想定読者:1号ファンドの組成を考えるVC・CVCの投資担当者、新興の運用会社に出資するLP(金融機関・事業会社・ファンド・オブ・ファンズ)の担当者、VCからの調達を考える起業家
前提知識:GP(運用者)とLP(出資者)の関係、ファンドの倍率(TVPI)の意味

前職のVCで投資を担当してきた2人が独立し、1号ファンドを立ち上げる。投資の目利きには自信があるが、年金や大学基金の担当者とは面識がない。知人の紹介を一巡すると、次に会える相手がいなくなる。それなら、ウェブサイトや業界イベントで広く出資者を募ればよいのではないか。この発想に米国のデータで答えた研究がある。

なお、この研究が扱うのは、起業家がVCから資金を得る段階ではなく、VCの運用者がLPから資金を集める段階である1。両者に通じる面はあるが、本稿は研究に合わせて後者を扱う。起業家にとっての含意は最後に触れる。

この記事が主に参照する研究

Sabrina T. Howell, Dean Parker, Ting Xu(2024)「個人的なネットワークの専制:VCのアームズ・レングスの資金募集の限界(Tyranny of the Personal Network: The Limits of Arm’s Length Fundraising in Venture Capital)」NBER Working Paper No. 33080

  • 公表:初版 2024年10月(NBER WP)。参照した版:2026年5月改訂版(92ページ)。査読:未査読(WP)
  • データ:米国証券取引委員会(SEC)に提出されたForm D(私募の届出)のうちVCファンドの初回届出 約37,000件(2008〜2023年)を、商用データベースのPitchbookと照合した9,005本。運用者の経歴(LinkedIn)、運用者・弁護士への調査、LPを対象にした監査実験を加える
  • 方法:大半は州×年の固定効果を入れた比較(相関)。2018年の規制変更を使った差の差と、架空のファンドの属性を無作為に割り当てた監査実験の2つは因果の識別
  • 位置づけ:関係に基づく金融と市場型(アームズ・レングス)の金融という既存の枠組みを、新しいデータでGPとLPの関係に当てはめた検証。著者はハーバード・ビジネス・スクール、ニューヨーク大学、トロント大学の研究者で、一部の作業はSECの中小企業資本形成担当室の資金による

米国の​私募は​「知り合いにしか声をかけられない」​仕組みだった

米国でVCファンドの持分を売るときは、ほぼ全てのファンドが証券登録の免除規定であるレギュレーションD(Reg D)を使う。従来型のRule 506(b)は一般勧誘(公の広告)を禁じ、出資者は所得や資産の基準を満たす適格投資家が中心で、適格でない投資家は最大35人まで認める。勧誘してよいのは、すでに実質的な関係のある相手か、仲介者を通じて関係のある相手だけである。代わりに、出資者が適格であることは本人の申告で足りる2。

2012年のJOBS法を受けて2013年9月に施行されたRule 506(c)は、ウェブサイトやSNS、見知らぬ人がいるイベントでの告知を認めた。条件は、出資者を全員適格投資家に限り(非適格の枠はない)、運用者が適格性を「合理的な措置」で確かめることである。証券会社・弁護士・会計士などの書面の確認で足りる方法が示され、2025年3月にはSECのノーアクションレターで、最低出資額が個人20万ドル(法人100万ドル)以上なら書面の自己申告でよいとされた3。

それでも使う運用者は少ない。導入後10年で506(c)を使ったVCファンドは8.4%(届出685件、506(b)は7,440件)で、2025年でも約11%にとどまる。PEファンド、ヘッジファンド、REITでも4〜10%と同じ程度である4。

