この記事で分かること
- 商業用不動産(CRE)ローンの期限延長を「延命」と「正当な修正」に見分ける手がかり(延長の相手・条件・事後の完済)
- 2023年の米銀行不安の後、米大手銀行では延長が大きく増えず、条件が厳しくなったという結果と、反対の研究
- 日本の不動産SPC向けローンのリファイナンス・条件変更で、延長提案を数値で点検する手順(学習用の設例つき)
想定読者:不動産ファイナンス・審査・期中管理を担う銀行の担当者、不動産ファンドやJ-REITの財務担当、ローン債権を評価するクレジット投資家・FAS
前提知識:NOI、LTV、キャップレートの意味。回帰分析の知識はなくても読める
5年前に組成した不動産SPC向けのノンリコースローンが来期に満期を迎える。スポンサーからは、売却先も借換え先も決まらないので2年延ばしてほしいと打診が来た。利払いは一度も遅れていない。応じなければ担保処分に進むが、いま売れば残高を割り込むかもしれない。
この延長は、時間を与えれば返せる借り手への合理的な対応なのか、損失を表に出さないための延命なのか。記録の上では、どちらも「期限を延ばした」になる。米連邦準備制度理事会(FRB)のエコノミストDavid Glancyが2026年5月に公表したワーキングペーパーは、この区別を、誰に、どんな条件で延ばし、その後どうなったかから推し量ろうとした研究である。
この記事が主に参照する研究
David Glancy(2026)”Pretend or Amend? On Evergreening in CRE” Finance and Economics Discussion Series 2026-025(Federal Reserve Board)
- 公表:著者のサイトに2025年11月26日付の草稿(同じ題名。冒頭の要旨で同じ結論を確認)、FEDSとしての公表は2026年5月。参照した版:同(PDF 73ページ)。査読:未査読(WP)。FRBの公式見解ではない1
- データ:FRBが総資産1,000億ドル超の銀行から集める監督データ(FR Y-14Q)のCREローン。2016年第1四半期〜2025年第4四半期2
- 方法:延長の動機ごとに観察される特徴を理論モデルで導き、2023年以降の変化が損失先送りの予測と合うかを、平時(2016〜2019年)との比較で検証。自然実験による因果の識別ではない3
- 位置づけ:ゾンビ融資・延命の既存理論を、新しいモデルと監督データで検証。延長の「条件」と「事後の完済」を判定材料にした点が新しい
延命と正当な修正は、どこで分かれるのか
銀行融資は、貸し手と借り手が話し合って条件を変えられる。差押えや投げ売りより損失が小さくなるなら、期限の延長は貸し手にも合理的だ。一方、自己資本に余裕のない銀行が返済見込みの乏しい先に貸出を続け、損失の認識を先送りすることは、1990年代の日本のゾンビ企業問題で広く知られた。英語ではこれを「延長して、問題がないふりをする(extend-and-pretend)」などと呼ぶ。
2023年春に米国で中堅銀行の破綻が相次いだ後、米国の監督当局はCREローンの条件緩和やワークアウトに関する方針を最終化し、信用力のある借り手とは建設的に取り組むよう求めた。他方で、延長がCREの損失を隠しているとする研究も出ていた4。
この研究で「延長」とは満期日が後ろにずれたことを指す。監督データの満期日は、借り手の判断だけで行使できる延長オプションを含めた最終返済日なので、満期日が動けば貸し手が新たに認めた延長だと読める5。日本でいえば、契約上の延長条項の行使ではなく、交渉で決まる期限延長
判定の物差しはデットイールド(DY)である。物件のNOI
研究の識別:延長の「相 手」と「条 件」に動機が表れる
著者はまず、満期を迎えたローンについて、貸し手が延長の条件として元本の内入れ(一部返済)をどれだけ求めるかを決め、借り手が売却・延長・デフォルトを選ぶ動学モデルを作った。延長の動機は、売却・借換え先を探す時間(探索の摩擦)、差押えの費用、損失を計上する費用の3つで、延長が長引くと借り手が修繕を怠るデット・オーバーハングの費用をこれに対置した7。
