この記事で分かること

  • ファーマ・フレンチ3ファクターモデルの定義と、CAPMとの違い
  • サイズファクター(SMB)・バリューファクター(HML)の意味
  • 整数設例による期待収益率の算定
  • 非公開企業の資本コスト算定(ビルドアップ法)とのつながり

30秒で分かる定義

ファーマ・フレンチ3ファクターモデル(Fama-French Three-Factor Model)とは、CAPMが用いる市場リスク一因子(ベータ)に、企業規模(サイズ)と簿価時価比率(バリュー)という2つの追加因子を加えて、株式の期待収益率をより精緻に説明しようとする資産価格モデルです。ユージン・ファーマとケネス・フレンチが1990年代初頭に提唱しました。小型株・割安株(バリュー株)が、CAPMの予測を上回る超過収益を平均的に生む傾向を説明するために開発された、3ファクターモデル・CAPM拡張モデルとも呼ばれる考え方です。

なぜ実務で重要なのか

クオンツ運用・資産運用では、ポートフォリオのリターンを市場・サイズ・バリューの3因子への感応度に分解し、運用者の真の超過収益(アルファ)と因子エクスポージャーによる収益を区別するパフォーマンス評価に使われます。コーポレートファイナンス・非公開企業評価では、WACCの計算で使うCAPMのベータだけでは説明しきれない小型株のプレミアムの理論的な裏付けとして、ビルドアップ法で使うサイズプレミアムの考え方の背景理論になります。エクイティリサーチ・運用評価では、リスク調整後リターンの指標と併せて、バリュー株効果・小型株効果の存在を説明する枠組みとして参照されます。

計算式(仕組み)

期待収益率 = リスクフリーレート + β市場×(市場リスクプレミアム)+ βSMB×SMB + βHML×HML

SMB(Small Minus Big)は小型株ポートフォリオの収益率から大型株ポートフォリオの収益率を差し引いたサイズファクターの平均的な超過収益(サイズプレミアム)、HML(High Minus Low)は簿価時価比率の高い株式(割安株)の収益率から低い株式(グロース株)の収益率を差し引いたバリューファクターの平均的な超過収益です。各企業の株式は、これら3つの因子に対してそれぞれ異なる感応度(ファクターローディング)を持ち、その感応度と各因子の平均的なプレミアムを掛け合わせて期待収益率に上乗せします。

整数設例で確認する

設例(架空数値)。リスクフリーレート1%、市場リスクプレミアム6%、市場ベータ1.0とすると、CAPMベースの期待収益率は1%+1.0×6%=7%です。

この銘柄のSMBファクターへの感応度が0.5、SMBの平均プレミアムを3%、HMLファクターへの感応度が0.3、HMLの平均プレミアムを4%とすると、追加的な期待収益は0.5×3%+0.3×4%=1.5%+1.2%=2.7%。3ファクターモデルによる期待収益率は7%+2.7%=9.7%となり、CAPM単独の7%より2.7ポイント高く算定されます。検算:0.5×3=1.5、0.3×4=1.2、1.5+1.2=2.7、7+2.7=9.7で一致します。

投資判断への影響

この設例のように、小型株・割安株的な性質を持つ銘柄は、CAPM単独では説明できない追加的なリスクプレミアムを要求される(=理論上の期待収益率が高くなる)とファーマ・フレンチモデルは示唆します。逆から見れば、こうした銘柄の株価がCAPMベースの割引率だけで評価されると、実際に必要なリスクプレミアムを過小評価し、割高な評価額を出してしまう可能性があります。クオンツ運用者は、ファンドの実現リターンをこの3因子に回帰分析し、因子エクスポージャーで説明できない残差部分だけを真のアルファ(運用者の付加価値)として評価します。

財務モデル・Excelでの使い方

  • 個別銘柄の月次リターンと、市場・SMB・HMLの3つのファクターリターン(時系列データ)を並べ、=LINEST()や回帰分析ツールで各ファクターへの感応度(係数)を推定する
  • 推定した感応度に、各ファクターの平均プレミアム(前提セルで管理)を掛け合わせて合算し、期待収益率を算定する
  • 非公開企業のビルドアップ法モデルでは、サイズプレミアムの前提値をこのモデルの実証結果(学術的に観測されたSMBの水準)を参考に設定するケースがある

この用語をExcelで「組める」状態にする

個別銘柄のリターンを3因子に回帰分解し、CAPM単独では説明できない超過収益率を算定できるようになる。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「サイズ・バリュープレミアムは常にプラスで安定している」→ 正しくは、これらは長期平均で観測された傾向であり、数年単位でマイナスになる局面も珍しくありません。将来必ず実現するプレミアムではない点に注意が必要です。

誤解2:「小型株・割安株は常にCAPMより高いリターンを生む」→ 正しくは、あくまで平均的・長期的な統計的傾向であり、個別銘柄・個別期間では逆転することも多くあります。

誤解3:「CAPMのベータはもう使われていない」→ 正しくは、市場ベータは依然としてモデルの中核であり、サイズ・バリューはこれを補完する追加因子です。実務のWACC算定では今なおCAPM単独が主流で、3ファクターモデルは主に運用業界の分析ツールとして使われます。

日本実務での扱い(2026年8月時点)

日本の資産運用会社や年金基金の一部は、内外の学術研究に基づく日本株向けのファクターデータを用いて、サイズ・バリュー等のファクター投資戦略を組成・開示しています。もっとも、コーポレートファイナンス実務における資本コスト(WACC)の算定では、日本でも依然としてCAPM単独に市場のサイズプレミアム等を別建てで加味する簡便な方法が主流であり、3ファクターモデルの回帰係数を直接WACCに用いる実務はあまり一般的ではありません。機関投資家の運用高度化やスチュワードシップの文脈で、こうした学術的な資産価格モデルへの関心は引き続き高まっています。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:CAPMとファーマ・フレンチ3ファクターモデルの違いを説明してください。
「CAPMは市場リスク(ベータ)の一因子だけで期待収益率を説明しますが、ファーマ・フレンチモデルはこれに企業規模(サイズ)と簿価時価比率(バリュー)の2因子を加えます。小型株や割安株がCAPMの予測を上回る超過収益を示す実証的な傾向を、追加因子への感応度で説明しようとするモデルです。」(30秒回答例)

深掘りでは「サイズプレミアムがなぜ発生すると考えられているか(流動性リスク・情報の非対称性等の説)」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. 3ファクターモデルの発展形はありますか?
A. ファーマとフレンチ自身が後に、収益性(Robust Minus Weak)と投資(Conservative Minus Aggressive)の2因子を加えた5ファクターモデルを提唱しています。学術研究ではさらに多くのファクターが議論されています。

Q. 実務のDCF評価でWACCの算定に3ファクターモデルをそのまま使いますか?
A. 一般的ではありません。コーポレートファイナンスの実務では依然としてCAPM単独が主流で、3ファクターモデルは主に資産運用業界のパフォーマンス分析・因子投資の枠組みとして使われることが多いです。

出典・参考(2026-08確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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