公に​募る​ファンドは、​運用者も​LPも​違っていた

まず、506(c)のファンドは本当に「関係のない多数の小口の出資者」から集めているのか。おおむね然りである。506(c)のファンドはLPが平均28人(49%)多く、1口あたりの出資額は46%小さい。最低出資額の平均は506(b)の約70.8万ドルに対して約16万ドルで、個人LPの比率は平均比88%高く(原典本文の値。表の数値からは約96%)、募集に仲介者を使う割合は約3倍だった。ファンド規模の中央値も約29.7百万ドルに対して約8.7百万ドル(2017年米ドル換算)と小さい5。

小口・多数の募集であることを裏づけたのが、投資家数の上限をめぐる自然実験である。米国の小規模なファンドは投資会社法の免除を受けるため出資者を100人以下に抑えてきたが、2018年5月、運用額10百万ドル未満のVCファンドに限って上限が250人に引き上げられた。対象のファンドでは、上限の変わらない大きなファンドと比べて506(c)の利用が7.6%ポイント(平均の60%)増え、上昇は取締役会でのつながりが少ない運用者に集中していた(61%増、つながりの多い運用者では増えていない)6。人数の枠は、公の募集にとって実際に効く制約だった。

運用者の側では、図1のとおり、506(c)の運用者は過去に同じ取締役会に座った人の数が39%少なく、初号の運用者、女性、黒人・ヒスパニックの比率が高く、エリート校出身の比率は低い。これは相関であり、著者らも因果関係ではないと明記している7。調査では、506(b)だけを使う運用者の約90%が人脈で出資者を探すと答え、506(c)の利用者の40%は人脈がないことを利用の理由に挙げた(回答率は2.5%と低い)8。

図1 506(c)ファンドと506(b)ファンドの運用者とLPの違い図1 公に募るファンドは、運用者もLPも違う506(c)ファンドと506(b)ファンドの差(平均比、%)州×年の固定効果を入れた比較。因果ではない運用者取締役会でのつながり−39%初号の運用者の比率+27%女性の比率+39%黒人・ヒスパニックの比率+86%エリート校出身の比率−8%LP(出資者)LPの人数+49%1口あたりの出資額−46%個人LPの比率+88%506(c)の方が多い・高い506(c)の方が少ない・小さい
出所:R1(NBER WP 版, 2026年5月改訂)​本文 p.18・​p.20(表2 パネルA p.50・表3 p.51)の​数値を​基に​大手町​プレップ​作成。​ページは PDF の​物理ページ。​各値は​原典本文が​示す平均比の​相対差で、%ポイントではない​(1口の出資額は対数の係数からの換算)。​LPの​人数と​個人LPの​比率は​原典本文の​値を​使った。​表2の​表示値​(係数÷平均)で​計算すると​48.3%・約96%で、​本文の​値と​差が​ある。​エリート​校出身の​比率は​表3の​係数を​エリート​校出身比率の​平均で​割った値​(序論 p.5 は​同じ​8%を​「非エリート校出身が高い」と​表現)。​運用者の​比率は​ファンドの​運用チームに​占める​割合。​取締役会での​つながりは、​運用者が​過去に​同じ​取締役会に​座った​人の​数。​米国の​VCファンド​(Form DとPitchbookを照合)が​対象。

人脈の​弱い​運用者の​ファンドは、​成績で​劣っていなかった

人脈の広さが運用の腕の代理なら、人脈の弱い運用者が集まる506(c)の成績は劣るはずである。結果は逆だった。リターンが分かるファンド(約1,000本)で比べると、同じビンテージの中で上位四分位に入る確率は、506(c)の方がIRRで22〜24%ポイント高かった(上位四分位に入る割合は全体で約25%)。投資先のM&Aによる出口の有無でも506(c)が上回り、TVPIと運用者の取締役会でのつながりの間には関係が見られなかった9。

506(c)の運用者は案件を広く探していた。同じ都市にある投資先の比率が2.1%ポイント低く、自らも506(c)で資金を集める会社や、運用者と出身校の重ならない創業者への出資が多い。保有期間はやや短く、業種も分散している。著者らはこれを、個人LPの好み(早めの回収、分散)に合わせた運用と読む10。そのうえで著者らは、出資者との関係の網は質を選び分ける仕組みというより、非効率な参入障壁になっていると解釈している11。

