想定読者:株式アナリスト、運用会社のリサーチ担当、PEやFASで上場比較会社を分析する担当、IR・経営企画の担当
前提知識:ROE・PBR・営業利益の基本(ファクターや回帰の用語は本文で説明します)

銘柄スクリーニングの条件は、放っておくと増える。ROEが高い、Fスコアが高い、借入が少ない、株価の振れが小さい。どれも「質の高い会社」を選ぶ条件に見えるが、4つの条件は4つの別々の情報なのだろうか。同じ情報を4回数えているだけなら、候補を絞る理由も、期待するリターンの源泉も、説明の筋が変わってくる。

この問いに正面から答えようとしたのが、収益性プレミアムの代表的な研究の著者 Robert Novy-Marx と、運用会社の Mamdouh Medhat による2025年の論文である。結論は強い言い方で書かれている。ただし、未査読であり、著者には運用会社との関係があり、日本を含む米国外の分析はあるが日本単独の結果は示されない。何が示され、どこからが推論なのかを分けて読む必要がある。

この記事が主に参照する研究

Novy-Marx, R. and M. Medhat(2025)「Profitability Retrospective: What Have We Learned?」NBER Working Paper No. 33601

  • 公表:初版 2025年3月(NBER WP)。参照した版:同(78ページ)。査読:未査読(WP)1
  • データ:米国株(主な標本は1963年または1974年から2023年まで)。米国以外の先進国・新興国は1990年代から2023年まで
  • 方法:ファクターの時系列回帰と、銘柄の横断回帰。相関の分析であり、因果の識別ではない
  • 位置づけ:新理論ではなく、第1著者が2013年に示した収益性プレミアムの総括。既存理論を、期間と比較対象を広げて検証したもの
  • 利害関係:第2著者は運用会社 Dimensional の従業員、第1著者は同社のコンサルタント2

同じ​賭けか​どうかを​測る​道具

論文を読むには3つの概念が要る。1つ目はファクターで、ある性質の高い銘柄群を買い、低い銘柄群を売る仮想のポートフォリオを指す。2つ目はアルファ​(α)で、既知のファクターで説明できないリターンの部分である。3つ目がスパニング検定で、戦略Aを戦略Bと他の要因で回帰し、Aのαが残るかを見る。残らなければ、Bを持てる投資家にとってAを足す利点は統計的に確認できない。AとBを入れ替えて両方向で調べると、どちらが他方を含むのかが分かる。

「クオリティ」には定まった定義がなく、著者はマーケティング用語だとさえ書く3。そこで論文は、学界と運用業界で使われる12の指標を並べた。ROE、EPSの安定性、レバレッジ、それらを合成したQスコア、ネットの株主還元、ROIC、Piotroski のFスコア、2種類の破綻確率、Graham の基準に基づくGスコア、低ベータ、低ボラティリティである4。

比べる相手の収益性(論文の略称は PROF)は、次の式で測る5。

PROF の基礎になる比率 =(売上高 − 売上原価 − 研究開発費を除く販管費 − 支払利息)÷(自己資本 + 非支配持分)

Fama-French の5ファクターモデルの収益性ファクター RMW との違いは、研究開発費を費用として引かない点だけである6。

研究が​実際に​示した​結果

クオリティ​指標と​収益性の​関係は​片方向だった

1974年7月〜2023年12月の米国株で、PROF の平均超過リターンは月45bp(t=6.26)、市場・規模・バリュー・モメンタムを調整した4ファクターαは月48bp(t=6.96)だった7。単純に12倍すると年5.4%である。他の12指標はいずれも有意な平均超過リターンを持たず、4ファクターαは全て正で、そのうち7指標が有意だった8。

ここに PROF と投資ファクターを加える。図1のとおり、7指標のt値は0の近くか負に動いた。12指標のどれにも有意な正のαは確認されず、有意だったのは ROE の負のαだけである9。逆に、各指標を説明変数に入れても PROF のαのt値は5.81〜7.15で残った10。12指標の多くは PROF への係数が正で、8指標では他のどの要因より大きかった11。

