この記事で分かること

  • 全社PLだけでは事業・製品・顧客の意思決定ができない理由と、分析軸(事業/製品/顧客/チャネル)の選び方
  • 限界利益・貢献利益・配賦後営業利益という「利益の階層」の設計と使い分け(撤退判断は貢献利益で見る)
  • 共通費配賦の3方式(売上高比・人員比・活動基準)と、方式の選択で黒字・赤字が逆転する整数設例
  • 顧客別収益性のホエールカーブの読み方と、値上げ・取引条件見直し・撤退判断への接続

結論:利益は「階層」で設計し、撤退判断は貢献利益で行います

事業別・製品別・顧客別の収益性分析(Segment / Product / Customer Profitability Analysis)で最も重要なのは、利益をひとつの数字ではなく階層で設計することです。売上高から変動費を引いた限界利益(Contribution Margin)、そこからその事業に固有の固定費を引いた貢献利益、さらに本社共通費を配賦した後の配賦後営業利益は、それぞれ答えられる問いが異なります。値付けや増産の判断は限界利益で、事業の撤退・縮小の判断は貢献利益で、全社の説明責任は配賦後営業利益で見るのが原則です。

とくに注意すべきは、共通費の配賦方式(売上高比・人員比・活動基準)の選び方ひとつで、同じ事業が黒字にも赤字にも見えてしまうという事実です。本記事の整数設例では、共通費200百万円の配賦方式を変えるだけで、事業Bの営業利益が+10百万円から△60百万円まで変わる様子を検算付きで確認します。「配賦後に赤字だから撤退」という短絡は、実務で最も多い誤りのひとつです。

なぜ全社PLだけでは意思決定できないのか

損益計算書(PL)は全社の合計値です。全社では営業利益が出ていても、その内訳を分解すると「大きく稼ぐ事業」と「利益を毀損している事業や顧客」が混在しているのが通常です。全社PLしか見ていない会社では、次のような問題が起こります。

第一に、不採算の所在が分からないことです。営業利益率が5%の会社は、「全事業が一律5%」なのではなく、多くの場合15%の事業と赤字の事業の混合です。第二に、資源配分の判断ができないことです。増員・設備投資・広告費をどの事業に厚く配分すべきかは、事業別の利益と投下資本への利回り(ROIC)を並べて初めて議論できます。第三に、価格交渉の根拠が持てないことです。顧客別の採算が見えていなければ、どの顧客に値上げを打診し、どの取引条件を見直すべきかを特定できません。

上場企業であれば、有価証券報告書セグメント情報で事業別の外部開示が行われますが、開示セグメントは経営管理の単位より粗いことが多く、社内の意思決定には社内向けの事業部別損益の設計が別途必要になります。

分析軸の選び方:事業・製品・顧客・チャネル

収益性分析の軸は、「その軸で意思決定を変えられるか」で選びます。代表的な4つの軸と、対応する意思決定は次のとおりです。

分析軸主な意思決定実務上の留意点
事業別撤退・縮小、投資配分、ポートフォリオ入替開示セグメントと管理単位のズレを整理する
製品別価格改定、生産中止(SKU削減)、製品ミックス共用ラインの固定費をどこまで個別費とみなすか
顧客別値上げ・取引条件見直し、営業リソース配分物流費・営業対応コストまで含めて把握する
チャネル別直販/代理店/ECの構成見直し、手数料交渉チャネル固有の販促費・手数料を漏らさない

軸を細かくするほど分析は精緻になりますが、データ整備と更新の負荷も増えます。実務では、まず金額インパクトの大きい軸(多くの会社では事業別と顧客別)から着手し、月次で回る仕組みにしてから細分化するのが定石です。どの軸で管理するかは、KPI設計と一体で決める必要があります。

利益階層の設計:限界利益・貢献利益・配賦後営業利益

分析軸を決めたら、次はその軸ごとのPLを「利益の階層」として設計します。標準形は次の5段階です。

図1:利益の階層(単位:百万円、本文の設例=全社合計) 売上高 1,200 変動費 △690 限界利益 510 個別固定費 △250 貢献利益 260 共通費配賦 △200 営業利益 60(配賦後) ◀ 撤退・縮小の判断はこの段階で行う ◀ 配賦方式の選び方で各事業の数値が変わる 全社では検証・説明責任のために使用
図1:利益の階層。限界利益・貢献利益・配賦後営業利益は答えられる問いが異なる。数値は本文設例の全社合計(百万円)。

