単位原価は高くなりますが、実際の発生額は変わらず、製品に載せる分と配賦差異に残す分の境目が動くだけです。配賦差異(実際発生額 − 予定配賦額)は、予算差異と操業度差異に分けて読みます。S社の6月は、不利差異3,510千円のうち3,360千円が操業度差異で、支出のずれは150千円でした。基準操業度は、制度上の原価、遊休能力の可視化、価格判断のどれに使う原価なのかを決めたうえで選び、定義を明示して使います。
脚注
- 企業会計審議会「原価計算基準」(昭和37年11月8日)第4章45(五)。製造間接費配賦差異を「一期間におけるその製造間接費の配賦額と実際額との差額として算定する」と定めており、引き算の向きは書かれていない(参考文献 R1)。↩
- Corporate Finance Institute「Job Order Costing Guide」の「Actual Costing」「Normal Costing」「What is the Overhead Rate?」の各節。実際原価は適時に把握しにくく、予定の配賦率(見積製造間接費 ÷ 見積配賦基準)で概算する方式が使われるという一般的な説明(参考文献 R2)。↩
- 原価計算基準 第2章第4節33(二)(三)。(二)「間接費は、原則として予定配賦率をもつて各指図書に配賦する」。(三)は、部門間接費の予定配賦率を、間接費予定額(または固定間接費予定額および変動間接費予定額)を同期間の予定配賦基準で除して算定するものとする(参考文献 R1)。↩
- 原価計算基準 第2章第1節8(四)「ここに操業度とは、生産設備を一定とした場合におけるその利用度をいう」、同第4節33(五)第2段落「操業度は、原則として直接作業時間、機械運転時間、生産数量等間接費の発生と関連ある適当な物量基準によつて、これを表示する」(参考文献 R1)。↩
- 原価計算基準 第2章第4節33(四)1(間接費を固定費と変動費に分類して過去の実績を把握する手順)、同(六)2(固定間接費予定配賦率と変動間接費予定配賦率に、それぞれ実際の配賦基準を乗じて計算する方法)(参考文献 R1)。↩
- 原価計算基準 第3章41(三)2(2)公式法。固定費は操業度にかかわりなく一定とし、変動費は変動費率に「そのつどの関係操業度を乗じて算定する」。変動予算は「実際間接費額を当該操業度の予算と比較して、部門の業績を管理することを可能にする」とされる。41は標準原価の章だが、算定方法は33(四)に準ずると定める(参考文献 R1)。↩
- 原価計算基準 第2章第4節33(五)。「予定配賦率の計算の基礎となる予定操業度は、原則として、1年又は一会計期間において予期される操業度であり、それは、技術的に達成可能な最大操業度ではなく、この期間における生産ならびに販売事情を考慮して定めた操業度である」(参考文献 R1)。↩
- 原価計算基準 第1章4(一)の正常原価の段落。「比較的長期にわたる過去の実際数値を統計的に平準化し、これに将来のすう勢を加味した正常能率、正常操業度および正常価格に基づいて決定される原価」と定義する(参考文献 R1)。↩
- 原価計算基準 前文「原価計算基準の設定について」。「この基準は、個々の企業の原価計算手続を画一に規定するものではなく、個々の企業が有効な原価計算手続を規定し実施するための基本的なわくを明らかにしたものである」(参考文献 R1)。↩
- 原価計算基準 第4章44「原価差異が生ずる場合には、その大きさを算定記録し、これを分析する」、同46(四)(標準原価計算制度)「…これを能率差異、操業度差異等に適当に分析する」。実際原価計算制度の45(五)には予算差異・操業度差異への分解の記述はない(参考文献 R1)。↩
- 原価計算基準 第5章47(一)1「原価差異は、材料受入価格差異を除き、原則として当年度の売上原価に賦課する」、同3(予定価格等が不適当で比較的多額の原価差異が生ずる場合は、個別原価計算では当年度の売上原価と期末のたな卸資産に配賦する)(参考文献 R1)。↩
- IFRS Foundation, IAS 2 Inventories, paragraphs 12–13。固定製造間接費の配賦は通常の生産能力(normal capacity)に基づくこと、低操業や遊休設備を理由に1単位当たりの配賦額を増やさないこと、未配賦の間接費は発生期間の費用とすることが書かれている。同第13項は、実際の生産水準が通常の生産能力に近い場合はそれを用いてもよいこと、異常に高い生産水準の期間は1単位当たりの配賦額を減らすことも定める(訳・要約は編集部による)(参考文献 R3)。↩
- 原価計算基準 第1章5(一)1(3)。非原価項目の例として、長期にわたり休止している設備に関する減価償却費、管理費、租税等の費用を挙げる(参考文献 R1)。↩
参考文献(2026年10月確認)
- R1 企業会計審議会「原価計算基準」(昭和37年11月8日。公益財団法人財務会計基準機構「会計基準検索システム ASSET-ASBJ」掲載) asb-j.jp (参照箇所:前文、第1章4(一)・5(一)、第2章第1節8(四)、第2章第4節33、第3章41(三)、第4章44〜46、第5章47(一)。脚注1・3・4・5・6・7・8・9・10・11・13の根拠。閲覧日:2026年10月2日)
- R2 Corporate Finance Institute「Job Order Costing Guide」 corporatefinanceinstitute.com (予定配賦率で概算する方式という一般的な概念の参考。日本の制度の根拠ではない。脚注2の根拠。閲覧日:2026年10月2日)
- R3 IFRS Foundation「IAS 2 Inventories」(英文) ifrs.org (参照箇所:第12項・第13項。IFRS 会計基準での固定製造間接費の配賦の考え方(日本基準との対比のためにのみ参照)。脚注12の根拠。閲覧日:2026年10月2日)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための学習用の架空事例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。