ただし、この比較には大きな留保が付く。標本はPitchbookに載った、つまり募集に成功して立ち上がったファンドである。506(c)で募集を試みて失敗した運用者は見えない。公に募って成功した少数が良い成績だったという結果は、公に募れば誰でも成功するという意味ではない。

使われない​理由:人脈と​実績は​たいてい一緒に​育つ

では、なぜ利用は1割前後にとどまるのか。研究が検討した論点を表1にまとめた。適格投資家が足りないという説明は退けられる。米国の世帯の約19%が適格で、2020年に定義を広げても利用は増えなかった12。運用者は、適格性の確認の手間と法的なリスクを主な理由に挙げる13。確認の負担そのものは大きくないが、その小さな差があるために、公の広告をとくに必要としない運用者は506(b)を選ぶ。

表1 公に募れるのに、なぜ使われないのか(R1)

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論点研究が示したこと根拠の性質
投資家数の上限上限を100人から250人に上げた小規模ファンドで、506(c)の利用が7.6%ポイント(平均の60%)上昇因果(差の差)。人脈の弱い運用者で上昇(p.19・p.21)
適格投資家の数2020年に適格投資家の定義を広げても利用率は変わらない不足が主因ではない(p.26)
確認の手間506(b)のみの運用者の約80%が、適格性確認の時間・費用を判断に影響したと回答調査。回答率は低い(p.26)
実績のパラドックス人脈は弱いが実績は強い層で506(c)は36%だが、その層は全体の7%人脈も実績も通常は同時に育つ(p.27〜28)
実績への感応度過去の出口が1標準偏差多いと、募集額は506(b)で4.3%、506(c)で8.9%多い目標額を条件にした比較(p.28)
シグナル架空ファンドの評点:506(b) 2.5・506(c) 2.3、実績なし1.7→実績大2.9実績を揃えると506(c)の差は有意でない。ただし38%が『影響する』と回答(p.29〜30)
出所:R1(NBER WP 版, 2026年5月改訂)​p.19〜30 と​表2(p.50)・表8(p.56)・表9(p.57)の​数値を​基に​大手町​プレップ​作成。​ページは PDF の​物理ページ。​実績の​パラドックスの​数値は​本文 p.27〜28 に​よる​(序論 p.6 では35%と記載)。​確認の​手間の​割合は​本文 p.26 に​よる​(序論 p.6 では約75%)。​架空​ファンドの​評点は LP 61人・183件の​評価​(5点満点)。

研究の中心は、著者らが「実績のパラドックス」と呼ぶ仕組みである。関係のない相手は、人柄や評判といった数字にしにくい情報(ソフト情報)を持たないため、過去の出口や運用歴といった客観的な実績(ハード情報)に頼る。ところが実績を積む過程で、人はたいてい人脈も築く。公の募集が最も役立つ「人脈は弱いが実績は強い」運用者は、もともと少ない14。図2のとおり、その層では506(c)の利用が36%と最も高いが、層の大きさは全ファンドの7%にすぎない15。

図2 人脈と実績の4象限と506(c)の利用図2 人脈と実績はたいてい一緒に育つファンドを人脈と実績の強弱で4つに分けた場合人脈 強・実績 弱506(c)は2%大半は関係で募る人脈 強・実績 強(本文に数値なし)関係で募れる人脈 弱・実績 弱(本文に数値なし)どちらの道も狭い人脈 弱・実績 強506(c)は36%ただし全体の7%人脈実績(過去の出口・金融経験)公の募集が最も役立つ右下の層は、全体の7%
出所:R1(NBER WP 版, 2026年5月改訂)​p.27〜28(図6 パネルA の本文の説明)の​数値を​基に​大手町​プレップ​作成。​ページは PDF の​物理ページ。​原図の​点の​分布は​写していない。​人脈は​取締役会での​つながりの​指数、​実績は​過去の​出口​(2億ドル超のM&A・IPO)と​金融業界経験の​指数。​区分は​原論文の​図6に​従った​(本文 p.27 は​各指数の​「midpoint」、​序論 p.6 は​中央値と​説明しており、​区切りの​定義は​原典内で​一致しないため​要確認)。​右下の​数値は​序論 p.6 では​35%と​記載。​残り2象限の​比率は​本文に​記載が​ないため示していない。