モデルの示す区別は明快だ。売却や借換えの時間を与えるための延長は、DYの高低を問わず起こり、DYの低いローンほど貸し手は大きな内入れを求める。物件を手放したくない借り手は、それに応じる。損失計上を先送りしたい貸し手は逆に、返済余力の乏しい借り手にデフォルトより延長を選ばせる必要があるため、内入れを求めず、利息を元本に繰り入れてでも延長を続ける。モデルの数値例では、損失計上の費用を少し加えるだけで、DYの極めて低いローンに新たな延長が生まれ、その内入れはマイナス、最終的に完済される見込みはほぼゼロだった8。
ここから著者は、2023年以降に延命が広がったなら観察されるはずの変化を4つ挙げる。延長が増える、延長が返済余力の低いローンに移る、延長の条件が甘くなる、延長されたローンがその後完済されにくくなる、の4つである9。表1は、この予測と実際の結果を並べたものである。
表1 延命が広がったなら起きるはずの変化と、実際の結果
表は横にスクロールできます →
| 予測(2023年以降) | 研究が示した結果(平時2016〜2019年との比較) | 判定 |
|---|---|---|
| ① 延長が増える | 満期ローンの延長は残高ベースで5割弱(コロナ前40%台半ば、コロナ初期約60%)。件数ベースの回帰では約5.73%ポイント低下 | 大きな増加なし |
| ② 返済余力の低いローンに延長が移る | デットイールド8%未満は−6.91%ポイント、ノンリコースは−4.91%ポイント(いずれも5%水準で有意)。大型オフィスは+3.01%ポイント(有意でない) | 逆向き(オフィスのみ留保) |
| ③ 延長の条件が甘くなる | 元本の内入れ率+2.54%ポイント、5%超の内入れ+5.13%ポイント、残高増加−6.37%ポイント、リコース追加+1.62%ポイント、スプレッド約+8bp | 逆向き(厳しくなった) |
| ④ 延長後に完済しにくくなる | 6四半期後の完済率は66%→58%だが、延長されていない満期ローンは67%→52%。固定効果を入れた回帰では+1.44%ポイント | 銀行・四半期の共通要因を調整すると悪化なし |
研究が示した結果:延長は増えず、条件は厳しくなった
前提として、延長は珍しい出来事ではない。標本のローン全体では延長は四半期平均3%にとどまるが、満期を迎えたローンに限ると52%が延長されていた。平時(コロナ前)には、元本の内入れを伴う確率はDYが低いほど高く、延長自体はDYの分布の全体で起きていた。著者はこれを、一時的な資金繰りの問題に対応する延長と整合的とみる10。
第一の予測について、2023年以降に満期を迎えたローンの延長は、残高ベースで多くの四半期5割弱だった。コロナ前の40%台半ばよりやや高いが、コロナ初期の約60%を大きく下回る。満期時の完済割合は約半分から約3分の1に下がったが、その多くは延滞の増加によるものだった11。件数ベースの回帰では、満期ローンの延長確率は5.73%ポイント下がった。残高と件数で向きが違うのは、2,000万ドル超の大口で延長が増え、小口で減ったためである12。
第二の予測は逆の結果になった。2023年以降、DYの低いローンほど延長されにくくなり、DY8%付近で40〜45%だった延長確率は、NOIがゼロ以下では約30%だった。DYが極めて低いローンでは、借り手に遡求できるリコース付きの約40%が延長されたのに対し、ノンリコースローンは約20%にとどまる13。回帰では、満期を迎えたローンの延長確率の平時からの変化が、その属性を持たないローンに比べ、DY8%未満で6.91%ポイント、ノンリコースで4.91%ポイント余計に下がった(いずれも5%水準で有意)。例外は大型オフィスで、逆に3.01%ポイント上向きだった(有意ではない)。著者はこの点だけは延命と整合しうると認めている14。