図1図1 クオリティ指標のαのt値収益性を入れる前収益性などを加えた後−202ROEROICFスコアQスコア破綻確率Gスコア低ボラ
図1 米国の​クオリティ​指標の​αの​t値は、​収益性を​加えると​どう​変わるか​(1974年7月〜2023年12月)。​4ファクターαが​有意だった​7指標を​表示。​「加えた後」は​市場・​規模・​バリュー・​投資・​モメンタムに PROF を​加えた回帰の​α。​投資​ファクターも​同時に​加えている​ため、​変化の​全部が​収益性に​よるとは​言えない。​点線は t=±2 の​目安。​出所:R1(p.35 表A1、p.36 表A2)の​数値を​基に​大手町​プレップ​作成。

著名なクオリティ・ファクターも同じ扱いを受けた。Asness らが提案した QMJ は、平均月39bp(t=3.98)、3ファクターα月64bp(t=8.16)と強いが、PROF だけを説明変数にするとαは月−1bp(t=−0.11)となった12。Hou らの ROE ファクターは平均月54bp(t=4.92)だが、決算サプライズ後の株価の動きを捉える PEAD ファクターだけでαが月4bp(t=0.46)まで下がる13。この ROE ファクターは直近の四半期決算で作るため、持続的な収益性よりも前年比の変化に左右されると著者は説明する14。ROE と呼ばれる指標の中に、性質の違う2つの情報が混ざっている可能性を示す結果である。

低リスク​戦略の​αも​収益性と​投資に​吸収された

低ベータ・低ボラの戦略は、リスクとリターンの関係に反する例として知られる。1963年7月〜2023年12月の米国で、低ベータから高ベータを引いた戦略のαは、CAPMで月40bp(t=2.52)、3ファクターで月29bp(t=1.97)、収益性と投資を加えた5ファクターで月−9bp(t=−0.59)だった15。低ボラは月60bp、月56bp、月3bpと動いた16。図2の金色の棒が、その到達点である。

図2図2 低リスク戦略のα(月次)低ベータ(低−高)CAPM40bp(t=2.52)3ファクター29bp(t=1.97)5ファクター−9bp(t=−0.59)低ボラ(低−高)CAPM60bp(t=3.04)3ファクター56bp(t=3.93)5ファクター3bp(t=0.22)
図2 低​ベータ・​低ボラ​戦略の​αは、​収益性と​投資を​加えると​消える​(米国、1963年7月〜2023年12月)。​NYSE​基準の​五分位の​低リスク​群から​高リスク群を​引いた​戦略。​単位は​月次の​bp。​5ファクターは​市場・​規模・​バリュー・​PROF・​投資。​出所:R1(p.15 表3、p.20 表5)の​数値を​基に​大手町​プレップ​作成。

買い持ちだけの投資家についても、高収益かつ低投資の銘柄80%と短期国債20%の組み合わせは、平均月58bp・年率ボラティリティ11.6%・年率シャープレシオ0.60で、低ベータ(0.54)、低ボラ(0.56)、市場(0.44)を上回り、低リスク株の超過分を説明した17。米国以外の先進国でも低リスク戦略は5ファクターで説明され、新興国ではそもそも有意なαがなかった18。

「改良バリュー」の​超過分は​収益性への​傾きだった

EBITDA/EV や無形資産調整後の PBR など、12の代替バリュー指標は、いずれも3ファクターαが正で、5ファクターでは有意でなくなった。平均すると、バリューへの係数0.71に加えて収益性への係数0.46を持っていた19。EBITDA/EV の場合、3ファクターαは月25bp(t=4.03)、5ファクターαは月−2bp(t=−0.30)である20。著者の見立てでは、これらは新しい価値尺度というより、バリューと収益性を混ぜ直したものであり、収益性を別に持てる投資家の投資機会を広げない21。

2007年以降のバリュー不振も分解された。HML の平均は1963年7月〜2006年12月の月47bpから、2007年1月〜2023年12月の月−17bpへ、月64bp低下した22。同じ後期に PROF の平均は月31bpから月60bpへ上がり、HML の PROF への係数は−0.57だったため、月35bpの押し下げになった。差の約55%にあたり、著者はこれを「半分」と表現する23。残りの月29bpについては一因として業種の偏りが挙げられ、後期の PROF の成績は持続不可能だと著者自身が述べている24。