実績の効き方の違いは募集額にも表れた。目標額が同じファンドで比べると、過去の出口が1標準偏差多い運用者は、506(b)では4.3%、506(c)では8.9%多く集めていた(約2.1倍)。金融業界での経験は、506(c)でだけ募集額と結びついていた16。著者らは序論で、公の広告はそれだけでは、実績は強いが人脈の弱い一部の運用者にしか役立たないとまとめている17。

もう1つの論点は、506(c)を使うこと自体が悪い印象を与えるかである。LP61人が架空のファンド3本ずつを5点満点で評価した監査実験では、平均の評点は506(b)が2.5、506(c)が2.3とわずかな差だったのに対し、実績なしの1.7から実績の大きいファンドの2.9へと実績で大きく動いた。実績を揃えると506(c)の差は統計的に有意でない18。それでも、後から直接尋ねると38%が「判断に影響する」と答えた。理由として最も強く表れたのは、運用者の案件発掘力への疑いではなく、機関投資家が個人LPと同じファンドに入るのを避けたいという事情で、ファンドの統治やキャピタルコールへの応じ方が違うことを懸念していた。初号の運用者ほど、この印象を気にしていた19。

研究の​範囲と​限界、​ほかの​研究との​関係

結果は米国の制度(Reg Dと投資会社法の人数の上限)のもとでのもので、成績の比較はリターンを報告した一部のファンドに限られる。運用者の特徴と506(c)の関係は相関で、調査は回答率が低く、回答の偏りもありうると著者ら自身が書いている20。公の募集が参入の多様化を大きく進めたとも言えない。女性の運用者は2009年の9%から19%に増えたが、大学卒業者に占める比率とはなお差が大きい。506(c)から次のファンドで506(b)に移った運用者は13%で、逆向きの2%より多く、関係に基づく募集への入口として働く面はある21。

新規参入の運用者が実績で厳しく見られることは、別の研究とも整合する。Cassel, Lerner and Yimforは、米国の黒人・ヒスパニックが所有する運用会社が初号ファンドの募集目標を達成しにくく、後継ファンドの集まり方が成績に約3倍敏感で、とくに成績が悪いときに厳しく扱われることを示し、原因の少なくとも一部はLP側の需要にあると解釈した22。対象も方法も違うが、ネットワークの外の運用者ほど実績で測られる点で、2つの研究は整合する。

大手町​プレップの​考察:人脈の​代わりに​なるのは​「確かめられる実績」

ここからは編集部の見方である。この研究から読み取れるのは、公の募集は人脈の代わりではなく、実績を遠くまで届ける拡声器だということだ。人脈が運ぶのは「この人は信頼できる」というソフト情報で、公の募集で運べるのは第三者が確かめられるハード情報だけである。したがって、人脈のない運用者が最初に整えるべきは告知の手段ではなく、見知らぬLPが自分で検証できる実績の記録だと考えられる(仮説)。

新興の運用者の多くは、前職で関わった案件を実績として示すことになる。その案件のうち本人の寄与はどこまでか、というトラックレコードの​帰属の問題は、関係ベースの募集なら紹介者の口添えで補えても、アームズ・レングスでは補えない。投資判断のメモや投資委員会の記録、前職の上司・共同投資先からの照会先を、最初から書面でそろえておく価値は大きいと編集部はみる。