各段階の定義と用途は次のとおりです。

(1)限界利益(Contribution Margin)=売上高−変動費。売上が1単位増えたときに増える利益で、限界利益率は値付け・受注可否・増産判断の基礎になります。固定費が回収できる範囲であれば、限界利益がプラスの受注は短期的には利益に貢献します。

(2)貢献利益=限界利益−個別固定費。個別固定費(Traceable Fixed Costs)とは、その事業をやめれば消える固定費で、事業専属の人件費、専用設備の減価償却費、事業専用の広告費などが該当します。撤退・縮小の判断はこの貢献利益で行います。事業をやめても本社共通費は消えないため、配賦後の赤字は撤退の根拠にならないからです。

(3)配賦後営業利益=貢献利益−共通費配賦額。本社人件費、全社システム費、監査報酬などの共通費(Common Costs)を何らかの基準で各事業に割り振った後の利益です。全社利益との整合を確認し、事業責任者に「共通費も含めて稼ぐ」意識を持たせる用途には有効ですが、後述のとおり配賦方式に依存する数値であることを常に意識する必要があります。

なお、変動費と固定費の区分(コスト構造の把握)自体が分析の土台になります。費目別の固変分解の実務はコスト構造分析で詳しく解説しています。

共通費配賦の3方式と、それぞれの歪み

共通費の配賦(Cost Allocation)には、実務上主に3つの方式があります。

①売上高比例:各事業の売上高の比率で配る方式です。計算が簡単で説明しやすい一方、「売れば売るほど共通費を多く負担する」構造になるため、高成長事業や高単価事業が過大に負担し、実際には本社の手間がかかっている小規模事業の負担が過小になる歪みがあります。

②人員比例:各事業の従業員数の比率で配る方式です。人事・総務系の共通費とは対応関係が良い一方、労働集約的な事業が過大に負担し、少人数でシステム負荷や取引処理の多い事業の負担が過小になります。

③活動基準(ABC:Activity-Based Costing):共通費を活動単位(経理処理、システム利用、採用対応など)に分解し、各活動の利用量(コストドライバー)に応じて配る方式です。活動基準原価計算は因果関係に最も忠実ですが、活動量データの収集・更新に手間がかかるため、金額の大きい共通費に絞って適用するのが現実的です。

重要なのは、どの方式にも歪みがあり、方式の選択が各事業の「見かけの利益」を左右するという点です。次の設例で具体的に確認します。

整数設例:配賦方式で事業Bの黒字・赤字が逆転する

2つの事業を持つ会社を考えます(単位:百万円)。事業Aは装置産業型で少人数・高売上、事業Bは労働集約型で人数が多く売上が小さいとします。従業員はA事業40名・B事業60名(計100名)、本社共通費は200です。

項目(百万円)事業A事業B全社
売上高9003001,200
変動費540150690
限界利益(率)360(40%)150(50%)510(42.5%)
個別固定費16090250
貢献利益20060260
共通費(未配賦)200
全社営業利益60

この時点で確認できるのは、事業Bの貢献利益は+60でプラスだということです。では、共通費200を3方式で配賦すると、事業Bの「配賦後営業利益」はどうなるでしょうか。

①売上高比:A:B=900:300=3:1なので、Aに150、Bに50を配賦します。
 事業B=60−50=+10(黒字)/事業A=200−150=50。検算:50+10=60 ✓

②人員比:A:B=40名:60名=2:3なので、Aに80、Bに120を配賦します。
 事業B=60−120=△60(赤字)/事業A=200−80=120。検算:120−60=60 ✓

③活動基準(ABC):共通費200を活動別に分解します。経理・人事系100は取引処理件数比(A:B=6:4)でA60・B40、情報システム費60は利用アカウント・処理量比(A:B=1:2)でA20・B40、経営管理費40は売上高比(3:1)でA30・B10。合計でAに110、Bに90を配賦します。
 事業B=60−90=△30(赤字)/事業A=200−110=90。検算:90−30=60 ✓