第三の予測も逆だった。延長されなかったローンでの変化を差し引き、固定効果などを考慮した推計で、2023年以降の延長は平時の延長より元本の内入れ率が2.54%ポイント高く、残高の5%を超える内入れを伴う確率が5.13%ポイント高い。リコース付きへの切替えやスプレッドの引上げも増えた。ただし著者は、スプレッドの引上げは完済の見込みを高めず、リスクへの対価を増やすだけだと区別している15。DYの下位4分の1では、5%超の内入れを伴う延長の割合がコロナ前の10%未満から約20%に上がり、上位では約5%でほとんど変わらなかった。大型オフィスの延長では、内入れを伴う確率の平時からの上昇が、他のローンより13.3%ポイント大きい16。
もっとも著者は、市場全体のリスクが高まった以上、条件が厳しくなったことだけで補助的な与信がなかったとまでは言えないとも書いている17。そこで決め手になるのが第四の予測、延長後の成績である(図1)。
延長から6四半期後に完済されていた割合は、コロナ前の66%から2023年以降は58%に下がった。延長の翌四半期にデフォルト状態にあるローンは約11%で、その後もほぼ横ばい。再延長などで残る割合は約31%で平時と変わらず、延長を短く繰り返す動きが増えた形跡はない18。
比べるべきは、延長されなかったローンの悪化である。満期を控えた一度も延長されていないローンの完済割合は、67%から52%へ15%ポイント下がり、延長されたローン(8%ポイント)より悪化が大きかった。2つの系列は起点の取り方が違うため、図1の棒をそのまま比べるには限界がある。銀行・四半期に共通する変化を固定効果で調整した回帰では、2023年以降の延長は平時の延長より、四半期あたりの完済確率が1.44%ポイント高かった(四半期固定効果なしの仕様では2.25%ポイント低い)19。
資本の余裕が小さい銀行も、延長をむしろやや多く減らし、条件の厳格化は他の銀行と同程度で、延長後の完済も見劣りしなかった。ただし差は小さく、ほとんどが統計的に有意ではない。銀行数が少なく推計の精度が低いことは著者も断っている20。
研究の範囲と限界、反対の研究
対象は米国の総資産1,000億ドル超の銀行が保有する100万ドル超のCREローンに限られる。著者も、大手銀行はCREへの依存が小さくストレステストの対象でもあるため延命の誘因が弱い可能性を認め、中小銀行の分析が必要だとする。修繕積立や追加の保証、コベナンツなどの条件はデータに現れない21。手法も、2023年以降の変化をモデルの予測と照らし合わせる検証で、外生的なショックによる識別ではない。
同じ監督データで逆の結論を出した研究がある。ニューヨーク連銀のMatteo CrosignaniとハーバードのSaketh Prazadは、有価証券の評価損を反映した資本が弱い銀行ほど、DYの低い窮迫ローンに満期延長や支払猶予(金利の引下げ、元本据置への変更)を与え、そのローンのデフォルトは少なく、銀行が付けるデフォルト確率も低かったと報告した(2022〜2025年、22行)22。2024年末に3年以内に満期を迎えるCREローンは、時価ベースの資本に対し、資本の弱い銀行で37%、強い銀行で27%だった。Glancyも2025年末の残高の約40%が2年以内に満期を迎えると示すが、その水準はコロナ前をわずかに上回る程度とみる23。
両者の違いは識別の方法にある。Crosignaniらは、似たローンを持つ資本の異なる銀行を比べる。Glancyは、報告行が少ない監督データでは銀行間の差は精度が出にくいとして、市場全体の時系列とモデルの照合に重心を置いた。Crosignaniらは、Glancyの資本の指標が有価証券の評価損を含まない点を指摘している24。両者は「市場全体での規模」と「資本の弱い銀行での限界的な行動」という別の問いに答えているとも読める(編集部の整理)。
大手町プレップの考察:延長の件数ではなく、延長で何を得たかを見る
以下は研究を踏まえた編集部の見方で、研究が検証したことではない。