もう1つは、出資者の組み合わせの設計である。監査実験後の回答が示すように、機関投資家は個人LPの多いファンドを統治の面で警戒する。小口の個人を多く入れる計画なら、LPACの構成、キャピタルコールの不履行時の扱い、情報開示の水準を、機関投資家向けに先に説明できるようにしておく必要がある。研究が検証したことではなく、編集部の推論である。

日本の​1号​ファンドに​当ては​めると:49名の​枠と​アンカーLP

日本の制度は米国のReg Dとは仕組みが異なる。独立系の1号ファンドでよく検討される適格機関投資家等特例業務(いわゆる63条特例)は、登録を受けずに届出だけでファンド持分の販売・勧誘と運用ができる代わりに、出資者を適格機関投資家1名以上と、それ以外の49名以下に限る。それ以外の出資者になれる個人は、投資性の金融資産が1億円以上で証券口座の開設から1年を経た者などに限られる23。この要件を満たさない募集の扱い(第二種金融商品取引業の登録との関係を含む)は、本稿では一次資料で確認していない。制度の全体像は日本で​PE​ファンドを​設立するで、VCに特有の公的LPや日本のLP構成はVC​ファンドの​作り方で解説している。なお著者らは脚注で、日本を含む複数の国が私募市場での公の広告の容認を検討していると書いているが、本稿では日本側の資料でその具体的な内容を確認していない24。

研究の自然実験は、人数の上限が小口・多数の募集を実際に縛ることを示した。日本の63条特例の49名という枠も、制度の目的は違うが、同じように効くと考えられる(編集部の推論)。そこで、枠の中で目標額を集めるには1口いくらが要るかを設例で確かめる。

学習用の設例(架空)

  • 独立系の新興VC「甲」が、63条特例で1号ファンドを組成する。目標規模は10億円(感応度として5億円・20億円も見る)
  • 適格機関投資家1名がアンカーとして出資する。額は1億円を基本とし、0.5億円・3億円も見る
  • 残りを適格機関投資家以外の49名以内で均等に集める。追加クローズに備えて5名を空ける場合(44名)も計算する。GPの自己出資は考えない

表2のとおり、目標10億円・アンカー1億円なら、残る9億円を49名で埋めても1口の平均は約1,837万円、44名なら約2,045万円が要る。1口の平均が1,000万円なら90名が必要で枠に収まらない。2,000万円でも45名で、空けておきたい枠を食う。5,000万円なら18名で済む。

表2 設例:49名の枠で目標額を集めるのに要る1口の平均(架空)

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目標規模アンカー0.5億円アンカー1億円アンカー3億円アンカー1億円・44名で
5億円918万円816万円408万円909万円
10億円1,939万円1,837万円1,429万円2,045万円
20億円3,980万円3,878万円3,469万円4,318万円
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ作成​(架空)。​63条特例の​「適格機関投資家1名以上​+それ以外​49名以下」​(J1)を​前提に、​アンカーの​適格機関投資家1名の​出資を​除いた​残りを​49名で​均等に​埋めた​ときの​1口の​平均。​右端の​列は​追加​クローズに​備えて​5名を​空け、​44名で​埋めた​場合。​GPの​自己出資、​適格機関投​資家を​複数入れる​場合、​出資者の​要件の​個別の​判定は​考慮していない。

この計算が示すのは、49名の枠のもとでは、小口を広く集める戦略は数字の上で成り立ちにくく、アンカーの額と、1口の平均(それを支える最低出資額の設定)が募集計画の骨格になるということである。アンカーを0.5億円から3億円に増やすと、目標10億円で必要な1口の平均は約1,939万円から約1,429万円へ下がる。日本では、米国の研究が見た「公の広告で多数の個人を集める」道より、実績を示してアンカーとなるコーナーストーン​投資家を確保し、残りを関係のある中口の出資者で埋める道が中心になると編集部は考える。