実務に近いのは表8の結果である。五分位の単純なバリュー戦略は後期に月−31bpだったが、同業内で PBR を比べると月−5bp、収益性の近い銘柄どうしで比べると月−12bp、両方を行うと月+12bp(有意ではない)まで改善した25。低い株価が「割引率の高さ」を示すのか「利益の低さ」や「業種の資本構造」を示すのかを分ける、という考え方である。

測り方の​比較:研究開発費を​足し戻すと​強くなり、​キャッシュベースは​単独では​及ばない

付録では収益性の測り方そのものが比較された。表1の米国全期間の列では、研究開発費を足し戻した OPR&D のt値が最も高い。同時に回帰に入れると、OPR&D は OP と COP の説明力を吸収した26。研究開発費の係数は正、それ以外の販管費の係数は負で、両者を同じ費用として扱うのは将来リターンの予測には不適切だと著者は論じる27。

表1 どの利益で測ると株式リターンをよく説明するか(Fama-MacBeth回帰のt値など)

表は横にスクロールできます →

指標利益の定義米国 全期間米国 2000年以降米国以外の先進国各利益指標自身の10年間の増加
OP売上高−売上原価−販管費(研究開発費を含む)−支払利息5.851.945.600.16(t=1.51)
OPR&DOP+研究開発費7.913.436.210.35(t=2.59)
COPOP−発生高4.571.045.36検定なし
COPR&DOP−発生高+研究開発費6.602.426.05−0.33(t=−4.56)
出所:R1(p.57 表​B3 列1〜4、​p.69 表​D1 パネル​B、​p.70 表​D2、​p.59 表​B4 パネル​B)の​数値を​基に​大手町​プレップ​作成。​米国は​全期間が​1963年7月〜2023年12月、​2000年以降が​2000年1月〜2023年12月、​米国以外の​先進国は​1990年7月〜2023年12月。​いずれも​分母は​自己資本+非支配持分で、​規模・​バリュー・​資産成長・​過去​リターンを​統制。​ただし米国以外の​先進国は、​説明変数を​国別の​時価総額累積分布の​百分位に​変換し、​発生高も​売掛金・​棚卸資産・​買掛金の​増減で​定義するなど、​米国と​仕様が​異なる​ため、​t値の​大きさは​米国の​列と​直接​比べない。​右端は​米国の、​各利益指標自身の​10年間の​増加額を、​現在の​同じ​指標の​水準で​説明した​係数​(どちらも​現在の​自己資本+非支配持分で​割る。​1962〜2023年度、​規模などを​統制)。​純利益の​成長率ではない。

発生高を引いたキャッシュベースの指標は、リターン予測では OPR&D を上回らなかった。同時に回帰に入れると COPR&D にも追加の説明力が残るが(t=2.57。OPR&D は5.69)、2000年以降の標本では有意でない。各指標自身の10年間の増加については、OPR&D の係数が統制後も正なのに対し、COPR&D は負だった28。もっとも、これは発生高が無意味だという意味ではない。利益の内訳を入れた回帰で、発生高の係数は負で有意だった29。分子を置き換えるより、別の変数として見るほうが、この結果とは整合的である。

対象・方法・​適用範囲と​限界

次の点に注意が要る。

  • まず研究の性格である。未査読のWPで、第1著者は収益性プレミアムの代表的な研究の著者であり、運用会社との利害関係も開示されている。低リスク戦略やクオリティを収益性で説明する主張の方向性は、第1著者が2014年に公表した2本の研究にすでにある30。新発見というより、期間と比較対象を広げた総括と読むのが正確である。
  • 結論は定義に依存する。PROF を標準の RMW に替えると、RMW は QMJ を説明しきれず、QMJ のαが残り、逆に QMJ が RMW を説明した31。研究開発費を足し戻すという1点の違いで、「包摂する側」が入れ替わる。
  • 「クオリティ全体」と言っても、比較された12指標に、発生高だけで作る利益の質の戦略は入っていない32。2014年の第1著者の研究では、小型株でこの戦略は粗利益に包摂されない例外だった33。
  • 表の注記に取引費用の控除の記載はない34。t値は運用成績の保証ではなく、過去の平均と変動から計算した統計量である。
  • 効果は時期で変わる。表1の2000年以降の列を見ると、どの指標もt値が下がり、OP は1.94、COP は1.04だった。t値は標本の長さにも左右されるが、OPR&D の係数も1963〜1999年の1.42から0.61へ下がった35。米国以外の先進国では、OPR&D 自身の10年間の増加に対する統制後の係数は−0.08(t=−1.81)で、米国のような正の値にならない36。
  • 反論もある。Blitz らは買い持ちでは低リスクは別個の要因だと主張しており、本研究はそれに再反論した形である37。