この研究から持ち帰れる最大の点は、延長が延命かどうかは、延長と引き換えに貸し手が何を得たかに表れるという見方だろう。元本の内入れや保証の追加は、借り手が物件を持ち続けたいという意思表示であり、次の満期での回収の見込みを厚くする。利ざやの引上げは回収の見込みではなく、リスクへの対価として分けて評価したい。DYが低いのに内入れも保証もなく、金利だけが下がる延長は、モデルが描いた損失先送り型の特徴に重なる。
見落としやすいのは、利払いの継続は延命でない証拠にならないことだ。金利が低ければ、売却では元本を返せないDYでも利息は払える。後の設例でも利払い倍率は5件すべて2倍を超えるが、うち2件は延長前の想定売却価格が残高を下回る。金利水準の低い日本ほど、利払いと元本の回収可能性を分けて見る必要がある。
もう一つは、延長の事後成績を追う価値である。延長案件の完済・再延長・延滞の割合を年ごとに記録しておけば、判断が回収に結びついたかを後から検証できる。
日本の実務への応用:リファイナンス時の条件変更
日本でも満期での条件交渉は身近な論点になりつつある。日本銀行の金融システムレポート(2026年4月号)は、私募REITや不動産SPC向けの貸出は当初期間6年未満が多く、不動産SPC向けは5年程度に設定されることが多いため、事業・金融環境によってはリファイナンス時に大幅な条件変更が生じうると指摘する。返済原資は物件のキャッシュフローと売却価値に限られる。現時点では債務者区分は良好で、不動産業のデフォルト率も低いという25。
日本の制度には、条件を変更した貸出を開示上どう区分するかの基準がある。銀行法施行規則は、債務者の経営再建または支援を目的に、金利の減免や元本の返済猶予など債務者に有利な取決めをした貸出金を「貸出条件緩和債権」として開示させる26。金融庁の監督指針は、その判定で、同等の信用リスクの先に通常適用される新規貸出金利(基準金利)と実質的に同等の利回りが確保されているかを、担保・保証による信用リスクの増減も含めて総合的に勘案するよう求める。資産の売却などの見通しが確実で返済財源が確保されていれば、信用リスクそのものが軽減されているとも記す27。
研究の手がかりと開示区分の判定要素を並べると、内入れや保証の追加は「担保・保証による信用リスクの増減」に、スプレッドの引上げは「基準金利相当の利回り」に、売却・借換えの時間を与える延長は「資産売却による返済財源の確保」に対応する(編集部の対応づけで、両者は互いを参照していない)。ただし米国の結果を日本の銀行にそのまま当てはめる根拠はない。研究が「低DY」とした8%という区切りを、日本の物件へそのまま適用する根拠もない。日本では、DYを想定キャップレートと比べ、売却で元本を返せる余力として読むのが現実的だろう(編集部の見方)。
学習用の設例:満期を迎える5件の延長提案を比べる
学習用の設例(架空)
- ある銀行で同じ期に満期を迎える不動産向けローン5件(A〜E)。金額は百万円で、すべて架空
- 想定売却価格=NOI÷想定キャップレート。延長前のLTV=残高÷想定売却価格(DY÷キャップレートの逆数に等しい)
- 延長後のLTVの目安を75%とする。編集部の仮の目安で、研究で検証された水準ではない
- 延長後の金利は全件2.0%にスプレッドの変化を加えたもの。ストレスはNOI−10%とキャップレート+0.5%ポイント
5件の借り手から延長の提案が届いた。物流施設のAは、DY6.5%に対し想定キャップレートが4.0%で、LTVは61.5%と余裕がある。売却先の選定に時間がかかっているだけで、内入れなしで目安を満たす。研究のモデルでいう、売却・借換えの時間を与える延長にあたる。Cも内入れなしで目安を満たす。
残る3件は、いま売れば元本を返し切れないか、その手前にある(図2)。
オフィスのBは延長前のLTVが105.3%で、目安に戻すには28.8%の内入れが要る。提案は20%の内入れにスポンサー保証の追加とスプレッドの引上げを組み合わせており、不足分を保証で補えるかが焦点になる。同じオフィスでもDは違う。LTVは115.8%、必要な内入れは35.2%なのに、提案は内入れなし、金利引下げ、元本据置である。延長後の利払い倍率は2.1倍あり、利息は払えてしまう。研究のモデルが描いた損失先送り型と同じ形だ。商業施設のEは5%の内入れを提案しているが、必要な21.9%には遠く、保証もない(表2)。