明日から​使える​確認項目

運用者の側(1号ファンドを募る場合):

  1. 実績の記録を、見知らぬLPが検証できる形にする。案件ごとに、自分の役割(発掘・主担当・取締役会)、出資時期と額、現在の評価、照会できる第三者を一覧にする。DDQの様式に沿って用意すると比較されやすい。
  2. 出資者の枠を数字で確かめる。目標額、アンカーの額、空けておく枠から、必要な1口の平均と人数を表2の要領で計算し、それを踏まえて最低出資額をいくらに置くかを検討する。
  3. 個人LPを入れるなら、機関投資家への説明を先に用意する。「個人LPのキャピタルコールが遅れた場合、どう補うか」「LPACに誰が入るか」に答えられるか。
  4. 人脈が実績を補う範囲を見極める。紹介で会えた相手の数ではなく、そのうち実績の資料を読んだうえで次の面談に進んだ割合を記録する。

LPの側(新興の運用者を審査する場合):

  • 紹介の有無と実績の評価を分けて記録する。研究の結果からは、紹介がないことは成績の低さを意味しなかった(米国の、募集に成功したファンドの範囲で)。
  • 「前職の案件のうち、あなたが主担当として投資を提案し、取締役会に入った会社はどれか」と、帰属を具体的に質問する。
  • 個人LPの比率と、その統治上の手当て(LPA上の不履行条項、LPACの構成)を確認する。

起業家にとっての含意も1つある。研究では、公に募るファンドほど、自らも公に資金を集める会社や、運用者と出身校の重ならない創業者に出資していた(相関)。人脈のない起業家は、運用者自身が人脈の外から資金を集めている新興のファンドを、話を聞いてもらいやすい相手の候補として調べる価値がある(編集部の見方)。

よく​ある​質問

公に​募集した​ファンドの​方が​成績が​良いなら、​出資する​ときは​506(c)型を​選ぶべきですか。

そうとは​言えません。​比較の​対象は、​募集に​成功して​立ち上がった​ファンドに​限られ、​リターンが​分かるのは​その​一部です。​研究が​示したのは​「人脈の弱い運用者が劣っていたわけではない」​ことで、​個々の​ファンドを​選ぶ​基準ではありません。

​日本でも、​ウェブサイトで​1号​ファンドの​出資者を​募って​よいのですか。

本稿は​日本で​どのような​勧誘が​認められるかを​判断していません。​63条特例は​出資者の​数と​属性に​制限が​あり、​要件を​満たさない​場合の​扱いも​本稿では​確認していません。​具体的な​方法は、​金融庁・​財務局の​資料と​専門家の​助言で​確認してください。

まとめ

米国でVCファンドの公の募集が認められて約10年、それを使ったのは人脈の弱い運用者で、そのファンドはLPの数が多く、1口は小さく、個人LPの比率が高かった。成績は人脈の強い運用者のファンドに劣らず、人脈の網はむしろ参入障壁として働いていたと著者らは解釈する。それでも利用が1割前後にとどまるのは、関係のない相手が頼れるのは実績だけで、実績を持つ人はたいてい人脈も持っているからである。人脈のない運用者に必要なのは告知の手段より確かめられる実績の記録であり、日本では49名の枠のもとでアンカーLPと1口の額を設計することが出発点になる。未査読の研究で、米国の制度と成功したファンドの範囲で得られた結果である点も踏まえて読みたい。