大手町​プレップの​考察

ここからは編集部の推論であり、論文が検証した内容ではない。

第1に、スクリーニングは条件の数でなく、独立した情報の数で評価すべきだと考えられる。研究の結果が日本でも成り立つかは別として、ROE・ROIC・Fスコアを併用すると収益性への傾きを重ねているだけかもしれない、という疑いは、自分の銘柄リストで確かめられる。破綻確率や負債比率は、期待リターンの指標としては重複していても、与信やダウンサイドの確認という別の目的で残す意味がある。

第2に、PROF も分母は自己資本である。支払利息を引いているとはいえ、借入の多い会社の比率は高く出やすい。論文は総資産で割る指標との優劣を直接比べてはいない38。低レバレッジ戦略がグロースに傾くだけで高収益に傾かないという結果も39、借入の多寡と収益性が別の情報であることを示唆する。実務では ROIC や総資産ベースの比率を併記しておくのが安全だろう。

第3に、収益性は価格と独立には使えない。PROF はバリューに負の係数を持つグロース寄りの戦略であり40、著者も従来のバリューとの組み合わせを勧めている41。「収益性が高いから買う」は研究の含意ではない。低PBRの銘柄を見るときに、同業で比べ、収益性の近い会社どうしで比べるのは、バリュートラップを避ける手順として筋が通ると考える。

日本の​実務への​応用

最初に確認すべきは、日本で同じ結果が出る保証がないことである。論文の米国以外の分析には日本も含まれるが、国別の結果はない42。別の研究では、Fama と French が日本について平均リターンは B/M と強く関係する一方、収益性や投資とはほとんど関係しないと報告し43、Kubota と Takehara は1978〜2014年の日本で RMW と CMA が GMM 検定で有意でないとした44。Moriya と Noda の未査読の研究も、1990〜2023年の日本で両ファクターのプレミアムが有意でない期間が多いと報告している45。これらは主に標準の RMW の結果で、研究開発費を足し戻した指標が日本でどうかは、今回の調査では確認できなかった。

それでも算出手順を整える価値はある。東証の2023年の要請は、プライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割がROE8%未満・PBR1倍割れであることを課題に挙げる一方、どの指標を使うかに一律の定めはないとしている46。PBR改善の​議論で ROE だけを見ると、本業の収益性と資本構成、一時的な損益が混ざる。分解のための物差しとして使える。

日本の開示から組むときの対応づけを、編集部の整理として示す。分子は「売上総利益 − 販管費 + 研究開発費 − 支払利息」、分母は「純資産 − 株式引受権 − 新株予約権」が近い47。ただし3点で米国データと異なる。

  • 研究開発費の置き場所。日本基準では発生時に費用処理し、一般管理費または当期製造費用として扱い、総額を注記する48。注記の総額には当期製造費用に含まれた分も入り得る。注記の総額を足すのが論文の考え方に近いが、その分は販管費の内訳には現れないため、足し戻す額を総額と販管費の分のどちらで取ったか、研究開発費の​調整の前提を書き残す必要がある。
  • IFRS 適用会社。要件を満たす開発支出は無形資産に計上される49。同じ研究開発活動でも費用化の額が異なるため、会計基準の​違いを揃えずに順位づけしない。営業利益も、その他の収益・費用を含むかを確かめ、売上総利益と販管費から組み直すほうが比較しやすい。
  • ROE の分子。論文の ROE は特別項目前の利益で作られている50。日本で開示される ROE は親会社株主に帰属する当期純利益が基礎で、固定資産売却益などの特別損益を含む51。論文の ROE の結果をそのまま開示 ROE に当てはめることはできない。

設例:3社の​順位は​どう​入れ替わるか

学習用の設例(架空)

売上高が同じ架空の3社を比べる。甲社は研究開発費が重い精密部品メーカー、乙社は純資産が薄い卸売業者、丙社は土地の売却益を計上した機械メーカー。前提は表2の注のとおりで、実在の会社・統計とは関係がない。