表2 設例:満期を迎える5件の延長提案(架空)
表は横にスクロールできます →
| ローン | DY/想定キャップ | 延長前LTV | 提案 | 延長後LTV | 必要な内入れ | ストレス後LTV | 利払い倍率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| A(物流施設) | 6.5%/4.0% | 61.5% | 内入れなし・金利小幅上げ | 61.5% | — | 76.9% | 3.1倍 |
| B(オフィス) | 3.8%/4.0% | 105.3% | 20%内入れ・スポンサー保証追加・金利上げ | 84.2% | 28.8% | 105.3% | 2.1倍 |
| C(賃貸住宅) | 5.0%/3.6% | 72.0% | 2%内入れ | 70.6% | — | 89.3% | 2.6倍 |
| D(オフィス) | 3.8%/4.4% | 115.8% | 内入れなし・金利引下げ・元本据置 | 115.8% | 35.2% | 143.3% | 2.1倍 |
| E(商業施設) | 5.0%/4.8% | 96.0% | 5%内入れ | 91.2% | 21.9% | 111.9% | 2.6倍 |
Bも、延長後にNOIが1割下がりキャップレートが上がれば、LTVは105.3%となり再び100%を超える。内入れは返済余力を厚くするが、次の満期の完済を保証しない。表2の狙いは可否を機械的に決めることではなく、提案と必要な条件との差を交渉の前に数字で示すことにある。Dのように差が大きく補う条件もない提案は、追加の内入れや保証、売却・担保処分を含む代替案と比べるべきだろう。
明日から使える確認項目
- 延長の稟議に「延長で何が改善するのか」を1行で書かせる。売却・借換え先の探索か、NOIの回復待ちか。後者なら回復の根拠(入居予定、賃料改定)を添付させる。
- 延長前のDYを想定キャップレートで割り、売却で元本を返せる余力(1未満なら残高割れ)を計算する。キャップレートの根拠と日付も記録する。
- 延長後のLTVを自行の目安に戻す内入れ率(max[0, 1−目安LTV÷延長前LTV])を計算し、提案との差を稟議に明記する。差を保証や積立で補うなら、その金額を並べる。
- DYが低いのに、内入れも保証の追加もなく、金利引下げや元本据置を伴う延長提案を抽出する。研究のモデルでは損失先送り型の特徴である。
- 利払い倍率とは別に、ストレス後のLTV(例:NOI−10%、キャップレート+0.5%ポイント)を計算する。利払いの継続を延長の根拠にしない。
- 延長案件を年ごとに束ね、次の満期までに完済・再延長・延滞になった割合を記録し、延長していない満期案件と比べる。
- 条件変更の内容が基準金利相当の利回りを確保しているか、資産売却で返済財源が確保される見通しが確実か、監督指針の観点から説明できるようにしておく。
よくある質問
期限延長に応じると、すぐに貸出条件緩和債権になるのですか。
監督指針では、債務者の状況や金融機関の意図、基準金利相当の利回りの確保などを総合的に勘案して判断するとされ、延長という形式だけでは決まりません。個別の判定は各金融機関の基準によります。
この研究は、米国の銀行が延命していないことを証明したのですか。
大手銀行の市場全体としては延命と整合しない結果ですが、資本の弱い銀行での延命を示す反対の研究があり、中小銀行は対象外です。
まとめ
CREローンの期限延長は、それだけでは延命とも正当な修正とも言えない。Glancyの研究は、延長の相手、条件、事後の完済から動機を推し量り、2023年以降の米国の大手銀行では延長が大きく増えず、返済余力の低いローンほど延長が減り、条件が厳しくなったことを示した。資本の弱い銀行の延命を示す研究もあり、結論は対象と手法に依存する。日本のリファイナンスでは、DYを想定キャップレートと比べた返済余力と、提案の内入れ・保証が目安に届くかを数字で示し、延長案件の事後成績を追うことが延命を避ける手立てになる。