配賦方式Aへの配賦Bへの配賦A営業利益B営業利益合計
①売上高比(3:1)1505050+1060
②人員比(2:3)80120120△6060
③活動基準(ABC)1109090△3060

同じ事業Bが、方式①では黒字、方式②③では赤字に見えます。事業Bの実態(貢献利益+60)は何も変わっていないのに、です。全社営業利益はどの方式でも60で一致します(配賦は利益の「分け方」を変えるだけで、総額は変えないため)。この設例が示す実務上の教訓は2つあります。第一に、配賦後利益で事業を評価するなら、配賦ルールを事前に文書化し、期中で変えないこと。第二に、撤退判断には配賦後利益を使わないことです。仮に事業Bを廃止しても、共通費200のうちBに配賦していた金額の大半は消えず、Aが全額負担することになり、全社利益はむしろ貢献利益60の分だけ悪化します。

顧客別収益性:ホエールカーブと値上げ・条件見直し

顧客別の収益性分析(Customer Profitability Analysis)では、売上ではなく顧客別の利益で顧客を並べ替えます。売上上位の「大口顧客」が、実は大幅な値引き・小口多頻度の配送・過剰なカスタマイズ要求によって最大の不採算顧客である、というのは実務で頻繁に観察されるパターンです。

顧客を収益性の高い順に並べ、累積利益をプロットしたグラフはホエールカーブ(Whale Curve)と呼ばれます。多くの企業で「上位2〜3割の顧客が全社利益の150%前後を稼ぎ、下位の顧客がその一部を毀損して100%に戻る」というクジラの背のような形状になることが、活動基準原価計算の提唱者であるKaplanらの研究以来、広く知られています。

図2:顧客別収益性のホエールカーブ(概念図) 0 50 100 150 0% 20% 40% 60% 80% 100% 顧客の累積比率(収益性の高い順、%) 累積利益(全社営業利益=100) ピーク:上位35%の顧客で利益の約1.5倍 下位の顧客が利益の約3分の1を毀損 100%時点=全社利益(100)に戻る
図2:ホエールカーブ(概念図)。ピークと100の差が「不採算顧客による利益毀損額」を示す。

ホエールカーブから読み取るべきは、ピークの高さと100との差、すなわち下位顧客による利益毀損額です。この毀損は「切るべき顧客リスト」ではなく、打ち手の優先順位表として使います。具体的には、①価格改定(値上げ・値引き縮小)、②取引条件の見直し(最低発注ロット、配送頻度、支払サイト、特別対応の有償化)、③サービス水準の調整、④それでも改善しない場合の取引縮小・終了、という順で検討します。値上げや条件見直しで採算が改善すれば、その顧客はカーブの右側から左側へ移動します。

あわせて確認したいのが顧客集中度(Customer Concentration)です。売上でも利益でも、上位数社への依存度が高い場合、その顧客からの値下げ圧力・失注が全社を直撃します。上位5社・10社の売上構成比と利益構成比を並べ、両者のズレ(売上は大きいが利益は小さい顧客)を特定することが、価格交渉の出発点になります。

撤退・縮小判断のフレーム

事業や製品の撤退・縮小は、次の順序で検討するのが原則です。

ステップ1:貢献利益の符号を確認する。貢献利益がプラスなら、その事業は共通費の回収に貢献しています。撤退すれば貢献利益分だけ全社利益が悪化するため、まず改善(値上げ・変動費率改善・個別固定費削減)を検討します。

ステップ2:貢献利益がマイナスなら、回避可能コストを精査する。撤退で本当に消える費用(回避可能コスト)と、残る費用(撤退後もリースが残る設備、転用される人員など)を分けます。判断基準は「撤退後の全社利益>現状の全社利益」となるかどうかです。