表2 学習用の設例(架空):3社のROEと営業収益性(単位:百万円)

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項目甲社(精密部品)乙社(卸売)丙社(機械)
売上高100,000100,000100,000
売上原価58,00086,00075,000
販管費30,00010,00020,000
うち研究開発費7,00001,000
支払利息2001,000300
特別利益008,000
純資産(自己資本)90,00015,00060,000
営業利益−支払利息(OP)11,8003,0004,700
OP+研究開発費(OPR&D)18,8003,0005,700
ROE9.2%14.0%14.8%
OP÷純資産13.1%20.0%7.8%
OPR&D÷純資産20.9%20.0%9.5%
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ​作成。​税率は​30%。​当期純利益=​(OP+特別利益)×0.7。​株式引受権・​新株予約権・​非支配株主持分は​ない​ものとする。​研究開発費は​すべて​販管費に​含まれる​ものとする。

ROE の順位は丙社14.8%、乙社14.0%、甲社9.2%となる。OPR&D で測ると甲社20.9%、乙社20.0%、丙社9.5%と逆になる。丙社は特別利益8,000百万円を除くと ROE が5.5%まで下がる。甲社は、研究開発費を費用のまま見た OP 比率13.1%では乙社に及ばない。

この順位は前提に敏感である。表2では研究開発費がすべて販管費に入るとして全額を足し戻した。一部が当期製造費用に入り、足し戻しを販管費の分に限るなら、その割合が70%で比率は18.6%、40%で16.2%となり、いずれも乙社の20.0%を下回る。乙社の高さも資本構成に支えられている。有利子負債を30,000百万円と仮定し、その半分の15,000百万円を自己資本に置き換えると、支払利息は500百万円になり、比率は11.7%まで下がる。指標を一つ選んでも、足し戻しと分母の前提を明記しなければ順位は説明できない。

明日から​使える​確認項目

閾値はいずれも編集部の仮の目安で、研究で検証されたものではない。

  1. 条件の棚卸し。候補リストについて、各クオリティ条件の順位と OPR&D 比率の順位の順位相関を計算し、0.7以上の条件はどちらか一方に絞る。残す条件には「与信確認」など目的を書く。
  2. 分子の組み立て。売上総利益、販管費、支払利息、研究開発費の4項目を有価証券報告書から取り、最低5期分を並べる。単年の順位では判断しない。
  3. 研究開発費の確認。「注記の総額のうち、販管費に入っている額はいくらか」を有価証券報告書で確かめ、分からなければ足し戻す割合を100%と50%の2通りで計算する。順位が変わる銘柄には印を付ける。
  4. ROE の分離。開示 ROE から特別損益(税引後の概算)を除いた値を横に置き、差が2%ポイントを超える銘柄は理由を確認する。
  5. 分母の点検。負債資本倍率が同業中央値の2倍を超える銘柄は、ROIC か総資産ベースの比率を併記する。
  6. 発生高は別枠で見る。発生高を簡便に(当期純利益−営業キャッシュフロー)÷総資産で求めて同業と比べ、分子には混ぜない。
  7. 価格は同業・同水準で比べる。業種内の相対PBRを取り、収益性の近い銘柄どうしで並べてから割安度を判断する。
  8. 日本での自己検証。使う前に、対象銘柄・期間・リバランス・取引費用を明記して過去検証する(バックテストの​設計を参照)。IR・経営企画の場合は「ROE の前年差のうち、本業の収益性・資本構成・特別損益の寄与はそれぞれいくらか」を説明できるようにしておく。

よく​ある​質問

ROE は​もう​使わない​ほうが​よいのですか。

そうではありません。​この​研究が​示したのは、​米国の​標本で、​収益性​ファクターを​持てる​投資家に​とって ROE ファクターを​足す統計的な​利点が​確認されなかったと​いう​ことです。​資本効率の​説明や​経営目標の​指標と​しての​役割を​否定した​ものではありません。

粗利益と​営業利益の​どちらで​測るべきですか。

比較された​指標の​中では、​研究開発費を​足し戻した​営業利益​ベースが​最も​強い​結果でしたが、​表1の​回帰に​粗利益​その​ものは​含まれていません。​粗利益率が​高くても​販管費が​重い​業態は​ある​ため、​両方を​見るのが​現実的です。