脚注
- R1。FRBの掲載ページの表示「May 2026」、PDF p.2 の日付(May 4, 2026)、Crossref の DOI 登録(2026年5月)による(2026年10月25日確認。掲載ページには別に最終更新日「August 21, 2026」の表示があるが、内容の改訂は確認できない)。著者の個人サイトには2025年11月26日付の草稿(同じ題名)があり、その1ページ目の要旨は、延長の減少・条件の厳格化・延長後の高い完済率・資本の弱い銀行でも甘くないことという同じ結論を述べる(2026年10月25日取得。1ページ目のみ確認し、本文・データ期間の異同は未確認)。著者のFRB研究者ページの過去の保存版(2025年9月・2026年2月)とRePEc の著作一覧には、これより前の版は見当たらなかった。謝辞(PDF p.2)によれば、Central Bank of Ireland-UCD-CEPR の会議、UMass Boston、FRB のセミナーで報告。表紙(PDF p.1)に、FEDS は議論のための暫定的な資料で、結論は著者のものでありFRBの見解ではない旨の記載がある。本記事のページは PDF の物理ページ(印刷ページ番号+1。以下同じ)。↩
- R1 p.19(3.1節)。Form FR Y-14Q Schedule H.2 は、総資産1,000億ドル超の銀行が保有する、コミットメント100万ドル超の非自己使用CREローンの四半期パネル。2016年第1四半期の報告変更以降、帳簿から外れたローンの理由(完済か処分か)を区別できるため、そこを起点にしている。↩
- R1 p.8〜18(2節のモデル)、p.19〜23(3節。式(2)〜(4)、銀行×四半期の固定効果)。比較の対象は平時(2016〜2019年)と2023年以降で、コロナ初期(2020〜2022年)は基準分析から除外(p.19〜20)。↩
- R1 p.3(1節)・p.6〜7(1.1節)。ゾンビ融資の文献として、日本の金融危機を扱った Peek and Rosengren(2005)、Caballero, Hoshi and Kashyap(2008)を挙げる。米国の方針は R3(2023年6月29日の米4当局の発表)。2009年のワークアウト指針を置き換え、短期の条件緩和(支払の繰延べ・一部支払など)の節を新設した。↩
- R1 p.19(3.1節)。Y-14 の報告要領の定義として著者が引用。↩
- R1 p.8(脚注6)。キャップレート κ が NOI÷売却価格 V のとき、κ<NOI÷残高 D なら V>D となる関係による。本文の数値例(DY5%、キャップレート4%)は編集部の例示。↩
- R1 p.8〜10(2.1〜2.2節)。モデルの摩擦は、売却・借換え先の探索、借り手の資金制約、差押え費用(モデルの基準設定では差押え時の回収係数Λ=0.76、すなわち差押えで価値の24%が失われる。Brown et al.(2006)の推計に合わせた較正。p.12、Table A.1(p.56)、付録B.4(p.73))、損失計上の費用。負債過剰は、延長後にデフォルトを見込む借り手が修繕を怠り NOI を恒久的に下げる形で入る。↩
- R1 p.3〜4(1節)・p.12〜15(2.4節、Figure 2)・p.16〜17(2.5節、Figure 3)・p.18(2.5節の要約)。数値例は損失計上の費用 χ を0から1%に上げた場合(Figure 3)。↩
- R1 p.18〜19(2.6節)。↩
- R1 p.24(3.6節、Table A.2・A.3)、p.4(1節)。延長時には元本が5%以上減る確率が8%(全体では約1%)。↩
- R1 p.25〜26(4.1節、Figure 4)。満期の4四半期前のローンについて、満期の四半期での結果(完済・延長・満期超過・延滞)を残高ベースで分類したもの。↩