脚注

  1. R1(NBER WP 版, 2026年5月改訂)p.2(要旨)、p.4(序論。VCファンドの運用者とそのLPを調べると明記)。ページはすべて PDF の物理ページ(原典に印刷されたページ番号+2)。著者は、スタートアップとVCの間の情報の摩擦に比べ、GPとLPの間の摩擦の研究は少ないと位置づけている(p.8)。↩
  2. R1 p.10(Rule 506(b) の3条件・適格投資家の自己申告・1982年以降は適格でない投資家を最大35人まで認めること・脚注15の適格基準)、p.11(一般勧誘の禁止と、既存の実質的な関係または仲介者を通じた関係が必要なこと)、p.12(506(c) は全員が適格投資家、506(b) は適格でない投資家を最大35人まで認めるという違い)。VCファンドのほぼ全てがReg Dを使う点は p.4。↩
  3. R1 p.11(JOBS法と506(c)の創設)、p.12(2013年9月23日施行、適格性確認の「合理的な措置」とセーフハーバー〔証券会社・投資顧問・弁護士・公認会計士の書面の確認など〕、2025年3月のノーアクションレター)。↩
  4. R1 p.4、p.12、p.26、表1 パネルA(p.49。届出数 506(b) 7,440・506(c) 685、506(c) の割合 0.084)。他の資産クラスは図A.2(p.12 の本文の記述による)。↩
  5. R1 p.16(ファンド規模の中央値)・p.18(LP数・1口の出資額・最低出資額・個人LP比率・仲介者)、表1 パネルB(p.49。金額は2017年米ドル)、表2 パネルA(p.50)。LP数は Form ADV で取得できたファンドに限る(p.16)。LP数の49%と個人LP比率の88%は原典本文 p.18 の値で、本稿はこれを使った。表2 パネルA の表示値(係数÷被説明変数の平均)で計算すると、LP数は 28.102÷58.162=48.3%、個人LP比率は 0.043÷0.045=約96% で、本文の値と一致しない(原典内の差で、理由は確認できていない)。1口の出資額は対数の係数 −0.62 からの換算(1−e^−0.62≒46%)。最低出資額は図A.3b の本文の記述(平均 70.8万ドル対16万ドル)。仲介者の「約3倍」は本文の表現で、表の係数÷平均(3.75)とは異なる。↩
  6. R1 p.19(式1・表2 パネルB 列1〜2・図2〔p.42〕。平行トレンドと、20百万ドルの偽の境界で効果がないことを確認)、p.21(列3〜4。取締役会のつながりの上位四分位とそれ以外で分けた結果)。↩
  7. R1 p.20、表3(p.51)。州×年の固定効果を入れた回帰で、著者は因果関係を識別するものではないと明記している(p.20)。各比率は平均比の相対差。エリート校出身の比率の8%は、表3の係数(−0.038)をエリート校出身比率の平均(0.471)で割った値で、本文 p.20 も「エリート校出身が少ない」と書く。序論 p.5 は同じ数値を「非エリート校出身が8%高い」と表現しているが、分母が異なるため本稿は本文 p.20 の表現に合わせた。↩
  8. R1 p.21〜22、図3(p.43)。運用者への調査は 4,112通に対し103ファンドが回答(回答率2.5%、p.21)。506(c) 利用者の回答は30件。著者は、人脈がないと認めにくいことによる過小申告の可能性に触れている(p.22)。↩
  9. R1 p.23〜24、表5(p.53)、図4c(p.44)。上位四分位の判定は同じビンテージ内。表5 パネルA の 506(c) の係数は IRR で 0.222〜0.238、TVPI で 0.228〜0.229(いずれも1%水準で有意)、被説明変数の平均は 0.243〜0.251、N は 1,032〜1,090。報告の有無に差がないことは表A.11(p.24 の記述)。↩
  10. R1 p.24〜25、表6(p.54)・表7(p.55)。同じ都市の投資先の比率は表6列2の係数で−0.021(2.1%ポイント低い。被説明変数の平均は0.132)。原典本文 p.24 は「自都市外への出資が16%多い」と書くが、これは同都市比率の係数を平均で割った値(−0.021÷0.132≒−15.9%)にあたり、都市外の比率の増加率ではないため本稿では使わなかった(原典本文と表の指標の不整合)。506(c) で調達する投資先は55%、出身校の重ならない創業者は57%(原典本文の平均比)。保有期間は約8%短く、業種のハーフィンダール指数は21%低い。↩