​日本株でも​収益性の​高い​銘柄を​選べば超​過リターンを​得られますか。

分かりません。​日本では​収益性​ファクターが​弱いと​する​研究が​あり、​研究開発費を​足し戻した​指標の​日本での​検証も​今回は​確認できませんでした。​本記事は​投資助言ではありません。

まとめ

Novy-Marx と Medhat は、米国の長期データで、多くのクオリティ指標、低リスク戦略、代替バリューの超過分が収益性などの共通要因で説明できることを示した。ただしこれは未査読の総括で、結論は収益性の定義に依存し、日本単独の結果は示されていない。実務に持ち帰れるのは「収益性が万能だ」という結論ではなく、条件の重複を疑い、利益の中身と分母を分け、前提を書き残す手順である。日本では、その手順を自分のデータで検証するところから始めることになる。

脚注

  1. R1 の版:NBER Working Paper 33601(2025年3月、78ページ)。SSRN にも同題の掲載がある(5190788・5178543。Crossref の登録はいずれも2025年3月)。掲載誌の情報は Crossref・著者の CV(2026年10月30日取得)で確認できず、CV でも Working Papers に載っている。本稿のページは PDF のページで示す(印刷されたページ番号+2)。↩
  2. R1(NBER WP, 2025年3月)p.1・p.78。Mamdouh Medhat は Dimensional Investment LLC の listed employee、Robert Novy-Marx は Dimensional Fund Advisors にコンサルティングを提供している。p.78 には Fama と French も同社の取締役会の構成員である旨の記載がある。↩
  3. R1(NBER WP, 2025年3月)p.5。著者は “really a marketing term” と書いている。↩
  4. R1(NBER WP, 2025年3月)p.6 表1、p.33〜34 付録A.1。ROE は特別項目前利益(IB)÷自己資本、ROIC は EBIT÷(有形固定資産の取得原価ベース+運転資本)。↩
  5. R1(NBER WP, 2025年3月)p.6 表1、p.7 注5、p.38 付録A.3。分子の項目は Compustat の REVT−COGS−(XSGA−XRD)−XINT、分母は BE+MIB。↩
  6. R1(NBER WP, 2025年3月)p.7 注5。Compustat の XSGA には研究開発費(XRD)が含まれる。↩
  7. R1(NBER WP, 2025年3月)p.6・p.35 表A1。単純12倍の年率換算は編集部の計算で、複利や費用は考慮していない。↩
  8. R1(NBER WP, 2025年3月)p.7〜8、p.35 表A1。12指標のうち平均超過リターンの t 値が最大のものは ROE の 1.96。著者はこの水準を有意と扱っていない。↩
  9. R1(NBER WP, 2025年3月)p.8、p.36 表A2 パネルA。説明変数は PROF、市場、規模、バリュー、投資、モメンタム。ROE のαは月−14bp(t=−2.45)。ROIC は月−13bp(t=−1.80)で、5%水準では有意でない。↩
  10. R1(NBER WP, 2025年3月)p.8、p.37 表A2 パネルB。最小値・最大値は表の12行から編集部が抽出。著者は “always around six” と表現している。↩
  11. R1(NBER WP, 2025年3月)p.8。低レバレッジ戦略を除く11指標の PROF の係数は正で、平均は0.5近く、12指標中8つは他のどの要因より PROF の係数が大きい。↩
  12. R1(NBER WP, 2025年3月)p.10〜12、p.11 表2 パネルA 列1〜3。標本は1974年7月〜2024年6月。↩
  13. R1(NBER WP, 2025年3月)p.12、p.11 表2。PEAD のみに対する結果は著者が本文で “untabulated” として示した数値。著者は ROE ファクターを PEAD の “dirty” な版と表現している。↩
  14. R1(NBER WP, 2025年3月)p.10 注8。↩
  15. R1(NBER WP, 2025年3月)p.15 表3 パネルB〜D、p.16。5ファクターの低−高の係数は PROF 0.40、CMA 0.87。↩
  16. R1(NBER WP, 2025年3月)p.20 表5 パネルB〜D、p.21。5ファクターの低−高の係数は PROF 0.81、CMA 0.63。↩