- R1 p.26〜27(Table A.4 (1)(4)、p.59)・p.27 脚注18(Figure A.5)。係数は−5.73と4.39(%ポイント、いずれも1%水準で有意)。満期を迎えないローンの延長も約0.5%ポイント低下。↩
- R1 p.28(4.2節、Figure 5)。満期まで4四半期で、NOI が直近に更新された稼働済みのローンについての、銀行×四半期の固定効果を入れたスプライン推計。↩
- R1 p.29〜30(Figure 6)・Table A.4 (3)(p.59)。係数は、リスク属性×満期到来×2023年以降の交差項(属性を持たない満期ローンと比べた追加的な変化)。著者の本文では約7・5・3%ポイントと丸めて記載。小型オフィスは+0.18%ポイント(有意でない)。これらのリスク要因は、いずれも満期時の延滞の上昇と結びついていた(Table A.4 (6))。オフィスの延長が増えた点については p.29〜30。↩
- R1 p.31〜32(4.3節)・Table 2(p.32)。係数は2.54・5.13・−6.37・1.62・0.08(スプレッドは%ポイント)で、リコース追加のみ5%水準、ほかは1%水準で有意。スプレッドの推計は変動金利ローンが対象。スプレッドの引上げ確率は+9.52、引下げ確率は−6.88%ポイント。係数は延長×2023年以降の交差項で、延長されなかったローンとの比較やローンの属性・固定効果を考慮した推計(p.20〜21)。スプレッドの引上げは完済の見込みを高めず、リスクへの対価を増やすとの区別は p.32 脚注20(PDF の物理ページ p.33)。↩
- R1 p.34〜36(Figure 7・8)。下位4分の1の値は本文の記載(「約20%」「10%未満」)。リスク要因別の上乗せは、低DY+4.1(有意でない)、ノンリコース+2.3、小型オフィス+3.7、大型オフィス+13.3%ポイント(p.36)。低DYのローンは平時から内入れの確率が約4%ポイント高い(p.36、Table A.5)。↩
- R1 p.33(4.3節)。↩
- R1 p.37〜39(4.4節、Figure 9)。延長満期が6四半期以内の延長が対象で、2025年第4四半期以降の期間は除く。6四半期後のデフォルト率はコロナ前より7%ポイント高く、完済率の低下8%ポイントの大部分にあたる。コロナ期(2020〜2022年)の延長は60%。↩
- R1 p.38〜39(4.4節)・Table A.6(p.61)。比較対象は、満期の4四半期前に一度も延長されていないローン。回帰は翌四半期に完済するかどうかの線形確率モデルで、満期までの四半期数の固定効果を含む。係数は−2.25(銀行固定効果のみ)、+2.24(四半期固定効果)、+1.44(銀行×四半期固定効果)で、いずれも1%水準で有意。銀行×四半期の固定効果は、銀行・四半期に共通する完済確率の変化を調整するもので、選択の影響まで除くものではない(p.22)。↩
- R1 p.40〜44(4.5節、Table A.7〜A.11、Figure 10)。資本の余裕は、2023年以降は CET1 比率と所要水準(G-SIB サーチャージ・ストレス資本バッファーを含む)の差、コロナ前はストレステストでの最低 CET1 比率で測る(p.23)。推計の精度については p.6。↩
- R1 p.45(5節)・p.34 脚注21・p.7 脚注4(ストレステストで将来の損失が所要資本に反映されるため延命の誘因が弱まる)。↩
- R2 p.2(要旨)・p.3〜5(1節)・p.10(2.1節)。R2 は FRBNY Staff Reports 1130(2024年10月、2026年6月改訂。本文は改訂版で確認)。資本の指標は、規制上の資本比率に有価証券の評価損益を加えた時価ベースの値と所要水準との距離(p.4)。CREローン1,028,318件(p.10)。↩
- R2 p.6(1節)。R1 p.27(4.1節、Figure A.6)。R1 は2年以内、R2 は3年以内の満期で、分母も違う(R1 は CRE 残高、R2 は時価ベースの資本)ため直接は比べられない。R2 は延命によって CRE の新規融資が集計で1.1%減ったとも推計している(p.7)。↩