  11. R1 p.5(序論)、p.24(6.1節の結び)。著者自身の解釈。↩
  12. R1 p.26 と付録D(p.92)。2023年に米国の世帯の約19%が適格(SEC の資料による)。2020年の定義拡大の前後で 506(c) の利用に効果がなかったとする事象研究。↩
  13. R1 p.26〜27、図5(p.45)。506(b) のみの運用者(N=73)の約8割が確認の時間・費用を「大いに/ある程度」影響したと回答し、法的リスクが2位(p.26)。序論(p.6)では同じ結果を「About 75%」と書いており、本文と表記が異なる。↩
  14. R1 p.14(2節)、p.27(7.2節)。「Track Record Paradox」は著者の用語(p.6、p.14)。↩
  15. R1 p.27〜28、図6 パネルA(p.46)。人脈は取締役会のつながりの指数、実績は過去の出口(2億ドル超のM&A・IPO)と金融業界経験の指数。区分の線を本文 p.27 は各指数の「midpoint」、序論 p.6 は中央値(above-median)と説明しており、原典内で表現が一致しない。本稿は原論文の図6の区分に従い、区切りの厳密な定義は要確認とする。右下の象限の 506(c) 比率は本文 p.27 で36%、序論 p.6 では35%と記載。↩
  16. R1 p.28、表8(p.56)。目標額の対数を制御した募集額の対数の回帰で、実績の変数は標準化。過去の出口の係数は 506(b) 0.043、交差項 0.046(いずれも1%水準)。金融業界経験の交差項は 0.091 で10%水準の有意にとどまる。↩
  17. R1 p.7(序論)。原文の短い引用。↩
  18. R1 p.29、表9(p.57)、図7 パネルA(p.47)。LP 887人に送り61人が回答(183件の評価)、うち個人27%・機関73%。架空のファンド12本から無作為に3本を割り当て、506(c) か否か・実績・運用者名・学校・所在地を無作為化。実績を入れない場合の 506(c) の評点は平均比14%低い(5%水準)。↩
  19. R1 p.7、p.29〜30、図7 パネルB(p.47)、図A.12(p.69)。自由記述を回答した16人(図7注、p.47)の理由を3つの大規模言語モデルで採点した結果(採点方法は p.30 脚注43)、機関LPが個人LPとの同居を避けたいという理由の評点が最も高く、案件発掘力の弱さのシグナルとする見方は否定された。初号の運用者ほどシグナルを気にする点は運用者調査(図A.12 パネルB、p.30)による。↩
  20. R1 p.5(調査の限界)、p.16(Pitchbook と照合できたファンドに限るため、募集に失敗したファンドは標本に入らない)、p.20(相関であること)、p.21〜22(回答率と過小申告)、p.24、表5(p.53)。↩
  21. R1 p.31〜32、図8(p.48)、表A.12(p.80)。移行の比率は2021年より前のビンテージのファンド。後継ファンドを組成していない運用者は 506(b) で45%、506(c) で40%(p.32)。↩
  22. R2(NBER WP 30500, 2022年9月)p.2(要旨)、p.4(Form D による初号ファンドの目標達成)、p.5(後継ファンドの募集の成績感応度が少数派所有で約3倍)、p.5〜6(成績が悪いときの感応度の違い)。本文は序論までを確認。PDF の物理ページ。↩
  23. R3(関東財務局)p.1、R4(金融庁「金融庁の1年(2024事務年度版)」第3部第11章第8節)p.1。登録不要で届出のみという説明は R3 による。要件を満たさない場合の扱いは、両資料には記載がなく本稿では確認していない。↩
  24. R1 p.7 脚注6(オーストラリア・英国・ブラジル・日本)。著者の記述で、日本の検討の具体的な内容は本稿では確認していない。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。