  17. R1(NBER WP, 2025年3月)p.41〜43 付録A.5、表A5。高収益・低投資はいずれも NYSE の中央値基準。p.42 は volatility を年率と明記していないが、月58bp×12÷11.6%=0.60 となり、シャープレシオとともに年率の数値と判断した(編集部の確認)。低リスク株のこのポートフォリオに対するαは月4bp(t=0.59)と月0bp(t=0.05)。↩
  18. R1(NBER WP, 2025年3月)p.22、p.46、p.47〜50 表A7〜A10。米国以外の先進国の5ファクターαは低ベータ月3bp(t=0.15)、低ボラ月1bp(t=0.07)。↩
  19. R1(NBER WP, 2025年3月)p.24〜27、p.26 表7。12指標の HML の平均係数0.71、PROF の平均係数0.46(p.27)。ただし3ファクターαの t 値は売上高株価比率1.64、予想益回り1.55など、2を下回るものもある。↩
  20. R1(NBER WP, 2025年3月)p.26 表7。標本は1963年7月〜2023年12月。↩
  21. R1(NBER WP, 2025年3月)p.4〜5(注2)、p.23(4.1節)。↩
  22. R1(NBER WP, 2025年3月)p.27 4.2節。HML の差は月64bp(t=2.59)。↩
  23. R1(NBER WP, 2025年3月)p.28。著者はこれを不振の半分と表現している。55%は35bp÷64bp の編集部の計算。なお係数−0.57と PROF の後期平均月60bp の単純な積は月34.2bp で、本文の35bp とは差がある(丸めによるものかは原典から確定できない)。本稿は原典本文の35bp を用いた。↩
  24. R1(NBER WP, 2025年3月)p.28。後期の PROF のシャープレシオは1.16。業種の偏りの分析は p.28〜29。↩
  25. R1(NBER WP, 2025年3月)p.29〜31、p.31 表8、p.32 注24。単純バリューの月−31bp は NYSE 五分位の差で、HML の月−17bp とは構成が異なる。PMIRV の後期の月12bp は t=0.72 で、有意ではない。全期間の平均は単純バリュー月25bp(t=1.92)、PMIRV 月42bp(t=4.73)。↩
  26. R1(NBER WP, 2025年3月)p.57 表B3 列1〜7。時価総額を重みとする加重最小二乗法。OP と OPR&D を同時に入れた列5では OP が−1.00(t=−1.96)、OPR&D が1.99(t=4.11)。COPR&D を同時に入れた列7では OPR&D の t=5.69、COPR&D の t=2.57。↩
  27. R1(NBER WP, 2025年3月)p.55・p.56 表B2 列3。研究開発費の係数1.09(t=2.07)、研究開発費を除く販管費の係数−0.48(t=−2.95)。↩
  28. R1(NBER WP, 2025年3月)p.57 表B3 列7(OPR&D の t=5.69、COPR&D の t=2.57)、p.69 表D1 パネルB 列7(OPR&D の t=2.97、COPR&D の t=−0.17)。10年間の増加は p.58、p.59 表B4 パネルB 列2・4・6で、各指標の増加額と現在の水準をともに現在の自己資本+非支配持分で割って回帰したもの。純利益の成長率ではない。↩
  29. R1(NBER WP, 2025年3月)p.56 表B2 列4〜6。発生高の係数は−0.48〜−0.52、t 値は−3.34〜−3.69。↩
  30. R2(NBER WP, 2014年10月)p.2(要旨)、R3(2014年の working paper)p.1。R3 は7つの指標を比較し、1963年7月〜2013年12月の標本で粗利益が他の指標の力の大半を包摂すると報告した。↩
  31. R1(NBER WP, 2025年3月)p.12 注9、p.65 表C2。表C2 の QMJ のαは RMW に対して月16bp(t=2.23)、他の要因を加えると月26bp(t=4.38)。逆に RMW のαは QMJ で説明された。付録Cは、PROF を RMW に替えて結果が実質的に変わるのは2か所と述べる(p.8 の脚注)。もう1か所は銘柄数で区切った低ボラ戦略(p.21 注19)。↩
  32. R1(NBER WP, 2025年3月)p.6 表1。QMJ の収益性スコアには発生高が含まれるが(p.10)、発生高単独の戦略は比較対象の12指標にない。↩
  33. R3 p.16。小型株の標本で、粗利益は他の戦略を包摂したが earnings quality は例外だった。↩