ステップ3:定量以外の要素を加味する。他事業とのシナジー(共同購買・クロスセル)、顧客への供給責任、雇用・拠点への影響、再参入の困難さを検討します。また、継続の場合も投下資本に見合うかという視点(ROICが資本コストを上回るか)での検証が必要です。経済産業省「事業再編実務指針」(2020年)も、事業ポートフォリオの見直しにあたり資本収益性(ROIC)と成長性の両面から事業を評価する枠組みを示しています。

よくある間違い

①配賦後赤字だけで撤退を判断する:本記事の設例のとおり、配賦後利益は方式依存です。撤退判断は貢献利益と回避可能コストで行います。

②限界利益率の高い製品を無条件に優先する:生産能力や営業リソースに制約がある場合は、「制約単位あたりの限界利益」(例:機械1時間あたり限界利益)で優先順位を付けなければ誤ります。

③個別固定費と共通費の線引きが曖昧なまま運用する:「その事業をやめたら消えるか」で線を引き、判定に迷う費目は文書化します。線引きが曖昧だと、貢献利益が交渉次第の数字になり、事業部間の不毛な配賦論争を招きます。

④配賦ルールを頻繁に変える:ルール変更は期間比較を壊し、「今期の悪化は配賦のせい」という言い訳の温床になります。変更する場合は期初に、遡及計算とセットで行います。

⑤顧客別分析で販売直接費しか見ない:物流費・営業工数・特別対応コストまで含めないと、手間のかかる顧客の不採算が見えません。ここは活動基準の考え方が最も効く領域です。

面接での答え方(30秒回答例)

Q:赤字事業から撤退すべきかをどう判断しますか?
「まず、その赤字が配賦後の数字なのか貢献利益ベースなのかを確認します。撤退判断は、事業をやめれば消える費用だけを引いた貢献利益で行うのが原則で、貢献利益がプラスなら撤退はむしろ全社利益を悪化させます。共通費は撤退しても消えないためです。貢献利益がマイナスの場合も、値上げや個別固定費削減による改善余地と回避可能コストを精査し、撤退後の全社利益が現状を上回るかで判断します。あわせてROICで資本効率も確認します。」

よくある質問(FAQ)

Q. 貢献利益と限界利益はどう違いますか?
A. 限界利益は「売上高−変動費」で、売上の増減に連動する利益です。貢献利益はそこからさらに「その事業に固有の固定費(個別固定費)」を引いたもので、その事業が本社共通費の回収と全社利益にいくら貢献しているかを示します。日本の管理会計実務では両者の呼称が揺れることがあるため、社内では計算式を明示して定義を固定することが重要です。

Q. 共通費はそもそも配賦しない方がよいのでしょうか?
A. 目的によります。事業の存廃や業績評価の公平性を重視するなら、共通費を配賦せず貢献利益までで管理し、共通費は本社側の削減目標として別管理する設計が有力です。一方、値決めの総原価把握や「共通費も含めて稼ぐ」という意識付けには配賦後利益が有効です。多くの会社では、貢献利益と配賦後利益の両方を段階表示し、用途で使い分けています。

まとめ

事業別・製品別・顧客別の収益性分析は、「利益の階層」の設計から始まります。値付けと増産は限界利益、撤退・縮小は貢献利益、全社の説明は配賦後営業利益と、問いに応じて見る利益を使い分けることが本質です。共通費配賦は売上高比・人員比・活動基準のいずれにも歪みがあり、方式次第で事業の黒字・赤字が逆転し得るため、ルールの文書化と固定が欠かせません。顧客別ではホエールカーブで利益毀損の所在を特定し、値上げ・取引条件見直しにつなげます。分析は作って終わりではなく、月次で回して意思決定に接続して初めて価値を持ちます。

出典・参考(2026-08-01確認)

  • 企業会計基準委員会(ASBJ)「企業会計基準第17号 セグメント情報等の開示に関する会計基準」
  • 金融庁 EDINET(有価証券報告書のセグメント情報開示例)
  • 経済産業省「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~」(2020年7月)
  • Robin Cooper and Robert S. Kaplan, “Measure Costs Right: Make the Right Decisions,” Harvard Business Review(1988年9-10月号)
  • Robert S. Kaplan and Steven R. Anderson, “Time-Driven Activity-Based Costing,” Harvard Business Review(2004年11月号)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。