- R2 p.9 脚注6。R1 p.6〜7(1.1節)。↩
- R4(日本銀行「金融システムレポート(2026年4月号)」)PDF p.57(図表Ⅴ-1-12)・p.58(Ⅴ章1節、図表Ⅴ-1-15)。債務者区分の集計対象は大手行と地方銀行で、2025年9月末時点。↩
- R5(銀行法施行規則第19条の2第1項第5号ロ(4))。↩
- R6(金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」令和8年10月版 Ⅲ-4-9-4-3(3))PDF p.271〜273。基準金利は、信用リスクに基づく区分に応じた新規貸出約定平均金利を基本とする。主要行等向けの監督指針にも同趣旨の規定があるが、本稿では中小・地域金融機関向けで確認した。↩
参考文献(2 026年10月確認)
- R1 Glancy, D. (2026), “Pretend or Amend? On Evergreening in CRE,” Finance and Economics Discussion Series 2026-025, Board of Governors of the Federal Reserve System. DOI: 10.17016/FEDS.2026.025. 参照した版:FEDS 版(2026年5月、PDF 73ページ)。査読:未査読(WP)。 doi.org (参照箇所:要旨、1〜5節、付録A(PDF p.1〜45、p.55〜61)、Table 2、Table A.4・A.6、Figure 4〜9。脚注1〜21・23・24の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R2 Crosignani, M. and S. Prazad (2024), “Extend-and-Pretend in the U.S. CRE Market,” Federal Reserve Bank of New York Staff Reports No. 1130(2026年6月改訂). DOI: 10.59576/sr.1130. 参照した版:2026年6月改訂版。査読:未査読(WP)。 doi.org (参照箇所:要旨・1〜2節(PDF p.2〜10)。脚注22〜24の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R3 Board of Governors of the Federal Reserve System, FDIC, NCUA and OCC (2023), “Agencies finalize policy statement on commercial real estate loan accommodations and workouts,” Press Release, June 29, 2023. federalreserve.gov (参照箇所:発表本文。脚注4の根拠。閲覧日:2026年10月)
- R4 日本銀行
(2 026)「金 融システムレポート(2 026年4月号)」 boj.or.jp (参照箇所:PDF p.57〜58(Ⅴ章1節、図表Ⅴ-1-12・15)。脚注25の根拠。閲覧日:2026年10月) - R5 銀行法施行規則
(昭 和57年大蔵省令第10号)第19条の2 laws.e-gov.go.jp (参照箇所:第1項第5号ロ(4)(e-Gov 法令検索で確認)。脚注26の根拠。閲覧日:2026年10月) - R6 金融庁
「中 小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(令 和8年10月) fsa.go.jp (参照箇所:Ⅲ-4-9-4-3(3)貸出条件緩和債権(PDF p.271〜273)。脚注27の根拠。閲覧日:2026年10月)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。