  34. R1(NBER WP, 2025年3月)の表の注記に、取引費用を控除したとの記載はない(p.15、p.26 ほか)。回転率と費用への言及は p.22 にある。これに対し R3 は取引費用の推定値を控除した結果を示している(R3 p.11 の表の注記)。↩
  35. R1(NBER WP, 2025年3月)p.69 表D1。1963〜1999年の t 値は OP 5.78、OPR&D 7.21、COP 4.84、COPR&D 6.31。著者が後期で “even stronger” と述べるのは OPR&D が他の指標を包摂する度合いのことで(p.57〜58)、t 値の水準自体は低下している。OPR&D の係数1.42(1963〜1999年)・0.61(2000〜2023年)も同表。t値の低下を標本の長さと関連づけた説明は編集部による。↩
  36. R1(NBER WP, 2025年3月)p.58、p.72 表D4 パネルB 列4。著者は米国以外の結果を “qualitatively similar, albeit noisier” と記述している。表D4 は被説明変数・説明変数とも国別の時価総額累積分布の百分位に変換しており、係数の大きさは米国(p.59 表B4)と比べられないため、本文では符号の違いだけを述べた。↩
  37. R1(NBER WP, 2025年3月)p.14 注14、p.41。Blitz et al.(R6)の本文は確認しておらず、主張は R1 の引用による。↩
  38. R1(NBER WP, 2025年3月)p.55 表B1 は総資産で割る指標も文献として挙げるが、p.57 表B3 の比較はいずれも自己資本+非支配持分で割った指標どうしで、分母の優劣は検定していない。↩
  39. R1(NBER WP, 2025年3月)p.8。低レバレッジ戦略はグロースに強く傾くが高収益には傾かない。↩
  40. R1(NBER WP, 2025年3月)p.35 表A1(HML の係数−0.15、t=−6.52)、p.38。↩
  41. R1(NBER WP, 2025年3月)p.4。著者は、代替バリューより、従来のバリューと収益性を直接組み合わせる方がよいと述べている。↩
  42. R1(NBER WP, 2025年3月)p.39 表A3 の注、p.46 注26、p.70 表D2。日本は地域区分の一つで、国別の結果は示されていない。↩
  43. R4 の要旨(シカゴ大学 Booth の論文ページ)。本文は確認していない。↩
  44. R5 の要旨(IDEAS/RePEc)。本文は確認していない。↩
  45. R7(arXiv, 2024年6月4日版)p.8、p.11。標本は1990年7月〜2023年6月。未査読の WP で、著者は「RMW・CMA は日本株の説明に必要ではない」趣旨を述べている。↩
  46. 東京証券取引所「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」(2023年3月31日)PDF p.2・p.4。↩
  47. 東京証券取引所『会社情報適時開示ガイドブック』2026年7月版 p.302 は、自己資本=純資産合計−株式引受権−新株予約権−非支配株主持分とする。R1(NBER WP, 2025年3月)の分母は自己資本+非支配持分(p.57 表B3 の注)なので、非支配株主持分を足し戻した形を編集部が対応させた。↩
  48. 企業会計審議会「研究開発費等に係る会計基準」三・五・注2、連結財務諸表規則第55条の2、財務諸表等規則第86条。↩
  49. IFRS財団の IAS 第38号の概要ページ。「Development expenditure that meets specified criteria is recognised as the cost of an intangible asset.」↩
  50. R1(NBER WP, 2025年3月)p.6 表1、p.33〜34 付録A.1。ROE は特別項目前利益(IB)÷自己資本、ROIC は EBIT÷(有形固定資産の取得原価ベース+運転資本)。↩
  51. 東京証券取引所『会社情報適時開示ガイドブック』2026年7月版 p.302(決算短信の指標の計算方法。自己資本当期純利益率=親会社株主に帰属する当期純利益÷期首・期末の自己資本の平均)。連結財務諸表規則第64条・第65条(特別利益・特別損失を加減した税金等調整前当期純利益から親会社株主に帰属する当期純利益を導く)。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。